天然有機化合物討論会講演要旨集
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CD1dの脂質認識部位への高親和性を指向した新規リガンドの創製研究
井貫 晋輔相羽 俊彦平田 菜摘市原 収吉留 大輔喜多 俊介前仲 勝実深瀬 浩一藤本 ゆかり
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p. Oral28-

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CD1dの脂質認識部位への高親和性を指向した新規リガンドの創製研究

背景・目的

脂質抗原受容体CD1dは樹状細胞等に存在しT細胞の分化、活性化を制御することが知られている。CD1dは糖脂質リガンドと結合すると、ナチュラルキラーT(NKT)細胞上のT細胞抗原受容体(TCR)に認識され、様々なサイトカイン(INF-g、IL-4、IL-10など)を誘導する1)。これらのサイトカインは免疫応答のバランス制御に関わっており、制御を可能とするリガンドの創製は重要な研究課題である。既知のCD1dリガンドとしては海洋天然物を基盤に開発された糖脂質a-GalCer (KRN7000) が知られている(Fig.1)2)。これまでのa-GalCerの構造活性相関研究によりCD1dに対するリガンド結合様式の解明が精力的に進められてきたが3)、CD1dの疎水性ポケットにおける脂質リガンド認識機構の詳細な解析はあまり行われていない。このような背景のもと、我々はa-GalCerの長鎖アルキル基の構造展開を基に、CD1dの脂質結合部位におけるリガンド認識機構の解明とその制御を目指し、本研究に着手した。

化合物デザイン・合成

糖脂質やリン脂質など生体関連脂質分子は、主に糖やリン酸基等の親水性ヘッドグループと長鎖アルキル基等の疎水性領域から構成されている。長鎖アルキル基等は、脂質認識タンパク質中の非極性アミノ酸から構成される疎水性ポケットによって疎水性相互作用を介して認識される。しかしながら、いくつかの脂質認識タンパク質において、これらの疎水性ポケット中の、非常に限定的な領域に、極性アミノ酸を見出すことができる。疎水性領域における水素結合はタンパク質表面などの親水性領域における水素結合と比較し、より安定な結合を形成することが報告されているが4)、脂質認識において疎水性ポケット中の親水性アミノ酸残基に着目して、水素結合形成を狙う試みは限られている。我々は、これらの親水性残基との水素結合形成による活性制御を指向したリガンド構造のデザインを行った。報告されているmCD1d—a-GalCer複合体のX線結晶構造(PDB: 3G08)5)を精査した結果、a-GalCerの長鎖アルキル基との相互作用領域である疎水性ポケット(A’ pocket)中に、水素結合可能な親水性領域(Ser28およびCys12, His38周辺部)を見出した(Fig.1)。これまでにこれらの親水性領域との相互作用を意図したリガンドとして、脂質末端に水酸基を含むa-GalCer誘導体が報告されているが、詳細な構造活性相関研究は行われていない6) 。今回、我々は親水性領域に対して水素結合等を介して相互作用可能なアミド基をa-GalCerの長鎖アルキル基に導入することを計画した(Fig.2)。まずCD1d のSer28との相互作用が予想される部位近傍にアミド基を導入した5数種のリガンド(1a-e)を合成した。またCys12, His38との相互作用を意図したリガンド(2a、2b)も併せて合成した。

生物活性評価

最初にmCD1dタンパク質とNKTハイブリドーマ(2E10)7)を用いたサイトカイン誘導能評価を行った(APC-free assay)8)。すなわち、CD1dをプレートに固定化し、各リガンドを加えた後、NKTハイブリドーマを加え、誘導されるサイトカイン(IL-2)の量を定量した(Fig.3)。1a、1bはa-GalCerと比較し、

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背景・目的

脂質抗原受容体CD1dは樹状細胞等に存在しT細胞の分化、活性化を制御することが知られている。CD1dは糖脂質リガンドと結合すると、ナチュラルキラーT(NKT)細胞上のT細胞抗原受容体(TCR)に認識され、様々なサイトカイン(INF-g、IL-4、IL-10など)を誘導する1)。これらのサイトカインは免疫応答のバランス制御に関わっており、制御を可能とするリガンドの創製は重要な研究課題である。既知のCD1dリガンドとしては海洋天然物を基盤に開発された糖脂質a-GalCer (KRN7000) が知られている(Fig.1)2)。これまでのa-GalCerの構造活性相関研究によりCD1dに対するリガンド結合様式の解明が精力的に進められてきたが3)、CD1dの疎水性ポケットにおける脂質リガンド認識機構の詳細な解析はあまり行われていない。このような背景のもと、我々はa-GalCerの長鎖アルキル基の構造展開を基に、CD1dの脂質結合部位におけるリガンド認識機構の解明とその制御を目指し、本研究に着手した。

