Tetsu-to-Hagane
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Review
Development of System Technologies in Steelmaking Process
Hisashi TamakiHirokazu KobayashiMasatoshi AgoShuji KuyamaKazuhiro NakatsujiKeiichi Fukuda
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2014 Volume 100 Issue 4 Pages 485-490

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Synopsis:

In recent years, system technologies have been developed remarkably and also indispensable for steelmaking processes, especially for guaranteeing higher quality of products as well as realizing higher efficiency and lower cost in manufacturing. In this paper, a state-of-the-art survey concerning the development and the utilization of system technologies is presented with some typical examples, and future directions are discussed based on the analysis of the current situations and issues.

1. はじめに

現在の鉄鋼業においては,製品の高品質化ならびに生産の高効率化・低コスト化を支える技術として,システム技術が重要な役割を担っていることは疑いようのない事実である。一般に,システムとは,設備や人間等の要素が複数関与するものであると定義され,このようなシステムを効率よく設計・運用するための技術が,いわゆるシステム技術である。その実現には,数理モデル化や計算機技術,最適化技法が肝要である。

本稿では,製鋼工程におけるシステム技術に焦点を当て,具体的な成果を示しながら,過去の開発技術,現在の課題および今後の展望について述べる。

2. 製鋼工程におけるシステム技術

鉄鋼業の特徴として,生産量の膨大さと注文の品種,仕様の多さが挙げられる。大量生産にもかかわらず,異なるサイズ,品質が求められる一品単位の注文生産であるため,小ロットでの生産が必要となる。このため生産の過程,さらには各工程を繋ぐ物流も複雑なものとなってきた。これら生産・物流の適正化,効率化を実現する生産管理の強化は企業の競争力を高める上では,新商品開発,商品の高機能化による競争力向上と同等に重要な課題である。

なかでも,製鋼工程(Fig.1)は,炭素を多く含む溶けた銑鉄(溶銑)から炭素,燐,硫黄,珪素などの不純物を取り除き,強靭な鋼を作る工程である1)。製鋼工程は精錬工程,鋳造工程から構成される。精錬工程は,(1)予備処理工程,(2)転炉を用いた一次精錬工程,(3)二次精錬工程に分けられる。予備処理工程は,高炉から供給された珪素,燐,硫黄などの多くの不純物を含む溶銑から,不要な元素を副原料と反応させスラグとして除去する工程である。一次精錬工程は,転炉と呼ばれる傾動可能な大型容器に溶銑を注ぎ込み,酸素を吹きつけて,溶銑中の炭素を取り除き溶鋼を生成する工程である。二次精錬工程は,転炉において製造した溶鋼の各成分を調整して高級鋼を作りこむ工程である。工場によっては複数の二次精錬設備を有し,品種によって設備を使い分けて成分を調整する。鋳造工程では,連続鋳造機において成分調整された液体溶鋼を冷却してスラブなどの中間製品を生成する。同種の成分や鋳型サイズによってまとめられた複数のチャージ(製鋼工場のロット単位)は連続的に鋳造されるため,各チャージの鋳造開始時に遅滞なく溶鋼が連続鋳造機に供給されるようにスケジュールを作成しなければならない。この連続して鋳造される複数チャージのグループは,キャストと呼ばれる。

Fig. 1.

 Steelmaking process. (Online version in color.)

製鋼工程の特徴として,溶けた銑鉄から,成分調整された溶鋼,そして固められ鋼片と物理的な状態の変化に加えて,化学的な性状の変化も伴う点が挙げられる。また,高炉から溶銑を運ぶトーピードカー(TPC),転炉,二次精錬,連続鋳造へと運ぶ鍋のサイズと製造ロットが異なる等の複雑な特徴を有している。これら複雑な生産・物流の適正化・効率化のため,システム化技術が必須の要素となっている2)。また,近年では,計測され,また制御するためのデータを複数工程にわたって一貫で取り込み統括した形で管理する試みも行なわれている。このためには自動化が必須の技術であり,自動化のもとでの安全で効率的な操業の実現には,システム化技術はなくてはならない要素である。

