鉄と鋼
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巻頭言
第100巻記念 材料特集号2 ~材料評価技術~ 発刊に寄せて
木村 勇次
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2014 年 100 巻 10 号 p. 1181

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巻頭言

「鉄と鋼」が第100巻を迎え,第1号の第100巻記念特集号「鉄鋼技術,その100年の足跡」に引き続き,第2号「資源拡大と低炭素化を目指した製銑技術」,第4号「製鋼の科学技術」,第6号「資源生産性を高める技術」,第7号「鉄鋼分析技術の課題と展開」,第9号「材料特集号1~組織制御と材料特性」と「次世代に向けた鉄鋼材料科学技術の変遷」を共通テーマとした各分野の特集号が発刊されました。なお,第9号の巻頭言でも説明がありましたように材料の分野は多岐にわたるために2つのカテゴリーに分け,第10号では材料の評価技術(計測・制御・システム分野の一部を含む)に焦点をあてた特集号を企画しました。

材料の評価技術に関しては,古くは,ルネサンス時代のレオナルド・ダ・ヴィンチ(1452-1519)の研究が知られています。彼は,鋼線の許容荷重に関する試験方法を提案し,鋼線の破断強度が降伏強さのように一定でなく,むしろ鋼線の長さに逆比例することを見出したと報告されています(例えば,Launey and Ritchie:Adv. Mater. Vol.21, 2009, p.2103)。このことは,鋼線が長くなるほど鋼線に含まれるキズなどの欠陥の存在確率が高くなることを示唆しており,構造材料としての鉄鋼材料研究の本質を示しているようにも感じます。すなわち,大型化,大量生産が前提である鉄鋼材料では,原子レベルのミクロから肉眼で見えるマクロまでの広範囲なスケールで様々な“視点”があります。このような様々な視点で材料の組織と特性の関係を明らかにして特性の支配因子を見出し,材質予測と材質制御に結びつけていくことが鉄鋼材料研究の醍醐味のひとつであるように思います。ここで,材料評価関係で鉄と鋼に最初に掲載された論文をオンラインジャーナルで探してみると,第1巻の第1号と2号で掲載された「船舶螺旋軸の折損に就て」であることがわかりました。とくに第2号(堤正義:鉄と鋼,Vol.1, 1915, p.164)では船舶の螺旋軸の折損面が類別され,折損の要因が折損部近傍から採取された試料の光学顕微鏡組織と折損面の関係で考察されています。光学顕微鏡観察では,復刻論文でも紹介される俵國一先生のご協力を得たとの記述もあります。当時の材料評価の状況を知る上でも貴重な資料です。

「鉄と鋼」の創刊から100年が経過し,光学顕微鏡観察が今でも材料評価の有効な手段のひとつであることに変わりないものの,X線,電子線,中性子線などを活用した組織解析・計測技術をはじめ,材料の評価技術は多岐にわたって飛躍的に発展してきました。とくに近年の解析・計測技術と計算科学との連携・融合による材料の組織解析と材質予測技術の進展には目を見張るものがあります。3次元での定量的評価研究の潮流はその最たるものと言えるでしょう。このような現状も踏まえ,第10号では,レビュー記事として「材料組織の形態評価」,「応力歪曲線」,「計算材料科学」ならびに「プロセス制御技術」の4分野を取り上げました。複数の先生方の連携により学術・技術の推移,ならびに展望がわかりやすくレビューされています。是非ご一読頂ければ幸いです。また,一般投稿記事については,上記の4分野にかかわらず,最先端の材料評価技術に関する論文を広く募集しました。16編の興味のある論文が集まりました。そして本号の「復刻論文−私の選んだ一編−」として,俵國一先生の「鐵と鋼の組織鑑定表」と野原清彦博士らによる「準安定オーステナイトステンレス鋼における加工誘起マルテンサイト変態の組成および結晶粒度依存性」の2編を選定して頂きました。とくに若手の研究者の皆様には,本推薦記事をきっかけとして,原著論文の一読をお薦めします。

特集号を企画・編集するにあたり,多くの皆様にご助言とご協力を頂きました。この場を借りてお礼申し上げます。

本特集号が鉄鋼材料科学技術のより一層の発展の一助になることを祈念し,巻頭のご挨拶とさせて頂きます。

 
© 2014 一般社団法人 日本鉄鋼協会

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