天然有機化合物討論会講演要旨集
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Fumagillin-pseurotin生合成系における構造多様性創出を担う酵素群の機能解析
恒松 雄太山本 剛福冨 愛実岸本 真治Lin Hsiao-ChingTang Yi渡辺 賢二
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p. Oral34-

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Fumagillin-pseurotin生合成系における構造多様性創出を担う酵素群の機能解析

1. 研究背景

 がん化した細胞が増殖し、サイズの大きながん組織になるには血液からの酸素と栄養の供給が必要となり、そのためにがんは血管新生を誘導する。続いて新生した血管を通じて浸潤や転移が誘発され、がんの悪性化が加速される。故に、血管新生を阻害するがん治療戦略が考案され、いくつかの分子標的薬が成功を収めてきた。糸状菌Aspergillus fumigatusは化学構造の全く異なる2種類の血管新生阻害剤、fumagillin (1)およびpseurotin類を生産する。これまでに1の合成誘導体TNP-470について抗がん剤としての臨床開発研究が行われていたが、その副作用や薬物動態の悪さのために現在では開発が中止されている。我々は、依然として医薬品リードとして重要な1について、生合成遺伝子および生合成経路が未解明であったこと、遺伝子工学的手法を用いて非天然型誘導体を創出することで新たな医薬品候補を世に提供できると考え、その生合成研究に着手した。

2. Fumagillin-pseurotin複合型生合成遺伝子クラスターの発見

 その化学構造より、1はテルペン骨格とポリケタイド骨格から構成されていると推測された。そこでA. fumigatusゲノム中よりテルペン環化酵素、ポリケタイド合成酵素を含む遺伝子クラスターを探索したところ、第8番染色体上にこれらの条件を満たすクラスターが確認された。続いて本領域に含まれるテルペン環化酵素の遺伝子破壊株Dfma-TC株を構築した。その代謝産物をLC-MSにて解析したところ、1の生産消失が認められた。以上の実験から、1の生合成遺伝子クラスターを同定することに成功した。興味深いことに、fma-TCは全く別の二次代謝産物pseurotin A (2)生合成に必須な遺伝子psoA1のすぐ近傍の約2.5 kb離れた位置に存在していた。

図1. Fumagillin-pseurotin生合成遺伝子クラスター

 続いて、1の生合成経路解明を目指した。1の生合成遺伝子クラスターに存在する約15種の酵素遺伝子について、それぞれの遺伝子破壊株を作製した。その結果、8種の遺伝子破壊株において1の生産が失われ、これらの遺伝子が1の生合成に必須であることが示唆された。一方、別の2種の遺伝子破壊株(DpsoF, DpsoG)では、1の生産に変化は認められなかったものの、予想外なことに2の生産が消失していた。さらに転写因子遺伝子fapR破壊株においては、1と2が共に生産されていなかった。以上の結果から、染色体上の本領域において1と2の生合成に必須な遺伝子が互いに交じり合って存在していること、加えて、一つの転写因子FapRにより各化合物の生合成が統一的に制御されていることが示唆された。そこで、当初2の生合成遺伝子として推定されていた計6種の遺伝子(psoAを含む) 1についても同様に遺伝子破壊を行い、うち4種の遺伝子が2の生合成に必須であることを実験的に確認した。以上、全く別の化学構造を持つ1および2が、約20種の酵素遺伝子から構成される一つの巨大クラスターによって生合成されると決定した2(図1)。

3. fumagillin生合成経路の解明

2013年、上述した我々の研究とは独立してTangらは1の生合成遺伝子を同定し、テルペン環化酵素Fma-TCが1のテルペン骨格の前駆体で

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1. 研究背景

 がん化した細胞が増殖し、サイズの大きながん組織になるには血液からの酸素と栄養の供給が必要となり、そのためにがんは血管新生を誘導する。続いて新生した血管を通じて浸潤や転移が誘発され、がんの悪性化が加速される。故に、血管新生を阻害するがん治療戦略が考案され、いくつかの分子標的薬が成功を収めてきた。糸状菌Aspergillus fumigatusは化学構造の全く異なる2種類の血管新生阻害剤、fumagillin (1)およびpseurotin類を生産する。これまでに1の合成誘導体TNP-470について抗がん剤としての臨床開発研究が行われていたが、その副作用や薬物動態の悪さのために現在では開発が中止されている。我々は、依然として医薬品リードとして重要な1について、生合成遺伝子および生合成経路が未解明であったこと、遺伝子工学的手法を用いて非天然型誘導体を創出することで新たな医薬品候補を世に提供できると考え、その生合成研究に着手した。

