鉄と鋼
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論文
二相域圧延を適用した極厚鋼板の板厚方向材質分布と集合組織
西村 公宏竹内 佳子
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2014 年 100 巻 9 号 p. 1097-1103

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Synopsis:

Controlled rolling in intercritical region (austenite and ferrite two phase region) is one of the effective processes both to strengthen the steel plate and to improve toughness. In this study mechanical properties of experimentally controlled rolled heavy thickness steel plate were investigated. In case of heavy thickness steel plate, toughness enhancement by controlled rolling in intercritical region was small, because ferrite grain refinement is insufficient due to limitation of amount of thickness reduction in controlled rolling. In addition, Charpy transition temperature at the 1/4 t position increased as lowering the finishing rolling temperature in intercritical region. Toughness dependence on thickness position was considered in terms of texture. The main component of texture at 1/2 t position is {001} <110> and {113} <110>, whereas that at 1/4t position is {110} <001>, which is formed by shear strain in controlled rolling. The effect of texture on toughness difference in thickness position and anisotropy was analyzed using crystallite orientation distribution function. Calculated brittleness parameter was evaluated, which is relationship between direction of stress axis that induces brittle fracture and (100) cleavage plane distribution. It was revealed that texture is an important factor to control the toughness of heavy thickness controlled rolled steel plates.

1. 緒言

船体構造用やエネルギー分野で用いられる厚鋼板には高強度とともに高い靭性が要求されており,非調質厚鋼板の強度・靭性バランスを向上させるプロセスとして制御圧延が広く適用されている1)。制御圧延の目的は結晶粒の細粒化である。すなわち,厚板圧延を低温域,すなわちオーステナイトの未再結晶域で圧延を行うことにより,変形帯を導入してフェライト変態の核生成サイトとすることにより,細粒化を達成するものである。

また,制御圧延を発展させ,より低温域であるオーステナイト−フェライト二相域で仕上圧延を行う,いわゆる二相域圧延法が,さらなる高強度化と高靭化が図れるプロセスとして実用化されている2,3,4,5,6)。その機械的特性の向上にはフェライトの加工による転位強化の効果,また靭性に関しては加工によるサブグレインの形成を通じた実効的な細粒化の効果が議論されている2)。さらに,二相域圧延材では集合組織が発達しており,低温靭性向上に寄与している。フェライトの圧延集合組織として形成される{001}〈110〉方位は,へき開面である(100)面が一般的な厚鋼板の試験応力軸である圧延方向に対して45°傾いており,ぜい性破壊の抵抗が高く,靭性が向上する。また,ぜい性亀裂伝播に関しても,亀裂のジグザグ進展効果や3),サブクラック生成による亀裂先端の応力拡大係数の低減効果により,ぜい性亀裂伝播停止性能の向上が図られると報告されている7)

一方,近年では構造物の大型化によって,使用される厚鋼板の板厚が増大する傾向にある。制御圧延プロセスは極厚鋼板の高靭化に対しても有効なプロセスとして実用化されているが,厚肉化によって板厚内部に材質分布が生じることが避けられない。マトリックス組織や結晶粒径の差異は主として制御圧延時の板厚内温度の違い,および制御冷却時の冷却速度の違いによるものと考えられるが,集合組織に関しては,加えて制御圧延時の歪分布が大きく関与する。しかし,極厚鋼板における板厚方向の集合組織分布とそれが材質に及ぼす影響についてはいくつか報告例があるものの8,9,10),詳細な調査はなされていない。また,最近,極厚鋼板のぜい性亀裂伝播停止性能には板厚方向の靭性および集合組織分布が強く影響することが報告されているが11),その材質分布の形成メカニズムについては必ずしも明確になっておらず,制御圧延条件との関連についての基礎的な検討が必要と考えられる。

本研究では集合組織の発達した極厚鋼板の板厚方向の機械的特性変化に及ぼす制御圧延条件の影響について調査した。二相域圧延材を対象として,耐ぜい破壊特性を表す靭性指標としてのシャルピー破面遷移温度に着目し,その板厚位置依存性および面内異方性を調査するとともに,板厚方向の集合組織分布の影響について考察した。

2. 実験方法

Table 1に示す化学組成を有する連続鋳造スラブから厚さ250 mmの圧延素材を加工し,加熱炉で1050 °Cに再加熱後,圧延ロール径が480 mmのラボ圧延機により制御圧延実験を行った。圧延は無潤滑条件で行い,圧延速度は50 mpmとした。実験では圧延素材の中心部に熱伝対を挿入し温度を測定しながら圧延を行った。まず,250 mmから188 mmまでを1030~1000 °Cの温度範囲で圧延した後,圧延材を空冷し188 mmから124 mmまでを940~890 °Cの温度範囲で圧延した。さらに空冷して124 mmから仕上厚である65 mmまで11パスの仕上圧延を行った。仕上圧延時の温度を790 °C,750 °C,710 °Cと変化させ,圧延後は加速冷却により400 °Cまで冷却した後,放冷して供試鋼とした。仕上圧延開始から完了までの温度低下はほとんどなく,低下は5 °C以内であった。以降,圧延温度を仕上温度とする。仕上温度790 °Cはオーステナイト(γ)域での圧延であり,750 °Cと710 °Cは二相域での圧延となる。

