天然有機化合物討論会講演要旨集
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ヌクレオシド系抗生物質アリステロマイシンの生合成遺伝子のゲノムマイニング
工藤 史貴角田 毅高島 惇宮永 顕正江口 正
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p. Oral39-

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ヌクレオシド系抗生物質アリステロマイシンの生合成遺伝子のゲノムマイニング

 Aristeromycin(Fig. 1)は、1968年にKusakaらによって放線菌Streptomyces citricolor培養液から単離されたヌクレオシド系抗生物質の一つであり1、リボース部位が炭素五員環に置換されていることが構造上の特徴である。類縁天然物としてneplanocin Aが知られており、aristeromycin が有する抗ウィルス活性に加えて、抗腫瘍性を有することから注目を浴び、その構造活性相関研究が盛んに行われてきた。

 Aristeromycinとneplanocin Aの生合成研究に関しては、Parry らによる取り込み実験により、グルコースの2位と6位に由来する炭素間での結合形成反応により炭素五員環構造が形成されることが明らかにされている(Fig. 1)2。一次代謝系における糖質を基質とする炭素環形成酵素としては、myo-イノシトール-1-リン酸合成酵素(MIPS)と3-デヒドロキナ酸合成酵素(DHQS)が知られており、それらと類似の反応機構で環形成されると推定された。すなわち、MIPSと類似する反応では、フルクトース-6-リン酸(F6P)の5位がNAD(P)+により酸化され6位の水素原子が引き抜かれることでC5-C6エノラートが生じ、C6炭素とC2カルボニル炭素間でのアルドール型縮合反応により炭素環が形成される(Fig. 2A)。酸化されたC5カルボニル基は生じたNAD(P)Hにより還元される。DHQSと類似する反応では、F6PのC4位がNAD(P)+により酸化され6位リン酸基のβ脱離によりC5-C6エノラートが生じ、先と同様なアルドール型縮合反応により炭素環が形成される(Fig. 2B)。酸化されたC4カルボニル基は生じたNAD(P)Hにより還元される。またTurnerらによる生合成遮断変異株を用いた研究から、Fig. 1に示したサイクリトールが生合成中間体であること及びアデニン環とサイクリトール中間体が直接結合してneplanocin Aが形成されることが示唆されている3-5

 本研究では、この興味深いaristeromycinの生合成機構を酵素反応レベルで解明することを目的とし、まず生合成遺伝子クラスターの特定を試みた。Aristeromycin生産菌Streptomyces citricolorのゲノム解析の結果、DHQS遺伝子は1つしか見出すことは出来なかったが、MIPS遺伝子に関しては、一次代謝におけるMIPS遺伝子1つに加えて、それとは低い相同性を示すMIPSタイプ遺伝子を1つ見出すことができた。このMIPSタイプの酵素遺伝子は二次代謝遺伝子と考えられ、おそらくaristeromycin生合成における炭素五員環形成に関与すると推定した。そこで、この遺伝子を含む領域を、生産菌ゲノムDNAからコスミドベクターを用いてクローニングし、異種放線菌Streptomyces albusにて発現させた。その結果、aristeromycinの異種菌生産が確認され、ユニークなMIPSタイプ遺伝子(ari2)を含む31個の読み枠からなる遺伝子クラスターがaristeromycin生合成に関与することが明らかとなった6

 次にMIPSタイプのAri2が、Fig. 2Aで推定したような炭素環形成反応を触媒するか検証

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 Aristeromycin(Fig. 1)は、1968年にKusakaらによって放線菌Streptomyces citricolor培養液から単離されたヌクレオシド系抗生物質の一つであり1、リボース部位が炭素五員環に置換されていることが構造上の特徴である。類縁天然物としてneplanocin Aが知られており、aristeromycin が有する抗ウィルス活性に加えて、抗腫瘍性を有することから注目を浴び、その構造活性相関研究が盛んに行われてきた。