3. 現在までの取組み

3・1 生産計画・物流計画への取組み

近年,鉄鋼製品の高級化,多品種化,短納期化に対応するため,操業・物流の最適化を目的とした計画立案を可能とするシステム技術の役割はますます重要となってきている。しかしながら,鉄鋼生産に関わる計画問題は,一般に大規模,複雑で多くの制約条件を有するため,全ての制約条件を満足する最適な計画を実用時間内に得ることは非常に困難である。従って,実用時間内に準最適な実行可能解を求める観点からの様々なシステム技術が開発されている。

加えて,1990年代以降のコンピュータの飛躍的な演算速度の向上により,従来不可能であった規模の問題を数学的に解決できる状況となってきた。これを受け,手続き型,エキスパートシステム等に替わって数学的な手法を使った最適化技法も多く使われるようになってきている。さらに,これらシステム技術は,計算結果のレスポンス性,システムのメンテナンス性,ユーザであるオペレータとの親和性などが求められている。

3・1・1 溶銑物流管制への適用

最適化技法(数理計画:混合整数計画法)を物流計画に適用した例として,溶銑管制スケジューラ3)が挙げられる。溶銑管制業務は,チャージ毎に指定された要求時刻,必要溶銑量,上限成分値を満足するよう,製鋼工場へTPCを供給する業務である。各製鋼工場へ供給する溶銑量や溶銑成分値・輸送時間の物流バランスを適正化し,TPCの搬送先と溶鋼鍋払出量を算出するスケジューラを開発している。

この際にTPCの運行状況を正確に予測するシミュレータ(Fig.2)と,数理計画手法を組み合わせた仕組みを構築している。ここで溶銑物流シミュレータは,独自開発の汎用ペトリネットシミュレータを用いて開発している。このアルゴリズムにより,約40台のTPC の計算を約30 秒で求解可能とし,従来1.5人で対応していた管制業務を1 人で対応可能としている。

Fig. 2.

 Simulator of hot metal logistics by Petri net.

3・1・2 製鋼チャージ編成への適用

製鋼チャージ編成とは,様々な規格のスラブを製鋼チャージに割り付けることで,製鋼チャージ単位と連続鋳造単位を設計する作業である。これらの作業は,製造コストと製造納期に大きな影響を与えるものである。

チャージ編成業務は,連続鋳造の鋳込みサイズ,成分集約,チャージ間の成分変動,スラブ割当などの多様な評価指標と制約条件を考慮しなければならない。そのため,チャージ編成業務を支援する様々なシステム技術が提案されている。

(1)遺伝的アルゴリズムによる製鋼チャージ編成システム

Hayashiら4)は,遺伝的アルゴリズムを用いたチャージ編成方法を提案した。遺伝的アルゴリズムとは,生物進化から着想を得た最適化アルゴリズムであり,問題の解の候補を生物の各個体の遺伝子に見立て,各個体の遺伝子を交換や突然変異という処理を施すことにより,最適解に近い遺伝子を持つ個体を次々に生み出す手法である。

この提案方法では,遺伝子の構造をスラブ組合せであるチャージとチャージ組合せである連続鋳造の二重構造にし,チャージ内交叉とチャージ間交叉の二種類の交叉を行うことによって,チャージ内,チャージ間に関する評価指標や制約充足度合いの向上を狙っている。実システムにおける工程管理業務に適用した結果,6つの連続鋳造,40チャージに対する編成を実用的な時間で解くことができ,成分調整の余剰コストを20%程度削減された。

(2)厚板チャージ編成におけるDPの適用

Inoue5)は,チャージ編成率,スラブ寸法,余材スラブ量,出鋼請求枠の4つの評価指標のバランスを動的計画法(DP)によって最適化するチャージ編成方法を提案した。 実システムとして工程管理業務に反映した結果,編成率と出鋼請求枠の満足度が向上し,かつ,歩留まりを若干向上させながら余材スラブ量を減少させた。

