Tetsu-to-Hagane
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Influence of Mold Flux on Initial Solidification of Hypo-Peritectic Steel in A Continuous Casting Mold
Masahito HanaoMasayuki KawamotoAkihiro Yamanaka
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JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2014 Volume 100 Issue 4 Pages 581-590

Details
Synopsis:

Continuous casting of hypo-peritectic steel was conducted with a pilot slab caster. Such experimental data as local heat flux, thickness of solidified shell or mold flux film, and dendrite primary arm spacing were obtained. On the basis of these experimental results, influence of mold flux on initial solidification in the mold was discussed.

With mild cooling by crystallization of mold flux, local heat flux and solidification rate decreased in the mold. Their changes quantitatively correspond to each other. Dendrite primary arm spacing increased with the mild cooling. Relationship between the arm spacing and cooling rate was established and cooling rate on quite initial stage of solidification was estimated. Cooling rate at 1 mm thickness of solidified shell was estimated as about 10,000-17,000 K/min and changed by mold flux. Unevenness of the solidified shell thickness becomes remarkable when the shell grows to be 1 mm thick. Relation between the unevenness and the cooling rate was discussed, and critical cooling rate against the uneven solidification was observed around 17,000 K/min. Thermal resistance of mold flux film was also evaluated and it was clarified that thermal resistance in the film is larger than that by air gap, and Crystallization in the film contributes to increase of both resistances.

1. 緒言

スラブ表面の縦割れは,連続鋳造鋳型内の不均一凝固により生じる1,2)。特に,Fe-C二元系においてはC濃度0.10~0.18 mass%,実用鋼では0.08~0.16 mass%において,凝固殻の収縮および割れは包晶反応により著しくなる3,4)

不均一凝固および縦割れの防止に対して,モールドフラックスによる緩冷却が効果的な手段として一般的に知られている。モールドフラックスは,鋳型と凝固殻との間隙へ流入し,そこでフィルムを形成する。このフィルムは伝熱媒体として機能し,フィルムの結晶化を促進することによりその伝熱抵抗が増大し,凝固殻を緩冷却する手段として利用できるようになる。そのため,結晶化を促進するためのモールドフラックスの組成設計の手法が開発され,実際の連続鋳造における緩冷却および縦割れ防止の効果がこれまでに多く報告されてきた5,6,7,8,9)。一方で,モールドフラックスの結晶化に関しても多くの研究結果が報告されており,結晶化の進行とともにフィルムの粗度が増大して,フィルム中の輻射伝熱が抑制されるため,結果的に,伝熱抵抗が増大することが明らかになっている10,11,12,13,14)

しかしながら,モールドフラックスの結晶化により,鋳型内溶鋼の凝固現象そのものがどの様に変化するかという点については,未だに明らかにされておらず,この点に関する報告は少ない15)。縦割れを防止するためには,メニスカス下数十 mm,厚み1 mmに達するまでの凝固殻を十分に緩冷却することが重要であることは確かであるものの16),この様に極めて初期段階の凝固現象に関する研究例も少ない。

本研究では,試験連続鋳造機を用いた亜包晶鋼の連続鋳造において,鋳型内の初期凝固現象について実験的な評価を実施した17)。そして,実験結果を基にして,初期凝固および伝熱に及ぼすモールドフラックスの影響について考察した。

2. 実験方法および条件

2・1 連続鋳造

2・1・1 鋳造条件

亜包晶鋼の鋳造には試験連続鋳造機を用いた。主な鋳造条件をTable 1に示す。2.5 tonの溶鋼を幅800 mmおよび厚み100 mmのスラブに鋳造した。その際の鋳造速度は1.3~1.5 m/min,溶鋼過熱度は80~89 Kとした。溶鋼成分をTable 2に示す。炭素濃度0.11~0.14 mass%で,SiおよびMn,Alを含む亜包晶鋼とした。鋳造には3種類のモールドフラックスを用いた。それらの仕様をTable 3に示す。モールドフラックスAは,低炭素鋼用であり,塩基度(CaO/SiO2)は0.8と低く,凝固点も低い。モールドフラックスBおよびCは,より塩基度が高く,鋳造中のフィルムにおいてcuspidine(Ca4Si2O7F2)が十分に結晶化する組成とした。

