2014 Volume 100 Issue 3 Pages 366-375
The electric process has the advantage such as the low amount of CO2 emission. But, the tramp elements such as Cu and Sn contained in steel are retained in the puddling process. These tramp elements cause surface cracking of steel during hot rolling process. The surface hot shortness is suppressed by addition of Ni. The scale/steel interface of Ni addition steel is rugged. The rugged scale/steel interface occludes segregated tramp elements into the scale. The authors have reported the influence of shot peening to suppress surface hot shortness.
The effect of shot peening was development of microscopically homogenous and microscopically heterogeneous oxidation due to the increase of defects such as dislocations and lattice distortions. The rugged scale/steel interface was produced by microscopically heterogeneous oxidation. The rugged scale/steel interface occluded the enriched Cu into the scale. The suppression of surface hot shortness like Ni addition was occurred by shot peening.
This paper describes the mechanism of shot peening on the suppression of surface hot shortness at the initial stage of oxidation. The grain refining is occurs by shot peening at the surface of steel. The refined grains have various crystal orientations which was observed by EBSP. The interior matrix grains have crystal orientation of 3-degree or more. And, the locally-diffused O signal which diffused along refined grain boundaries and dislocation were observed by EDX. The scale/steel interface is being rugged by the microscopically heterogeneous oxidation which was hastened by the locally-diffused O2– ion.
スクラップを原料として製鋼を行う電炉法はCO2排出量や製鋼に必要なエネルギーが低い利点がある。また,日本国内にはスクラップが余剰に存在し,原材料が安定に供給できる。しかし,電炉法では表面赤熱脆性と呼ばれる,スクラップ中に混入するCuやSnを原因とした表面割れが発生する問題がある1,2)。トランプエレメントと呼ばれるCuやSnはFeよりも貴な金属であるため,精錬の過程で除去が困難である3,4,5)。このトランプエレメントの循環濃縮によるスクラップ品位の低下も問題になっている。
これまで今井らによってNiを添加することにより表面赤熱脆性が抑制されることが報告されている6,7)。しかし,Niは原材料高騰につながるため使用が懸念されている。1200°C以上の高温域で酸化を行うことで表面赤熱脆性が抑制されることも報告されている8)。Ni添加と1200°C以上の高温酸化で表面赤熱脆性が抑制されるメカニズムに共通してスケール/地鉄界面の凹凸化がある。スケール/地鉄界面が凹凸化することで,偏析したCuがスケール中へ排斥されて表面赤熱脆性が抑制される。これまでの表面赤熱脆性に関する研究報告を参考にすると,スケール/地鉄界面の凹凸化が表面赤熱脆性抑制に効果的であるという見解が多い6,7,8,9,10,11)。そこで筆者らはショットピーニングによって材料表面を凹凸化させることで酸化後のスケール/地鉄界面が凹凸化すると考え,研究を行った12)。
ショットピーニングによる表面赤熱脆性抑制効果は1100°C×60 min酸化で確認された。この時,ショットピーニングによってスケール/地鉄界面が凹凸化していた。しかし,スケール/地鉄界面の凹凸化はショットピーニング投射材のような1 mm程度の大きさでなく,数μm程度の非常に細かいものだった。これは,ショットピーニングによって酸化機構の変化が発生したことによると考えられる。Xingeng and JiawenによってSUS304にショットブラストを行うことによって鋼材表面に微細で緻密な酸化物が生成することが報告されている13)。ショットピーニングによって酸化機構が変化することによりスケール/地鉄界面が凹凸化して表面赤熱脆性抑制効果が得られたと考えた。
ショットピーニングによる表面赤熱脆性抑制効果は酸化時間が長くなることで確認が難しくなる。そこで初期酸化機構の調査よりショットピーニングを利用した表面赤熱脆性抑制効果のメカニズムの解明を目的として研究を行った。以下,ショットピーニングをショットと称する。
Table 1に本研究に使用した試験片の化学組成を示す。一般的な低合金鋼である0.050%C-0.20%Si-1.35%Mn-0.04%Nb-0.03%V-0.015%Tiに対して0.40%Cuを添加した鋼を溶製した。この0.40%Cuを含有した鋼を40 Cu鋼と称する。溶製後圧延した鋼板より,Fig.1に示す7 mm厚×15 mm角の角形試験片を機械加工により作製した。機械加工仕上げは算術平均粗さ0.40 μmとした。その後,角形試験片に対して冷間でショットを行った。Table 2にショット条件を示す。ショットは循環エアノズル式で投射材は不足することなく,一定の強度で15×15 mm2の半面にのみ行った。ショット後熱処理前の試験片中央を切断し,樹脂埋め込み後に研磨した。鏡面仕上げ後,3%ナイタール液で腐食して結晶粒界を顕在化させた。試験片表層部からの硬度試験を行った。硬度試験は結晶粒界を避けて,結晶粒内に10 gfの荷重で行い,試験片表面から試験片内部に向けて深さ方向1000 μmの範囲で行った。
| Steel | C | Si | Mn | P | S | Cu | V | Nb | Ti | Al | N |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 40Cu | 0.050 | 0.20 | 1.35 | 0.005 | 0.001 | 0.40 | 0.03 | 0.040 | 0.015 | 0.035 | 0.0035 |

