Tetsu-to-Hagane
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Comparison of Tramp Elements Compositions in Steel Bars between Japan and China
Ichiro DaigoYoshikazu Goto
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2014 Volume 100 Issue 6 Pages 756-760

Details
Synopsis:

In this study, a random sample of 107 steel bars from Japan and 26 steel bars from China were studied. Each specimen’s elemental composition of tramp elements, such as Cu, Cr, Ni, and Sn, was analyzed. By using the compositions of specific tramp elements, 99 of the 107 samples and 16 of the 26 samples were recognized as electric arc furnace steel. The distributions of the tramp element composition were obtained for the Japanese steel bars and represent a larger number of samples than previous studies. Those for the Chinese samples are the first published data. The compositions of Cu, Cr, Ni, and Sn in the Japanese bars are statistically significantly higher than those in the Chinese bars. Owing to the large gap between the Cu contents of the Japanese and Chinese samples, and the statistically significantly differences between the ratios of Cu to both Ni and Cr in the Japanese and Chinese samples, it is highly likely that copper-based materials are separated from steel scrap at a higher rate in China. The relationship between the Cu and Cr compositions suggested that the mixing of copper-based materials and special steels, which contribute to Cr contamination, differs between Japan and China. The distributions of the Cr composition for each country had larger standard deviations than the distributions of other elements. The ratio of the Cr and Ni compositions in the Chinese samples is less than 2.25, resulting in 18% Cr and 8% Ni in stainless steel. It was found that Ni from materials other than stainless steel was likely to have been included.

1. 緒言

鋼材中のトランプエレメントは,製錬プロセスでの除去が困難な元素であり,リサイクル時に不純物として問題となることがある。その中でもCuやSnは,濃度が高くなると表面赤熱脆性を生じ加工性に悪影響を与える1)。Cuの混入は,使用済み製品から鉄鋼材を回収する際に,分離されなかった銅素材が鉄スクラップへ混入することに起因すると考えられる2)。Daigoら2)は,2000年時点での鉄スクラップへのCuの混入挙動を推計し,その挙動が将来に続いた場合の鋼材中Cu濃度の推移を推計し,濃化する可能性を指摘した。他にもNiやCrも不純物として炭素鋼中に存在している3,4)が,これらは,使用済み製品からスクラップを回収する際に,分離されなかった特殊鋼が炭素鋼スクラップへ混入することが一因と考えられる5)。Odaら5)は,Crに着目し,その濃化の可能性を指摘した。このように,リサイクルされた炭素鋼中に存在する不純物は,意図せずに鉄鋼材サイクルに混入する元素と,意図して鉄鋼材の合金元素として添加したものの,リサイクル時に合金種別に分別されないために不純物となる元素の2つの形態がある。鉄鋼材以外の素材においても同様の問題は生じ,アルミニウム素材にいて鉄ビスが混入するのは前者であり,複数の合金種が混在して回収されるのは後者の形態と言える6)。循環型社会が進み,リサイクルが促進されても,不純物が混入するリサイクルシステムが維持されると,鋼材中の不純物濃度が,要求品位を満たさなくなることが懸念される2)。そのため,不純物が混入するメカニズムを解明し,それを低減する取り組みを実施することは,現在の課題と考えられる。

使用済み製品は,解体され,素材別に分離され,選別された素材が,素材スクラップとして回収される。この解体・分離と選別工程は,大別すると手解体・手選別と機械破砕・機械選別の2つの処理方法がある。前者は後者に比べ人件費が支配的であり,処理量が限られる工程である7)。これら処理方法は,人件費と素材価格などによる事業採算性や必要となる処理量に応じて選択されると考えられ,一国の中では,経済の発展に伴って,手解体から機械破砕へ移行することがわかっている8)。不純物の混入という観点では,手解体は,個別の素材に分離でき,他素材の混入は少ないと考えられる。手選別は,人間の視覚や製品の設計情報によって素材を判別することから,色,形状,用途によって素材を特定し,区別することになる。一方で,機械破砕では,変形した素材が他素材を巻き込む場合,それら混在した素材を分離することは困難になる。また,磁力選別や渦電流選別等の機械選別は,素材の持つ磁性,電気伝導性等の特性を用いて分離するため,特性値の近い素材間の分離効率は低かったり,分離できなかったりし,他素材の混入や合金種の混在となる。不純物元素の混入について,時間と労力をかければ個別のケースは観測できるが,全体での挙動を観測するのは困難である。先述のように,混入挙動に影響を与える要因が想定されるが,実際に不純物が混入した結果の鋼材中の不純物元素濃度を分析した研究はほとんどない。このような要因により鋼材中へ不純物元素が混入しているのであれば,機械破砕が主流の日本における鋼材中の不純物元素濃度より,手解体が主流の中国における濃度の方が低いことが想定される。そこで,本研究では,鉄鋼材における不純物濃度を日中間で比較することで,不純物元素の混入挙動を理解することを目的とした。

