天然有機化合物討論会講演要旨集
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α-galエピトープを利用した効果的がん免疫療法の開発
真鍋 良幸李 昊晟徳永 健斗Sianturi Julinton寺尾 尚子高松 真二種村 匡弘三善 英知深瀬 浩一
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p. Oral27-

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α-galエピトープを利用した効果的がん免疫療法の開発

a-galエピトープ(Fig.1)は,多くの哺乳類で広く発現しているものの,ヒトではその合成酵素であるa1,3galactosyltransferse(a1,3GT)が変異を受け,活性を持たず,この糖鎖構造を持たない.代わりにヒトは,抗a-gal抗体(抗Gal抗体)を持ち,その量はヒトの自然抗体の中で最も多い.ブタなどの異種臓器には大量のa-galが発現しており,ブタ‐ヒト間の臓器移植でみられる超急性拒絶反応は,a-galと抗Gal抗体の免疫反応に起因する.我々は,この激しい免疫反応を利用した効果的ながん免疫療法の開発を目指して研究を行った.

がんの免疫療法は手術,放射線療法,化学療法の3大療法に続く第4の治療と期待され,副作用が少なく,転移や再発を抑制する効果的な治療となる可能性を秘めているものの,未だ標準的治療としては確立されていない.この要因としては,全身状態不良のがん患者では,免疫機能が低下しているため腫瘍抗原に対する抗原提示能が低いこと,がんの持つ免疫回避機構のために免疫系が十分に機能しないこと,などが考えられる.本研究では,a-galエピトープを化学合成し,これをアジュバント(抗原性補助剤)として利用したがんワクチン療法の開発に取り組んだ.また,がん細胞をa-galで標識し,がん細胞特異的に超急性拒絶反応を引き起こす新しいがん免疫療法の開発も検討した.

・a-galエピトープの効率合成

 a-galの合成に関しては,通常の化学合成に加え,固相での合成や,酵素を用いた合成など複数の報告がある1.本研究では,a-galの量的供給を目的として新規の合成ルートを検討した.まず,チオ糖1と2を用いたグリコシル化を検討した(Table 1).グリコシル化において電子供与性の保護基で保護したドナー(アームドドナー)は電子吸引性の保護基で保護したドナー(ディスアームドドナー)よりも反応性が高い.そこで,ディスアームドドナー2存在下でアームドドナー1を選択的に活性化して,2糖3を合成し,得られたチオ糖3をそのまま続くグリコシル化に用いることで,効率的な糖鎖骨格の構築が可能となると考えた.種々の活性化剤を検討したところ,NIS,TfOHを用いたときに最も良好な結果を与え(entry 1-4),1を小過剰に用いることで収率が向上し,目的の3を82%の収率で得ることができた(entry 5,6).

一方で,本反応はスケールアップにともない収率が低下した(57%, entry 6).そこで,本反応にマイクロフロー系を適用した.マイクロフロー系では,反応溶液をポンプにより流路に送液し,マイクロメートルオーダーの反応場を持つリアクターで混合し,反応を行う.これにより,効率的な混合や精密な温度制御が可能となり,アームドドナーである1の活性化の選択性が向上することに加え,生成した3を系外に取り出すことで,過剰反応を抑制できると考えた.さらに,本系では送液時間を延長することで,完全に同じ条件でのスケールアップが可能である.マイクロフロー系でのグリコシル化はFig. 2に示す装置を用いて行った.マイクロフロー系における反応条件の検討にあたり,基質1,2の消費量を最小限に抑えるために,HPLCで用いられるレオダインインジェクターを系内に

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a-galエピトープ(Fig.1)は,多くの哺乳類で広く発現しているものの,ヒトではその合成酵素であるa1,3galactosyltransferse(a1,3GT)が変異を受け,活性を持たず,この糖鎖構造を持たない.代わりにヒトは,抗a-gal抗体(抗Gal抗体)を持ち,その量はヒトの自然抗体の中で最も多い.ブタなどの異種臓器には大量のa-galが発現しており,ブタ‐ヒト間の臓器移植でみられる超急性拒絶反応は,a-galと抗Gal抗体の免疫反応に起因する.我々は,この激しい免疫反応を利用した効果的ながん免疫療法の開発を目指して研究を行った.

がんの免疫療法は手術,放射線療法,化学療法の3大療法に続く第4の治療と期待され,副作用が少なく,転移や再発を抑制する効果的な治療となる可能性を秘めているものの,未だ標準的治療としては確立されていない.この要因としては,全身状態不良のがん患者では,免疫機能が低下しているため腫瘍抗原に対する抗原提示能が低いこと,がんの持つ免疫回避機構のために免疫系が十分に機能しないこと,などが考えられる.本研究では,a-galエピトープを化学合成し,これをアジュバント(抗原性補助剤)として利用したがんワクチン療法の開発に取り組んだ.また,がん細胞をa-galで標識し,がん細胞特異的に超急性拒絶反応を引き起こす新しいがん免疫療法の開発も検討した.

