天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
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カルボニルメチレン構造を持つシュードトリペプチド(ケトメミシン)の発見と酵素的全合成
小笠原 泰志川田 純平野池 基義藤盛 道子佐藤 康治降旗 一夫大利 徹
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p. Oral35-

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カルボニルメチレン構造を持つシュードトリペプチド(ケトメミシン)の発見と酵素的全合成

【背景と目的】 我々は放線菌が生産するペプチド系抗生物質、フェガノマイシン(1)の生合成に関与する新規ペプチドライゲース(PGM1)を見出し2014年の本討論会で報告した。本酵素はアミジノフェニルグリシン誘導体のカルボキシル基をATPの存在下でリン酸無水物へと活性化させ、ここにリボソームによって生合成されたオリゴペプチドのN末端が求核攻撃することでアミド結合形成反応を触媒する。これはATP-grasp型のアミド結合形成酵素の中で、ペプチドを求核剤として用いる初めての例である。本酵素は求核剤基質の認識が非常に緩く、様々なペプチドを受容可能であったことから、ペプチドのN末端修飾酵素として応用面でも興味が持たれた。また、PGM1のオルソログが、(1)類縁体であるレゾルシノマイシン(2)の生合成におけるアミド結合形成にも関与していることを遺伝子破壊実験で証明した。これら酵素のオルソログをゲノムデータベースに探索した結果、一部の放線菌に見いだすことができ、それらは何れも固有な遺伝子群とクラスターをなしていた。この中で3つの放線菌、Micromonospora sp. ATCC 39149、Salinispora tropicaCNB-440、およびStreptomyces mobaraensis NBRC 13819に見出された遺伝子クラスターは互いに類似しており、6つの遺伝子群をすべて共通に含んでいた(図2)。そこで本研究では、これら遺伝子群の機能解明を行った。

【方法および結果】

1)遺伝子クラスター由来の特異的な代謝産物の同定と構造解析

初めにクラスター由来の代謝産物の解析を行った。オルソログを含む推定生合成遺伝子クラスターをPCRで増幅後、各々異種宿主であるStreptomyces lividansに導入した。形質転換株の培養液を HPLCとLC-MSで分析した結果、Micromonospora sp.の遺伝子クラスター導入株およびS. tropicaの遺伝子クラスター導入株ではそれぞれ1つずつ、S. mobaraensisの遺伝子クラスター導入株では6つの特異的ピークが検出された(図3)。そこで形質転換株を大量培養、精製後、高分解能質量分析とNMRで代謝産物の構造を解析した。その結果、得られた代謝産物はすべて、通常のペプチド結合がカルボニルメチレン構造に置き換わったシュードジペプチド構造を有しており、そのN末にアミジノアミノ酸がアミド結合したシュードトリペプチド構造を有していた(図4)。カルボニルメチレン構造を持つペプチド天然物としては、ジペプチドのアルファメニン類のみが知られており、ケトメミシン類はシュードトリペプチドとして初の例である。

2)ペプチドライゲースオルソログの機能解析

ケトメミシン生合成遺伝子クラスターに共通する6つの遺伝子の内、ペプチドライゲースのオルソログは、生合成の最終段階においてアミド結合形成

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【背景と目的】 我々は放線菌が生産するペプチド系抗生物質、フェガノマイシン(1)の生合成に関与する新規ペプチドライゲース(PGM1)を見出し2014年の本討論会で報告した。本酵素はアミジノフェニルグリシン誘導体のカルボキシル基をATPの存在下でリン酸無水物へと活性化させ、ここにリボソームによって生合成されたオリゴペプチドのN末端が求核攻撃することでアミド結合形成反応を触媒する。これはATP-grasp型のアミド結合形成酵素の中で、ペプチドを求核剤として用いる初めての例である。本酵素は求核剤基質の認識が非常に緩く、様々なペプチドを受容可能であったことから、ペプチドのN末端修飾酵素として応用面でも興味が持たれた。また、PGM1のオルソログが、(1)類縁体であるレゾルシノマイシン(2)の生合成におけるアミド結合形成にも関与していることを遺伝子破壊実験で証明した。これら酵素のオルソログをゲノムデータベースに探索した結果、一部の放線菌に見いだすことができ、それらは何れも固有な遺伝子群とクラスターをなしていた。この中で3つの放線菌、Micromonospora sp. ATCC 39149、Salinispora tropicaCNB-440およびStreptomyces mobaraensis NBRC 13819に見出された遺伝子クラスターは互いに類似しており、6つの遺伝子群をすべて共通に含んでいた(図2)。そこで本研究では、これら遺伝子群の機能解明を行った。

【方法および結果】

1)遺伝子クラスター由来の特異的な代謝産物の同定と構造解析

初めにクラスター由来の代謝産物の解析を行った。オルソログを含む推定生合成遺伝子クラスターをPCRで増幅後、各々異種宿主であるStreptomyces lividansに導入した。形質転換株の培養液を HPLCとLC-MSで分析した結果、Micromonospora sp.の遺伝子クラスター導入株およびS. tropicaの遺伝子クラスター導入株ではそれぞれ1つずつ、S. mobaraensisの遺伝子クラスター導入株では6つの特異的ピークが検出された(図3)。そこで形質転換株を大量培養、精製後、高分解能質量分析とNMRで代謝産物の構造を解析した。その結果、得られた代謝産物はすべて、通常のペプチド結合がカルボニルメチレン構造に置き換わったシュードジペプチド構造を有しており、そのN末にアミジノアミノ酸がアミド結合したシュードトリペプチド構造を有していた(図4)。カルボニルメチレン構造を持つペプチド天然物としては、ジペプチドのアルファメニン類のみが知られており、ケトメミシン類はシュードトリペプチドとして初の例である。

