天然有機化合物討論会講演要旨集
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抗生物質テトラセノマイシン類の不斉全合成
佐藤 翔吾阪田 慶一郎橋本 善光瀧川 紘鈴木 啓介
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p. Oral24-

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抗生物質テトラセノマイシン類の不斉全合成

 テトラセノマイシンC(1)は、1979年にZeeckらによって放線菌Streptomyces glaucescensの二次代謝物として単離、構造決定された芳香族ポリケチド化合物である1a)。このものはL1210白血病細胞に対する強力な増殖阻害活性を示し、半合成を基盤とした構造活性相関研究から、酸化的に脱芳香化されたAB環部が活性発現の鍵を握ることが明らかにされた。また、C12a位水酸基がメチル化された誘導体であるテトラセノマイシンX(2)が、1より高活性を示すことも分っている1b)。こうした生物活性に加え、その特徴的な構造、すなわち高度に官能基化された直線型の4環性構造は、合成化学的にも興味深い。しかし、これまでの合成研究はテトラセノマイシンA2(3)のようにA環が芳香化された類縁体の合成に留まり2)、1や2の全合成は未報告である。今回、我々は、先に開発した骨格構築法を基盤とした1および2の効率的な合成経路を開拓し、不斉全合成を達成した。

1.合成計画

 合成における課題は、(1)多くの酸素官能基を有する4環性骨格の構築、ならびに(2)C4、4a、12a位に連続する不斉中心の立体選択的構築、である。これらを考慮し、1の逆合成解析を行った(図1)。まず、C4位の第2級アルコールは、テトラケトン4の位置、立体選択的なヒドリド還元による構築を想定した。この4の核間位に置換した2つの水酸基のうち、C12a位の方は先に報告したイソオキサゾール環の酸化反応によって導入できると考え3)、前駆体としてイソオキサゾール5を想定した。また、C4a位水酸基はトリアゾリリデン6を用いるベンゾイン環化反応によって導入することにし、その基質であるケトアルデヒド7をナフトニトリルオキシド8とo-キノンモノアセタール9との付加環化反応4)によって合成することを考えた。さらに、この8のニトリルオキシド部位は、シクロブテノンオキシム10の酸化的開環反応によって構築できると期待し、これを1,4-ベンズジイン11に対するケテンシリルアセタール12ならびにフラン13の付加環化反応によって合成できるものと考えた。

図1

2.ナフトニトリルオキシド8の合成

 上述の計画に基づき、まずフロログルシノール(14)から3工程の変換により1,4-ベンズジイン等価体15を合成した(図2)。この15は2箇所のヨードトシラート部位において逐次的にベンザインを発生させることができる。また、親アライン体との反応の際の位置選択性は、ベンザインのベンジルオキシ基の効果により制御可能である。実際、まず、15に対してn-BuLiを作用させて発生させたベンザインはケテンシリルアセタール12と位置選択的に [2+2]付加環化反応を起こし、ベンゾシクロブテン16を収率良く与えた。続いて、逆側のヨードトシラート部位で同様にベンザインを発生させ、フラン13との[4+2]付加環化反応を行うと、二重環化付加体17が得られた。この17に対して低原子価チタンを作用させ、還元的芳香化によりナフタレン環を形成させた後、シリルアセタールを加水分解し、生じたケトンをヒドロキシルアミンと縮合させて10へと変換した。

図2

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 テトラセノマイシンC(1)は、1979年にZeeckらによって放線菌Streptomyces glaucescensの二次代謝物として単離、構造決定された芳香族ポリケチド化合物である1a)。このものはL1210白血病細胞に対する強力な増殖阻害活性を示し、半合成を基盤とした構造活性相関研究から、酸化的に脱芳香化されたAB環部が活性発現の鍵を握ることが明らかにされた。また、C12a位水酸基がメチル化された誘導体であるテトラセノマイシンX(2)が、1より高活性を示すことも分っている1b)。こうした生物活性に加え、その特徴的な構造、すなわち高度に官能基化された直線型の4環性構造は、合成化学的にも興味深い。しかし、これまでの合成研究はテトラセノマイシンA2(3)のようにA環が芳香化された類縁体の合成に留まり2)12の全合成は未報告である。今回、我々は、先に開発した骨格構築法を基盤とした1および2の効率的な合成経路を開拓し、不斉全合成を達成した。

1.合成計画

 合成における課題は、(1)多くの酸素官能基を有する4環性骨格の構築、ならびに(2)C4、4a、12a位に連続する不斉中心の立体選択的構築、である。これらを考慮し、1の逆合成解析を行った(図1)。まず、C4位の第2級アルコールは、テトラケトン4の位置、立体選択的なヒドリド還元による構築を想定した。この4の核間位に置換した2つの水酸基のうち、C12a位の方は先に報告したイソオキサゾール環の酸化反応によって導入できると考え3)、前駆体としてイソオキサゾール5を想定した。また、C4a位水酸基はトリアゾリリデン6を用いるベンゾイン環化反応によって導入することにし、その基質であるケトアルデヒド7をナフトニトリルオキシド8o-キノンモノアセタール9との付加環化反応4)によって合成することを考えた。さらに、この8のニトリルオキシド部位は、シクロブテノンオキシム10の酸化的開環反応によって構築できると期待し、これを1,4-ベンズジイン11に対するケテンシリルアセタール12ならびにフラン13の付加環化反応によって合成できるものと考えた。

