天然有機化合物討論会講演要旨集
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アンチマイシン生合成マシナリーの解明と多様性指向型合成生物学
張 驪駻閻 岩森 貴裕淡川 孝義劉 文阿部 郁朗
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p. Oral33-

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アンチマイシン生合成マシナリーの解明と多様性指向型合成生物学

 アンチマイシンは9員環ジラクトン骨格を持ち、強力な電子伝達系阻害活性を有する抗生物質であるが、近年Bcl2蛋白に結合しアポトーシスを誘導させることや活性酸素種を放出させることなど様々な生物活性が報告され、抗真菌活性、細胞毒性を持つ機能性分子として注目されている1)。生理活性に加えその特徴的な構造から、アンチマイシンの全合成は数多く試みられているが2)、C7–9位の立体制御とマクロラクトン化が困難であるため、天然においてC7位およびC8位側鎖に多様性が見られるアンチマイシン類の網羅的全合成は未だ達成されていない。また、ホルムアミドサリチル酸(FSA)部分やC7位の多様なアルキル側鎖の由来などは生合成的知見から興味が持たれる。今回我々は、アンチマイシン生合成経路の解明と多様性指向型生合成エンジニアリングを達成したのでここに報告する。

1.生合成経路の解明

 始めに、アンチマイシン産生株である放線菌Streptomyces sp. NRRL2288株およびS. blastmyceticus NBRC12747株のゲノムシーケンスより非リボソーマルペプチド合成酵素(NRPS)、ポリケタイド合成酵素(PKS)遺伝子を含む生合成遺伝子クラスターを見出し、PKS遺伝子破壊株におけるアンチマイシン産生が消失したことから、本クラスターがアンチマイシン生合成を担うことを同定した。クラスター内の遺伝子を分析した結果、トリプトファンの酸化反応により供給されたFSAがNRPSと

PKSによる伸長反応を経たのちにマクロラクトン化し、アシル化修飾を受けることでアンチマイシンが生成されると推定した(図1)。次いで、FSA部分の生合成を解明すべく、6-フルオロトリプトファンの培地添加による取り込みを行ったところ、5’-フルオロアンチマイシンを発酵生産により得ることができた3)。このことから、FSA部分の生合成ではエポキシ化を経たカルボニル基の1,2-転位を経ていることが示唆され(図2)、同時期に行われたHutchings, Spiteller, Zhangらの生合成遺伝子および生合成経路の報告4)と一致する結果を得た。

2.生合成マシナリーを利用した構造多様化

 次に、我々はアンチマイシンのC7位側鎖がポリケタイド生合成経路から構成されている点に注目した。既知のアンチマイシン類はジラクトン骨格のC7位に様々な炭素数のアルキル基を有することが知られており、クロトニルCoA炭酸化酵素AntEにより供給された様々なアルキルマロニルCoAが伸長基質としてPKSに取り込まれることで構造多様性が生み出されることが推定された。従って、この経路における酵素の基質特異性は寛容であることが予想されるため、非天然前駆体を培地に添加した発酵生産による、天然物を超えた炭素骨格の構造多様化を目指した。

 まず、アンチマイシン骨格の効率的な生産のため、基質特異性の低いアシル基転移酵素AntBの破壊株を作成し、C8-deacylantimycinを産生する変異株を取得した。本株に種々のカルボン酸基質を投与した結果、カルボン酸が一次代謝を受けたのちにC7位に効率的に取り込まれることが確認され、シクロアルカンやアルキン、ハロゲンなど多

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 アンチマイシンは9員環ジラクトン骨格を持ち、強力な電子伝達系阻害活性を有する抗生物質であるが、近年Bcl2蛋白に結合しアポトーシスを誘導させることや活性酸素種を放出させることなど様々な生物活性が報告され、抗真菌活性、細胞毒性を持つ機能性分子として注目されている1)。生理活性に加えその特徴的な構造から、アンチマイシンの全合成は数多く試みられているが2)、C7–9位の立体制御とマクロラクトン化が困難であるため、天然においてC7位およびC8位側鎖に多様性が見られるアンチマイシン類の網羅的全合成は未だ達成されていない。また、ホルムアミドサリチル酸(FSA)部分やC7位の多様なアルキル側鎖の由来などは生合成的知見から興味が持たれる。今回我々は、アンチマイシン生合成経路の解明と多様性指向型生合成エンジニアリングを達成したのでここに報告する。

1.生合成経路の解明

 始めに、アンチマイシン産生株である放線菌Streptomyces sp. NRRL2288株およびS. blastmyceticus NBRC12747株のゲノムシーケンスより非リボソーマルペプチド合成酵素(NRPS)、ポリケタイド合成酵素(PKS)遺伝子を含む生合成遺伝子クラスターを見出し、PKS遺伝子破壊株におけるアンチマイシン産生が消失したことから、本クラスターがアンチマイシン生合成を担うことを同定した。クラスター内の遺伝子を分析した結果、トリプトファンの酸化反応により供給されたFSAがNRPSと

PKSによる伸長反応を経たのちにマクロラクトン化し、アシル化修飾を受けることでアンチマイシンが生成されると推定した(図1)。次いで、FSA部分の生合成を解明すべく、6-フルオロトリプトファンの培地添加による取り込みを行ったところ、5’-フルオロアンチマイシンを発酵生産により得ることができた3)。このことから、FSA部分の生合成ではエポキシ化を経たカルボニル基の1,2-転位を経ていることが示唆され(図2)、同時期に行われたHutchings, Spiteller, Zhangらの生合成遺伝子および生合成経路の報告4)と一致する結果を得た。

