天然有機化合物討論会講演要旨集
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麻痺性貝毒生合成中間体の同定と生合成経路の解明
土屋 成輝長 由扶子吉岡 廉平美野輪 高之此木 敬一長澤 和夫大島 泰克山下 まり
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p. Oral42-

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麻痺性貝毒生合成中間体の同定と生合成経路の解明

[背景]

サキシトキシン(saxitoxin, STX, 1)とその類縁体は麻痺性貝毒(paralytic shellfish toxins, PSTs)と呼ばれ、海産渦鞭毛藻や淡水産藍藻により生産されることが知られている1-2。食物連鎖により二枚貝に蓄積され、死亡率の高い食中毒を引き起こす。Shimizuら3は、渦鞭毛藻Gonyaulax tamarensis (Alexandrium tamarense)や藍藻Aphanizomenon flos-aquaeを使った、13C、15N標識アミノ酸、酢酸の取り込み実験を行った。その結果、酢酸、Arginine、S-adenosylmethionine (SAM)がSTX骨格構造に必須であることを明らかにし、初めて生合成経路を提唱した(Figure 1)。その後、Kellmannら4は藍藻Cylindrospermopsis raciborskii T3のゲノム中からSTX生合成遺伝子クラスターを発見した。さらに、他の藍藻(Anabaena circinalis, Lyngbya wollei)や渦鞭毛藻(A. fundyense, A. minutum)のゲノム中にも類似の遺伝子が存在することも明らかになり5-6、Shimizuらとは異なる生合成経路を提唱した (Figure 1)。しかし、いずれの経路においても、生合成中間体の同定は不十分であり、化学的な実証はなされていなかった。

我々は、これまでに推定生合成中間体Int-A’ (6), Int-C’2 (12)を合成し、麻痺性貝毒生産藍藻A. circinalis (TA04)、渦鞭毛藻A. tamarense (Axat-2)の細胞内に存在することを報告した7-8

本研究では、Int-C’2 (12)以降の経路を明らかにすることを目指し、Int-A’ (6)、Int-C’2 (12)、及び新たな関連化合物Cyclic-C’ (13)の安定同位体標識体を合成して、藍藻A. circinalis (TA04)を用いた取り込み実験を行なった。その結果より、遺伝子配列を基に推定された初期の生合成経路を実証し、中期においては、新規生合成中間体11-hydroxy Int-C’2 (20)の存在や、シャント経路を発見したので、報告する。

1. 推定生合成中間体Int-A’ (6), Int-C’2 (12), Cyclic-C’ (13)の標識体合成9

推定生合成中間体6, 12が、麻痺性貝毒の真の前駆体であることを示すため、それぞれ安定同位体(15N)標識体を合成した。[2,5-15N2]l-ornithine(14’)を出発物質として、既知の方法10に従い選択的にグアニジノ化を行い、エチルケトンに変換した後、Boc基を脱保護し、[15N2]Int-A’ (6’)を得た。[15N2]Int-C’2 (12’)も、[15N2]l-ornithine (14’)から合成した。三環性の[15N2]Cyclic-C’ (13’)11(後述)は、Pd/C存在下での環化反応により[15N2]Int-C’2 (12’)から得た(Scheme 1)。

2. Cyclic-C’ (13)の同定

Int-C’2 (12)を化学合成する過程で、エチルケトン17のCbz基をPd/C, H2で脱保護すると、Int-C’2 (12)とともに三環性の副生成物Cyclic-C’ (13)が得られた(scheme 2)。一方、エチルケトン18をTFAで脱保護した際には、目的のInt-C’2 (12)のみが得られた。Cyclic-C’ (13)を生成する反応条件を確認すると、Int-C’2 (12)を塩基性、Pd/C存在下、空気中で撹拌することで、定量的に環化が進行して

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[背景]

サキシトキシン(saxitoxin, STX, 1)とその類縁体は麻痺性貝毒(paralytic shellfish toxins, PSTs)と呼ばれ、海産渦鞭毛藻や淡水産藍藻により生産されることが知られている1-2。食物連鎖により二枚貝に蓄積され、死亡率の高い食中毒を引き起こす。Shimizuら3は、渦鞭毛藻Gonyaulax tamarensis (Alexandrium tamarense)や藍藻Aphanizomenon flos-aquaeを使った、13C、15N標識アミノ酸、酢酸の取り込み実験を行った。その結果、酢酸、Arginine、S-adenosylmethionine (SAM)がSTX骨格構造に必須であることを明らかにし、初めて生合成経路を提唱した(Figure 1)。その後、Kellmannら4は藍藻Cylindrospermopsis raciborskii T3のゲノム中からSTX生合成遺伝子クラスターを発見した。さらに、他の藍藻(Anabaena circinalis, Lyngbya wollei)や渦鞭毛藻(A. fundyense, A. minutum)のゲノム中にも類似の遺伝子が存在することも明らかになり5-6、Shimizuらとは異なる生合成経路を提唱した (Figure 1)。しかし、いずれの経路においても、生合成中間体の同定は不十分であり、化学的な実証はなされていなかった。

