Tetsu-to-Hagane
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Generation Mechanism of Center Cavity in High-Cr Steel Cast
Akihiro YamanakaHideo Mizukami
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2014 Volume 100 Issue 5 Pages 610-615

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Synopsis:

In order to clarify the causing mechanism of center cavity in the cast of high Cr steel, the casting experiment of cylindrical ingot in 1 ton scale and the analysis of thermal elastic-plastic stress and strain were carried out. Moreover in relation to these results, the influence of Cr and C concentration on the generation of center cavity was discussed with tensile strength just below the solidus temperature and solidification contraction of the specimens. As the result, though both center line cracks and shrinkage holes were observed in the center cavity of high Cr steel, difference of solidification contraction between specimens was not much. The primary factor of center cavity was proved to be cracking caused by thermal stress under the lower tensile strength just below the solidus temperature associated with the increase of the ferrite amount which should be influenced by Cr and C concentration. Therefore, it was indicated that laying compressive stress on the final solidification part was effective to reduce center cavity in the high Cr and low C steel.

1. 緒言

13%Cr鋼を代表とする高Cr系のステンレス鋼,合金鋼は,油井用のシームレスパイプ,ボイラーチューブ,タービンのロータ等,その用途は多岐にわたり,広く製造されている。これらの材料では,数%から10数%のCrが含有されており,Crは耐食性,耐熱性,強度を向上させる上で必要不可欠な元素である。製鋼プロセスでは,従来から普通造塊,ブルーム連鋳,ビレット連鋳等よって鋳造されているが,他のCrを含有しない鋼種に比べ,センタ−キャビティが大きくなり易いことが知られており1,2,3),ザク欠陥とも称され,分塊工程等の途中の加工プロセスを経ても最終製品の欠陥として残存し問題となる場合が多い。高Cr鋼のセンターキャビティを低減する目的で,軽圧下や大圧下といった未凝固圧下の技術も報告2,3)されている。しかし一方,Cr成分のセンタ−キャビティ発生に及ぼす影響を明確に示す知見はほとんど見られず,技術的には,Cr成分増加によるセンタ−キャビティ増大の機構を明らかにし,機構に則った適切な低減法が望まれるところである。

センタ−キャビティといっても,凝固収縮孔であるセンタ−ポロシティ4)と中心部の凝固末期時の引張り応力による中心割れ,あるいは,軸心割れといった二つの発生要素がある。Grill5)は,普通鋼の熱応力解析から中心部近傍の凝固過程で,5-10 MPaの引張り応力発生で中心割れが発生することを示唆している。また末期凝固挙動から,凝固収縮孔の発生と中心割れのそれぞれの現象が重畳して発生している可能性も考えられる。そこで本研究において,高Cr鋼の丸ビレット鋳片の1 ton規模の鋳造試験を行い,凝固収縮孔,中心割れのそれぞれの観点から,Cr濃度の影響を調査,考察した。

2. 実験内容と方法

溶鋼量1 ton規模の鋳造試験装置を製作し,鋳造と未凝固鋳片の凝固末期冷却試験を行った。Fig.1に装置の概略を示す。センタ−キャビティ発生に対する溶鋼静圧分布の影響を排除するために,横型の鋳造として溶鋼静圧が鋳片長手方向で一様となるようにした。装置はタンディッシュ,半円筒の割り鋳型,冷却水スプレーおよびバックアップ金型から成っている。タンディッシュの溶鋼の容量は約800 kgで鋳型と内径120 mmの湯道を介して連結している。湯道は鋼製のパイプに内径120 mm,厚さ20 mmのフューズドシリカを内張りすることにより溶鋼を緩冷却させて,実験中に中心まで凝固しないよう配慮した。用いたフューズドシリカはSiO2の純度が99.8%のものである。鋳型は厚み80 mmの鋳鉄製で水平方向に開放できる割型構造となっており,寸法は内径263 mm,内長さ800 mmである。またバックアップ金型は,油圧シリンダーに連結しており,鋳込み前に半円筒鋳型をタンディッシュ側に押し付けるとともに,鋳型開放後の鋳片の支持端の役割を果たすものである。鋳片端面とバックアップ金型は,鋳片の長手方向の膨張や収縮にともなう応力を生じさせないよう,バックアップ金型の背面に配した油圧シリンダーの変位制御により水平方向に互いに拘束しない構造とした。以下に実験手順を示す。先ず,所定の温度でレードルから溶鋼をタンディッシュに給湯すると,そのまま溶鋼は鋳型内に流入する。タンディッシュに給湯する時の溶鋼の過熱度は一律に約60 °Cに設定した。鋳型の熱負荷軽減,焼付を防止するためレードルから給湯後,約4分で半円筒鋳型をそれぞれ5 mm程度開き,ここから約7分後に半円筒鋳型を全開した。冷却スプレーは水のみの一流体であり,鋳型全開後,スプレー装置を鋳片幅中央部に移動設置可能で,300 mm長のスプレー配管4本を鋳片外周に90度間隔で配した。スプレーの配管1本当たり,10個のノズルを等間隔に配した。ノズルチップ先端と鋳片表面の距離は約300 mmである。冷却部300 mm長の鋳片重量当たりの全通水量から比水量を求めた。また鋳片に鋳ぐるまれるように鋳型に事前に配した熱電対のセンサーにより中心と表面の温度を計測し,鋳片冷却のタイミングを図った。

