鉄と鋼
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鋼の加工熱処理の変遷と今後の動向
牧 正志古原 忠辻 伸泰森戸 茂一宮本 吾郎柴田 曉伸
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2014 年 100 巻 9 号 p. 1062-1075

詳細
Synopsis:

After ausforming appeared as the first thermomechanical processing of steels in the first half of the 1960 s, various thermomechanical processings have been developed for the improvement of mechanical properties over the last fifty years. Their application was mainly to martensitic steels in the 1960 s such as ausforming and TRIP, and moved to ferrite (+ pearlite) structures by the development of controlled rolling and accelerated cooling of HSLA steels in the 1970~1980 s. However, recently, interest has returned to martensite (and also bainite) because of the demand for higher strength, and the ausforming and TRIP have been revived and successfully applied to commercial practice. Very recently, severe plastic deformation (SPD) is the focus of attention as a new method of producing a very fine-grained structure with grain size of less than 1 μm. By the application of SPD, dynamic phenomena such as dynamic recrystallization and dynamic ferrite transformation occur in the process. We need more systematic studies on such phenomena for the development of new type of thermomechanical processing in steels.

1. はじめに

加工と熱処理を組み合わせた加工熱処理は,鋼の強靭化に非常に有効な手段である。鋼の加工熱処理は約50年前に登場し,オースフォーミング,TRIP,制御圧延など数多くの加工熱処理が開発され,鉄鋼材料の発展に大きく貢献してきた。ここでは,鋼の加工熱処理が登場してから現在に至るまでの変遷と最近の動向を簡単にまとめるとともに,今後の加工熱処理に重要になると思われるいくつかの現象について,その現状と今後の課題を述べる。

2. 鋼の加工熱処理の変遷と代表的な加工熱処理

2・1 加工熱処理の変遷

加工と熱処理を併用して強靭な鋼を得ようとする処理法が1950年代後半ごろ欧米において研究され始めた。1963年にTamura1)はこの処理を加工熱処理と呼んで初めて日本に紹介した。その後わが国においても加工熱処理の研究が活発になり,常に鉄鋼材料研究の中心テーマとして位置づけられ今日に至っている。加工熱処理の歴史を振り返って見ると,いつの時代にもその時々に脚光を浴びた加工熱処理が存在し,鉄鋼材料研究・開発の活性化に大きな貢献をしてきた。

加工熱処理の歴史は1960年代初頭のオースフォーミング(ausforming)の登場によって開始した。その後現在に至るまでの約50年間の代表的な加工熱処理の移り変わりを示すとFig.12,3)のようになる。加工熱処理の目的が強靭化にあるため,歴史的に見てマルテンサイトを対象とした加工熱処理が多い。このような加工熱処理の変遷を,鋼の強度レベルの推移で示したのがFig.22,3)である。

Fig. 1.

 Change in the typical thermomechanical processing of steels over the past fifty years.

Fig. 2.

 Change in the strength level of steels by various thermomechanical processings.

1960年代から1970年代前半は,超強力鋼(引張強さ1.3 GPa程度以上)の開発を目的としたマルテンサイト研究の黄金期であり,オースフォーミング4,5)やTRIP(Transformation-Induced Plasticity)6,7)プロセスなどのマルテンサイトを対象にした加工熱処理が登場し,世界的に盛んに研究がなされた。しかし,後述するように,オースフォーミングやTRIPは鋼の強靭化に非常に有効であるにもかかわらず,その処理の困難さなどの種々の制約のために実用化には至らず,次の主役である制御圧延の登場とあいまって,次第に研究は少なくなり世の中の関心は薄れていった。

1970年代になると,寒冷地用のラインパイプ原板として高強度で低温靭性や溶接性にすぐれた非調質低合金高張力鋼(High-Strength Low-Alloy (HSLA) steel)の開発という大きな社会的ニーズを背景に,拡散変態組織であるフェライト(+パーライト)を対象とする加工熱処理への関心が高まり,低炭素鋼の制御圧延(controlled rolling)8)が登場した。その後,1980年代には制御圧延後の加速冷却(制御冷却)技術(accelerated cooling)9)が目覚しく進展し,制御圧延・加速冷却は汎用技術になるほどの大きな工業的成功を収め,多くの基礎的研究によって熱間加工の金属学および結晶粒微細化の原理に関する理解が深まった10)。制御圧延・加速冷却は,形状を変化させるためのプロセスである熱間圧延や熱間鍛造工程に熱処理の要素を取り入れ変態の種類や組織の制御をおこない,省プロセス,省エネルギーを図るとともに材質の改善を意図したものであり,これらに対してTMCP(thermomechanical control process)という呼び名が一般的に用いられている。

制御圧延・加速冷却は成熟した技術となり,これによりフェライト(+パーライト)組織を持つ低炭素非調質鋼の強度・靭性は大きく向上したが,さらなる高強度化の要請に対してはフェライト主体の組織では限界に達し,Figs.1,2に示したように,再び強度レベルの高い低温変態生成物(マルテンサイトやベイナイト)を利用するようになってきた。つまり,加速冷却技術の発展に伴い,熱間圧延後直ちに焼入れを行う直接焼入れ(direct quench)11)が実用化技術として確立された。このような状況下で,マルテンサイトほどは大きな焼入性を必要とせずにかなりの高強度が得られるベイナイトの有用性が再認識され,今までは脇役であったベイナイトが,加工熱処理の舞台に登場してきた3)。また,直接焼入技術の確立により,1960年代に脚光を浴びながら実用化されなかったオースフォーミングが再び関心を集め,高温オースフォーミング(改良オースフォーミング)と姿を変えて厚鋼板などの実用鋼に適用されるようになった。さらに,オースフォーミングと同様に一時期忘れ去られていたTRIPも,残留オーステナイトを多量に得る新しい方法(高Si鋼のオーステンパー処理)が見出されたことにより近年再び注目を浴び,これらを利用した低合金TRIP鋼が開発され実用化が進んでいる12)。さらに近年の新しい動向として,大歪み加工を利用した組織制御が大きな注目を浴び,平均粒径1 μm以下の超微細粒鋼創製などの研究が活発に行われている13)

2・2 オースフォーミング

オースフォーミングは焼入れ途中のオーステナイト域で加工を行い,加工硬化状態のオーステナイトからマルテンサイト変態させる処理である。オースフォーミングの特徴は,マルテンサイトの強度が大きく上昇するにもかかわらず靭性や延性がほとんど低下しないことにある5,8)。オースフォーミングによるマルテンサイトの強化機構にはいくつかの説があるが5),強化の主因は加工によって導入されたオーステナイト中の転位が,無拡散変態(マルテンサイト変態)を通じてマルテンサイトへ受け継がれ,マルテンサイトの転位密度が増加することによる。それゆえ,オーステナイトの加工温度が低いほど,そして加工度が大きいほど,生成するマルテンサイトの強度上昇は大きくなる。加工硬化オーステナイトからラスマルテンサイトが生成すると,平行に並んだラスの集団の中に方位の異なる(バリアントの異なる)ラスが入り乱れて生成する傾向が強くなり,その結果ブロックが非常に微細化される14)。オースフォーミングにより強度が上昇するにもかかわらず靭性が低下しないのは,このようなブロックの微細化によると考えられる。

オースフォーミングにより,Fig.36)に示すように2 GPa以上の高強度と良好な延性(靭性)をもつ超強力鋼を得ることができる。オースフォーミングが登場した1960年代当時は,このような超強力鋼の開発が主目的であったため,TTT線図のノーズ温度以下のベイ(bay)領域の低温(約450~500 °C)でオーステナイトを加工するのが常識であった。それゆえ,オースフォーム用鋼は大きな焼入性を必要として比較的高合金にならざるを得ないことや,オーステナイトの加工時の変形抵抗が非常に大きくなる,などの制約のために,1960年代にはほとんど実用化されなかった。

Fig. 3.

