Tetsu-to-Hagane
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Direct Dephosphorization from Iron Ore Containing Higher Concentration of Phosphorus
Minoru SasabeYoshimi IidaTomomi Yokoo
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2014 Volume 100 Issue 2 Pages 325-330

Details
Synopsis:

Iron ore containing higher concentration of phosphorus is reduced by hydrogen gas containing water vapor. 13% of removing yield of phosphorus is obtained. It is observed that removing rate of phosphorus can be expressed as apparent 1st order reaction equation. The reaction rate equation is divided into two parts. Rate constant of the former reaction is about 10 time larger than that of the latter equation. It is estimated on the basis of a previous research result that phosphorus removed from iron oxide is gaseous phosphorus and form of remained phosphorus is Fe2P.

1. はじめに

これまで鉄鋼製造プロセスにおける脱リンは製鋼プロセスによってきた。鉄鋼製造プロセスへのリンの混入源は主として鉱石由来である。鉱石由来のPが銑鉄中に混入するメカニズムとして高炉下部でのスラグ−メタル間反応が考えられているが,高炉下部で還元されて生成したた気体のリンが高炉中を上昇する間に上部で生成している還元鉄に吸収されるという説1,2)が提唱されたこともあった。この説が妥当かどうかを確認するため,本報の筆者の一人は金属鉄と気体リンが反応して固体金属鉄に吸収されるかどうかを実験的に確認する研究をしたことがある3)。その研究で,950°C付近の温度でCa3(PO4)2を炭素で還元すると10−2atmのオーダーにある気体のP2が生成すること,1000°C程度の固体金属鉄に気体P2を接触させると固体のFe2Pが生成することを確認した。この結果により,還元生成した金属鉄が気体のリンと反応してFe2Pが生成し,溶銑中のリンの源泉になっている可能性があると考えた。そして,生成した金属鉄に接触する前にリン蒸気を系外に排出することができれば,溶銑中にリンが混入することを防げるのではないかと考えた。その手法として,焼結またはペレタイジングの前の一工程として高リン鉄鉱石を金属鉄が生成する直前まで還元する工程を設置しT.Feの高い低リン鉱石に変換すると同時に,この工程で発生したリン蒸気を回収してリン資源として供給することをイメージした。

本研究はリンを含有する鉄鉱石からリンを気体としてどの程度除去できるかを実験的に確認することと,その除去速度を調べることを目的とした。

2. 実験方法

鉄鉱石試料は企業の研究所から提供を受けたオーストラリア産高リン粉鉱石で,それを粒径100μm以下90μm以上に整粒して用いた。提供を受けた試料に添付されていたミルシートをTable 1に示す。実験後の試料は取り分けをせずに全量を分析会社に送付し,FeOFe2O3P,金属鉄(以下M.Fe)について分析してもらった。分析には次の手法が使われている。M.Feは臭素メタノール溶解・EDTA滴定法,FeOM.Fe抽出後の残渣に塩酸添加・窒素雰囲気中加熱溶解・ニクロム酸カリウム滴定法,Fe2O3はアルカリ融解・塩酸溶解・塩化スズ還元・塩化チタン還元・ニクロム酸カリウム滴定後M.FeFe(II)補正法,Pは四ホウ酸ナトリウム添加ガラスビード・波長分散型蛍光X線分析法,である。

Table 1. Composition of iron ore in %.
T.FeFeOCaOSiO2Al2O3MgOMnSPTi
63.370.40.033.051.920.040.050.0270.1110.04
CuCrZnPbKNaClVC.W
0.0010.0050.0010.0010.0080.0150.0110.0023.65

Size of Pulverized iron ore is between 100 & 90μm.

提供試料を1000°CのN2気流中で30min乾燥処理し,FeOFe2O3M.FePについて分析した結果をミルシートと比較するとミルシートの数値にほぼ一致した。ただし,ミルシートにはM.Feの数値は記載されていなかったのでT.Feは分析報告書のM.FeFeOFe2O3,の値から算出した値をT.Feとして比較した。

実験装置の概略図をFig.1に示した。6gの試料を内幅10mm,内側長さ100mm,深さ8mmのムライト製ボートに装填した。6gの装填で試料はボート上縁スレスレに達した。試料を装填したボートを内径28mm,長さ600mmのムライト製反応管中に入れた。そこに水蒸気を含有するH2を流した。したがって還元は固定層の表面から進行するものとなった。

Fig. 1.

 Schematic illustration of experimental apparatus.

