鉄と鋼
Online ISSN : 1883-2954
Print ISSN : 0021-1575
ISSN-L : 0021-1575
レビュー
プロセス計測技術 100年の進展と今後の展望
風間 彰永田 泰昭森本 勉腰原 敬弘
著者情報
ジャーナル オープンアクセス HTML

2014 年 100 巻 10 号 p. 1220-1228

詳細
Synopsis:

The progress of measurement technologies in the Japanese steel industry over the last 100 years is reviewed. In the early period, the main objects of measurement were temperature in the blast furnace, steelmaking process, etc., using thermocouples and radiation thermometers. Through the years, instrumentation technologies have been developed with progress in electronics, and various techniques, including ultrasonic, image processing, laser technology, and others, have been applied.

Several remarkable in-line measurement technologies published in “Tetsu-to-Hagané” are reviewed in the history below, and the future direction is considered.

1. 緒言

鉄鋼における計測技術は,旧来より製造プロセス中にオンライン(またはインライン)で対象を測ることが主要な目的であった。オンライン計測は同じ物理量を測るにしても,オフラインに比べてその難易度はずっと高い。中には半世紀前より挑まれていながら未だ満足な結果を得られない対象もある。ここでは鉄と鋼100号を記念して,計測技術に関し,どのような課題に,どのような技術をもって挑戦してきたのかを最新の成果を含めてレビューしてみる。その上で今後の方向性を想像してみたい。

2. 「鉄と鋼」にみるプロセス計測の課題と技術の変遷

鉄鋼プロセスは高温かつ巨大な上工程から,ミクロンを問う精密な圧延まで幅広く,黎明期から現在までに無数の計測機器が適用され,特に難しい課題には鉄鋼独自または企業独自の開発が成されてきた。

「鉄と鋼」における計測技術の報告の第1号は1937年,80年近く前である。近代のことであるから現在の我々が思うほど原始的ではないはずだが,少なくとも現在広く使われているレーザ,画像,超音波によるセンサは存在しなかった。恐らくこの頃の技術者/研究者たちは,21世紀には夢のような計測技術によって高炉内部が裸にされ,また鉄の特性も調べつくされて,多くの謎が解けているのではないかと夢みていたのではなかろうか。80年という時間は,そう思うに充分な未来である。

しかし,21世紀に入って10年を超える今も,高炉は未だほとんどブラックボックスと言える存在であり,製鋼プロセスでさえ,モールドやスラブ内部が直接見えているわけではない。材質/特性に関しても,次々に新しい発見と製品の開発が成されており,幸いなことであるが鉄には限界が見えてこない。それに追随して,内部欠陥や材質の計測技術もまだまだ進歩の途上である。

Fig.1は,「鉄と鋼」に最初の温度計測の論文が掲載された1937年から最新までの計測に関する論文の投稿数の推移である。1980年代に急激に件数が増えている理由は,各地に新製鉄所が誕生し,軌道に乗った高度成長期の終盤,日本の鉄鋼が世界最高レベルに達した頃の勢いであろうと推察される。

Fig. 1.

 Trend in number of papers on instrumentation in “Tetsu-to-Hagané”.

この推移を目的別割合で示したものがFig.2,プロセス別の割合で示したものがFig.3であり,時代毎の計測課題が見えるようで興味深い。

Fig. 2.

 Trend in percentage of the papers classified by purpose.

Fig. 3.

 Trend in percentage of the papers that are classified by process.

Fig.2によれば最も論文数の多い1980年代は,形状と寸法に関する論文が半数を占め,やはり産業の成長に伴い,公差等の品質と歩留向上への取り組みが増えたのだと想像される。

同様にFig.3では商品の多様化に伴う変遷が見える。1970年代の鋼材は社会インフラの整備と造船,1990年代の冷延(表面処理含む)は自動車産業の発展した年代であって,日本の産業構造の変遷を反映している。

シーズの変遷は,さらに興味深い。Fig.4に示すとおり,1960年代までは温度計測のための放射温度計,熱電対による論文が多く,1970年代より多様化してくる。画像(カメラ),磁気,マイクロ波,レーザが登場して大変賑やかである。音響/超音波と磁気の手法は,材質計測に向けられており,より優れた特性,低い歩留まりを目指しての計測技術の開発であった。

Fig. 4.