2. Fumagillin-pseurotin複合型生合成遺伝子クラスターの発見

 その化学構造より、1はテルペン骨格とポリケタイド骨格から構成されていると推測された。そこでA. fumigatusゲノム中よりテルペン環化酵素、ポリケタイド合成酵素を含む遺伝子クラスターを探索したところ、第8番染色体上にこれらの条件を満たすクラスターが確認された。続いて本領域に含まれるテルペン環化酵素の遺伝子破壊株Dfma-TC株を構築した。その代謝産物をLC-MSにて解析したところ、1の生産消失が認められた。以上の実験から、1の生合成遺伝子クラスターを同定することに成功した。興味深いことに、fma-TCは全く別の二次代謝産物pseurotin A (2)生合成に必須な遺伝子psoA1のすぐ近傍の約2.5 kb離れた位置に存在していた。

図1. Fumagillin-pseurotin生合成遺伝子クラスター

 続いて、1の生合成経路解明を目指した。1の生合成遺伝子クラスターに存在する約15種の酵素遺伝子について、それぞれの遺伝子破壊株を作製した。その結果、8種の遺伝子破壊株において1の生産が失われ、これらの遺伝子が1の生合成に必須であることが示唆された。一方、別の2種の遺伝子破壊株(DpsoF, DpsoG)では、1の生産に変化は認められなかったものの、予想外なことに2の生産が消失していた。さらに転写因子遺伝子fapR破壊株においては、12が共に生産されていなかった。以上の結果から、染色体上の本領域において12の生合成に必須な遺伝子が互いに交じり合って存在していること、加えて、一つの転写因子FapRにより各化合物の生合成が統一的に制御されていることが示唆された。そこで、当初2の生合成遺伝子として推定されていた計6種の遺伝子(psoAを含む) 1についても同様に遺伝子破壊を行い、うち4種の遺伝子が2の生合成に必須であることを実験的に確認した。以上、全く別の化学構造を持つ1および2が、約20種の酵素遺伝子から構成される一つの巨大クラスターによって生合成されると決定した2(図1)。

3. fumagillin生合成経路の解明

2013年、上述した我々の研究とは独立してTangらは1の生合成遺伝子を同定し、テルペン環化酵素Fma-TCが1のテルペン骨格の前駆体であるb-trans-bergamotene (3)の合成を触媒することを報告した3。同様な解析を行っていた我々は、1の生合成の完全解明を目指してTangらとの共同研究を開始した。1のテルペン部分はその生合成中間体である3と比較すると、高度に酸素官能基化されていることがわかる(図2)。すなわち、3よりfumagillol (7)に至る経路においては数段階の酸化反応が行われていると推測された。本クラスターには酸化酵素として、a-ケトグルタル酸依存型ジオキシゲナーゼFma-C6HおよびシトクロムP450であるFma-P450が含まれていたため、まずはこれら遺伝子破壊株の代謝産物解析を行った。

 Dfma-C6H株からはLC-MSにおいてm/z 429を示す代謝産物の生産が認められた。本物質を精製し、NMRスペクトル解析によりその化学構造を6-demethoxyfumagillin (8)と決定した。同様に、Dfma-MT株からは6-demethylfumagillin (9)を単離・構造決定した。よって、1の6位メトキシ基はFma-C6Hによる酸化、Fma-MTによるメチル化により形成されると考えられた。そこで大腸菌を用いて調製したFma-C6H

