天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
58
会議情報

オトギリソウ科Hypericum属およびTriadenum属植物から単離した新規ベンゾフェノン誘導体の構造
田中 直伸矢野 優希大屋 厚小林 淳一柏田 良樹
著者情報
会議録・要旨集 フリー HTML

p. Poster10-

詳細
オトギリソウ科Hypericum属およびTriadenum属植物から単離した新規ベンゾフェノン誘導体の構造

 オトギリソウ科植物に含有されるメロテルペンや、ベンゾフェノン誘導体を含むアシルフロログルシノール誘導体は、特異な生物活性や化学構造を有することから、医薬リードならびに全合成研究のターゲットとして注目されている。我々の研究グループは、オトギリソウ科植物に含まれる成分の探索研究を行っており、これまでに、Hypericum属の植物から種々のメロテルペンやアシルフロログルシノール誘導体を単離・報告している1)。この研究の一環として、徳島県産Hypericum patulumならびに北海道産Triadenum japonicumの抽出エキスについて、詳細な成分探索を行った。その結果、8種の新規ベンゾフェノン誘導体1–8を単離したので、それらの構造と生物活性について報告する。

1. 抽出・分離

徳島県で採集したH. patulum の地上部をMeOHで抽出後、抽出物をn-hexaneと水で分配した。n-Hexane可溶部を各種クロマトグラフィーで繰り返し分離し、新規ベンゾフェノン誘導体hypatulin A (1) および B (2) を単離した (Chart 1)。

Chart 1. Structures of hypatulins A (1) and B (2) from Hypericum patulum, and (–)-nemorosonol (3) and trijapins A–E (4–8) from Triadenum japonicum.

 北海道で採集したT. japonicum地上部のMeOH抽出エキスについても同様に成分を探索し、新規ベンゾフェノン誘導体 (–)-nemorosonol (3) ならびにtrijapin A–E (4–8) を単離した。

2. Hypatulin A (1) およびB (2) の構造

 Hypatulin A (1) は光学活性な無色非結晶性の固体として単離され、HRESIMSより分子式C32H40O4が明らかになった。1D NMRスペクトルの解析から、1は3個のプレニル基と1個のメチル基、ならびにベンゾイル基を有する化合物であると示唆された (Table 1)。1H-1H COSYとHMBCスペクトルを詳細に解析し、三環性のoctahydro-1,5-methanopentalene部分の構造と、前述の置換基の結合位置を明らかにした (Fig. 1A)。3位水酸基の存在は、重水素置換シフトから支持された。NOESYスペクトルを解析し、6位および8位の相対配置をFig. 1Bに示した配置と帰属した。

 Hypatulin A (1) の絶対立体配置を、ECDスペクトルの実測値と計算値の比較により明らかにした。すなわち、2種のエナンチオマーのECDスペクトルをTDDFT法により計算し、実測値と比較したところ (Fig. 2)、1S,3R,4R,6R,7R,8S体のスペクトルが実測値と類似していたので、1の絶対立体配置をChart 1に示した配置と帰属した。

 Hypatulin B (2) の分子式はC33H44O5であり、1D NMRスペクトルの解析から1と同様の置換基をもつ化合物であることが示唆された。各種2D NMRスペクトルの解析 (Fig. 3) から、2の構造をbicyclo[3.2.1]octane部分に3個のプレニル基、1個のメチル基、1個の水酸基、および1個のカルボン酸メチルが結合した構造と推定した。Hypatulin A (1) をメタノール中4-ジメチルアミノピリジンで処理し、得られた1aとhypatulin B (2) の1H NMR スペクトルと比旋光度が一致したことから、2の絶対立体配置をChart 1に示した配置と帰属した。

Table 1. 1D NMR data for hypatulins A (1) and B (2) in CD3OD.

(View PDFfor the rest of the abstract.)