Dimensions of specimens.
| Material | Shot size | Vickers hardness | Machining time | Air pressure |
|---|---|---|---|---|
| Steel | 1.2 mm | 390~530 | 5 sec | 0.35 MPa |
Fig.2に本実験で行った初期酸化実験の熱処理条件を示す。作製した角形試験片に対してクロメル−アルメル熱電対を取り付け,水蒸気含有雰囲気(20%H2O-1%O2-bal.N2)中1100°Cに均熱した高流速加熱炉内に挿入し,目的温度に達した時に炉内から取り出した。この時,炉の流速条件は水蒸気含有雰囲気に調整する目的で1ℓ/minとした。本実験では室温(RT)~1100°Cの8条件の取り出し温度を調査した。この各々の炉内からの取り出し温度を初期酸化温度とする。炉内から取り出した試験片は空冷した。各目的の初期酸化温度まで熱処理を行った試験片に対してFE-SEMとEDXによる観察と分析を行った。また,EBSPによる分析を行った。さらに,FIBによって試験片表面部からTEM試料を作製し,FE-TEMとEDXによる観察と分析を行った。

Experimental conditions of Fe oxides that oxidized during the initial stage of oxidation.
Fig.3にショット後,未酸化試験片のビッカース硬度試験結果を示す。試験片最表面部で硬度は300 Hvだった。試験片表面部から内部に進むのに伴って硬度はなだらかに低下した。試験片表層部から700 μmまでショットによる加工硬化が確認された。つまり,試験片表層部から700 μmまでの深さはショットの影響が残存することが考えられる。

Result of hardness test for 40 Cu steel.
Fig.4に熱処理を行っていない試験片と,各目的の初期酸化温度まで熱処理した試験片の外観観察結果を示す。各試験片左半面はショットを行っていない面,右半面がショット面を示している。

Appearances of initial oxidation specimens: (a) virgin, (b) oxidized at 100 °C,(c) oxidized at 200 °C, (d) oxidized at 300 °C, (e) oxidized at 400 °C, (f) oxidized at 500 °C, (g) oxidized at 600 °C and (h) oxidized at 1100 °C.
外観観察において,酸化状態へのショットの影響はわからなかった。しかし,初期酸化温度の上昇に伴い試験片表面の酸化状態が変化した。熱処理を行っていない場合,試験片表面は金属色を有していた。初期酸化温度が100~200°Cの条件では試験片表面は目視観察では確認できない程度の酸化状態だった。金属色を維持しており,熱処理を行っていない試験片と比較しても変化は見られない。初期酸化温度300°Cより酸化が確認され,試験片表面はやや茶色がかった。これはbluingと呼ばれる初期酸化が発生することによって表面に酸化物が生成し始めたことによる14,15)。初期酸化温度が上昇するのに伴って,試験片表面は酸化被膜の成長を受けて茶色から青色を呈した表面状態に変化し,最終的に鉛色を呈した。この表面状態の変化は酸化被膜の成長による。初期酸化1100°Cでは試験片表面は全面スケールに覆われており,ショットの加工痕も確認できなくなった。
3・3 SEM観察による微視組織観察とEDX分析結果Fig.5にFE-SEMにより100~300°Cの初期酸化を行った試験片表面の微視組織を観察した結果を示す。ショットを行っていない試験片における一定方向の筋は試験片製作時の切削痕である。また,ショット面ではショットによる加工痕が確認された。ショットの有無に関わらず,初期酸化温度が100~200°Cの初期酸化によるスケールの生成は確認できなかった。しかし,初期酸化温度300°Cの条件では試験片表面に数十nm程度の白い微細な生成物が確認された。この微細な生成物は試験片表面全体で確認された。