水素ボンベからのH2ガスは,まず3角フラスコ中に保持した蒸留水中を泡状で通過させた後,反応管に導入した。蒸留水入り3角フラスコを所定温度に保つことによって,所定水蒸気圧を得た。この蒸留水入り3角フラスコを水蒸気圧制御装置と呼ぶことにする。水蒸気圧制御装置内の水温が0°C以外の場合には,フラスコをマントルヒーターで外側から加熱し所定温度に保持した。0°Cの場合はフラスコ中に蒸留水と氷塊を入れ,さらにフラスコの外を氷水で冷却保持した。水蒸気圧制御装置と反応管を結ぶガス流路はガラス管で構成した。このガラス管の外側にリボンヒーターを巻き90°Cに保持し,ガラス管内面に水蒸気の結露が発生していないことを常に監視した。

水蒸気圧制御装置を通過した水素・水蒸気混合ガスを以下還元ガスと呼ぶ。還元ガスの流量は800ml/minである。反応管を出た還元ガスは,空の3角フラスコ→蒸留水入り3角フラスコ→空の3角フラスコ→水酸化ナトリウム飽和水溶液入り3角フラスコを順次通過して大気中に放出される。反応管を出た後のガスが通過する3角フラスコは温度制御をせず,常温に保持されている。反応管とそれより下流側のフラスコ間や,フラスコ同志の接続には透明塩化ビニル管を用いた。ガス出口側の蒸留水は還元中に発生するかもしれないリン化合物を捕集することを目的に,水酸化ナトリウム水溶液はホスフィンが発生した場合にそれを捕集すること目的に設置した。空の3角フラスコは蒸留水や水溶液が逆流した時,反応装置内に逆流することを防止するために置いた。還元ガスの出口は大気中に解放されているので,反応装置内の圧力は1atmである。

試料を装填したボートを反応管にセットし,室温に保持したまま流量800ml/minのN2を10min間流し,その後,同流量のN2を流し続けて昇温を開始し,所定温度に到達後還元ガスに切り替える。切り替え後所定時間還元ガスを流しつづけ,所定時間到達後炉の電源を切ると同時に雰囲気を流量800ml/minのN2に切り替える。流動N2中で室温まで冷却した後,試料を取り出し全量を分析に送る。還元途中でサンプリングはしていない。

還元ガス中の酸素分圧はM.Feの生成をできるだけ少なくするため,還元温度におけるFe-FeO平衡酸素分圧に近いものとした。そのため,水蒸気圧制御装置温度を0°C,78°C,85°Cの3水準とした。還元温度は1000°C,1050°C,1100°Cの3水準,還元時間は30min,60min,90min,120minの4水準とした。

水蒸気圧制御装置内の水温とこれに平衡する水蒸気分圧,およびそれぞれの分圧の水蒸気が1atmのH2と所定温度で平衡する時の酸素分圧を熱力学データ4,5)から計算してTable 2に示した。Table 2には(1)式で記述される反応の所定温度における平衡酸素分圧5)も併記した。以下この酸素分圧をFeFeO平衡分圧と呼ぶ。   

2Fe+O2=2FeO(1)

Table 2. Comparison of equilibrium oxygen partial pressures in atm.
Reductiontemperature (°C)2H2+O2=2H2O2Fe+O2=2FeO
Water temperature (°C)
07885
10001.18×10–195.93×10–161.04×10–151.15×10–15
10509.57×10–194.82×10–158.45×10–151.09×10–14
11003.50×10–181.76×10–143.09×10–144.39×10–14

3. 実験結果

以下,元素名あるいは分子名の前に%をつけたものは,分析数値である。%Fe2O3と%FeOから求めたFe2+Fe3+および%M.Feの合計を%T.Feと書く。還元反応により試料中のリンは除去されずに酸化鉄だけが還元されただけでも%Pの値は見かけ上変化するので,還元反応によるPのマスバランスを考察するため,Feを内部基準とする相対リン濃度Cpを以下のように定義する。   

CP=%P/%T.Fe(2)

脱リン率をηPと書き次のように定義する。   

ηP=1(CP)t/(CP)o(3)

ここでカッコの外の下付き文字のtoは還元時間を意味する。還元前試料の相対リン濃度は(Cp)O=0.00181である。

酸化鉄の還元率をηFeと書き,%Fe2O3と%FeOから次のようにして求めた。   

ηFe=1{0.22(%FeO)t+0.3(%Fe2O3)t}/27.2(4)