 Trend in percentage of the papers classified by technical element.

一方で,どの年代でも温度計測は工程を問わず報告されており,時代を超えた重要課題であることが再認識される。Fig.2Fig.3によれば,初期20年は銑鋼の温度計測が論文の多くを占める。「鉄と鋼」における歴史的な最初のプロセス計測の論文は,第23巻4号(1937年)「新熱電對に依る熔鋼温度の測定/呉海軍工廠1)」であった。

この論文は,溶鋼の真の温度を測ろうとするものであるが,導入文章の一部は現在の論文でもよく言われる内容であって大変面白いので,ここに引用させていただこう。

***「鉄と鋼」第23巻4号(1937年)より引用文***

「従来,溶鋼の温度測定には専ら光学的な方法が用いられてきた。光高温計は即ちそれであって…(中略)…鋼湯表面は,空気に接触する為常に酸化膜をつくり…(中略)…従って真の温度は測り得ぬ計りでなく,測る度に測定数値が異なるのである。普通此の見掛温度を真温度に換算するに,輻射能補正地(エミッシビテイー)を定めて補正するが,此の数値も又鋼の成分に依って異り,之を幾何とすべきやに確固たる論拠がない。従って真の温度を知る事は殆ど不可能と言て良い。」

***引用 以上***

「光高温計」は今でいう放射温度計であるが,80年前に記述された課題は現在も残されており,プロセス計測に携わる者には感慨深い記述である。しかし個別のプロセスに関しては後述のように放射率を補正する様々なアイデアが具現化されてきた。その他の計測技術も同様である。

以降,「鉄と鋼」の論文を中心に,この約1世紀で培われてきた特徴のある計測技術を目的別にレビューしながら歴史を辿ってみよう。

3. 温度計測技術

先に述べた最初の論文以降,温度計測では製鋼を中心に熱電対,放射温度計の開発が進められた。浸漬熱電対による取鍋内溶鋼温度の連続測定2)や,放射温度計による合金元素添加の影響評価3)といった報告が見られる。その後,1970年代に薄鋼板の温度計測が盛んとなった。そして,1990年代初めごろからサーモグラフィを利用した画像温度計測へと発展する。これらの開発の端緒となったものとして連続焼鈍プロセスにおける温度計測技術がある。

連続焼鈍プロセスにおいては鋼板が高速で炉内を走行するため,適切な場所で焼鈍状態を常時把握して制御する必要がある。そこで,遮蔽板付き放射温度計の連続測温と間欠的使用の校正用接触式温度計から成る炉内鋼板真温度測定システムが開発された(Fig.5)。鋼板の放射率の材質,温度,波長などによる影響を分析し,更にノイズとなる背光雑音を消去するため冷却遮蔽版の形状・位置・表面状態など測温精度に与える影響を定量的に求め,最終的に測温誤差1%以内の精度で連続焼鈍炉内の鋼板温度を測温可能にした4)

Fig. 5.

 A configuration of a temperature measurement system of steel strips in a continuous annealing furnace.

放射率補正の課題に対しては,様々な取り組みがなされた。薄鋼板の中でもカラー鋼板のように低温・低放射率の対象の放射測温においては,周囲熱源からの外乱光および放射率補正の課題があり,これに対しては反射板を計測対象にくさび状に配置して多重反射の効果を活用し,外乱光を除去し,見かけの放射率を1に近づけて測温する手法がカラー鋼板ラインにて実用化されている5)

その他,異なる2つの分光放射率間の関係を利用して,放射率が変動してもそれを補正し,正確な温度と放射率を測定することができるTRACE法(Thermometry Reestablished by Automatic Compensation of Emissivity)が開発され実適用された6)。従来の単色法,2色法では放射率あるいは放射率比が一定という人為的な仮定が必要であったが,そのような制約のない新技術である。

さらに,溶銑中に金属管被覆の光ファイバを挿入浸漬すると,浸漬された光ファイバ先端部開口が充分小さく均熱な溶湯面で囲まれた良好な黒体を構成するため,放射率を1とみなして計測可能なことが見出された7,8)。これは消耗型光ファイバ温度計(Fig.6)として,高炉溶銑樋での溶銑測温において実用化された。

Fig. 6.

