天然有機化合物討論会講演要旨集
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(夢のエイズ薬?)EFdAの創製ー分子設計・合成・米国Merck社の臨床試験結果を中心としてー
大類 洋
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p. Oral31-

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(夢のエイズ薬?)EFdAの創製ー分子設計・合成・米国Merck社の臨床試験結果を中心としてー

HIV感染(エイズ)は作用機序が異なる複数の薬を併用するHAARTが開発され致死から臨床的に処置が可能な長期感染症となっている。しかし、現在のHAARTには依然として耐性HIVの発現や、毎日飲まねばならない複数の薬の副作用などの問題点があり、より優れた薬剤の開発が望まれている。

演者は耐性HIVを発現させないヌクレオシド薬の創製を考えている間に、ウイルスが薬剤耐性を獲得する突然変異が抗ウイルス活性修飾ヌクレオシド創製の鍵であることに気付き “抗ウイルス活性修飾ヌクレオシド創製の為の基本概念” を提出した。更に、HAARTの問題点を解決出来る修飾ヌクレオシドの分子設計の為に4つの作業仮説を立てその検証する研究を行い非常に優れた抗HIV活性を持つEFdA(4’-ethynyl-2-fluoro-2’-deoxyadenosine、表1)を創製した1)ので報告させて頂く。

抗ウイルス活性修飾ヌクレオシド創製の為の基本概念2)

ウイルスは突然変異して薬剤耐性を獲得するので“ウイルス感染症の治療は難しい!”と考えられている。しかし、演者は“突然変異は優れた抗ウイルス活性を持つ修飾ヌクレオシド薬創製の為にある事象である”と考えている。即ち、“突然変異とはウイルスがA:T,G:Cのペアリングを無視し設計されていないヌクレオシドを取り込んで遺伝子を変えることである。これはウイルスの核酸合成酵素の基質選択性が非常に甘いことを示している。一方、人はその様なことをしない。これは人の核酸合成酵素の基質選択性が非常に厳格であることを示している。この基質選択性の違いを利用すれば、ウイルスの核酸合成酵素の基質となり(ウイルスに活性)、人の核酸合成酵素の基質とならない(人には低毒性)修飾ヌクレオシドの創製が可能である。”

HAARTの問題点を解決する為の4つの作業仮説1)

① ヌクレオシド薬に耐性HIVを発現させない方法

 図1

現在臨床に用いられている逆転写酵素(RT)阻害ヌクレオシド薬は全て2’,3’-dideoxynunucleoside(ddN)誘導体であり、“ddN構造はヌクレオシドがRTのチェインーターミネーター(CT)になる為に必須である”と考えられていた。しかし、全てのddN薬に短期間で容易に耐性HIVが発現した。演者は“耐性とはHIVがddNを生理的2’-deoxunucleoside(dN)と識別しddNをRTの活性中心に取り込まない能力を獲得したことである”と考えた。dNとddNの構造の違いは3’-OHを持つか否かであるので “HIVは3’-OHの有無で両者を識別している”と考えた。それ故、耐性HIVを発現させない修飾ヌクレオシドは“HIVによってdNと識別されないように3’-OHを持たなければならない、しかも3’-OHを持ちながらRTのCTと成らなければならない”と考えた。

その目的を達成出来るヌクレオシドとして4’-位に置換基を持つ4‘-substituted- 2-deoxynucleoside(4’SdN)を設計した(図1)。その理由は“4’-位に置換基を導入すると3’-OHは反応性が非常に低いネオペンチル型2級水酸基となるのでこのOH基は認識には使えてもRTによるウイルスのDNA鎖延長反応には使えない”と考えた為である。しかし、RTが4’SdNを基質として受け入れて4’SdN

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HIV感染(エイズ)は作用機序が異なる複数の薬を併用するHAARTが開発され致死から臨床的に処置が可能な長期感染症となっている。しかし、現在のHAARTには依然として耐性HIVの発現や、毎日飲まねばならない複数の薬の副作用などの問題点があり、より優れた薬剤の開発が望まれている。

