天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
第60回天然有機化合物討論会実行委員会
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44. 非天然型キニーネの全合成(口頭発表の部)
*石川 勇人三坂 玲美塩見 慎也
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p. 259-264-

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抄録

【序論】 キニーネ(1)はアンデス原産のキナの木から見出されたモノテルペノイドインドールアルカロイドに属するキノリンアルカロイドであり、1820年に単結晶として単離されてから、マラリアの特効薬として用いられてきた医薬品である(Figure 1)1)。現代社会においてもマラリアの脅威は決して衰えておらず、医薬として確固たる地位を築いている。一方、キニーネ(1)をはじめとするシンコナアルカロイド類およびその誘導体は、近年、有機分子触媒として数多くの不斉反応に用いられており、現在でも矢継ぎ早に新規反応が報告されている2)。シンコナアルカロイド類の供給は、現在でも植物からの単離に依存しているため、キニーネ(1)のエナンチオマーを手に入れる事はできない(少なくとも購入できない)。不斉反応の開発において、両エナンチオマーが作り分けられないとすれば、致命的な欠点となるが、幸いにも同属植物から見出されるキニジンがキニーネ(1)の擬エナンチオマーとして用いることができるため、大きな問題となっていない。しかしながら、両化合物は15位と20位の立体が双方とも15S、20Rであり、いわゆるジアステレオマーであるため、化学反応性や不斉誘起能は完全に同じではない。故に、非天然型キニーネ(ent-1)の全合成による供給は、現代科学において解決するべき重要課題である。キニーネ(1)の全合成の歴史は非常に古く、1944年にWoodwardによってキニーネ(1)の初ラセミ合成が達成され、歴史的偉業として大きく取り上げられた3)。その後、2001年にStorkらにより初の不斉全合成が達成され4)、これを皮切りにいくつかの不斉全合成が達成されている。いずれの合成も独自の手法を駆使した素晴らしい全合成であるが、人工供給のためには、より実用的な全合成が求められている。今回、我々は有機触媒としての利用を前提とした逆合成に基づく非天然型キニーネ(ent-1)の全合成を達成したので、以下報告する。   【逆合成解析】  シンコナアルカロイド類を用いた不斉反応の多くは、キヌクリジン環の窒素に由来する塩基性が重要な役割を果たしており、キノリン環の持つ塩基性は必ずしも必要ではない。故に、全合成達成後に展開する新規触媒設計において、キノリン環部には自由度を持たせるべきである。そこで、ent-1の全合成に向けたキノリン環部の導入は、合成の終盤でのアルデヒド2に対する有機金属種を用いた求核付加反応を利用する事にした(Scheme 1)。また、キヌクリジン環は分子内SN2反応により構築する。化合物2はシアノ基を有する光学活性ピペリジン化合物3の段階的なチオカルボニル基の除去、エステルから末端二重結合の構築、シアノ基の還元によるアルデヒドへの変換を経て合成できると考えた。3のシアノ基はヘミアミナール化合物

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