天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
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バレイショ塊茎誘導における12-hydroxyjasmonic acid の働き
井上 悠敬清水 崇史瀬尾 光範高橋 公咲松浦 英幸
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p. Oral17-

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バレイショ塊茎誘導における12-hydroxyjasmonic acid の働き

【バレイショの塊茎誘導】  主要作物の一つであるバレイショ(Solanum tuberosum)の塊茎誘導は日長の影響を強く受ける。長日高夜温条件下では、茎の基部に近い部分からストロンと呼称される地下茎が水平方向へ伸長するが,地上部が短日低夜温条件にさらされるとストロンの伸長は停止し,その先端が肥大して初期塊茎が形成される。バレイショ茎断片組織培養法を用いたin vitro実験では、多くのジャスモン酸(JA)類が塊茎形成誘導活性を持つことが明らかとなった。そこで実際に葉部から移動しストロンにおいて作用する化合物を検討した。その結果、短日条件に呼応した地上部から地下部への移動、ストロン部での活性型ジベレリンの不活性化酵素をコードする遺伝子の転写産物の蓄積誘導を加味して、JAの12位が酸化された12OHJAが実際の植物で作用する化合物と確認した。

【ダンシャクイモ(Irish Cobbler)の短日応答性】  一般的にはバレイショ塊茎誘導の短日応答性はアンディゲナ種(S. tuberosum spp. angdigena)のみとされている。しかしながら、バレイショ茎断片組織培養法においてはダンシャクイモ(S. tuberosum cv.Irish Cobbler)を用いることから、本バレイショ種における、短日要求性を観察した。萌芽後、2週間、長日条件(14時間明期,10時間暗期、23℃)で植物を人口気象期内で育成した。その後、半数の植物を短日条件(10時間明期,14時間暗期、23℃)へ移行し、更に2週間両条件で植物を育成した。その結果、7日目において短日条件下の植物はストロン先端のフック形成、14日目では初期塊茎が形成された。長日条件ではストロンが伸長を続けるのみであった(図1)。以上の結果から、本実験において設定した生育条件で、栽培種にもかかわらず、ダンシャクイモにおける塊茎誘導の短日応答性を引き出せることが明らかとなった。

図1. ダンシャクイモ(Irish Cobbler)における塊茎誘導の短日誘導性

ストロン、初期塊茎の観察を容易にするために根部を除去後、写真を撮影。

【短日条件に呼応した生理活性物質の移動】  短日条件において塊茎誘導を引き起こす移動性因子に関してはフロリゲンタンパクの一種であるStSP6A、および、転写因子となるStBEL5 mRNAの移動が報告されている。しかしながら、植物ホルモン様の低分子化合物においてはその報告がない。以前にJA類に塊茎誘導活性があることが明らかとされ、[13C-2]JAの葉部投与実験では短日に呼応した植物全体へのラベル体の移動が観察されたことから、JA類を第一候補とした。上記の2つの生育上件で植物を育成し、グループ分け後の2日目、10日目に茎を地際で切断し、地下部を有する茎から滲み出る浸出液をUPLC MS/MSによりJA類を分析した(図2)。検出できた化合物の傾向としては、JAの12位炭素が水酸化された12-hydroxyJA (12OHJA)およびその配糖体(12OGlcJA)が両試験区の主要化合物であった。塊茎誘導の傾向が観察されない2日目において両生育条件下で化合物同士の検出量に顕著な差は観察されなかった。しかし、短日条件で塊茎誘導が生じている10日目の観察では、短日条件に呼応

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【バレイショの塊茎誘導】  主要作物の一つであるバレイショ(Solanum tuberosum)の塊茎誘導は日長の影響を強く受ける。長日高夜温条件下では、茎の基部に近い部分からストロンと呼称される地下茎が水平方向へ伸長するが,地上部が短日低夜温条件にさらされるとストロンの伸長は停止し,その先端が肥大して初期塊茎が形成される。バレイショ茎断片組織培養法を用いたin vitro実験では、多くのジャスモン酸(JA)類が塊茎形成誘導活性を持つことが明らかとなった。そこで実際に葉部から移動しストロンにおいて作用する化合物を検討した。その結果、短日条件に呼応した地上部から地下部への移動、ストロン部での活性型ジベレリンの不活性化酵素をコードする遺伝子の転写産物の蓄積誘導を加味して、JAの12位が酸化された12OHJAが実際の植物で作用する化合物と確認した。