SEM images of 40 Cu steels oxidized at 100, 200 and 300 °C.
さらに,試験片表面をEDXによりmappingの分析を行った。Fig.6に加速電圧2 kVで行ったEDXのmapping結果を示す。ショットを行っていない初期酸化温度100~200°Cの試験片では,酸素シグナルは極一部の小領域でのみ観察された。他方,ショットを行った試験片では局所的な分布だが,ショットを行っていない試験片より広範囲で酸素シグナルが確認された。初期酸化温度100°Cと200°Cを比較すると,初期酸化200°Cの試験片で酸素シグナルの検出が強かった。初期酸化温度が300°Cの条件ではショットの有無に関係なく,試験片全面から酸素シグナルが検出された。これは初期酸化300°Cの試験片のSEM像で見られた数十nmの微細な生成物が確認できた結果と対応する。初期酸化300°Cまで昇温を行ったことで酸化が進行し,試験片表面は微細酸化物に覆われたためと考えられる。

O X-ray images of 40 Cu steels oxidized at 100, 200 and 300 °C.
Fig.7にSEMの加速電圧2 kVの条件で測定したEDXのmapping全範囲から得られたスペクトルを示す。100~300°Cのいずれの初期酸化温度においてもショット領域からの0.53 keVにピークを持つスペクトルの酸素強度は非ショット領域から得られるものより高くなった。初期酸化300°Cのmappingではショットの有無に関わらず試験片全面から酸素シグナルが検出されていた。つまり,鉄酸化物の生成物に覆われていた。しかしスペクトルの酸素強度から判断すると,ショットの有無で酸化の強度は異なり,ショットによって酸化が進行している。Fig.8に初期酸化300°Cの試験片についてSEMの加速電圧を変化させて酸素のmappingを行った結果を示す。また,Fig.9に初期酸化400°Cの試験片について同様に,加速電圧を変化させて酸素のmappingを行った結果を示す。加速電圧は各々2 kV,5 kV,15 kVで行った。加速電圧を変化した測定を行うことによって,電子の進入深さが変化する。Feに対する電子線の侵入深さは加速電圧2 kVで25 nmから30 kVで1800 nmまで変化するので16),試験片表層から深さ方向への分布を調査することができる17)。ショットを行っていない初期酸化300°Cと400°Cの条件で,酸素シグナルが確認された。また,全ての加速電圧で酸素シグナルは試験片全面より確認された。ショット面では加速電圧が2 kVの場合,試験片全面に酸素シグナルが確認された。しかし,SEMの加速電圧を15 kVまで高くすることで,局所的な酸素シグナルが確認された。

Spectrum intensity of O.

SEM and EDX mapping images of specimens oxidized at 300 °C, measured with an accelerating voltage ranging from 2 to 15 kV.

SEM and EDX mapping images of specimens oxidized at 400 °C, measured with an accelerating voltage ranging from 2 to 15 kV.
以上よりショットを行っていない場合,スケール/地鉄界面は平坦に進行していくことがわかる。これに対してショットを行った場合,スケール/地鉄界面は局所的に進行していくという変化が確認された。
3・4 EBSP分析結果EBSPを用いて試験片の結晶粒および粒内ひずみの評価を行った18,19,20)。Fig.10に熱処理前と初期酸化600°CのEBSP解析で得られた表面投影逆極点図方位mapを示す。未熱処理試験片におけるショット面とショット無し面を比較する。ショット無しの面では,粗大な結晶粒が確認された。他方,ショット面では表面部から約5 μmの範囲で細粒化された結晶粒領域を有していた。ショットを行った初期酸化600°Cの試験片では細粒化された結晶粒が残っていた。微細結晶粒は各々異なる結晶方位を有しており,結晶粒の大きさも初期酸化前から変化は見られない。