化合物デザイン・合成

糖脂質やリン脂質など生体関連脂質分子は、主に糖やリン酸基等の親水性ヘッドグループと長鎖アルキル基等の疎水性領域から構成されている。長鎖アルキル基等は、脂質認識タンパク質中の非極性アミノ酸から構成される疎水性ポケットによって疎水性相互作用を介して認識される。しかしながら、いくつかの脂質認識タンパク質において、これらの疎水性ポケット中の、非常に限定的な領域に、極性アミノ酸を見出すことができる。疎水性領域における水素結合はタンパク質表面などの親水性領域における水素結合と比較し、より安定な結合を形成することが報告されているが4)、脂質認識において疎水性ポケット中の親水性アミノ酸残基に着目して、水素結合形成を狙う試みは限られている。我々は、これらの親水性残基との水素結合形成による活性制御を指向したリガンド構造のデザインを行った。報告されているmCD1d—a-GalCer複合体のX線結晶構造(PDB: 3G08)5)を精査した結果、a-GalCerの長鎖アルキル基との相互作用領域である疎水性ポケット(A’ pocket)中に、水素結合可能な親水性領域(Ser28およびCys12, His38周辺部)を見出した(Fig.1)。これまでにこれらの親水性領域との相互作用を意図したリガンドとして、脂質末端に水酸基を含むa-GalCer誘導体が報告されているが、詳細な構造活性相関研究は行われていない6) 。今回、我々は親水性領域に対して水素結合等を介して相互作用可能なアミド基をa-GalCerの長鎖アルキル基に導入することを計画した(Fig.2)。まずCD1d のSer28との相互作用が予想される部位近傍にアミド基を導入した5数種のリガンド(1a-e)を合成した。またCys12, His38との相互作用を意図したリガンド(2a2b)も併せて合成した。

生物活性評価

最初にmCD1dタンパク質とNKTハイブリドーマ(2E10)7)を用いたサイトカイン誘導能評価を行った(APC-free assay)8)。すなわち、CD1dをプレートに固定化し、各リガンドを加えた後、NKTハイブリドーマを加え、誘導されるサイトカイン(IL-2)の量を定量した(Fig.3)。1a1bはa-GalCerと比較し、ほぼ同等のサイトカイン誘導能を示した。一方、1cを用いた場合、活性が向上した。さらに1d1eは、より高いサイトカイン誘導を示した。このように、アミド基の導入位置が活性発現に大きな影響を与えることから、mCD1dタンパク質とリガンド間の特定の相互作用が示唆された。また、二つのアミド基を有する2a2bを用いて活性評価を行った結果、2bにおいて活性が向上した。続いて、mCD1d強制発現細胞株(RBL-CD1d)とNKTハイブリドーマ(2E10)を用いたサイトカイン誘導試験を行った(Fig.4)8)。RBL-CD1dとリガンドをインキュベートした後、NKTハイブリドーマを添加し、NKTハイブリドーマによるサイトカイン誘導(IFN-g)を評価した。APC-free assayの結果と同様、アミド基の導入位置によって、活性の差が見られ、1c1d1e1a1bと比較し、より高いIFN-g誘導を示した。一方、二つのアミド基を有する2a2bは、1eと比較し、高いIFN-g誘導を示した。この結果は、長鎖アルキル基の末端に近い位置のアミド基が活性向上に何らかの寄与をしていることを示唆している。

最後に1e2bに関して、マウス脾臓細胞を用いたサイトカイン誘導評価を行った(Fig.5)。本評価系では、NKT細胞、CD1dを発現する樹上細胞等、複数種の細胞が混在する脾臓細胞にリガンドを添加し、誘導されるサイトカインINF-gおよびIL-4の量を定量した。1eは、a-GalCerと比較して、INF-gとIL-4ともに誘導能が向上した。一方で、2bは、INF-gの誘導能は低下したが、IL-4の誘導能は向上した。