演者は耐性HIVを発現させないヌクレオシド薬の創製を考えている間に、ウイルスが薬剤耐性を獲得する突然変異が抗ウイルス活性修飾ヌクレオシド創製の鍵であることに気付き “抗ウイルス活性修飾ヌクレオシド創製の為の基本概念” を提出した。更に、HAARTの問題点を解決出来る修飾ヌクレオシドの分子設計の為に4つの作業仮説を立てその検証する研究を行い非常に優れた抗HIV活性を持つEFdA(4’-ethynyl-2-fluoro-2’-deoxyadenosine、表1)を創製した1)ので報告させて頂く。

抗ウイルス活性修飾ヌクレオシド創製の為の基本概念2)

ウイルスは突然変異して薬剤耐性を獲得するので“ウイルス感染症の治療は難しい!”と考えられている。しかし、演者は“突然変異は優れた抗ウイルス活性を持つ修飾ヌクレオシド薬創製の為にある事象である”と考えている。即ち、“突然変異とはウイルスがA:T,G:Cのペアリングを無視し設計されていないヌクレオシドを取り込んで遺伝子を変えることである。これはウイルスの核酸合成酵素の基質選択性が非常に甘いことを示している。一方、人はその様なことをしない。これは人の核酸合成酵素の基質選択性が非常に厳格であることを示している。この基質選択性の違いを利用すれば、ウイルスの核酸合成酵素の基質となり(ウイルスに活性)、人の核酸合成酵素の基質とならない(人には低毒性)修飾ヌクレオシドの創製が可能である。

HAARTの問題点を解決する為の4つの作業仮説1)

ヌクレオシド薬に耐性HIVを発現させない方法

 図1

現在臨床に用いられている逆転写酵素(RT)阻害ヌクレオシド薬は全て2’,3’-dideoxynunucleoside(ddN)誘導体であり、“ddN構造はヌクレオシドがRTのチェインーターミネーター(CT)になる為に必須である”と考えられていた。しかし、全てのddN薬に短期間で容易に耐性HIVが発現した。演者は“耐性とはHIVがddNを生理的2’-deoxunucleoside(dN)と識別しddNをRTの活性中心に取り込まない能力を獲得したことである”と考えた。dNとddNの構造の違いは3’-OHを持つか否かであるので “HIVは3’-OHの有無で両者を識別している”と考えた。それ故、耐性HIVを発現させない修飾ヌクレオシドは“HIVによってdNと識別されないように3’-OHを持たなければならない、しかも3’-OHを持ちながらRTのCTと成らなければならない”と考えた。

その目的を達成出来るヌクレオシドとして4’-位に置換基を持つ4‘-substituted- 2-deoxynucleoside(4’SdN)を設計した(図1)。その理由は“4’-位に置換基を導入すると3’-OHは反応性が非常に低いネオペンチル型2級水酸基となるのでこのOH基は認識には使えてもRTによるウイルスのDNA鎖延長反応には使えない”と考えた為である。しかし、RTが4’SdNを基質として受け入れて4’SdNがCTになっても人のDNA-ポリメラーゼも4’SdNを受け入れれば4’SdNは毒性が高いと考えられる。

そこでヌクレオシドの毒性を低減する方法を考えた。

ヌクレオシドの毒性を低減させる方法

多くのヌクレオシド系抗生物質は生理的ヌクレオシドの一箇所が修飾されたものであり高活性であるが毒性も高い。1960~1970年代に有機化学者達はより優れた生物活性を持つヌクレオシドを得ようとしてこれらヌクレオシドの化学修飾を行った。しかし、修飾したヌクレオシドは全て活生を失った。それ故、当時多くの核酸化学者は“ヌクレオシド化学には将来が無い”とヌクレオシド研究から去っていった。しかし、演者は“活性が失われることは毒性も失われることである”と考え、“ヌクレオシドの毒性は更に修飾することによって低減出来る”という仮説を立てた。

RTと人のDNA-ポリメラーゼでは基質選択性が異なる

基本概念からも言えることであるが、有毒であるddNが抗HIV薬として投与量をコントロールして臨床で使われていることからもこの作業仮説を立てた。 

4’SdNのグリコシル結合は酵素及び酸に対して安定であり生体中で長時間活性を持つ

                 