上式における数値27.2は,還元前の乾燥試料中の酸化鉄を構成する酸素のパーセント表示質量濃度である。

脱リン率ηPと時間tの関係をリン濃度に対する見かけの1次反応として,水蒸気圧制御装置の温度別に整理したものがFig.2, 3, 4である。すなわち,時間tに対するlog(1−ηP)の変化を示した。これらの図中のwater temperatureとは,水蒸気圧制御装置中の水の温度を意味するものであり,還元ガス中の水蒸気分圧に対応するものである。水蒸気圧,還元温度,還元時間が実験のパラメータであるが,同一実験条件について4回測定を行っており,図中の各点は各実験点での平均値である。各図は最初の30minの間にlog(1−ηP)は急激に減少し,30min以後は勾配は小さいがさらに直線的に減少することを示している。各図中の直線を還元時間30minの前後に分けて数式化したものを,Table 3に示した。本実験の範囲内では脱リン率ηPの最も大きな値を与えているものは,水温0°C,還元温度1100°C,還元時間90minの場合であって,ηP=0.131である。すなわちパーセント表示では13.1%である。

Fig. 2.

 Apparent 1st order reaction plot for dephosphorization yield in the case of water temperature at 0°C.

Fig. 3.

 Apparent 1st order reaction plot for dephosphorization yield in the case of water temperature at 78°C.

Fig. 4.

 Apparent 1st order reaction plot for dephosphorization yield in the case of water temperature at 85°C.

Table 3. Experimental results on dephosphorization rate.
Water temp.Reduction temp./°CLess than 30 minMore than 30 min
PH2O
0 °C0.006 atm1000log (1–ηP) = − 0.977 × 10–3tlog (1–ηP) = – 1.00 × 10–4t – 0.0263
1050log (1–ηP) = – 1.32 × 10–3tlog (1–ηP) = – 2.06 × 10–4t – 0.0335
1100log (1–ηP) = – 1.44 × 10–3tlog (1–ηP) = – 3.01 × 10–4t – 0.0341
78 °C0.429 atm1000log (1–ηP) = – 0.750 × 10–3tlog (1–ηP) = – 0.64 × 10–4t – 0.0263
1050log (1–ηP) = – 0.903 × 10–3tlog (1–ηP) = – 2.00 × 10–4t – 0.0211
1100log (1–ηP) = – 1.01 × 10–3tlog (1–ηP) = – 3.00 × 10–4t – 0.0214
85 °C0.567 atm1000log (1–ηP) = – 0.393 × 10–3tlog (1–ηP) = – 1.00 × 10–4t – 0.0088
1050log (1–ηP) = – 0.670 × 10–3tlog (1–ηP) = – 2.00 × 10–4t – 0.0141
1100log (1–ηP) = – 0.923 × 10–3tlog (1–ηP) = – 2.98 × 10–4t – 0.0187

酸化鉄の還元率ηFeと時間tの関係を鉄と化合している酸素濃度に対する見かけの1次反応として整理したものをFig.5, 6, 7に示した。log(1−ηFe)と時間tの関係もリン濃度の変化の場合と同様に,還元時間30minに交点を持つ2本の直線として記述した。ただし,Fig.5の1000°Cの場合の交点が30minではなく50minになっている。これはFig.6Fig.7では30min以上の4点が直線になっているので,1000°Cでは長時間側の点で構成する直線と,0minと30minを結ぶ直線とが交叉するように描いたものである。これらの直線関係をTable 4に示した。

Fig. 5.

 Apparent 1st order reaction plot for reduction yield of iron oxide in the case of water temperature at 0°C.

Fig. 6.

 Apparent 1st order reaction plot for reduction yield of iron oxide in the case of water temperature at 78°C.

Fig. 7.

 Apparent 1st order reaction plot for reduction yield of iron oxide in the case of water temperature at 85°C.

Table 4. Experimental results on reduction rate of iron oxide.
Water temp.Reduction temp./°CLess than 30 minMore than 30 min
PH2O
0°C0.006 atm1000log (1–ηFe) = − 1.69 × 10–2tlog (1–ηFe) = − 0.90 × 10–3t − 0.808
1050log (1–ηFe) = − 3.01 × 10–2tlog (1–ηFe) = − 1.7 × 10–3t − 0.851
1100log (1–ηFe) = − 3.25 × 10–2tlog (1–ηFe) = − 2.1 × 10–3t − 0.908
78°C0.429 atm1000log (1–ηFe) = − 1.38 × 10–3tlog (1–ηFe) = − 0.6 × 10–3t − 0.0233
1050log (1–ηFe) = − 2.94 × 10–3tlog (1–ηFe) = − 0.9 × 10–3t − 0.0613
1100log (1–ηFe) = − 4.51 × 10–3tlog (1–ηFe) = − 1.2 × 10–3t − 0.0993
85°C0.567 atm1000log (1–ηFe) = − 0.68 × 10–3tlog (1–ηFe) = − 0.3 × 10–3t − 0.808
1050log (1–ηFe) = − 1.20 × 10–3tlog (1–ηFe) = − 0.4 × 10–3t − 0.239
1100log (1–ηFe) = − 1.54 × 10–3tlog (1–ηFe) = − 0.7 × 10–3t − 0.251

