Tetsu-to-Hagane
Online ISSN : 1883-2954
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ISSN-L : 0021-1575
Review
Activation Analysis for Determination of Trace Elements
Shoji HiraiShogo SuzukiAkira NaganoChushiro YonezawaHideaki Matsue
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2014 Volume 100 Issue 7 Pages 873-883

Details
Synopsis:

Activation analysis has developed as one of trace element analysis. Atom of analyte is activated with nuclear reactions by neutron from nuclear reactor, charged particle from an accelerator or photon from an accelerator. Radiations from activated nuclides are measured with a gamma spectrometer, and determined with compare of the standard. These methods are called as neutron activation analysis (NAA), charged particle activation analysis (CPAA) or photon activation analysis (PAA), respectively. And prompt gamma-ray analysis (PGA) and neutron depth profiling (NDP) measuring prompt gamma-rays and prompt charged particles, respectively, from nuclear reactions with low energy neutrons are able to be used. In the field of iron and steel, the numbers of applications for activation analysis are a few except NAA. This paper reviews applications of NAA and CPAA for various iron and steel and reviews principles and characteristics, analysis systems and analytical methods, as well as applications of PGA and NDP.

1. はじめに

放射化分析(Activation Analysis)1)は,元素や同位体を定量するための分析方法で,少量および主成分元素の定量ができるが,微量および超微量元素分析にその特徴が生きてくる。分析対象元素は単一あるいは複数の同位体からなる原子から構成されているので,本法ではこの原子に中性子,荷電粒子,光子(光量子)などの放射線を照射して,核反応により放射性核種を生成させる。この放射性核種が壊変するときにα線,β線(β+線とβ線)やγ線などの放射線が放出する。また,核反応時にも即発γ線といわれるγ線が放出する。生成する放射性核種が測定対象となる核種となり,放出する放射線のエネルギーやその強度を測定することで測定対象核種の量を決定し,元素量に換算して定量を行う。多くの場合,放射性核種からのγ線は,核種固有のエネルギーをもっていることから,放出する放射線としてはγ線が利用される。

放射化分析の名称1)としては,照射する放射線の種類により大別できるが,さらに放射線のエネルギーによって区別することもある。中性子放射化分析(Neutron Activation Analysis:NAA),荷電粒子放射化分析(Charged Particle Activation Analysis:CPAA),光量子放射化分析(Photon Activation Analysis:PAA)は放射線の種類による分類法である。中性子放射化分析では中性子エネルギーの違いにより熱中性子放射化分析,高速中性子放射化分析,14 MeV中性子放射化分析,原子炉中性子放射化分析などに呼ばれる。荷電粒子放射化分析は,粒子加速器(加速器)により発生させられた陽子,デュートロン(重陽子),トリトン(三重陽子),3He粒子あるいはα粒子などが利用され,光量子放射化分析は加速器からの高エネルギーの電子線を金属に照射し,そこから発生する制動放射線が利用されるので,照射粒子の名前がついてよばれることもある。また,照射した後の試料の取り扱い方で機器放射化分析(Instrumental Activation Analysis:IAA)あるいは放射化学放射化分析(Radiochemical Activation Analysis:RAA)と呼ばれる。前者は,照射後試料を非破壊で放射能測定するが,後者は,照射後試料を放射化学的な前処理を行い,放射能測定を行う。最近の応用例では大部分が前者であり,多元素同時分析の特徴を生かしている。選択的に超微量元素を定量する場合には,後者が利用される。

中性子放射化分析,荷電粒子放射化分析,光量子放射化分析はいずれも生成した核種が壊変するときのγ線を測定ターゲットとしているが,核反応したとき放出する即発γ線を測定ターゲットとして分析する中性子即発γ線分析(Neutron-Induced Prompt Gamma-ray Analysis:PGA)も最近は広い意味で放射化分析の範疇に入っている。すなわち,中性子即発γ線分析も核反応により放射性核種が生成していることと微量元素分析の分類に入るからである。さらに,特定の元素の深さ方向の分布を調べる中性子深さ方向分析(Neutron Depth Profiling Analysis:NDP)等も放射化分析の一分野になりつつもある。

鉄鋼分野における放射化分析の利用については,日本鉄鋼協会の評価・分析解析部会編の図書2,3)に2000年前後の状況が記されている。本稿においては,中性子放射化分析,荷電粒子放射化分析,中性子即発γ線分析と中性子深さ方向分析についての最近の動向を記述する。

2. 中性子放射化分析

2・1 序

中性子を照射源とするのが中性子放射化分析(Neutron Activation Analysis:NAA)4)で,放射化された放射性核種が壊変の際に放出する放射線(多くの場合γ線)のエネルギーとその量を測定することで,放射化前の元素の種類と量を知ることができ,定性・定量分析が可能である。中性子は,電荷を持たないことから原子核に容易に近づくことができる。なかでも原子炉からの熱中性子は,原子核に捕獲されやすく,多くの種類の原子核と核反応を起こしやすい。このため多元素分析に適しており,原子炉を用いた中性子放射化分析が広く利用されている。また,中性子放射化分析は応用範囲が広く,隕石など宇宙地球科学,大気浮遊塵など環境科学,土器など考古学,高純度物質など材料科学,動植物など生物科学,犯罪科学等の分野で元素分析に利用されている。ここでは鉄鋼分析への適用例を概説する。

2・2 中性子放射化分析の原理と特徴

中性子放射化分析は,原子炉などによる中性子との核反応を利用する。原子番号Z,質量数Aの安定核種が中性子nを捕獲して核反応し,質量数A+1の放射性核種を生成する。同時に余分なエネルギーをγ線で放出する。

生成された放射性核種が壊変して安定核種になるとき,放出される放射線は,主としてβ線とγ線である。γ線は放射性核種ごとに固有のエネルギーを有する。このγ線エネルギーと量を測定することにより元素の定性・定量を行う。

中性子放射化分析は試料を中性子照射した後に,そのままγ線測定を行う機器中性子放射化分析(INAA)と照射後,特定の放射性核種を化学分離し,γ線を測定する放射化学中性子放射化分析(RNAA)に大別できる。γ線の測定では遮蔽体付きのGe半導体検出器がよく用いられている。多くのエネルギーのγ線を高分解能で検出できることから,一回のγ線測定で多数の元素に基づくγ線を収集することができ,多元素同時定量が可能となる。このため煩雑な化学処理操作で放射性物質を扱うRNAAよりINAAが広く使用されている。

