天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
58
会議情報

(-)-テトロドトキシンの全合成
前原 知明本山 敬祐藤間 達哉横島 聡福山 透
著者情報
会議録・要旨集 フリー HTML

p. Oral26-

詳細
(-)-テトロドトキシンの全合成

1. 研究背景

 (–)-テトロドトキシン(1, 以下TTXと略す)はフグ毒として知られる海洋性天然物であり、電位依存性ナトリウムチャネル(Nav)を低濃度で、かつ選択的に阻害する神経毒である1)。Navの異常はてんかん、ブルガタ症候群、無痛症などの疾患を招くため、Navを標的とした医薬品開発は精力的に行われている。Navは9つのサブタイプ(Nav1.1~1.9)が知られており、それぞれの発現場所や薬理学的作用は異なっている。そのうち、TTXはNav1.2, 1.3, 1.4, 1.6, 1.7を阻害すること、また、TTXの構造類縁体である4,9-anhydroTTX (2) はNav1.6を選択的に阻害することが明らかとされており2)、TTXを基盤としたサブタイプ特異的なNav阻害剤の創出が期待できる。しかしながら、TTXは多くの酸素、窒素官能基を有する官能基密集型化合物であるため、TTXからの半合成による構造類縁体の供給は非常に困難である。このような背景に加え、TTXは小分子ながら9つの連続する不斉中心、およびジオキサアダマンタン骨格と環状グアニジンを有する高度に官能基化された化合物であるため、その効率的な全合成は合成化学者にとって極めて挑戦的な課題である。そこで我々は、構造類縁体の合成も見据えた、TTXの実用的な合成経路の確立を目指した研究を行った。

2. 逆合成解析

 TTX (1) のオルトエステルおよび環状グアニジンは合成の終盤で導入することとすると、多置換シクロヘキサン3を効率的に合成することが全合成への鍵となる (Scheme 1)。3の4a位ホルミル基と5位水酸基がシス配置であることに注目し、分子内反応を用いてこれらを一挙に導入することとした。即ち、ニトリルオキシドと二重結合との分子内1,3-双極子付加環化反応を進行させることでイソキサゾリン4を得る計画である。1,3-双極子付加環化反応に必要なリンカーはアルデヒド6に対して立体選択的に導入できると考えることで、シクロヘキセン6へ逆合成した。シクロヘキセン環上の各官能基の立体化学はエノン7の三環性骨格の有する立体的特性を利用することで制御可能であると考えた3)。光学活性なエノン7は、対称なジオール8を不斉非対称化することで合成することとした。

3. 三環性骨格の立体的特性を利用した変換

 三環性骨格の立体的特性を利用して連続する3つの不斉点の制御を行った (Scheme 2)。市販のp-ベンゾキノン (9) と5-TMS-シクロペンタジエン (10) とのDiels-Alder反応を行い、そのままLuche還元することによりメソ体のジオール8を得た。これに対し、リパーゼを用いた不斉非対称化を行い、光学的に純粋なアリルアセテート11を高収率で合成した4)。その後、保護基の変換と酸化を経て光学純度を損なうことなくエノン12を調製した。エノン12の有する三環性骨格はconvex面とconcave面で立体障害が大きく異なるため、立体選択的な化学修飾ができる3。エノン12に対して、ヒドロキシメチルアニオン13の付加と四酸化オスミウムによる酸化を行ったところ、期待通り三環性骨格のconvex面から試薬が接近し、完全な立体選択性にて6,7,8位の立体化学を制御

(View PDFfor the rest of the abstract.)