Fig. 1.

 Schematic of experiment. a) in casting, b) in cooling of cast.

Table 1に対象鋼種のそれぞれの化学組成と液相線温度(TL),固相線温度(TS)を示す。2%Cr鋼,5%Cr鋼,13%Cr鋼の3種とした(以降,それぞれのサンプル番号で称する)。2Crは新日鐵住金和歌山製鉄所の丸断面ビレット連鋳において,凝固末期冷却法(FCCR)の適用でセンタ−キャビティの低減の実績のある低炭素Cr鋼と同種の鋼種であり(Fig.26)参照),ベース材として,スプレー冷却は行わずに,そのセンタ−キャビティの状況を顕微鏡観察により調査した。5Cr,13Crは,高Cr鋼であり,スプレー冷却を行い凝固末期冷却の効果の有無を確認した。冷却は鋳片の中心固相率が0.10~0.12から開始し,ほぼ完全凝固まで冷却した。固相率と温度の関係を求めるために,液相線温度(TL)と固相線温度(TS)を小型タンマン炉を用いた熱分析により確認した。熱分析に用いた試料のサイズは18 mmの径で長さ40 mmであり,試料を一旦溶融した後,試料中心の冷却曲線を求め,これを時間微分することで液相線温度(TL)と固相線温度(TS)を判定した。熱分析時の固液間の平均冷却速度は15 °C/min.に制御した。鋳片中のセンタ−キャビティの状況を確認するため,鋳片の軸心を通る縦断面サンプルを切りだし,研磨後,王水による腐食を行った。

Table 1. Chemical composition (mass%), liquidus and solidus temperatures of samples.
SampleCSiPSMnCrTL (ºC)TS (ºC)
2Cr0.100.250.0200.0060.412.1015151420
5Cr0.110.380.0280.0150.435.2014961410
13Cr0.190.250.0140.0010.7812.8514901384
Fig. 2.

 Effect of FCCR on centerline cracks of φ191 2%Cr steel.

3. 実験結果

3・1 センターキャビティの性状

Fig.3に2Crの鋳片横断面のセンタ−キャビティの空孔部の電子顕微鏡による観察結果を示す。センタ−キャビティには,中心部にデンドライト組織を有する小さな空孔とその周囲に機械的な破断面が存在しており,若干の収縮孔と中心割れが共存している。また元の鋳片横断面には連鋳片の断面マクロ観察でよく見られるような偏析をともなった割れ(所謂,内部割れ)は存在しなかった。これは,凝固シェルが塑性変形を起こし,内側で形成されつつあったデンドライト相互の間隔が開き,最終的に中心の残溶鋼が欠乏してヒーリングされないまま形成された空孔であると考えられる。このセンタ−キャビティの性状は,他の5Cr,13Crの鋳片の場合も同じく,デンドライト組織と,偏析の無い割れで形成されていた。

Fig. 3.

 Microscopic observations of center cavities in the ingot (2Cr).

3・2 鋳片の冷却試験結果

Fig.4に実験中のスプレー冷却の状況を示す。固定式のスプレーによる静止鋳片への冷却であるので,多少の冷却むらはあるものの概ね均質な冷却が可能であった。また鋳造状況としては,鋳型と鋳片の焼き付きも無く,外力による不均一変形の無い真円度が良好な鋳片が得られた。また拘束性の表面割れ,内部割れ,湯道の閉塞による粗大なセンターキャビティ等,実験方法が問題となるような欠陥の発生が無いことも確認した。

Fig. 4.

