鉄と鋼
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巻頭言
第100巻記念 環境分野特集号発刊に寄せて
中島 謙一
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2014 年 100 巻 6 号 p. 715

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巻頭言

「鉄と鋼」が第100巻を迎え,本年は,第1号の「鉄鋼技術,その100年の足跡」に続き,2号以降,各分野の特集号が順次発刊されています。環境分野というその性質から分野横断型の特集号となる6号は,製銑分野(2号),製鋼分野(4号)に続いて,3番目の分野特集号となりました。

明治維新以降,日本は,欧米諸国の技術を導入して,産業の近代化を推し進めました。「鉄と鋼」第1巻(1915年発刊)は,このように急速な工業化が進められている時期に発刊されました。この時期は,鉱山の製錬事業に伴う鉱毒・煙害事件,都市の大気汚染問題等の公害が社会問題となった時期とも言われています。その後,世界的にも環境問題が表面化するなか,ローマクラブが発信した資源枯渇と環境悪化による人類成長の限界に関する問題提起(「成長の限界」,1972),「国連環境計画(UNEP)」の設立(1972),「環境と開発に関する国際会議(地球サミット)」(1992)等を経て,地球環境問題は人類共通の課題となっていくと共に,省資源・省エネルギー型成長への転換,自然と調和した技術と社会システムへの転換などの必要性の認識が高まっていきました。そして,日本においては,国を挙げての公害対策,石油危機,廃棄物問題,地球環境問題などを契機として,鉄鋼業をはじめとする産業界では,省資源・省エネルギー技術および環境対策技術が大幅に進歩してまいりました。

特に,1970年代・1980年代には,現在の環境技術の礎となる優れた研究・技術報告を多数拝見する事ができます。本特集号でも鉄鋼業における省エネルギーに貢献したコークス乾式消火法(鉄と鋼,64(1978),pp.100-107),転炉製鋼スラグからのリンの濃縮分離技術(鉄と鋼,66(1980),p.1317-1326)に関する報告を復刻版論文として取り上げて紹介させて頂きました。先達の偉大なご業績に,静かな感動を覚えるものであります。また,本特集号では,「鉄鋼材料における合金元素の活用の変遷と将来展望」,「鉄鋼製品のリサイクル性と世界の鉄鋼蓄積量」,更に,「鉄鋼環境研究における社会鉄鋼工学部会の貢献」をレビュー論文として取り上げると共に,銅などのトランプエレメントの除去技術,リサイクルに関する経済的側面あるいは環境的側面からの解析,物質フロー・サプライチェーン分析など多様な論文を,計12本を掲載させて頂いております。本特集号を纏めるにあたり,環境・エネルギー・社会工学部会のメンバーおよびご協力頂きました皆さまに,この場をお借りして感謝申し上げたいと思います。

さて,分野横断型の環境分野特集号の巻頭言を締めるにあたり,南アメリカの先住民に伝わる話を取り上げた「ハチドリのひとしずく いま,私にできること」(監修・辻信一,(株)光文社)と言う1冊の本を紹介させて頂くと共に,私なりの解釈と環境分野研究への想いを書かせて頂ければと思います。物語の舞台は燃えさかる森,森の生き物たちがわれ先に逃げる中,一羽のハチドリがくちばしで,水を一滴ずつ運んでは火の上に落としていきます。物語を象徴するのは,動物たちの“Why are you doing that ?”とハチドリの“I am only doing what I can do.”というやり取りです。この物語は,私たちの社会を取り巻く,戦争,飢餓,貧困,そして環境問題などに置き換えて読めるとも言われています。私たち研究者や技術者にできる事は,自分のできる事を淡々とやるだけ,これは紛れもない事実ですが,他分野に無関心にいるのではなく,視野を広げて,知識と技術を紡ぐことができれば,より大きな発見と社会への貢献ができると思っております。そして,鉄鋼・環境技術は,地球規模での環境問題を改善・解決に導く可能性を未だ秘めていると信じております。読者の皆さまにおかれましては,是非とも本特集号を含めて論文誌「鉄と鋼」を改めてじっくりお読み頂ければ幸いです。

この環境分野の特集号が,人類共通の課題としての「地球環境問題」の改善・解決,そして,鉄鋼・環境技術の更なる発展と社会への貢献を祈願しまして巻頭のご挨拶とさせて頂きます。

 
© 2014 一般社団法人 日本鉄鋼協会

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