天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
58
会議情報

非リボソーム性ペプチド合成酵素の選択的ラベル化技術の開発と迅速機能解析システムの構築
石川 文洋今野 翔笠井 昭太鈴木 健裕堂前 直掛谷 秀昭
著者情報
会議録・要旨集 フリー HTML

p. Oral38-

詳細
非リボソーム性ペプチド合成酵素の選択的ラベル化技術の開発と迅速機能解析システムの構築

【序論】

微生物が産生するペプチド性天然有機化合物 (cyclosporin、vancomycin、bleomycinなど) は、構造上、極めて多様性に富み強力な生理活性を有することから、将来にわたる医薬品の探索・供給源として有望視されている。しかしながら、容易に獲得できる資源は枯渇しつつあるといっても過言ではない。今後の医薬資源の開発において、多様性に富む化合物群を効率的に創出 (非天然型化合物ライブラリーの構築) し、迅速な構造活性相関研究を進め、創薬シーズとして提供できるかが鍵となる。ペプチド性天然化合物の多くは、非リボソーム性ペプチド合成酵素 (NRPS) と呼ばれる酵素群により合成される。NRPSはadenylation (A)、thiolation (T)、condensation (C) domainを基本構成単位として有している。A-domainは、非常に厳密な基質特異性を有し、20種類の天然アミノ酸や非天然アミノ酸の生体内プールから特異的に1つをアミノアシル-AMPに活性化する(Figure 1)。すなわち、A-domainはペプチド性天然化合物合成における ”gatekeeper” としての役割を担っている。そのため、非天然型化合物創出へ向けたprecursor-directed biosynthesis (PDB)、mutasynthesis、進化分子工学の標的タンパク質となっている1)。多様性に富む非天然型化合物の合理的設計・創出には、A-domainの酵素システムを理解することに加えて、迅速、簡便、網羅的な機能解析法が必要不可欠である。我々は、厳密な基質特異性を有するA-domainの酵素的性質を利用することにより、テーラーメイドなA-domainのラベル化技術を開発してきた2)-4)。本発表では、1) A-domain選択的ラベル化技術、2) 迅速かつ網羅的機能解析技術について報告する。

Figure 1. NRPS A-domainの触媒機構。

【A-domain選択的ラベル化技術の開発】

放線菌から単離された核酸系抗生物質ascamycinの脱クロロ誘導体5′-O-N-(L-alanyl)sulfamoyl adenosine (L-Ala-AMS) が、アラニルtRNA合成酵素によるアミノアシル化反応の高反応性中間体であるL-Ala-adenosine monophosphate (AMP)の生物学的等価体であることが示された (Figure 2a)5)。その後、aminoacyl-AMSは、種々のtRNA合成酵素のX線結晶構造解析を行うためのリガンド分子として用いられてきた6)。そのため、aminoacyl-AMS はtRNA合成酵素と同様の反応を触媒するNRPS A-domainのリガンドに応用できると期待した。さらに、種々のアミノ酸に入れ替えることによって、個々のA-domainに対する選択性を付与できると期待した。そこで、1. aminoacyl-AMSリガンド、2. 近傍の標的タンパク質と光化学反応により共有結合形成可能なベンゾフェノン、3. クリックケミストリーにより、蛍光標識あるいはビオチン官能基を導入可能なアルキンからなるA-domain選択的ラベル化剤 (aminoacyl-AMS-BPyne) の設計を行った (Figure 2a)。また、多くのA-domainはアデノシン骨格の2′-OH基への化学修飾に寛容であるため7)、2′-OH基にBPyneリンカーを導入した。続いて、L-Phe、L-Pro、L-Val、L-Orn、L-Leuをリガンド部に有するA-domaimラベル化剤の合成を行った。環状ペプチド性抗生物質であるgramicidin Sは、Aneurinibacillus migulanusにより産生される。そこで、内在性gramicidin S NRPS [GrsA (127 kDa): APhe-T-epimerase (E)、GrsB (508 kDa): C-AP

(View PDFfor the rest of the abstract.)

