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1.緒言
スキップジエン構造は、マダンガミン(抗腫瘍活性)、コラロピロニン(抗真菌活性)、リポスタチン(RNAポリメラーゼ阻害作用)に代表される生物活性天然物に広く存在する重要な構造モチーフである(スキーム1A)。これらの天然物は様々な幾何異性体で存在しており、スキップジエン構造の取り得る4つの幾何異性体を同一原料から網羅的に作り分ける方法の開発が望まれている。これまで様々なスキップジエン合成が報告されているが、全ての幾何異性体を作り分けられる収束的な合成は困難であり、現在の精密有機合成における挑戦的課題の1つである。そこで私達は、次のような基本合成戦略を立てた(スキーム1B)。アレン1に対し、ヒドロホウ素化によりアリルアルコール2とする。続いてビニルスズ3との右田‐小杉‐Stilleカップリング1)を用いれば、収束的かつ様々な幾何異性を有するスキップジエン4を構築できると考えた。本発表では、立体選択的スキップジエン構築法の開発と、これを用いたマダンガミンCの全合成を報告する。
2.アレンの立体選択的ヒドロホウ素化
基本合成戦略を確立するにあたり最も重要な課題は、同一のアレンからE体またはZ体のアリルアルコールを立体選択的に合成する方法の確立である。一般的に、アレンに対する9-BBNを用いたヒドロホウ素化は、熱力学支配のアリルホウ素化合物を与えることが知られている2)。実際、アレン5に対し9-BBNを作用した後に酸化処理すると、2回のアリル転位(Z-6 → 7 → E-6)を経てE-8が高立体選択的に得られた(89%, E/Z = 11:1)(スキーム2)。一方、私達は立体障害の大きなホウ素化合物を用いれば、アリル転位が抑制できると考えた。アレン5を(Sia)2BHで処理すると、期待していた通り、速度論的生成物のZ-8を高立体選択的に与えた(97%, E/Z = 1:8.3)。このように、同一のアレンからホウ素試薬のかさ高さを調整してアリル転位を制御し、2つのアリルアルコールE-8、Z-8の作り分けを実現した。
3.マダンガミンCの全合成
マダンガミン類は、Andersenらにより海綿:Xestospongia ingensより単離されたアルカロイドである3)。D環構造のみが異なる類縁体としてマダンガミンAからEまで報告されている。生物活性としては、マダンガミンA、Dがそれぞれ異なるヒト癌細胞に対する抗腫瘍活性を示すことが知られており、D環構造の重要性が示唆されている3a, 4)。しかし、それら以外の類縁体の生物活性は未だ解明されていない。
3-1.合成計画
私達は開発したスキップジエン合成法の有用性を示すため、マダンガミンCの全合成に取り組んだ。マダンガミンCの全合成には2つの大きな課題がある。1つは1,3-ジアキシアル反発が多数存在するABC環の構築、もう1つはE環部の三置換Zオレフィンを含むスキップジエンの合成である。これまでABC環構築法は様々なアプローチが報告されているが、マダンガミン類の三置換Zオレフィンを含むスキップジエンの立体選択的な合成は未解決のままである4)。そこで、これら2つの課題を一挙に解
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