試料を原子炉の中性子などで放射化すると,試料中の原子核はある割合で放射性核種が生成される。一方,生成された放射性核種は時間とともに壊変していく。この放射性核種はその生成と壊変の差の分だけ増加することになる。注目する元素W(g)を含む試料を放射化した場合,生成する放射性核種の放射能強度A(Bq)は次式で表される。   

A=fσθWNA/M(1eλt)(1)

ここで,fは中性子束密度,σは中性子捕獲断面積,θは元素中の放射化される核種の同位体存在率,NAはアボガドロ数,Mは元素の原子量,tは放射化のための照射時間,λは放射化された放射性核種の壊変定数,半減期をTとするとλ=0.693/Tとなる。

(1)式によって生成した放射能強度そのものを測定しているのではなく,放射性核種の壊変により放出されるγ線に注目して測定して,γ線の強度から放射線検出器の効率などを乗じて放射能強度を計算している。(1)式のσなどの定数を正確に知ることが困難なので,一般的には含有量が既知の標準試料と分析試料を同一条件で照射・測定して,γ線ピークの大きさの比から元素含有量を求める比較法で行われる。

中性子放射化分析は放射化された放射性核種の放射能から元素量を算出するので,分析感度は条件にもよるが,ppm(μg/g)からppt(pg/g)レベルで分析できる高感度分析法といわれている。また,放射性核種の壊変は,試料を構成する元素の化学状態や物理状態あるいはマトリックス元素に依存しないことから,他の化学分析法にみられないように幅広い範囲で元素量と放射能強度の間で直線性が成り立っている。そのため真度の高い分析値となっている。

2・3 INAAによる鉄鋼標準物質中の微量元素の定量

日本鉄鋼連盟から頒布されている日本鉄鋼認証標準物質(JSS)から5種類の高純度鉄標準物質(JSS001-3,JSS001-4,JSS002-3,JSS003-2およびJSS003-4)および3種類の鉄鉱石標準物質(JSS803-4,JSS805-1およびJSS814-1)の不純物微量元素の定量が機器中性子放射化分析で行われた5,6,7)

試料は秤量して洗浄したポリエチレン袋に二重封入された。各試料とも130~750 mgの試料重量で,5~8個が分析された。

定量は比較標準試料を用い比較法で行われた。比較標準試料には原子吸光用標準液(関東化学製または和光純薬工業製)が用いられた。これらの溶液から各々一定量(10~200 μL)をマイクロピペットで採取し,ろ紙に浸み込ませ,試料と同様に照射・測定された。

照射は,生成核種の半減期により短時間および長時間の2種類の条件で最大熱出力100 kWの立教大学の原子炉(立教炉)で行われた。短時間照射は熱中性子束密度1.5×1012 n cm−2 s−1の気送管で2分間行われた。1~10分間冷却後,同軸型Ge検出器と4096チャネル波高分析器を用いて,半減期が数分から数時間の核種に注目して6~25分間γ線測定が行われた。短時間照射試料ではAl,V,S,Cu,Ti,Si,Ca,Mg,I,Cl,In,Dy,Mnの13元素の定量がなされた。

長時間照射は中央実験管(熱中性子束密度3.7×1012 n cm−2 s−1)で6時間行われた。2~7日間冷却後,同軸型Ge検出器と4096チャネル波高分析器からなるγ線スペクトロメトリシステムを用いて,半減期が数10時間から数日の核種に注目して2~45時間測定された。さらに同一試料を9~40日間冷却後,再び半減期が数10日以上の核種に注目して18~230 時間測定された。長時間照射試料ではNa,K,Sc,Cr,Fe,Co,Ni,Zn,Ga,As,Se,Br,Rb,Sr,Zr,Mo,Ag,Cd,Sn,Sb,Te,Cs,Ba,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Ho,Tm,Yb,Lu,Hf,Ta,W,Ir,Pt,Au,Hg,Th,Uの44元素の定量がなされた。

長時間照射試料では通常のγ線スペクトロメトリのほか,検出感度を上げるため同軸型Ge検出器とその周りをコンプトン散乱γ線検出用の井戸型NaI(Tl)検出器で囲んだ反同時測定法によるγ線スペクトロメトリでもγ線測定が行われた。

得られたγ線スペクトルの解析は非線形最小二乗法によるピークフィッティング,注目核種による半減期補正等を自動的に行えるγ線スペクトル解析プログラム8)を用いて,パソコンにより行われた。得られた分析値は高速中性子による妨害核反応およびγ線測定時の高計数率によるγ線ピーク面積の減少について補正が行われた。

Table 1に高純度鉄標準物質JSS001-4およびJSS003-4中の56元素の分析結果5)を示す。誤差は試料重量を変えて分析した繰り返し精度(標準偏差)を示す。定量できなかった元素については定量下限値を示す。定量下限値は対象とするγ線ピーク部のバックグラウンド計数値の平方根を3倍した値から算出した。また,Table 1には日本鉄鋼連盟が定めた認証値および参考値も示す。高純度鉄標準物質では7~13元素が,鉄鉱石標準物質では29~35元素が定量できた。しかし,鉄との親和性が高く,鉄中から除去しがたい元素であるMo,Niは3種類の高純度鉄では定量できなかった。