 オトギリソウ科植物に含有されるメロテルペンや、ベンゾフェノン誘導体を含むアシルフロログルシノール誘導体は、特異な生物活性や化学構造を有することから、医薬リードならびに全合成研究のターゲットとして注目されている。我々の研究グループは、オトギリソウ科植物に含まれる成分の探索研究を行っており、これまでに、Hypericum属の植物から種々のメロテルペンやアシルフロログルシノール誘導体を単離・報告している1)。この研究の一環として、徳島県産Hypericum patulumならびに北海道産Triadenum japonicumの抽出エキスについて、詳細な成分探索を行った。その結果、8種の新規ベンゾフェノン誘導体18を単離したので、それらの構造と生物活性について報告する。

1. 抽出・分離

徳島県で採集したH. patulum の地上部をMeOHで抽出後、抽出物をn-hexaneと水で分配した。n-Hexane可溶部を各種クロマトグラフィーで繰り返し分離し、新規ベンゾフェノン誘導体hypatulin A (1) および B (2) を単離した (Chart 1)。

Chart 1. Structures of hypatulins A (1) and B (2) from Hypericum patulum, and (–)-nemorosonol (3) and trijapins A–E (48) from Triadenum japonicum.

 北海道で採集したT. japonicum地上部のMeOH抽出エキスについても同様に成分を探索し、新規ベンゾフェノン誘導体 (–)-nemorosonol (3) ならびにtrijapin A–E (48) を単離した。

2. Hypatulin A (1) およびB (2) の構造

 Hypatulin A (1) は光学活性な無色非結晶性の固体として単離され、HRESIMSより分子式C32H40O4が明らかになった。1D NMRスペクトルの解析から、1は3個のプレニル基と1個のメチル基、ならびにベンゾイル基を有する化合物であると示唆された (Table 1)。1H-1H COSYとHMBCスペクトルを詳細に解析し、三環性のoctahydro-1,5-methanopentalene部分の構造と、前述の置換基の結合位置を明らかにした (Fig. 1A)。3位水酸基の存在は、重水素置換シフトから支持された。NOESYスペクトルを解析し、6位および8位の相対配置をFig. 1Bに示した配置と帰属した。

 Hypatulin A (1) の絶対立体配置を、ECDスペクトルの実測値と計算値の比較により明らかにした。すなわち、2種のエナンチオマーのECDスペクトルをTDDFT法により計算し、実測値と比較したところ (Fig. 2)、1S,3R,4R,6R,7R,8S体のスペクトルが実測値と類似していたので、1の絶対立体配置をChart 1に示した配置と帰属した。

 Hypatulin B (2) の分子式はC33H44O5であり、1D NMRスペクトルの解析から1と同様の置換基をもつ化合物であることが示唆された。各種2D NMRスペクトルの解析 (Fig. 3) から、2の構造をbicyclo[3.2.1]octane部分に3個のプレニル基、1個のメチル基、1個の水酸基、および1個のカルボン酸メチルが結合した構造と推定した。Hypatulin A (1) をメタノール中4-ジメチルアミノピリジンで処理し、得られた1aとhypatulin B (2) の1H NMR スペクトルと比旋光度が一致したことから、2の絶対立体配置をChart 1に示した配置と帰属した。

Table 1. 1D NMR data for hypatulins A (1) and B (2) in CD3OD.

Figure 3. (A) Selected 2D NMR correlations for hypatulin A (1), and (B) selected NOESY correlations and the relative stereochemistry for the core unit of 1.

3. Hypatulin A (1) およびB (2) の予想生合成経路

 Hypatulin A (1) は、4個のイソプレンユニットを有するベンゾフェノン誘導体 (予想生合成前駆体X) から生合成されると考えられる (Scheme 1)。Hypatulin B (2) は1の環開裂により生じると考えられる。

Scheme 1. Possible biogenetic pathway of hypatulins A (1) and B (2).

