天然有機化合物討論会講演要旨集
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ヒトリシズカ (Chloranthus japonicus) より単離したC25テルペノイドの構造
金 尚永長嶋 紘紗子田中 直伸高石 喜久柏田 良樹小林 淳一高上馬 希重
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ヒトリシズカ (Chloranthus japonicus) より単離したC25テルペノイドの構造

センリョウ科 (Chloranthaceae) は5属、約70種の植物から構成され、そのうちChloranthus属植物はアジアの熱帯地方及び東アジアの温帯に十数種分布している。Chloranthus属植物に含有されるlindenane型セスキテルペンの単量体や二量体は、細胞毒性1)、細胞接着阻害活性2)、K+ channel阻害活性3,4)、チロシナーゼ阻害活性5)などの生物活性を示すことが報告されおり、本属植物は医薬シードの探索対象として大変興味深い植物群である。

植物由来の特異な化学構造や生物活性を有する新規天然物の探索研究の一環として、我々はこれまでにC. spicatus根部より10種のlindenane型セスキテルペン二量体を報告している6-8)。今回、ヒトリシズカ (C. japonicus) に興味を持ち、成分探索を行った。ヒトリシズカは、中国では神経痛、リウマチ、痛風などの改善に用いられるが、北海道ではアイヌ民族が「イネハム」と称し、胃薬として利用している。本植物の詳細な成分探索の結果、4種の新規テルペノイド (1–4) を単離し、その構造を明らかにしたので報告する。

抽出・分離

 北海道様似郡様似町で採集したヒトリシズカ地上部を乾燥後、MeOHで抽出し、得られたエキスをEtOAcと水で分配した。このうちEtOAc可溶部を各種クロマトグラフィーにより繰り返し分離・精製し、新規C25テルペノイドhitorin A–C (1–3) と新規C22テルペノイドhitorin D (4) を単離した。

Figure 1. Structures of hitorins A–D (1–4).

Hitorin A (1) の構造

 Hitorin A (1) は無色非結晶性の個体として得られ、その分子式を高分解能ESIMSよりC25H36O6と帰属した。IRスペクトルでは水酸基 (3520 cm-1) とカルボニル基 (1794 and 1704 cm-1) に由来する吸収が観測された。1D NMRスペクトルでは2個のカルボニル基、2個のアセタール炭素、1個のオキシメチレン、1個の1,1,2-三置換シクロプロパン環、1個のイソプロピル基に由来するシグナルが観測さ

Figure 2. (A) Selected 2D NMR correlations for two partial structures (units A and B) of hitorin A (1), and (B) the gross structure of 1.

れた (Table 1)。1H-1H COSYとHMBCスペクトルの解析から、4,5-seco-eudesmane型セスキテルペン部分 (unit A) とthujane型モノテルペン部分 (unit B) の存在が示唆された (Figure 2A)。1794 cm-1のIR吸収と、D-HMBCスペクトルにおける5-OHとC-11間の相関から、unit Aにg-ブチロラクトン環とテトラヒドロフラン環が存在することが示唆された (Figure 2A)。さらに、H2-10'とC-7及びC-8間のHMBC相関から、1をunit Aとunit Bがテトラヒドロフラン環を形成して結合した平面構造と帰属した (Figure 2B)。ROESYスペクトルの解析により、1の相対配置をFigure 3Aに示した配置と帰属した。

Hitorin B (2) の構造

 Hitorin B (2) の分子式は、HRESIMSより1と同一のC25H36O6であることが示唆された。2の1D NMRは、1のそれらと類似しており (

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センリョウ科 (Chloranthaceae) は5属、約70種の植物から構成され、そのうちChloranthus属植物はアジアの熱帯地方及び東アジアの温帯に十数種分布している。Chloranthus属植物に含有されるlindenane型セスキテルペンの単量体や二量体は、細胞毒性1)、細胞接着阻害活性2)、K+ channel阻害活性3,4)、チロシナーゼ阻害活性5)などの生物活性を示すことが報告されおり、本属植物は医薬シードの探索対象として大変興味深い植物群である。

植物由来の特異な化学構造や生物活性を有する新規天然物の探索研究の一環として、我々はこれまでにC. spicatus根部より10種のlindenane型セスキテルペン二量体を報告している6-8)。今回、ヒトリシズカ (C. japonicus) に興味を持ち、成分探索を行った。ヒトリシズカは、中国では神経痛、リウマチ、痛風などの改善に用いられるが、北海道ではアイヌ民族が「イネハム」と称し、胃薬として利用している。本植物の詳細な成分探索の結果、4種の新規テルペノイド (14) を単離し、その構造を明らかにしたので報告する。

抽出・分離

 北海道様似郡様似町で採集したヒトリシズカ地上部を乾燥後、MeOHで抽出し、得られたエキスをEtOAcと水で分配した。このうちEtOAc可溶部を各種クロマトグラフィーにより繰り返し分離・精製し、新規C25テルペノイドhitorin A–C (13) と新規C22テルペノイドhitorin D (4) を単離した。

Figure 1. Structures of hitorins A–D (14).

Hitorin A (1) の構造

 Hitorin A (1) は無色非結晶性の個体として得られ、その分子式を高分解能ESIMSよりC25H36O6と帰属した。IRスペクトルでは水酸基 (3520 cm-1) とカルボニル基 (1794 and 1704 cm-1) に由来する吸収が観測された。1D NMRスペクトルでは2個のカルボニル基、2個のアセタール炭素、1個のオキシメチレン、1個の1,1,2-三置換シクロプロパン環、1個のイソプロピル基に由来するシグナルが観測さ

Figure 2. (A) Selected 2D NMR correlations for two partial structures (units A and B) of hitorin A (1), and (B) the gross structure of 1.