序論

微生物が産生するペプチド性天然有機化合物 (cyclosporin、vancomycin、bleomycinなど) は、構造上、極めて多様性に富み強力な生理活性を有することから、将来にわたる医薬品の探索・供給源として有望視されている。しかしながら、容易に獲得できる資源は枯渇しつつあるといっても過言ではない。今後の医薬資源の開発において、多様性に富む化合物群を効率的に創出 (非天然型化合物ライブラリーの構築) し、迅速な構造活性相関研究を進め、創薬シーズとして提供できるかが鍵となる。ペプチド性天然化合物の多くは、非リボソーム性ペプチド合成酵素 (NRPS) と呼ばれる酵素群により合成される。NRPSはadenylation (A)、thiolation (T)、condensation (C) domainを基本構成単位として有している。A-domainは、非常に厳密な基質特異性を有し、20種類の天然アミノ酸や非天然アミノ酸の生体内プールから特異的に1つをアミノアシル-AMPに活性化する(Figure 1)。すなわち、A-domainはペプチド性天然化合物合成における ”gatekeeper” としての役割を担っている。そのため、非天然型化合物創出へ向けたprecursor-directed biosynthesis (PDB)、mutasynthesis、進化分子工学の標的タンパク質となっている1)。多様性に富む非天然型化合物の合理的設計・創出には、A-domainの酵素システムを理解することに加えて、迅速、簡便、網羅的な機能解析法が必要不可欠である。我々は、厳密な基質特異性を有するA-domainの酵素的性質を利用することにより、テーラーメイドなA-domainのラベル化技術を開発してきた2)-4)。本発表では、1) A-domain選択的ラベル化技術、2) 迅速かつ網羅的機能解析技術について報告する。

Figure 1. NRPS A-domainの触媒機構。

A-domain選択的ラベル化技術の開発】

放線菌から単離された核酸系抗生物質ascamycinの脱クロロ誘導体5′-O-N-(L-alanyl)sulfamoyl adenosine (L-Ala-AMS) が、アラニルtRNA合成酵素によるアミノアシル化反応の高反応性中間体であるL-Ala-adenosine monophosphate (AMP)の生物学的等価体であることが示された (Figure 2a)5)。その後、aminoacyl-AMSは、種々のtRNA合成酵素のX線結晶構造解析を行うためのリガンド分子として用いられてきた6)。そのため、aminoacyl-AMS はtRNA合成酵素と同様の反応を触媒するNRPS A-domainのリガンドに応用できると期待した。さらに、種々のアミノ酸に入れ替えることによって、個々のA-domainに対する選択性を付与できると期待した。そこで、1. aminoacyl-AMSリガンド、2. 近傍の標的タンパク質と光化学反応により共有結合形成可能なベンゾフェノン、3. クリックケミストリーにより、蛍光標識あるいはビオチン官能基を導入可能なアルキンからなるA-domain選択的ラベル化剤 (aminoacyl-AMS-BPyne) の設計を行った (Figure 2a)。また、多くのA-domainはアデノシン骨格の2′-OH基への化学修飾に寛容であるため7)、2′-OH基にBPyneリンカーを導入した。続いて、L-Phe、L-Pro、L-Val、L-Orn、L-Leuをリガンド部に有するA-domaimラベル化剤の合成を行った。環状ペプチド性抗生物質であるgramicidin Sは、Aneurinibacillus migulanusにより産生される。そこで、内在性gramicidin S NRPS [GrsA (127 kDa): APhe-T-epimerase (E)、GrsB (508 kDa): C-APro-T-C-AVal-T-C-AOrn-T-C-ALeu-T-TE (thioesterase)] を標的にA-domainラベル化剤の機能解析を行った (Figure 2b)。その結果、A-domainラベル化剤は、内在性NRPSの有する複数のA-domainを区別し、選択的にラベル化できることがわかった (activity-based protein profiling: ABPP) (Figure 2cde)2),3)

Figure 2. (a) 核酸系抗生物質ascamycin、その脱クロロ誘導体L-Ala-AMS、A-domain選択的ラベル化剤 (aminoacyl-AMS-BPyne) の構造。(b) 夾雑系に存在するNRPSの選択的ラベル化法。(c) L-Phe-AMS-BPyneによる内在性GrsA選択的ラベル化。(d) L-Pro、L-Val、L-Orn、L-Leu-AMS-BPyneによる内在性GrsB選択的ラベル化。VRS: バリル-tRNA合成酵素、LRS: ロイシル-tRNA合成酵素。(e) 競合的阻害剤L-Phe-、L-Pro-、L-Val-、L-Orn-、L-Leu-AMSを用いたGrsBに存在する複数のA-domainの選択的ラベル化実験。