分子動力学(MD)計算を用いた相互作用解析

特定の位置へのアミド基導入によるサイトカイン誘導能の向上に関する構造的要因を調査するために、アミド基を一つ含む1a-1eに関して、分子動力学計算を用いた相互作用様式の解析を行った。1a-1eはSer28との相互作用が予想されるため、Ser28周辺部の水和状態をシュレーディンガー社のWaterMap9,10)を用いて解析するとともに、20nsのMDシミュレーションによりアミド基とmCD1dとの相互作用を解析することとした。

最初にWaterMapを用いた解析を行った。WaterMapは、MDシミュレーションに基づいて、リガンド結合部位における水分子の位置と自由エネルギーの計算を行うことが可能なソフトウェアである。Fig.6aにアポ体におけるSer28周辺部の水和状態の計算結果を示す。球で示す部分が水分子を示している。Ser28周辺部には、3つの水分子A、B、Cが存在している。水分子A、Bに関しては、結晶構造(PDB:3g08)においても同じ位置に見られる水分子でありWaterMap解析の結果が、実際を再現していることが示された。また、水分子A、BはSer28、Trp40、Arg74と強固な水素結合ネットワークを形成しているこが示唆された。一方で、解析の結果、Ser28周辺部にdewetted region11,12)と呼ばれる溶媒和水のない水和状態の極端に悪い領域が存在することが示された。続いてa-GalCer誘導体とmCD1d複合体のWaterMap解析を行った(Fig.6b)。アポ体の計算結果と同様、水分子A、Bの存在が確認された。一方、a-GalCer誘導体の結合により、水分子Cが無くなり、非常に不安定な領域であるdewetted regionが拡大した。最後にアミド基を有する誘導体を用いた解析を行った(Fig.6c)。アミド基の導入により、水分子Cが現れ、dewetted regionが縮小した。またSer28と水分子Cは、アミド基と水素結合ネットワークを形成していることが示唆された。このようにアミド基の導入によりSer28周辺部の水和状態が大きく改善されていることが示唆された。

次に、リガンドのアミド基とmCD1dにおける極性アミノ酸残基との水素結合をMDシミュレーションにより評価した。既知のX線結晶構造(PDB:3he6)13)を元にmCD1dと1a-eとの複合体を作成し、20 ns間のMDシミュレーションを行った。シミュレーション時間内における、リガンドのアミド基とmCD1dに含まれる各極性アミノ酸残基との水素結合数を評価した(Fig.7)。20ns間において、特定の一つのアミノ酸残基の官能基とリガンドのアミド基が水素結合を継続的に形成した場合、縦軸の値は1となる。1d1eなどの水素結合数は1を超えているため、二つ以上のアミノ酸残基が水素結合の形成に関わっていることを示している。1a1bは、主にTyr73、 Gln14との水素結合形成が示唆されたが、全体的な水素結合の寄与が少なかった。一方、高いサイトカイン誘導能を示した1d1eでは、水素結合の寄与が大きく、主にGln14およびSer28との水素結合が示唆された。またGln14は水分子を介してリガンドのアミド基と水素結合を形成しており、mCD1d-リガンド間の相互作用に水分子が重要な役割を果たしていることが示唆された。

総括

以上のように、CD1dの脂質認識部位に存在する特定の極性アミノ酸残基が、親和性向上のための新たな作用点となることを見出した。またMD計算の結果よりリガンドへのアミド基の導入は、水素結合の形成に関与するのみでなく、その周辺部の水和状態を大きく改善することでリガンド-CD1d複合体を安定化していることが示唆された。本成果は単純な構造変換により脂質リガンドの活性向上が可能である事を示しており、脂質認識タンパク質に対する高親和性リガンド設計に重要な指針を与えると期待される。

謝辞

RBL-CD1d細胞、NKTハイブリドーマ(2E10)を提供して頂いた岩渕和也 教授(北里大学医学部)、樺山一哉 准教授(大阪大学大学院理学研究科)、研究遂行にあたり有益なご助言を頂きました村田道雄 教授(大阪大学大学院理学研究科、JST-ERATO村田脂質活性構造プロジェクト)に深謝致します。 

参考文献

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