れた (Table 1)。1H-1H COSYとHMBCスペクトルの解析から、4,5-seco-eudesmane型セスキテルペン部分 (unit A) とthujane型モノテルペン部分 (unit B) の存在が示唆された (Figure 2A)。1794 cm-1のIR吸収と、D-HMBCスペクトルにおける5-OHとC-11間の相関から、unit Aにg-ブチロラクトン環とテトラヒドロフラン環が存在することが示唆された (Figure 2A)。さらに、H2-10'とC-7及びC-8間のHMBC相関から、1をunit Aとunit Bがテトラヒドロフラン環を形成して結合した平面構造と帰属した (Figure 2B)。ROESYスペクトルの解析により、1の相対配置をFigure 3Aに示した配置と帰属した。

Hitorin B (2) の構造

 Hitorin B (2) の分子式は、HRESIMSより1と同一のC25H36O6であることが示唆された。2の1D NMRは、1のそれらと類似しており (Table 1)、1H-1H COSYとHMBCスペクトルの解析から、21と同一の平面構造をもつことが示唆された (Figure 2 B)。ROESYスペクトルの解析から、21の4'位の立体化学が異なるジアステレオマーであることが明らかとなった (Figure 4A)。

Table 1. 1D NMR data for hitorins A (1) and B (2) in CDCl3.

Hitorin C (3) の構造

 Hitorin C (3) の分子式は、HRESIMSよりC25H36O5と示唆された。1D NMRスペクトルの解析から、312と類似した構造を持つと推定されたが、313C NMRスペクトルでは、12で観測された1個のケトン基と1個のアセタール炭素の代わりに、2個の酸素官能基に結合した四級炭素に由来するシグナルが観測された。1H-1H COSYとHMBCスペクトルの解析から、312とは異なりeudesmane型のセスキテルペン部分 (unit A) をもつことが明らかとなった (Figure 5A)。ROESYスペクトルの解析から、3はFigure 5Bに示した相対配置であると帰属した。以上の結果から、3の構造を2個のシクロヘキサン環、1個のg-ブチロラクトン環、2個のテトラヒドロフラン環、1個のシクロペンタン環、1個のシクロプロパン環からなる七環性のC25テルペノイドと帰属した。

Figure 5. (A) Selected 2D NMR correlations for unit A of hitorin C (3), and (B) key ROESY correlations and the relative configuration for 3.

Hitorin D (4) の構造

 Hitorin D (4) は無色非結晶性の個体として得られ、その分子式は、HRESIMSよりC22H34O3であることが明らかになった。4の1D NMRスペクトルは、3のそれらと類似していたが、4ではエステルカルボニル基に由来するシグナルが観測されなかった。1H-1H COSYとHMBCスペクトルの解析から、4は2個のシクロヘキサン環、1個のテトラヒドロピラン環、1個のテトラヒドロフラン環、1個のシクロペンタン環、1個のシクロプロパン環からなる平面構造をもつことが明らかになった (Figure 6A)。ROESYスペクトルの解析から、4の相対配置をFigure 6Bに示した配置と推定した。

Figure 6. (A) Selected 2D NMR correlations and the gross structure for hitorin D (4), and (B) key ROESY correlations and the relative configuration for 4.

Hitorin A–D (1–4)の予想生合成経路

 Hitorin A–D (14) は、高度に縮環した特異な化学構造をもつC25あるいはC22のテルペノイドであり、atractylenoid IIIなどのeudesmane型セスキテルペンとsabineneなどのthujane型モノテルペンから生合成されると考えられる(Scheme 1)。生合成の予想中間体として、C25のテルペノイドXが考えられる。

Scheme 1. Plausible biogenetic pathway for hitorins A-D (1-4).

総括

 センリョウ科植物ヒトリシズカ (C. japonicus) 地上部の成分探索を行い、新規C25テルペノイドhitorins A–C (13)、 および新規C22テルペノイド hitorin D (4) を単離し、各種スペクトルデータの解析によりそれらの構造を明らかにした。14はeudesmane型セスキテルペンとthujane型モノテルペンのハイブリット化合物として初めての報告例であり、構造中に多くの環構造を有するユニークな化合物である。

参考文献

1) Wu, B.; He, S.; Pan, Y. Tetrahedron Lett. 2007, 48, 453-456.

2) Kwon, O. E.; Lee, H. S.; Lee, S. W.; Bae, K. H.; Kim, K.; Hayashi, M.; Rho, M. C.; Kim, Y. K. J. Ethnopharmacol. 2006, 104, 270-277.

3) Yang, S. P.; Gao, Z. B.; Wang, F. D.; Liao, S. G.; Chen, H. D.; Zhang, C. R.; Hu, G. Y.; Yue, J. M. Org. Lett. 2007, 9, 903-906

4) Yang, S. P.; Gao, Z. B.; Wu Y.; Hu G. Y.; Yue, J. M. Tetrahedron, 2008, 64, 2027-2034.

5) Wu, B.; Chen, J.; Qu, H.; Cheng, Y. J. Nat. Prod. 2008, 71, 877-880.

6) Kim, S. Y.; Kashiwada, Y.; Kawazoe, K.; Murakami, K.; Sun, H. D.; Li, S. L.; Takaishi, Y. Phytochemistry Lett. 2009, 2, 110-113.

7) Kim, S. Y.; Kashiwada, Y.; Kawazoe, K.; Murakami, K.; Sun, H. D.; Li, S. L.; Takaishi, Y. Tetrahedron Lett. 2009, 50, 6032-6035.

8) Kim, S. Y.; Kashiwada, Y.; Kawazoe, K.; Murakami, K.; Sun, H. D.; Li, S. L.; Takaishi, Y. Chem. Pharm. Bull. 2011, 59, 1281-1284.

 
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