(3)出鋼成分グルーピングプロトタイプ

出鋼成分グルーピングとは,多様な成分系で要望される出鋼ロットを,似た成分系同士をいくつかの成分系にまとめて大きなロットにすることである。従来,中間の成分グループとして鋼種という概念を導入していたが,Yamaguchiら6)の手法は,その中間概念を排除し,随時ダイナミックに出鋼ロットを形成することにより,ロットサイズを大きくすることを狙っている。

ダイナミックに出鋼ロットを形成するに際して,各成分系同士が互いに統合可能か多数のマッチングを行わなければいけない。本手法では,個々の成分系から類似する成分を集めた成分系グループを構成することにより,成分系同士のマッチング回数を大幅に減らすことができ,従来30分に対して2分となり15倍の高速化を達成している。また,適切なグルーピングにより,製造ロットとオーダ群のマッチングがしやすくなり,仕掛かり在庫の低減,最終的にはオーダの納期達成率を向上させている。

3・1・3 製鋼スケジューリングへの適用

製鋼スケジューリングとは,処理時間などある評価関数を最小(または最大に)にするような,注文の処理順序と処理時刻を決定する最適化問題である。製鋼工程では,鋳造作業における順序として,溶鋼の成分や鋳造時の半製品の幅,要求品質上の厳しい製造制約条件が存在する。また,同一キャストに含まれる複数のチャージは,連続して連続鋳造できるように転炉吹錬,二次精錬の処理タイミングを考慮しなければならない。

従来,製鋼スケジューリングは専門家の経験や知識に頼ってきたが,生産計画の複雑化に伴う手作業の限界,計画者による性能のバラツキなどの課題を背景に,システム技術の適用が試みられてきた。

(1)エキスパートを用いた事例

製鋼スケジューリングに対して,Numao7)らは協調型アーキテクチャを適用した方法を提案している。協調型アーキテクチャでは,スケジューリング問題を制約充足問題ではなく意思決定過程としてとらえることによって,スケジューリングシステムを全自動の自動システムではなく,人間の創造性を助ける支援システムととらえている。自動計画システムが設備干渉の解消のみおこない,ユーザは連々鋳の順序決め等の大局的な判断を行う。このように意思決定支援をおこなう協調型システムにすることで,全てをシステムに任せた場合に問題となる解候補の組合せ爆発を回避している。また,専門家(エキスパート)の知識をルールとして蓄積することで,経験が少ないオペレータでも,より良いスケジュール作成が可能である。

このシステム導入によって,ボトルネックである転炉の稼働率向上,工期短縮と在庫減少,1チャージあたりの平均待ち時間が16分から8分に減少,計画管理業務の省力化等の効果を挙げた。

(2)遺伝的アルゴリズムを用いた事例

製鋼スケジューリング問題に対して,近似解法のひとつである遺伝的アルゴリズムを用いた手法がFujiiら8)によって提案されている。

本手法では,連々鋳セットを遺伝子,連々鋳セットの作業順序を個体とする。処理は,初期個体群の作成処理と個体から新たな固体を生み出す交叉処理,どの個体を次の世代に残すかをきめる個体選択処理に分かれる。初期個体群作成処理では,N番目までの連々鋳セットの並び順が決定している際に,制約条件を満足する連々鋳セットの中から,N+1番目の連々鋳セットをランダムに選択する。この手順を繰り返すことにより,制約条件を満足する初期個体群を生成する。交叉処理では,初期個体群に基づいて,各個体内で二点交叉を実施する。このとき,各制約条件を満足しない場合には,制約条件を満足できるように各設備の作業開始・終了時刻を移動させて修正する。各設備の作業開始・終了時刻の移動だけでは制約条件違反を回避できない個体は排除する。個体選択処理では,作成された個体群の中から,目的関数の良いものを20個体残し,新しい個体を新たに180個体生成する。以上の手順を 100世代繰り返す(Fig.3)。

Fig. 3.