2. 研究手法

2・1 鋼材中の不純物濃度の分析事例

はじめに,鋼材中の不純物濃度について,過去の分析事例をTable 1にまとめ,以下に簡潔にレビューする。Nafzigerら4)は,米国においてAISI(American Iron and Steel Institute)が実施した分析の結果として,1954年,1962年,1977年の鉄スクラップを原料とした普通鋼を対象としたCu,Cr,Ni,Snの平均濃度の変化を記した。Cr以外の3元素の濃度は,1954年から1977年の間に減少していた。これは,製鋼工程において不純物元素濃度の制御に対する関心が高まり,不純物元素を希釈するために,不純物の少ないスクラップの利用や,分離や選別等のよりよいスクラップ処理を実施した結果であろうと考察していた。1981年に,鋳鉄を対象とした大規模な不純物濃度調査が実施されているが,本研究の評価対象とは異なるため,Table 1には含めなかった。日本において普通鋼電炉工業会では,1987年から数年おきに電炉鉄筋棒鋼中の不純物元素濃度を調査している3)。その結果,Cu,Mn,S,Si,Sn,Pの濃度は,1987年から2007年の長期の傾向ではあまり変化していない。一方,Crの濃度は上昇傾向にあり,1987年に約0.14%であったものが2007年には約0.19%に増加している。また,日本において地域別に不純物濃度を比較すると,スクラップの入手可能な種類の違いから,不純物濃度にも違いがあることが分かっている。Toiらは,日本における1996年から1997年に採取した鉄スクラップのCu,Sn,Cr濃度を分析し,平均濃度だけでなく,その分散についても考察した9)。なお,鋼材やスクラップの不純物濃度を分析した事例は,採取方法が不明なものや,代表性が担保されてないものが,上記の他にもいくつか公表されている10)

Table 1. Compositions of tramp elements in steel reported in previous studies.
Observational yearObservatinoal countryCrCuNiSnRemarksRef.
1954U.S.0.52*10.170.1070.035Cold scrap shop only*34)
1962U.S.0.710.1510.0850.017Cold scrap shop only*34)
1977U.S.0.1150.1620.0860.011Cold scrap shop only*34)
1987Japan0.140.280.080.03EAF steel bar*43)
1989Japan0.1590.3270.024EAF steel bar*43)
1991Japan0.1690.3250.024EAF steel bar*43)
1996*2Japan0.1580.2970.031EAF steel scrap (n=50)9)
1997Japan0.1790.2890.018EAF steel bar*43)
2001Japan0.1740.2880.019EAF steel bar*43)
2004Japan0.1920.3180.021EAF steel bar*43)
2007Japan0.1850.2810.020EAF steel bar*43)

*1 The figure of one decimal places is illegible due to oldness of the literature. The number has a chance of 0.32. *2 Samples include new scrap and old scrap which might be produced in earlier times. *3 Procedures for the survey are unknown. *4 Average of the average compositions in 32 EAFs during the year obtained by questionnaires.