Table 1. Concentration of elements in JSS 001-4 and JSS 003-4 high pure iron5). (μg/g)
ElementJSS 001-4JSS 003-4
This workCertified valueThis workCertified value
Na0.0202 ± 0.0180.206 ± 0.027
Mg< 9.9< 0.4*< 19
Al< 0.19< 0.79.59 ± 0.277*
Si< 230< 3*< 43043 ± 4.2
S< 2101.9 ± 0.42< 3601.5*
Cl1.74 ± 0.26< 1.1
K< 1.8< 0.26
Ca< 4.4< 0.5*< 6.6
Sc< 0.0036< 0.0033
Ti< 2.8< 0.6*< 3.6
V0.0371 ± 0.0070< 0.1*0.101 ± 0.006
Cr< 8< 1*< 85 ± 0.98
Mn< 80.03*31.1 ± 1.832 ± 1.7
Co0.258 ± 0.00140.3 ± 0.0428.0 ± 0.929 ± 1.6
Ni< 1.8< 0.3*39.3 ± 2.436 ± 1.1
Cu< 0.810.5 ± 0.1218.3 ± 0.918 ± 0.9
Zn6.32 ± 0.946.8 ± 0.83< 0.82
Ga< 0.075< 0.11
As0.191 ± 0.008< 0.3*0.228 ± 0.014
Se< 0.13< 0.12
Br< 0.020< 0.0099
Rb< 1.0< 0.51
Sr< 10< 12
Zr< 14< 13
Mo< 0.13< 0.3*0.630 ± 0.030
Ag< 0.16< 0.14
Cd< 0.33< 0.18
In< 0.0013< 0.0016
Sn< 6.6< 0.4*< 6.7
Sb< 0.00600.0290 ± 0.0023
Te< 0.48< 0.33
I< 0.041< 0.086
Cs< 0.037< 0.031
Ba< 4.8< 3.0
La< 0.0032< 0.0023
Ce< 0.16< 0.091
Pr< 0.089< 0.018
Nd< 0.35< 0.019
Sm< 0.00058< 0.00035
Eu< 0.0031< 0.0041
Gd< 0.44< 0.40
Tb< 0.022< 0.021
Dy< 0.0061< 0.0065
Ho< 0.0038< 0.0021
Tm< 0.024< 0.016
Yb< 0.018< 0.0074
Lu< 0.0039< 0.0023
Hf< 0.029< 0.023
Ta< 0.017< 0.011
W0.252 ± 0.0320.3 ± 0.090.349 ± 0.037
Ir< 0.00061< 0.00054
Pt< 0.12< 0.072
Au< 0.00026< 0.00012
Hg< 0.12< 0.075
Th< 0.020< 0.011
U< 0.0060< 0.0035

< Lower limit of determination, *Reference value.

その他の報告例として,純鉄標準物質3種類(JSS168-7,JSS172-7およびJSS003-4)の機器中性子放射化分析が行われた9)。42元素の定量を試みて,JSS168-7では7元素,JSS172-7では7元素,JSS003-4では3元素が定量できた。トランプ元素であるSbとAsは0.01~0.1 ppmに,ZnとSnは10~100 ppmの濃度範囲に定量下限値があった。

さらに,NIST(National Institute of Standards and Technology)の認証鉄鋼標準物質の機器中性子放射化分析も行われた10)。SRM1763およびSRM1765中の19元素の定量が試みられた。SRM1763では11元素が,SRM1765では9元素が定量できた。

定量を比較法でなく,絶対法に近いk04)で行っている例がある。比較法では定量対象元素の数の比較標準試料(コンパレータ)を必要とするが,k0法は単一あるいは数種の比較標準試料だけで多くの元素を定量できる特徴を有する。すなわち,中性子照射場の熱中性子と熱外中性子の割合や中性子スペクトルの1/E則からのずれ等の値やγ線測定に関する計数効率等の値を予め算出することと,対象とする元素由来に基づく同位体の核定数を利用することで,複数の元素を定量することができる。すなわち,照射場および測定場の数値を一定の値で算出することから,k0法はk0標準化法11)ともいわれている。それゆえ,k0法は,試料の調製から照射・測定までの操作が簡単になり,試料中のあらゆる元素の定量ができる可能性がある。ステンレス綱とニッケル合金中のNiを定量するのにk0法をベースとした単一内標準−機器中性子放射化分析(IM-INAA)12)により行われた13)。1.5%から79%のNi含有量が正確に定量できた。

製鉄過程における微量元素の移行についても機器中性子放射化分析で行われた14)。6元素について移行率が測定された。Cu,As,V,Wの4元素は移行率95~76%で銑鉄に移行し,逆にK,Naの2元素は98%がスラグに移行した。

2・4 RNAAによる高純度鉄中の微量元素の定量

機器中性子放射化分析では定量が困難であった高純度鉄中のMo,Ni等の定量を放射化学中性子放射化分析で行った例3,15,16)がある。

Moの分析15)では認証値の示されている鉄鋼標準物質JSS170-7を定量し,分析方法の妥当性が検討された。立教炉の中央実験管(熱中性子束密度3.7×1012 n cm−2 s−1)で6時間照射した試料を塩酸で溶解した後,リンモリブデン酸アンモニウムを保持担体として加え,水酸化鉄沈殿をつくり,マトリックスである鉄との分離が行われた。その後,上澄み液にリンモリブデン酸アンモニウムを再び添加し,Moをこの沈殿に濃縮する。沈殿を再溶解し,陽イオン交換クロマトグラフィで不純物を除去して再びリンモリブデン酸アンモニウムの共沈を行い,γ線測定用試料とした。JSS170-7の定量値は111±2 ppmとなり,認証値の110±4 ppmとよい一致が得られた。定量下限値は0.04 ppmとなり低レベルまで定量できることになる。しかし,高純度鉄ではMoはppbオーダーの含有量となることから,さらに定量下限値を下げるために約30倍高い中性子束密度のJRR-3M(日本原子力開発機構:現在ではJRR-3と呼ばれている)のHR-1の照射孔(熱中性子束密度9.6×1013 n cm−2 s−1)で6時間照射が行われた。その結果,JSS001-3で8.4±0.3 ppb,JSS001-4で11.0±0.5 ppb,JSS003-4で670±12 ppbの定量値が得られた。Moの最も低い定量下限値は,JSS003-4の0.4 ppbであった。このことによりpptレベルのMo分析の可能性を示した。

NiおよびCoもMoと同様に鉄から除去しがたい元素である。Coは熱中性子により60Coが生成する。また,Niは熱中性子による(n, γ)反応より,高速中性子による(n, p)反応が多く起こり58Coが生成する。そこで58Coと60Coとを鉄から同時に分離し測定することでNiとCoを同時に定量することが行われた16)。分離は,照射した試料を塩酸により溶解し,陰イオン交換クロマトグラフィで不純物が除去された。その後,5M塩酸を流し,58Coと60Coを溶離させた。このとき,59Feは樹脂中に吸着している。溶離液にCoCl2を加え,アルカリ性にしてCo(OH)2の共沈を作成し,γ線測定用試料とした。γ線測定の結果,JSS001-4では,Niで93±9 ppb, Coで241±1 ppbの定量値が得られた。JSS003-4では,Niで33.6±0.3 ppm,Coで26.4±0.2 ppmの定量値が得られた。

