天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
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モリブデン補酵素生合成中間体の単離構造決定と骨格構築反応機構の解明
横山 健一ホーヴァー ブラッドリートンサット ナムシューマッカー マリア
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p. Oral41-

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抄録

 モリブデン補酵素(Moco、図1)はヒトを含めたほぼすべての生物種に保存されている金属補酵素で、キサンチン酸化酵素などの酸化還元酵素の活性に必須である1,2。モリブデン補酵素は使用される細胞内で生合成されなければならず、その生合成経路の異常は様々な疾患に関係する。ヒトにおいてモリブデン補酵素は、核酸や硫黄含有分子の代謝に必須であり、モリブデン補酵素生合成遺伝子に異常を有すると、モリブデン補酵素欠損症という致死性の疾患を引き起こす1。また、近年では病原性細菌が宿主体内で生育する際にモリブデン補酵素が必須であることがわかり、感染症との関係も注目されている3-5。このように重要な生合成経路にも関わらず、骨格構築に関わる酵素の機能は不明な点が多い。

 モリブデン補酵素は、すべての生物種においてグアノシン三リン酸(GTP)から生合成されることが知られている(図1)。特に、基本骨格であるピラノプテリン環はGTPがサイクリックピラノプテリン一リン酸(cPMP)へと変換される過程で構築される。 この変換反応は、グアニン8位の炭素がリボース2´位と3´位の間へと挿入されるユニークなもので6、二つのタンパク質、MoaAとMoaCが関わっていることが知られていた7,8。MoaAは、S-アデノシルメチオニン(SAM)を補酵素としてラジカル反応を触媒するラジカルSAM酵素と相同性を示す一方で、MoaCは既知の酵素と相同性を示さない。そのため、一般的にはMoaAがラジカル反応によって GTPからピラノプテリン構造を生成し、MoaCは転位反応には関わらないと考えられていた2(図2a)。しかし、MoaAの反応生成物は同定されたことがなく、MoaAが触媒する反応についても不明な点が多く残されていた。今回、我々はMoaA生成物の単離構造決定に成功し、それを足がかりにMoaA、MoaCの機能解明に成功した。予想外にも、我々の結果は従来の説とは異なり、MoaCがピラノプテリン構造を構築する酵素であることを明らかにした(図2b)。すなわち本発見は本生合成経路を改定する重要なものである。本討論会では、このような結論に至った生化学的、構造生物学的証拠、及び酵素の反応機構も含めて包括的に議論する。

1. MoaA生成物の解明

 以前の研究から、MoaAとMoaC両者が存在する条件で、GTPがcPMPへと変換されることが知られていた8。しかし、MoaAとMoaCそれぞれ単独での触媒能に関しては知られていなかった。そこで我々はまず、Staphylococcus aureus由来のMoaAとMoaCをそれぞれ大腸菌で発現、精製し、様々な条件下で活性測定を行った。その結果、MoaAとGTPの反応をMoaC非存在下で行った場合に、ごく微量(MoaAに比べて等量以下)の低分子生成物を生じることがわかった。その低分子生成物は強酸性条件下で加水分解した後、塩基性条件下ブタン-2,3-ジオンを作用させるとジメチルプテリン(DMPT)へと変換されることから(図3a)、6-hydroxy-2,4,5- triaminopyrimidin部分構造を有することが考えられた。さらに、この化合物をMoaCと反応させるとcPMPが生成した(図3b)。このことから、本反応はMoaAがGTPを中間体へと変換し、その中間体をMoaCがcPMPへと変換すると推測でき

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