不純物の混入は,使用済み製品の解体や鉄スクラップの処理プロセスの違いと考えられるが,異なる解体や処理が実施されている地域での鋼材中の不純物濃度が観測され,比較された事例はほとんどない。

2・2 鋼材の採取と不純物濃度の元素分析

本研究では,日本と中国を対象に,スクラップを原料とした鋼材を採取し,Cu,Cr,Ni,Sn濃度を元素分析により得た。採取した鋼材は,不純物濃度の許容が大きく2,10),不純物を比較的多く含む低級ヘビースクラップなどの鉄スクラップが原料となり得る電炉棒鋼を評価対象とした。日本での試料採取は,2011年に中部地方にて実施した11)。様々な発生元から集荷されたスクラップヤードから任意に107点の試料を採取した。元素分析には,オリンパス・イノベックス製ハンドヘルド型蛍光X線分析装置を用い,スクラップ表面の塗装や酸化物を削ったのちに分析した。本装置では,ファンダメンタル・パラメータ法12)を用いて元素濃度を定量した結果が得られた。中国での試料採取は,2012年から2013年にかけて華東地方(上海,江蘇省,浙江省)にて実施した。スクラップヤードと建設現場から26点の試料を採取した。元素分析には,発光分光分析を用いた。なお,日本での採取分,中国での採取分ともに,加工スクラップと老廃スクラップが混在していたが,明確には区別できなかった。そのため,採取した棒鋼の生産時期は特定できなかった。米国において不純物元素濃度に対する意識の高まった時期に不純物濃度の変化が観測されているものの,日本においてCr以外の元素濃度は時系列で大きな変化を示していないことから,生産時期は区別せずに扱った。

2・3 日本と中国における鋼材中の不純物濃度の比較分析

採取した棒鋼の製鋼法も原料も明確ではないため,銑鉄が主な原料の転炉鋼と鉄スクラップが主な原料の電炉鋼を,元素分析の結果から区分した。Toiら9)は,鋼材のCu濃度に着目し,0.05%以下を転炉鋼,0.11%以上を電炉鋼と区別した。また,主な転炉鋼材のCu濃度を0.03%以下とする記述もある10)。既存研究と分析結果を基に,転炉鋼と電炉鋼を区分した。電炉鋼に区分された棒鋼の不純物濃度について,日本の試料に関しては,既存の文献値と比較し,採取した試料の代表性を確認した。

電炉鋼棒鋼中の不純物成分は,全てが混入物起源ではなく,原料鉄スクラップの中に既に合金化されている不純物も含まれている。そのため,不純物元素が,一意にその元素を含む他素材や特殊鋼が混入したことに起因する訳ではないが,元素ごとの濃度分布や他の元素濃度との関係から,日本と中国で混入挙動を比較した。

3. 結果と考察

日本と中国で採取した棒鋼の元素分析から得られたCu,Cr,Ni,Sn濃度を,0.01%ポイント刻みのヒストグラムとして,それぞれFig.1(a),(b),(c),(d)に示した。日本と中国の結果を比較できるよう,それぞれの国で採取した全試料を母集団とした頻度で示した。なお,Cr濃度に関して,日本の試料に1.12%と1.16%の2点の棒鋼が,中国の試料に0.53%の1点の棒鋼があったが,図の見やすさから,それらはFig.1には示さなかった。また,日本の結果は,ファンダメンタル・パラメータ法によって得られているため各Cu,Cr,Ni,Sn濃度の結果は誤差を有する。Cu,Cr,Ni,Sn濃度それぞれに0.006%,0.004%,0.010%,0.006%の誤差を平均的に有し,最大で,0.010%,0.008%,0.016%,0.009%の誤差を有していた。

Fig. 1.

 Histograms of (a) Cu, (b) Cr, (c) Ni and (d) Cr compositions in steel bars specimens obtained in Japan and China.

原料や製鋼炉に関する情報は収集できなかったことから,不純物濃度の分析結果を用いて,採取した棒鋼から,主にスクラップを原料とした電炉棒鋼を選別した。棒鋼に意図的に添加しているとは考えにくく,スクラップから混入すると除去されないCuとNiの濃度により,試料を区別した。Cu濃度0.05%とNi濃度0.02%を基準とし,その濃度をどちらかが超える試料は,スクラップを原料としている可能性が高いと考えた。Fig.2にNi濃度とCu濃度の散布図を示すように,日本の試料,中国の試料ともに,一部,Cu濃度が0.05%より高い試料で,Ni濃度が0.02%以下の試料が見られたが,Cu濃度が0.05%以下でNi濃度が0.02%より高い試料は見られなかった。日本の試料のうち8個,中国の試料のうち10個がCuとNiの両方の濃度が基準値を下回ったため,これらは主に銑鉄や直接還元鉄等の天然資源を原料としていると判断した。中国の試料の方が,多くの試料が天然資源を原料としていると区別されたが,これは,中国の方が転炉による棒鋼の生産割合が高いためと考えられた。また,日本における棒鋼の転炉と電炉の生産比率は,9対1程度13)と区別された試料数の割合と近く,先述の基準値は妥当であると考えられた。

Fig. 2.