2・5 古代鉄のINAA

福井県敦賀市にある,弥生時代から古墳時代前期の舞崎遺跡から出土した板状鉄製品の機器中性子放射化分析を行った例がある17)

試料約50 mgは日本原子力開発機構のJRR-4で中性子照射が行われた。短時間照射は熱中性子束密度9.1×1011 n cm−2 s−1の気送管で1分間行われ,半減期が数分から数時間の核種に注目して7分間γ線測定が行われた。長時間照射は熱中性子束密度1.5×1012 n cm−2 s−1のTパイプで6時間行われた。2日間冷却後,半減期が数10時間から数日の核種に注目して1時間測定が行われた。さらに同一試料を7日間冷却後,再び半減期が数10日以上の核種に注目して2時間測定が行われた。得られたγ線スペクトルはγ線スペクトル解析プログラム(GAMA08)18)を使用してピーク面積等が解析された。

板状鉄製品2試料に対して微量元素を含めた37元素の定量が行われた。2試料のFe濃度は69%と100%であり,錆部と鉄金属部より試料を採取していた。埋蔵中の環境からの影響による錆化の指標となるCl濃度は錆部で8500 ppm,金属部で100 ppmであった。親鉄元素であるAs濃度はそれぞれ2.7 ppm,11 ppmであり,Sb濃度はそれぞれ81 ppm,290 ppmであった。

鉄鉱石または砂鉄を製鉄時の始発元素とすると,鉄製品中に始発元素中の種々の含有元素は分配される。AsとSbの元素濃度比(As/Sb)による始発元素の産地推定を行うと,この舞崎遺跡の鉄製品2試料の濃度比は0.033と0.037と低い値になっている。両試料の値が類似していることから同一の始発原料を使用していることが推察される。日本国内の砂鉄あるいは鉄鉱石を始発元素として使用したものの場合,As/Sb値は1.0以上を示されるが,朝鮮半島産の鉄鉱石にはAs/Sb値が1.0以下を示す特徴的なものがあることから,舞崎遺跡出土の鉄製試料は朝鮮半島産の鉄鉱石を原料とした鉄より作製されたものであることが示唆されると報告されている。

また,鳥取県船通山産の鏡鉄鉱を原料としているたたら製鉄で生産された鉄塊・鉄滓の機器中性子放射化分析が行われている19)。親鉄元素であるCo,As,Sbの濃度が原料である鏡鉄鉱より鉄塊では高濃度になっており,鉄の精錬過程で鉄に濃集されていることがわかる。逆に親石元素であるNa,Mg,Al,K,Ca,Sc,Ti,V,Mnの濃度は鉄塊では低下しており,スラグ側に移行したものと見られる。

2・6 多重γ線放射化分析による鉄鋼試料の分析

放射化分析におけるγ線測定について,高感度化を図るための測定法が開発されている。放射化された原子は壊変時に複数エネルギーのγ線を同時に放出することが多い。これらのγ線を複数の検出器を備えた測定装置を用いて同時計数を取り,バックグランウンドを軽減させる多重γ線検出法がある。この検出法と中性子放射化分析とを組み合わせた多重γ線放射化分析法20,21)の鉄鋼試料への応用が行われている22)

日本鉄鋼標準物質JSS001-5,JSS168-7,JSS169-7の3試料をJRR-3Mの気送管(PN-1:熱中性子束密度5.2×1013 n cm−2 s−1)で10分間照射し,8時間冷却後,Asを定量するために76Asのγ線が12時間測定された。76Asは半減期が26.3時間でβ壊変し559 keVと657 keVの2本のγ線を放出する。多重γ線分析装置(GEMINI-II)による同時測定では,これらのピーク付近では,コンプトンバックグラウンドがほとんど形成されず高感度な測定が行われた。同様にSbを定量するために,数種類の鉄鋼標準物質の試料をJRR-3MのHR-1(熱中性子束密度9.6×1013 n cm−2 s−1)で5時間照射し,21日間冷却後,124Sb(半減期:60.2日)の2本のγ線(602 keVと1691 keV)に着目し24時間のγ線測定を行った。定量結果はAs,Sbとも広い濃度範囲で認証値および文献値とよく一致した。トランプ元素であるAs,Sbの高精度な定量法であることが確認された。

さらに,応用として,たたら製鉄関連試料中に含まれるAsとSbの定量が行われた23)。JRR-3Mの水力照射設備(HR-1,HR-2:熱中性子束密度8.7×1013~9.6×1013 n cm−2 s−1)での数時間から10数時間の照射と多重γ線分析装置により,たたら製鉄試料である鉄塊,鉄滓,砂鉄中のAsとSbが数10 ppmから0.01 ppmオーダーで定量できた。定量下限値は通常の機器中性子放射化分析と比較した場合,Asで最大4倍改善され,Sbで最大28倍改善された。このように文化財資料など少量でかつ貴重な資料の分析には本法の利用は有用であると考えられる。

3. 荷電粒子放射化分析

3・1 序

放射化源に粒子加速器からの荷電粒子を直接試料に照射し,核反応によって生成する放射能を測定する分析方法が,荷電粒子放射化分析(Charged Particle Activation Analysis:CPAA)3)である。また,粒子加速器からの荷電粒子を一度標的金属に照射し,そこから新たに放出する二次的な放射線を試料に照射し,放射化分析する方法もある。制動放射線を用いた光量子放射化分析(Photon Activation Analysis:PAA)4)や14 MeV高速中性子を用いた速中性子放射化分析(Fast Neutron Activation Analysis:FNAA)24)などである。

これらの放射化分析は粒子加速器が必要で実施可能な分析施設が限られる。このため鉄鋼分野への利用は限定的であるが,FNAAは装置が比較的小型であり自動分析装置(東芝製NAT200型ACTIVAC)が市販されていたこともあって1960年代頃1970年代にかけて鉄鋼分野への利用,特に鉄鋼中の酸素分析25,26)に利用されていたが,最近では利用されていない。