Table 1. Casting conditions.
Heat size (ton)Mold size (mm)Casting speed (m/min)Super heat (K)
thicknesswidth
2.51008001.3-1.580-89
Table 2. Contents of alloying elements in molten steel.
Contents (mass%)Liquidus (K)
CSiMnPSAl
0.11-0.140.25-0.351.3-1.4<0.015<0.0070.01-0.081788
Table 3. Specifications of mold fluxes for continuous casting.
Mold fluxBasicty (-) CaO/SiO2Solid. Temp. (K)Viscosity at1573 K (Pa・s)
A0.813070.22
B1.815090.04
C1.715480.06

2・1・2 鋳型内の局所熱流束

鋳型内の局所熱流束を,鋳型銅板中に埋設した熱電対により測定した温度から評価した。熱電対は,Fig.1に示す様に,幅中央でメニスカス下35 mmおよび140 mmの2ヶ所に埋設した。鋳型冷却水の温度も同時に測定した。これらの温度は,鋳造終了前の1分間において,一定した状態に安定したので,この期間の平均値を局所熱流束の評価に用いた。熱流束の評価には,下記に示す(1)式を用いた。   

q=1dCuλCu+1hW(TCuTW)(1)

Fig. 1.

 Schematic diagram of thermal conduction in the mold.

ここで,qは局所熱流束,dCuは表面から熱電対先端までの銅板厚み(10 mm),λCuは銅板の熱伝導度(377 W/mK18)),hWは鋳型と冷却水による冷却面の熱伝達係数である。hWは,(2)式により求めた。   

hW=λWNude(2)
  
Nu=0.023Re0.8Pr0.4(3)
  
Re=deVWνW(4)
  
Pr=CpWηWλW(5)

ここで,λWは水の熱伝導度,Nuはヌッセルト数,deは冷却水路断面の濡れぶち長さ,Reはレイノルズ数,Prはプラントル数,VWおよびνWCpWμWはそれぞれ,(冷却)水の流速,動粘度,比熱,粘度である。水の物性値には文献値18)を引用した。

2・1・3 凝固殻の厚み

凝固殻の厚みを測定するために,Fig.2に示す要領で,鋳造終了直前の鋳型内溶鋼にFe-S合金を添加した。鋳片の縦断面を切断し,その断面におけるS濃度分布を印画紙に転写した。印画紙上の凝固殻厚みをノギスで測定した。

Fig. 2.

 Schematic diagram of FeS addition into molten steel in the mold.

2・1・4 デンドライト一次アーム間隔

デンドライト一次アーム間隔を測定するために,スラブ幅中央部の表面から試料を切り出した。表面から0.5~8 mmの厚みを研削し,その研削面を鏡面状に研磨した後,ピクリン酸で腐食した。その面におけるデンドライトの構造は,Fig.3に示す様に格子状であり,その間隔を写真上においてノギスで測定し,デンドライト一次アーム間隔とした。

Fig. 3.

 Observating method of dendrite primary arm.