Inverse pole figure maps of 40 Cu steels: (a) shot-free side of non-oxidized sample, (b) shot-peened side of non-oxidized sample, (c) shot-free side of sample oxidized at 600 °C and (d) shot-peened side of sample oxidized at 600 °C.
さらに,Fig.11にLocal misorientation mapを示す。EBSP解析で得られたLocal misorientation mapはしきい値を3°に設定した。初期酸化前の試験片ではショット無し面で,試験片表面部はひずみの少ない組織形態だった。他方,ショット面の試験片表面部に見られた結晶粒が微細化された領域では多量のひずみが導入された様子が確認できた。また,地鉄内部の粗大な結晶粒においても粒界に沿ってひずみが集中していることも確認できた。粒内にもマーブル状のコントラストが顕著に見られ,粒内ひずみの存在が強く示唆される。ショットを行った初期酸化600°Cの試験片でも微細化された結晶領域が残存していた。試験片表面部の微細結晶領域で多量のひずみが残存している様子が確認された。さらに,熱処理前の試験片より減少しているが,地鉄内部の粗大な結晶粒においても粒界に沿って集中したひずみが観察された。また粒内でもひずみが残存している様子が確認できた。

Local misorientation maps of 40 Cu steels: (a) shot-free side of non-oxidized sample, (b) shot-peened side of non-oxidized sample, (c) shot-free side of sample oxidized at 600 °C and (d) shot-peened side of sample oxidized at 600 °C.
Fig.12にショットを行った初期酸化試験300°CのFE-TEM観察結果を示す。Fig.5とFig.6に示したSEM観察結果より初期酸化300°Cでは試験片表層部分に微細な生成物が確認された。FE-TEM観察よりこの微細な生成物は厚さ約20~25 nm程度の微結晶酸化物であることがわかった。この微結晶酸化物領域より得た回折図形よりFe3O4が生成していたことがわかった。

TEM images of shot-peened 40 Cu steel oxidized at 300 °C along with the diffraction pattern.
Fig.13にショットを行った初期酸化試験600°CのFE-TEM観察結果を示す。Fig.13(a)はTEM Imageのa点,Fig.13(b)はTEM Imageのb点より得た回折図形を示している。試験片表面部に酸化物層が形成されていた。試験片表面部の酸化物層の平均厚さは約1.2 μmだった。スケール/地鉄界面近傍の点aでは回折よりFeOのデバイリングPatternおよびFe3O4の酸化物が確認された21)。また,スケール表層の点bではFe3O4,Fe2O3の混合組織が確認された。回折斑点は明瞭に確認でき,スケール表層では酸化物が成長している。

TEM images of shot-peened 40 Cu steels oxidized to 600 °C along with a) diffraction pattern at point a and b) diffraction pattern at point b.
100~200°Cの初期酸化温度の外観は金属色を維持した表面状況だった。また,SEMによる微視組織観察結果よりスケールは確認されなかった。しかし,EDX分析によるmappingではショットを行った場合,局所的な酸素シグナルが検出された。ショットによって地鉄内部に格子欠陥や格子ひずみが導入される。これはEBSP分析による結晶方位の分析からも確認できた。特に試験片表層約5 μmの範囲で細粒化された結晶領域が確認された。この微細結晶領域は初期酸化600°Cの試験片でも残存していた。ARB法などの強ひずみ加工によって結晶粒が微細化することが報告されている22,23,24)。また,Umemotoらはショットピーニングによる結晶粒の微細化を報告している25)。結晶粒微細化はショットにより材料表面に繰り返し塑性変形が起こり,大きなひずみが与えられることによると考えられる。ひずみの多い試験片表層の微細結晶領域と地鉄内部で増加した格子欠陥を通して酸化が進行するため局所的な酸素シグナルが確認されたことが考えられる。
また,300°C以上の初期酸化試験においてbluingと呼ばれる初期酸化によるスケールが生成している14,15)。この結果はSEMによる微視組織観察結果も同様だった。300°C以上の初期酸化温度の条件では,試験片表面は非常に微細な生成物によって覆われていた。SEM-EDX分析によるmappingでは試験片全面から酸素シグナルが確認された。これより試験片表面に発生した微細な生成物は酸化物であることがわかる。しかしEDX mappingにより,ショットを行うことでスペクトルの酸素強度が高くなっていた。Fig.8とFig.9に示した加速電圧を変えたSEM-EDXのmapping分析結果より,スペクトルの酸素強度が高くなっている理由は試験片表層から深さ方向への局所的な酸化が促進されることによると考えられる。つまり,初期酸化300°C以上でもショットによって酸化の促進があったことが確認された。
Fig.14にFe-O二元系状態図を示す。状態図よりFeOは570°C以上,Fe2O3とFe3O4は室温から生成することがわかる。O2−イオンの内方拡散により生成するn型半導体である酸化皮膜と,金属イオンの外方拡散により生成するp型半導体である酸化皮膜の反応をKröger-Vinkの表記法より説明する26,27)。Fe2O3はO2−イオンの内方酸化により生成するn型半導体の酸化皮膜である。n型半導体は非金属イオン欠損で,陰イオン格子上に空孔が生成する。スケール表層からのO2−イオンとスケール中の非金属イオン欠損空孔との位置交換による内方酸化によってFe2O3が生成する。Fig.15に内方酸化による内層スケールの生成機構についてまとめた図を示す。まず,金属は電子を失い金属イオンになり,非金属イオン位置は空孔となる(Fig.15(a))。このスケール/地鉄界面での反応は次式のようになる。