 Strength (0.2% proof stress) - ductility (total elongation) balance for various ultra-high strength steels.

しかし,近年は,制御圧延時の未再結晶オーステナイト域圧延の普及や熱間圧延(鍛造)後の直接焼入技術の確立などの技術的進歩を背景に,高温(約900 °C以下)での加工で未再結晶(加工硬化)オーステナイトを得たのち焼入れる高温(改良)オースフォーミング15)が注目を浴びている。この場合には低合金でもオースフォーミングが可能で,しかも変形抵抗がそれほど大きくないので実用化に好ましい。比較的高温で加工するため,超強力鋼のような大きな強度上昇は望めないが,延性,靭性,疲労破壊,水素割れ感受性などの改善に効果的であり16),厚鋼板や機械構造用鋼などを対象に実用化が進んでいる。また近年,高温オースフォーミングをベイナイト鋼に適用する研究も盛んになってきた。オースフォームドベイナイトは,従来ほとんど系統的な研究がなされていない新しい分野である。

2・3 マルテンサイト変態誘起塑性(TRIP)

準安定オーステナイトに外力をかけ(弾性・塑性)変形を起こさせるとマルテンサイト変態が生じる。このような加工誘起マルテンサイト変態が引張変形中にひずみとともに刻々起こると,加工硬化が大きくなってネッキングが抑制され,均一伸びが大きくなる。これをマルテンサイト変態誘起塑性(TRIP)という7)

この現象を利用したTRIP鋼(代表的組成:Fe-9%Cr-8%Ni-4%Mo-2%Si-2%Mn-0.3%C)が1960年代にZackayら6)によって開発された。この鋼は,オースフォームドマルテンサイト中に多量(20~30%程度)の残留オーステナイトを含み,その残留オーステナイトのTRIP現象によって延性や靭性を向上させたものである。ZackayらのTRIP鋼はFig.3の○印で示したように,従来にない優れた強度−延性バランスを有する超強力鋼であり,画期的な鋼として大きな脚光を浴びた。しかしこの鋼も,残留オーステナイトを得るために合金元素を多量に添加せねばならないことや,マルテンサイトの強化のためにオースフォームを併用しているため工程が複雑であるなどの理由で,優れた強靭化の原理を有しながら実用化には至らなかった。

しかし近年,低合金でも多量の残留オーステナイトを得る方法が開発され,再びTRIPが注目を浴びるようになった。つまり,Siを1~2%添加した鋼に対してTTT線図のノーズ温度以下で等温変態処理(オーステンパー)を施すと残留オーステナイトを多量(20~30%)に得ることができるという現象を利用し,低合金TRIP鋼が開発された。この鋼は,強度レベルは1 GPa程度であり,Zackayらの高合金TRIP鋼のような2 GPaに達する超強力鋼ではないが,強度−延性バランスの優れた加工用薄鋼板や機械構造用鋼として実用に供されている17)

2・4 制御圧延・加速冷却(TMCP)

制御圧延・加速冷却(TMCP)の骨子は,主として厚鋼板を対象に,鋼の成分,加熱温度,圧延条件,冷却条件を最適に制御し,圧延のままで微細な組織(低炭素鋼の場合にはフェライト組織)を得,高強度と高靭性を兼ね備えた非調質高張力鋼を得ることにある8,10)。通常の熱間圧延ではフェライト粒径は20 μm程度であるが,TMCPにより5 μm程度となり,低温靭性に優れた高張力鋼が圧延のまま(非調質)で得られる。

現行の制御圧延・加速冷却工程を金属学的観点から見ると,再結晶オーステナイト域圧延,未再結晶オーステナイト域圧延,(α+γ)二相域圧延,および加速冷却,の四つの段階に分けられ,各段階にフェライト粒微細化の原理が巧みに組み込まれている18)。この中で,約950 °C前後での未再結晶オーステナイト域圧延と加速冷却の二つが,フェライト粒微細化に最も効果的である。前者はフェライトの核生成サイトを増やす作用,後者はフェライトの核生成の駆動力を大きくする作用によって,フェライト核生成速度を大きくし,微細粒が形成される。熱間圧延時のオーステナイトの再結晶を抑制して未再結晶域圧延を可能にするために,微細な炭窒化物によるピン止め効果を利用している。それゆえ,通常,TMCP鋼にはNbやTiが微量添加されている。加速冷却では,フェライト粒の微細化に加えて,ベイナイトやマルテンサイトなどの低温変態生成物を一部生成させることによって,より高強度化を図る場合もある。

2・5 大ひずみ変形を利用した超微細粒組織の形成

現行のTMCPは熱間圧延のままで微細フェライト粒が得られる優れた技術であるが,それでも,フェライト粒の微細化は5 μm程度が限界である。1990年代後半から始まった鉄系スーパーメタルプロジェクト(NEDO)および超鉄鋼プロジェクト(物質・材料研究機構)では,現行のTMCPの極限を追求することにより単純組成(Fe-Mn-Si-C)の低炭素鋼で1 μmもしくはそれ以下の超微細フェライト粒創製に挑戦した。そして,両プロジェクトとも約10年間の活動により,実験室的規模ではあるが,種々の方法により1 μmを切る超微細フェライト粒を得ることに成功している19,20)

上述したように,現行のTMCPのポイントは,加工硬化オーステナイト(900~950 °Cでの圧延)からのフェライト変態と加速冷却にある。一方,極限を追求した新しいTMCPのキーテクノロジーは,低温大ひずみ加工にある。1パス50%以上の大圧下圧延を500~700 °Cという低温で施すものである。これは,変形抵抗が大きくなるために,現行のTMCPではほとんど手が着けられていなかった領域である。低温大ひずみ加工を行うことによって,動的フェライト変態,歪誘起極低温フェライト変態,フェライトの動的再結晶,加工発熱誘起逆変態,など現行のTMCPでは起っていない金属学的現象が顕在化し,その結果,粒径1 μmという超微細化が達成された20)。これらの知見は,今後,他の鋼種の超微細化を考える場合にも大いに参考になるものである。