1. 研究背景

 (–)-テトロドトキシン(1, 以下TTXと略す)はフグ毒として知られる海洋性天然物であり、電位依存性ナトリウムチャネル(Nav)を低濃度で、かつ選択的に阻害する神経毒である1)。Navの異常はてんかん、ブルガタ症候群、無痛症などの疾患を招くため、Navを標的とした医薬品開発は精力的に行われている。Navは9つのサブタイプ(Nav1.1~1.9)が知られており、それぞれの発現場所や薬理学的作用は異なっている。そのうち、TTXはNav1.2, 1.3, 1.4, 1.6, 1.7を阻害すること、また、TTXの構造類縁体である4,9-anhydroTTX (2) はNav1.6を選択的に阻害することが明らかとされており2)、TTXを基盤としたサブタイプ特異的なNav阻害剤の創出が期待できる。しかしながら、TTXは多くの酸素、窒素官能基を有する官能基密集型化合物であるため、TTXからの半合成による構造類縁体の供給は非常に困難である。このような背景に加え、TTXは小分子ながら9つの連続する不斉中心、およびジオキサアダマンタン骨格と環状グアニジンを有する高度に官能基化された化合物であるため、その効率的な全合成は合成化学者にとって極めて挑戦的な課題である。そこで我々は、構造類縁体の合成も見据えた、TTXの実用的な合成経路の確立を目指した研究を行った。

2. 逆合成解析

 TTX (1) のオルトエステルおよび環状グアニジンは合成の終盤で導入することとすると、多置換シクロヘキサン3を効率的に合成することが全合成への鍵となる (Scheme 1)。3の4a位ホルミル基と5位水酸基がシス配置であることに注目し、分子内反応を用いてこれらを一挙に導入することとした。即ち、ニトリルオキシドと二重結合との分子内1,3-双極子付加環化反応を進行させることでイソキサゾリン4を得る計画である。1,3-双極子付加環化反応に必要なリンカーはアルデヒド6に対して立体選択的に導入できると考えることで、シクロヘキセン6へ逆合成した。シクロヘキセン環上の各官能基の立体化学はエノン7の三環性骨格の有する立体的特性を利用することで制御可能であると考えた3)。光学活性なエノン7は、対称なジオール8を不斉非対称化することで合成することとした。

3. 三環性骨格の立体的特性を利用した変換

 三環性骨格の立体的特性を利用して連続する3つの不斉点の制御を行った (Scheme 2)。市販のp-ベンゾキノン (9) と5-TMS-シクロペンタジエン (10) とのDiels-Alder反応を行い、そのままLuche還元することによりメソ体のジオール8を得た。これに対し、リパーゼを用いた不斉非対称化を行い、光学的に純粋なアリルアセテート11を高収率で合成した4)。その後、保護基の変換と酸化を経て光学純度を損なうことなくエノン12を調製した。エノン12の有する三環性骨格はconvex面とconcave面で立体障害が大きく異なるため、立体選択的な化学修飾ができる3。エノン12に対して、ヒドロキシメチルアニオン13の付加と四酸化オスミウムによる酸化を行ったところ、期待通り三環性骨格のconvex面から試薬が接近し、完全な立体選択性にて6,7,8位の立体化学を制御することに成功した。その後、保護基の脱着とJones酸化をワンポットで行いケトン15を合成した。

4. C8a位第四級炭素の立体制御

 C8a位第四級炭素の構築には転位反応を活用した (Scheme 3)。まず、Peterson反応によって不飽和エステルへ導き、その後、加熱条件に付すことで逆Diels-Alder反応を進行させ、シクロヘキセン16とした。不飽和エステルをDIBALによって還元し、生じたアルコールをカルバミン酸エステル17へ変換した。C8a位への窒素原子の導入は市川らによって報告された転位反応を応用することで実現した5)。即ち、17に対してTFAAとi-Pr2NEtを用いた脱水条件を適用したところ、アリルシアナートの生成と[3,3]-シグマトロピー転位が速やかに進行し、二環性骨格のconvex面から立体選択的に窒素原子を導入することに成功した。さらに、立体障害の小さいビニル基を選択的に酸化開裂し、逆合成で示した6に対応するアルデヒド20の合成を完了した。以上のように、多環式化合物の立体的特性を利用することで、迅速かつ完全な立体選択性にて中心骨格の4つの不斉点を制御することができた。