 Aristeromycinとneplanocin Aの生合成研究に関しては、Parry らによる取り込み実験により、グルコースの2位と6位に由来する炭素間での結合形成反応により炭素五員環構造が形成されることが明らかにされている(Fig. 1)2。一次代謝系における糖質を基質とする炭素環形成酵素としては、myo-イノシトール-1-リン酸合成酵素(MIPS)と3-デヒドロキナ酸合成酵素(DHQS)が知られており、それらと類似の反応機構で環形成されると推定された。すなわち、MIPSと類似する反応では、フルクトース-6-リン酸(F6P)の5位がNAD(P)+により酸化され6位の水素原子が引き抜かれることでC5-C6エノラートが生じ、C6炭素とC2カルボニル炭素間でのアルドール型縮合反応により炭素環が形成される(Fig. 2A)。酸化されたC5カルボニル基は生じたNAD(P)Hにより還元される。DHQSと類似する反応では、F6PのC4位がNAD(P)+により酸化され6位リン酸基のβ脱離によりC5-C6エノラートが生じ、先と同様なアルドール型縮合反応により炭素環が形成される(Fig. 2B)。酸化されたC4カルボニル基は生じたNAD(P)Hにより還元される。またTurnerらによる生合成遮断変異株を用いた研究から、Fig. 1に示したサイクリトールが生合成中間体であること及びアデニン環とサイクリトール中間体が直接結合してneplanocin Aが形成されることが示唆されている3-5

 本研究では、この興味深いaristeromycinの生合成機構を酵素反応レベルで解明することを目的とし、まず生合成遺伝子クラスターの特定を試みた。Aristeromycin生産菌Streptomyces citricolorのゲノム解析の結果、DHQS遺伝子は1つしか見出すことは出来なかったが、MIPS遺伝子に関しては、一次代謝におけるMIPS遺伝子1つに加えて、それとは低い相同性を示すMIPSタイプ遺伝子を1つ見出すことができた。このMIPSタイプの酵素遺伝子は二次代謝遺伝子と考えられ、おそらくaristeromycin生合成における炭素五員環形成に関与すると推定した。そこで、この遺伝子を含む領域を、生産菌ゲノムDNAからコスミドベクターを用いてクローニングし、異種放線菌Streptomyces albusにて発現させた。その結果、aristeromycinの異種菌生産が確認され、ユニークなMIPSタイプ遺伝子(ari2)を含む31個の読み枠からなる遺伝子クラスターがaristeromycin生合成に関与することが明らかとなった6

 次にMIPSタイプのAri2が、Fig. 2Aで推定したような炭素環形成反応を触媒するか検証することにした。ari2遺伝子を大腸菌にて異種発現させて、金属アフィニティークロマトグラフィーにより、ほぼ純粋な組換えタンパク質を得た。これを用いてF6Pを候補基質として酵素反応を検討した結果、NAD+存在下でF6Pとは異なる化合物が生成することを31P-NMRにより観測することができた。次に酵素反応条件を最適化し、F6Pから生じる生成物を単離・構造決定した結果、推定したような炭素五員環サイクリトールリン酸が生成していることがわかった(Fig. 3)。この結果は、MIPSタイプの酵素が、一次代謝産物であるmyo-イノシトール-1-リン酸以外のサイクリトールリン酸を生成することを示す初めての例である。なお、グルコース-6-リン酸(G6P)はAri2の基質とならず、F6Pを特異的に認識して環化反応を触媒する酵素であることがわかった。MIPSは一次代謝酵素なので、動植物も含めほぼ全ての生物種が一つ以上のMIPS遺伝子を保有することが知られている7。生物種間でのMIPSの相同性はそれほど高くはないものの、全てのMIPSがG6Pを基質としてmyo-イノシトール-1-リン酸の形成反応に関与すると考えられてきた。今回の結果は、MIPSホモログといえども、G6Pだけでなく他のヘキソース-6-リン酸を基質として、同様のメカニズムによりmyo-イノシトール-1-リン酸以外のサイクリトールリン酸を生成する酵素活性を有し得ることを意味する。今後、様々な生物種のMIPSタイプ酵素の網羅的な機能解析を進めることで、その可能性を検証していく予定である。