 Principle of FIMT (Fiber in metallic tube) temperature measurement method.

温度計測では,エンジニアリングの工夫も多彩であったが,近年の開発事例としては,“ファウンテン・パイロメーター”がある9)。高張力熱延鋼板の品質安定化のためには,鋼板温度の高精度制御,特に巻き取り温度の制御が重要である。このため放射温度計を熱延鋼板に近づけて測定する取り組みが古くからなされていた。従来は鋼板と冷却水の間の熱伝達率の予測が困難であること,また大量の水滴により放射光が吸収・散乱されて減衰することが課題であった。そこで,安定な光路を確保するための噴水パージ,水による吸収を抑制した波長の選択,噴水の制御により鋼板表面の冷却を抑制するといった工夫を加えることで高精度な放射測温技術が実用化された(Fig.7)。

Fig. 7.

 A configuration of “Fountain pyrometer”.

以上のように,特に有用な放射測温においては,放射率の補正とエンジニアリングが主要課題であった。

4. 表面検査技術

表面検査技術は,1980年代の自動車の普及に伴う薄鋼板の品質レベル向上に貢献した。初期のレーザから現在主流の画像方式,加えて渦電流,漏洩磁束,磁粉探傷等と幅広く発展している。以下,適用ライン毎にいくつか紹介しよう。

鉄と鋼における表面検査の最初の論文は,渦流探傷,漏洩磁束探傷による黒皮棒鋼のオンライン表面欠陥検査の報告である10)。一方,現在主流の画像による検査装置の最初の実用化報告は熱間スラブをTVカメラで撮影し,オペレータが観察するタイプの表面検査装置であった。本システムはシャッター機能をつけたカラーTVカメラにより高温のスラブが発する可視域の光を観察,これをスラブ圧延機運転室上に設置したモニターで検査員が常時監視するシステムである(Fig.8)。本システムは1977年頃に実適用され,スラブの欠陥判定に活用された11)

Fig. 8.

 Layout of color TV system for inspection of hot slabs.

1980年代になると,レーザ回折による薄板の表面検査装置の導入が進んだ12)。当初はHe-Neレーザをポリゴンミラーにより高速でスキャンする方式で,凹凸欠陥の回折を良く捕らえた。一方,鋼管の表面検査に対しては,水平磁場による漏洩磁束探傷と垂直磁場による渦電流探傷を複合させた技術が開発されている(Fig.9)。漏洩磁束探傷は磁束を横切るワレ欠陥の検出に適しており,渦電流探傷はピットやヘゲの検出に適していることから,種々の疵検出を可能にした事が本技術の特徴である。1983年頃に実用化されている13,14)

Fig. 9.

 Schematic of bi-directional magnetization method.

中間製品である角鋼片表面の疵検査および疵取りが重要になる条鋼分野では,1980年代から表面品質の安定,向上のために,自動システムの開発実用化が行われてきた15)。この報告は4極極間で回転磁化させながらワレだけでなく不定形のヘゲ欠陥をも磁粉探傷で検出できる画像処理装置で疵位置と概略深さを自動認識し,フライスカッタを利用した自動疵取までを全自動で実行するシステムである(Fig.10)。目視検査と遜色ない自動検査結果が得られ,フライスカッタによる疵取り跡は圧延後の製品に悪影響はなかったと報告されている。

Fig. 10.

 Schematic of automatic inspection for square.