5. 1,3-双極子付加環化反応

 鍵反応である1,3-双極子付加環化反応に向けて官能基変換を行った (Scheme 4)。アルデヒド20に対して別途調製したグリニャール試薬21を作用させたところ、マグネシウムがアルデヒド、窒素原子を介してキレート錯体を形成することにより6)、求核付加が望みの選択性にて進行した。これにより9位の不斉中心の制御と1,3-双極子付加環化反応に必要なリンカーの導入に成功した。続いて、アルキンの部分還元を行ってZ-アルケン23とした後、所属研究室で見出されたオキシム合成法7)を適用することで二重結合の幾何異性を損なうことなく不飽和オキシム24を調製することができた。そして、二級アルコールとオキシムをTMS基で保護し、鍵反応前駆体25とした。これに対し、クロラミン26と酢酸を作用させたところ、オキシムの脱保護と酸化によってニトリルオキシドが生成し、速やかに分子内1,3-双極子付加環化反応が進行することを見出した。生成物のTMS基を後処理によって除去し、アリルアルコール27を合成することに成功した。このように、分子内1,3-双極子付加環化反応により、4a,5位の立体選択的な修飾を達成し、TTXの骨格構築に必要な全ての官能基を高効率的に導入することができた。なお、アリルアルコール27の調製まで全てグラムスケールにて反応が進行することを確認している。

6. イソキサゾリンの開裂

 TTXの前駆体となる多置換シクロヘキサン3の合成を行うため、イソキサゾリンの開裂を行った (Scheme 5)。アリルアルコール27に対してオゾン酸化を行ったところ、単一の生成物としてアルデヒド28を与えた。その後、ワンポットでPinnick酸化と過酸化物の還元を行い、生じたカルボン酸29をベンジルエステル30へ変換した。近接するエステルや水酸基との相互作用の影響を受けてイソキサゾリンの開裂は困難を伴ったが、検討の結果、ホウ化ニッケルを用いた還元反応と生じたアミンのAlloc化によりアミノアルコール31が得られることを見出した。さらにメタノール中で四酢酸鉛を作用させ加熱したところ、アミノアルコールの酸化的開裂、脱ホルミル化、およびN-Oアセタール形成が一挙に進行させることに成功した。続いてAlloc基の除去とヘミアミナールの加水分解を経て、逆合成で示した多置換シクロヘキサン3に相当する化合物34の合成を完了した。

7. TTXの不斉全合成

 全合成に向けて残す課題はオルトエステルと環状グアニジンの構築である(Scheme 6)。まず、ラクトール34をアセタール35へ変換した後に、接触還元によってカルボン酸36を調製した。次に、オルトエステル構築に向けてラクトン化を試みた。様々な反応条件を検討したところ、山口ラクトン化の条件8)を用いることで良好な収率でラクトン37を合成することを見出した。これに対してTMSIを作用させてBoc基を除去し、次いでCbz基で保護されたグアニジンを導入することで38を得た。このものを酸性条件下加熱したところ、アセトニドの除去、オルトエステルおよび環状グアニジンの構築を一挙に達成することができた。この際4位、9位で脱水反応が進行したアンヒドロ体40も副生したが容易に分離可能であった。最後に、水素添加反応によってCbz基を除去することにより、(–)-TTX (1) および(–)-4,9-anhydro-TTX (2) を得た。現在精製条件を検討している。 

8. 総括

 我々は、多環式骨格の立体的特性と分子内1,3-双極子付加環化反応を利用することで、完全な立体選択性にてTTXの7つの連続する不斉中心を制御し、TTXおよび4,9-anhydro-TTXの不斉全合成を達成した。

【参考文献】

1) Y. Tahara et al., J. Pharm. Soc. Jpn., 29, 587 (1909)

2) W. Schreibmayer et al., Am. J. Physiol. Cell. Physiol., 293, C783 (2007)

3) K. Ogasawara et al., J. Chem. Soc., Chem. Commun., 177 (1993)

4) A. G. Myers et al., Chem. Sci., 2, 1710 (2011)

5) Y. Ichikawa, Synlett, 238 (1991)

6) M. Isobe et al., Angew. Chem. Int. Ed., 43, 4782 (2004)

7) T. Fukuyama et al., Org. Lett., 10, 2259 (2008)

8) M. Yamaguchi et al., Bull. Chem. Soc. Jpn., 52, 1989 (1979)

 
© 2016 天然有機化合物討論会電子化委員会
feedback
Top