図2

ヌクレオシドのglycolysisはフラノース環酸素が隣接関与して平面構造を持つオキソカルボニウムイオンを形成して進行する。4’-位に置換基をもつ4’SdNは3’-OHと4’-位置換基との立体反発で3’-endo conformationをとる。このコンフォメーションでは環酸素が隣接関与して平面構造を持つオキソカルボニウムイオンをとることが難しいと考えられる。それ故4’SdNは酵素や酸による加水分解に対して安定であり、長時間活性を持つと期待出来る(図2)。

仮説の検証 

(1) 4’SdNCTとなる

4’-位に種々の置換基を持つヌクレオシド類(図3)を合成し抗HIV活性を調べた。その結果ribo体、dd体、d4体は活性を持たないか持っても非常に低くかった。

一方、4’SdNは高い抗HIV活性と毒性を示した。この結果は4’SdNがCTとなることを支持する。ヌクレオシドの生物活性はキナーゼによって5’-OHがどの程度リン酸化されるかによると思われた。

                        

 図3                                               

4’-位の置換基としてはエチニル基、シアノ基、メチル基、エチル基などが優れた抗HIV活性を示した。その中でエチニル基が一番優れていること、プリン体がピリミジン体より優れていることを見出した。

(2) 4’SdNの耐性HIVに対する活性

Wild-type HIVに高い抗HIV活性を示した4’SdNは期待通り耐性HIVに対しても活性を示した。中でも4’-エチニルプリン体が全ての耐性HIVに対して高い活性を示した。これらの結果は耐性HIVを発現させないという作業仮説を支持するものである。

(3) 4’-エチニルプリン誘導体のマウス毒性試験 

4’-エチニル-2’-デオキシグアノシン(EdG)はマウスに対して毒性が高く3mg/kgの投与で全てのマウスが投与日に死亡した。4’-エチニル-2-アミノ-2’-デオキシアデノシン(EAdA)も同様に高い毒性を示した。4’-エチニル-2’-デオキシアデノシン(EdA)は100mg/kgまで毒性を示さなかったので有望に思えた。しかし、本研究中にアデニン誘導体はマウス体内のアデノシンデアミナーゼで容易にデアミネーションを受け、EdAは活性が低いイノシン体(EdI)に、EAdAは毒性の高いEdGに変換されることが分った。

(4) アデノシンデアミナーゼで脱アミノ化されないEdA誘導体の創製

アデニン塩基の2-位にハロゲンを導入するとアデノシンデアミナーゼの作用を受け難くなることが知られている3)。そこでEdAの2-位にフッ素原子を導入した4’-ethynyl-2-fluoro-2’-deoxyadenosine(EFdA)を合成した。EFdAは期待通りアデノシンデアミナーゼに対して安定であった。EFdAは2箇所修飾されているので毒性が低いと期待される。

4’SdN3’-OHは毒性の原因であるから4’SdNはダメという論文の出現

原口らは3’-OHを持たない4’-ethynyl-2’,3’-didehydrodideoxythymidine (Ed4T) の優れた生物活性に基づいて3’-OHは毒性の原因であるから3’-OHを持つ4’SdNはダメであろうとの論文を提出した4)。また、Siddiquiらは抗HIV活性を持たない4’-ethynyl-2’,3’-dideoxycytidineの5’-O-トリ燐酸体を合成しそれがWild-type HIVのRTに対して高い抗HIV活性を持つことから、4’SdNの3’-OHは5’-OHのリン酸化を促進するが毒性の原因であるので4’SdNはダメであろうとの論文を提出している5)。しかし、演者の研究では耐性HIVを発現させない為には3’-OHが重要(必須)であるのでそのまま研究を進めた。

 

EFdAの抗HIV活性と毒性

原口らのEd4Tの研究に刺激されてEFdAの3’-OHを持たない誘導体、EFddA、EFd4A、更にFの代わりにClを持つ4’-ethynyl-2-chloro-2’-deoxy adenosine(ECldA) を合成しEFdAと共に抗HIV活性を調べた(表1)1)

