天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
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Fumagillin-pseurotin生合成系における構造多様性創出を担う酵素群の機能解析
恒松 雄太山本 剛福冨 愛実岸本 真治Lin Hsiao-ChingTang Yi渡辺 賢二
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p. Oral34-

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抄録

1. 研究背景

 がん化した細胞が増殖し、サイズの大きながん組織になるには血液からの酸素と栄養の供給が必要となり、そのためにがんは血管新生を誘導する。続いて新生した血管を通じて浸潤や転移が誘発され、がんの悪性化が加速される。故に、血管新生を阻害するがん治療戦略が考案され、いくつかの分子標的薬が成功を収めてきた。糸状菌Aspergillus fumigatusは化学構造の全く異なる2種類の血管新生阻害剤、fumagillin (1)およびpseurotin類を生産する。これまでに1の合成誘導体TNP-470について抗がん剤としての臨床開発研究が行われていたが、その副作用や薬物動態の悪さのために現在では開発が中止されている。我々は、依然として医薬品リードとして重要な1について、生合成遺伝子および生合成経路が未解明であったこと、遺伝子工学的手法を用いて非天然型誘導体を創出することで新たな医薬品候補を世に提供できると考え、その生合成研究に着手した。

2. Fumagillin-pseurotin複合型生合成遺伝子クラスターの発見

 その化学構造より、1はテルペン骨格とポリケタイド骨格から構成されていると推測された。そこでA. fumigatusゲノム中よりテルペン環化酵素、ポリケタイド合成酵素を含む遺伝子クラスターを探索したところ、第8番染色体上にこれらの条件を満たすクラスターが確認された。続いて本領域に含まれるテルペン環化酵素の遺伝子破壊株Dfma-TC株を構築した。その代謝産物をLC-MSにて解析したところ、1の生産消失が認められた。以上の実験から、1の生合成遺伝子クラスターを同定することに成功した。興味深いことに、fma-TCは全く別の二次代謝産物pseurotin A (2)生合成に必須な遺伝子psoA1のすぐ近傍の約2.5 kb離れた位置に存在していた。

図1. Fumagillin-pseurotin生合成遺伝子クラスター

 続いて、1の生合成経路解明を目指した。1の生合成遺伝子クラスターに存在する約15種の酵素遺伝子について、それぞれの遺伝子破壊株を作製した。その結果、8種の遺伝子破壊株において1の生産が失われ、これらの遺伝子が1の生合成に必須であることが示唆された。一方、別の2種の遺伝子破壊株(DpsoF, DpsoG)では、1の生産に変化は認められなかったものの、予想外なことに2の生産が消失していた。さらに転写因子遺伝子fapR破壊株においては、1と2が共に生産されていなかった。以上の結果から、染色体上の本領域において1と2の生合成に必須な遺伝子が互いに交じり合って存在していること、加えて、一つの転写因子FapRにより各化合物の生合成が統一的に制御されていることが示唆された。そこで、当初2の生合成遺伝子として推定されていた計6種の遺伝子(psoAを含む) 1についても同様に遺伝子破壊を行い、うち4種の遺伝子が2の生合成に必須であることを実験的に確認した。以上、全く別の化学構造を持つ1および2が、約20種の酵素遺伝子から構成される一つの巨大クラスターによって生合成されると決定した2(図1)。

3. fumagillin生合成経路の解明

2013年、上述した我々の研究とは独立してTangらは1の生合成遺伝子を同定し、テルペン環化酵素Fma-TCが1のテルペン骨格の前駆体で

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© 2016 天然有機化合物討論会電子化委員会
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