2・1・5 モールドフラックスフィルム

モールドフラックスフィルムを鋳造終了直後の鋳型内から採取した。フィルムを樹脂に埋め,その樹脂ごと,フィルムを切断した。切断した縦断面を研磨し,フィルムの構造を光学顕微鏡で観察した。観察された映像を写真にとり,その写真上においてフィルムの厚みを測定した。フィルム断面をX線回折試験に供し,cuspidineの第一ピークの回折強度を評価した。回折試験に用いた装置は,Spectris社製のX’Pert PRO MPDとした。X線の線源はCuであり,cuspidineの第一ピークの回折角度2θは29.2°であった。

2・2 モールドフラックスフィルムの見掛けの熱伝導度測定実験

2・2・1 実験装置と評価方法

モールドフラックスフィルムの見掛けの熱伝導度を平行平板法19)により実験的に評価した。実験装置をFig.4に示す。厚み3.5 mmのタングステン板をその下方にある誘導コイルにより加熱し,その上のモールドフラックスを1723 Kで溶融させた。その状態で一辺30 mmの水冷銅ブロックを下降させ,モールドフラックスの厚みが2 mmになる様に保持した。タングステン板の下側面およびフィルムの厚み中央位置,銅ブロック中の底面から5 mmおよび10 mmの位置に熱電対を設置し,それらの温度を測定した。温度の測定結果から,水冷銅ブロックがモールドフラックスフィルムと接する界面における,これらの温度を算出した。フィルム中の伝熱抵抗を(6)式により評価した。   

q= λ W d W ( T W T f0 )= 2 R film ( T f0 T f1 )= 2 R film ( T f1 T f2 )= 1 R int ( T f2 T Cu0 ) = 2 λ Cu d Cu ( T Cu0 T Cu1 )= 2 λ Cu d Cu ( T Cu1 T Cu2 ) (6)

Fig. 4.

 Experimental apparatus and evaluation of apparent thermal conductivity in flux film.

ここで,qは熱流束,λは熱伝導度,Rは伝熱抵抗,dは厚みを示す。下付きの添え字において,WおよびfilmCuintはそれぞれ,タングステン板,モールドフラックスフィルム,水冷銅ブロック,フィルムと水冷銅ブロックとの界面を示す。Tは温度を示し,下付きの添え字のWおよびf0f1f2Cu0Cu1Cu2は,Fig.4中の各位置を示す。また,タングステン板とモールドフラックスフィルムの界面における伝熱抵抗は小さいものとして考慮しなかった。(6)式中の第7辺において,熱伝導度および厚み,温度の各値を代入すると,熱流束qが求まる。その後,TWおよびTf1.Tf0を代入することにより,Tf2およびRfilmRintが順次求まる。最終的に,見掛けの熱伝導度keffRfilmを(7)式に代入することにより求まる。   

keff=dfilmRfilm(7)

2・2・2 試料組成

測定には5種類のモールドフラックスを用いた。それらの仕様をTable 4に示す。それらの塩基度を0.8および1.0,1.3,1.5,1.8とした。

Table 4. Specifications of mold fluxes for fundamental experiment.
Mold fluxBasicty (-) CaO/SiO2Solid. Temp. (K)Viscosity at1573 K (Pa・s)
a0.813330.16
b1.014190.10
c1.314820.06
d1.514960.06
e1.815090.04

3. 結果

3・1 連続鋳造

3・1・1 鋳型内の局所熱流束

鋳型内のメニスカス下35 mm位置における局所熱流束を鋳造速度に対してFig.5に示す。モールドフラックスAからB,Cへと,凝固点の上昇とともに局所熱流束は低下した。

Fig. 5.

 Heat flux in the mold as a function of casting speed.

3・1・2 凝固殻の厚み

一例として,モールドフラックスAを用いて鋳造した場合の凝固殻厚みを,メニスカスからの距離に対してFig.6に示す。凝固殻は引き抜きの進行とともに成長し,熱電対の配置されたメニスカス下35 mmあるいは140 mmの各位置において,それぞれ,1-4 mmあるいは5-8 mmの厚みを示した。

Fig. 6.

 Thickness of solidified shell as a function of distance from the meniscus for the case of mold flux A.