【ダンシャクイモ(Irish Cobbler)の短日応答性】  一般的にはバレイショ塊茎誘導の短日応答性はアンディゲナ種(S. tuberosum spp. angdigena)のみとされている。しかしながら、バレイショ茎断片組織培養法においてはダンシャクイモ(S. tuberosum cv.Irish Cobbler)を用いることから、本バレイショ種における、短日要求性を観察した。萌芽後、2週間、長日条件(14時間明期,10時間暗期、23℃)で植物を人口気象期内で育成した。その後、半数の植物を短日条件(10時間明期,14時間暗期、23℃)へ移行し、更に2週間両条件で植物を育成した。その結果、7日目において短日条件下の植物はストロン先端のフック形成、14日目では初期塊茎が形成された。長日条件ではストロンが伸長を続けるのみであった(図1)。以上の結果から、本実験において設定した生育条件で、栽培種にもかかわらず、ダンシャクイモにおける塊茎誘導の短日応答性を引き出せることが明らかとなった。

図1. ダンシャクイモ(Irish Cobbler)における塊茎誘導の短日誘導性

ストロン、初期塊茎の観察を容易にするために根部を除去後、写真を撮影。

【短日条件に呼応した生理活性物質の移動】  短日条件において塊茎誘導を引き起こす移動性因子に関してはフロリゲンタンパクの一種であるStSP6A、および、転写因子となるStBEL5 mRNAの移動が報告されている。しかしながら、植物ホルモン様の低分子化合物においてはその報告がない。以前にJA類に塊茎誘導活性があることが明らかとされ、[13C-2]JAの葉部投与実験では短日に呼応した植物全体へのラベル体の移動が観察されたことから、JA類を第一候補とした。上記の2つの生育上件で植物を育成し、グループ分け後の2日目、10日目に茎を地際で切断し、地下部を有する茎から滲み出る浸出液をUPLC MS/MSによりJA類を分析した(図2)。検出できた化合物の傾向としては、JAの12位炭素が水酸化された12-hydroxyJA (12OHJA)およびその配糖体(12OGlcJA)が両試験区の主要化合物であった。塊茎誘導の傾向が観察されない2日目において両生育条件下で化合物同士の検出量に顕著な差は観察されなかった。しかし、短日条件で塊茎誘導が生じている10日目の観察では、短日条件に呼応した12OHJAの蓄積が観察された。以上の結果から、12OHJAを移動性の活性因子の第一候補とした。

【葉面に塗布した重水素ラベルJAの移動】  以上の実験を踏まえ、葉面に脱水ラノリンと混合した[2H1-10, 2H2-11, 2H3-12]JA (JA-d6)を塗布し、長日、短日条件に分けたのちの10日目に地際で茎を切断し、上記と同様の実験をおこなった。塗布の濃度は0.1、0.3、1.0 mmolとした。その結果、浸出液に含まれる主要なラベル化合物は[2H1-10, 2H2-11, 2H2]12OHJA (12OHJA-d5)であることが判明し、JA-d6が12OHJA-d5に代謝されて短日条件に呼応して移動量が増加している判断できた。

【葉面に塗布した重水素ラベルJA類のストロン部における蓄積】  上記の実験で12OHJAの短日条件に呼応した移動量の増加を確認した。本実験では上述の実験で用いた植物体で発生していたストロン部におけるJA-d6, 12OHJA-d5の蓄積をUPLC MS/MSを用いて比較検討した(図4)。この結果、12OHJAの短日条件に呼応した有意な蓄積が確認できた。