また,CPAAはその特徴から鉄鋼分野でも基準分析に用いられることが多い。以下では,CPAAに関してその特徴や分析手法,鉄鋼分野への利用事例について述べていく。

3・2 CPAAの特徴

CPAAは粒子加速器により加速された高エネルギーの荷電粒子を試料に照射し,核反応によって生成する放射性核種の種類と生成量を測定することで,試料に含まれていた元素の種類と濃度を求める分析法である。その特徴は,①軽元素の分析を非常に高感度に検出定量することができる,②定量目的元素の結合状態などに影響を受けない,③表面汚染は放射化後にエッチングして除去できるので,コンタミネーションの影響を考慮しなくても良い,④バルク試料中の平均濃度を求めることが出来る,⑤軽元素の定量に用いる放射性核種の半減期が短い場合が多く,定量できる濃度範囲が極めて広い(0.1 ppb~%),⑥目的元素を一定量含む化学量論的に確かな物質を標準物質として用いることができる,などの特徴から真度の高い分析法とされている。特にNAAの不得手とする軽元素分析に威力を発揮するためNAAと相補的関係にある分析方法といえる。

主な利用分野は,鉄鋼や半導体をはじめとする各種高純度材料であり,これらの材料は極微量の軽元素が品質に重大な影響を与えることがよく知られておりCPAAはそれら軽元素を高感度に精度良く分析できるため材料開発および評価に利用されている。

3・3 装置および分析方法

3・3・1 粒子加速器と照射設備

荷電粒子と原子核が核反応を起こすために,荷電粒子のエネルギーは一定値(核反応のしきい値)以上でなければならないが,軽元素の核反応は一般に数MeV~10数MeVが起こりやすいため,あまり高すぎるエネルギーは必要ない。そこで,CPAAでは小型サイクロトロンを用いることが適しており,住重試験検査株式会社ではCYPRIS 370あるいはCYPRIS 370Vサイクロトロン(住友重機械製)を利用して多くの試料を分析している。CYPRIS 370Vでの荷電粒子の特質をTable 2に示す。加速された荷電粒子は,ビーム輸送系に引き出された後に電磁石によって収束・整形され照射設備へと導かれ試料へ照射される。このとき照射電流値は1~数10 μA程度で,照射時には最大で100 Wの発熱が起こるため,試料表面はHeガスおよび水により冷却される。

Table 2. Specification of the CYPRIS 370 V cyclotron.
Acceraleted ParticleEnergy (MeV)Max. Beam Current (μA)Beam Size (mm)
Proton (p)1850φ8-12
820
410
25
Dutron (d)940
3He2+ (3He)2410
4He2+ (α)175

3・3・2 核反応

CPAAでは目的元素に適した荷電粒子が選択され,主に陽子(p),重陽子(d),3He,4He(α)の各粒子が用いられる。Table 3は軽元素分析のために用いる主な核反応であり,生成する放射性核種は,11C(T1/2:20.39分),13N(T1/2:9.96分),18F(T1/2:109.8分)である。実際に使用する核反応は,分析対象元素,試料の組成やその状態などから決定される。

Table 3. Nuclear reactions for CPAA.
Element for determinationTergetnuclideAccerareted Particle
Proton (p)Dutron (d)Helium-3 (3He)
B10B(d, n)11C*(3He, pn)11C
B11B(p, n)11C*
C12C(d, n)13N*(3He, pn)13N
N14N(p, α)11C*(d, n)15C(3He, αpn)11N
O16O(p, α)13N(3He, p)18F*

*: Major nuclear reaction used for CPAA

3・3・3 定量方法

CPAAの定量手順3)は大きく分けると,1)分析試料の放射化,2)エッチングによる表面汚染の除去,3)分析に用いる放射性核種の化学分離,4)放射線計測,5)解析と5段階の工程からなる。各工程の概略を次に説明する。

1)分析試料の放射化

分析試料は板状が望ましく,その大きさは(□20×t 0.3~3)mm程度に制限を受ける。また,放射化装置に固定可能で,耐熱性が要求される。さらに,照射面は,照射後のエッチングの精度を確保するため出来る限り平らで,清浄な状態が必要となる。照射条件(加速粒子,入射エネルギー,照射時間,照射電流値)によっては,分析試料が溶融することもあるので冷却しながら照射が行われる。照射時間は最大でも生成する放射性核種の半減期の2倍程度に抑えられる。

2)エッチングによる表面汚染の除去

放射化した後,試料の照射面をエッチングする。これは,試料表面の酸化膜等による表面汚染起因の放射能を除去することと,試料の放射化とともに放射化され核反応の反跳エネルギーで試料内部に入り込んだ放射性核種を除去するためで,数10 μm程度の厚みをエッチングする。

3)分析に用いる放射性核種の化学分離

一般にエッチング後の分析試料には分析目的の放射性核種よりはマトリックスから生成した放射性核種が多く,非破壊で放射線計測ができないことが多い。そのため,放射化学的分離法を用いて目的核種を分離抽出する。化学分離法には,湿式分離法と乾式分離法の2通りがあり,分離する元素によって選択される。このとき目的元素の化学回収率を補正する必要がある。しかし,放射化学的分離法の一つである不足当量分離法27)を用いるとその補正を行わないで定量することもできる。また,分析試料の組成や分析元素によっては,化学分離を行わず,エッチング後の試料を非破壊で放射線計測が可能な場合もある。

4)放射線計測

軽元素分析を対象とする放射性核種の壊変形式は,ほとんどがβ+壊変であるので,同時に180度方向に2本の放出する消滅γ線(511 keV)を2台のBGOまたはNaI(Tl)検出器を1組とした同時計数法により放射線計測する。

5)解析

目的元素の濃度は,分析試料の生成放射能と比較標準試料の生成放射能の比から算出される。しかし,分析試料と比較標準試料のマトリックスが異なる場合には,マトリックスあるいは主成分の荷電粒子の飛程を求めてその補正を行わなければならない。励起関数と阻止能が明らかな場合,数値積分法で補正する事が可能だが,実際には近似式を用いたAverage Cross Section 法28)やAverage Stopping 法29)などを利用して補正を行う。当然のことながら,エッチング厚みを求めて,解析時には入射エネルギーの補正を行わなければならない。

3・4 鉄鋼への利用

CPAAの鉄鋼への利用3)は,あまり多く行われてこない。少ない例であるが,鉄鋼試料中の軽元素分析にCPAAが基準分析として用いられている30)。特に,酸素分析3)では,材料表面で高濃度となっている酸素すなわち表面汚染の酸素を放射化後に表面部分をエッチングによって除去し,含有酸素を測定することができるので分析方法としての威力を発揮している。