Fe-O binary phase diagram.

Schematic drawings of generation oxidation mechanisms for a inward oxidation layer; (a) production of MO and O2– ion vacancy at the scale/steel interface, (b) diffusion of the anion vacancy and anion, (c) diffusion of O2– ion vacancy to the scale/atmosphere interface and (d) ionization and attachment of O into the O2– ion vacancy.
VöはO2−イオン空孔を示す。MXMは正規の格子位置の金属原子を示す。スケール/地鉄界面での反応で金属酸化物の生成に伴ってO2−イオン空孔が導入される。この空孔を埋めるようにO2−イオンがO2−イオン空孔と位置交換する(Fig.15(b))。O2−イオンとO2−イオン空孔の位置交換によって,O2−イオン空孔はスケール/雰囲気界面まで拡散する(Fig.15(c))。最終的にスケール/雰囲気界面で雰囲気中のO2がイオン化してO2−イオン空孔を埋める(Fig.15(d))。このスケール/雰囲気界面での反応は次式のようになる。
OXOは正規の格子位置の酸素原子を示す。以上の反応による内方酸化によってFe2O3が生成する。また,酸化温度が570°C以上ではFeOが生成する。FeOは金属イオンの外方拡散により生成するp型半導体の酸化皮膜である28,29)。p型半導体は金属イオン欠損で,陽イオン格子上に空孔が生成する。金属イオンとスケール中の金属イオン欠損との位置交換による外方酸化によってFeOが生成する。Fig.16に外方酸化による外層スケールの生成機構についてまとめた図を示す。まず,スケール/雰囲気界面で雰囲気中のOは電子を受け取りO2−イオンになり,金属イオン位置は空孔となる(Fig.16 (a))。このスケール/雰囲気界面での反応は次式のようになる。