【葉面に同時に投与された重水素ラベルJA, 12OHJAの移動】  上記の実験でJAが12OHJAに代謝され、短日条件において有意に移動していることが明らかとなった。更にこれを証明すべく、[2H3-12]JA (JA-d3、0.3mmol)と12OHJA-d5(0.3mmol)を同時に投与し、短日条件下で同様の実験を行った。その結果、12OHJA-d5の含有量はJA-d3よりも多く、JA-d3から代謝された[2H2-12]12OHJA (12OHJA-d2)と12OHJA-d5の合算量はJA-d3の含有量の20倍、12OGlcJA-d5と12OGlcJA-d2の合算量の5倍であった。[2H3-12]JA (JA-d3、0.3mmol)と12OHJA-d5(1mmol)と濃度を変えた場合も、ほぼ同様の傾向であった(図5)。以上からJAに比べ12OHJAの有意な移動性が確認できた。

【生物学的に起こり得る濃度での(-)-12OHJAの塊茎誘導活性】  12OHJAの生物活性を検証するために、まずは糸状菌の培養ろ液より単離した光学活性なJAを用いて、(-)-12OHJAを合成した。次に圃場で育成したバレイショ(Irish Cobbler)より初期塊茎を有するストロンを収穫し、JA類の内生量を測定した。その結果、12OGlcJA、12OHJA、JA、JA—Ilがそれぞれ、3.6, 0.5, 0.06, 0.02 nmol/gであった。次に(-)-12OHJAを用いてバレイショ塊茎誘導試験を行った。バレイショ茎断片培養法に用いる(-)-12OHJAの培地終濃度を100, 10 mMに設定し、この時の結果を図6に示した。

 生物活性に関しては両濃度で活性が確認でき、10 mM投与区では100 mM投与区よりも弱い活性であったが、JA類の内生量は12OGlcJA、12OHJA、JA、JA—Ilがそれぞれ、2.9, 0.07, 0.01, 0.01 nmol/gであり、10 mM投与は生物活性を示し、生物学的に起こり得る内生量を再現できる投与濃度であることが判明した。

【 (-)-12OHJAの塊茎誘導機構】  バレイショの塊茎誘導に関しては塊茎誘導を阻害する活性型ジベレリンの濃度低下が必須であることが知られており、活性型ジベレリン(GA)を代謝するタンパクをコードするStGA2ox1遺伝子の活性化が重要と報告されている。生物学的に起こり得る事象を再現できる(-)-12OHJA、10 mM投与における本遺伝子のqRT-PCRの結果とGA含量を図7に示した。その結果、(-)-12OHJA投与によるStGA2ox1遺伝子の有意な上昇と活性型GA内生量の有意な減少が確認できた。

 前述したように、バレイショ塊茎を誘導する移動性の他の因子として、StSP6A、およびStBEL5 mRNAを述べたが、(-)-12OHJAの生物活性がこれらの因子と共存し得るか検討した。上記と同様に(—)−12OHJA投与による遺伝子誘導を、無処理の植物と比較するためにqRT-PCR実験を行った。その結果、バレイショ茎断片におけるStSP6AおよびStBEL5遺伝子の有意な上昇が確認でき、既存の移動性の因子と共存できることを明らかとした。

【 (-)-12OHJAの移動に伴う塊茎誘導機構】  我々研究グループの以前の報告で、長日、短日条件下での葉部における12OGlc, 12OHJA, JAの含有量  (nmol/g)には顕著な差は認められないことが報告されている。しかしながら、短日条件では成育期後半を迎え、植物のバイオマス量は増大しており、JA類のプール量は増大している。この報告を踏まえ、(-)-12OHJAの移動に伴う塊茎誘導機構を下記に示した(図8)。

図8. (-)-12OHJAによるバレイショ塊茎誘導機構

 1】地上部で溜め込まれた12OHJAの短日による地下部への移動の活性化

 2】移動した12OHJAもしくは12OGlcJAによるGA2ox1遺伝子の活性化

 3】GA2ox1タンパクの蓄積量の増加に伴う活性化活性型GA類の代謝

 4】バレイショ塊茎形成の活性化

 
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