A-domainの迅速かつ網羅的機能解析技術の開発: 競合的ABPP

 NRPSは複数の酵素ドメインが繋がった巨大タンパク質 (300-800 kDa) であり、その全長を組換えタンパク質として発現・精製し、試験管内で評価することは簡単なことではない。そのため、A-domainあるいはモジュールを部分的に切出して発現・精製し、機能解析に用いられている。非天然型化合物を合理的に設計するためには、経路上に存在するすべてのA-domainを組換えタンパク質として調製し、網羅的に機能解析を行うことが理想的であるが、迅速さの観点から現実的ではない。また、NRPS Code (A-domain活性部位に存在する基質特異性を支配する10個のアミノ酸残基) を利用することで、A-domainの基質を予測することができる8),9)。そのため、A-domainの機能解析は対象のアミノ酸基質数個に対してのみ実施されるため、獲得できる情報は少ない。NRPS Codeでは予測できない第2、第3の基質候補を明らかにし、A-domainの酵素システムを迅速かつ体系的に理解することは、進化分子工学や非天然型化合物創出へ向けた最初のステップである。これまでに多くのA-domain機能解析法が開発されてきた10)-12)。しかしながら、これまで開発されてきたすべての方法は、精製系でしか用いることができない。すなわち、遺伝子クローニング、タンパク質の発現・精製を行う必要がある。一方、A-domain選択的ラベル化剤は、1. 夾雑系に存在する内在性A-domainを標的とするため、組換えタンパク質を調製・精製する必要はない、2. NRPSに複数のA-domainが存在する場合であっても、リガンド認識駆動によって標的のA-domainのみをラベル化できる、3. SDS-PAGEにより、迅速、簡便、高感度に解析できるという利点を有している。そこで、aminoacyl-AMSライブラリーを構築し、A-domain選択的ラベル化剤を組み合わせた競合的ABPPを行うことで、A-domainの迅速かつ網羅的機能解析技術が構築できると期待した (Figure 3)13)

Figure 3. NRPS A-domainの迅速かつ網羅的機能解析法 (競合的ABPP)。

まず、A-domain選択的ラベル化剤 (L-Phe-AMS-BPyne) と20種のaminoacyl-AMS化合物を組み合わせ、内在性 GrsA および大腸菌組換えGrsAに対して競合的ABPPを行った (Figure 4a)。さらに、大腸菌組換えGrsAの酵素速度論的解析を行い、競合的ABPPの結果と比較した。その結果、競合的ABPPにより算出された各aminoacyl-AMSの内在性GrsA APhe-domain に対するIC50 は、L-Phe-AMS: 0.38 ± 0.14 μM、L-Leu-AMS: 23.0 ± 0.12 μM、L-Met-AMS: 27.2 ± 0.22 μM、L-Trp-AMS: 9.9 ± 0.13 μM、L-His-AMS: 126 ± 0.18 μMであり (Figure 4b)、大腸菌組換えGrsAに対する競合的ABPPにより算出されたIC50と一致した。さらに、大腸菌組換えGrsA APhe-domainの酵素速度論的解析により算出されたKm (L-Phe: 0.025 ± 0.0023 mM;  L-Leu: 2.85 ± 0.57 mM; L-Met: 18.5 ± 3.3 mM; L-Trp: 1.49 ± 0.19 mM; L-His: 17.5 ± 3.0 mM) の傾向は、競合的ABPPにより算出されたIC50と比較的良い一致を示した。また、L-Thr-AMSやL-Lys-AMSはGrsA APhe-domainに阻害活性を示さなかった。そこで、L-ThrおよびL-Lysを基質とし酵素活性を測定した。L-Thrに対するKm は246 ± 69 mM、L-LysはGrsA APhe-domainの基質とならなかった (Km > 500 mM)。

Figure 4. (a) L-Phe-AMS-BPyneとaminoacyl-AMS化合物を用いた内在性GrsA APhe-domainに対する競合的ABPP。(b) 内在性GrsA APhe-domainに対するaminoacyl-AMS化合物による競合阻害。(c) L-Pro-、L-Orn-、L-Val-、L-Leu-AMS-BPyneとaminoacyl-AMS化合物を用いた内在性GrsB A-domainに対する競合的ABPP。

