天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
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Integrifolinの全合成
下牧 克也草間 博之岩澤 伸治
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Integrifolinの全合成

[概要]

 Integrifolin 1は1984年にAndryala integrifoliaから単離・構造決定されたguaianolide類であり[1]、培養ヒトがん細胞増殖阻害作用を示すことが報告されている[2]。構造的特徴として、ビシクロ[5.3.0]デカン骨格上に6つの不斉中心を有しており、また三カ所のexo-メチレン部位を持つ点が挙げられる。このようなexo-メチレン基を三カ所有するguaianolide類はいくつか単離報告例があるが、exo-メチレン基は酸・塩基性条件下で異性化しやすく、また特にα-メチレンラクトン部位はMichael受容体として反応性が高いため、これら類縁体の合成例は少ない[3]。Integrifolin 1もまた全合成の報告はなく、その合成においては、必要な官能基および立体化学を有するビシクロ[5.3.0]デカン骨格を効率よく合成すること、また三カ所のexo-メチレン基の導入が課題となる。

 一方、当研究室では鎖状のトリエンイン2に対し、触媒量のW(CO)6、NEt3存在下、トルエン溶液中で光照射することにより、立体選択的にビシクロ[5.3.0]デカン誘導体3が合成できることを報告している(Scheme 1)[4]。本環化反応は、アルキンの求電子的活性化を契機とし、シクロプロパン化反応、コープ転位、カルベン錯体の1,2水素移動によって環化体3が得られる。また反応は立体特異的に進行するため、シロキシジエン部位およびエンイン部位の幾何配置を適切に選択することで、望みの立体化学を有する環化体3を簡便に合成できる。そこで我々はこの環化反応を鍵反応としたintegrifolin 1の初の全合成を目的とし、以下に示す合成計画を立てた(Scheme 2)。

[合成計画]

 環化前駆体として、エンイン末端にラクトン部位構築のためのヒドロキシエチル基、シロキシジエン末端に水酸基等価体であるシリル基を有する鎖状トリエンイン4を合成し、環化反応によって三カ所の不斉中心を持つビシクロ[5.3.0]デカン誘導体5を合成する。環化体5からintegrifolin 1の全合成を達成する上で以下の三つの変換が重要になると考えた。

*現在の所属:学習院大理

A. 10位メチル基の導入と8位シリル基の水酸基への変換

B. ジエン部位の酸化による3,6位酸素官能基の導入

C. 三カ所のexo-メチレン基の導入

[ビシクロ[5.3.0]デカン誘導体の合成]

 環化前駆体であるトリエンイン11、およびその環化反応によるビシクロ[5.3.0]デカン誘導体12の合成を行った(Scheme 3)。出発原料として市販されている5-ヘキシン-1-オールを用い、常法に従いプロパルギルアルコール9を合成した。続いて、白金触媒であるKarstedt触媒を用いた末端アルキン部位のヒドロシリル化反応により、アルケニルシランへと変換した。TMS基の脱保護、アリルアルコール部位の酸化により不飽和ケトン10へと変換した後、薗頭カップリングによるエンイン部位の構築、不飽和ケトン部位のシリルエノールエーテル化を行うことで環化前駆体である鎖状のトリエンイン11を合成した。鍵反応である環化反応は、10 mol%のW(CO)6、1当量のNEt3

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[概要]

 Integrifolin 1は1984年にAndryala integrifoliaから単離・構造決定されたguaianolide類であり[1]、培養ヒトがん細胞増殖阻害作用を示すことが報告されている[2]。構造的特徴として、ビシクロ[5.3.0]デカン骨格上に6つの不斉中心を有しており、また三カ所のexo-メチレン部位を持つ点が挙げられる。このようなexo-メチレン基を三カ所有するguaianolide類はいくつか単離報告例があるが、exo-メチレン基は酸・塩基性条件下で異性化しやすく、また特にα-メチレンラクトン部位はMichael受容体として反応性が高いため、これら類縁体の合成例は少ない[3]。Integrifolin 1もまた全合成の報告はなく、その合成においては、必要な官能基および立体化学を有するビシクロ[5.3.0]デカン骨格を効率よく合成すること、また三カ所のexo-メチレン基の導入が課題となる。

