天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
第60回天然有機化合物討論会実行委員会
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6. 微生物に見出したペプチドグリカン新規生合成酵素の解析(口頭発表の部)
*馮 若茵佐藤 康治小笠原 泰志森田 洋行吉村 徹大利 徹
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会議録・要旨集 オープンアクセス

p. 31-36-

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抄録

微生物の増殖に不可欠な一次代謝経路はモデル微生物を対象に解明され、普遍的に存在すると考えられてきた。しかし、多種多様な微生物のゲノム配列が決定されるにつれ、一次代謝に関与する遺伝子の一部が欠落した微生物の存在が明らかになった。これら微生物は、欠損遺伝子に対応する化合物の要求性を示す場合も多いが、近縁の微生物も同じ経路の遺伝子を欠落している場合は新規な生合成経路の存在が示唆される。実際に我々は、ピロリ菌に代表される一部の微生物では生育に必須なメナキノンが既知経路とは全く異なる経路で生合成されること1)、また、葉酸の構成成分であるパラアミノ安息香酸の生合成に関与する新規遺伝子(酵素)も見出した2)。本研究では、同様の手法でD-グルタミン酸(D-Glu)の生成に関与する新規酵素を見出したので報告する。 ペプチドグリカンの新規生合成酵素の発見 ほとんどの微生物はペプチドグリカンを有する。ペプチドグリカンの1ユニットであるUDP-N-アセチルムラミン酸(UDP-MurNAc)にペンタペプチドが結合した中間体は、6つの酵素によりUDP-N-アセチルグルコサミン(UDP-GlcNAc)から生合成される(図1)。最初にMurAとMurBによりUDP-GlcNAcからUDP-MurNAcが生成し、次いでMurCからMurFの4つの酵素により、順次L-アラニン(L-Ala)、D-Glu、メソジアミノピメリン酸(またはL-リシン)、D-Ala-D-Alaが付加される。この際に用いられるD-Gluは、多くの場合、Glu racemaseにより供給されるが、一部の細菌ではD-amino acid aminotransferaseによりD-Alaと2-ケトグルタル酸から生合成される。しかし筆者らは、Xanthomonas属とXylella属細菌のゲノムデータを精査した結果、全てのMur遺伝子が存在するにもかかわらず、D-Gluを供給する上記2つの遺伝子を見出せなかった。したがって、これらの菌株ではD-Gluは新規酵素・経路で供給されると考えられたことから、その解明を行った。  生育にD-Gluを要求する大腸菌変異株を宿主に用い、X. oryzae ゲノムDNAを供与体としたショットガンクローニングを行った結果、XOO_1319とXOO_1320の2つの遺伝子が相補に必須であることが分かった。前者は機能未知であったが、後者はMurD(UDP-MurNAc-L-AlaにD-Gluを付加する酵素)と相同性を有していた。したがって、XOO_1319は新規なGlu racemaseと予想された。そこで、XOO_1319の組換え酵素を調製しL-Gluを基質に様々な反応条件で解析を行ったが、活性を確認することはできなかった。また、MurDと相同性を有するXOO_1320に関しても、予想された活性を有するか組換え酵素を用いて検証したが、比較対照に用いた大腸菌由来のMurDに比べ微弱の活性しか検出できなかった(図2)。 そこで、上述した相補実験でXOO_1319とXOO_1320の両者が相補に必須であった結果、およびUDP-MurNAc-L-AlaとL-Glu はD-Glu要求大腸菌が供給可能であることを踏まえ、両組換え酵素と両基質を用いて反応を行ったところ、著量の

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