Tetsu-to-Hagane
Online ISSN : 1883-2954
Print ISSN : 0021-1575
ISSN-L : 0021-1575
Regular Article
Visualization Study of Two Layer Reverse Roll Transfer
Masato Sasaki
Author information
JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2014 Volume 100 Issue 5 Pages 639-646

Details
Synopsis:

Reverse roll coating in which a thin single layer of liquid is applied onto a substrate has been used in industry for decades and has been extensively analyzed in the literature. Modern coatings, however, are often composed of more than one layer to improve product performance and to reduce manufacturing cost. Pre-metered methods such as slot, slide and curtain coating are typically used to produce such multilayer coatings. If the caliper of the substrate to be coated is not constant, the coating gap and consequently the final film thickness deposited on the web will also be non-uniform. In this study we focused on the use of reverse roll technique with slot die liquid delivery system to produce a uniform thin two-layer coating. The use of this coating technique to produce such a coating has not been previously explored. The liquid film surface as it is transferred from a rigid steel roll to a deformable urethane covered roll was visualized in order to find out how the uniformity of two layer coating is affected by the speed ratio between two rolls, layers wet thickness and liquid viscosities. The effect of these parameters on the ribbing frequency and amplitude was also investigated.

The results show that in two layer coating, as in the single layer reverse transfer, there is a critical web speed above which ribbing occurs. The critical speed is determined by the bottom layer viscosity.

1. 緒言

鋼板表面上に耐食性などの機能を付与することにより,高級化を図った表面処理鋼板の需要が拡大している。連続的に走行する基材へ薄い皮膜をコーティングするプロセスとしてロールコーターが幅広い分野で適用されている。

ロールコーターでは,パン皿に保持した塗布液をロールによりくみ上げ,所定の膜厚に調整した後に,基材表面へ塗布液を塗布するプロセスとなっており,一般的には複数のロールを用いて膜厚を所定量に調整している。また,ロールの回転方向によりフォワード方式(ロールの回転方向が接触部で同一方向)とリバース方式(ロールの回転方向が接触部で反対方向)に分けられる。

ロールコーターにおいて,塗布後に均一な外観を得るためにはロール間の微小領域(メニスカス部)における流動状態を把握する必要がありこれまで,数多くの研究がなされてきた。フォワードロールコーターに関する研究では,ロールコーターの主な欠陥としてロールの回転運動に起因するロール周方向のスジ模様(リビング)に着目し,無次元数(Ca数)を用いた詳細な検討が行われた1,2,3,4,5,6)。一方,リバースロールコーティングに関しては,金属ロール間の流動状態に着目し,リビングなどの欠陥発生に対するロール周速,液物性,ロール間ギャップの影響について実験的,解析的検討が行われた7,8,9,10,11,12,13)

一方,基材へ1層以上の皮膜を付与することで製品の機能性向上がしばしば図られている。複数の皮膜を工業上より効率的に基材へ付与するためには,全ての皮膜をウェット状態で同時に塗布し乾燥させる必要がある。同時多層プロセスに関する検討は,これまで数多く行われており,スロットコーティング,テンションウェブコーティング(TWOSD),スライドコーティング,カーテンコーティングなどが挙げられ,各コーティング方法において塗布時の流動状態の可視化,流動解析により流動安定化条件の明確化がなされた14,15,16,17,18)

しかしながら,鋼板への塗布液を同時多層状態で塗布する際,鋼板の板厚が種々変化するため,スロットダイ方式,テンションウェブ方式,スライド方式を用いて鋼板とのギャップを精密に制御して連続的に塗布することは非常に困難である。また,カーテン方式では液膜を安定的にカーテン状に保持するための必要最小流量は,液物性(粘度,表面張力)により決定されるが,通常厚膜時のみ適用可能となっており,薄膜塗布の条件では適用困難である。