超微細粒の形成に対する大ひずみ加工の作用は,大きく分けて二つある21)。一つは,前述したように,変態前の母相を加工し,核生成速度を大きくして変態生成物を微細化する作用である。現在のTMCPの極限を追及した研究は主にこの作用を利用したものである。もう一つは,変態後の変態生成物に大ひずみ加工を施し,組織を物理的に分断・細分化し微細粒化する作用である。最近はこちらの方が新しい超微細化法として関心を集め,研究が盛んに行われているが,これは,試料サイズの減少なしにバルク材に巨大ひずみ加工(ミーゼスの(対数)相当ひずみ(以下では単に相当ひずみとする)4~5以上)を与える様々な方法が考案されたことによる13,22)。繰返し重ね接合圧延(Accumulative Roll-Bonding:ARB)法,せん断変形を繰返して与えるECAP(Equal-Channel Angular Pressing)法,大きなねじり変形を与えるHigh Pressure Torsion(HPT)法,温間で負荷方向を変形毎に変えて圧縮変形を繰返すMulti Directional Forging(MDF)法,などであり,これらの方法により,相当ひずみ約4以上で粒径0.2~0.5 μm,相当ひずみ7~10以上の超強加工で粒径数10 nmに至る超微細粒が得られる22)。バルク材の大ひずみ加工は,超微細組織を得るための新しい組織形成手段として興味深い方法である。

以上のように,加工熱処理の分野における最近の大きな動きとして,大ひずみ加工の利用に対する関心が非常に高まっていることが挙げられる。大ひずみ加工を施すことによって,今まで我々が利用していなかった現象(例えば動的変態や動的再結晶など)が顕在化し,新しい組織制御の原理と方法が見出された。以下に,今後の加工熱処理の新たな展開の基礎となる新しいメタラジーのいくつかについて,最近の研究の現状と今後の課題,動向を簡単にまとめる。

3. 今後の加工熱処理の基礎となる新しいメタラジー

3・1 動的再結晶

再結晶は,相変態と並んで鉄鋼における最も基本的な組織微細化原理である。塑性加工後の焼鈍によって起こる静的再結晶の場合,加工度が大きいほど再結晶粒の核生成頻度が高くなり,微細化の度合いが大きい。低い再結晶焼鈍温度,固溶元素や第二相による粒成長の抑制も,結晶粒の微細化に寄与する。

高温変形中には転位の導入と同時に回復や再結晶による動的復旧が起こるが,変形中に起こる動的再結晶では,得られる粒径は温度と歪み速度という加工条件によって制御が可能である。Fig.4(a)21)は,典型的な動的再結晶が起こるオーステナイトを例に,異なる熱間加工条件での変形応力−ひずみ曲線を模式的に示したものである。変形初期には加工硬化が起こるが,ある臨界ひずみ(εC)を境に応力はピークを示し,その後軟化が起こる。さらに変形が進むと,それ以上軟化が起こらなくなり,ひずみεS以上で定常応力状態に達する。軟化は臨界ひずみεC付近で開始する変形中の再結晶(すなわち動的再結晶)によって起こり,第一サイクル目の動的再結晶の完了によって定常状態を迎える。生じた再結晶粒は引き続き変形を受けるため動的再結晶は繰り返し起こり,その後の変形中には加工硬化と回復・再結晶による軟化が釣り合って定常状態が維持される。応力が定常状態に達すると回復・再結晶組織も定常状態になっている。定常状態における変形応力や結晶粒径は,ひずみ速度と温度の関数であるZener-Hollomon(Z)因子:   

Z=ε˙exp(Q/RT)

( ε ˙ :ひずみ速度,Q:活性化エネルギー,T:変形温度(絶対温度),R:気体定数)

に依存して決まる。Fig.4(b)に,再結晶粒径(すなわち大角粒界で囲まれた結晶粒サイズ)dDRXとZ因子の関係を両対数プロットで示す。再結晶粒径はZ因子に対してdDRX=AZnの関係にあり,Z因子の増大に伴い微細になることがわかる。再結晶粒の内部に含まれるサブグレインの粒径もZ因子に対して同様の依存性を持つが,このような両対数プロットをしたときの傾きは小さい。Fig.4(b)から,高Z条件すなわち低温または高ひずみ速度の変形ほど,得られる結晶粒径は微細になることが示唆される。90年代半ばから始まった超鉄鋼/スーパーメタルといった大型国家プロジェクトでは,高Z変形時の動的再結晶を利用した超微細粒組織の創製が追求された。Fig.5(a)に,Salvatoriら23)がオーステナイト系ステンレス鋼を平面ひずみ条件での圧縮変形を行った際に得られた再結晶粒径のZ因子依存性を示す。従来の熱間変形条件下での動的再結晶(黒丸)では10 μm以下の結晶粒径は得られないが,温間での高Z変形下で動的再結晶を起こさせると(白丸)粒径2~3 μmの微細粒組織が得られている。一方,フェライト鋼の熱間変形時には,主に動的回復が起こることで変形応力はピークを示さずに定常状態に達すると従来考えられてきたが,Tsujiら24)はフェライト鋼を比較的低Z条件で高温圧縮変形した場合に動的再結晶が起こること,得られる動的再結晶粒径およびサブグレイン粒径がZ因子の増加に伴い微細になることを明確に示した。近年の国家プロジェクト研究では,低炭素フェライト鋼に500~700 °Cという低温での大ひずみ加工を施すことで,動的再結晶を起こさせて粒径1 μm以下の微細フェライト粒組織が得られることが明らかとなり25),現在では高Z・大ひずみ変形での動的再結晶の利用は,結晶粒超微細化における重要な指導原理の一つであると言える。

Fig. 4.

 Schematic illustrations showing (a) typical stress-strain curves for dynamic recrystallization, (b) the relationship between dynamically recrystallized grain size (dDRX) and the Zener-Hollomon parameter (Z) and (c) the relationship between critical strains for dynamic recrystallization and Z.

Fig. 5.

 (a) Size of dynamically recrystallized austenite grains in SUS304 deformed at various Z conditions23), (b) critical stain necessary for initiation and completion of dynamic recrystallization of ferrite24). Filled circles, filled triangles and open squares represent fully recrystallized, partly recrystallized, and recovered structures defined, respectively, based upon electron backscatter diffraction analyses.

しかしながら,Fig.4(a)および(c)を見ると,高Z変形では動的再結晶の開始および完了の臨界ひずみ(それぞれεC,εS)が大きく,ピーク応力および定常状態での変形応力も高くなっていることがわかる。Salvatoriら23)のオーステナイト鋼の結晶粒微細化の条件は,相当ひずみで3(圧延圧下率にして約93%)という超強加工(一般に相当ひずみ4以上)にも近い条件で達成されている。Murtyら26)は,同様の一軸圧縮変形によって低炭素フェライトの動的再結晶が発現する臨界ひずみにおよぼす変形条件の影響を広い範囲で調べた。Fig.5(b)に彼らの結果を示すが,動的再結晶の開始および完了する臨界ひずみが変形条件の高Z化にともない大幅に増大しており,フェライト粒径1 μm以下を達成するのに必要なZ=1013 s−1以 上の場合には相当ひずみで3~4に達する。変形条件を決めれば結晶粒径を制御することができる動的再結晶現象を結晶粒微細化に応用することは大変魅力的であるが,超微細粒組織を全面で得るにはより強ひずみの加工が必要となり,実用上は大きな障害となる。したがって,動的再結晶の臨界ひずみを何らかの手段で低減させることは,高Z変形による超微細粒化を利用する上で極めて重要である。