図2. Fumagillin生合成経路

酵素について、8を基質にin vitro反応を試みたが、この場合、変換は全く認められなかった。そこで、この酸化反応がポリエン鎖付加前に起こると予想し、8をアルカリ加水分解して得た6-demethoxyfumagillol (5)を基質として反応させたところ、速やかに生成物として6-demethylfumagillol (6)を与えた。なお、Fma-C6HとFma-MTの共存下において57へと変換されることも確認した。

 Dfma-P450株においては1が生産されず、一方で3の生産が検出された。A. fumigatus野生株における3の生産量は検出限界以下であることから、Fma-P450酵素損失に伴い3が蓄積していると予測され、3がFma-P450の基質であることが示唆された。出芽酵母Saccharomyces cerevisiae異種発現系を用いて調製したFma-P450酵素に対し基質として3を加えたところ、5-epi-demethoxyfumagillol (10)の生成が認められた。ところがその5位水酸基は天然物1とは逆の立体配置(S配置)を有しており、10Dfma-TC株培養系に添加しても1の生合成能の回復が認められなかったことから、10は生合成中間体ではないことが示唆された。その推定反応機構からFma-P450の真の産物はケトン体4であり、10は出芽酵母内在性の酵素により立体選択的に還元され生成したと考えられた。我々は、1の生合成経路においてはFma-KRが4の5位ケトンを立体選択的(R配置)に還元すると推測した。Fma-KRは一般的なPKSに含まれるDH-KRドメイン領域に相同性を示す、不完全なPKS様酵素である。本遺伝子破壊株Dfma-KRにおいては1の生産量が極端に減少したことから、本遺伝子は偽遺伝子などではなく、確かに機能を持つことが示唆された。そこで、異種発現により調製したFma-KRタンパク質について、4を添加したところ、予想通り5の生成が確認された。以上、生合成初期段階において、3を基質としてFma-P450、Fma-KR、Fma-C6H、Fma-MTの4つの酵素により7が形成されることを証明した。特にFma-P450は複数回の酸化反応を触媒する性質を持つ上で興味深い。その反応機構として、(i) 3の5位水素の引き抜きと続く水酸化、(ii) 9位水素の引き抜きに基づくbicyclo[3.1.1]構造のラジカル的開裂、及び続く5位水酸化と8,9位のオレフィン形成、(iii) 8,9位へのエポキシ化、(iv) 1,2位へのエポキシ化、という連続的な変換反応を触媒することが示唆された4 (図3)。

図3. Fma-P450による連続的酸化反応の推定反応機構

 ところでTangらは、1のポリケタイド部分がdodecapentaenoateに由来し、これがFma-PKSにより合成されること、アシル基転移酵素Fma-ATによって7の5位にアシル化されることを報告している。一方、1の生合成のためにはdodecapentaenoate部分の炭素-炭素二重結合が開裂する必要があり、本反応を司る酵素が存在すると予測された。Fma-ABMはDUF4188と定義された機能不明ドメインを持つタンパク質とアノテーションされており、当初その機能予測が困難であった。その遺伝子破壊株Dfma-ABM株からはm/z 455を示す化合物が検出され、その化学構造をprefumagillin (11)、すなわち二重結合開裂前の中間体であると決定した。そこでfma-ABMを出芽酵母にて発現させ、基質として11を添加したところ1への変換が認められた。以上の実験からFma-ABMが1の生合成の最終段階、ポリケタイド鎖二重結合の位置選択的開裂反応を触媒することを証明した4 (図2)。

4. pseurotin類生合成経路の解明

 2やその類縁体であるazaspirene (12) 5、synerazol (15) 6もまた血管新生阻害活性を示すことが知られており、これらは1とは全く異なるファーマコフォアを持つことから医薬品リード候補としてまた重要である。加えて2の化学構造中にはスピロ環構造が含まれ、このような立体的に複雑な化学構造が如何にして構築されるのか未解明であったことから、その生合成研究に着手した。