Schematic drawings of generation oxidation mechanisms for a outward oxidation layer; (a) production of MO and metallic ion vacancy at the scale/atmosphere interface, (b) diffusion of the cation vacancy and cation, (c) diffusion of metallic ion vacancy to the scale/steel interface and (d) ionization and attachment of M into the metallic ion vacancy.
V”Mは金属イオン空孔を示す。hは正孔を示す。OがO2−イオンになる時,2個の電子を受け取り,電気的中性条件から2個の正孔が生成される。スケール/雰囲気界面での反応で金属酸化物の生成に伴って金属イオン空孔が導入される。この空孔を埋めるように金属イオンが金属イオン空孔と位置交換する(Fig.16(b))。金属イオンと金属イオン空孔の位置交換によって,金属イオン空孔はスケール/雰囲気界面まで拡散する(Fig.16(c))。最終的にスケール/地鉄界面で地鉄中の金属がイオン化して金属イオン空孔を埋める(Fig.16(d))。このスケール/地鉄界面での反応は次式のようになる。
以上の反応を通して外方酸化が発生する。この内方酸化と外方酸化の相互作用によって表面赤熱脆性抑制効果となったスケール/地鉄界面の凹凸化が得られたと考えた。
内方酸化と外方酸化の相互作用によるスケール/地鉄界面の凹凸化について示す。先ず570°C以下の低温域での酸化ではO2−イオン空孔とO2−イオンの位置交換は見かけ上,O2−イオンが地鉄内部へ拡散する過程となる。完全結晶の場合,スケール/地鉄界面で金属がイオン化される時,酸素イオン欠損空孔が形成されるため空孔の生成エネルギーを越す熱活性化が必要となる。結晶粒界や地鉄内部の転位付近などのひずみが存在し,結晶が乱れた箇所では空孔の生成エネルギーが低下するため優先的に金属の酸化反応が進行することが考えられる。Fig.6とFig.8とFig.9に示したEDX mapping結果より得られた局所的な酸素シグナルはショットによって導入された格子ひずみや,結晶粒界を通してO2−イオンの内方拡散が促進されたことが原因と考えられる。酸化温度の上昇に伴って,局所的にO2−イオンが拡散した箇所を起点として酸化物が生成することで,スケール/地鉄界面が凹凸化したと考えた。Fig.12に示すように,初期酸化300°Cでは試験片表層部に厚さ約20~25 nm程度のFe3O4の微結晶酸化物が生成していた。570°C以下の低温域での酸化では内方酸化によるスケール/地鉄界面の凹凸化が得られたと考えた。しかし,Fe3O4はn型半導体である報告5)もされているが,p型半導体である説28,29)が多い。Fe3O4を金属欠損型のp型半導体として考えた場合,570°C以下の低温域での酸化によりスケール/地鉄界面の凹凸化が得られない。Fig.14のFe-O二元系状態図でFe3O4が非化学量論性を持つのは約800°C以上のFe3O4単相領域が広がる温度であり,600°C以下では単相領域は非常に狭い。この場合,内因的不定比性の影響より,MnやSi等の添加元素による外因性の影響が大きくなると予想できる。Fig.17にショット後初期酸化500,700,900°Cの試験片に対してSTEMによるmapping結果を示す。いずれの条件でもMnのシグナルが確認できた。初期酸化500°Cの場合ではMnは地鉄側の一部に存在していた。初期酸化700°Cと900°Cではスケール中より連続した状態でMnのシグナルが確認できた。また,本実験に使用した試験片にはSiも0.2%含有している。Feより卑な金属であるMnやSi等の元素を含有した現行の厚鋼板では,Fe-O二元系状態図のみで考察される酸化形態とは異なると考える。低温域では複雑な酸化形態によりスケール/地鉄界面が凹凸化したと考察するが,今後の検討が必要である。

TEM and EDX mapping images of shot-peened 40 Cu steels oxidized at 500, 700 and 900 °C.
570°C以上の高温域では外方酸化によるFeOが生成している。外方酸化はスケール中の金属イオン空孔との金属イオンの位置交換によって進行するため,570°C以下の温度域で発生した内方酸化によるスケール/地鉄界面の凹凸化が保持されると考えられる。また先述したように,570°C以上ではMn含有のFe3O4が確認された。Mn含有Fe3O4が外因的不定比性に則して生成する30)こともスケール/地鉄界面の凹凸化保持に影響していると考察するが,こちらも今後の検討が必要である。
Fig.18にスケール/地鉄界面の凹凸化メカニズムの考察をまとめた図面を示す。ショットピーニングによって試験片表面部で結晶粒が微細化し,試験片内部でも結晶粒界や結晶粒内部でひずみが増加する。その後の600°C程度までの初期酸化によってO2−イオンの内方拡散がひずみの多い箇所で促進される。この局所的な酸化の進行によってスケール/地鉄界面が凹凸化する。Fig.19に40 Cu鋼を1100°Cで60 min酸化させた後にスケール/地鉄界面を光学顕微鏡により観察した結果を示す。ショットを行っていない面ではスケール/地鉄界面は平坦で,連続した濃化Cu合金が確認される。しかし,ショット面ではスケール/地鉄界面の凹凸化が酸化後まで残存することによってスケール/地鉄界面の濃化Cuが分断される様子が観察された。スケール/地鉄界面の凹凸化による濃化Cu分断によって結晶粒界中へCuが浸潤することを低減させる効果より表面赤熱脆性が抑制される。また,凹凸化したスケール/地鉄界面に包み込まれて酸化が進行することでスケール中へ排斥されたCuも確認できる。このショットピーニングによるスケール/地鉄界面の凹凸化によって表面赤熱脆性が抑制されることが考えられる。

Schematic drawings of formation of the grain refinement: (a) before initial oxidation and (b) after initial oxidation.