 一方、当研究室では鎖状のトリエンイン2に対し、触媒量のW(CO)6、NEt3存在下、トルエン溶液中で光照射することにより、立体選択的にビシクロ[5.3.0]デカン誘導体3が合成できることを報告している(Scheme 1)[4]。本環化反応は、アルキンの求電子的活性化を契機とし、シクロプロパン化反応、コープ転位、カルベン錯体の1,2水素移動によって環化体3が得られる。また反応は立体特異的に進行するため、シロキシジエン部位およびエンイン部位の幾何配置を適切に選択することで、望みの立体化学を有する環化体3を簡便に合成できる。そこで我々はこの環化反応を鍵反応としたintegrifolin 1の初の全合成を目的とし、以下に示す合成計画を立てた(Scheme 2)。

[合成計画]

 環化前駆体として、エンイン末端にラクトン部位構築のためのヒドロキシエチル基、シロキシジエン末端に水酸基等価体であるシリル基を有する鎖状トリエンイン4を合成し、環化反応によって三カ所の不斉中心を持つビシクロ[5.3.0]デカン誘導体5を合成する。環化体5からintegrifolin 1の全合成を達成する上で以下の三つの変換が重要になると考えた。

*現在の所属:学習院大理

A. 10位メチル基の導入と8位シリル基の水酸基への変換

B. ジエン部位の酸化による3,6位酸素官能基の導入

C. 三カ所のexo-メチレン基の導入

[ビシクロ[5.3.0]デカン誘導体の合成]

 環化前駆体であるトリエンイン11、およびその環化反応によるビシクロ[5.3.0]デカン誘導体12の合成を行った(Scheme 3)。出発原料として市販されている5-ヘキシン-1-オールを用い、常法に従いプロパルギルアルコール9を合成した。続いて、白金触媒であるKarstedt触媒を用いた末端アルキン部位のヒドロシリル化反応により、アルケニルシランへと変換した。TMS基の脱保護、アリルアルコール部位の酸化により不飽和ケトン10へと変換した後、薗頭カップリングによるエンイン部位の構築、不飽和ケトン部位のシリルエノールエーテル化を行うことで環化前駆体である鎖状のトリエンイン11を合成した。鍵反応である環化反応は、10 mol%のW(CO)6、1当量のNEt3、MS4A存在下、トルエン溶媒中光照射することで速やかに進行し、目的の立体化学を有するビシクロ[5.3.0]デカン誘導体12を単一の立体異性体として得ることに成功した。

[10位メチル基の導入と8位シリル基の水酸基への変換]

 環化反応により基本炭素骨格を構築できたため、メチル基の導入と続くシリル基の水酸基への変換について検討を行った(Scheme 4)。まず初めに、シリルエノールエーテル部位をTBAF、酢酸を用いて加水分解し、ケトン13へと変換した。得られたケトン13に対し、Et2O溶媒中、−78 oCでメチルリチウムを作用させると、立体選択的にメチル化反応が進行した。そのまま反応系に溶媒量のジメトキシエタン(DME)を加え室温まで昇温すると、メチル化反応によって生じたアルコキシドがケイ素上のフェニル基と置換反応を起こし、環状シリルエーテル14が一挙に得られることを見出した[5]。このようにして得られた環状シリルエーテル14を、玉尾酸化条件に付すことでシリル基の水酸基への変換を達成し、ジオール15を得ることができた。その後、それぞれの水酸基をTBS基およびTMS基で保護することで16へと変換した。

[ジエン部位の酸化による3,6位酸素官能基の導入]

 次にintegrifolin 1の3,6-位に相当する位置に酸素官能基を導入すべく、ジエン部位の酸化反応について種々条件検討を行った(Scheme 5)。その結果、酸化剤としてm-CPBAを用いてジエン16との反応を行うと、3位にベンゾアートおよび6位に水酸基が導入されたアリルアルコール18が一挙に得られることを見出した。この反応ではまず、立体的に空いている紙面奥側から三置換オレフィン部位でエポキシ化反応が進行し、ビニルエポキシド17が生成する。その後、速やかにクロロベンゾアートが3位に付加し、エポキシドが開環することでアリルアルコール18が生成すると考えられる。本反応によって、integrifolin 1の3,6位に相当する二つの酸素官能基を一挙に導入することができたため、続いてDDQによるPMB基の除去、ベンゾイル部位の加水分解によってトリオール19へと変換した。その後、TEMPO酸化条件でラクトン部位の構築および3位アリルアルコール部位の酸化が一挙に進行し、三環性骨格を有するラクトン20を合成することに成功した。また、ラクトン20はX線構造解析により、望みの立体化学を持つことを確認した。以上より、残る課題は三カ所のexo-メチレン基の導入であり、まず初めに4位exo-メチレン基導入について検討を行った。