自動磁粉探傷技術はカメラと画像処理の進歩に伴い,さらなる高精度化が図られており16,17),条鋼,厚板等で広く使われている。

薄鋼板の表面検査では,1990年代より従来のレーザ式に加えカメラによる市販装置が普及したが,独自の開発も行われた。その代表的なものに偏光を利用した表面検査装置がある。自動車外板に使用される溶融亜鉛メッキ鋼板の模様状欠陥はプレス後以降に顕在化する場合が多く,製造段階ではコントラストが極めて低い。一方,従来装置で感度を上げると付着油などの無害な模様を過剰に検出する課題があった。そこで,欠陥部と模様部の偏光反射特性の相違に着目した技術が開発された(Fig.11)。欠陥部では反射光が正常部より強くまた楕円偏光となるため,方位角によらず正常部に対して明るく見えるのに対し,模様部は油等の誘電体からの反射であるため,方位角に依存して明暗が変化する。この現象を的確に捕らえるために受光側に方位角が異なる3チャンネルの偏光カメラを装備した表面検査装置(“Delta-Eye”)が実用化された18)

Fig. 11.

 Principle of surface inspection system with 3-channelled polarization cameras, “Delta-Eye”.

その他表面性状計測では,レーザを用いたオンライン表面粗さ計測の開発事例がある。鋼板へのレーザ入射面における全角度の反射強度を調べて,最大反射強度と全反射強度の比と,粗さRaとの間の相関を理論的,実験的に明らかにした19)。その上で,2種の角度で鋼板にレーザを照射し,予め求めておいた検量線より平均粗さを得る方法である(Fig.12)。

Fig. 12.

 Construction of the measuring system for surface roughness.

5. 寸法・距離計測技術

寸法・距離計測では,1980年代から国産の優れた製品が安く普及し,鉄鋼においても先ずは市販品の導入が進められた。その後,既製品では測定の困難な対象向けに様々な開発が行われており,これら鉄鋼独自の計測技術が「鉄と鋼」に掲載されている。

その中のひとつに厚板の平面形状認識装置がある。圧延された鋼材の全平面形状を正確に認識し適切な切断を行い,その認識データをスラブ設計などに反映させることを目的に,厚板平面形状認識装置とスラブ設計を解析するシステムである20)。4本の蛍光灯下部光源による幅計と,幅計前後の2式のタッチローラ式測長システム等を備え,1976年頃実用化された。このシステムでは搬送中の厚板の全平面形状を測定することができ,得られたデータから適正なスラブ寸法を計算することで歩留を向上させた。

画像素子の進展に伴い,イメージングセンサは表面欠陥計にとどまらず鉄鋼の様々な計測分野で利用が進んだ。例えば赤熱鋼板両端部の自発光をイメージセンサで捕らえ,板幅計を構成した事例を紹介する。アナログ映像信号の差分のピーク位置を計算する信号処理により,鋼板の温度変化の影響を受けずに画素サイズの約1/10精度で両端のエッジ位置を検出し高精度な幅計を実現している。従来のバックライト方式に比べメンテナンス性に優れ,厚板キャンバ測定に適用して良好な結果を得た21)

熱延鋼板の形状(平担度)は,安定な熱延操業上の重要な管理項目である。顕在化している形状不良を測定する方法としてはさまざまな方式があるが,アルゴンレーザの光をポリゴンミラーと放物面鏡の組み合わせにより鋼板上で幅方向に走査し,複数個並べた光検出器により乱反射光を測定する構成のレーザスキャニング法が,1982年に実用化されている(Fig.13)。精度は±1 mmを達成した22)

Fig. 13.

 Basic configuration of shape measurement system.

上記の様な光切断法による計測システムでは,鋼板の走行バタつきの影響を受けやすいという課題があるため,その解決を図った技術もある23)。これは,アルゴンレーザを3本に分岐し,ミラーを用いて幅方向に3本で走査,長手方向の位置が異なる3箇所の高さ計測を同時に行う技術であり,鋼板に複雑な走行ばたつきがあっても影響を受けず平坦度を測定できるという特徴がある。

距離計測技術では,各種のレベル計測の報告がある。最初の報告は,転炉のスラグレベル計測の実機化である。

24 GHzのマイクロ波を用いて吹錬時の転炉内のスラグの泡立ち(フォーミング)状況をFMレーダの原理に基づき計測し,スラグのスロッピング予知を行った。1983年頃に実適用を開始し,オンラインでのスロッピング発生頻度を従来の約1/5に減少できたと報告されている24)

その後,モールド内溶鋼の湯面レベルを計測のための渦流式湯面レベル計が開発された25)。これは,2つのコイルの出力電圧の差を帰還増幅し,モールド側壁,電磁攪拌などの外乱の影響を大幅に低減した連続鋳造モールド用湯面レベル計である(Fig.14)。この技術は小型で安定に作動し,溶鋼注入量制御との組み合わせで湯面レベルを安定化して鋳造品質を向上できるため,内外に広く普及した。

Fig. 14.