図1

2.ナフトニトリルオキシド8の合成

 上述の計画に基づき、まずフロログルシノール(14)から3工程の変換により1,4-ベンズジイン等価体15を合成した(図2)。この15は2箇所のヨードトシラート部位において逐次的にベンザインを発生させることができる。また、親アライン体との反応の際の位置選択性は、ベンザインのベンジルオキシ基の効果により制御可能である。実際、まず、15に対してn-BuLiを作用させて発生させたベンザインはケテンシリルアセタール12と位置選択的に [2+2]付加環化反応を起こし、ベンゾシクロブテン16を収率良く与えた。続いて、逆側のヨードトシラート部位で同様にベンザインを発生させ、フラン13との[4+2]付加環化反応を行うと、二重環化付加体17が得られた。この17に対して低原子価チタンを作用させ、還元的芳香化によりナフタレン環を形成させた後、シリルアセタールを加水分解し、生じたケトンをヒドロキシルアミンと縮合させて10へと変換した。

図2

 この10にメタノール存在下、NCSと塩基とを作用させたところ、期待通り酸化的開裂反応が進行し、目的とするナフトニトリルオキシド7が収率良く得られた(図3)。この反応は、まずオキシム部位のC-クロロ化によって生じたニトロソ中間体から、メトキシ基の電子供与および環ひずみの解消を駆動力として4員環の開環が進行し、生じたオキソカルベニウム中間体にメタノールが付加するとともに、HClの脱離を経て7に至るものである。

3.ベンゾイン環化反応を活用した骨格構築に関する検討

 次は、ベンゾイン環化反応を活用した4環性骨格の構築である(図4)。まず、ニトリルオキシド7o-キノンモノアセタール9aとの付加環化反応は位置選択的に進行し、イソオキサゾリン16を収率良く与えた。続いて、過酸化ニッケルによる脱水素反応を行った後、ベンジル位のアセタールを化学選択的に加水分解し、環化前駆体であるケトアルデヒド17を合成した。この17に対し、トリアゾリウム塩18を触媒とするベンゾイン環化反応を行ったが、反応は完結せず、目的のケトール18は中程度の収率に留まった。この工程を改善するためにモデル化合物を用いて種々反応条件を検討したが、すべて不首尾に終わった。

図4

 この検討途上、問題の本質が逆反応にあることが判明した(図5)。そこで我々は、以下の作業仮説を立てた。すなわち、環化体19のC4位ジメチルアセタール周辺は立体的に混雑しているため、これをよりコンパクトな環状アセタールに変更すればよい、との考えである。

 そこで、ナフタレン環が融着した7員環アセタール構造を有するo-キノンモノアセタール9bを合成した(図6)。その設計の要点は、(1)自己二量化を起こさないこと、(2)除去の際に酸加水分解のほか、水素化反応や酸化反応も利用できること、の2点である。この9bから先と同様の方法で環化前駆体20を合成し、トリアゾリウム塩18を用いるベンゾイン環化反応を行ったところ、期待通り速やかに反応が完結し、目的物22が収率良く得られた。さらに、Rovisらが報告した光学活性トリアゾリウム塩215)を用いれば、高収率、高鏡像体過剰率で環化体22が得られることも分った。

図6

4.テトラセノマイシンCの全合成

 全合成の完成に向け、イソオキサゾール環の酸化による核間cis-ジオール構造の構築を行った(図7)。まず、22のC9a位水酸基をベンジル基で保護した後、イソオキサゾールをN-メチル化し、イソオキサゾリウム塩23へと変換した。この23に対し、−40℃で次亜塩素酸ナトリウム水溶液を作用させると、反応は速やかに進行し、酸化生成物24が収率良く得られた。なお、C9a位水酸基を保護していない基質ではこの酸化反応において生成物がほとんど得られなかったので、この保護基は必須である。

 こうして得られた24のC4位アセタールの加水分解を検討した。まず、酸加水分解、および水素化反応の条件を試みたところ、期待に反し、目的物26aは全く得られなかった。一方、DDQ酸化の条件では、低収率ながらも26aが得られた。検討の結果、C9a位水酸基のベンジル保護基が酸化され、分解反応を惹き起こしていることが示唆された。そこで、保護基を重ベンジル基(Bn*)に変更すれば、速度論的同位体効果によってこの副反応が抑制されるのではないかと考えた。実際、重ベンジル保護体を用いると、テトラケトン26bが収率良く得られた。最後にC4位カルボニル基を位置選択的に還元し、加水素分解を行って1の不斉全合成を達成した。

 さらに、中間体24の2つの核間水酸基のうち、C12a位水酸基をメチル化した後、同様な変換を経由して2の全合成も達成した。

図7

【参考文献】

1) (a) W. Weber, H. Zahner, J. Siebers; K. Schroder, A. Zeeck, Arch. Microbiol. 1979, 121, 111; (b) J. Rohr, A. Zeeck, J. Antibiot. 1990, 43, 1169.

2) (a) D. W. Cameron, P. J. Bruyn, Tetrahedron Lett. 1992, 33, 5593; (b) D. V. Kozhinov, V. Behar, J. Org. Chem. 2004, 69, 1378.

3) H. Takikawa, A. Takada, K. Hikita, K. Suzuki, Angew. Chem. Int. Ed. 2008, 47, 7446.

4) H. Takikawa, Y. Hashimoto, K. Suzuki, Chem. Lett. 2014, 43, 1607.

5) D. A. DiRocco, K. M. Oberg, D. M. Dalton, T. Rovis. J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 10872.

 
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