 Appearance of the cooling experiment of ingot. (Online version in color.)

Fig.5に5Crと13Crの中心縦断面の組織をスプレー冷却を実施した場合と,金型を開放後,スプレー冷却を行わないで,そのまま放冷して凝固させた場合を,それぞれ比較して示す。なお冷却条件としては,比水量(ℓ/kg-steel)で5Crは0.44,13Crは0.20の場合である(0.44の高比水量の条件は13Crの場合は急激なマルテン変態による体積膨張が懸念されたので,5Crのみ実施した)。Fig.5のマクロ組織からスプレー冷却を行うことで,放冷の場合に比べ明らかに,センタ−キャビティが低減されていることが判る。その低減状況を,センタ−キャビティの鋳片径方向における最大存在範囲としてFig.6にまとめて示す。スプレー冷却によって,このような比水量の範囲でセンタ−キャビティは約50~60%に低減することが判明した。

Fig. 5.

 Structure of the axial section of ingot.

Fig. 6.

 Reduction of center cavity by spray cooling.

4. 考察

4・1 熱応力解析

鋳片を放冷した場合とスプレー冷却した場合の内部応力の状況を解析するためにGrill5)と同様の熱応力解析をFEMにより行った。代表として13Crを対象として計算を行った。Fig.7に計算モデルを示す。

Fig. 7.

 Analysis of thermal elastic-plastic stress and strain during cooling of cylindrical ingot by FEM.

半径方向(r)と軸方向(Z)の二次元でZ方向に平面歪近似を設定した弾塑性の計算モデルである。力学的高温データは鋼のベースの力学的挙動部会の推奨値7)を用い,熱膨張係数も同じく力学的挙動部会の,大中ら8)の値,2.0×10−5(1/°C)を用いた。鋳片の時間毎の温度分布は非定常の半径方向1次元の凝固伝熱解析より計算した。比熱,熱伝導度は温度依存性のある12%Cr鋼の文献値9)を使用し,凝固潜熱は268 J/gとした。また液相線,固相線温度はTable 2の13Crの測定値を用いた。スプレーの表面熱伝達係数は三塚10)の式により設定した。

Fig.8に鋳片の放冷と比水量0.2の強制冷却時の計算結果を,Fig.9に冷却開始から50,100,150秒後の径方向の発生応力(σr)分布をそれぞれ示す。放冷の場合,鋳片の中心から表層の各位置で引張り応力が発生おり,センターキャビティの存在する中心近傍で100秒で約3 MPa程度,150秒で4~5 MPa程度の値となっており,また時間経過とともに引張り応力は大きくなる傾向にある。これらの計算結果はGrill5)の結果と熱応力の発生状況,その値とも大略合致する。一方,鋳片をスプレーで強制冷却(比水量0.20 ℓ/kg-steel)した場合,中心部近傍で50秒で約8 MPaの圧縮応力,100秒で23 MPaの圧縮応力となっており,冷却中は鋳片中心部に大きな圧縮力が作用していることが判る。鋳片の凝固末期の冷却により,鋳片内部に圧縮力が付与することによる熱的な軽圧下法(Thermal soft reduction法)11)が提案されているが,内部に圧縮力生じるのはこれと同じ原理である。すなわち,凝固潜熱により凝固末期の鋳片中心部は高い温度勾配を維持してきた結果,潜熱が抜熱されるにおよび,表層近傍に比べ大きな速度で冷却される。放冷の場合はその結果,外層に比べ内層の熱収縮速度が大きく,内層部で引張り応力が発生する。表面を強制冷却した場合,冷却強度にもよるが,内層に比べ表層部の冷却が速い場合,表層側が内層側よりも相対的に熱収縮が大きくなり,内層部で圧縮応力が働くようになる。その結果,放冷条件では発生した中心割れが,強制冷条件では抑制されたものと考えられる。強制冷却条件の場合,120秒後に冷却を停止しており,Fig.9の150秒では冷却停止後の復熱により,圧縮応力が内層側で1.5 MPa程度まで低下する一方,表層側では引張りに転じているのが判る。強制冷却の強度,冷却停止のタイミング,対象とする鋳片径によっては,復熱により内部に大きな引張り応力が発生する可能性も考えれられる。表層をどの程度の冷却強度で冷却するか,あるいは復熱をどのように制御するかが,熱的軽圧下技術の重要なポイントと考えられるが,本論文の主旨とするところではないので,その議論はここでは割愛する。以上,計算結果と実験結果から,5Cr,13Crのセンターキャビティが,放熱時の内部の引張り応力による拡大,表層強制冷却時の内部への圧縮力付与による低減傾向から,中心割れの要素が高いことがうかがえる。

Fig. 8.