・a-galエピトープの効率合成

 a-galの合成に関しては,通常の化学合成に加え,固相での合成や,酵素を用いた合成など複数の報告がある1.本研究では,a-galの量的供給を目的として新規の合成ルートを検討した.まず,チオ糖12を用いたグリコシル化を検討した(Table 1).グリコシル化において電子供与性の保護基で保護したドナー(アームドドナー)は電子吸引性の保護基で保護したドナー(ディスアームドドナー)よりも反応性が高い.そこで,ディスアームドドナー2存在下でアームドドナー1を選択的に活性化して,2糖3を合成し,得られたチオ糖3をそのまま続くグリコシル化に用いることで,効率的な糖鎖骨格の構築が可能となると考えた.種々の活性化剤を検討したところ,NIS,TfOHを用いたときに最も良好な結果を与え(entry 1-4),1を小過剰に用いることで収率が向上し,目的の3を82%の収率で得ることができた(entry 5,6).

一方で,本反応はスケールアップにともない収率が低下した(57%, entry 6).そこで,本反応にマイクロフロー系を適用した.マイクロフロー系では,反応溶液をポンプにより流路に送液し,マイクロメートルオーダーの反応場を持つリアクターで混合し,反応を行う.これにより,効率的な混合や精密な温度制御が可能となり,アームドドナーである1の活性化の選択性が向上することに加え,生成した3を系外に取り出すことで,過剰反応を抑制できると考えた.さらに,本系では送液時間を延長することで,完全に同じ条件でのスケールアップが可能である.マイクロフロー系でのグリコシル化はFig. 2に示す装置を用いて行った.マイクロフロー系における反応条件の検討にあたり,基質12の消費量を最小限に抑えるために,HPLCで用いられるレオダインインジェクターを系内に組み込んだ.これにより,わずか10 mg程度の基質での検討が可能となった.反応条件を最適化した結果,NIS,TfOHを過剰に用い,短時間で反応を完結させることで,目的の3を85%で得ることができ,3の大量合成が可能となった.

続いて,得られた2糖34を用いてグリコシル化を行い,3糖5を83%で得た.その後,すべての保護基を除去し,目的のa-gal(6)の合成を完了した.なお,本研究では,a-galをさまざまな生体分子と複合化するため,還元末端にカルボン酸を導入した6を目的物として設定した.

・a-galをアジュバントとして利用したがんワクチン療法の開発

 ワクチンが有効に働くためには抗原に加え,その抗原性を高めるアジュバントが必須である.我々は,a-galの引き起こす強力な免疫反応に着目し,そのアジュバントとしての利用を検討した.すなわち,抗原をa-galで標識することで,生体内に大量に存在する抗Gal抗体を介して抗原提示細胞への取り込みを促進し,免疫反応を賦活化する(Fig.3).

 これまでに,Galiliらをはじめとして複数のグループがa-galをアジュバントとして利用したワクチン療法の有効性を報告しているが2,これらの先行研究では,a-galの生合成酵素であるa1,3GTを利用して抗原をa-gal標識していた(Fig.4).この方法ではワクチンの均一性の担保が難しく,また,糖鎖を持たない抗原に対しては利用できないという大きな制限があった.そこで,本研究では,化学合成したa-galを用いて,化学修飾法により抗原をa-gal標識する手法の検討を行った(Fig.4).これにより,均一なa-gal標識ワクチンを供給できる.さらに,抗原上の糖鎖の有無にかかわらず,ペプチドやタンパク質,細胞などあらゆる抗原に対して,a-galを導入できることから,a-galのアジュバントとしての適用範囲が大きく広がる.

上記で合成したa-gal(6)を活性エステル体7へと変換し,さまざまな抗原のa-gal 標識を行った(Fig.5).まず,抗原のモデルとしてBSAを用いたところ,室温,中性条件(pH=8)の温和な条件で13個程度のa-gal標識をBSAに導入することができた.この導入数に関しては7の濃度や温度,pHなどの反応条件により2-20個程度まで調節できた.また,標識位置に関しても標識化法を変えることで制御可能で,BSAとa-galの間へのリンカー構造の導入も可能であった.このようなa-galの導入数や導入位置の制御により,a-galのアジュバントとしての効果を最適化できるものと考えており,これは化学標識法を用いて抗原にa-galを導入することの大きな利点である.加えて,さまざまな抗原に対するa-gal標識を行った.我々は,難治性のがんである膵がんを対象としており,膵がんのワクチン候補をそれぞれa-gal標識した.ペプチド抗原であるMUC1ペプチド(Fig.5),糖鎖抗原であるシアリルTnに対するa-gal標識はいずれも速やかに進行し,a-gal標識体を得た.タンパク質抗原であるeEF2や膵がん細胞PANC1のライゼートに関しても,a-gal標識化に成功したことを,抗Gal抗体を持ちいたELISAにより確認した.さらに,PANC1の細胞表面へのa-gal導入も可能であった.