Optical micrographs of scale/steel interface of 40 Cu steel after 60 min oxidized.
Fig.20に本実験で得られた結果と,前報で報告したショットによる表面赤熱脆性抑制機構12)をまとめた模式面を示す。上述してきた初期酸化試験によって得られた結果を元に,ショットによる表面赤熱脆性抑制機構を順追って考察した。ショットによる表面赤熱脆性抑制機構は以下の通りである。

Schematic drawings of the suppression of surface hot shortness process: (a) before oxidized, (b) after initial oxidation, (c) after 60 min oxidized and (d) over 180 min oxidized.
①冷間でショットを行うことによって“マクロ均一,ミクロ不均一”な加工が導入される。これによって試験片表面が細粒化,および試験片内部でも転位や結晶粒界を主とする多くのひずみが導入される。
②熱処理過程において,ショットにより導入されたひずみや細粒化により増加した結晶粒界などをO2−の拡散路として酸化が促進される。
③初期酸化温度570°Cまででショットの影響により細粒化した箇所や転位の増殖した箇所,またMnやSi等の卑な金属を起点として酸化が進行するため“マクロ均一,ミクロ不均一”な酸化となり,スケール/地鉄界面が凹凸化する。
④初期酸化温度が570°C以上になった場合,FeOを生成する外方酸化が支配的になる。スケールの生成形態が外方酸化になることで,スケール中の正孔と地鉄側のFeイオンの交換による酸化形態に変化することで,凹凸化したスケール/地鉄界面が維持される。またMn含有Fe3O4の外因的不定性に則した生成も影響していると考えられる。
⑤前報にて酸化時間が60 minの酸化量が中程度の場合,スケール/地鉄界面の凹凸化が維持されることによって表面赤熱脆性抑制効果が得られることを報告した。初期酸化から長時間酸化への酸化形態変化の影響について今後更なる検討が必要だと考える。
実験室にて低合金鋼にCuを添加した鋼を溶製した。これらの鋼に冷間で鋳鋼のショットピーニングを行った。これらの試験片を水蒸気含有雰囲気中1100°Cに均熱した炉内に投入し,目的温度に達した瞬間に取り出して初期酸化を行った。初期酸化後,SEMによる表面観察,EDX分析やEBSP分析を行った。またTEM観察も行うことによりショットピーニングによる酸化機構の変化による表面赤熱脆性抑制効果について調査した。得られた主な結果を以下に示す。
(1)外観観察の結果,初期酸化温度300°C以上で試験片表面が変色し始めた。
(2)FE-SEM観察の結果,初期酸化温度が100~200°Cの場合では金属色を有した表面だったが,300°C以上で数十nm程度の微細な生成物が確認された。
(3)加速電圧2 kVで行ったEDX mappingの結果,100~200°Cの初期酸化温度においてショットを行った場合,局所的な酸素シグナルを確認した。初期酸化温度が300°Cの条件ではショットの有無に関係なく試験片全面から酸素シグナルが確認された。また加速電圧を変化させて試験片内部方向への酸素シグナルを分析した結果,加速電圧5 kV以上で局所的な酸素シグナルが確認できた。
(4)EDX分析より得たスペクトルの酸素強度より,各初期酸化温度でショットを行った場合,スペクトルの酸素強度が高かった。つまり,ショット面で酸化が進行したことが示唆された。
(5)EBSP観察結果より,試験片表面部で結晶粒微細化が確認された。この微細結晶領域は様々な結晶方位を有していることがわかった。また,結晶粒界に沿ったひずみの集中や,粒内ひずみが確認された。
(6)TEM観察の結果,初期酸化300°Cの条件では約20~25 nm厚さのFe3O4微結晶酸化物が確認された。また,初期酸化600°Cの条件では約1.2 μm程度の厚さのスケールが生成していた。回折図形よりスケール/地鉄界面近傍でFeOが,雰囲気側でFe3O4とFe2O3が確認された。
(7)n型およびp型の酸化機構を考慮することでスケール/地鉄界面凹凸化の発生機構について説明できた。
本研究は平成22,23年度鉄鋼研究振興助成を受けて遂行した。厚く感謝する。