天然有機化合物討論会講演要旨集
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Humulene の構造を基盤としたテルペノイドアルカロイド様化合物群の創出
菊地 晴久西村 壮央權 垠相川井 絢矢大島 吉輝
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p. Oral22-

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Humulene の構造を基盤としたテルペノイドアルカロイド様化合物群の創出

 天然物化学は,新規の化学構造や有用な生物活性を有する化合物を提供してきた.特に,創薬研究においては天然化合物をリード化合物として開発された医薬品が数多く存在する.天然化合物が医薬品の探索源として有用である理由の一つとして,これらが有する多様な化学構造が挙げられる.しかし,天然資源の探索が活発に行われてきた結果,近年では新規性の高い骨格を有する化合物を取得することは困難になってきている.そのため,高度な構造多様性を有する化合物を得るための新たな方法論が求められる.

 有機反応を用いて,多様な構造を有する化合物群を構築する手法の1つとして,2000年にSchreiberにより提唱された多様性指向型合成が存在する.1 多様性指向型合成は,共通の基本骨格から枝分かれした合成により分子骨格を変換することで,多様性にあふれた化合物群を構築する手法である.

 テルペノイドアルカロイドは,sp3性に富んだテルペノイドの特徴と窒素原子を含むアルカロイドの特徴を併せ持ち,有用な生物活性を有する化合物が多く存在する.例えば,インドジャボク属やニチニチソウなどに含まれるテルペンインドールアルカロイドのajmalicineや,トリカブトに含まれるaconitineなどが知られている.これらのテルペノイド部分はsecologaninやent-kaureneなどの限られた前駆体から生合成されている (Figure 1a).多様性指向型合成により,非天然型のテルペノイド骨格を有するテルペノイドアルカロイド様化合物群を構築できれば,創薬研究において有用な化合物ライブラリーとなることが期待できる (Figure 1b).

 本研究では多様性指向型合成の考えに基づき, humulene (1) の骨格を基盤としてテルペノイドアルカロイド様化合物群の構築を行う.Humuleneは,ホップ (Humulus luplus) やテンダイウヤク (Lindera aggregate) に多く含まれているセスキテルペノイドである.Humuleneは3つの二重結合を含む11員環構造を有しており,分子内環化反応などにより多様な環構造の構築が可能であると期待される.

 化合物ライブラリーの構築は次のような戦略に基づいて行った.まず,humuleneの反応性が高められたhumulene diepoxide (2) に対し,ルイス酸存在下でベンゼン環上の置換基としてビニル基もしくはアリル基を有するアニリンを作用させる.これにより,アニリンの求核攻撃とエポキシドの開裂に伴う分子内環化反応により3のような二環式化合物が得られる.さらに,化合物ライブラリーの多様性をさらに高めるため,humulene骨格に残る二重結合と導入したアニリンが持つ二重結合を利用し,メタセシス反応による環骨格の組み換えを行い,多様な環構造を有する化合物群を構築する.二環式化合物3に対する開環メタセシス反

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 天然物化学は,新規の化学構造や有用な生物活性を有する化合物を提供してきた.特に,創薬研究においては天然化合物をリード化合物として開発された医薬品が数多く存在する.天然化合物が医薬品の探索源として有用である理由の一つとして,これらが有する多様な化学構造が挙げられる.しかし,天然資源の探索が活発に行われてきた結果,近年では新規性の高い骨格を有する化合物を取得することは困難になってきている.そのため,高度な構造多様性を有する化合物を得るための新たな方法論が求められる.

 有機反応を用いて,多様な構造を有する化合物群を構築する手法の1つとして,2000年にSchreiberにより提唱された多様性指向型合成が存在する.1 多様性指向型合成は,共通の基本骨格から枝分かれした合成により分子骨格を変換することで,多様性にあふれた化合物群を構築する手法である.