我々は、これまでに推定生合成中間体Int-A’ (6), Int-C’2 (12)を合成し、麻痺性貝毒生産藍藻A. circinalis (TA04)、渦鞭毛藻A. tamarense (Axat-2)の細胞内に存在することを報告した7-8

本研究では、Int-C’2 (12)以降の経路を明らかにすることを目指し、Int-A’ (6)、Int-C’2 (12)、及び新たな関連化合物Cyclic-C’ (13)の安定同位体標識体を合成して、藍藻A. circinalis (TA04)を用いた取り込み実験を行なった。その結果より、遺伝子配列を基に推定された初期の生合成経路を実証し、中期においては、新規生合成中間体11-hydroxy Int-C’2 (20)の存在や、シャント経路を発見したので、報告する。

1. 推定生合成中間体Int-A’ (6), Int-C’2 (12), Cyclic-C’ (13)の標識体合成9

推定生合成中間体6, 12が、麻痺性貝毒の真の前駆体であることを示すため、それぞれ安定同位体(15N)標識体を合成した。[2,5-15N2]l-ornithine(14’)を出発物質として、既知の方法10に従い選択的にグアニジノ化を行い、エチルケトンに変換した後、Boc基を脱保護し、[15N2]Int-A’ (6’)を得た。[15N2]Int-C’2 (12’)も、[15N2]l-ornithine (14’)から合成した。三環性の[15N2]Cyclic-C’ (13’)11(後述)は、Pd/C存在下での環化反応により[15N2]Int-C’2 (12’)から得た(Scheme 1)。

2. Cyclic-C’ (13)の同定

Int-C’2 (12)を化学合成する過程で、エチルケトン17のCbz基をPd/C, H2で脱保護すると、Int-C’2 (12)とともに三環性の副生成物Cyclic-C’ (13)が得られた(scheme 2)。一方、エチルケトン18をTFAで脱保護した際には、目的のInt-C’2 (12)のみが得られた。Cyclic-C’ (13)を生成する反応条件を確認すると、Int-C’2 (12)を塩基性、Pd/C存在下、空気中で撹拌することで、定量的に環化が進行して13に変換されることが分かった11

興味深いことに、この副生成物13が、A. circinalis (TA04)と A. tamarense (Axat-2)にも存在することが明らかになり、生物中においても同様の環化反応が存在する可能性があった。また、無毒株からは、検出されなかったことから、Cyclic-C’ (13)は新規麻痺性貝毒関連化合物であると考えられた11

生物中での環化反応を証明するために、[15N2]Int-C’2 (12’)をA. circinalis (TA04)の培地に添加し、ラベル化したCyclic-C’ (13’)が生成するのか確認した9。添加後、7日間培養し、ろ過で細胞を集め、0.5 M AcOHで抽出し、前処理後、HILIC-UPLC-Q-TOF-MSに供した。Cyclic-C’ (13)のアイソトープパターンを[15N2]Int-C’2 (12’)の添加および非添加で比較した。非標識のCyclic-C’ (13)はm/z 209 ([M+H]+)であるのに対し、[15N2]Int-C’2 (12’)の添加により、m/z 211 ([M+H+2]+)のピークの増大が確認でき、ラベル化されたことが明らかになった(Figure 2)。この結果は、Int-C’2 (12)からCyclic-C’ (13)が生成することを示唆し、Pdで触媒されるような環化反応が生物中においても起きていることが示された。

3. 取り込み実験とシャント経路

これまでに有毒生物中に同定した中間体候補化合物が、実際に麻痺性貝毒の前駆体物質として生合成経路上に位置するのか示す必要があった。そこで、化学合成した[15N2]Int-A’ (6’)、 [15N2]Int-C’2 (12’)、[15N2]Cyclic-C’ (13’)を藍藻A. circinalis (TA04)の培地に添加し、取り込み実験を行った。添加し7日間培養後に収穫し、中間体及び、TA04株の主要な麻痺性貝毒成分であるC2 (19)のラベル化を、HILIC-UPLC-Q-TOF-MSを用いてアイソトープパターンを比較することで確認した(Figure 3及び4)9。この結果、[15N2]Int-A’ (6’)添加時には、Int-C’2 (12)及びCyclic-C’ (13)において、[M+H+2]+の存在量が大きくなっており、Int-A’ (6)からInt-C’2 (12)及びCyclic-C’ (13)が生成したことを示唆した。同様に、Int-C’2 (12)からCyclic-C’ (13)へ変換されたことも明らかだった。