      

                           表1

3’-OHを持たないEFddAとEFd4A及びEd4TはWild-type HIVに対して高い活性を

持つが耐性HIVに対しては活性が低かった。一方、3’-OHを持つEFdA, ECldAは全てのHIVに対して非常に高い抗HIV活性を示し且つ非常に高い選択性指数(SI=CC50/IC50,100,000以上)を示した。

この結果は3’-OHが耐性HIVに対する活性にも重要であり、且つ3’-OHを持っていても毒性を低くすることが出来ることを示している。1)

EFdAに耐性HIVが発現するか?

満屋先生のグループはこの10数年EFdAに耐性HIVが発現するかを研究しているが耐性HIVは発現していない6)

4’-エチニル基はRTに特別の親和性を持つ

Yangら7)及びMichailidisら8)はX-線結晶回折で4’-エチニル基がRTのアミノ酸残基が作る疎水性の穴にピッタリ填まり込みRTと接合することを証明した。更にMichailidisらは、EFdAはエチニル基と水酸基の両方でRTと非常に強く結合するのでDNA合成の為に必要なtranslocationをすることが出来ないので非常に高い抗HIV活性を持つことを明らかにし、EFdAをTranslocation-Defective RT inhibitor と称している8)

以上、全ての作業仮説の妥当性が証明され、1)耐性HIVを発現させない、2)AZTの400倍以上、他の臨床薬の数万倍の活性を持つ、3)毒性が低い、4)生体中で安定であり長時間活性を持つ非常に優れた抗HIV修飾ヌクレオシドEFdAを創製した。

Merck社による初期臨床試験結果

EFdAは現在Merck & CoがMK-8591として臨床試験中である。CROI,2016でそのphase 1, phase 1bの結果が発表された。報告に依るとEFdAは経口,非経口でも速やかに吸収され活性本体の5’-O-トリ燐酸(TP)に変換される。TPはプラズマ中安定であり10mg一度の投与で10日間以上活性を示す。副作用は少なく、更に臨床試験を勧めるとのことであった。

合成

演者らは新アルドール反応を用いたEFdAの効率の良い合成法を開発している9)

謝辞

満屋弘明先生、馬場昌範先生、実吉峯夫先生、桑原重文先生に感謝申し上げます。

[文献]

1) Ohrui, H., Proc. Jpn. Acad., Ser. B87, 2011, 53-65.

2) Ohrui, H., “A NEW PARADIGM for DEVeloping ANTIVIRAL DRUGS “

LAP LAMBERT Academic Publishing. 2014.

3) Montgomery, J. A., Hewson, K. J. Med. Chem., 12, 1969, 498-504.

4) Haraguchi, K., Takeda, S., Tanaka, H., Nitanda, T., Baba, M., Dutshman, G. E., Cheng, Y-C, Bioorg. Med. Chem. Lett., 13, 2003, 3775-3777.

5) Siddiqui, M., Hughes, S., Boyer, P. L., Mitsuya, H., Van, Q. N., George, C,. Sarafianos, S. G. ,Marquez, V. E. A., J. Med. Chem.,14, 2004, 5041-5048.

6) Maeda, K., Desai, D. V., Aoki, M., Nakata, H., Kodama, E., Mitsuya, H., Antiviral Therapy, 19, 2014 179-189.

7) Yang, G., Wang, J., Cheng, Y., Dutchman, G. E., Tanaka, H., Baba, M., Cheng, Y-C., Antimicrob. Agents Chemother., 52, 2008, 2035-2042.

8) Michailidis, E., Marchand, B., Kodama, E., Sihgh, k., Matsuoka, M., Kirby, K. A., ryan, E. M, Sawani, A. M., Nagy, E., Mitsuya, H., Parmiak, M. A., Sarafianos, S. G., J. Biol. Chem., 18, 2009, 35681-35691.

9) Fukuyama, K., Ohrui, H., Kuwahara, S., Org. Lett., 17, 2015, 828-831.

 
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