そこで,本報告では鋼板への塗布液の同時多層塗布方法として,スロットダイと鋼板間にロールを介したリバースダイ方式を取り上げた。塗布液が同時多層状態にてロール間へ転写される際の流動状態についてはこれまでに検討された例はなく,その詳細は明らかとなっていない。

本報告では,リバースダイ方式において塗布液がスロットダイから剛体ロールへ多層状態で塗布される際の流動安定化条件を可視化実験により確認するとともに,多層状態で剛体ロールへ塗布された塗布液がゴムロールへ転写される際の流動状態を可視化実験により,リバース回転時に発生する塗布欠陥(リビング)の挙動,流動安定化条件に対するロール周速,塗布液物性,塗布液の膜厚比の影響について調査を行った。

2. 実験装置の概要および実験方法

Fig.1に本実験で用いた実験装置の概略を示す。今回用いたラボコーターは,2つのロールを上下に配置し,Topロールには金属ロールにゴムをライニングしたロールを用いBottomロールには金属ロールを用いた。それぞれのロール径はBottomロールが4インチ,Topロールは7インチのものを用いた。Fig.2に今回用いたスロットダイの概略を示す。スロットダイは幅4インチのものを用いた。ダイは3つのパーツで構成され,下側のスリットから下層の塗布液を,上側のスリットから上層の塗布液をそれぞれ供給した。また,ダイの上流部には吸引ボックスを設置し,吸引ポンプと接続した。吸引ボックスの設置によりダイ上流部に進入する空気を遮断することでダイとロール間に形成される塗布液のメニスカス部が安定化する。

Fig. 1.

 Sketch of coating apparatus.

Fig. 2.

 Detail of the two layer slot coating die with vacuum box and side plates removed.

ロールの回転方向は各ロール間において逆向きに回転するリバース方式を用いた。スロットダイからBottomロール上へ均一に供給された塗布液はBottomロールとTopロール間のメニスカス部を通過後Topロール上へ転写される。転写後の塗布液はTopロール上に設置したスクイジーにより掻き取られる。予め上層および下層それぞれから塗布液を塗布しスクイジーで一定時間掻き取られた塗布液量を計量することで上層および下層の液膜厚とポンプ流量の関係を確認した。

塗布液にはグリセリン水溶液を用い,水で希釈することで塗布液の粘度を調整した。

今回の検討では,スロットダイから同時多層状態でBottomロールへ転写される際の流動状態および,各ロールの周速,上層および下層の塗布液の粘度,膜厚を変更した際のロール間メニスカス部の流動状態に着目し,可視化実験を実施した。TopロールとBottomロール間にカメラを設置し,各条件において流動状態を確認した。

Table 1に今回の実験条件を示す。各ロールの速度範囲は30から120 mpm,各層の粘度範囲は5から20 cPとした。塗布液のウェット膜厚(h)とスロットダイとロール間のギャップ(H)の比(h/H)の範囲は0.1から0.7の範囲で変更した。各層のウェット膜厚は供給ポンプの流量およびロール周速で制御を行った。

Table 1. Experimental condition.
Top roll speed [mpm]30-120
Bottom roll speed [mpm]30
Viscosity [cP]5-20
Gap (between die and metal roll) [μm]50
Wet thickness/GAP [ - ]0.1-0.7

