天然有機化合物討論会講演要旨集
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Indolo[2,1-b]quinazolineアルカロイドの簡便全合成
阿部 匠伊藤 智貴田口 諒石倉 稔
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Indolo[2,1-b]quinazolineアルカロイドの簡便全合成

1. 序論

 近年、インドロ[2,1-b]キナゾリンを基本骨格とするアルカロイド群がPhaius mishmensis (Orchidaceae)1)、Isatis indigotica (Cruciferae)2)、や Cephalantheropsis gracilis (Orchidaceae) 3)から相次いで見出されている (図1)。Phaitanthrin D (6)とラセミ体として単離されたcruciferane (8)を除き、絶対立体配置はX線結晶構造解析により決定された。また2014年、中国伝統薬物成分として知られるtryptanthrin (1a)の8位メチル体1bに、胚性腫瘍 (Embryonal Carcinoma) 細胞から心筋様細胞 (cardiomyocyte-like cell)への分化促進作用を有することが報告された4)。インドロ[2,1-b]キナゾリン骨格を有する特異な構造とともに多彩な生物活性を示すことから、新規合成法の開発や生物活性について大きな関心を集めている5)

 これらインドロ[2,1-b]キナゾリンアルカロイド1-9の合成では、キナゾリン骨格の構築が鍵となる。今回我々は、インドロ[2,1-b]キナゾリン簡便合成法の開発とその応用性の検討を行い、6を除くインドロ[2,1-b]キナゾリンアルカロイドの全合成を達成した。本討論会では合成の経緯と詳細について報告する。

2.合成計画

 我々の合成計画をScheme 1に示す。まず、インドール-3-カルバルデヒド (10a) および スカトール (11a)の酸化反応により生じるホルメート12aの酸化的二量化反応によるtryptanthrin (1a) のワンポット合成を計画した (式1)。Phaitanthrin A (3), B (4)、cruciferane (8)とcephalanthrin A (9) は 合成した1aから変換することとした。また、イサト酸無水物 (13a)と10bの酸化的縮合によりインドロ[2,1-b]キナゾリン骨格が構築出来れば、phaitanthrin C (5) へ変換できると考えた (式2)。

Phaitanthrin E (7) はインドールカルボン酸メチルエステル (15)とイサト酸無水物 (13a)の縮合/C-Hアミノ化反応によりワンポットで合成できると期待した (式3)。

 これら合成計画の特徴として、1) ワンポットもしくは短工程であること、2) 出発原料が安価に市販されているため各種誘導体合成に適していることが挙げられる。

3.酸化的二量化反応によるインドロキナゾリン1の合成

 これまでに我々は、複素環アルデヒドのDakin酸化によるキノンのワンポット構築法を鍵反応の一つとする抗腫瘍性抗生物質calothrixin AとBの全合成を報告している6)。全合成の検討途上において、Dakin酸化のモデル基質としてインドール-3-カルバルデヒド (10a) を用い検討したところ、偶然にもtryptanthrin (1a) がワンポット反応操作で得られた (スキーム 2)。この発見を契機として、1aの簡便合成法の開発研究に着手した。まず、アルデヒド10aを基質として用いDakin酸化を検討した (表1)。酸化剤としてmCPBAを用いた場合、収率5%で1aを得た。過酸化水素を用いた反応において目的物を得ることはできなかったが、触媒量の(PhSe)2を加えると収率が向上した。さらに検討した結果、過酸化尿素を用いると収率55%で1aが得られることを見出した。さらに、置換基を持つアルデヒド10のDakin酸化を検討した結果、種々の置換基R1を持つ1を得た7)

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1. 序論

 近年、インドロ[2,1-b]キナゾリンを基本骨格とするアルカロイド群がPhaius mishmensis (Orchidaceae)1)Isatis indigotica (Cruciferae)2)Cephalantheropsis gracilis (Orchidaceae) 3)から相次いで見出されている (図1)。Phaitanthrin D (6)とラセミ体として単離されたcruciferane (8)を除き、絶対立体配置はX線結晶構造解析により決定された。また2014年、中国伝統薬物成分として知られるtryptanthrin (1a)の8位メチル体1bに、胚性腫瘍 (Embryonal Carcinoma) 細胞から心筋様細胞 (cardiomyocyte-like cell)への分化促進作用を有することが報告された4)。インドロ[2,1-b]キナゾリン骨格を有する特異な構造とともに多彩な生物活性を示すことから、新規合成法の開発や生物活性について大きな関心を集めている5)