次に、L-Pro-、L-Val-、L-Orn-、L-Leu-AMS-BPyneを利用し、内在性GrsBに存在する4つのA-domain (APro、AVal、AOrn、ALeu) に対して競合的ABPPを行った (Figure 4c)。APro-domainは、L-Pro-AMSのみラベル化が阻害された(Figure 4c)。また、L-Pro-AMSに対するIC50は0.29 ± 0.09 μMであった。さらに、GrsB1 (C-APro-T) と機能的等価なtyrocidine NRPS TycB1 (C-APro-T) を大腸菌組換えタンパク質として調製し、同様に解析を行った。その結果、TycB1はGrsB APro-domainと同様の競合的ABPPプロファイルを与え、L-Pro-AMSに対するIC50は0.69 ± 0.20 μM、 L-Proに対するKmは125 ± 24 μMであった。AOrn-domainはL-Orn-AMS (IC50 = 18.5 ± 2.6 nM) に加えて、L-Glu-AMS (IC50 = 139 ± 0.33 μM)、L-Lys-AMS (IC50 = 8.2 ± 0.14 μM)、L-Arg-AMS (IC50 = 4.6 ± 0.15 μM) において、そのラベル化が阻害された (Figure 4c)L-Glu-AMSと比較して、電荷を共有するL-Lys-AMSおよびL-Arg-AMSにおいてより低いIC50を与えた。テトラミン酸含有マクロラクタムHSAF NRPSのAOrn-domainはL-Ornに加えてL-Lysに対しても同程度の触媒活性を有することが実験的に示されており14)、GrsB AOrn-domainも同様にL-Lysを基質にする可能性が示唆された。続いて、AVal-、ALeu-domainに対し競合的ABPPを行った (Figure 4c)。AVal-domainは、多くのaminoacyl-AMS化合物 L-Val-AMS (0.11 ± 0.04 μM)、L-Leu-AMS (2.8 ± 0.23 μM)、L-Ile-AMS (6.0 ± 0.10 μM)、L-Met-AMS (0.42 ± 0.08 μM)、L-Trp-AMS (0.65 ± 0.04 μM)、L-His-AMS (2.2 ± 0.28 μM) に対し阻害プロファイルを与えた。L-Ile-AMSを除くaminoacyl-AMSは、L-Val-AMSのIC50に対し、4-20倍の範囲に収まっており、寛容な基質特異性を有することが示唆された。また、ALeu-domainはL-Leu-AMS (1.70 ± 0.09 nM)、L-Met-AMS (2.7 ± 0.22 μM) の添加によりそのラベル化が阻害された。APhe、APro、AVal、AOrn、ALeu-domainは、本来の基質を担持したaminoacyl-AMSに対し最も低いIC50を示すことがわかった。また、APhe、APro-domainのaminoacyl-AMS化合物に対するIC50は、大腸菌組換えタンパク質を用いた酵素反応速度論解析により算出されたKmの比較により、APhe、APro-domainの基質特異性と良い相関を示すことがわかった。

結論

 A-domain選択的ラベル化剤は、夾雑系に存在する内在性NRPS A-domainをリガンド認識駆動によって選択的にラベル化可能であった。さらに、A-domain選択的ラベル化剤とaminoacyl-AMS化合物を組み合わせた競合的ABPPにより、任意のA-domainの基質特異性に関する情報を迅速かつ網羅的に獲得できることがわかった。今後は、PDB、mutasynthesis、進化分子工学を組み合わせることで、非天然型化合物の合理的設計・創出に展開可能である。

謝辞

本研究を行うにあたり、GrsAおよびTycB1発現ベクターを供与いただきましたMohamed Marahiel教授 (Philipps-Universität Marburg, Germany) に深謝致します。

参考文献

1) Winn, M., Fyans, J. K., Zhuo, Y., Micklefield, J., Nat. Prod. Rep. 2016, 33, 317.; 2) Konno, S., Ishikawa, F., Suzuki, T., Dohmae, N., Burkart, M. D., Kakeya, H., Chem. Commun. 2015, 51, 2262.; 3) Ishikawa, F., Konno, S., Suzuki, T., Dohmae, N., Kakeya, H., ACS Chem. Biol. 2015, 10, 1989.; 4) Ishikawa, F., Suzuki, T., Dohmae, N., Kakeya, H., ChemBioChem 2015, 16, 2590.; 5) Isono, K., Uramoto, M., Kusakabe, H., Miyata, N., Koyama, T., Ubukata, M., Sethi, S. K., McCloskey, J. A., J. Antibiot. 1984, 37, 670.; 6) Ueda, H., Shoku, Y., Hayashi, N., Mitsunaga, J., In, Y., Doi, M., Inoue, M., Ishida, T., Biochim. Biophys. Acta 1991, 1080, 126. 7) Ishikawa, F., Miyamoto, K., Konno, S., Kasai, S., Kakeya, H., ACS Chem. Biol. 2015, 10, 2816.; 8) Stachelhaus, T., Mootz, H. D., Marahiel, M. A., Chem. Biol. 1999, 6, 493.; 9) Challis, G. L., Ravel, J., Townsend, C. A., Chem. Biol. 2000, 7, 211.; 10) Mcquade, T. J., Shallop, A. D., Sheoran, A., DelProposto, J. E., Tsodikov, O. V., Garneau-Tsodikova, S., Anal. Biochem. 2009, 386, 244.; 11) Wilson, D. J., Aldrich, C. C., Anal. Biochem. 2010, 404, 56.; 12) Phelan, V. V., Du, Y., McLean, J. A., Bachmann, B. O., Chem. Biol. 2009, 16, 473.; 13) Kasai, S., Konno, S., Ishikawa, F., Kakeya, H., Chem. Commun. 2015, 51, 15764.; 14) Lou, L., Qian, G., Xie, Y., Hang, J., Chen, H., Zaleta-Rivera, K., Li, Y., Shen, Y., Dussault, P. H., Liu, F., Du, L., J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 643.

 
© 2016 天然有機化合物討論会電子化委員会
feedback
Top