 さて、MIPS類似酵素であるAri2のF6Pを基質とする酵素反応機構は、Fig. 2Aに示したMIPSタイプの機構と考えられる。既に構造解析されているMIPSの結晶構造8を基に、Ari2のモデル構造を構築した結果、Ari2の全体構造はMIPSに非常に似ていると推定された(Fig. 4)。活性部位に関しても、NAD+の結合に関わるアミノ酸残基は保存されており、F6PのC5-OHの酸化反応は同様の機構で触媒されると考えられた。6位プロトンの引き抜きに関しても、一次代謝のMIPSと同様の立体化学で起こると推定された。Ari2とMIPS では、基質であるF6PとG6PのC1, C2付近の認識機構が大きく異なると考えられるが、モデル構造からはその違いを見出すことは困難であった。Ari2の結晶化には既に成功しており、現在X線結晶構造解析を行っている。Ari2の詳細な酵素反応機構については発表の場で討論する。

 最後に、特定した生合成遺伝子クラスターにコードされる生合成酵素の推定機能からaristeromycinの生合成経路を提唱する(Fig. 5)。まず、今回機能解明したAri2によりF6Pが炭素五員環サイクリトールリン酸へと変換される。次に、リン酸の脱離、続く脱水によりα,β不飽和ケトンが生成する。α位のエピメリ化後、ケトンが還元されテトラオールが生成する。これら炭素環上の変換反応に関わると考えられる酵素を推定するのは現状困難であり、ari生合成遺伝子の機能解明によって明らかにしていく予定である。テトラオールは、ヒドロキシメチル基がキナーゼ様酵素Ari6によりリン酸化、異性化酵素Ari8もしくはAri12によりホスホリボース-1-リン酸類似化合物へと変換される。そしてプリンヌクレオシドホスホリラーゼ (PNP) と相同性を示すAri9がアデニン環とサイクリトールを結合させてneplanocin Aが生合成される。最後に、遺伝子クラスター中の還元酵素がオレフィン部位を還元しaristeromycinが生合成されるという経路である。

 以上、本研究では、ゲノム解析に基づきaristeromycin生合成遺伝子クラスターを特定し、生合成遺伝子レベルで生合成経路を提唱することができた。また、MIPSファミリーに属する新規炭素五員環合成酵素Ari2の機能を初めて解明することができた。

参考文献

(1) Kusaka, T.; Yamamoto, H.; Shibata, M.; Muroi, M.; Kishi, T. J. Antibiot. 1968, 21, 255.

(2) Parry, R. J.; Bornemann, V.; Subramanian, R. J. Am. Chem. Soc. 1989, 111, 5819.

(3) Jenkins, G. N.; Turner, N. J. Chem. Soc. Rev. 1995, 24, 169.

(4) Hill, J. M.; Jenkins, G. N.; Rush, C. P.; Turner, N. J.; Willetts, A. J.; Buss, A. D.; Dawson, M. J.; Rudd, B. A. M. J. Am. Chem. Soc. 1995, 117, 5391.

(5) Roberts, S. M.; Thorpe, A. J.; Turner, N. J.; Blows, W. M.; Buss, A. D.; Dawson, M. J.; Noble, D.; Rudd, B. A. M.; Sidebottom, P. J.; Wall, W. F. Tetrahedron Lett. 1993, 34, 4083.

(6) Kudo, F.; Tsunoda, T.; Takashima, M.; Eguchi, T. 2016, submitted.

(7) Majumder, A. L.; Chatterjee, A.; Ghosh Dastidar, K.; Majee, M. FEBS Lett. 2003, 553, 3.

(8) Neelon, K.; Roberts, M. F.; Stec, B. Biophys. J. 2011, 101, 2816.

 
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