 これらインドロ[2,1-b]キナゾリンアルカロイド1-9の合成では、キナゾリン骨格の構築が鍵となる。今回我々は、インドロ[2,1-b]キナゾリン簡便合成法の開発とその応用性の検討を行い、6を除くインドロ[2,1-b]キナゾリンアルカロイドの全合成を達成した。本討論会では合成の経緯と詳細について報告する。

2.合成計画

 我々の合成計画をScheme 1に示す。まず、インドール-3-カルバルデヒド (10a) および スカトール (11a)の酸化反応により生じるホルメート12aの酸化的二量化反応によるtryptanthrin (1a) のワンポット合成を計画した (式1)。Phaitanthrin A (3), B (4)、cruciferane (8)とcephalanthrin A (9) は 合成した1aから変換することとした。また、イサト酸無水物 (13a)と10bの酸化的縮合によりインドロ[2,1-b]キナゾリン骨格が構築出来れば、phaitanthrin C (5) へ変換できると考えた (式2)。

Phaitanthrin E (7) はインドールカルボン酸メチルエステル (15)とイサト酸無水物 (13a)の縮合/C-Hアミノ化反応によりワンポットで合成できると期待した (式3)。

 これら合成計画の特徴として、1) ワンポットもしくは短工程であること、2) 出発原料が安価に市販されているため各種誘導体合成に適していることが挙げられる。

3.酸化的二量化反応によるインドロキナゾリン1合成

 これまでに我々は、複素環アルデヒドのDakin酸化によるキノンのワンポット構築法を鍵反応の一つとする抗腫瘍性抗生物質calothrixin AとBの全合成を報告している6)。全合成の検討途上において、Dakin酸化のモデル基質としてインドール-3-カルバルデヒド (10a) を用い検討したところ、偶然にもtryptanthrin (1a) がワンポット反応操作で得られた (スキーム 2)。この発見を契機として、1aの簡便合成法の開発研究に着手した。まず、アルデヒド10aを基質として用いDakin酸化を検討した (表1)。酸化剤としてmCPBAを用いた場合、収率5%でaを得た。過酸化水素を用いた反応において目的物を得ることはできなかったが、触媒量の(PhSe)2を加えると収率が向上した。さらに検討した結果、過酸化尿素を用いると収率55%で1aが得られることを見出した。さらに、置換基を持つアルデヒド10のDakin酸化を検討した結果、種々の置換基R1を持つ1を得た7)

 次に我々は、3-メチルインドール (11a) の酸化的二量化反応によるトリプタンスリンのワンポット合成を計画した(スキーム 3)。すなわち、11aのC-H酸化反応により系中にて10aが生成した後、10aのDakin酸化/酸化的二量化反応が進行することで、一挙に1aを得ることができるのではないかと期待した。検討した結果、化学当論量以上のCuIとPCCを組み合わせると酸化的二量化反応が円滑に進行し、1aを得ることができた (表2)。また、本反応は種々の置換基を持つ11aに適用可能であり、種々の置換基を持つ1を得ることができた8)

4.イサト酸無水物との酸化的縮合反応によるインドロキナゾリン1合成

 酸化的二量化反応の反応メカニズムの考察から、本反応はアルデヒド1013の酸化的カップリング反応であると考えた。そこで、1013のヘテロカップリング反応を計画し検討した(スキーム 4)。検討の結果、期待通り反応は進行し高収率で種々の置換基 (R1, R2) を持つ1を得ることができた。

 以上より、インドロキナゾリン1への3つの合成アプローチ、アルデヒドのタンデム型Dakin酸化反応 (スキーム 2)、スカトールのC-H酸化を引き金とする酸化的二量化反応(スキーム 3)、アルデヒドとイサト酸無水物の酸化的縮合反応(スキーム 4)の開発に成功した。

5.インドロ[2,1-b]キナゾリンアルカロイドの合成

 続いて、天然物の合成を検討した(スキーム 5)。先の酸化的二量化反応の酸化剤を検討中に新規三量化反応を見出した。すなわち、(PhSe)2と過酸化尿素を用い反応を行ったところ、選択的にcandidine (2) を得た (式 4)。この結果は三量化反応による2の初めての合成例である。次に、トリプタンスリンのアセトン-DMF溶媒をモレキュラーシシーブス存在下、室温で撹拌しphaitanthrin A (3)を得た(式 5)。THF中ブロモ酢酸メチルと亜鉛、トリメチルシリルクロライドから調製したリフォマツキー試薬に1aを加えて60 °Cで撹拌した結果、92%の収率でphaitanthrin B (4) を得た(式 6)。さらに、NaBH4を用いる還元的環化反応によりcruciferane (8)に導いた。

