天然有機化合物討論会講演要旨集
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デブロモアプリシアトキシン単純化アナログ・aplog-1の構造最適化ならびにがん細胞増殖抑制機構の解析
花木 祐輔菊森 将之堀田 夏紀四方 雄貴井本 正哉岡村 睦美旦 慎吾柳田 亮入江 一浩
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p. Oral29-

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デブロモアプリシアトキシン単純化アナログ・aplog-1の構造最適化ならびにがん細胞増殖抑制機構の解析

1. 緒 言

 プロテインキナーゼC(PKC)は10種類以上のアイソザイムから構成されるセリン・スレオニン特異的リン酸化酵素であり,細胞の増殖,分化,アポトーシスといった情報伝達の中枢を担っている.近年,がん細胞におけるPKC変異のほとんどが機能欠損型であることが明らかになった1.これより,PKCの活性化は有効な制がん戦略の一つと考えられることから,12-O-tetradecanoylphorbol 13-acetate(TPA)に代表される天然のPKC活性化剤は,抗がん剤としての応用が期待される.しかしながら,PKC活性化剤の多くは発がん促進性ならびに炎症性を示すことから,薬剤としての利用が懸念されていた.本研究グループは,アメフラシ由来のPKC活性化剤であるdebromoaplysiatoxin(DAT)から,発がん促進性および炎症性を取り除いた単純化アナログ・aplog-1の開発に成功したが2(図1),aplog-1のPKC結合能およびがん細胞増殖抑制活性はDATよりも10倍以上低かった.本研究では,aplog-1をリード化合物としてスピロケタール部位の系統的な構造修飾を行うことにより,DATを凌ぐがん細胞増殖抑制活性を有する誘導体・10-Me-aplog-1を開発した.また,10-Me-aplog-1の大量合成を行い,in vivoでの抗がん活性ならびにin vitroでのがん細胞増殖抑制機構を調べた.

図1 Debromoaplysiatoxinおよびその単純化アナログ

2. Aplog-1の構造最適化

 コンピューターによるドッキングシミュレーションによって,DATのスピロケタール部位のメチル基はPKCとの結合において重要な役割を担っていると予測された.そこで,aplog-1のスピロケタール部位の4,10,12位にDATと同じ立体配置のメチル基を系統的に導入した誘導体を5種類合成し,各種生物活性を評価した.その結果,10位にメチル基を導入した誘導体3種(10-Me-aplog-1,4,10-diMe-aplog-1,10,12-di-Me-aplog-1)がaplog-1よりも10倍以上高いPKC結合能およびがん細胞増殖抑制活性を示した3, 4.続いて,これらの誘導体の発がん促進活性をマウス皮膚二段階発がん試験によって評価した.10-Me-aplog-1ならびに10,12-diMe-aplog-1はDATが発がん促進性を示す量の5倍量を塗布してもまったく腫瘍を発生させなかった.一方で,4,10-diMe-aplog-1は5倍量の塗布によって約半分のマウスに腫瘍を発生させた(図2).また,マウス耳を用いた炎症試験においても,4,10-diMe-aplog-1は他2種の誘導体と比較してやや高い炎症活性を示した(図3).以上の結果より,強力ながん細胞増殖抑制活性を有し,かつ副作用をほとんど示さない10-Me-aplog-1および10,12-diMe-aplog-1が抗がん剤シードとして最適であると考えられた.

3. 10-Me-aplog-1のin vivoにおける抗がん活性評価

 構造最適化された誘導体の一つである10-Me-aplog-1のin vivoにおける抗がん活性を評価する目的で,本化合物の大量合成を試みた.当初はaplog-1の合成法を10-Me-aplog-1の合成にそのまま適用していたが,段階数が多く

図2 新規誘導体のマウス皮膚における発がん促進活性

図3 新規誘導体のマウス耳における炎症活性

大量合成には不適であると考えられたため合成経路の見直しを行った(図4).アルケンか

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1. 緒 言

 プロテインキナーゼC(PKC)は10種類以上のアイソザイムから構成されるセリン・スレオニン特異的リン酸化酵素であり,細胞の増殖,分化,アポトーシスといった情報伝達の中枢を担っている.近年,がん細胞におけるPKC変異のほとんどが機能欠損型であることが明らかになった1.これより,PKCの活性化は有効な制がん戦略の一つと考えられることから,12-O-tetradecanoylphorbol 13-acetate(TPA)に代表される天然のPKC活性化剤は,抗がん剤としての応用が期待される.しかしながら,PKC活性化剤の多くは発がん促進性ならびに炎症性を示すことから,薬剤としての利用が懸念されていた.本研究グループは,アメフラシ由来のPKC活性化剤であるdebromoaplysiatoxin(DAT)から,発がん促進性および炎症性を取り除いた単純化アナログ・aplog-1の開発に成功したが2(図1),aplog-1のPKC結合能およびがん細胞増殖抑制活性はDATよりも10倍以上低かった.本研究では,aplog-1をリード化合物としてスピロケタール部位の系統的な構造修飾を行うことにより,DATを凌ぐがん細胞増殖抑制活性を有する誘導体・10-Me-aplog-1を開発した.また,10-Me-aplog-1の大量合成を行い,in vivoでの抗がん活性ならびにin vitroでのがん細胞増殖抑制機構を調べた.

