天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
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(夢のエイズ薬?)EFdAの創製ー分子設計・合成・米国Merck社の臨床試験結果を中心としてー
大類 洋
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p. Oral31-

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抄録

HIV感染(エイズ)は作用機序が異なる複数の薬を併用するHAARTが開発され致死から臨床的に処置が可能な長期感染症となっている。しかし、現在のHAARTには依然として耐性HIVの発現や、毎日飲まねばならない複数の薬の副作用などの問題点があり、より優れた薬剤の開発が望まれている。

演者は耐性HIVを発現させないヌクレオシド薬の創製を考えている間に、ウイルスが薬剤耐性を獲得する突然変異が抗ウイルス活性修飾ヌクレオシド創製の鍵であることに気付き “抗ウイルス活性修飾ヌクレオシド創製の為の基本概念” を提出した。更に、HAARTの問題点を解決出来る修飾ヌクレオシドの分子設計の為に4つの作業仮説を立てその検証する研究を行い非常に優れた抗HIV活性を持つEFdA(4’-ethynyl-2-fluoro-2’-deoxyadenosine、表1)を創製した1)ので報告させて頂く。

抗ウイルス活性修飾ヌクレオシド創製の為の基本概念2)

ウイルスは突然変異して薬剤耐性を獲得するので“ウイルス感染症の治療は難しい!”と考えられている。しかし、演者は“突然変異は優れた抗ウイルス活性を持つ修飾ヌクレオシド薬創製の為にある事象である”と考えている。即ち、“突然変異とはウイルスがA:T,G:Cのペアリングを無視し設計されていないヌクレオシドを取り込んで遺伝子を変えることである。これはウイルスの核酸合成酵素の基質選択性が非常に甘いことを示している。一方、人はその様なことをしない。これは人の核酸合成酵素の基質選択性が非常に厳格であることを示している。この基質選択性の違いを利用すれば、ウイルスの核酸合成酵素の基質となり(ウイルスに活性)、人の核酸合成酵素の基質とならない(人には低毒性)修飾ヌクレオシドの創製が可能である。”

HAARTの問題点を解決する為の4つの作業仮説1)

① ヌクレオシド薬に耐性HIVを発現させない方法

 図1

現在臨床に用いられている逆転写酵素(RT)阻害ヌクレオシド薬は全て2’,3’-dideoxynunucleoside(ddN)誘導体であり、“ddN構造はヌクレオシドがRTのチェインーターミネーター(CT)になる為に必須である”と考えられていた。しかし、全てのddN薬に短期間で容易に耐性HIVが発現した。演者は“耐性とはHIVがddNを生理的2’-deoxunucleoside(dN)と識別しddNをRTの活性中心に取り込まない能力を獲得したことである”と考えた。dNとddNの構造の違いは3’-OHを持つか否かであるので “HIVは3’-OHの有無で両者を識別している”と考えた。それ故、耐性HIVを発現させない修飾ヌクレオシドは“HIVによってdNと識別されないように3’-OHを持たなければならない、しかも3’-OHを持ちながらRTのCTと成らなければならない”と考えた。

その目的を達成出来るヌクレオシドとして4’-位に置換基を持つ4‘-substituted- 2-deoxynucleoside(4’SdN)を設計した(図1)。その理由は“4’-位に置換基を導入すると3’-OHは反応性が非常に低いネオペンチル型2級水酸基となるのでこのOH基は認識には使えてもRTによるウイルスのDNA鎖延長反応には使えない”と考えた為である。しかし、RTが4’SdNを基質として受け入れて4’SdN

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