4. (–)-Nemorosonol (3) およびtrijapin A–E (4–8) の構造2)

(–)-Nemorosonol (3) の分子式はC33H42O4であり、その1D NMRスペクトルは以前にオトギリソウ科植物Clusia nemorosaから単離されているベンゾフェノン誘導体 (+)-nemorosonol3)のものと一致した。一方、3の比旋光度は (+)-nemorosonolのものと逆の符号であったため、3を (+)-nemorosonolのエナンチオマーと帰属した。

(+)-Nemorosonolの絶対立体配置が未帰属であったため、両エナンチオマーのECDスペクトルを計算し、実測値と比較した (Fig. 4)。この結果から、(–)-nemorosonol (3) の絶対立体配置をChart 1に示した配置と帰属した。

2D NMR スペクトルの解析から、trijapin A–C (46) の構造を、3と同様のtricyclo[4.3.1.03,7]decane骨格を有するベンゾフェノン誘導体と推定した。46のECDスペクトルが3のものと類似していたことから、46のtricyclo-[4.3.1.03,7]decane部分の絶対立体化学は、3のものと同様と判断した(Chart 1)。Trijapin D (7) および E (8) は、それぞれ1,4-ジオキサン部分とヒドロペルオキシ基を有するベンゾフェノン誘導体である(Chart 1)。

6. 新規ベンゾフェノン誘導体 (1–8) の抗菌活性

 新規ベンゾフェノン誘導体 (18) の抗菌活性を評価した。その結果、hypatulin A (1) が Bacillus subtilis (MIC 16 mg/mL) に対して、(–)-nemorosonol (3) がEscherichia coli (MIC 8 mg/mL)、Staphylococcus aureus (MIC 16 mg/mL)、B. subtilis (MIC 16 mg/mL)、Micrococcus luteus (MIC 32 mg/mL)、Aspergillus niger (IC50 16 mg/mL)、Trichophyton mentagrophytes (IC50 8 mg/mL)、および Candida albicans (IC50 32 μg/mL) に対して、trijapin D (7) が C. albicans (IC50 8 μg/mL) に対して抗菌活性を示した。

7. まとめ

 オトギリソウ科に属する2種の植物、Hypericum patulumならびにTriadenum japonicumの詳細な成分探索を行い、8種の新規ベンゾフェノン誘導体hypatulin A (1) および B (2)、(–)-nemorosonol (3)、trijapin A–E (48) を単離した。これらの構造を、各種スペクトルデータの解析、ECDスペクトルの計算、ならびに化学変換により明らかにした。Hypatulin A (1) は、ユニークなoctahydro-1,5-methanopentalene部分をもつベンゾフェノン誘導体である。T. japonicum由来の3は、以前にClusia nemorosa(Clusiaceae) から単離された (+)-nemorosonolのエナンチオマーであり、生合成に興味が持たれる化合物である。

謝辞

 植物採集にご協力いただいた杜植物園 杜 和彦 氏、医薬基盤研究所 薬用植物資源研究センター 林 茂木 博士、菱田 敦之 博士、川原 信夫 博士、抗菌活性を評価していただいた、千葉大学真菌医学センター 五ノ井 透 教授、国際医療福祉大学薬学部 多田納 豊 講師に感謝いたします。

参考文献

1) Tanaka, N.; Kobayashi, J. Heterocycles 2015, 90, 23-40.

2) Oya, A.; Tanaka, N.; Kusama, T.; Kim, S.-Y.; Hayashi, S.; Kojoma, M.; Hishida, A.; Kawahara, N.; Sakai, K.; Gonoi, T.; Kobayashi, J. J. Nat. Prod. 2015, 78, 258-264.

3) (a) Delle Monache, F.; Delle Monache, G.; Moura Pinheiro, R.; Radics, L. Phytochemistry 1988, 27, 2305−2308. (b) Cerrini, S.; Lamba, D.; Delle Monache, F.; Moura Pinherio, R. Phytochemistry 1993, 32, 1023−1028.

 
© 2016 天然有機化合物討論会電子化委員会
feedback
Top