天然有機化合物討論会講演要旨集
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モリブデン補酵素生合成中間体の単離構造決定と骨格構築反応機構の解明
横山 健一ホーヴァー ブラッドリートンサット ナムシューマッカー マリア
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p. Oral41-

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モリブデン補酵素生合成中間体の単離構造決定と骨格構築反応機構の解明

 モリブデン補酵素(Moco、図1)はヒトを含めたほぼすべての生物種に保存されている金属補酵素で、キサンチン酸化酵素などの酸化還元酵素の活性に必須である1,2。モリブデン補酵素は使用される細胞内で生合成されなければならず、その生合成経路の異常は様々な疾患に関係する。ヒトにおいてモリブデン補酵素は、核酸や硫黄含有分子の代謝に必須であり、モリブデン補酵素生合成遺伝子に異常を有すると、モリブデン補酵素欠損症という致死性の疾患を引き起こす1。また、近年では病原性細菌が宿主体内で生育する際にモリブデン補酵素が必須であることがわかり、感染症との関係も注目されている3-5。このように重要な生合成経路にも関わらず、骨格構築に関わる酵素の機能は不明な点が多い。

 モリブデン補酵素は、すべての生物種においてグアノシン三リン酸(GTP)から生合成されることが知られている(図1)。特に、基本骨格であるピラノプテリン環はGTPがサイクリックピラノプテリン一リン酸(cPMP)へと変換される過程で構築される。 この変換反応は、グアニン8位の炭素がリボース2´位と3´位の間へと挿入されるユニークなもので6、二つのタンパク質、MoaAとMoaCが関わっていることが知られていた7,8。MoaAは、S-アデノシルメチオニン(SAM)を補酵素としてラジカル反応を触媒するラジカルSAM酵素と相同性を示す一方で、MoaCは既知の酵素と相同性を示さない。そのため、一般的にはMoaAがラジカル反応によって GTPからピラノプテリン構造を生成し、MoaCは転位反応には関わらないと考えられていた2(図2a)。しかし、MoaAの反応生成物は同定されたことがなく、MoaAが触媒する反応についても不明な点が多く残されていた。今回、我々はMoaA生成物の単離構造決定に成功し、それを足がかりにMoaA、MoaCの機能解明に成功した。予想外にも、我々の結果は従来の説とは異なり、MoaCがピラノプテリン構造を構築する酵素であることを明らかにした(図2b)。すなわち本発見は本生合成経路を改定する重要なものである。本討論会では、このような結論に至った生化学的、構造生物学的証拠、及び酵素の反応機構も含めて包括的に議論する。

1. MoaA生成物の解明

 以前の研究から、MoaAとMoaC両者が存在する条件で、GTPがcPMPへと変換されることが知られていた8。しかし、MoaAとMoaCそれぞれ単独での触媒能に関しては知られていなかった。そこで我々はまず、Staphylococcus aureus由来のMoaAとMoaCをそれぞれ大腸菌で発現、精製し、様々な条件下で活性測定を行った。その結果、MoaAとGTPの反応をMoaC非存在下で行った場合に、ごく微量(MoaAに比べて等量以下)の低分子生成物を生じることがわかった。その低分子生成物は強酸性条件下で加水分解した後、塩基性条件下ブタン-2,3-ジオンを作用させるとジメチルプテリン(DMPT)へと変換されることから(図3a)、6-hydroxy-2,4,5- triaminopyrimidin部分構造を有することが考えられた。さらに、この化合物をMoaCと反応させるとcPMPが生成した(図3b)。このことから、本反応はMoaAがGTPを中間体へと変換し、その中間体をMoaCがcPMPへと変換すると推測でき

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 モリブデン補酵素(Moco、図1)はヒトを含めたほぼすべての生物種に保存されている金属補酵素で、キサンチン酸化酵素などの酸化還元酵素の活性に必須である1,2。モリブデン補酵素は使用される細胞内で生合成されなければならず、その生合成経路の異常は様々な疾患に関係する。ヒトにおいてモリブデン補酵素は、核酸や硫黄含有分子の代謝に必須であり、モリブデン補酵素生合成遺伝子に異常を有すると、モリブデン補酵素欠損症という致死性の疾患を引き起こす1。また、近年では病原性細菌が宿主体内で生育する際にモリブデン補酵素が必須であることがわかり、感染症との関係も注目されている3-5。このように重要な生合成経路にも関わらず、骨格構築に関わる酵素の機能は不明な点が多い。

