天然有機化合物討論会講演要旨集
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グッチフェロンAの全合成研究
安保 港平小泉 絵梨吉田 圭佑小椋 章弘高尾 賢一
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グッチフェロンAの全合成研究

グッチフェロンA (1)は、1992年にBoydらによってオトギリソウ科の植物であるSymphonia globuliferaおよびGarcinia livingstoneiより単離、構造決定された、多環状ポリプレニル化アシルフロログルシノール(PPAP)類に属する天然有機化合物である)。その構造上の特徴としては、高度に官能基化されたビシクロ[3.3.1]ノナン-2,4,9-トリオン骨格、および3つの不斉四級炭素を有していることが挙げられる。生物学的性質としては、抗HIV活性)や抗マラリア原虫活性といった多様な生物活性を示すことが報告されている。その複雑な構造のため1の全合成は困難であったものの、2014年にPlietkerらによって1のラセミ体での全合成が報告された)。私たちは、独自に開発した不斉Claisen転位反応を用いて)、いまだ達成されていない1の不斉全合成を目指し、研究を行っている。

標的分子1の逆合成解析をScheme 1に示す。1は二環性化合物Aより誘導できるものとし、AはジケトエステルBのDieckmann縮合により合成できると考えた。Bはシクロヘキサノン誘導体Cより立体選択的な官能基導入を含む数工程の誘導を経て得られるものとし、CはジエステルDに対するDieckmann縮合を行うことで合成できると考えた。Dの持つ二連続不斉中心は、不斉補助基を用いた立体選択的Claisen転位反応によりFより構築することとした。

まず、不斉Claisen 転位反応を用いて、不斉四級炭素を含む二連続不斉中心の構築を行った(Scheme 2)。不斉補助基であるカンファースルタムを装着したプロピオル酸誘導体2に対し、ゲラニオールから誘導したアリルアルコール3をオキシMichael付加することにより、Claisen転位反応基質4を得た。得られた4をトルエン溶媒中加熱するとClaisen転位反応が進行し、望みの立体化学を有するメジャー体5-aを収率86%、マイナー体5-bを収率14%で得た。

続いて、得られたClaisen転位体5-aよりトリオール10への誘導を行った(Scheme 3)。安定イリドを用いたWittig反応を施し、不飽和エステル6を得た。得られた6に対してDIBAL-H還元により不斉補助基の除去とエステルの還元を一挙に行い、アルデヒド7を得、再度Wittig反応を行うことでトリエン8を合成した。8に対しメチルリチウムによる1,2-付加を行いジオール9とし、続いて官能基選択的なヒドロホウ素化-酸化反応によりトリオール10へと誘導した。

次に、重要中間体となるシクロヘキサノン誘導体17の合成を行った(Scheme 4)。トリオール10に対して酸化白金を触媒として接触水素添加を行い、2つのオレフィンを飽和し11を得た。続いてTEMPO酸化によりジカルボン酸12とした後、メチルエステル化を行うことでジエステル13を合成した。得られた13に対して酸触媒としてAmberlyst 15を用いてオレフィンを再生し、化合物14を得た。14に対しDieckmann縮合を行ったところ、位置選択的に環化反応が進行し、環化体15を高収率で得ることができた。そして、C-アリル化およびO-アリル化を一挙に行い、Claisen転位反応基質16を合成した。なお、16の立体化学の決定は行っていないが、立体電子効果により求電子剤がアキシアル位から近づき、

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グッチフェロンA (1)は、1992年にBoydらによってオトギリソウ科の植物であるSymphonia globuliferaおよびGarcinia livingstoneiより単離、構造決定された、多環状ポリプレニル化アシルフロログルシノール(PPAP)類に属する天然有機化合物である)。その構造上の特徴としては、高度に官能基化されたビシクロ[3.3.1]ノナン-2,4,9-トリオン骨格、および3つの不斉四級炭素を有していることが挙げられる。生物学的性質としては、抗HIV活性)や抗マラリア原虫活性といった多様な生物活性を示すことが報告されている。その複雑な構造のため1の全合成は困難であったものの、2014年にPlietkerらによって1のラセミ体での全合成が報告された)。私たちは、独自に開発した不斉Claisen転位反応を用いて)、いまだ達成されていない1の不斉全合成を目指し、研究を行っている。

標的分子1の逆合成解析をScheme 1に示す。1は二環性化合物Aより誘導できるものとし、AはジケトエステルBのDieckmann縮合により合成できると考えた。Bはシクロヘキサノン誘導体Cより立体選択的な官能基導入を含む数工程の誘導を経て得られるものとし、CはジエステルDに対するDieckmann縮合を行うことで合成できると考えた。Dの持つ二連続不斉中心は、不斉補助基を用いた立体選択的Claisen転位反応によりFより構築することとした。

