鉄と鋼
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巻頭言
第100巻記念 圧延・成形加工特集号発刊に寄せて
柳本 潤
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2014 年 100 巻 12 号 p. 1433

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巻頭言

戦前700万トン弱であった我が国の粗鋼生産は1973年には1.2億トンに達し,その間数多くの圧延設備の建設が行われた。1973年段階での鉄鋼製品の質は今とは比較にならないレベルであったが,以後現在に至るまでの40年間は鉄鋼製品の質の向上と質の向上に対応した技術の開発の歴史である。高強度鋼板に代表される高級な鉄鋼製品の開発と,安定し高生産性を確保した製造が,我が国鉄鋼業あるいは鉄鋼学術の進むべき方向であることに異論を挟む余地は少ない。

この様な時代背景のもと今年発行されてきた鉄と鋼100巻は,本号をもって最終号を迎え,下工程である「圧延,制御,成形加工」を取り上げることになった。社会に鉄鋼製品を送り出すための出口に位置する「圧延,制御,成形加工」では,鉄鋼材料科学の成果を利用することはあっても,鉄鋼材料科学そのものを対象とすることは必ずしも多いとは言えない。鉄鋼製品の製造設備や製鉄機械が位置する機械工学,動力や制御システムを支える電気電子工学からなる「圧延,制御,成形加工」は,鉄鋼材料科学と寄り添うことで,材料科学,機械工学,電気電子工学を三原色とする学際的な「鉄鋼学術」領域となり,鉄鋼製品製造の屋台骨の一つを形づくっている。見方を変えれば,鉄鋼材料科学を狭い範囲の学問,技術より解き放ち,巨大な鉄鋼製品製造システムが,鉄鋼学術に根をはることを可能としている要因の一つが,鉄鋼製品の社会への出口に位置する「圧延,制御,成形加工」なのである。さらに追記すれば,数学に基づく理論が活躍する場が多いことも,本分野の特徴である。

本号で対象とする範囲は誠に広い。棒線材や形鋼といった条鋼系の製品,さらにこれらを素材とした鍛造の,「圧延,制御,成形加工」に占める重要性は非常に高いのであるが,本号の5件のレビューは,あえて議論の対象を絞り込むために,薄板を中心として構成した。板圧延における断面形状制御を対象とした「板圧延のクラウン・形状制御技術と理論」,板圧延における制御システムを取り上げた「板圧延制御技術の進歩と展望」,圧延界面に潜む課題に挑んだ「圧延界面での現象 −潤滑とスケール−」,FEMに頼れば何がしかの答えが出る現在に敢えてご執筆頂いた「加工成形のための解析手法と材料モデリング」の4件のレビューは100巻に相応しい練達の研究者にお願いし,やや年齢あるいは立場が異なるお二方の共著により構成している。本文の中で異なる立場での意見が述べられていることもあろう。多様な意見が本号レビューの読者の解釈を通し,今後の鉄鋼の「圧延,制御,成形加工」の学問,技術の発展に貢献できれば幸いとするところである。また,高強度部材製造の一つのトレンドであるホットスタンピングについてのレビュー「ホットスタンピングの成形性ならびに生産性向上技術」は,本技術の現状と動向を見据えること,鉄鋼材料と成形加工との一つの接点が見いだすことに役立つであろう。8件の投稿論文を含めた本号は,100周年を迎えようとする鉄鋼協会の「圧延,制御,成形加工」の現状を見渡し,今後のこの分野の展開の方向を考えるための絶好の機会を提供することを,確信を持って申し上げたい。

海外学術誌への投稿論文を査読していて,企業からの投稿論文はもちろんのこと,大学からの投稿論文の質も,見事にその国の産業技術力と相関していると,常々感じているところである。鉄鋼協会の学術誌に投稿される論文も,むろんその例外では無い。日本および海外の一流の鉄鋼学術の研究者,技術者が投稿者として集うISIJ Internationalの世界的評価は定まったものになりつつある。鉄と鋼はこのところ欧文誌の陰に隠れがちではあるが,さりとて鉄と鋼に掲載される論文が欧文誌と比較して内容が劣っている訳ではない。鉄鋼学術を対象とした優れた和文誌である鉄と鋼を持つことは,鉄鋼協会に関わる諸氏があまねく受け取ることができる果実である。また誇るべきことであり,これからも大事にすべき財産である。

 
© 2014 一般社団法人 日本鉄鋼協会

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