 Calculated cooling curves of the ingot with and without spray (13Cr).

Fig. 9.

 Calculated radial stress (σr) distributions in the ingot at 50 s, 100 s and 150 s from the start of cooling (13Cr).

4・2 成分の影響

次にセンタ−キャビティに及ぼすCr成分の影響について考察する。前述したようにセンタ−キャビティは凝固収縮孔と中心割れの二つの要素があるが,凝固収縮孔については,材料の液相からの凝固収縮量,中心割れについては,材料の熱間強度によって,その発生程度は大きく影響されるはずである。筆者らは既にCr鋼の相変態による密度変化と高温強度の変化について報告している11,12)。これらの基本データと新たに追加したデータから,凝固収縮孔と中心割れの二つの要素に及ぼす影響の大きさについて検討を行った。

Fig.1012)にCr濃度,C濃度と液相−固相間の密度変化の関係を示す。Cr濃度が13mass%程度までの範囲では,密度変化の差は100 kg/m3程度であり,凝固収縮率でいうと1.5%程度であまり大きくない。またC濃度にもよるが,Cr濃度の増加で密度変化量は低下しており,センタ−キャビティの主因が凝固収縮であるとすると,Cr増加によりそれが,増大するという知見と相反することになる。Cr濃度の増加で密度変化量が低下する理由は,Crはフェライト安定化元素でありCr濃度の増加により,相対的に最密充填構造となるガンマ相の体積が低減するためである12)。またFig.1012)からは,Cr濃度よりむしろC濃度の増加が液相−固相間の密度変化を増加させることが判るが,連続鋳造鋳片において0.1mass%C鋼より0.2mass%C鋼の方が,一般的に凝固収縮孔であるセンターポロシティが大きくなり易いという経験と合致する。またTable 1に示す実験に用いた2Cr,5Cr,13Crの各サンプルのCr濃度,C濃度を考えると,密度変化はFig.1012)からほぼ同等の値となり,本実験範囲ではC濃度は異なるが,同程度の凝固収縮であったと言える。以上より,凝固収縮孔という観点ではCr濃度の増加はむしろこれを低減させ,C濃度の増加の影響を軽減するものと言える。

Fig. 10.

 Change in difference between densities at liquidus temperature and at solidus temperature with chromium concentration under various carbon concentrations.

次に中心割れと成分の影響について述べる。Fig.11にCr濃度と固相線温度(TS)における引張り強度の関係を示す。これらの値の内,C濃度が0.2mass%のCr鋼のものは著者らの報告文献13)から読みとるとともに,0.1mass%Cである2Crについては,同文献13)記載の溶融凝固引張り試験装置を用いて追加の測定を行った。サンプルの作成方法,実験条件は文献の記載の通りである。これをFig.12に示す。Fig.11から,C濃度が0.2mass%Cr鋼の値を見るとCr濃度の増加にともない,固相線温度(TS)における引張り強度は低下して行く。サンプル13Crに対応する引張り強度は約4 MPaであり,0.1mass%Cのサンプル2Crの値とほぼ同等である。これらの値はFig.9に示した放熱条件の中心部で発生すると推定される熱応力(引張り)とオーダ的に同等で,やや下まわる値である。またGrill5)の中心割れに関する知見とも矛盾しない。また2Crは上述したように凝固末期冷却法(FCCR)6)によりセンタ−キャビティの低減の実績のある同種の鋼種であり,引張り強度が同じレベルである13Crでも凝固末期冷却がセンタ−キャビティ低減に効果的であったのも理解できる。13Cr13)の固相線温度近傍の凝固モードはL+δ+γ→δ+γであり,Fig.12に示すように2Crの凝固モードと同じである。固相中のフェライト(δ)の量が多い程,強度は低下するが,このフェライトの量はC濃度とCr濃度のバランスで決まる。C濃度は13Crが0.2mass%,2Crは0.1mass%であり,両者の固相線温度における引張り強度がほぼ同等であることから,C濃度の0.1mass%程度の低下によるフェライト量の増加が,Cr濃度の約11mass%の増加の影響に匹敵すると言える。5Crのサンプルに関してはC濃度が0.11mass%であり,2Cr,13Crとほぼ同等の強度レベルであったと考えられる。

Fig. 11.