 次に、phaitanthrin C (5) の合成を検討した(式7)。4位にBnO基を持つアルデヒド10b13aの酸化的縮合反応を行い、1cを75%の収率で得た。そして、1cのベンゼン溶液にMgBr2を加えて加熱還流することでBn基を除去し、phaitanthrin C (5) に変換した。続いて、Baeyer-Villiger酸化を用いるcephalanthrin A (9) の合成を検討した(式8)。まず、アセトフェノンと1aのAldol反応によりケトン17を合成した。そして、定法に従いBaeyer-Villiger酸化を行ったところ、反応は全く進行しなかった。酸化反応条件を検討した結果、過酸化尿素と触媒量の濃硫酸を用いると収率90%で目的のエステル18を得ることができた。最後に、水酸化リチウムを用いエステル加水分解を行いcephalanthrin A (9) を87%の収率で得た。

6. Phaitanthrin E (7)のワンポット合成

 最後に、phaitanthrin E (7) の合成を検討した (スキーム6)。まず、インドール15と酸無水物13aの酸化的縮合を検討したが、反応は全く進行せず原料回収であった。次に、1513aの反応においてCuIを用いたところ、縮合/分子内C-Hアミノ化反応が進行し中間体16を経て7がワンポット操作で得られることを見出した9)。しかし、高温加熱条件という過酷な反応条件のため、基質適用範囲の拡大において課題を残した。

 そこで、基質適用範囲の拡大を目指して室温で進行するような緩和な反応条件を検討した。種々検討した結果、トリエチルアミン存在下、インドール15とNCSから系中でクロロインドレニン19を調製後、アントラニル酸20と触媒量のトリフルオロ酢酸を含む塩化メチレン溶液を加えたところ、7を収率90%で得ることができた (スキーム7)。さらに、本反応は緩和な条件で進行するため基質適用範囲の拡張にも成功し、種々の置換基を持つ7を得ることができた。

7.まとめ

 以上、安価な原料からワンポットかつ簡便な実験操作でインドロ[2,1-b]キナゾリン骨格を構築できる新規合成手法の開発に成功した。さらに、本手法を利用してtryptanthrin (1a)、candidine (2)、phaitanthrin A (3)、phaitanthrin B (4)、phaitanthrin C (5)、phaitanthrin E (7)、cruciferane (8) とcephalanthrin A (9) の合成を達成した。本法はインドロ[2,1-b]キナゾリン骨格への新規合成アプローチであり、種々の誘導体の合成と天然物合成への応用が可能であることを示した。

8.参考文献

1) Jao, C.-W.; Lin, W.-C.; Wu, Y.-T.; Wu, P.-L. J. Nat. Prod. 2008, 71, 1275-1279.

2) Chen, M.; Gan, L.; Lin, S.; Wang, X.; Li, L.; Li, Y.; Zhu, C.; Wang, Y.; Jiang, B.; Jiang, J.; Yang, Y.; Shi, J. J. Nat. Prod. 2012, 75, 1167–1176.

3) (a) Hwang, J.-M.; Oh, T.; Kaneko, T.; Upton, A. M.; Franzblau, S. G.; Ma, Z.; Cho, S.-N.; Kim, P. J. Nat. Prod. 2013, 76, 354-367. (b) Chang, C.-F.; Hsu, Y.-L.; Lee, C.-Y.; Wu, C.-H.; Wu, Y.-C.; Chuang, T.-H. Int. J. Mol. Sci. 2015, 16, 3980-3989.

4) (a) Tucker, A. M.; Grundt, P. ARKIVOC 2012, 546-569. (b) Jahng, Y. Arch. Pharm. Res. 2013, 36, 517-535.

5) Seya, K.; Yamaya, A.; Kamachi, S.; Murakami, M.; Kitahara, H.; Kawakami, J.; Okumura, K.; Murakami, M.; Motomura, S.; Furukawa, K. J. Nat. Prod., 2014, 77, 1413–1419.

6) (a) Abe, T.; Ikeda, T.; Yanada, R.; Ishikura, M. Org. Lett. 2011, 13, 3356-3359. (b) Abe, T.; Ikeda, T.; Choshi, T.; Hibino, S.; Hatae, N.; Yanada, R.; Ishikura, M. Eur. J. Org. Chem. 2012, 5018-5027.

7) Abe, T.; Itoh, T.; Choshi, T.; Hibino, S.; Ishikura, M. Tetrahedron Lett., 2014, 55, 5268-5270.

8) Itoh, T.; Abe, T.; Nakamura, S.; Ishikura, M. Heterocycles 2015, 91, 1423-1428.

9) Itoh, T.; Abe, T.; Choshi, T.; Nishiyama, T.; Ishikura, M. Heterocycles 2016, in press.

 
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