可視化には,高速度カメラ(フォトロン製Fast Cam Ultima APX)およびCCDカメラ(Imaging Source model DFK 31 BF03H)を用いた。ロール間の転写状況を確認する際には,流動状態をより明確にするために蛍光粒子を下層のチャンバー内から塗布液内に注入し一定流量で供給した。Fig.3に蛍光粒子の注入方法の概要図を示す。スロットダイの側面に注射器を設置し,針をスロットダイへ挿入,針先をダイの幅方向中央部となるように設置した。蛍光粒子の濃度は重量パーセントで1.0%となるように調整した。蛍光粒子の注入流量はシリンジポンプを用い0.03から0.2 ml/minの範囲に調整した。下層より帯状の蛍光粒子が供給され,ロールへ転写された際に,均一に転写される場合には蛍光発光粒子の幅は一定となり,ロール間で液の流動が変動した場合には幅方向へ粒子が拡散するため蛍光発光粒子の幅が変動する。Fig.4にロール間メニスカス部のスナップショットを示す。本画像は,高速度カメラによる撮影画像であり,撮影速度1/250[s]にて撮影した。図中の中央部がメニスカス部で,下方がBottomロール(金属ロール),上方がTopロール(ゴムロール)である。塗布液はスリットダイからBottomロールへ供給され,Bottomロール上を移動した後にTopロールへ転写される。Fig.4はTopロールのロール周速が30 mpm,Bottomロールの周速が30 mpm,ウェット膜厚比h/Hがそれぞれ0.2,0.6の場合のものである。図中の中央部から右側の場所がトレーサー粒子通過箇所となっている。また,図中のメニスカス部上方に白い点状のものが映し出されている。これは,微小な気泡である。本実験では,装置運転開始の際には各ロール間のギャップは開放された状態であり,各ロールの回転を開始し,ポンプにより塗布液をスロットダイへ供給後ロールを接触させる。ロールを接触させた際に外部から空気が混入し,微小な気泡となって塗布液中に混入したものと推定される。今回の可視化実験の領域は非常に狭い領域であり,またトレーサー粒子を片側の層にのみ混入させただけではロール間の流動状態の可視化が困難であったが,微小気泡の存在で,より鮮明にロール間の流動状態を確認することが可能となった。

Fig. 3.

 Die injection schematic.

Fig. 4.

 Example of high speed camera picture.

3. 実験結果および考察

3・1 スロットダイからロールへ転写される際の流動安定化条件の確認結果

ロール間の塗布液の転写を確認する前段階として,スロットダイからロールへ多層状態で塗布する際の均一塗布条件について確認した。Top,Bottomのロール周速はそれぞれ30 mpm,上層および下層の塗布液の粘度は5 cPとし,上層および下層の膜厚を種々変更した場合の外観変化の観察結果をFig.5示す。横軸に下層のウェット膜厚とGAPの比(hbottom/H),縦軸に上層のウェット膜厚とGAPの比(htop/H)で整理した。上層および下層側の膜厚比が共に低い場合にはスロットダイとロール間のメニスカス部で空気の巻き込みが顕著となり,Bottomロール上へ気泡が巻き込まれTopロール上へ転写された。膜厚比を増加されることで空気の巻き込みが解消され均一な塗布条件が確認されたが,膜厚比を更に増加させた場合には(例えばhbotom/H>0.5,htop/H>0.4),スロットダイ上流側から塗布液の漏れが顕著となり,均一な塗布面が得られなくなった。

Fig. 5.

 Coating window between Die and bottom roll.

Fig.6に,下層の塗布液粘度は5 cPのままで,上層塗布液の粘度を10 cP,20 cPへ増加させた場合の均一塗布条件の確認結果を示す。上層の塗布液粘度を増加させた場合,均一となる条件が狭小化する傾向となることが明らかとなった。以上の結果からスロットダイとロール間での塗布均一化条件が明らかとなった。今回の確認結果を元に,ロール間の塗布液の転写状況については,スロットダイとロール間での塗布液が均一に転写される条件にて確認した。

Fig. 6.

 Coating window between Die and bottom roll. (the effect of top layer viscosity)