 Proposed algorithm.

本手法は,制約条件を満足している解から探索をスタートするため,従来の乱数・最早納期順などの簡単な基準の組み合わせにより生成された解から探索をスタートする手順に比べ,短時間で良好な解を得ることが可能である。

(3)数理計画法を用いた事例

最適化技法(数理計画:線形計画法)を生産計画に適用した例として,出鋼スケジュール作成支援システム9)が挙げられる。

転炉の出鋼スケジュール立案業務は,鋳造計画を所与として製鋼工場内の操業上,設備上の制約条件(Fig.4.)を守りつつ,連続鋳造機の生産性最大化と製鋼工場内の溶鋼滞留時間最小化が両立する出鋼順およびその時刻,2次精錬時刻,鋳造時刻を決定するものである。主要な操業制約や評価指標のみを数理最適化手法で考慮し,その他の詳細な制約条件は物流シミュレータに記述し,両者を組み合わせることで実用的に十分な最適性と操業可能性を持つスケジュール立案を実現している。この技術の開発により,熟練者と同等以上の最適性を持つスケジュールを数分で立案することを可能としている。

Fig. 4.

 Scheduling example and constraints. (Online version in color.)

3・2 操業支援・人とシステムの協調への取組み

生産計画,物流計画の適正化では,遺伝的アルゴリズム,エキスパートシステム等多くの技法が提案され,さらには数学的な思考を持ち込んだ最適化技術を適用することで,プロセスに近い単一工程で成果を出す事例が近年著しく増加した。一方で,数式にモデル化することが難しい人の高度な判断を必要とする計画,複数工程で各工程間の調整を必要とする計画,あるいは設備診断,安全確保へのシステム技術の適用に関しては,技術的な課題が未だに残っている。少子化,団塊の世代の退職等熟練者が減る中で,製造実力の向上と現場力の維持,発展のために,熟練者により担保されてきた人の高度な判断を必要とする上記業務へのシステム化技術の適用が期待されている。

これらに応えるべく,日本鉄鋼協会においても,2004年からの個人の知識を組織的に共有して高次の知識を生み出すナレッジマネジメントを皮切りに,人とシステムの協調を目指して,ユーザの分身(代理)として自律的・能動的に活動してサービスを行なうソフトウェア構築技術であるエージェント技術の研究を進められてきた10,11,12,13,14,15,16)

人の知識を活用して,システムと協調させることで,操業を支援する技術として,操業ナビゲーションシステム17)が挙げられる(Fig.5)。本システムは,熟練者が製造条件・状況に応じて注意ポイントやアクションを判断する際のルールを,形式知としてデータベースに登録でき,ガイダンスに反映できる点に特徴がある。操業中にアクション指示を選択した時点で,適時に製造条件やトラッキング状況に応じて,これら登録されたルールから適切なルールが選択され,画面や音声で操業オペレータに伝達される。ガイダンスルールの追加,改編は,プログラムの専門家でなくとも,オペレーション可能な登録画面を備えることで容易に実現可能にしている。また,テキストメッセージだけでなく関連する電子ファイルもリンク可能としている。導入工場では,日々の操業改善ツールとして使用され,注意,指示の伝達不備が起因するような製造トラブルの未然防止に役立っている。

Fig. 5.

 Navigation system for plant operation. (Online version in color.)

さらに,人の暗黙知を明示知化する試みも行なわれている。一例として,作業者の位置情報を用いたチーム作業工程分析手法に関する研究18)が挙げられる(Fig.6)。そこでは,連続鋳造における取鍋交換作業での作業員の位置情報を取得し,平均的な位置情報とある特定期間の位置情報を比較することで特異な動きを見つけ出し,行動に潜んでいる暗黙知を検出できないかを検討している。RFIDによるセンシングデータを用いてチームの作業を定量的に評価する手法と,この評価結果から現場作業者の行動が特徴的であると判定した工程を自動で抽出する手法が提案されている。提案手法を連続鋳造における取鍋交換工程に適用し,特別な操業あるいは特別な品質の製品を作っている場合には,現場作業者の行動が特徴的であると高い割合で自動抽出することができることを確認している。

Fig. 6.