 続いて,化学合成したa-galが自然抗体により認識されることを確認した.通常のマウスはa-galを発現しているため,抗Gal抗体を持たず,本実験に用いることができない.そこで,a-gal の生合成酵素であるa1,3GTをノックアウトし,これにa-galを高発現するブタの腎臓を投与することで大量の抗Gal抗体を作らせたヒト化マウスを用いた2c.このヒト化マウスの持つ抗Gal抗体により,化学合成したa-galが認識されることを確かめた.すなわち,上記で合成したa-gal標識BSAに対して,ヒト化マウスの血清を用いてELISAを行った.その結果,a-gal標識BSAはポジティブコントロールであるブタの腎臓と同様にヒト化マウスの血清中の抗Gal抗体に反応した.一方で,ワイルドタイプのマウスの血清を用いた際にはこの反応は起こらなかった.このことから,化学合成したa-galが期待通り,ヒト化マウスの抗Gal抗体により認識されることが分かった.

最後に,合成したa-gal 標識抗原を用いてa-galのアジュバント効果を検証した.まず,a-gal 標識BSAを用いてin vivo実験を行った.BSAと a-gal標識BSAをヒト化マウスに投与し,その血清を用いたウエスタンブロッティングにより血清中の抗BSA抗体の量を比較した.その結果,a-gal標識によりBSAに対する抗体の産生量が劇的に増加した(Fig.6a).続いて,がん抗原であるMUC1ペプチドを用いて同様の実験を行った.ここでも,a-gal標識によりMUC1に対する抗体の産生量が増加した(Fig.6b).このように,我々は,化学合成したa-galがアジュバントとして機能することを初めて示した.これにより,均一性の高いa-gal標識ワクチンの調整が可能となり,また,さまざまな抗原へのa-gal導入も簡便に実現できるようになった.今後,さらなる検討を行うことで,a-galアジュバントの臨床応用への扉を開くことができると期待している.

・a-galによる急性拒絶反応を利用したがん免疫療法の開発

 上記に加えて,がん細胞をa-galで特異的に標識し,がん細胞に対して超急性拒絶反応を引き起こすという全く新しいがん免疫療法の開発も検討した.すなわち,a-gal標識がん抗体を用いることで,がん細胞に対して,抗Gal抗体を介した超急性拒絶反応を誘起する(Fig.7).a-galが引き起こす免疫反応は極めて激しいことから,高い効果が期待できると考えた.

まず a-gal活性エステル7を用いて細胞を標識し,本免疫療法のプルーフオブコンセプトを示した.抗Gal抗体により引き起こされる超急性拒絶反応は,補体を介した細胞殺傷である補体依存性細胞傷害(Complement-Dependent Cytotoxicity,CDC)の寄与が大きいことが報告されている3.そこで,7で処理することでa-galを導入したリンパ腫細胞Rajiに対して,CDC活性を調べた(Fig.8).すなわち,a-gal標識Raji細胞に対し,抗Gal抗体を含むヒト血清とウサギ補体を投与し,細胞生存数を計測した.その結果,a-gal標識を行っていないRaji細胞では細胞傷害はほとんど観測されなかったのに対し,a-gal標標識した細胞では,ヒト血清とウサギ補体の両方を加えることで,明確な細胞傷害が起こった.このように, a-gal標識により,がん細胞に急性拒絶反応を起こす新しいがん療法が有効に働くことを示唆する結果を得た.

続いて,実際にがん抗体を用いてがん細胞特異的にCDCを引き起こすことができるかを検証した.Rajiに高発現しているCD20に対する抗体(抗CD20抗体)をa-gal標識し,この抗体で細胞を処理することで,抗体を介してRaji細胞をa-gal標識した.これに対して上記と同様にCDC活性を測定した.その結果,a-gal標識抗CD20抗体を用いてCDCを誘導し,Rajiを殺傷することができた(Fig.9).抗CD20抗体はリンパ腫に対する抗体医薬(リツキサン)としてすでに実用化されているが,十分な効果を示さない場合もある.a-galにより引き起こされる急性拒絶反応は極めて激しいことから,抗体のa-gal標識により,抗体医薬の効果を格段に高めることができるものと期待している.

参考文献

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3.Watier, H.; Guillaumin, J. M.; Piller, F.; Lacord, M.; Thibault, G.; Lebranchu, Y.; Monsigny, M.; Bardos, P. Transplantation 1996, 62, 105-113.

 
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