[4位exo-メチレン基の導入]

 まず初めに、化合物18の類縁体よりアルケン部位のヒドロホウ素化反応を利用して合成したケト-ラクトン21に対し、4位ケトン部位をメチレン化することを考えた(Scheme 6)。Wittig型の反応によるメチレン化反応(Wittig反応、Petasis反応、Zn-TiCl4-CH2I2条件など)やメチル化反応(MeLi-CeCl3、MeMgBrなど)について様々な条件を検討したが、目的の生成物は得られず、脱プロトン化を経由したラクトン部位の開環反応が進行しカルボン酸22が得られるのみであった。そこで化合物20の不飽和ケトン部位を利用することでexo-メチレン基の導入を目指すことにした。

 種々条件を検討した結果、不飽和ケトン20に対し、Wilkinson触媒、トリエチルシラン、MS4A存在下、THF溶媒中、60 oCに加熱すると1,4-ヒドロシリル化反応が進行し、シリルエノールエーテル23を単一の立体異性体かつ89%の高収率で得ることができた(Scheme 7)。得られたシリルエノールエーテル23に対し、CH3CN溶媒中、−30 oCで Eschenmoser塩を作用させることで4位にジメチルアミノメチル基を導入し、続くヨウ化メチルによるメチル化反応、DBUによる脱離を経て4位exo-メチレン基を有する化合物24の合成に成功した。本手法では、ラクトン部位が開環することなく、目的のexo-メチレン基を導入することができた。

[Integrifolinの全合成]

 残る二カ所のexo-メチレン基の導入について検討を行った(Scheme 8)。まず、不飽和ケトン部位をLuche還元によってアリルアルコールへと変換した後に、反応系にトリフルオロ酢酸を添加することで三級アルコール部位のTMS基の脱保護を一挙に行い、ジオール25へと変換した。その後、二級アルコール部位を選択的にTBS基で保護した後、Burgess試薬を用いた三級アルコール部位の脱水反応を行ったところ、反応は位置選択的に進行し目的の10位exo-メチレン化体26を2工程97%の高収率で得ることに成功した。続いて、Eschenmoserメチレン化によってラクトン部位のα位メチレン化を行い化合物27を合成し、最後にTBAFによるTBS基の除去を行うことで全27工程、総収率0.23%でintegrifolin 1の初の全合成を達成した[6]

[総括]

 今回、タングステン触媒を用いた鎖状トリエンイン11の環化反応により、integrifolinの基本炭素骨格を持つビシクロ[5.3.0]デカン誘導体を立体選択的に合成できた。その後、ケトン13のメチル化から環状シリルエーテル14を一挙に合成し、ジエン部位の酸化による3,6-位酸素官能基の導入、不飽和ケトン20の1,4-ヒドロシリル化を利用した4位exo-メチレン基の導入を経て、integrifolin 1の初の全合成を達成した。合成した化合物の1Hおよび13C-NMRスペクトルは天然物とよい一致を示した。

[参考文献]

[1] a) G. M. Massanet, I. G. Collado, F. A. Macias, F. R. Luis, C. Vergara, Phytochemistry 1984, 23, 912-913; b) K. Nishimura, T. Miyase, A. Ueno, T. Noro, M. Kuroyanagi, S. Fukushima, Chem. Pharm. Bull. 1985, 33, 3361-3368

[2] M. Cha, C. W. Choi, J. Y. Lee, Y. S. Kim, G. H. Yon, S. Choi, Y. H. Kim, S. Y. Ryu, Bull. Korean Chem. Soc. 2012, 33, 337-340.

[3] a) J. H. Rigby, J. Z. Wilson, J. Am. Chem. Soc. 1984, 106, 8217-8224; b) M. Ando, H. Yamaoka, K. Takase, Chem. Lett. 1982, 11, 501-504.

[4] Y. Onizawa, M. Hara, T. Hashimoto, H. Kusama, N. Iwasawa, Chem. Eur. J. 2010, 16, 10785-10796

[5] T. Harada, S. Imanaka, Y. Ohyama, Y. Matsuda, A. Oku, Tetrahedron Lett. 1992, 33, 5807-5810.

[6] K. Shimomaki, H. Kusama, N. Iwasawa, Chem. Eur. J. DOI: 10.1002/chem.201601275.

 
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