2)ペプチドライゲースオルソログの機能解析

ケトメミシン生合成遺伝子クラスターに共通する6つの遺伝子の内、ペプチドライゲースのオルソログは、生合成の最終段階においてアミド結合形成反応を触媒すると予想できる。そこでMicromonospora sp. 由来のオルソログの組換え酵素を用いて検討を行った。予想N末基質のL-アミジノアルギニン(11)とC末基質のシュードジペプチドは有機合成で調製した。C末基質に12を用いて酵素反応を行った結果ケトメミシンB3(6)の生成がLC-MSにより確認でき、同時にケトメミシンの絶対立体配置も明らかになった。一方、13を用いた場合には非天然型のケトメミシンの生成が確認できた。さらに基質特異性についても検討を行った結果、N末基質としてアミジノフェニルグリシンは両異性体とも認識されたが、D-アミジノアルギニンを用いた場合には反応が進行しなかった。C末基質については、通常のジペプチドであるL-Phe-L-PheやL-Leu-L-Pheも基質となったが、アミノ酸やトリペプチド以上の長さのペプチドは基質とならなかった。これらのことから本酵素は(シュード)ジペプチドライゲースであると結論付けた。

3)アミジノ基転移酵素の機能解析

一般的にアミジノ基転移酵素は、アミジノ基を供与体となるアルギニンから受容体基質に転移する反応を触媒する。クラスターに見出したアミジノ基転移酵素についても組換え酵素を用いて検証した結果、Micromonospora sp.およびS. mobaraensis由来の酵素では2分子のL-アルギニンから11を生成すること、S. tropica由来の酵素ではL-バリンをアミジノ基受容体としてL-アミジノバリンが生成することが分かった。また、アミジノ受容体基質に対する基質特異性を検討したところ、前者2つの酵素では基質を厳密に認識するのに対して、最後者の酵素は本来の基質に加えてL-ロイシン、L-イソロイシン、L-メチオニンなど複数のアミノ酸も認識できることが明らかになった。

4)カルボニルメチレン構造の生合成

これまでカルボニルメチレン構造を有するシュードジペプチドの生合成に関する報告はないことから、その解明を行った。生合成には6つの遺伝子の内、残りのアルドラーゼ、脱水酵素、エノイル還元酵素、グリシン-C-アセチルトランスフェラーゼ(図2)が関与すると予想される。各反応をS. mobaraensis由来の組換え酵素を用いて解析した。先ず、初発反応を担うと予想したアルドラーゼの酵素反応を検討した。本アルドラーゼはクエン酸の分解に関わるクエン酸リアーゼと相同性を有しており、当初アセチルCoAとフェニルピルビン酸からベンジルリンゴ酸CoA(14)が生成すると予想し酵素反応を行ったが反応は進行しなかった。そこで、アセチルCoAの代わりにマロニルCoAを用いたところ反応が進行し、脱炭酸を伴って14の生成が確認できた。続いて、脱水酵素とエノイル還元酵素をアルドラーゼ生成物と反応させたところ、いずれも反応が進行しベンジルフマル酸CoA(15)を経由してベンジルコハク酸CoA(16)へと変換されることが分かった。なお、この還元反応はNADPHを要求した。最後のグリシン-C-アセチルトランスフェラーゼは、PLP依存の酵素であり、2回目の炭素-炭素結合形成を触媒すると考えられる。16とL-フェニルアラニンを基質として酵素反応を行ったところ、1217の2つのジアステレオマーが生成したことをLC-MSにより確認した。また、16とL-チロシンを用いた場合にも同様に2つの生成物が確認できた。S. mobaraensis由来の代謝産物であるケトメミシンB類にのみシュードジペプチド部構造に多様性が見られるのは、グリシン-C-アセチルトランスフェラーゼの基質認識の緩さによるものと考えられる。以上、カルボニルメチレン構造を持つシュードジペプチドの生合成に関与する4つの酵素反応について実証した。

以上、我々はペプチドライゲースのオルソログを含む3つの遺伝子クラスターの解析を行い、①これら遺伝子クラスターは新規なシュードトリペプチドであるケトメミシンの生合成に関与すること、②ペプチドライゲースのオルソログは(シュード)ジペプチドライゲースであること、③そのN末基質であるアミジノアミノ酸はアミジノ基転移酵素により生成すること、④カルボニルメチレン構造は、図6に示した4つの酵素により生成すること、を実証しケトメミシンの酵素的全合成を達成した。これらの知見は遺伝子の人為的改変による新規(シュード)ペプチド化合物の創製の基盤としても重要であると考えている。

謝辞

NMRを測定していただいた北海道大学農学研究院の福士江里先生に深謝いたします。またこの研究は科研費(15H03110)の助成により行われました。

参考文献

[1] Noike M, Matsui T, Ooya K, Sasaki I, Ohtaki S, Hamano Y, Maruyama C, Ishikawa J, Satoh Y, Ito H, Morita H, Dairi T., A peptide ligase and the ribosome cooperate to synthesize the peptide pheganomycin. Nat. Chem. Biol., 11, 71-76 (2015).

[2] Ogasawara Y, Kawata J, Noike M, Satoh Y, Furihata K, and Dairi T. Exploring peptide ligase orthologs in actinobacteria—discovery of pseudopeptide natural products, ketomemicins. ACS Chem. Biol. in press.

[3] Ogasawara Y, Fujimori M, Kawata J, and Dairi T. Characterization of three amidinotransferases involved in the biosynthesis of ketomemicins. Bioorg. Med. Chem. Lett. in press.

 
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