 モリブデン補酵素は、すべての生物種においてグアノシン三リン酸(GTP)から生合成されることが知られている(図1)。特に、基本骨格であるピラノプテリン環はGTPがサイクリックピラノプテリン一リン酸(cPMP)へと変換される過程で構築される。 この変換反応は、グアニン8位の炭素がリボース2´位と3´位の間へと挿入されるユニークなもので6、二つのタンパク質、MoaAとMoaCが関わっていることが知られていた7,8。MoaAは、S-アデノシルメチオニン(SAM)を補酵素としてラジカル反応を触媒するラジカルSAM酵素と相同性を示す一方で、MoaCは既知の酵素と相同性を示さない。そのため、一般的にはMoaAがラジカル反応によって GTPからピラノプテリン構造を生成し、MoaCは転位反応には関わらないと考えられていた2(図2a)。しかし、MoaAの反応生成物は同定されたことがなく、MoaAが触媒する反応についても不明な点が多く残されていた。今回、我々はMoaA生成物の単離構造決定に成功し、それを足がかりにMoaA、MoaCの機能解明に成功した。予想外にも、我々の結果は従来の説とは異なり、MoaCがピラノプテリン構造を構築する酵素であることを明らかにした(図2b)。すなわち本発見は本生合成経路を改定する重要なものである。本討論会では、このような結論に至った生化学的、構造生物学的証拠、及び酵素の反応機構も含めて包括的に議論する。

1. MoaA生成物の解明

 以前の研究から、MoaAとMoaC両者が存在する条件で、GTPがcPMPへと変換されることが知られていた8。しかし、MoaAとMoaCそれぞれ単独での触媒能に関しては知られていなかった。そこで我々はまず、Staphylococcus aureus由来のMoaAとMoaCをそれぞれ大腸菌で発現、精製し、様々な条件下で活性測定を行った。その結果、MoaAとGTPの反応をMoaC非存在下で行った場合に、ごく微量(MoaAに比べて等量以下)の低分子生成物を生じることがわかった。その低分子生成物は強酸性条件下で加水分解した後、塩基性条件下ブタン-2,3-ジオンを作用させるとジメチルプテリン(DMPT)へと変換されることから(図3a)、6-hydroxy-2,4,5- triaminopyrimidin部分構造を有することが考えられた。さらに、この化合物をMoaCと反応させるとcPMPが生成した(図3b)。このことから、本反応はMoaAがGTPを中間体へと変換し、その中間体をMoaCがcPMPへと変換すると推測できた。

 上記の結果をもとに、MoaA生成物の単離構造決定を行うこととした。しかしながら、MoaA生成物は化学的に不安定である上、その生成量は微量であったため、単離は困難であった。種々条件検討の結果、嫌気条件下、弱塩基性の緩衝液を用いることで分解を防げることがわかった。そこで上記の条件下、陰イオン交換クロマトグラフィーを繰り返し行うことで、MoaA生成物の単離に成功した(図4a)4。精製した化合物はGTPと同一の分子量(m/z 521.984 ± 0.001 [M−H]; C10H15N5O14P3)を有していた。その吸光スペクトルは322 nmに特徴的なバンドを有しており、塩基部位が修飾を受けていることが推測された。NMRによる解析では、分子量の割に溶媒と交換不可能な1Hシグナルが6本と少なかったため、1H観測のみでは構造決定は困難であった。そこで、13C標識した化合物を調整し、13C NMRを測定したところ、特徴的な三級炭素の存在が確認された(図4b)。三級炭素はGTP、cPMPおよびその他の提唱されていた生合成中間体に存在しておらず、本化合物が新規の構造を有していると考えられた。さらに、13C-13C COSYの結果から、この三級炭素はC3´であり、C2´、C4´及びC8と共有結合を有することが明らかになった(図4c)。また、HMQC, 1H-13C HMBC及び1H-15N HMBCスペクトルの結果から、フラノース環とグリコシル結合を保持していることが確認できた。C8の立体化学はNOESYによって決定した。以上の結果から、本化合物を3´,8-cyclodihydro-GTP (3´,8-cH2GTP, 図4d)と構造決定した。

2. MoaAとMoaCの酵素学的解析

 3´,8-cH2GTP とMoco生合成との関係を明らかにするため、MoaAとMoaCの酵素学的解析を行った。その結果、単離した3´,8-cH2GTPは、MoaCによって定量的にcPMPへと変換されることを観測した。本反応の定常状態での速度論定数を解析したところ、Kmは60 nM以下と極めて低く、kcatはMoaAが触媒するGTPから3´,8-cH2GTPへの変換反応のおよそ4倍程度であった(0.045 vs 0.17 min-1)。さらに、ヒト由来のMoaCホモログ(MOCS1B)を用いて解析を行ったところ、細菌由来の酵素と類似の効率で3´,8-cH2GTPをcPMPへの変換反応を触媒することを確認できた(Km = 0.79 mM, kcat = 0.092 min-1)。以上の結果は、MoaAの生成物である3´,8-cH2GTPはMoaCの生理学的な基質であり、Moco生合成における新規な中間体であることを支持する。これらの結果は、従来MoaAが触媒すると考えられていたピラノプテリン骨格構築反応について、予想外にも、その大部分をMoaCが触媒することを示しており、本生合成経路を改定する重要な発見である。