 Analysis of team working process. (Online version in color.)

4. システム技術の進歩と展望

4・1 生産計画・物流計画

4・1・1 現状の課題

製鋼工場の生産計画・物流計画の適正化のため,前述のごとく製鋼工場の操業を模擬する物流シミュレータと数理計画法を併用した出鋼スケジュール作成支援システム,数理計画法とメタヒューリスティクスを用いて,連続鋳造機におけるキャスト鋳造順序と製鋼スケジュールを同時に最適化する方法19)など,システム技術が適用され,成果が上げられている。

製鋼工場における生産計画・物流計画の適正化のための課題として,操業変化へのシステム対応が挙げられる。上述の適正化では,予備処理工程から鋳造工程までの複数の設備を対象としてモデル化するため,各工程に対する操業条件に変化が生じた場合や設備投資によってプロセスルートに変化が生じた場合には構築したシステムのモデルの修正が必要となる。多品種少量生産が行われ,グローバル社会において厳しい価格戦争に晒されている現在,製品品質およびコスト改善を目的とした操業改善や投資が積極的に実施されるため,開発システムの寿命は益々短くなっている。

さらに,近年では転炉を用いた溶銑予備処理方式として,脱燐と脱炭を別々の専用炉で行うLD-ORP(LD converter-Optimized Refining Process)法や1基の転炉で脱燐と脱炭とを中間廃滓を挟んで連続的に処理するMURC(Multi-Refining Converter)法が開発され実機化されている20)。このような転炉型の溶銑予備処理を必要とする低燐鋼と,必要としない一般鋼が混在する場合,処理のサイクル時間が異なるため,転炉がボトルネック工程となり工場全体の生産性を低下させることがないように処理の負荷を平準化したスケジュールを作成することが課題となる。

例えば,転炉操業方法の変更や設備追加などによる転炉出鋼順の組み合わせ数の増加,クレーン等の搬送機器能力ネックの発生,生産量増による立案対象チャージの増加,などへの対応に関して,Itoら21)は制約論理プログラミングを用いたシステムを開発している。

また,近年では環境,エネルギーに関する関心度も高くなっている。特に,製鋼工場では高温の溶鋼を取り扱うため,スケジュールと溶鋼温度管理は密接に関係している。更に,転炉において発生する高温ガスは回収され,他工程における熱源として再利用されるため,エネルギーを有効に活用することが可能なスケジューリングとエネルギー管理が課題である。

4・1・2 将来への展望

前項では,製鋼工場の生産計画・物流計画の適正化における操業変化への対応,エネルギー問題との関係についての課題を述べた。前者においては,常に先回りしてシステム対応の必要性を把握しておき,操業条件に合わせたモードを予め準備しておくことには限界がある。このため,可能な限り汎用的なシステムを構築することで,発生する課題に迅速に対応することが必要である。

後者については,製鋼工場の生産計画・物流計画の適正化だけではなく,上下工程生産計画・物流計画,さらには転炉ガスなどの副産物まで含めた製鉄所全体の効率的な運用が必要になる。そのためには,大規模な生産計画やスケジューリング問題,物流問題を,高速に計算可能な最適化技術や,並列計算技術を適用したシステム開発が必要である。

4・2 操業支援・人とシステムの協調

4・2・1 現状の課題

需要家の多種多様な要望に応えるために,製品を一品一様で作り分ける品種構成の高度化が望まれている。鉄鋼の上工程,特に製鋼では,生産性や歩留まりを向上させるために,できるだけ品種(成分),サイズの近い受注を数多く纏める必要がある。一方,下工程では,製品単位で納期に応じた生産計画が必要となる。そのような上工程と下工程の生産計画指針の違いを吸収する役割を担うのが,中間ヤードにおける仕掛在庫である。しかし,上工程,下工程のバランスにより仕掛の長期滞留によるヤード負荷増大や材欠などの問題を招くリスクがある。そのため,上工程と下工程を一貫した生産計画を考えなければならない。