 Cu compositions versus Ni compositions in specimens steel bars obtained in Japan and China.

電炉棒鋼と区分された試料の不純物元素濃度の分布から,平均値,標準偏差,中央値を日本と中国の別にTable 2に示した。比較のために,普通鋼電炉工業会が2007年に調査した鉄筋棒鋼の平均濃度3),Toiらが1997年に調査した各元素濃度の標準偏差9)Table 2に示した。日本で採取した棒鋼のそれぞれの元素濃度は,2007年に調査された日本の平均値とほぼ同じであった。日本国内の地域性として,本研究で採取した中部地方で生産された棒鋼は,他の地方で生産された棒鋼よりも不純物濃度が低いとされている3)が,今回採取したものの生産地は中部地方には限らない。この地域による違いの影響から僅かに小さかったことも考えられたが,本研究で得られた不純物濃度は,日本において代表性のある結果と考えられた。本研究では,今までで最も多い標本数の電炉棒鋼の不純物濃度分布を,日本を代表する情報として得ることができた。また,標準偏差に関して,既報の数値と比較した。CuとSnの標準偏差は文献値と同じであった。Crに関しては,文献値より大きかったが,理由の1つには既報ではCrが検出されなかった試料を母集団から除外していることが挙げられた。ただ,それを考慮しても既報の標準偏差は0.097であり,本研究の方が大きかった。これは,15年の評価時期の違いから,Cr濃度の時系列変化によってバラツキが大きくなったことが考えられた。中国の試料に関しては,既存の文献がないため,本研究で示した値が,今後の研究において参照され,比較されるベンチマークとなることを期待する。

Table 2. Average, standard deviation, median and maximum of observed distributions for impurities contents in steel bars by country.
CuCrNiSn
JapanAverage0.2780.1750.0720.017
Standard deviation0.0810.1200.0390.023
Median0.2790.1590.0680.000
Maximum0.5651.1220.3790.102
ChinaAverage0.0980.0930.0480.012
Standard deviation0.0340.1260.0200.004
Median0.090.040.050.01
Maximum0.160.530.100.02
[cf.] Average during 2007 in Japan [3]0.2810.1850.08*0.020
[cf.] Standard deviation in Japan [9]0.0810.0750.02

* measured in 1987

不純物濃度を日本と中国で比較したところ,分析の対象とした4元素全ての濃度において,中国で採取した棒鋼の方が,日本のものに比べ低かった。CuとNiの平均濃度は有意水準1%で,CrとSnの平均濃度は有意水準5%で有意差があると判断された。中国の棒鋼における不純物濃度の最大値も,日本の最大値に比べて低いことがわかった。中国での不純物濃度の方が低い理由として,鉄スクラップに混入する普通鋼以外の素材が少ないことが考えられた。もう1つの理由として,中国の方が老廃スクラップの使用比率が低いことが考えられた。採取した試料の製鋼時の原料は特定できないが,電炉鋼材における両国の平均的な原料比率は,日本では98%が鉄スクラップ,中国では約50%が鉄スクラップである14)。ただし,ここでの原料である鉄スクラップには,工場から発生して他素材を含まないような新断等の加工スクラップと製鋼工場から発生する自家発生スクラップも含む。そのため,鉄スクラップ中の転炉から発生する自家発生スクラップや,転炉鋼材の加工スクラップは,不純物をほとんど含まず,銑鉄や直接還元鉄と同様に希釈源となる。そのため,原料に占める鉄スクラップの割合と元素濃度の間で,定量的な分析を実施するには,鉄スクラップ中の老廃スクラップ割合のデータが必要である。老廃スクラップに混入する不純物を定量的に議論するためには,さらなる研究が期待される。ただし,日本と中国の4元素の平均不純物濃度を比べると,Cu濃度が他の元素と比べて大きく異なった。これは,過去からの繰り返しリサイクルによる濃度が低かったことも考えられるが,中国の方が銅素材を鉄スクラップへ混在させずに単体分離している可能性が高いと考えられた。諸言に記したように,日本において主流の機械分離に対して,中国で実施されている手解体がその要因として考えられた。また,Snについては,平均値は日本の方が高いものの,日中の違いは他の不純物と比べて小さかった。また,中央値は中国の方が大きかった。日本の中央値が0.00であることからも,鋼材のSnフリー化が進み,Snが混入しない鉄リサイクルシステムに移行してきたことが理由として考えられた。