3. MoaC及び3´,8-cH2GTPの結晶構造解析

 MoaCは既知の酵素と相同性を示さず、その反応機構に関しては全く情報がない。そこで、MoaCのX線結晶構造解析を行うこととした。MoaCと基質の複合体構造を得るためには、結晶化中の触媒反応を抑制する必要がある。そこで、触媒活性を失ったMoaC変異体の作成を行った。MoaCの反応には補酵素が必要なく、一般酸塩基触媒で進行すると考えられたので、 全てのMoaCホモログに保存されている酸性及び塩基性アミノ酸残基について変異スクリーニングを行った。その結果、6種類の変異体が野生型と比べて1%以下のin vitro活性を示した(図5a)。さらにin vivoでの活性を調べるために、これらの変異体及び野生型のMoaCを大腸菌のmoaC欠損株に導入したところ、野生型MoaCを導入した場合にはMoco生合成が回復した一方、変異体では回復は最小限であった(図5b)。これらの結果から、6つのアミノ酸残基がMoaCのin vitro及びin vivoでの酵素活性に必須であると考えられる。

 得られた変異体のうちK51A-MoaCを用いたところ、K51A-MoaC•3´,8-cH2GTP複合体の結晶構造解析に成功した。この実験では、まずアポ型のK51A-MoaCを結晶化し、その結晶を3´,8-cH2GTPを含む溶液にソーキングし、 アポ型のMoaC結晶構造を用いて分子置換法で結晶構造を解いた。その結果、ソーキング後の結晶からは、MoaCの二量体単位のサブユニット間に形成されるポケットに電子密度を観測した(図6、図7a)。この電子密度を様々な化合物の構造モデルと組み合わせて解析したところ、3´,8-cH2GTPと極めて良い一致をした一方で、他の提唱されている生合成中間体とは一致しなかった。本結果は、3´,8-cH2GTPの構造決定を支持するものである。

 一方、cPMPとの複合体の構造解析には野生型のMoaCを用いた。その結果、3´,8-cH2GTP結合部位と同じ位置にcPMPの結合が観測された(図7b)。このポケットを構成するアミノ酸残基は前述の変異体スクリーニングで酵素活性に必須とされたアミノ酸残基であった。これらの結果から、3´,8-cH2GTP/cPMP結合部位がMoaCの活性部位と考えられる。さらに、MoaC•cPMP複合体構造とMoaC•3´,8-cH2GTP複合体構造を比較したところ、活性部位周辺の二つのループに大きなコンフォメーション変化が生じていることがわかった。このことから、MoaCによる複雑な転位反応は二つのループのコンフォメーション変化によって制御されていると考えられる(図8)。すなわち、MoaCは二つのループが開いた状態で3´,8-cH2GTPを結合し、3´,8-cH2GTPを中間体へと変換する。このリガンドの構造変化がループの構造変化を引き起こし、活性残基であるK51を活性部位内に取り込み、残りの転位反応を触媒する。実際にこの仮説をもとにMoaC変異体の反応を詳細に解析したところ、K51A-MoaCは反応中間体Xを生成し、このXは野生型の酵素と反応することでcPMPへと変換された。現在、Xの構造決定を行っている。

 以上の結果からMoaCの反応機構を図9のように考えている。本モデルでは、MoaCは6位のカルボニル結合を活性化することでC8-N9結合を開裂させて反応を開始すると考えられる。得られたイミン中間体から、加水分解(経路A)あるいはレトロアルドール反応(経路B)を経てアルデヒド基を有する中間体Xへと変換する。この中間体が生成することでD128周辺にスペースが生まれ、K51を含むループ3が活性部位内へと取り込まれて続く環拡大反応と環化反応が進行すると考えられる。

図9. MoaCの反応機構モデル

 以上、本研究ではモリブデン補酵素生合成において、MoaAの生成物の構造決定をもとにMoaAとMoaCの機能解明を行った。その結果、従来の説とは異なり、MoaCが複雑な転位反応の大半を触媒しており、MoaAはその転位反応に必要な不安定な前駆体をGTPから調整する役割を担っていることが明らかになった。本討論会では各酵素の反応機構とともに、ヒトにおけるモリブデン補酵素欠損症の酵素学的原因についても討論する。

謝辞: 本研究は、米国立衛生研究所(R01GM112838)の援助により行われたものであり、ここに深謝します。

参考文献

(1) Mendel, R. R.; Schwarz, G. Coord Chem Rev 2011, 255, 1145-1158.

(2) Leimkuhler, S.et al. Coord Chem Rev 2011, 255, 1129-1144.

(3) Fritz, C.et al. Infect Immun 2002, 70, 286-291.

(4) Weber, I.et al. Mol Microbiol 2000, 35, 1017-1025.

(5) Filiatrault, M. J.et al. PLoS One 2013, 8.

(6) Wuebbens, M. M.; Rajagopalan, K. V. J Biol Chem 1995, 270, 1082-1087.

(7) Reiss, J.et al. Nat Genet 1998, 20, 51-53.

(8) Hanzelmann, P.; Schindelin, H. Proc Natl Acad Sci U S A 2004, 101, 12870-12875.

 
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