凝固殻の移動時間は(8)式により求まるが,これは即ち,凝固時間に相当する。   

t=lVC(8)

ここで,tは凝固時間,lはメニスカスからの距離,VCは鋳造速度を示す。

凝固殻の厚みを凝固時間の平方根に対してFig.7に示す。凝固殻の厚みを,0≦√t<0.1 min1/2の範囲においては,凝固時間そのもの,0.1≦√t min1/2の範囲においては凝固時間の平方根に対して,それぞれ一次の回帰を施した。その結果をTable 5に示す。凝固係数kは18~25 mm/min1/2の範囲の値をとり,モールドフラックスにより変化した。その凝固点の上昇とともに凝固係数は減少した。

Fig. 7.

 Thickness of solidified shell as a function of square root of solidification time.

Table 5. A list of solidification constant for each mold flux.
Mold fluxdshell
0≦t<0.010.01≦t
Adshell = 101tdshell = 24.8√t–1.47
Bdshell = 91.5tdshell = 20.6√t–1.14
Cdshell = 87.5tdshell = 18.7√t–0.99

3・1・3 デンドライト一次アーム間隔

スラブ表皮直下のデンドライト組織をFig.8に示す。観察した全ての組織に共通して,デンドライト一次アームは格子状に存在した。デンドライト一次アーム間隔の測定結果を,スラブ表面からの距離に対して,Fig.9に示す。一次アーム間隔は,表面から内部へ隔たるにつれて増大した。モールドフラックスによっても変化し,モールドフラックスAの場合には,比較的小さい傾向を示した。

Fig. 8.

 Dendrite structures beneath the surface of slabs.

Fig. 9.

 Dendrite primary arm spacing as a function of thickness from surface of a slab.

3・1・4 モールドフラックスフィルム

鋳型内のメニスカス部から採取したモールドフラックスフィルムの断面をFig.10に示す。モールドフラックスAのフィルムはガラス質であり,鋳型から採取した直後のまだ高温の状態で変形した。モールドフラックスBおよびCの場合のフィルムは比較的平坦であり,採取直後には,その下部が部分的に破断した。

Fig. 10.

 Vertical sections of flux film after the casting for each kind of mold flux.

フィルムの厚みをメニスカスからの距離に対してFig.11に示す。メニスカス下10 mm以下では,いずれのフィルムも一定の厚みを示し,その厚みはモールドフラックスの種類によりわずかに異なった。メニスカス下10 mm以下におけるフィルム厚みの平均値をモールドフラックスの粘度に対してFig.12に示す。ガラス質であったモールドフラックスAの場合に比較的大きかった。

Fig. 11.

 Thickness of flux film as a function of distance from the meniscus.

Fig. 12.

 Relation between average thickness of flux film and viscosity of mold flux at 1573 K.

Cuspidineの第一ピークにおけるX線回折強度をモールドフラックスの凝固点に対してFig.13に示す。回折強度は凝固点の上昇とともに増大した。

Fig. 13.

 Intensity of X-ray diffraction at the first peak of cuspidine in the flux film as a function of solidification temperature.

3・2 モールドフラックスフィルムの見掛けの熱伝導度測定実験

測定中における温度の経時変化をFig.14に示す。フィルムの厚みが2 mmになる様に水冷銅ブロックを下降させてから5分間を経過すると,各温度は一定に推移した。そこで,水冷銅ブロック加工後5分間後における温度を読み取った。

Fig. 14.

 Trends of temperature measured in the experiment.

各伝熱抵抗と見掛けの熱伝導度の評価結果をモールドフラックスの塩基度に対してFig.15に示す。フィルム中の伝熱抵抗Rfilmおよび界面熱抵抗Rintはともに,モールドフラックス塩基度の上昇とともに増大し,見掛けの熱伝導度keffは減少した。keffの値は,塩基度0.8~1.8の範囲において,2.3~3.0 W/mKの範囲の値をとった。

Fig. 15.

 Thermal resistances and apparent thermal conductivity of flux film as functions of basicity of mold flux.