 テルペノイドアルカロイドは,sp3性に富んだテルペノイドの特徴と窒素原子を含むアルカロイドの特徴を併せ持ち,有用な生物活性を有する化合物が多く存在する.例えば,インドジャボク属やニチニチソウなどに含まれるテルペンインドールアルカロイドのajmalicineや,トリカブトに含まれるaconitineなどが知られている.これらのテルペノイド部分はsecologaninやent-kaureneなどの限られた前駆体から生合成されている (Figure 1a).多様性指向型合成により,非天然型のテルペノイド骨格を有するテルペノイドアルカロイド様化合物群を構築できれば,創薬研究において有用な化合物ライブラリーとなることが期待できる (Figure 1b).

 本研究では多様性指向型合成の考えに基づき, humulene (1) の骨格を基盤としてテルペノイドアルカロイド様化合物群の構築を行う.Humuleneは,ホップ (Humulus luplus) やテンダイウヤク (Lindera aggregate) に多く含まれているセスキテルペノイドである.Humuleneは3つの二重結合を含む11員環構造を有しており,分子内環化反応などにより多様な環構造の構築が可能であると期待される.

 化合物ライブラリーの構築は次のような戦略に基づいて行った.まず,humuleneの反応性が高められたhumulene diepoxide (2) に対し,ルイス酸存在下でベンゼン環上の置換基としてビニル基もしくはアリル基を有するアニリンを作用させる.これにより,アニリンの求核攻撃とエポキシドの開裂に伴う分子内環化反応により3のような二環式化合物が得られる.さらに,化合物ライブラリーの多様性をさらに高めるため,humulene骨格に残る二重結合と導入したアニリンが持つ二重結合を利用し,メタセシス反応による環骨格の組み換えを行い,多様な環構造を有する化合物群を構築する.二環式化合物3に対する開環メタセシス反応により,単環式化合物4が得られる.さらに,単環式化合物4を閉環メタセシス反応により再び閉環することで,三環式化合物5や大環状骨格を有する二量体6などが得られると期待できる (Figure 2).さらに,導入するアニリンのベンゼン環上の置換基の炭素数や置換位置の違いにより,構築される環の大きさや立体構造が異なる化合物群を得ることが可能である.以上のような戦略に基づき,humuleneの構造を基盤としてテルペノイ ド アルカロイド様化合物ライブラリーの構築を行った.2

Figure 2. テルペノイドアルカロイド様化合物群の構築

1. Humulene diepoxideとvinylaniline, allylanilineの反応

 本研究ではhumuleneの反応性を高めたhumulene diepoxide (2) を多様性指向型合成の基本骨格として利用することとした.光学活性なhumulene diepoxideを合成するため,humulene に対して不斉エポキシ化触媒を用いてエポキシ化を試みたが,光学活性な2を得ることはできなかった.これまでにも光学活性な2を合成する試みは行われているが,3高い光学純度で合成された例は報告されていない.そこでhumuleneと同様,天然から得られる (–)-caryophillene oxide (7) を出発原料とし,論文既知の方法によりオレフィン異性化反応に付すことで,4 (–)-humulene epoxide II (8) を得た.これに対し,アセトンとOxoneR から生じるジメチルオキシランによりエポキシ化を行い,humulene diepoxide 2aおよび2bが混合物としてジアステレオマー比7:3,収率63%で得られた (Figure 3).今後の反応には,ジアステレオマーを分離せず,混合物として反応を行った.

Figure 3. Humulene diepoxideの合成

 Humulene diepoxideのジアステレオマー混合物とベンゼン環上にビニル基もしくはアリル基を有するアニリンをLa(OTf)3存在下で反応を行った.反応生成物は,各種クロマトグラフィーを用いて分画を行い,相対配置を含む化学構造は,マススペクトルおよび各種NMRスペクトルにより決定した.その結果,アニリンの求核攻撃の後に開裂したエポキシドがもう一方のエポキシドによる分子内環化反応により,5員環を形成した10 とhumulene骨格が開裂した12が主生成物として得られた.またマイナーな生成物として5員環もしくは6員環を形成した11および1311に対して2つのアニリンが導入された14などが得られた (Figure 4).