近年,著者らのグループは,フェライトを基地組織とする種々の微細二相組織の高温変形時の組織変化について研究を行ってきた。その中で,炭素鋼の初期組織を種々変化させた場合の動的再結晶挙動を調べた結果,初期組織をラスマルテンサイトとすることで,超微細粒フェライト組織を得るための臨界ひずみを低減することに成功している27)Fig.627)は,高炭素鋼のフェライト+球状化セメンタイト組織と焼もどしラスマルテンサイト組織をそれぞれ650 °Cで温間圧縮変形した時のフェライト相の方位マップと,対応するTEM組織である。(a)および(c)のフェライト+球状化セメンタイト組織では75%の圧下率での圧縮(相当ひずみ1.4)によりフェライト粒が圧縮面に沿って扁平化し,その内部にはサブグレイン組織が形成されている。一方,(b)および(d)の焼戻しマルテンサイト組織では,圧下率が50%(相当ひずみ0.7)と少ないにも関わらず,ほぼ全面で大角粒界に囲まれた等軸微細粒組織が得られる。同様の知見は,以前にTsujiら28)によって低炭素鋼マルテンサイトの温間加工の研究において得られている。Baoら29)も,炭素フリーおよび低炭素マルテンサイト鋼に比較的加工度が低い高Z圧縮変形(相当ひずみ量0.7)を行うことで,動的再結晶によるサブミクロンサイズの超微細フェライト粒の生成を確認している。

Fig. 6.

 α orientation maps of (a) the α+spheroidized θ duplex structure (Fe-1.0mass%C-1.4mass%Cr) compressed by 70% and (b) the tempered martensite structure (Fe-0.8mass%C-2mass%Mn) compressed by 50% at 923 K and an initial strain rate of 5×10–4 s–1. Thick and thin lines represent high-angle boundaries misoriented by more than 15º and low-angle boundaries across which misorientations are less than 15º, respectively. TEM micrographs ; (c) the α+spheroidized θ duplex structure shown in (a), and (d) the tempered martensite specimen shown in (b)27).

ラスマルテンサイト組織の利用による動的再結晶の促進は,ラスマルテンサイト組織の有効結晶粒径(ブロック径)が微細であること,高密度の転位を含むこと,炭素含有合金の場合には硬質第二相であるセメンタイト粒子を含むことにより,少ない付加ひずみでも不均一変形の度合いが大きくなるためと考えられる。このことは,最近の炭素含有量の異なる低合金鋼マルテンサイトの温間変形の研究30)および極低炭素鋼のフェライトおよびマルテンサイトを出発組織として用いた研究31)でも確認されている。

ここで述べた動的再結晶の臨界ひずみ低減の原理は,鉄鋼に限らず他の合金でも応用可能である。著者らは,チタン(Ti)合金の変形前α(hcp)+β(bcc)二相組織について,β溶体化後の冷却速度の増大によりウィドマンステッテンα組織やマルテンサイト組織を得て初期α粒径を微細にすることで,二相域変形での動的再結晶発現が促進され等軸微細二相組織を得ている32)。すなわち,動的再結晶の促進においては,先に述べたような静的再結晶の場合と同じく,再結晶の核生成場所となる不均一変形を導入する工夫が重要であることがわかる。ここでは初期組織の変化について述べたが,加工プロセスの観点では,変形方向の変化や多軸での変形の導入が再結晶の促進には有効であろう。また,第二相粒子の利用は,炭素鋼マルテンサイトを用いた研究30)でも明らかなように,再結晶粒やサブグレインの成長抑制を通して微細化に寄与できる。さらなる微細化の追求には,より微細な第二相粒子(例えば合金炭化物)の活用も視野に入れた検討が望まれる。

3・2 超強加工による微細粒組織の形成

バルク金属材料に相当ひずみ4~5以上の巨大ひずみ加工(severe plastic deformation)を施すと,平均粒径1 μm以下の超微細粒組織が形成されることが1990年頃に見いだされ,超微細粒金属材料(あるいはbulk nanostructured metals:バルクナノメタル)に関する研究が世界中で活発に行われるようになった13,33)。巨大ひずみ加工プロセスは,基本的にあらゆる金属・合金に適用でき,いずれの場合にも超微細粒組織が得られる。

ところで,巨大ひずみ加工により得られる超微細粒組織は,多くの場合,低温で巨大ひずみ加工されたままの未熱処理状態で観察されるが,これは金属学的には非常に奇妙である。金属・合金の塑性変形は,多くの場合転位のすべり運動によりもたらされる。したがって,通常の加工ままで観察される微視組織は,転位組織を主とする加工組織である。従来の結晶粒微細化は,加工に引き続く焼鈍熱処理中に生じる再結晶現象を通じて行われてきた。巨大ひずみ加工ままで観察される超微細粒組織は,再結晶によるものではないと考えられるが,この場合の超微細粒組織の形成原理は何であろうか。

別の解説34)で示したように,巨大ひずみ加工に伴う超微細粒組織の形成は,一般的な変形組織の形成機構であるgrain subdivision35)によって理解することができる。Fig.7の左列(a~f)には,室温で例えば圧延を施したときに得られる組織を模式的に示している。ここで縦の並びはひずみ量(加工度)の違いを表しており,各組織に対応する圧延圧下率rまたは相当ひずみεの目安を表記している。また,図中の黒線と赤線は,バウンダリーの方位差に対応し,黒線が大角粒界,赤線が小角粒界を表している。なお,図によって多少倍率を変化させている。結晶中で活動した転位の一定の割合は結晶中に蓄積され,蓄積された転位は弾性エネルギーを相殺するように低エネルギー構造をとろうとする。こうして形成されるのがIDB(incidental dislocation boundary)であり,転位セル境界(cell walls)がその典型である(Fig.7(b))。また多結晶体においては,隣接粒間の拘束の影響等により,同一結晶粒内であっても活動するすべり系の量や種類(slip pattern)が場所によって異なる(Fig.7(a))。slip patternの異なる領域は,互いに異なる方位回転を生じ,隣接領域間には方位差が生じる。この方位差を担うものが,GNB(geometrically necessary boundary)である(Fig.7(b))。こうしたIDBとGNBにより結晶が分断されて行くのがgrain subdivisionである。IDBは偶発的に形成され,その後の変形で容易に分解すると考えられるので,その方位差は与えた塑性ひずみ量にあまり依存せず,常に小角粒界として観察されるが,GNBの方位差は塑性ひずみ量の増加とともに増大することが知られている35)

Fig. 7.

 Schematic illustrations showing microstructure evolution during cold-rolling to various strains at room temperature (a-f) and subsequent static annealing (g-l). R.T.: room temperature.r: rolling reduction. ε: equivalent strain. ε ˙ : strain rate. GNBs: geometrically necessary boundaries. IDBs: incidental dislocation boundaries. SIBM: strain induced boundary migration.