 PsoFはそのN末端領域にフラビン依存型酸化酵素(FMO)ドメインを、C末端領域にはメチル基転移酵素(MT)ドメインを有すことから他に類を見ない二機能性酵素であると推測された。DpsoF株においては2の生産が消失し、その代わりに化合物16が極僅かながら生産された。16の構造は15と比較して、10,11位のエポキシ基、3位メチル基が欠如していたことから、PsoFがこれらの官能基を形成する機能を持つことが予測された。PsoFのMTドメインは一般的なO-メチル基転移酵素よりもむしろPKS中に含まれるMTドメインに高い相同性を示した。つまり、その機能は伸長中のポリケタイド鎖に対するC-メチル化であると予測された。そこでポリケタイド鎖伸長途中の基質ミミックを合成し酵素反応に供したところ、予想通りPsoF依存的なC-メチル化反応が観測された。このC-メチル化はPsoA酵素反応におけるPKSモジュールからNRPSモジュールへのアシル基転移に重要な役割を担っていた。すなわちPsoFが反復型PKS(PsoA)におけるマロニルCoAの縮合回数の正確性を規定するゲートキーパーとして機能していることが強く示唆された7,8

図4. Pseurotin類の生合成経路

 一方、PsoFのFMOドメインは15の10,11位のエポキシ環形成に関与すると考えられた。そこで別途DpsoE株から獲得したpresynerazol (14)について、組み換えPsoFタンパク質による酵素反応に供したところ、確かに10,11位オレフィンに対するエポキシ化が確認された。しかし、本酵素反応の生成物は天然物2ではなく、その12,13位二重結合がトランス体である17であった。17A. fumigatus野生株からは全く検出されない化合物であったが、DpsoE株において多量に生産されていた。

以上のことから、グルタチオン転移酵素PsoEが二重結合の異性化に関与すると推

図5. PsoEとPsoFによるグルタチオン依存的な酸化的二重結合の異性化

測された。そこで実際に基質14に対してPsoE及びPsoFを共処理したところ、生成物として15および2を選択的に与えた。詳細な検討の結果、本反応の進行には触媒量の還元型グルタチオン(GSH)が必須であること、PsoFを反応系中に加えなければ異性化は全く進行しないことが判明した。次にその反応の詳細を解明することを目指し、PsoEタンパク質のX線結晶構造解析に着手した。その結果、PsoE-14-GSHの三者複合体の結晶構造を2.5 Aの分解能にて得ることに成功した。結晶構造中のPsoEタンパク質内部において、基質14はその13位炭素とGSHが共有結合を形成していた。PsoF非存在下においては14の異性化が起こらないことを加味すると、本反応において(i) PsoEによる14の13位へのGSH共役付加、(ii) PsoFによるGSH由来硫黄原子の酸化(スルホキシド生成)、(iii) スルホキシドのsyn脱離によるシス型オレフィンの形成、(iv) PsoFによる10,11位オレフィンのエポキシ化、という過程を経て15が形成されていると考えられた9

6. 結論

 本研究にて血管新生阻害剤fumagillinとpseurotin類の生合成経路、ならびに興味深い変換反応を司る酵素機能を解明することに成功した。同時に、多種多様な類縁体を一網打尽に獲得することに成功しており、今後これらを用いた創薬研究を展開する予定である。

[謝辞]

PsoEタンパク質のX線結晶構造解析において静岡県立大学薬学部、橋本博教授、原幸大助教に、PsoEおよびPsoFタンパク質のMALDI-TOF MS測定において静岡大学農学部、河岸洋和教授、鈴木智大博士(現:宇都宮大学農学部)にご協力頂きました。深謝致します。

[参考文献]

1) Maiya, S. et al. ChemBioChem 2007, 8, 1736., 2) 我々と独立して同様の成果が報告された。Wiemann, P. et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2013, 110, 17065., 3) Lin, H.-C. et al. J. Am. Chem. Soc. 2013, 135, 4616., 4) Lin, H.-C. et al. J. Am. Chem. Soc. 2014, 136, 4426., 5) Asami, Y. et al. Org. Lett. 2002, 4, 2845., 6) 浅見行弘博士(北里大学), 私信, 7) Tsunematsu, Y. et al. Angew. Chem. Int. Ed. 2014, 53, 8475. , 8) Zou, Y. et al. Org. Lett. 2014, 16, 6390., 9) Yamamoto, T. et al. Angew. Chem. Int. Ed. 2016, 55, 6207.

 
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