Figure 4. 本研究で得られた化合物群

2. 化合物10a-eおよび12a-eに対するメタセシス反応

 続いて,メタセシス反応による環骨格を行うことで,更なる構造多様性の拡大を行った.得られた化合物のうち,比較的収率の高いものに関してメタセシス反応を適応した.まず,化合物10a-eに対して開環−閉環メタセシス反応の検討を行った.エチレン雰囲気下,Stewart-Grubbs触媒により反応させると,humulene骨格に残る二重結合が開環した単環式化合物16a-eが得られた.さらに,これら単環式化合物をグラブス第二世代触媒存在下で閉環メタセシス反応に付すことで,ベンゼン環上にアリル基を有する化合物16c-eが二量化した,大環状骨格を有する化合物17c-eが得られた (Figure 5).二量体の構造は,マススペクトルと各種NMRから決定した.化合物17eに関しては,X線結晶構造解析により構造を確認した.

Figure 5. 化合物10a-eに対する開環−閉環メタセシス反応

 続いて,化合物12a-eについて閉環メタセシス反応の検討を行った.その結果,ベンゼン環上のオルト位に置換基を有する12aおよび12cの閉環反応が進行し,三環式化合物18aおよび18cが得られた (Figure 6).

Figure 6. 化合物12aおよび12cの閉環メタセシス反応

 以上のように,humuleneの構造を基盤として多様性指向型合成を行うことで,以下に示すテルペノイドアルカロイド様化合物ライブラリーの構築を行った (Figure 7).先に述べた戦略に基づくことで,二環式,単環式,三環式および大環状骨格を有する化合物群を得た.

3. Cheminformatic analysis

 本研究において構築された化合物ライブラリーの構造多様性を評価するために,ケモインフォマティクスの手法を用いて解析を行った.PCAプロットは,化合物の物理化学的特徴と構造的特徴を数値化し,それらを主成分解析することにより得られるグラフである.PCAプロットを用いて,代表的な天然化合物,医薬品および本研究で得られた化合物群の構造多様性の比較を行った結果,本研究で得られた化合物は,天然化合物や医薬品とは異なる位置に分布していることが分かる (Figure 8).これより,本研究で構築された化合 物群は,天然化合物や医薬品とは異なる構造的特徴を有した化合物ライブラリーであることが示された.

4. Biological evaluation

 本研究で得られた化合物群に対して,様々な生物活性を指標にスクリーニングを行った.その結果,化合物16eが脂肪酸の代謝に関わる遺伝子carnitine palmitoyltransferase I (CPT-1) を濃度依存的に発現促進することが明らかとなった.臨床で用いられる脂質異常症の治療薬であるベザフィブラートと比較しても強い活性を有しており,化合物16eは脂質異常症のリード化合物となることが期待される (Figure 9).以上より,本手法により構築されたテルペノイドアルカロイド様化合物ライブラリーは,創薬研究において有用であることを示した. 

 

 本研究のように天然化合物の骨格を原料とし,非天然型の多様な骨格を有する化合物群を構築することは,創薬研究におけるリード化合物探索において非常に有用であると言える.今後,さらに多様性の拡大を行うとともに適応範囲を広げていくことで,有用な生物活性を有する化合物の取得が可能であると期待できる.

References

1. Schreiber, S. L. Science, 2000, 287, 1964-1969.

2. Kikuchi, H.; Nishimura, N.; Kwon, E.; Kawai, J.; Oshima, Y. submitted.

3. Crossley, S. W. M.; Barabe, F.; Shenvi, R. A. J. Am. Chem. Soc. 2014, 136, 16788-16791.

4. Zigon, N.; Hoshino, M.; Yoshioka, S.; Inokura. Y.; Fujita, M. Angew. Chem. Int. Ed. 2015, 54, 1-6.

 
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