Fig.7(c)に示すように,中~高程度の塑性ひずみ(圧延圧下率にして50~80%程度)を受けた金属材料中には,変形帯(deformation band)やせん断帯(shear band)あるいは粒界近傍領域(図中のg. b. region)といった不均一変形組織が観察されるが36),これらもIDBやGNBにより構成されていると考えることができる。Fig.7(d)のように,90%以上の強圧延(相当ひずみ3程度)を加えると,圧延方向に伸びたlamellar boundary組織が観察される35)。lamellar boundaryはGNBの一種であるが,相当ひずみ3程度でのlamellar boundaryの多くはまだ大きな方位差を有していない。さらに加工が進み相当ひずみ4~5の巨大ひずみ域になると,ほとんどのlamellar boundaryは大角化し,室温変形の場合厚さ100~200 nm程度の均一な伸長超微細組織が得られる(Fig.7(e))。これが巨大ひずみ加工により得られる超微細粒組織である。

巨大ひずみ加工に伴いgrain subdivisionが生じて超微細粒組織が形成される機構は,巨大ひずみ加工法によらず,また金属の種類にもよらない。ただし純金属よりも合金の方がより微細粒が得られ,また純金属では純度が低いほど得られる粒径は微細になる。ところで,粉末のミリングやショットピーニング・ドリル加工などによれば,加工を受けた表面層や加工層に粒径数10 nmのナノ結晶組織が得られる場合がある(Fig.7(f))22)。これらのプロセスも一種の巨大ひずみ加工(相当ひずみ7以上の超巨大ひずみ加工)であり,その形成機構はやはりgrain subdivisionの延長線上にあると考えられる。しかし,ARBやECAPなどのバルク巨大ひずみ加工では,ひずみ量を増しても粒径が100~200 nm程度の一定値に収斂し,数10 nmの結晶粒径は得られないことが多い13,22,33)。こうした違いが生じる理由はまだ不明である。

以上のように,巨大ひずみ加工に伴う超微細粒組織の形成は,従来よく知られた再結晶ではなく,塑性変形そのものによって結晶が分断される機構(grain subdivision)によるものである。したがって,巨大ひずみ加工ままの超微細粒組織は,加工組織としての特徴を本質的に有している。

次に,種々のひずみ量の加工を施された材料を静的に焼鈍した場合の組織変化を模式的に示してみよう(Fig.7の右列(g~l))。一般に加工材の焼鈍時には,回復と再結晶が生じる。加工度が非常に小さい場合には再結晶粒は発生せず,回復のみが進行する(Fig.7(g))。初期粒界が粒界移動を起こして局所的に転位密度を低減させるひずみ誘起粒界移動(strain induced boundary migration:SIBM)が生じる場合もある(Fig.7(g),(h))。再結晶粒は,Fig.7(i)に示すように,不均一変形を受け,局所方位差が大きく転位密度が高い領域から生成し,変形帯・せん断帯・粒界近傍領域などは典型的な再結晶粒の核生成サイトである。生じた再結晶粒は加工マトリクスを侵食して成長し,互いに衝突して再結晶完了に至る。相当ひずみ3程度の強加工の場合,微細ラメラ組織中の多くのバウンダリーの方位差はまだ小さいため,再結晶粒は局所的に生成し,加工マトリクスを侵食して成長して行く(Fig.7(j))37)。ここまでは,従来よく知られている「核生成・成長」による再結晶である。一方,巨大ひずみ加工により大角粒界に囲まれた超微細粒組織が均一に形成された場合(Fig.7(e),(f))には,焼鈍とともに組織が均一に粗大化し,特定の結晶粒の成長無しに等軸微細粒組織が形成され(Fig.7(k-1),(l-1))37,38),これを連続再結晶(continuous recrystallization)と呼ぶことがある39)。しかし別稿34)で論じたとおり,巨大ひずみ加工により形成される超微細粒は,個々が焼鈍時に再結晶粒となり得る潜在核と考えることができる。したがってその焼鈍時には,個々の超微細粒が回復と短距離の粒界移動によって通常粒成長的に粗大化して再結晶相当の微細粒組織を形成できる。そもそも再結晶現象は,光学顕微鏡が唯一の組織観察手段であった時代に見いだされ,命名された現象であり,巨大ひずみ加工材における焼鈍挙動は大ひずみ加工によってはじめて明らかとなった新たな金属組織変化である。こうした考えから筆者らは,巨大ひずみ加工材の焼鈍に伴うFig.7(k-1),(l-1)のような組織変化に対しては,混乱を招きやすく定義の曖昧な連続再結晶という言葉を使わない方がよいと考えている34)

Fig.7(k-1)で示したような連続的な組織変化は,フェライト鋼やアルミニウム合金において観察されている38,39)。一方,中程度以下の積層欠陥エネルギーを有し回復の起こりにくいfcc金属(オーステナイト鋼を含む)や純チタン(hcp構造)などでは,巨大ひずみ加工材の組織はフェライト鋼と同様であるが,焼鈍時に特定の結晶粒が大きく成長し,通常の再結晶と同様の組織変化を示す(Fig.7(k-2),(l-2))。

ところで3・1節で述べたように,熱間や温間での高温・大ひずみ加工時に起こる動的再結晶によって粒径1 μm以下の微細フェライト組織が得られている。そこで次に,種々のひずみ量の加工を室温以上の温度で行なった場合を考える。Fig.7の左列に示した冷間加工時の組織変化は,超高Z変形(低温,高ひずみ速度)に相当するが,例えば変形温度を徐々に上げていった場合,回復・再結晶・粒成長現象が変形中に同時に生じる(動的回復・再結晶・粒成長)。ひずみ量が小さい場合は,動的回復と,核生成・成長による典型的な動的再結晶(不連続動的再結晶:discontinuous dynamic recrystallization:dDRX)が生じるであろう。強加工の場合の組織形成機構も変形条件(温度,ひずみ速度,ひずみ量)に強く依存するはずであるが,従来行われている巨大ひずみ加工プロセスの多くは低温で実施された不連続な多段加工プロセスであり,種々の温度・ひずみ速度下での連続巨大ひずみ加工時の組織変化を系統的に調べた研究はほとんどない。十分な高温での変形の場合,Fig.7(e)や(f)のような巨大ひずみ加工組織が直ちに形成されるわけではなく,途中の中・大ひずみ加工域を経過する訳だから,その際にやはり核生成・成長による再結晶が動的に生じるであろう。その場合に得られる動的再結晶組織(定常状態)の粒径は,Fig.4に示したように,Z因子すなわち温度とひずみ速度により決定されると考えられる。

一方,再結晶が活発には起こらない温間(高ひずみ速度)条件(高Z因子変形)の場合はどうであろう。Tsujiら24)はフェライト鋼の相当ひずみ0.8程度までの高温圧縮試験を行い,得られる動的再結晶粒径(dDRX)・サブグレイン粒径(dsub)とZ因子の間に,Fig.8に模式的に示すような関係が得られることを示した。この図によればdDRXdsubの傾きが異なるため,Z因子を増加させていくとdDRXdsubがほぼ同一になるはずである。ただしそのためには,大きなひずみを与える必要がある(Fig.4)。Sakaiら40)は,種々の金属材料に対して温間巨大ひずみ加工域を含む変形条件下での系統的な実験を行い,Fig.8と同様の関係を得ている。彼らは,動的再結晶粒径がサブグレイン粒径に近づく領域では粒径の変形応力依存性の傾きに変化が認められることから,その領域での組織形成機構を連続動的再結晶(continuous dynamic recrystallization:cDRX)と呼んでいる。「不連続」再結晶と「連続」再結晶の違いは,再結晶粒の成長の有無である。例えば,Fig.7(e)のような伸長組織ではなく,Fig.7(k-1)のような等軸粒組織が動的再結晶により得られた場合,それは再結晶粒の成長を含むdDRXであろう。しかし前述のように巨大ひずみ加工材では各領域が再結晶核となる能力を持っていて核生成密度が高いため,大きな成長を経ずして再結晶組織が得られる。また変形条件が高Z・超高Z変形域になるにつれ,Fig.8のようにdDRXdsubは近づいていき,「成長」の有無を厳密に線引きすることは難しくなる。つまり,「不連続」と「連続」の厳密な区別は,現実には困難である。またdDRXdsubに近づくと,自ずと組織は加工組織に近くなることから,加工組織に近い組織をどこまで「再結晶組織」と呼ぶことができるのかという問題も生じる。したがって筆者らは,静的・動的に関わらず,連続再結晶という言葉を用いることには慎重であるべきだと考える。なお,二相組織などでマトリクスの粒成長が抑制されるような場合には,連続再結晶は生じて良いであろう40)

Fig. 8.