3・2 ロール間メニスカス部の流動状態

Fig.7に上層,下層の塗布液粘度5 cP,htop/H=0.2,hbottom/H=0.5の条件にて周速条件を変化させた際のハイスピードカメラの撮影画像を示す。Bottomロールの周速は30 mpmで,Topロールの周速はそれぞれ30 mpm,60 mpm,80 mpmの結果である。各画像とも0.004 s毎の静止画となっている。Fig.7(a)に示すように,メニスカス部上部に存在した微小な気泡が時間変化とともにメニスカス部下方へ移動し,更に時間経過とともにメニスカス部上方へ移動しているのが確認された。以上のような微小気泡の動きから,メニスカス部において微小な渦の存在が確認された。Fig.7(b)に示すように,Topロール周速60 mpm,Bottomロール周速が30 mpmの場合にも,微小渦の存在が確認された。Topロール周速,Bottomロール周速がともに30 mpmの場合,メニスカス部の領域が広く(図中の実線がメニスカス上部,点線がメニスカス下部)微小渦の直径としては,メニスカス部の1/2程度であった。一方,Topロールを60 mpmに増加させた場合には,周速差によりトップロール上で塗布液が引き伸ばされるためメニスカス部がロール間の接触部へ移動することにより,メニスカス部の長さが減少した。メニスカス部の長さの減少に伴いTopロール周速60 mpmの場合には微小渦は存在するものの渦の直径は30 mpm時に比べ半分程度となっていることが明らかとなった。更にロール周速を増加させた場合には(Topロール周速80 mpm時),Fig.7(c)に示すように周速差の増加に伴い,メニスカス部が更にロール接触部へ移動し,メニスカス長さが短くなるため微小渦が確認されなかった。

Fig. 7.

 High speed camera pictures (meniscus region). (a)Vtop=30 mpm, Vbottom=30 mpm, (b) Vtop=60 mpm, Vbottom=30 mpm and (c) Vtop=80 mpm, Vbottom=30 mpm. (Top and bottom layer 5 cP, htop/H=0.2, hbottom/H=0.2)

以上の結果から,ロール間のメニスカス部において微小な渦が存在することが明らかとなった。Fig.8にメニスカス部の流動状態の概要図を示す。微小な渦は,周速差の増大に伴い,液膜が引き伸ばされるためにメニスカス部の位置がロール接触部近傍に移動し,それに伴い,メニスカス部長さの縮小するため微小化または消失することが明らかとなった。

Fig. 8.

 Outline of the flow between 2rolls.

3・3 ロール間の転写状況の確認結果

BottomロールからTopロールへの転写の均一性について評価を行った。Fig.9に上層20 cP,下層5 cP,htop/H=0.4,hbottom/H=0.4の条件において,トップロールとボトムロールの周速比を変化させた際のボトムロールからトップロールへの蛍光粒子の転写状況の撮影画像を示す。ボトムロールのロール周速は30 mpmで固定した。蛍光発光帯の幅はボトムロール上で0.6 mm程度となるように,注射器からの流量を調整した。図中の下部がBottomロール上で中央やや上部の液溜り部がメニスカス,メニスカスから上がTopロールの状況を示している。塗布液はBottomロールから供給され,ロール間のメニスカス部を通過し,Topロールへ転写される。周速比が2.0,3.46の場合,Bottomロール上の蛍光粒子の幅とTopロール上の蛍光粒子の幅に変化は見られず,ほぼ均一な状態で転写されていることを確認した。一方,更に周速比を増加した場合には,ロール間のメニスカス部においてリビングの発生に伴い,メニスカス部で膜厚の凹凸が発生したため蛍光粒子が凹凸に沿って幅方向に拡散する様子が確認された。以上の結果から,リビングが発生する前段階においては,BottomロールからTopロールへの塗布液の転写はほぼ均一となっており,リビングの発生とともにリビングの凹凸に沿って幅方向に拡散することを確認した。

Fig. 9.

 Visualization of tracer movement.

Fig.10に周速比と蛍光粒子幅の比率(Topロール上の蛍光粒子幅/Bottomロール上の蛍光粒子幅)の関係をまとめた結果を示す。低速領域ではBottomロール上とTopロール上での蛍光粒子の幅に変化は見られずほぼ1.0付近であった。周速比の増加に伴い,リビング開始前にTopロール上の蛍光粒子の幅が広がり始め,リビングの発生とともにリビングの凹凸にそって蛍光粒子が幅方向に拡散するため,Topロール上の蛍光粒子は幅方向に広がった。蛍光粒子の広がり幅はリビングの開始直後が最も広く,速度比の増加とともに減少する結果となった。これは,リビング発生直後の周波数は低周波で,広い波長の波が幅方向に発生し,ロール周速の上昇に伴い周波数が高周波へシフトするため波長が短くなったためと推定される。

Fig. 10.