まず、不斉Claisen 転位反応を用いて、不斉四級炭素を含む二連続不斉中心の構築を行った(Scheme 2)。不斉補助基であるカンファースルタムを装着したプロピオル酸誘導体2に対し、ゲラニオールから誘導したアリルアルコール3をオキシMichael付加することにより、Claisen転位反応基質4を得た。得られた4をトルエン溶媒中加熱するとClaisen転位反応が進行し、望みの立体化学を有するメジャー体5-aを収率86%、マイナー体5-bを収率14%で得た。

続いて、得られたClaisen転位体5-aよりトリオール10への誘導を行った(Scheme 3)。安定イリドを用いたWittig反応を施し、不飽和エステル6を得た。得られた6に対してDIBAL-H還元により不斉補助基の除去とエステルの還元を一挙に行い、アルデヒド7を得、再度Wittig反応を行うことでトリエン8を合成した。8に対しメチルリチウムによる1,2-付加を行いジオール9とし、続いて官能基選択的なヒドロホウ素化-酸化反応によりトリオール10へと誘導した。

次に、重要中間体となるシクロヘキサノン誘導体17の合成を行った(Scheme 4)。トリオール10に対して酸化白金を触媒として接触水素添加を行い、2つのオレフィンを飽和し11を得た。続いてTEMPO酸化によりジカルボン酸12とした後、メチルエステル化を行うことでジエステル13を合成した。得られた13に対して酸触媒としてAmberlyst 15を用いてオレフィンを再生し、化合物14を得た。14に対しDieckmann縮合を行ったところ、位置選択的に環化反応が進行し、環化体15を高収率で得ることができた。そして、C-アリル化およびO-アリル化を一挙に行い、Claisen転位反応基質16を合成した。なお、16の立体化学の決定は行っていないが、立体電子効果により求電子剤がアキシアル位から近づき、図に示すような望みの立体化学を有している生成物が得られたと考えている。16をトルエン溶媒中加熱することでClaisen転位反応を進行させ、ジアステレオマー比5:1で定量的に多置換シクロヘキサノン誘導体17を合成した。

重要中間体17の合成を達成できたので、次に架橋二環性骨格の構築法を確立するため、モデル化合物を用いて検討を行った(Scheme 5)。購入可能な18から3工程の誘導によりケトエステル19を合成した。19に対して直接的なC-アセチル化を試みたものの、目的とする20は得られず、エノールアセテート21を得るのみであった。また、向山アルドール反応を用いて検討したところ、ラクトン22を得ることはできたものの、20への誘導は困難であった。

そこで、エノールアセテート21を用いて合成を進めることとした(Scheme 6)。21を塩基で処理するとDieckmann型縮合が進行し二環性化合物23が得られた。ケトンを保護する目的で23を2種のエノールエーテル24および25へと誘導し、それぞれに還元的アルドール環化反応)を行うことで架橋二環性骨格の構築を試みた。種々検討を行ったところ、DIBAL-Hを用いた条件において高収率で架橋二環性化合物26および27を得ることができた。しかし、いずれの化合物も続く酸化反応は進行せず、水酸基が脱離してしまった不飽和ケトン30を得るのみであった。この原因として、エノールエーテルの強い電子供与性により、脱離が促進されていることが考えられた。

この問題を解決するため、ケトラクトン23を電子求引性基によるエノールエーテルへと変換し、誘導を行うこととした(Scheme 7)。23に対しトリフラート化を行い、エノールトリフラート31を得た。得られた31に対して還元的アルドール環化反応、続く酸化反応を試みたところ、30の生成を完全に抑えることができ、高収率でトリオン等価体33を得ることができた。そして33を水酸化ナトリウム水溶液で処理することで、トリオン34をケト‐エノール互変異性の平衡混合物として合成することに成功した。

 以上のように、私たちは重要中間体となるシクロヘキサノン誘導体17を立体選択的に合成することに成功した。また、モデル化合物を用いて天然物の有する特徴的な架橋二環性骨格の構築法を開発した。今後はこの手法を重要中間体17に適用し、グッチフェロンA (1)の全合成を達成したいと考えている。

References

1) Gustafson, K. R.; Blunt, J. W.; Munro, M. H. G.; Fuller, R. W.; McKee, T. C.; Cardellina, J. H., II; McMahon, J. B.; Cragg, G. M.; Boyd, M. R. Tetrahedron 1992, 48, 10093.

2) Horeischi, F.; Biber, N.; Plietker, B. J. Am. Chem. Soc. 2014, 136, 4026.

3) Takao, K.; Sakamoto, S.; Touati, M. A.; Kusakawa, Y.; Tadano, K. Molecules 2012, 17, 13330.

4) Martin, J.; Parker, W.; Shroot, B.; Stewart, T. J. Chem. Soc. (C) 1967, 101.

 
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