4. 考察

4・1 凝固速度および鋳型内局所熱流束に及ぼすモールドフラックスの影響

Fig.7に示した様に,凝固速度はモールドフラックスにより変化した。ここでは,鋳型内の局所熱流束における変化と比較しながら,その変化量の妥当性について考察する。

Fig.16に示す凝固モデルを仮定すると,凝固殻成長に伴う単位時間当たりの潜熱Q’は(9)式の様に表すことができる。   

Q'=SVΔH(9)

Fig. 16.

 Schematic diagram of solidification in the mold.

ここで,SおよびVΔHはそれぞれ,凝固殻の面積(m2),凝固速度(m/s),融解潜熱(1.93×109J/m3)20)を示す。

単位面積当たりの潜熱は(10)式で与えられ,熱流束と同じ単位の物理量として表すことができる。   

Q=Q'S=VΔH(10)

Vは実験結果を基に(11)式により与えられ,kiは各モールドフラックスについてTable 5に示した様に求められている。つまり,VQと一次の関係を持つ。   

V=dshellt=ki2t(11)

(9)式により評価したQとメニスカス下35 mmおよび140 mmの位置における局所熱流束の実験値との比較をFig.17に示す。メニスカス下のいずれの位置においても,両者は良い一致を示した。その良い一致の中で,両者はモールドフラックスの緩冷却により減少するという傾向が認められる。この結果から,モールドフラックスによる凝固速度および凝固係数の変化は,熱流束の変化量と定量的に対応していることが考察された。

Fig. 17.

 Comparison between calculated heat flux and the observed.

4・2 凝固殻の冷却速度に及ぼすモールドフラックスの影響

凝固殻の冷却速度は,デンドライト二次アーム間隔を測定することにより,(12)式に示す回帰式21)により評価できることが一般的に知られている   

λ=710R0.39(12)

ここで,λIIおよびRはそれぞれ,デンドライト二次アーム間隔および冷却速度を示す。

しかしながら,鋳片の表皮直下においては,デンドライト組織はとても微細でデンドライト二次アームが十分に成長していないため,その間隔を測定することが困難である。従って,メニスカス直下における凝固殻の冷却速度を評価することが困難である。

本研究においては,その表皮直下においても,格子状のデンドライト一次アームを明瞭に観察することができた。この一次アーム間隔と冷却速度との関係式を構築することができれば,その間隔を実験的に測定することにより,極めて初期の段階における冷却速度を推定することが可能になる。

本節では,デンドライト一次アーム間隔の測定結果を基に冷却速度を推定し,モールドフラックスによる影響について考察する。

局所熱流束および凝固速度は,熱電対の設置された位置において,それぞれ実験的に求めており,冷却速度はこれらを基にして評価することができる。

冷却速度Rは,凝固界面における温度勾配Gおよび凝固速度Vの積として,(13)式により求めることができる。   

R=GV(13)

ここで,Gは局所熱流束qおよび凝固殻の熱伝導度λを用いて,(14)式により求めることができる。   

G=qλ(14)

一方,熱電対の設置された位置の凝固殻厚みに相当する位置におけるデンドライト一次アーム間隔λIFig.8から読み取ることができる。得られたRλIとの関係をFig.18に示す。高速鋳造における以前の実験結果22)も合わせて取り扱うことにする。λIは冷却速度の増大とともに減少した。これらの関係式として,(15)式に示す回帰結果を得た。   

λ=4700R0.487(15)

Fig. 18.

 Relation between Dendrite primary arm spacing and cooling rate.

Edvardssonら23)により,冷却速度のより小さな範囲においてRλIとの関係式が得られている。本研究の結果は,その延長上にあり,概ね一致しているが,冷却速度に対する依存性は,本研究の方がやや大きい。この理由としては,デンドライトが,より大きな温度勾配下で成長したためと考えることができる。

一次アーム間隔を基にして,(15)式により冷却速度を求めた。その結果を,スラブ表面から内部へ向かう距離に対してFig.19に示す。冷却速度は,凝固殻の成長とともに減少する。表面から5 mmまでの範囲を見ると,モールドフラックスAを用いた場合の冷却速度は,他の場合と比較して,やや大きいことが認められる。

Fig. 19.