個別の不純物元素について,日本と中国における混入量の違いを定量的に評価することは困難であった。そこで,1つの不純物濃度を基準にし,もう1つの不純物濃度の相対的な大きさについて,日本と中国の相違を分析した。2つの不純物濃度の比を,採取された各試料において計算し,その分布を日本と中国で比較した結果をTable 3に示した。ただし,Sn濃度は0の試料が多かったため,Sn濃度との比率の場合のみ,Sn濃度を分子とした。

Table 3. Comparison between ratios of compositions for each pair of two elements in Japan and China
Average in JapanAverage in ChinaResults of t-testSignificant level for the t-test
Cu/Cr2.122.08No significant difference25%
Cu/Ni4.102.35Significant difference1%
Sn/Cu0.0570.130Significant difference1%
Cr/Ni2.711.72Significant difference10%
Sn/Cr0.1330.244Significant difference5%
Sn/Ni0.2520.289No significant difference25%

Cu濃度とCr濃度の比率にすると,日本と中国の分布を持った数値に違いは見られなかった。一方で,Cu濃度とCr濃度の平均値の比率は,日本ではCu濃度が1.59倍と大きく違い,中国ではCu濃度が1.05倍とほぼ同じであった。これらから,Cu濃度とCr濃度は,それぞれにほとんど関係なく分布していた結果であったと考えられた。これは,Crが鉱石由来でも存在していることや,スクラップ由来のCrの混入源である特殊鋼5)の混入経路が銅素材の混入とは異なることが,理由として考えられた。Cu濃度とNi濃度の比,ならびに,Cu濃度とSn濃度の比について,ともに日本の方がCu濃度の比率が有意に高かった(有意水準1%)。これらより,NiやSnの混入が日中で同程度と仮定した場合,Cuの混入は日本の方が有意に高いと考察された。これは,Cu濃度について考察したのと同様に,中国の方が銅素材を鉄スクラップへ混在させずに単体分離していることが要因と考えられた。

Cr濃度とNi濃度の比は,有意水準10%で差が認められた。差が認められた有意水準が高かった理由は,ともにステンレス鋼中の合金元素であり,その濃度比が国によってあまり違わなかったことが考えられた。ただ,Crが18%, Niが8%の場合,Cr/Niは2.25となるのに対し,中国の平均値が1.72とNiの割合が大きかった。中国におけるNiの混入源がステンレス鋼以外にもあることが考えられた。

4. 結言

日本の棒鋼107試料,中国の棒鋼26試料を採取し,Cu,Cr,Ni,Snの濃度を元素分析した。既存研究の結果と比較して妥当と考えられる不純物濃度に基準を設けて,日本の99試料と中国の16試料を電炉棒鋼と選別した。本研究により,今までで最も多い標本数の電炉棒鋼の不純物濃度分布を,日本を代表する情報として得ることができた。中国の試料に関しては,既存の文献がないため,本研究で示した値が,今後の研究において参照され,比較されるベンチマークとなることを期待する。

評価した4元素全てにおいて,中国で採取した電炉棒鋼の不純物濃度の方が,日本のものに比べ有意に低いことがわかった。Cu濃度の日中間の違いが大きいことや,他の元素濃度との濃度比が日中間で有意に異なることは,中国の方が銅素材を鉄スクラップへ混在させずに単体分離している結果であると考えられた。Cu濃度とCr濃度の関係から,スクラップ由来のCrの混入源である特殊鋼の混入挙動と銅素材の混入とは異なる可能性が示唆された。Cr濃度は,他元素の濃度に比べ,偏差が大きいことがわかった。Cr濃度とNi濃度の比率から,中国におけるNiの混入源がステンレス鋼以外にもある可能性が示唆された。

謝辞

本研究の一部はJSPS科研費 22686084 の助成を受けたものです。

文献
 
© 2014 The Iron and Steel Institute of Japan

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