10回以上の実験を行った後の排気ガス側のフラスコ中の蒸留水と水酸化ナトリウム水溶液をサンプリングしてPに関する分析を依頼したが,Pを検出することはできなかった。しかし,反応管出口から排気側フラスコを結ぶ透明塩化ビニル管の内面は白く濁っていた。この白色の物体は量が少ないために分析はできなかったが,筆者の一人が以前に行った研究3)を振り返ると,気体のP2が蒸着した可能性がある。

4. 考察

4・1 脱リン反応

以下,水蒸気圧制御装置の水温が78°Cの場合と85°Cの場合を高水温,0°Cの場合を低水温と呼ぶことにする。M.Feとリンの除去率ηPの関係をFig.8に示した。この図にはかなりのバラツキがあるが,ここから以下のことが読み取れる。高水温の場合はM.Feが30%付近に到達するまではM.Feが増加するのに伴いηPは大きくなっていく。M.Feが30%付近に到達するとηPは10%付近で止まっている。低水温の場合には,M.Fe=90%,ηP=10%付近に点が集中している。M.Feの増加は酸化鉄の還元の進行を意味するが,還元が進行してもηPの値が上昇しない理由を考察する前に鉱石中のリンと還元ガスとの反応について考察する。

Fig. 8.

 Relationship between dephosphorization yield and produced metallic iron.

本研究で使用した鉄鉱石中のリンの存在形態を調べていないが,鉱石中に存在するリンの形態の一つはリン酸カルシウムであると言われている6),それ以外のリンの形態は不明である。そこで,鉄鉱石中に存在しそうなリン酸化物を熱力学データブック7)から選択して,その酸化物が還元された場合にどの程度の蒸気圧になるのかを標準生成自由エネルギーデータから検討する。上記データブックには関連のありそうなリン酸化物としてP4O10FePO4Ca2P2O7Ca3(PO4)2が記載されている。これらの純粋酸化物(aoxide=1)が本研究条件に近い水素分圧PH2=0.5atm,水蒸気分圧PH2O=0.5atmの還元ガスと平衡した時の平衡リン分圧を温度の関数として求めた結果をTable 5に示した。求めた関数にT=1300Kを代入して求めたリン蒸気圧PP2も同表中に記入した。この検討結果から,鉱石中にリン酸化物がP4O10の形態で存在すると他の形態で存在する場合よりもはるかに高いリン蒸気圧を得ることができるということが分かった。ただし,P4O10の昇華点は623Kなので,Table 5では固相のデータを623K以上まで外挿して用いている。P4O10が昇華して1atmとなったと仮定して得た値も固体データの外挿地と大きな違いにはならなかった。Table 5PP2の値は固相の活量をaoxide=1とした時の値である。鉱石中のaoxideの値は明確には分らないが,還元前試料の%P=0.11から推定すると,PP2の値はTable 5の値よりも3桁ほど小さいものとなると考えてよい。本考察では,リンが鉄鉱石中にP4O10として存在している場合には脱リンは容易である,と理解される。酸化鉄−リン酸化物系状態図8)には酸化鉄高濃度側にリン酸化物と酸化鉄の2相共存領域のあることが示されているが,リン酸化物の形態がP4O10であるかどうかの判断はできない。

Table 5. Calculated phosphorus vapor pressure on the basis of standard free energy of formation.
ReactionΔGO/(J/mol P2) = – RT ln PP2 /atmPP2 /atm at 1300 K
Ca2P2O7 + 5H2 = 2CaO + P2 + 5H2OΔGO = – 330.45T + 9702391.20 × 10–22
Ca3 (PO4) 2 + 5H2 = 3CaO + P2 + 5H2OΔGO = – 444.57T + 2 × 1061.03 × 10–42
2FePO4 + 6H2 = 2FeO + P2 + 6H2OΔGO = – 404.33T + 7501178.11 × 10–9
1/2 P4O10 (s) + 5H2 = P2 + 5H2OΔGO = – 322.88T + 4084011.45
1/2 P4O10 (g) + 5H2 = P2 + 5H2OΔGO = – 251.72T + 3629510.0257
R = 8.3145 (J/mol K) T: Temperature/K aoxide = 1, PH2 = PH2O = 0.5