 Cooling rate of solidified shell evaluated by dendrite primary arm spacing.

デンドライト一次アーム間隔から導いた冷却速度を,(13)式により別途求めたメニスカス下35 mmの位置における冷却速度と比較する。前者は,鋳片表面から2~3 mmの範囲の平均値を評価した。これらを比較した結果をFig.20に示す。両者は良い一致を示し,いずれの冷却速度もモールドフラックスの結晶化により減少した。

Fig. 20.

 Comparison of cooling rates at 35 mm below meniscus by mold flux.

以上,デンドライト一次アーム間隔は冷却速度に応じて変化し,その測定により,二次アーム間隔の測定が困難な極めて初期の凝固段階における冷却速度を推定することが可能であった。そして,モールドフラックスによる冷却速度の変化を評価することが可能であった。

4・3 凝固殻厚みの均一性に及ぼすモールドフラックスの影響

前節において,局所熱流束および凝固殻の成長,デンドライト一次アーム間隔はモールドフラックスにより変化し,お互いに相関しながら変化することを定量的に考察した。本節では,凝固殻の均一性の観点で,モールドフラックスの結晶化による凝固挙動の変化を考察する。

凝固殻の均一性を表す指標として,Fig.7に示した凝固殻厚みの標準偏差を評価した。標準偏差をFig.21に示す。標準偏差は凝固殻の成長とともに増大する。モールドフラックスを比較すると,冷却速度の大きなモールドフラックスAの場合に,より大きな標準偏差を示す。標準偏差のモールドフラックスによる相違は,凝固殻が1 mmに成長した段階で生じ始める。この位置は,凝固時間0.1~1秒の範囲に相当し,従来に報告された不均一凝固の生じ始める期間とも一致する24)。凝固殻の厚みが1 mmの時点において,標準偏差1 mmが不均一凝固の生じ始める臨界値と考えられる。

Fig. 21.

 Standard deviation of thickness of solidified shell.

ここで,凝固殻厚みの標準偏差の厚みに対する比を凝固殻厚みの不均一指数と定義する。凝固殻の厚みが1 mm以上に成長した範囲における不均一指数を,メニスカスからの距離に対して,Fig.22に示す。不均一指数は凝固殻の成長とともに減少する。モールドフラックスAの場合の不均一指数は,メニスカス下20~40 mmの範囲において,他のモールドフラックスの場合と比較して大きいことが分かる。

Fig. 22.

 Index of unevenness.

不均一指数の各モールドフラックスにおける最大値を,凝固殻が厚み1 mmに成長した時点での冷却速度に対してFig.23に示す。冷却速度は1.0~1.7×104 K/minと評価され,不均一指数の最大値は,この冷却速度が1.7×104 K/min以上になると急激に増大する。この結果は,不均一凝固の生じる臨界的な冷却速度の存在を示唆している。

Fig. 23.

 Relation between maximum value of the index of unevenness and cooling rate when solidified shell is 1 mm thick.

本節による考察から,厚み1 mmに成長するまでの凝固殻を均一に成長させるために,これを緩冷却することが重要であり,ディプレッションや縦割れを防止するのに有効なモールドフラックスの緩冷却は,この極めて初期の段階に効果を及ぼしていると考えられる。

4・4 モールドフラックスの結晶化による鋳型内伝熱への影響

鋳型内の緩冷却は,モールドフラックスのフィルムが結晶化し,鋳型との界面熱抵抗が増大し,輻射伝熱が抑制されることにより発揮されることは既に一般的に知られている。しかしながら,モールドフラックスフィルムに関係した伝熱抵抗を実際の連続鋳造において評価した例はこれまでになく,結晶化がどの様に伝熱抵抗の増大をもたらしているのか,いまだ明らかではない。本節では,鋳造結果および基礎実験の結果を基にして,連続鋳造中におけるフィルムの伝熱抵抗を推定し,モールドフラックスの緩冷却を伝熱抵抗の観点から考察する。