 Relationship between speed ratio and width ratio of tracer.

3・4 リビングの比較(単層,2層の比較)

リバースロールコーティングにおいて,2層状態でメニスカス部を通過する際の上層および下層塗布液の混合の有無を確認するためにリビング発生速度に着目し,単層塗布条件と2層塗布条件の比較を行った。Fig.11に単層塗布時(塗布液粘度5 cP,20 cP),および2層塗布時(上層20 cP,下層5 cP)のリビング発生速度比の比較結果を示す。リビング発生速度比は,今回の実験の場合Bottomロール速度は30 mpmで固定し,Topロール速度を増加させた際にリビングが発生した段階でのTopロール速度とBottomロール速度の比である。単層条件で塗布液粘度が5 cPの場合,速度比4.0でリビングが発生し,単層条件で塗布液粘度が20 cPの場合には速度比2.0でリビングが発生した。2層塗布の条件では,各層の膜厚比を3条件変更してリビング発生速度比を確認した。2層塗布の場合,各条件にてリビングの発生限界速度比は3.5程度となっており,単層条件で塗布液粘度20 cPの条件に比べ大幅に増加していた。一方,Fig.12は2層塗布条件において上層の塗布液粘度5 cP,下層の塗布液粘度20 cPとした場合の単層塗布条件との比較結果であるが,2層塗布条件においてリビング発生限界速度は,単層条件の塗布液粘度20 cPの場合と同等であった。以上の結果から2層塗布条件においてリビング発生の限界速度は,下層の粘度条件に依存すると推定される。また,2層塗布条件においてはリビングの発生速度比は上層および下層の膜厚比によらずほぼ一定であることが明らかとなった。

Fig. 11.

 Comparison of ribbing in single and two layer coating. (top layer 20 cP, bottom layer 5 cP)

Fig. 12.

 Comparison of ribbing in single and two layer coating. (top layer 5 cP, bottom layer 20 cP)

次に,リビング発生限界速度の比較からメニスカス部内部の流動状態について考察する。単層塗布条件における塗布液粘度とリビング発生限界速度比の関係についても確認しており,Fig.13のように表される。粘度の上昇とともにリビングの発生限界速度は低下している。2層塗布の場合,(1)htop/H=0.4,hbottom/H=0.4,(2)膜厚比htop/H=0.2,hbottom/H=0.6,(3)htop/H=0.6,hbottom/H=0.2それぞれの条件において完全に混合した場合には塗布液の粘度はそれぞれ9.3 cP,7.4 cP,14.7 cPとなり,リビング発生限界速度比は,それぞれ2.6,3,2.1に対応するはずであるが,今回の実験でのリビング発生限界速度比はFig.11に示すように各条件において3.47,3.5,3.42といずれの条件についても完全混合時に比べ高い値となっており,以上の結果からメニスカス部において2層間で完全な混合は起こっていないと考えられる。

Fig. 13.

 The relationship between viscosity and speed ratio.

リビングの発生メカニズムについてはこれまで単層塗布条件において数多くの実験的,理論的研究が行われている。Coyle2)らは,リブの安定性について検討しており,リビングの式は1式で表される。   

dPdx=σr2drdx+n2σ(1)

右辺第2項がローピングによる付加的安定化項である。つまりメニスカスが外乱に耐えられる場合,表面張力がメニスカスの乱れを抑えているためローピングは発生しない。しかしメニスカスが外乱に耐えられなくなると,定常的に安定な流れとなるためには,n2σの項が現れる。これがローピングの形状を生じさせている。