3・4・1 CPAAによる鉄鋼標準物質の微量酸素分析

日本分析化学会の微量酸素分析用鉄鋼認証標準物JSAC 0111の認証値付与31,32)のために,CPAAが基準分析として用いられた。標準サイズに加工された試料は,照射面および裏面を鏡面研磨をし,照射直前に化学研磨液(H2O2-HF-H2O)を用いて化学エッチングし,洗浄された。

照射は,CYPRIS 370サイクロトロンで,照射粒子:3He,照射エネルギー:11.4 MeVを利用して,鉄鋼試料を照射するときには電流値:0.8 μA−30分間,比較標準試料(高純度SiO2)を照射するときには電流値:0.5 μA−1分間の条件で照射を行った。このとき,分析目的元素の酸素は,16O(3He,p)18Fの核反応が起きる。照射中,試料表面に高濃度存在する酸素からの18Fが反跳で試料内部に侵入してしまうため,化学研磨液で通常のエッチング厚10 μm以上の20 μm厚みまでエッチングし,汚染の18Fを除去している。

分析目的核種の18Fの分離・抽出は,フッ素担体(キャリアー)のKFを加え,さらにKClおよびB2O3を添加し,KB18F4の沈殿物として回収した。洗浄・乾燥後,沈殿物の質量を量り,担体の添加量から化学回収率の補正を行った。また,KB18F4による回収率の妥当性を評価するため,La18F3の沈澱による回収率の評価も行われた。

放射線計測は,バックグランドの影響が少ない511 keVのピークの計数値を同時計数法により減衰を追いながら繰り返し測定を行った。標準試料での18Fの計測は,18Fの半減期の10~12半減期程度減衰させてから同様な測定を行った。このようにして定量した結果をTable 4に示す。平均値を認証値とし,各工程における不確かさの評価を行った結果,標準物質の認証値は,2.3 μg/g,拡張不確かさは,±0.4 μg/g(包含係数,k=2)と定められた。

Table 4. Determination of oxgen in high pure ion by CPAA with two type chemical form31).
Chemical FormChemical Yield (%)Oxygen Concentration (μg/g)
KB18F4532.2
262.3
252.1
332.1
La18F3432.7
802.6
Average and standard deviation2.33 ± 0.26 (n=6)

3・4・2 CPAAによる高純度鉄中の酸素,窒素,炭素およびホウ素の定量

高純度電解鉄およびこれをさらに高真空高周波誘導加熱によりガス成分を低減化した超高純度鉄中に含まれる酸素(O),窒素(N),炭素(C)およびホウ素(B)の定量がなされた30)。使用する核反応は,11B(p, n)11C,12C(d, n)13N,14N(p, α)11Cおよび16O(3He, p)18F反応が用いられた。NとCは機器CPAAにおいて,OとBは放射化学CPAAにより定量された。機器CPAAでは,マトリックスである鉄からの誘導放射能の強度を最小にするため,N定量の場合は陽子線(p;5.5MeV)で,C定量の場合は重陽子線(d;3.5MeV)での照射を10分間以内で行うとそれぞれ定量下限は0.5および0.7 ppmとなった。OとBはマトリックス鉄からの誘導放射能の影響で機器CPAAでは0.1 ppmレベルの定量は困難であった。このためOおよびBは放射化学CPAAにより分析が行われた。O定量における化学分離は,照射後のエッチングした試料にFの担体としてNaFを加え,HF-H2O2-H2O溶液に溶解し,SiO2およびHClO4を加えてH2SiF6として水蒸気蒸留し沈殿分離し,γ線測定をした33)。B定量における化学分離は,照射後のエッチングした試料にCの担体として黒鉛を加えて,HF-H2O2-H2O溶液に溶解した。この溶液に硫酸酸性K2Cr2O7を加え,Arをキャリアーガスとして発生した気体を加熱したCuOカラムに通し,CO2としてNaOH水溶液に捕集した34)。これに不足当量のBa2+を加えてBaCO3として沈殿分離し,γ線測定をした。これらの化学分離によって0.1 ppmレベルの定量が可能となった。

4. 即発γ線分析と中性子深さ方向分析

4・1 序

試料の中性子照射によって生成する放射性核種の壊変放射線を測定する中性子放射化分析(NAA)は,高感度・非破壊・多元素同時分析法として知られるが,中性子核反応の際,即発に放出されるγ線または荷電粒子を測定することによっても,元素や同位体を分析することが出来る。この即発放射線を利用する分析法は,中性子即発γ線分析(Neutron-Induced Prompt Gamma-ray Analysis:PGA)と中性子深さ方向分析(Neutron Depth Profiling:NDP)とよばれ,一般にその分析が困難な軽元素に有効な非破壊分析法として,原子炉の低エネルギー中性子のみを外部に取り出す中性子ガイド管の開発と共に発展してきた。これまで,これらの分析法の鉄鋼分野3)への応用は少ないが,PGAは他の方法で困難なH,B,N等の非破壊定量法として,そしてNDPはB,Li,Nの表面数ミクロンの非破壊深さ方向分析法として鉄鋼への応用も期待される。これまで,PGA35,36,37)とNDP38,39,40,41,42)に関する総説や単行本が多数発表されているので,両分析法の詳細はそれらを参考にされたい。また,両分析法には純度の高い低エネルギー中性子ビームが有効であるが,我国には茨城県東海村の日本原子力研究開発機構(JAEA)に世界でも有数の良質中性子ビームが得られるJRR-3がある。さらに,同機構にはパルス中性子ビームが得られる実験施設J-PARCもあり,パルス特性を利用したPGAとNDPの鉄鋼分野への新たな展開が期待される。

4・2 PGAとNDPの原理および特徴

4・2・1 核反応

PGAとNDPには,中性子による(n, γ),(n, α),(n, p)反応が使われる。両方の分析法に共通で最も高感度な10Bの(n, α)反応を用い,両分析法の原理を説明する。天然に19.9%含まれる10B原子核に低エネルギー中性子を照射すると,次のように反応する。   

10B+nα(4He:1472keV)+7Li(840keV)+γ(478keV)(2)
  
10B+nα(4He:1776keV)+7Li(1013keV)(3)

10Bの(n, α)反応では,94%がγ線放出を伴う(2)式の反応が,そして残りの6%はγ線放出を伴わない(3)式の反応が起こる。(2)と(3)式の合計反応断面積は,3837 barnと他の原子核に比べて非常に大きい。