 Configuration of the eddy-current mold level meter.

マイクロ波は温度依存性が小さく,粉塵による散乱の影響を受けにくいため,高温,粉塵の多い悪環境下での計測へ各種の適用が試されてきた。例えば転炉の溶銑レベル計がある(Fig.15)。この技術は周波数変調を使用し,受信信号から不要反射成分を除去してS/Nを改善するなどの工夫によって,測定レンジ20 m,精度20 mmの性能を得た26)。悪環境に強い手法としてマイクロ波レベル計は現在も有用であり,本報告をベースとした他への摘用も継続されている。

Fig. 15.

 Schematic of microwave level-meter.

6. 材質計測技術

材質計測は,鉄鋼材料を所望の特性に造りこむために古くから開発が試みられているが,非破壊のオンライン計測で材質を直接計測することは困難であるため,難易度が高い。計測手法の中でも,超音波は材料内部を透過するためキー技術となっており,1980年頃より電磁超音波や電子回路技術の発展を受けて材質計測への適用が鉄鋼協会の講演会等でも報告されてきている。

自動車や冷蔵庫等の外装板に用いられる深絞り用冷延鋼板はプレス加工時の破断等を生じさせないため,組成異方性を現すr値が重要な指標となっている。このr値が集合組織に強く依存することに着目し,超音波の音速を用いてr値を求める手法が考案された。鋼板面上の3方向(0゜, 45゜, 90゜)に3対の電磁超音波センサ(Electromagnetic Acoustic Transducer=EMAT)を配置し,夫々の方向での板波超音波の速度を計測して,面内平均r値を算出する技術が開発されている(Fig.16)27)。また別の手法として,EMATにより厚み方向の超音波の送受信を行い,異なる3種の超音波モードの厚み共振周波数を測定しr値を算出する技術も開発され,冷延工程に適用された28)

Fig. 16.

 Block diagram of on-line r-value measurement system.

また,交流磁界を用いた例として,熱延ラインの変態率計がある29)。励磁コイルから発せられる交番磁束により検出コイルに誘起される電圧を測定することによって,熱延ラインの冷却過程におけるγ/α変態に伴う比透磁率および電気抵抗率の変化を検出する。2つの検出コイルを用いることで,鋼板の振動等の影響を除去しオンライン計測が可能になった。

材質計測の他の技術としてはX線がある。溶融亜鉛めっきラインでのオンライン合金化度測定30)はその一例であり,波長の異なるX線を異なる角度でめっき鋼板に照射し,得られた蛍光X線の強度から下地鋼板,めっき層の双方に含まれるFe,Znの存在量を求めることができる。

材質計測と関連して,プロセスの内部を探る技術への取り組みもある。連続鋳造においては,古くから冷却水量・表面温度・鋳型抜熱量等のデータより間接的に鋳片の凝固状態を推定する方法があったが,直接的な測定法として電磁超音波の透過による測定法が開発された31)。鋳片の片側に発生用コイルを,反対側に検出コイルを配置し,超音波が鋳片を透過する時間と固相・液相の平均音速との関係により鋳片の凝固シェル厚みを求める技術であり,既に1979年頃,実機よる技術の有効性が報告されている(Fig.17)。

Fig. 17.

 Schematic diagram of solidification shell thickness slabs measurement system.

7. 内部欠陥計測技術

内部欠陥計測には,超音波,漏洩磁束探傷等の手法が使われている。表面検査同様,年々検出レベルの向上が図られてきた。

鉄と鋼における内部欠陥計測の初期の報告のひとつに,缶用鋼板の内部介在物のための漏洩磁束計測があげられる。可飽和型の高感度磁気センサを開発し,ロールに内蔵して鋼板とのギャップを極力小さくかつ安定化させることに成功。これに外乱磁気シールド技術を加えた漏洩磁束探傷装置(Fig.18)が実用化されている32)

Fig. 18.