以上から,ローピングの発生は圧力勾配が重要な因子であることが分かる。メニスカス部の圧力分布は,フォワードロールコーティングではCarvalho and Scriven4)によって,リバースロールコーティングでは,Anderthon11)によって,潤滑モデルとViscocapirallyモデルを用いた解析モデルが報告されている。今回の実験条件,リバース回転,片側変形ロール,ネガティブギャップ条件の場合,無次元化した潤滑の式および境界条件は下式であらわされる。   

dpdx=Ne[6(s+1)[h(x)]224q[h(x)]3](2)
  
h(x)=2+x2+d(x)(3)
  
Ne=(μVBER)(LR)(RH0)5/2(4)
  
p(xu)=NeCa(R/H0)1/2ru(5)
  
p(xd)=NeCa(R/H0)1/2rd(6)
  
d(x)=p(x)(7)
  
xu=[h1+1.6442(h12q)|s|+ru{1+1(1+0.863(Ca|s|)2/3)1/2}+2d(xu)]1/2(8)
  
xd=[3.2884q+rd{1+1(1+0.863(Ca)2/3)1/2}+2d(xd)]1/2(9)
  
xixi+1x1xn+1=K(10)
   ここで,
K=x1xn+1n

上記の方程式をマトリックス法による繰り返し計算からメニスカス部の圧力分布を算出した。Fig.14は,ローピング発生条件における圧力分布算出結果の一例である。Fig.14から,圧力勾配が負となる領域はメニスカス部の下流側となっており,リビングの発生はメニスカス部下流側ということがわかる。すなわち今回の2層塗布条件においては2層間の混合が起こっていない場合には下層部の塗布液がメニスカス部下流側の影響を受けるためリビングの限界発生速度比も下層の塗布液の物性(粘度)に依存すると言える。今回の実験結果では,2層塗布の条件においてリビングの限界発生速度比は,下層の粘度条件に依存しており,実験と数値解析の傾向はほぼ一致していると考えられる。また,以上の結果から2層塗布条件において,メニスカス部に微小な渦の存在が明らかとなったが,渦の存在による液層間の混合は発生していないと考えられる。但し,高速領域速度比3.5程度の場合に,2層塗布条件ではリビングが発生しており,単層条件に比べ低い速度比でリビングとなっており,高速領域では2層間の混合がより狭い領域で発生している可能性が高い。

Fig. 14.

 Pressure distribution of meniscus region. (single layer condition)

4. 結言

多層状態の塗布液をスロットダイからロールへ供給し,ロール間へ転写させるリバースロールコーターにおいて,スロットダイとロール間,金属ロールとゴムロール間の流動状態を各種パラメーターを変更して可視化実験を実施し安定塗布条件について以下の知見が得られた。

(1)スロットダイからロールへ多層状態で塗布液を塗布させる際,上層および下層のウェット膜厚とスロットダイとロール間のGAPとの比で塗布安定範囲を整理可能であり,均一塗布条件の範囲が明らかとなった。

(2)スロットダイとロール間の塗布安定領域は,上層の粘度の増加に伴い狭小化することが明らかとなった。

(3)多層状態の塗布液がロール間で転写される際の流動状態を可視化した結果,ロール間のメニスカス部に微小な渦が存在することが明らかとなり,ロールの周速増大に伴い渦が微小化または消失することが明らかとなった。

(4)BottomロールからTopロールへの転写の均一性について確認した結果,リビングが発生する前段階においては塗布液の転写は均一となっており,リビングの発生とともにリビングの凹凸に沿って幅方向へ拡散することが明らかとなった。

(5)リビングの発生限界速度についてラボ試験および数値解析により評価した結果,2層状態でのリビングの発生は,下層の塗布液粘度に依存していることが明らかとなった。

文献
 
© 2014 The Iron and Steel Institute of Japan

This article is licensed under a Creative Commons [Attribution-NonCommercial-NoDerivatives 4.0 International] license.
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
feedback
Top