いずれの取り込み実験の際にも、ラベル化がランダムに起きず、[M+H+2]+のピークのみ増大していたことと、生合成最上流に位置すると考えられるArginine (2)がControlと同じアイソトープパターンを示していたことから、添加した標識体が一度分解され取り込まれたとは考えられなかった。

次に、一度の添加では最終生成物であるC2 (19)のアイソトープパターンの変化が僅かであったので、約10日ごとに、繰り返し標識体を添加することとした。

 添加後、31日目のC2 (19)のアイソトープパターンを比較すると、[M+H+2]+の天然存在比は、12.4%であるのに対し、[15N2]Int-C’2 (12’)の添加では32.6%であり、ラベル化(labeled ratio, 17%)が確認された(Figure 4) 9。さらに、MS/MSのフラグメントパターンからも15Nが取り込まれたことが示唆された(Figure 5)。これら結果より、Int-C’2 (12)がC2 (19)の前駆体であることが示され、Int-A’ (6)もInt-C’2 (12)の前駆体であることから6, 12が実際に生合成中間体だと示唆された。一方で、[15N2]Cyclic-C’ (13’)を添加した際には、ラベル化は確認できなかった。また、TA04の培養液の経時変化を観察すると、Cyclic-C’ (13)は細胞外に排出されることがわかった9。Int-C’2 (12)は麻痺性貝毒の前駆体でありC2 (19)に変換されるが、一部はシャント化合物のCyclic-C’ (13)に変換されて麻痺性貝毒の生合成経路から除かれることが示された。これは麻痺性貝毒の生合成で初めて見つかったシャント経路である(Figure 6)。

4. 新規生合成関連化合物11-hydroxy Int-C’2 (20)の同定と推定生合成経路の改変

[15N2]Int-C’2 (12’)のTA04への取り込み実験で、12’の添加および非添加で培養して得た細胞抽出物をそれぞれ調製し、HILIC-UPLC-Q-TOF-MSで検出される陽イオンを網羅的に比較した。特に、安定同位体15Nでラベル化された未知生成物の探索を行った結果、分子式C9H19N415N2O ([M+H]+)の候補化合物が示された。この化合物の構造を11-hydroxy Int-C’2 (20)と推定し、化学合成した。これを標品として用い、LC-MSでTA04やA. tamarense (Axat-2)の細胞抽出液より同定した。11-hydroxy Int-C’2 (20)は、生合成遺伝子4-6から推定されなかった化合物である。しかし、我々は、本化合物を麻痺性貝毒の特異な三環性骨格の形成に関与する中間体と位置づけ、中期の生合成経路を新たに推定した(Figure 6)。

[謝辞]

日本学術振興会より最先端次世代研究開発支援プログラム(LC012)、科学研究費(no. 26292057, 15K07569)及び特別研究員制度(DC2)の助成、及び、サントリー生命科学財団よりSUNBOR SCHOLARSHIPを受けた。TA04株は、Susan Blackburn博士(オーストラリアCSIRO)より提供頂いた。NIES-1645株は国立環境研より分譲された。Axat-2株およびUAT-014-009株は、東京海洋大学の石丸隆教授、大村卓朗博士(現(株)水圏科学コンサルタント)らに分与頂いた株である。桑原重文教授(東北大学)、清田洋正教授(岡山大学)、榎本賢准教授(東北大学)に実験に際してご支援頂いた。

[文献]

1. Llewellyn, L. E. Nat. Prod. Rep. 2006, 23, 200-222.

2. Thottumkara, A. P. et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2014, 53, 5760-5784.

3. Shimizu, Y. Chem. Rev.1993, 93, 1685-1698.

4. Kellmann, R. et al., Appl. Environ. Microbiol. 2008, 74, 4044-4053.

5. Mihali, T. K. et al., PLoS One 2011, 6, e14657.

6. Stuken, A. et al., PLoS One 2011, 6, e20096.

7. 第54回天然有機化合物討論会講演要旨集, 2012, 459-463.

8. Tsuchiya, S. et al., Org. Biomol. Chem. 2014, 12, 3016-3020.

9. Tsuchiya, S. et al., Sci. Rep. 2016, 6, 20340.

10. Wu, Y. et al., Synth. Commun. 1993, 23, 3055-3060.

11. Tsuchiya, S. et al., Chem. Eur. J. 2015, 21, 7835-7840.

 
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