図1 Debromoaplysiatoxinおよびその単純化アナログ

2. Aplog-1の構造最適化

 コンピューターによるドッキングシミュレーションによって,DATのスピロケタール部位のメチル基はPKCとの結合において重要な役割を担っていると予測された.そこで,aplog-1のスピロケタール部位の4,10,12位にDATと同じ立体配置のメチル基を系統的に導入した誘導体を5種類合成し,各種生物活性を評価した.その結果,10位にメチル基を導入した誘導体3種(10-Me-aplog-1,4,10-diMe-aplog-1,10,12-di-Me-aplog-1)がaplog-1よりも10倍以上高いPKC結合能およびがん細胞増殖抑制活性を示した3, 4.続いて,これらの誘導体の発がん促進活性をマウス皮膚二段階発がん試験によって評価した.10-Me-aplog-1ならびに10,12-diMe-aplog-1はDATが発がん促進性を示す量の5倍量を塗布してもまったく腫瘍を発生させなかった.一方で,4,10-diMe-aplog-1は5倍量の塗布によって約半分のマウスに腫瘍を発生させた(図2).また,マウス耳を用いた炎症試験においても,4,10-diMe-aplog-1は他2種の誘導体と比較してやや高い炎症活性を示した(図3).以上の結果より,強力ながん細胞増殖抑制活性を有し,かつ副作用をほとんど示さない10-Me-aplog-1および10,12-diMe-aplog-1が抗がん剤シードとして最適であると考えられた.

3. 10-Me-aplog-1のin vivoにおける抗がん活性評価

 構造最適化された誘導体の一つである10-Me-aplog-1のin vivoにおける抗がん活性を評価する目的で,本化合物の大量合成を試みた.当初はaplog-1の合成法を10-Me-aplog-1の合成にそのまま適用していたが,段階数が多く

図2 新規誘導体のマウス皮膚における発がん促進活性

図3 新規誘導体のマウス耳における炎症活性

大量合成には不適であると考えられたため合成経路の見直しを行った(図4).アルケンからエポキシドへの変換には当初4段階を要していたが,基質制御による不斉エポキシ化反応を適用することによって1段階で変換することに成功した.また,無保護の水酸基存在下にてアルケンを選択的に酸化することにより,保護基の脱着段階を削減した.以上の検討により,当初の合成に要した28段階を23段階まで短縮し,高純度の10-Me-aplog-1を数百mgスケールで合成できた5

 Aplog類に感受性の高い3種のがん細胞株(NCI-H460,HCC2998,HBC-4)をそれぞれヌードマウスに移植し,10-Me-aplog-1を5 mg/kg,1回腹腔内投与したところ,いずれの細胞株に対しても有意な増殖抑制効果が認められた.

4. Aplog類のがん細胞増殖抑制機構の解析

 Aplog類のがん細胞増殖抑制活性に対するPKCアイソザイムの関与を調べることを目的として,PKC結合能をもたない誘導体を複数合成し,39種のヒトがん細胞株に対する増殖抑制活性を評価した.その結果,PKC結合能とaplog感受性株10種に対する増殖抑制活性との間に相関が認められた(表1)6.続いて,フローサイトメトリーを用いて10-Me-aplog-1が細胞周

図4 10-Me-aplog-1の改良合成経路

期に与える影響を調べた.Aplog感受性株の一つである肺がん細胞A549に10-Me-aplog-1を処理したところ,細胞周期がG1期およびG2/M期で停止することが判明した.さらに,PKC阻害剤を前処理した場合,10-Me-aplog-1の細胞周期停止作用は消失した.以上より,10-Me-aplog-1はPKCアイソザイムの活性化を介して細胞周期を停止させることによってaplog感受性株の増殖を抑制していると考えられた.

 10-Me-aplog-1の増殖抑制活性に関与しているPKCアイソザイムを特定する目的で,A549細胞における各PKCアイソザイムの発現量をウエスタンブロッティングにより定量した.その結果,主としてPKCa ならびに d が発現していることが明らかになった.そこで,siRNAによってPKCa の発現をノックダウンしたところ,10-Me-aplog-1による増殖抑制活性は顕著に低下した.一方で,アポトーシス等に関与すると考えられているPKCd のノックダウンは増殖抑制活性にほとんど影響を与えなかった.以上より,10-Me-aplog-1による増殖抑制作用は,主としてPKCa の活性化を介していることが示唆された.

表1 Aplog類のPKC結合能およびがん細胞増殖抑制活性

5. 結 語

 本研究では, aplog-1のがん細胞増殖抑制活性を10倍以上高めた誘導体・10-Me-aplog-1の開発に成功した.本化合物は,移植がんモデルマウスを用いたin vivo試験においても有意な抗がん活性を示した.さらに,aplog類のがん細胞増殖抑制機構の一つとして,PKCa を介した細胞周期停止作用を見いだした.これまで,抗腫瘍性PKCリガンドであるブリオスタチンによる抗がん活性は,主としてPKCd を介したアポトーシスや細胞周期阻害によるものと考えられてきた.したがって,10-Me-aplog-1によるがん細胞増殖抑制活性において,PKCd ではなくPKCa が主要な役割を担っている事実は興味深い.現在,他のaplog感受性株においても同様のメカニズムが働いているかどうかを検討中である.

【謝 辞】

 Debromoaplysiatoxinをご供与いただきました東京海洋大学海洋科学部 永井宏史 教授,慶應義塾大学理工学部 末永聖武 教授に厚く御礼申し上げます.マウス皮膚二段階発がん試験ならびにマウス耳炎症試験を行っていただきました金沢大学医学研究科 徳田春邦 准教授に深謝いたします.

【参考文献】

1) Antal, C. E. et al., Cell 2015, 160, 489.

2) Nakagawa, Y. et al., J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 7573.

3) Kikumori, M. et al., J. Med. Chem. 2012, 55, 5614.

4) Kikumori, M. et al., Biosci. Biotechnol. Biochem. 2016, 80, 221.

5) Kikumori, M. et al., Tetrahedron 2014, 70, 9776.

6) Hanaki, Y. et al., Tetrahedron 2013, 69, 7636.

 
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