 Relation between chromium concentration and tensile strength at solidus temperature (TS).

Fig. 12.

 Tensile strength behavior during and after solidification of 2Cr sample.

以上まとめると,Cr鋼のセンタ−キャビティの主要因は熱応力にもとづく中心割れであり,Cr濃度の増加,C量の低下によるフェライト量の増加にともない,固相線温度直下の強度を低下させ,凝固末期の熱応力に起因する中心割れを増大させるものと考えられる。成分的にはCr濃度差よりもC濃度の差が大きく寄与している。

フェライト量の増加に及ぼすC濃度の低下の影響の方がCr濃度の増加の影響より大きく,C濃度の低下が固相線温度直下の強度の低下の原因となり中心割れを発生させ易くすると言える。

4・3 実鋳片におけるセンタ−キャビティの考え方

高Cr鋼の鋳造において,センタ−キャビティが大きくなりやすいという認識は,上記のように整理された。実鋳片の熱応力の観点からすると,鋳片の厚みや径が大きい程,表層と内層の温度差が生じ易く,凝固末期で発生する内部の熱応力の程度も大きくなると考えられる。高Cr鋼は元来,その製造プロセスから大断面のインゴット法やブルームCCで鋳造される場合が多く,鋳片の厚みの比較的小さいスラブCCで鋳造されることは少ない。本実験の鋳片径はこれらと比べ263 mmと小さいが,実鋳造では300~600 mm径または厚みのブルームCC鋳片や,インゴット法では1000 mmを超える鋳片も希ではない。これらの熱応力は本実験の鋳片径の場合よりもかなり大くなることが考えられ,発生する中心割れの程度もずっと大きくなることが想定できる。これが,従来より,ザク欠陥と呼ばれたりする所以であると言える。また大断面のブルーム連鋳において注意を払うべきは,二次冷却の条件である。応力解析で考察したように,二次冷却の停止のタイミングとその時の冷却度合いを誤ると,停止以降の復熱の結果,内部に大きな熱応力が発生し粗大な中心割れが発生する可能性がある。

中心割れの抑制方法としては,本論文で示した凝固末期の冷却法6)や,凝固末期の軽圧下1),大圧下2)により内部に圧縮力を付与する方法が有効であると考えられる。

5. 結言

高Cr鋼の鋳片においてセンタ−キャビティが増大する原因を明らかにするため,高Cr鋼の丸ビレット鋳片の1 ton規模の鋳造試験と熱応力解析を実施した。またこれらの結果と,高Cr鋼の高温強度,凝固収縮量から,Cr成分のセンタ−キャビティに及ぼす影響を考察した。その結果,以下の結論を得た。

(1)高Cr高のセンタ−キャビティは凝固収縮孔と中心割れが共存しているのが観察された。

(2)高Cr鋼のセンタ−キャビティの主要因は熱応力にもとづく中心割れであり,Cr濃度の増加,C量の低下によるフェライト量の増加にともない,固相線温度直下の強度を低下させ,凝固末期の熱応力に起因する中心割れを増大させるものと考えられる。

(3)成分的にはCr濃度差よりもC濃度の差が大きく寄与している。C濃度の0.1mass%程度の低下によるフェライト量の増加が,Cr濃度の約11mass%の増加の影響に匹敵する。そのためCr濃度の増加より,C濃度の低下が中心割れを発生させ易くすると言える。

(4)凝固収縮孔の観点では,Cr濃度の増加はむしろ,凝固収縮を軽減するが,その影響はそれ程大きくない。

(5)高Cr鋼の鋳片のセンタ−キャビティを低減するには,中心割れの原因となる,熱応力を相殺するべく,凝固末期冷却法,機械的圧下法等,凝固末期の鋳片の内部に圧縮力を付与する方法が有効であると考えられる。

文献
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