 Technology of detecting minute inclusions.

内部欠陥計測では超音波も重要な技術であり,多くの開発が成された。主要な課題はノイズの低減(S/N向上)であるが,ノイズには,材料および伝播媒質に起因するエコー性ノイズと電気性ノイズがある。エコー性ノイズに対しては,超音波探傷信号が繰り返し信号であることに着目し,数回分の信号を送信信号に同期して平均することでS/Nを向上させる同期加算技術が開発された33)。また,電気性ノイズに対しては,周波数を変化させたチャープ波を送信信号に用い,受信信号をパルス圧縮フィルタに通すことで時間軸上に広がっていたエコーを1 点に集約するチャープ波パルス圧縮方式(Fig.19)がある。超音波探傷におけるこれらのデジタル信号処理技術は,溶接管シーム部,厚板の探傷技術などで実用化されている34,35)

Fig. 19.

 Principle of the chirp pulse compression.

物理的に超音波探傷の検出感度を高める取り組みとしては,1990年頃から普及したリニアアレイプローブがある。超音波ビームを線収束させることで検出感度が向上し,新たな適用が広がった。

鋼板の微小介在物検出向けには,リニアアレイプローブを鋼板を挟んで配置する透過式の介在物センサが実用化された36)。ライン状にフォーカスされた超音波ビームを鋼板へ送波し,鋼板の表裏面で反射した介在物信号を受波プローブによって収集する手法(Fig.20)で,φ50 μm程度のごく微小な介在物の検出という新たなレベルに到達した。

Fig. 20.

 Schematic geometry of ultrasonic detection technique for internal flaws.

高感度な超音波技術は電報管の低温靭性評価に展開された37,38)。これらの報告では,溶接部に薄く広く散在する微小なペネトレータが低温靭性に強く影響することが見出され,点集束ビームタンデム探傷法に,管周方向を高速走査可能な電子スキャン方法と,高精度シームトラッキング技術を組み合わせることで,電縫溶接部の低温靭性のリアルタイム評価が可能となった(Fig.21)。

Fig. 21.

 Principle of tandem probe technique using phased array ultrasonic test.

8. プロセスの可視化技術

計測データを基にプロセスの状態を可視化する技術は,特に内部が見えにくい上工程を対象として近年,興味深い報告がなされている。

冒頭述べたとおり高炉内部の可視化は鉄鋼業の永年の課題のひとつであるが,1世紀近くシーズ技術がなかった。そうしたなかで宇宙線ミュオンを用いた高炉内部状況計測の報告がなされた39)。ミュオンとは,陽子などの一次宇宙線が大気圏に突入する際に生成したπ中間子やk中間子が崩壊して生成される二次宇宙線の一種である。強い透過力を持つため,物体を通過する際のミュオンの減衰度を測ることで,厚い検査体の内部構造を計測できる可能性がある。この論文では,高炉を透過するミュオンの空間的強度分布を一定期間計測し,炉内物質の密度と炉底レンガの損耗量を推定できる可能性が報告された(Fig.22)。

Fig. 22.

 Schematic of probing the inner structure of blast furnace by cosmic-ray muon radiography.

その他の取り組みとしては,炉体のステーブ(冷却装置)に設置した温度センサ(約500個)と,装入物の充填状況,ガスの流れを検知するシャフト圧力センサ(約20個)により,炉内の状況を可視化する技術がある40)。2004年にセンサデータを平面的に表す技術が開発され,2007年には秒単位でデータを3次元表示できる技術(“3D-VENUS”)が実用化され(Fig.23),操業の安定化に貢献した。

Fig. 23.

 Visualizing information technique of blast furnace operation, “3D-VENUS”.