4・2・2 PGAの原理および特徴

PGAは,(2)式のγ線(478 keV)を測定する方法である。このγ線はα粒子の反跳運動をする6Li粒子から1.05×10−13秒の寿命で放出されるため,ドップラー効果によって他のγ線よりもピーク幅が8~10倍以上も大きなピークで観察される。B以外の元素では,中性子捕獲(n, γ)反応が起こり易く,分析には捕獲γ線が測定され,そのエネルギーは最高11 MeVにも及ぶ。PGAによる元素の分析感度と検出限界のプロット43,44)Fig.1に示す。図はJRR-3の冷中性子ビームで測定されたもので,マトリックスが無い状態における73元素の即発γ線の最大分析感度と最小検出限界値のプロットを示す。図より,PGAは中性子の吸収断面積が大きなB,Cd,Sm,Gdに最も高感度で,その検出限界は2.5~11 ngレベルと低く,さらに,多元素を非破壊・同時分析できることがわかる。特に,PGAは他の方法では困難なH,B,N,S,Si等の軽元素,CdおよびHg等の有害元素の非破壊分析に向いている。また,Bのγ線(478 keV)のピーク幅はBの化学形によって異なるため,Bの状態分析も可能である45)

Fig. 1.

 The highest analytical sensitivity and the lowest detection limit of elements by PGA with the cold neutron beam of JRR-344).

4・2・3 NDPの原理および特徴

NDPは,それぞれ反対方向に放出される(2)と(3)式のαと7Li粒子を荷電粒子検出器で測定し,そのエネルギー損失量から深さ方向の濃度分布を分析する方法である。αと7Li粒子は,マトリックス原子の電子と相互作用をしてエネルギーを失って行くが,失うエネルギー量はそれらの粒子が通過する物質の種類と距離に依存する。検出器で測定される粒子エネルギーと,その放出源の深さxの関係は次式で表される。   

x=E(x)E0dE/S(E)(4)

ここで,E0は粒子の初期エネルギー,E(x)はある物質中の深さxから放出されて検出される粒子エネルギー,そしてS(E)は粒子に対する物質の阻止能である。通常,10BのNDPではα粒子(1472 keV)が用いられ,表面から約4 μmの深さまでの濃度分布を測定することが出来る。NDPは,競合する2次イオン質量分析(SIMS)に比べ,深さ分解能が劣るが,正確さが優れている。また,原理が類似なラザフォード後方散乱(RBS)とは良い相補関係にあり,NDPはRBSで分析が難しい軽元素に有効である。NDPが適用可能な元素の同位体とその核データ41)Table 5に示す。この中で10Bと6Liが最も適用例が多く,次いで3He,14N,17Oの適用例も報告されている。荷電粒子を放出する(n,α)および(n, p)反応の断面積が大きな同位体は限られており,使用する放射線検出器は粒子以外の放射線に対して感度が低いため,共存元素の妨害が殆んどない。また,核反応で生成する粒子エネルギーはkeVオーダーと高いため,共存元素の化学的影響もない。さらに,標準試料との比較によって元素を簡単に定量することが出来る。このような理由により,NDPは同種の他の分析法よりも正確さが優れている。

Table 5. List of NDP applicable elements41).
ElementReactionAbundance (%)Particle energy (keV)Cross-section (barn)DL** (atoms/cm2)
He3He(n, p)3H0.0001457219153331.5×1012
Li6Li(n, α)3H7.5205527279409.0×1012
B10B(n, α)7Li19.9147284038372.1×1012
N14N(n, p)14C99.6584421.834.5×1015
O17O(n, α)14C0.03814134040.243.5×1016
S33S(n, α)30Si0.7530814110.196.0×1016
Cl35Cl(n, p)35S75.8598170.491.7×1016
K*40K(n, p)40Ar0.0122231564.41.9×1015
Be*7Be(n, p)7Li1438207480001.7×1011
Na*22Na(n, p)22Ne2247103310002.3×1011
Ni*59Ni(n, α)56Fe475734012.37.0×1014

* Radioactive nuclide ** Detection limit based on 0.1 counts per second, 0.1% detector solid angle and a neutron intensity of 6×109 s–1.

4・3 装置および分析方法

4・3・1 中性子ビーム

PGAとNDPの中性子源には,研究用原子炉の水平実験孔からの熱中性子ビーム,あるいは冷中性子等のガイドビームが用いられる。Ni鏡管またはNi-Ti多層膜のスーパーミラー等の中性子ガイド管によって低エネルギー中性子だけを原子炉外に導いたガイドビームは,PGAとNDPに有害な高エネルギー中性子やγ線を含まないため,これら2つの分析法の中性子源に最も適している。JAEAにはPGAとNDPのためにJRR-3中性子ガイドビーム施設46)がある。同様の施設は,我が国では京都大学原子炉実験所に,海外では米国NIST,ハンガリー同位体研究所,韓国原子力研究所,ドイツ,オーストラリア等にもあり,PGAとNDPに利用されている。

4・3・2 PGAの装置および分析方法

JRR-3のPGA装置44,47)の概略を説明する。原子炉からの低エネルギー中性子ビームを,He雰囲気中で試料に照射しながら,発生する即発γ線をγ線検出器によって測定する。同装置はPGAで最も重要なγ線バックグラウンドを低くするため,試料周りの遮へい材料および構造材料には即発γ線発生量が少ないLiFタイルとフッ素樹脂を使用し,試料の照射雰囲気には中性子の散乱断面積が小さく,即発γ線発生量の少ないHeが使用されている。さらに,コンプトンバックグラウンドを低下させ,高エネルギーの中性子捕獲γ線を効率良く測定するため,Ge-BGO検出器を用いた多モード型γ線スペクトロメータが用いられている。