 Schematic illustration showing the sub-grain size (dsub) and dynamically recrystallized grain size (dDRX) in a material deformed at various temperatures and strain rates. Plotted as a function of Zener-Hollomon parameter. Ranges of strains required for achieving the steady-state grain size are also indicated in the upper region. dDRX: discontinuous dynamic recrystallization. cDRX: continuous dynamic recrystallization.

巨大ひずみ加工により作製される超微細粒材料は,通常粒径材の3~4倍以上に達する極めて大きな強度を示す38)。またこれらの高強度は,従来粒径材のHall-Petch関係を外挿して予想される強度よりも高い場合がしばしばある41)。これはすなわち,結晶粒超微細化による強度の「伸びしろ」が非常に大きく,また単純化学組成の金属材料により高強度を実現できる可能性を示している。しかし一般に,巨大ひずみ加工材は引張延性に乏しく,特に均一伸びが非常に小さい。これは,結晶粒超微細化によって降伏強度が大きく増加する一方で,加工硬化能は増加しないことから,塑性不安定(引張試験におけるくびれの進展)が早期に起こるためである38)。したがって,超微細粒鋼を実用化する場合の重要な指針は,複相化などによって十分な加工硬化能を担保することである42)。一方,単相超微細粒は引張延性には乏しいが,塑性(plasticity)そのものが失われたわけではなく,局部伸びは大きく,また曲げ,張り出しなどによる加工性も良好である33)。超微細粒フェライト鋼は非常に優れた低温靱性を示し43),また高速変形強度も高い33)。また,超微細粒金属(バルクナノメタル)は,従来の金属学では理解できない特異な力学挙動をしばしば示す44)

従来,再結晶を利用した結晶粒超微細化により得られる微細粒組織は,その粒径が最小で10 μm程度であった。これに対し,巨大ひずみ加工によって粒径1 μm以下の超微細粒組織が容易に得られるようになったことは画期的であり,超微細粒金属材料の研究を大きく進展させた。しかし,実験室で用いられている種々の巨大ひずみ加工プロセスは,実際の材料製造プロセスに適用するにはまだ非現実的である。ステンレス箔帯などにおいては超微細粒鋼の製造プロセスが実用化されているが33),超微細粒鋼の応用例はまだ少ない。したがって,今後超微細粒鋼を実用化するためには,より小さなひずみ量で超微細粒組織を得るプロセスの開発が必要である。

筆者らは相変態と大ひずみ加工の適切な組み合わせによる鋼の結晶粒超微細化を提唱しており,実際に相対的に小さなひずみ量で超微細粒組織を得るための手法をいくつか見いだしている21)。また,本解説で述べたように,巨大ひずみ加工により作製された超微細粒組織は,本質的に加工組織としての側面を有しているが,高Mnあるいは高Niオーステナイト鋼においては,平均粒径数100 nmの完全再結晶超微細粒組織が得られることが見いだされつつある45)。従来の鋼の結晶粒超微細化の研究は,フェライト相に偏りすぎていた。種々の相変態の母相であるオーステナイト相の結晶粒超微細化が達成されれば,鋼の加工熱処理による組織超微細化に,新たなブレークスルーがもたらされることが期待される46)。また,ショットピーニングなどによりバルク材の表層領域を部分的にナノ組織化する試みも,実用化により近い優れたアプローチである22)

3・3 動的フェライト変態

従来の代表的な加工熱処理の一つである制御圧延・加速冷却においては,Fig.9(a)の模式図に示すように,加工硬化オーステナイトをより低温でフェライト変態させることによって多数のフェライトが核生成し,微細フェライト組織を得ることができる。制御圧延・加速冷却によって得られる最小のフェライト粒径は5 μm程度が限界とされている。一方,2・5節で述べたように,さらなるフェライト組織の微細化を目指した探索的研究が1990年代後半から活発に行われた。その結果,最終パスの加工をより低温・大ひずみで行うことによって粒径約1 μmの超微細粒フェライト組織が実現されている。Fig.9(b)に示すように,低温で大ひずみ加工を施すとフェライト変態のkineticsが著しく促進される結果,加工条件(すなわちAe3点以下での保持時間,加工温度,ひずみ量,ひずみ速度)によってはオーステナイトの加工中にフェライト変態が生じる。オーステナイトの加工中に生じる変態は動的フェライト変態(dynamic ferrite transformation)と呼ばれており,1980年代にYadaら47)がすでにその発現を報告している。Fig.9(b)のような低温・大ひずみ加工プロセスによって超微細粒フェライト組織が得られる現象は,動的ひずみ誘起フェライト変態(dynamic strain-induced transformation)や変形誘起フェライト変態(deformation-induced ferrite transformation)などとも称される場合があるが,その実態は十分理解されておらず,用語上も混乱が見られる。

Fig. 9.

 Schematic illustration of CCT diagrams for (a) static ferrite transformation from work-hardened austenite, and (b) dynamic ferrite transformation.

動的フェライト変態は加工中に生じる現象であるため,形成されるフェライトも加工を受け,転位やサブグレインなどの変形組織を含んだフェライト粒となる。すなわち,フェライト粒内の変形下部組織の有無は,動的フェライト変態と,加工硬化オーステナイトからの静的フェライト変態を区別する一つの手がかりである48)。また,高温におけるフェライトの変形応力はオーステナイトの変形応力よりも低いため,動的フェライト変態が生じると,試料全体の変形応力が低下する。このことを利用して,高温加工時の応力−ひずみ曲線の解析(軟化の有無)によって,動的フェライト変態の発現を検出することもできる49,50,51)。近年,動的フェライト変態の発現条件が詳細に調べられ,平衡変態温度(Ae3点)から100 °C程度高い温度でも動的フェライト変態が発現し得るという結果が報告されていることは大変興味深い51,52,53,54,55)。平衡変態温度以上でも動的フェライト変態が生じるのは,転位などの格子欠陥がオーステナイト中に蓄積することによってオーステナイトのギブス自由エネルギーが増加し,それに伴って変態温度が上昇するためであると考えられている52,54)。しかし,加工硬化量から転位密度を見積もって計算したオーステナイト中の蓄積エネルギーは,実験的に観察される変態温度の上昇量を引き起こすには熱力学的に不十分である。加工により導入された格子欠陥の不均一分布の影響なども検討されているが,平衡変態温度以上で動的フェライト変態が生じる理由は未だ明らかになっていない。また,動的フェライト変態は,冷却中や等温保持中に生じる静的フェライト変態と同様に拡散型変態56)であるという考えが一般的であるが,マッシブ変態47,48,49)やせん断型変態54)を主張している研究グループもある。