4・2 反応速度

本研究条件であるアルミナボート中の固定層を形成する粉末鉱石が還元ガスにより還元されるプロセスとして次のようなステップが考えられる。還元時間の短時間側では固定層表面に到達した還元ガスは表面を還元した後系外に排出される。還元ガスの一部は固定層中を拡散して表面より下にある試料を還元する。還元により生成したH2OP2は固定層を上方に拡散し,表面に到達して系外に排出される。固定層表面に金属鉄が生成すると,このFeは固定層下部から拡散してきたP2と反応してFe2Pとなり固定層に留まる。

リンの除去速度と酸化鉄の還元速度を見かけの1次反応として整理すると,前出のFig.2からFig.7に示すようにいずれの場合も交差する2本の直線として表すことができた。その交点はFig.5の1000°Cを除いて30minにある。Fig.5の1000°Cにおいては交点が50min付近にあるように描けた。みかけの反応速度定数が異なるということは律速過程が異なるということを意味している9)ので,還元時間30 min付近で反応の律速過程が異なっていると理解できる。Fig.5においての1000°Cの場合はそれ以上の温度の場合に比べて反応速度が遅いので,律速段階が変化する状況に到達するまでの時間が30min以上必要であることを示唆していると考える。

そして,いずれの反応においても短時間側のみかけの反応速度定数がそれ以後のみかけの反応速度定数よりも2~10倍大きいことが示された。

律速過程が具体的にどのように変化したのかについては本研究では明らかにできなかったが,本研究は30min間隔の測定点しかないので,反応時間30min以内にグラフ上の30minで得られている値に到達している場合のあることも否定できない。したがって,この30min以前の過程を30min以後まで持続させることができるように工夫できれば,本研究における30minで13%という脱リン率の限界をさらに大きい値にすることができる可能性がある。還元後の固定層の表面は軽く焼結しているので,律速段階の変化は固定層表面付近の物理的性状変化によるものと考えられる。

水蒸気圧制御装置の温度の効果,すなわち還元ガスの酸素分圧が反応速度に及ぼす影響を見るため1050°Cの反応温度の場合を例として,Fig.9に脱リン速度の1次反応プロット,Fig.10に酸化鉄の還元速度の1次反応プロットを示した。これらの図はFig.2からFig.7の該当部分を再掲したもである。Fig.10においては,水温が低い方が,すなわち還元ガスの酸素分圧が低い方が,還元時間30minまでの見かけの反応速度定数に大きく影響を与えている。一方Fig.9での水温の影響はFig.10ほど顕著ではない。この2つの図の比較から,酸化鉄の還元反応が脱リン反応よりも活発に生じていると推論できる。すなわち,酸化鉄活量はリン酸化物の活量よりもはるかに大きいため,酸化鉄の還元速度はリンの酸化物の反応速度より大きいと考える推論である。そして,固定層表面付近に生成したM.Feが気体のP2と反応して固体のFe2Pを生成するためリンは固定層中にトラップされるため脱リン反応は停止するものと考えられる。

Fig. 9.

 A comparison of effect of water vapor pressure in reducing gas on dephosphorization rate at 1050°C of reduction temperature.

Fig. 10.

 A comparison of effect of water vapor pressure in reducing gas on reduction rate of iron oxide at 1050°C of reduction temperature.

5. まとめ

リンを含有する鉄鉱石からリンを気体として還元除去できるかどうかを調べるため,水素−水蒸気混合ガスにより高リン鉄鉱石を還元した。その結果,鉱石のリン含有量の13%程度まで脱リンできた。脱リン進行過程において生成M.Feが30%程度になるまではM.Feの増加と共に脱リン率は大きくなった。しかし,M.Feが30%以上になっても脱リン率は13%以上にはならなかった。以前の研究結果3)と合わせて考察すると,脱リン率の停滞は反応で生成した気体のP2が先に生成していたFeと反応して固体のFe2Pを形成して反応系内に残ったものと推論した。

以上よりリンを含有する鉄鉱石から直接脱リンできる可能性のあることが分かった。その中で,還元により生成したM.Feが脱リン挙動に大きく影響しているので,さらに脱リン率を向上させる方法を見出すために,30minまでの反応過程をさらに注意深く研究する必要のあることが分かった。

謝辞

本研究の試料は旧新日本製鐵(株)プロセス開発センター製銑開発研究部から提供を受けた。ここに記してお礼を申し上げる。

文献
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  • 2)   R.  Jon,  J.  Vigliengo,  J.  Michrd,  R.  Scimar,  R.  Vidal,  A.  Poos and  A.  Decker: Metallurgical Reports CNRM, 15(1968), 3.
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© 2014 The Iron and Steel Institute of Japan

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