試料に中性子ビームを照射しながら即発γ線スペクトルを数分~数日間測定する。試料中の元素含量は,比較法48,49)またはk050,51)によって定量される。比較法は,試料と比較標準試料中の定量元素のγ線計数値を比較することによって元素を定量するもので,試料と標準試料間の中性子束密度の違いはTi箔のフラックスモニターによって補正される。他方,k0法は内標準法で,冷中性子や熱中性子などの低エネルギー領域では大部分の元素が1/v則に従って核反応するので,元素間の原子核が中性子と反応して即発γ線を放出する割合は一定であることを利用している。k0法ではコンパレータ元素に対する元素の即発γ線放射量の比をk0係数と定義し,種々のエネルギースペクトル特性の中性子ビームによってClをコンパレータとするk0係数が測定され,評価された信頼性の高いk0係数が得られている52,53)。Cd,Sm,Gdは,低エネルギー中性子領域に大きな共鳴吸収断面積を持ち,1/v則に従わない元素として知られている。しかし,これらの非1/v則元素も,使用する中性子ビームのエネルギースペクトルからその影響を補正することが出来る54,55)。試料中の元素間の相対濃度は,元素由来のγ線ピーク計数値とその計数効率,そしてk0係数から定量される。PGAによる元素定量で問題となる,γ線のスペクトル干渉と試料による中性子の吸収と散乱の影響についても詳しく検討されている48,49)。現在,PGA研究は米国NIST,ハンガリー同位体研究所,韓国原子力研究所等で行われている。

4・3・3 NDPの装置および分析方法

NDPでは,放射される荷電粒子が空気によって吸収されるのを防ぐため,試料は真空チェンバー内で照射・測定される。JRR-3に設置したNDP用の真空チェンバー(20×20×30 cm)56)の概略をFig.2に示す。中性子はビームに対して45°に設置された試料に照射され,発生する荷電粒子は試料面に対して90°に取り付けられたシリコン表面障壁型検出器(SSBD)によって測定される。本真空チェンバーは,中性子による放射化量が少ない10 mm厚のAl製で,中性子ビームの窓材には中性子の吸収が少ない0.2 mm厚Zr箔が使用され,真空度が0.13~1.3 Pa(10−2~10−3 Torr)に保たれる。

Fig. 2.

 Layout of the sample chamber for NDP at the JRR-356).

粒子スペクトロメ―タは,241Amのα線源,または10Bを薄く蒸着した試料に中性子照射して得られる粒子線を使用してエネルギー校正される。NDP測定は,通常30~60分間程度であるが,低濃度の試料や実験目的によっては数日間の場合もある。試料中の元素の深さ方向分布は,測定された粒子ピークのエネルギー値を(4)式によって深さ値に変換して求める。しかし,測定された粒子のエネルギースペクトルには,スペクトロメータ固有のエネルギー分解能の広がりが含まれるため,予め測定されたスペクトロメータのエネルギー分解能関数によってスペクトルをデコンボリューションして分解能が補正される57)。元素に対する荷電粒子の阻止能は文献58,59)により,化合物や混合物の阻止能はBraggの法則に従って計算60)し,利用する。しかし,荷電粒子の阻止能データは限られているため,実際はモンテ・カルロ計算プログラム61)によって求められる。

NDPの深さ分解能は,測定する荷電粒子の種類とエネルギー,そして試料と検出器の角度によって異なる。通常,10Bの分析にはα粒子(1472 keV)が使われるが,物質中の阻止能がそれより大きな7Li粒子(840 keV)を使用すると深さ分解能がさらに良くなる62)。また,シリコン単結晶に10Bをインプラントした標準物質(NIST SRM2137)63)も調製されており,測定したBの濃度分布曲線の正確さの確認に使用することができる。現在,NDPの研究は米国NISTで最も活発に行われており,その他米国Penn State大学,チェコ共和国核物理学研究所,オランダDelft工科大学等でも行われている。

4・4 応用

4・4・1 PGAの応用例

PGAの特長,①非破壊分析,②H,B,N等の軽元素分析,③多元素同時分析を利用し,種々の分野で応用されている。鉄鋼分野での分析例ではないが,ここでは,H,B等の軽元素分析と多元素分析の応用例を簡単に紹介する。

%レベルまたはそれ以下のHは,物質中の水分量として分析が必要になるが,さらにppm以下の微量Hは,金属材料の脆化や,半導体の電気的および光学的特性の影響物質として分析が必要になる。従来の原子炉の水平孔の中性子ビームでは,中性子の減速に多量の水素化合物が使われるため,Hのバックグラウンドが高い欠点があったが,低エネルギー中性子のガイドビームでは減速材が必要でなく,ppmレベルの分析が可能になった。このようなことから,ジェットエンジンのTi合金製コンプレッサー材料,半導体用GeおよびSi単結晶,水熱合成石英管中の微量Hの分析に応用された。

微量Bは生物学,地球および宇宙化学,そして材料学に重要な元素の一つであるが,分析化学的には蒸発や汚染の影響によって分析が困難な元素の一つである。Bは中性子吸収断面積が大きく,PGAで最も高感度なため,応用例が最も多い。このようなことから,微量Bが問題になる原子炉材料(黒鉛,Be,Al,FeおよびNi基合金等)の分析に応用されている。さらに非破壊分析性を利用し,試料の分解が困難か,あるいは分解をしたくない生物試料,隕石や岩石試料の分析にも利用されている。また,Bの化学形によってドップラー広がりを持つ478 keVピーク幅が異なることを利用し,Bの状態分析も研究されている45)

HとB以外には,S,N,Cl等の爆発物やたんぱく質等の分析への応用が期待されている。さらに,非破壊多元素同時分析性を利用し,鉄鋼などの合金試料や,考古学試料,隕石や岩石試料の分析等への応用が研究されている。PGAの応用の詳細は文献35,36,37)を参考されたい。

4・4・2 NDPの応用例

NDPは,p型シリコン半導体のドーパントとして重要なBに最も高感度であることから,装置の開発当初からBのインプラント研究や半導体材料開発に応用された。近年は,さらにマイクロ電子素子やエレクトロクロミック素子,そしてLiイオン電池などの最先端電子素子等に応用が拡大されている。エレクトロクロミック素子の分析では,電気化学的な色の変化をLiイオンのin-situ測定によって直接観察する,NDPの新たな展開が報告されている64)。また,3HeのNDPは,核融合炉材料のHeボイドの影響やα放射体廃棄物の処理研究にも応用されている。さらにNDPは,光通信材料や高分子膜等の分析にも応用されている。NDPの最近の応用の詳細は,総説42)を参照されたい。

最後に,本稿の第2節を鈴木章悟博士が,第3節を永野章氏が,第4節を米沢仲四郎博士および松江秀明博士が記したことを注記する。

文献
 
© 2014 The Iron and Steel Institute of Japan
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