次に,動的フェライト変態現象を含む低温・大ひずみ加工プロセスによってなぜ粒径1 μm以下の超微細粒フェライト組織が得られるのか,その要因について考察する。ここでは簡単のため,Fig.10に示すように,等温保持中のオーステナイトに加工を施した場合の動的フェライト変態挙動を考える。加工硬化オーステナイトからの静的フェライト変態では,加工によりオーステナイト中に導入された転位や変形帯などのフェライトの優先核生成サイトは,変態の比較的初期にフェライトを生じて消費されてしまい,その後は主にフェライトの粒成長によって変態が進行する。それに対し,動的フェライト変態では,Fig.10Fsにおいてフェライト変態が開始した後も,残留した母相オーステナイトは加工を受け続け,転位や変形帯などのフェライトの優先核生成サイトが連続的に供給される57,58,59)。そのため,主にフェライトの核生成によって変態が進行し,フェライトの粒成長は抑制される。その結果,動的フェライト変態では,加工硬化オーステナイトからの静的フェライト変態よりも微細なフェライト組織を得ることができるものと考えられる。

Fig. 10.

 Schematic illustration of dynamic ferrite transformation at a constant temperature (Fs, Ff, Rs, and Rf represent the times (or required strains) for the start of dynamic ferrite transformation, finish of dynamic ferrite transformation, start of dynamic recrystallization of dynamically transformed ferrite, and finish of dynamic recrystallization of dynamically transformed ferrite, respectively).

また,動的変態により生成したフェライト粒も,生成後に加工を受ける。そのため,ひずみ量がある一定の値を超えると,生成したフェライト粒が動的再結晶を起こすようになる(Fig.10Rs)56)。つまり,動的変態により生成したフェライト粒の動的再結晶も,低温・大ひずみ加工プロセスにおけるフェライトの結晶粒微細化の要因の一つとして考えることができる。ところで,Fig.9(b)のプロセスによって微細等軸フェライト粒を得るために必要な相当ひずみ量はおおよそ1~3であると報告されている56)。しかし,回復が生じやすいフェライトは動的再結晶を起こし難いことが知られており24),さらに,動的フェライト変態が生じるような低温度域では,動的再結晶の開始・完了にはより大きなひずみが必要となるはずである。すなわち,動的変態により生じた組織には,フェライトの動的再結晶を促進する何らかの要因があることが考えられる。ここで,上述のように動的フェライト変態では微細粒フェライト組織が形成される。3・1節で示したマルテンサイト組織を出発組織とする動的再結晶の場合のように,微細粒組織では動的再結晶が促進される。また,動的フェライト変態開始後のオーステナイト/フェライト二相状態では,強度の低いフェライトに変形が集中している可能性がある。これらの二つの要因によって,動的変態により生成したフェライト粒では動的再結晶が促進されているものと考えられる。

Fig.10の模式図に示すように,動的フェライト変態による組織形成過程では,動的フェライト変態の開始(Fs)と完了(Ff),および動的変態により生成したフェライトの動的再結晶の開始(Rs)と完了(Rf)のタイミングが重要である。低温・大ひずみ加工時のフェライト組織形成過程が複雑なものとなっているのは,FsFfRsRfがそれぞれ逆の温度依存性を示すことに加え,加工条件によって動的相変態および動的再結晶の発現条件が大きく変化するためである。例えば,加工温度が低い場合(Fig.10中の温度T1)には,動的フェライト変態の完了後に,生成した全面フェライト組織の動的再結晶が開始する(Ff<Rs)。しかし,Fig.10中の温度T2のように加工温度が高くなると,動的フェライト変態が完了する前に,変態初期に生成したフェライト粒の動的再結晶が開始する(Ff>Rs)。また,母相オーステナイト粒を微細化すると,動的フェライト変態のkineticsが促進される57)。さらに,加工前の等温保持によりフェライト変態の潜伏期を消費することによっても,加工の初期に動的フェライト変態を開始させることができる60)。このように,加工条件,母相オーステナイト粒径,潜伏期の消費時間などによって,低温・大ひずみ加工時の組織形成過程は様々に変化する。したがって,その実相を理解してより効果的なフェライト粒微細化を実現するためには,種々の条件での組織形成過程を詳細に調べ,各鋼種で結晶粒微細化が効果的に生じるプロセス条件を探求していく研究が必要であろう。

3・4 変態生成物のバリアント選択と制御

相変態・析出では,一般的に生成相は母相に対してなるべく整合性を保つよう特定の結晶方位関係を持つ。同じ結晶方位関係でも,結晶の対称性に起因して異なる結晶方位を持った複数の生成相が一つの母相粒から生成しうる。これらをバリアント(variant:兄弟晶)と呼ぶ。格子欠陥における核生成や相変態に伴い発生する変態ひずみによって,特定のバリアントが優先的に生成する現象がバリアント選択(バリアント規制)である。バリアント選択により同一方位の生成相が核生成すると,多くの核が生成しても最終的に大角粒界が形成されず組織微細化に寄与しないため,相変態を利用して組織を微細化する上でバリアント選択の理解は重要となる。そこで,ここでは相変態・析出における最も一般的な母相粒界と異相界面での核生成におけるバリアント選択および剪断型変態におけるバリアント選択について,これまで著者らの研究グループで得られている結果を主としてまとめる。

過冷度が小さい時には,母相粒界が最も優先的な核生成サイトとなる。母相粒界では,両側の母相に対して特定の結晶方位関係を持つ生成相が生成できるため,粒内よりも生成可能なバリアントは多いが,実際には強いバリアント選択が働き,限られたバリアントの生成相しか生成しない。このようなバリアント選択が働くのは,核生成時の異相界面エネルギー増加分をなるべく小さくし,かつなるべく多くの母相粒界を消費するようなバリアントが選択されるためである。具体的には,結晶の優先生成面である晶癖面が粒界面に対して平行に近いバリアントのうち,結晶方位関係を持たない反対側の母相についても特定の結晶方位関係からのずれができるだけ小さくなるようなバリアントが優先的に選択されることが明らかとなっており61,62),方位関係を持たない側でも半整合界面が形成されていることが指摘されている63)

母相粒内に介在物や析出物が分散すると,その界面(異相界面)が粒内核生成サイトとして働く場合がある。このような異相界面上核生成は,組織制御に加工を用いることのできない溶接部の熱影響部(HAZ)や,熱間加工時の付与ひずみが小さい薄肉連鋳における有力な組織微細化法となる。粒内核生成における生成相の結晶方位は,核生成サイトとなる介在物・析出物/母相間の結晶方位関係に強く影響される64)。オーステナイトに対して特定の方位関係を持たないMnS+V(C,N)複合析出物上に核生成した粒内フェライトはV(C,N)と整合性の良い方位関係を持とうとする結果,オーステナイトとの方位関係はランダム化される65,66)。一方,変態温度が低下して駆動力が増加すると,粒内フェライトはオーステナイトに対して特定の方位関係を持つようになる65)。これは,複合析出物周りに導入された転位上にフェライトが核生成することで,介在物の方位に影響されず母相に対して整合性の良い結晶方位を持つためと考えられている67)。このような異相界面上核生成を利用したフェライト方位のランダム化は,粒界フェライトに対しても適用可能である67)