また,国内の老朽化したコークス炉に関しては延命のニーズが強い。これに対し炉の安定化と寿命の延長を目的とした炉壁診断技術が開発されている41)。1000 °Cのコークス炉内部には,計測装置の持ち込みが困難である。そこで,水冷構造の断熱プローブにラインスキャンカメラと小型レーザを搭載し,炉壁の熱画像を撮像しながら,同時に光切断法により炉壁の3次元プロフィールを計測する技術が開発された(Fig.24)。自動補修技術と併せて過酷な環境下での高度なエンジニアリングによって実用化され,生産障害の低減に成功した。

Fig. 24.

 Damage diagnosis for high temperature coke-oven chamber wall.

9. 計測技術の歴史概観と今後の展望

以上,「鉄と鋼」におけるプロセス計測80年の歴史を概観してみると,ここに引用の代表例を見たのみでも,実に様々な対象に様々な技術が開発されてきたことが改めてわかる。シーズ技術の側面からは,光,超音波,磁気を用いた手法が主軸を成しており,この状況は時代を通して大きくは変わらないが,最近は素粒子ミュオンを高炉計測に用いるという大胆な試みもあり,日本鉄鋼業計測分野の懐の深さをみる。用途では,温度および寸法・形状,位置などの基本的な物理量計測の報告が全体の半分以上を占め,その重要性が再認識される。

こうして現在まで発展してきた計測技術が果たした役割は何か。年代も含めてくくり方はいくつかあるが概略次のようであろう。

初期;~1950年

・未知物理量測定の実現(官能検査の機械化)

中興期;1950~1980年

・計測対象の拡大と多様化

・自動化⇒省力化,官能検査の定量化

・品質保証(QA)

近代;1980年~現在

・プロセスへのフィードバック/品質制御(QC)

・プロセスの可視化⇒操業改善,プロセス改善

どの時代も計測技術は生産性と品質の向上,合理化・コストダウンをもたらし,また安全性・信頼性を向上させて,鉄鋼産業の発展に不可欠な役割を果たしてきた。では今後,鉄鋼プロセス計測技術はどのような方向性をもって,どのような役割を担っていくのだろうか。

例えば究極の計測技術として100年前の技術者も夢みたであろう「高炉内部の可視化」を考えると,Fig.23に紹介したような技術は,その具体的な手段のひとつであると言える。こうしたものを含め鉄鋼に限らず最近の超多点・多元的な計測・可視化手法の発展をみると,今後の方向性が見えてくる。

半導体レーザ,アレイ超音波素子,CCD/C-MOSといった電子デバイス,すなわち広くはITの進歩はセンシングに変革をもたらした。社会そのものがそうであるように,昔との決定的な相違はITの有無であると言っても過言ではない。特に1990年代まではハードの進歩が著しかった。

そして最近は,ビッグデータの活用(ソフト)が注目され,これまで見えていなかった事象が次々に炙り出されてきている。鉄鋼製造においても,高度な情報インフラの下,ハードセンサからの大量のデータを分析または再構築するようなソフト技術は,対象のプロセスについて個々のセンサ情報とは異種の,より次元の高い情報を炙り出す可能性がある。ITの進歩にそって進めば,鉄鋼のプロセス計測技術も自ずとこうした方向へ向かうのではないかと予想される。

一方で再度,「鉄と鋼」初期の温度計測の論文などを眺めると,冒頭の引用にあるような,本質的な物理現象に立ち返っての原理原則の探求と,エンジニアリングの改善という,ごく基本的な研究開発が,いかに大切かつ知的で挑戦的かということにも気づかされる。研究者・技術者がこうした探求を止めることはないであろう。

鉄と鋼200号記念の未来,はたして高炉内部はリアルタイム可視化できているのだろうか。それ以前に,高炉はどのように姿を変えているのだろうか。

プロセス計測技術の今後の進展は,高炉をはじめ鉄鋼プロセスの本質の可視化をさらに進めるであろう。そして新プロセス・新製品の創造,操業管理や品質保証の変革がなされていくと期待できる。すなわち,そうした変革への視野を切り開いていくことが,今後のプロセス計測技術の最も重要な役割なのではないだろうか。

文献
 
© 2014 一般社団法人 日本鉄鋼協会

This article is licensed under a Creative Commons [Attribution-NonCommercial-NoDerivatives 4.0 International] license.
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
feedback
Top