凝固界面から鋳型銅板の熱電対に至る伝熱は,(16)式の様に表され,その様子をFig.24に示す。   

q=λshelldshell(T0T1)=keffdfilm(T1T2)=λairdair(T2T3)=λCudCu(T3T4)(16)

Fig. 24.

 A schematic view of heat transfer through the flux film in the mold.

ここで,λは熱伝導度を表し,下付きの添え字0および1234はそれぞれ凝固界面,凝固殻とフィルムとの界面,フィルムの鋳型側表面,鋳型銅板表面,熱電対の各位置を示す。また,qは(1)式により求めた結果を用いる。T0を鋼の液相線と仮定すると,T1およびT2が順に算出される。そして,計算されるT4が実験値と一致する様にエアギャップの厚みdairを決めると,T3も含めたすべての温度が算出される。ここで,フィルム表面のうねりは無視し,均一な厚みのエアギャップを仮定する。

メニスカス下35 mmの位置における伝熱抵抗の計算結果をFig.25に示す。フィルム中の伝熱抵抗Rfilmは,界面での熱抵抗Rintよりも大きい。モールドフラックスを比較すると,いずれの伝熱抵抗も,モールドフラックスの凝固点の上昇とともに増大し,モールドフラックスCの場合に最も大きい値を示す。モールドフラックスAをモールドフラックスBおよびCと比較すると,凝固点の大きな相違の割には,Rfilmの相違はさほど大きくない。この理由としては,モールドフラックスBおよびCの見掛けの熱伝導度の減少に対して,フィルム厚みの減少による相殺により,伝熱抵抗として大きな差異にならなかったということが考えられる。モールドフラックスBおよびCのRfilmの差異については,厚みの差異により生じているという説明が可能である。

Fig. 25.

 Thermal resistance of flux film as a function of intensity of X-ray diffraction as crystallization amount.

厚み1 mmに成長した時点における凝固殻の冷却速度とRfilmおよびRintを合わせた伝熱抵抗値との関係をFig.26に示す。両者の間には明確な相関が認められ,結晶化に伴うフィルムの伝熱抵抗の増大により冷却速度が低下したと結論することができる。

Fig. 26.

 Relation between cooling rate when solidified shell is 1 mm thick and thermal resistance of flux film.

5. 結言

試験連続鋳造機を用いて亜包晶鋼の連続鋳造を実施し,鋳型内の初期凝固に及ぼすモールドフラックスの影響について調査した。得られた結果は以下のとおりである。

(1)凝固速度はモールドフラックスにより変化する。結晶化しやすいモールドフラックスを使用することにより,鋳型内の局所熱流速は低下し,凝固速度は減少する。これらの変化量は互いに定量的に相応する。

(2)凝固殻中のデンドライト組織はモールドフラックスにより変化する。結晶化しやすいモールドフラックスを使用することにより,一次アーム間隔は増大する。

(3)デンドライト一次アーム間隔の測定により,凝固殻が厚み数 mmに成長するまでの極めて初期段階における冷却速度が推定できる。

(4)凝固殻の不均一は,厚みが1 mmに成長した時点で顕在化する。この不均一凝固は,この初期段階の凝固をモールドフラックスにより緩冷却することにより解消することができる。

(5)メニスカス下35~45 mmの範囲において,フィルム中の伝熱抵抗はエアギャップによる伝熱抵抗よりも大きい。

(6)モールドフラックスフィルム中の結晶化は,フィルム中輻射伝熱の抑制およびエアギャップによる伝熱抵抗増大の両方に作用する。

文献
 
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