2.生合成マシナリーを利用した構造多様化

 次に、我々はアンチマイシンのC7位側鎖がポリケタイド生合成経路から構成されている点に注目した。既知のアンチマイシン類はジラクトン骨格のC7位に様々な炭素数のアルキル基を有することが知られており、クロトニルCoA炭酸化酵素AntEにより供給された様々なアルキルマロニルCoAが伸長基質としてPKSに取り込まれることで構造多様性が生み出されることが推定された。従って、この経路における酵素の基質特異性は寛容であることが予想されるため、非天然前駆体を培地に添加した発酵生産による、天然物を超えた炭素骨格の構造多様化を目指した。

 まず、アンチマイシン骨格の効率的な生産のため、基質特異性の低いアシル基転移酵素AntBの破壊株を作成し、C8-deacylantimycinを産生する変異株を取得した。本株に種々のカルボン酸基質を投与した結果、カルボン酸が一次代謝を受けたのちにC7位に効率的に取り込まれることが確認され、シクロアルカンやアルキン、ハロゲンなど多様な官能基に置換された非天然型のdeacylantimycinの発酵生産に成功した。加えて、得られた各々のC8-deacylantimycinに対し、AntBによるアシル化修飾反応をin vitroにて掛け合わせることで、300以上の新規アンチマイシン類縁体を創出し、多様性指向型生合成(図3)を達成した5)。ポリケタイド生合成では一般に(メチル)マロニルCoAしか伸長基質として利用されず、骨格の構成単位に天然および非天然基質を合わせて10以上もの異なる伸長基質が取り込まれたことは他に例を見ず特筆に値する。

3.生合成酵素の合理的改変による構造多様化

 次に我々はPKSの伸長基質の供給を担う鍵酵素AntEに着目し、その機能解析を行った。AntEはクロトニルCoA炭酸化酵素(CCR)に属し、a,b-不飽和CoA基質のa位への還元的炭酸化を触媒する。始めにAntEを大腸菌を用いて発現精製した後、結晶化を行い、X線構造解析の結果、分解能1.5 Åにて結晶構造を取得した6)。基質の結合ポケットを構成するアミノ酸を既知CCR(CinF)と比較した結果NADP+やCO2の結合部位はよく保存されている一方で、1) Ala182により広いキャビティが確

保されている、2) Val350がキャビティの大きさを制限していることが判明した(図4)。これらのアミノ酸の触媒機能への影響を調べるため各種変異体を作成しin vitro機能解析を行ったところ、1) Ala182Leu変異体ではクロトニルCoA(C4)のみを受け入れ、また副反応であるa,b-還元反応が消失し、a位の炭酸化のみが進行する一方、Ala182Gly変異体では逆に炭酸化能が消失し還元反応のみを触媒する、2) Val350Gly変異体は野生型酵素では受け入れられないフェノールやトリプトファン置換型基質を含む種々の基質の炭酸化を触媒することが判明した7)。Ala182Leu変異体で反応選択性が変化した理由としては嵩高いロイシン側鎖により活性中心への水分子の侵入がブロックされることで二酸化炭素への求核付加反応が選択的に進行することが示唆された。

 続いてポリケタイド産生への寄与を示すべく、AntE V350Gを上述のAntB破壊株に導入し、種々の前駆体基質を培地添加し発酵生産を行ったところ、ヘテロ環や置換芳香環基質も受け入れ、それらを含む炭素骨格を有する新規アンチマイシンの生合成生産に成功した7)(図5)。

4.新規化合物群の活性評価

 得られた新規化合物群を用いてCandida albicansに対する抗真菌活性およびマウスP388細胞に対する細胞毒性試験を行った結果、フッ素置換アンチマイシンは未置換の天然型アンチマイシンと比べて抗菌活性を保ちつつ細胞毒性が1/7に低下した。またC8位水酸基のアシル化は抗真菌活性および細胞毒性を1000倍以上向上させ活性に必須であった。加えて、C7位、C8位ともにアルキル基が長いほど細胞毒性が向上するが、抗真菌活性の変化は小さいことが明らかとなり3),5)、細胞毒性の発現と脂溶性増加の正の相関が示唆された。

5.まとめ

 以上の結果より、我々はアンチマイシン生合成経路の解明と生合成マシナリーを用いた天然物の構造多様化に取り組み、開始基質、伸長基質、修飾反応の全てにおいて構造変換に成功し、基質特異性の寛容な生合成酵素を利用するのみならず、触媒機構の理解とリデザインにより生合成マシナリーの人為的な機能拡張を達成した。ポリケタイド類はエバーメクチンなど顕著な活性を示す創薬資源を含み、構造多様性に富んだ化合物群であるが、特に伸長基質の生合成の構成単位は限られている。それ故、マロニルCoA以外の多様な構成単位を伸長反応に組み込むことができればポリケタイドの構造多様性を一層、飛躍的に高められることが予想され、生合成工学による新規物質創出に貢献できる。本研究で同定されたAntEとその変異体は、PKSに非天然型の伸長基質を供給可能である点でユニークであり、PKSはその触媒反応では脱炭酸を伴うクライゼン縮合を普遍的に用いることから、AntEにより生み出された置換マロニルCoAはアンチマイシン以外のPKSにも広く応用されうることが期待される。

謝辞

 放線菌S. blastmyceticusのドラフトゲノム分析を徳島文理大学の浅川義範教授および伊藤卓也准教授にご協力いただきましたことを深く感謝いたします。

参考文献

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7). Zhang, L., Mori, T., Zheng, Q., Awakawa, T., Yan, Y., Liu, W., & Abe, I. Angew. Chem. Int. Ed., 2015, 54, 13462–13465.

 
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