置換型格子の剪断型変態によって生成するラスマルテンサイトやベイナイトは,オーステナイトに対してKurdjumov-Sachs(KS)関係((111)γ//(011)α,[101]γ//[111]α)やNishiyama-Wassermann(NW)関係((111)γ//(011)α,[112]γ//[011]α)に近い方位関係を持って生成する。その際,特定のバリアントが集団で生成して,パケットやブロックといった特徴的な組織が形成される。マルテンサイト晶の優先生成面(晶癖面)方位が近いバリアントの集団であり,光学顕微鏡組織でラス組織の伸長方向が揃った領域がパケットである。パケットは更に結晶方位がほぼ同じバリアントから構成される複数のブロックによって分割される。近年,広範囲で結晶方位を精度よく測定できるEBSD法が普及し,従来不明であったマルテンサイトやベイナイトの複雑なバリアント構造の理解が進んでいる。Fig.11(a),(b)は,それぞれ低炭素鋼マルテンサイト(炭素量:0%C~0.2%C)および中高炭素鋼マルテンサイト(0.4%C~0.8%C)の組織の模式図である。太線で囲んだ領域が一つのパケット,同色の領域が結晶方位の近い個々のブロック(より正確には後述する同一Bainグループの領域)を表している。低炭素マルテンサイト(Fig.11(a))においては,方位差の小さな2種類のバリアントが隣接して生成して,ブロック内部にサブブロック組織が形成される68)。一方,高炭素マルテンサイトでは,パケットが微細化し,さらに方位差が大きく双晶関係にあるバリアント対が隣接しやすい(Fig.11(b))68)

Fig. 11.

 Schematic illustrations showing microstructures of (a) low carbon martensite, (b) medium- high carbon martensite / upper bainite transformed at low temperature, and (c) upper bainite transformed at high temperature.

上部ベイナイト組織においても,変態温度が低い場合にはFig.11(b)に示すような大角粒界を多く含む組織が形成され,ラスマルテンサイトと同様にパケットとブロックという定義によって従来組織が分類されてきた。しかしながら,近年,比較的高温で生成した低炭素ベイナイト組織では,Fig.11(c)に示すようにパケットを超えて方位差の小さなバリアントが集団生成していることが明らかとなっている69)。従来の定義に従ってこの組織を分類すると,パケットがブロックよりも小さくなってしまい,前提としていた「パケット>ブロック」という概念が崩れてしまう。そこで,より広義な組織分類としてCPグループ/Bainグループという新たな概念が提案されている69)。CPグループとは,KS関係における最密面平行関係(Close-packed Plane parallel relationship)を共有するバリアントグループであり{111}γ面の数に対応して4種類のCPグループがある。

Fig.12にCPグループ/Bainグループと各種結晶方位関係の相対的な関係をまとめる。fcc構造が〈001〉γ方向に圧縮されることで,元のfcc構造に対してrotated cubeの関係を有するbcc構造が生じるような格子対応をBain対応という。Bain対応は三つの〈001〉γに対応して3種類存在する。それぞれのBain 対応に比較的小さな格子の回転を加えることで,fcc/bcc間の最終的な結晶方位関係であるNW関係の12バリアント,KS関係の24バリアントが派生する。Bainグループとは,同一Bain対応から派生したバリアントのグループであり,一つのBainグループには4種類のCPグループが含まれる。同一Bainグループ内のバリアント間の方位差は約20°以内と小さいのに対して,異なるBainグループのバリアント間の方位差は45°以上と大きい。また,ラスマルテンサイトや上部ベイナイトの晶癖面({111}γ~{575}γ)は,平行関係にある最密面({111}γ//(011)α)に近いため,ひとつのパケットはひとつのCPグループに属するバリアントから構成されることになる。従って,従来のブロックは,同一CPグループかつ同一Bainグループに属するバリアントと定義される。この定義に基づいて先に述べた上部ベイナイトの組織変化を考えると,変態温度が高い場合には同一Bainグループのバリアントが集団で生成した粗大な組織が形成されるのに対して(Fig.11(c)),低温低炭素ほど方位差の大きな同一CPグループのバリアントが隣接しやすくなる(Fig.11(b))ということが分かる。

Fig. 12.

 Bain lattice correspondence and variants of N-W and K-S orientation relationships. Each of CP1 to CP4 represents a variant group sharing the same parallel relationship between close-packed planes of fcc and bcc.

このような特定のバリアントが集団で生成する理由として,異なるバリアント間で変態ひずみを緩和する自己緩和機構に加えて,マルテンサイトやベイナイト変態といった剪断型変態でも母相粒界での核生成サイトにおける強いバリアント選択があることが最近分かり,組織形成に及ぼす影響が議論されている70,71)。剪断型変態では,核生成時の異相界面エネルギー増加分をなるべく小さくし,かつなるべく多くの母相粒界を消費することに加えて,変態ひずみを緩和しやすいバリアントが選択されることが明らかとなっている71)。更に,前述したオースフォーム処理を施すと,母相の活動すべり面に沿って特定のバリアントが形成されることが報告されている72)。オースフォームにより母相の活動すべり面に沿って転位境界が発達することが確認されているため,この転位境界を多く消費するような特定CPグループバリアントの優先核生成がオースフォームによるバリアント選択の原因として提唱されている72)

以上のように,鉄鋼の様々な相変態におけるバリアント選択則は定性的には明らかになりつつあるが,選択されるバリアントを予測して組織制御に積極的に活用するためには,結晶方位関係や界面方位に依存する異相界面のエネルギーや変態ひずみの定量的な評価が望まれる。

4. まとめ

鋼の加工熱処理は,約50年前にマルテンサイトを対象にしたものから始まり,その後,拡散変態(フェライト変態)を対象にしたものに中心が移っていったが,近年のさらなる高強度化の要請に伴い,最近再びマルテンサイトへの関心が高まっている。かつての加工熱処理の主役であったオースフォーミングやTRIPが近年再び注目を浴び,ほぼ30年ぶりに復活し実用に供されるようになってきた。これらは,いずれも鋼の強靭化法として原理的にきわめて優れたものであるが,登場した当時は,プロセス上の困難さやニーズにマッチしなかったために工業的に成功しなかった。優れた原理を有する現象は,種々の制約のために日の目を見ず一度は忘れ去られても,必ず時期が来れば再登場するものであろう。鋼には種々の変態組織があるが,その中でパーライトおよびベイナイトを対象にした加工熱処理は意外と少ない。今後は,これらの組織を対象とした新しい加工熱処理の発展が望まれる。

また,最近は,超強加工による微細粒組織の創製という今までになかった新しい方法が大きな関心を集め,従来の強加工の延長では考えられない超微粒組織の形成機構が明らかになりつつある。さらに,超強加工の適用により,今までほとんど利用されていなかった動的現象(動的再結晶や動的フェライト変態など)が顕在化してきた。これらの現象の本質はいまだ明らかではなく,これらを組織制御に使いこなすには,さらなる詳細な系統的研究が必要である。これらの新しい結晶粒微細化原理の適用により,今までにない新しいタイプの鉄鋼材料が生まれる可能性がある。

文献
 
© 2014 一般社団法人 日本鉄鋼協会

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