しかしながら,一般に製銑-製鋼という上工程は,圧延等の下工程に比べ製造コストの面で比重が大きいため,生産計画は上工程が中心に考えられる傾向にある。加えて,上工程はトラブル等の日々の生産操業変動が極めて大きく,多品種少量生産も相まって生産計画の変更も頻繁に発生する。そのため,生産計画立案における制約や評価指標が一定に定まらないばかりか,上工程次第で下工程の生産計画が幾度と変更を余儀なくされ,全体最適な形にはなっていないと考えられる22)

このような状況にある製鉄所の生産計画問題に対し,最適化技術を適用する様々検討がなされてきた。しかし,上記の問題により,生産計画立案における既知の制約や暗黙知(ノウハウ),評価指標が,システムに組み込むことが可能な必要最低限かつ十分な固定的で明示的な記述のレベルに設定されていないことが多く,システムへの組込みが困難な場合が多い。また,突発的に発生する品質や設備トラブルへの対応や生産計画変更などに対して,臨機応変に対応するためには,工程毎のみならず製鉄所全体を把握している経験豊かな熟練者の判断やスキルが必要な場合も多い14,23)。「あるべき姿」としての生産計画最適化技術と並んで,様々な外乱やトラブルに対し,品質,歩留り,納期達成率を維持し安定操業を継続できるようなレジリエントな現場力を支援するという人間の支援技術が求められている。

4・2・2 将来への展望

上に述べたような,熟練者の能力を最大限に発揮できるようにする「人間の支援技術」については様々な取組みがなされている。その中でも,特に萌芽的な技術である「エージェント技術」が注目されており,熟練が要求される生産現場でのエージェント技術の利活用については今後が期待されるところである11,16)

製鋼のスケジューリングにおいても,熟練者は経時変化・操業変化への対応や設備改善提案を行っている。それに対し,通常システムでは状況変化に応じたデータベースの再構築や膨大なメンテナンスが必要であり,場合によってはスケジューリング問題の定式化自体を見直したりすることが必要になるため,適用可能性や効果持続性に課題が多い状況である。そのため,製鋼のスケジューリングでもエージェント技術の検討がなされている。課題は,「エージェント」が作業者(熟練者)と同様の認識構造と,同等以上の経験・習熟度を備えたノウハウ蓄積することで,作業者の困難な認識と判断に対する支援を可能にすることである。

これらに対し,作業者とエージェント間の関係性として次の4つの観点があげられている。すなわち,作業者の判断を修正・補正する形で作業者を支援する「支援」,工程の状況を観測し必要であれば作業者の判断を上書きすることで作業者の判断に介入する「介入」,エージェントの指導により作業者が認識・判断に関するノウハウを更新する「教育」,エージェントの介入結果をもとに作業者が自己学習することで自身の認識・判断のノウハウを修正していく「学習」の4つである。生産現場におけるこれらのコンセプトの具現化は今後の課題であるが,人間支援技術の基盤として期待される。

日本の鉄鋼業の強みは,トップダウン的な作業の単純化・標準化・マニュアル化を超えた「現場力」にあると考えられる。そのため,エージェント技術などの技術を活用し,熟練者のノウハウや技能を蓄積しつつ,非熟練者を教育し,作業者との相互に協調してスケジュールを作成するような「支援システム」が今後重要になると考えられる。

5. おわりに

以上,本稿では,製鋼工程におけるシステム技術の現状と展望を概観した。日本の鉄鋼業の発展にとって,システム技術は不可欠なものであり,その重要性が今後ますます高まっていくことは確実である。真に有用なシステム技術の開発・実現に向けて,本稿がその一助となれば幸いである。

文献
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