Table 1.  Chemical composition of the steel (wt%).
C Si Mn P S Nb
0.09 0.33 1.46 0.01 0.002 0.01

圧延材の板厚1/4 t部,1/2 t部より圧延直角方向に平行部φ6の丸棒引張試験片を,圧延方向に10 mm角,長さ55 mmの2 mmVノッチシャルピー試験片を採取し引張試験およびシャルピー衝撃試験を行った。シャルピー衝撃試験では,破面遷移温度を含んだ温度範囲で試験温度を5水準に変化させ,ひとつの温度で3本の試験を行いシャルピー破面遷移温度を求めた。また,L断面組織をナイタール腐食後,光学顕微鏡にて観察した。さらに,板厚表面に平行に板状のX線回折測定用試験片を採取し,主要な結晶面の板表面に平行な面集積度を測定するとともに(200),(110),(211)極点図を測定し3次元結晶方位解析により集合組織を評価した。

3. 実験結果

3・1 圧延材の機械的特性

圧延材の強度,シャルピー破面遷移温度(vTrs)の測定結果をFig.1およびFig.2に示す。γ域圧延材よりも,二相域圧延材では強度は上昇しており,二相域圧延が鋼の強化に有効であることが示されている。また,仕上温度によらず,板厚1/2 t部よりも1/4 t部の強度が高くなっていた。

Fig. 1.

 Relationship between tensile strength of steel plates and finishing rolling temperature.

Fig. 2.

 Relationship between Charpy transition temperature of steel plates and finishing rolling temperature.

一方,vTrsは仕上温度,板厚位置によって複雑な挙動となった。靭性はγ域圧延材が最も優れており,また,1/2 t部に比較して1/4 t部のvTrsが低く,良好な靭性を示している。これは,圧延時の実際の温度が1/4 t部の方が低いため制御圧延の効果が高く細粒化したためと考えられる。Fig.3(a)にγ域圧延材のミクロ組織を示すが,1/4 t部のフェライト粒径が1/2 t部に比較して細かいことがわかる。

Fig. 3.

 Microstructures of steel plates.

二相域圧延材の靭性は,1/2 t部においてはγ域圧延材よりもやや低くなるものの,vTrsは−75 °C程度であった。しかし,1/4 t部の靭性は二相域圧延により大きく劣化した,二相域圧延温度が低いほどvTrsは高くなり710 °C仕上材ではvTrsが−38 °Cとなっている。その結果,二相域圧延材では1/4 t部よりも1/2 t部のvTrsが低温となるというγ域圧延材とは逆の材質分布となる。

710 °C仕上材の遷移温度域における典型的なシャルピー試験破面をFig.4に示す。1/2 t部から採取した試験片では,セパレーションが発生しているが,1/4 t部採取の試験片にはセパレーションは観察されなかった。

Fig. 4.

 Typical Charpy fracture appearances of the specimens obtained from the steel plate rolled in intercritical region (finishing rolling temperature: 710 ºC).

二相域圧延材のミクロ組織をFig.3(b)および(c)に示す。いずれもフェライトの加工組織が観察され,展伸したフェライト粒と第二相はパーライトまたはベイナイトとなっている。圧延温度の低下によりフェライト粒の粗大化が見られる。

3・2 圧延材の集合組織

圧延材の集合組織に及ぼす仕上温度の影響をFig.5に示す。集合組織は1/4 t部と1/2 t部で大きく傾向が異なる。1/2 t部ではγ域圧延材から二相域圧延材になるにしたがい,(200),(111)面集積度が高くなる,これは一般的に報告されている二相域圧延材の集合組織の特徴と一致する。一方,1/4 t部においては(110)面が集積しており,二相域圧延では圧延温度の低下とともに,(110)面集積度が高くなり,逆に(200),(211),(111)面集積度は低くなる。

Fig. 5.

 Relationship between X-ray diffraction intensity ratio parallel to surface of steel plates and finishing rolling temperature.

Fig.4に示したセパレーションの有無もこの集合組織の違いによって説明できる。Fig.4(a)の1/2 t部採取のシャルピー試験破面のセパレーションは従来の二相域圧延材と同様に(200)面の集積に起因するものである。一方,1/4 tでは(200)面集積度は低く,セパレーションも発生しないものと考えられる。

二相域圧延材は従来からフェライトの加工硬化による高強度化と,靭性向上をも達成するプロセスとして,実用化されている。しかし,極厚材では高強度化は図られるが,靭性に関しては板厚位置によってその効果が異なり,1/2 t部では従来通りの効果が得られるものの,1/4 t部では異なる傾向を示すことが明らかになった。これは主として集合組織の影響と考えられ,その形成メカニズムと靭性に及ぼす影響について考察する。

4. 考察

4・1 極厚二相域圧延材の集合組織とその形成メカニズム

圧延材の集合組織をより詳細に調査するため3次元結晶方位解析を行った。Fig.6およびFig.7に供試材の1/2 t部および1/4 t部の3次元結晶方位分布関数の主要な方位が現れるφ2=45°断面を示す。これにより,面集積度では表現できない結晶方位分布が解析できる。

Fig. 6.

φ2=45º sections of crystallite orientation distribution function of the steel plate rolled in γ region.

Fig. 7.

φ2=45º sections of crystallite orientation distribution function of the steel plate rolled in intercritical region (finishing rolling temperature 710 ºC).

Fig.6(a)に示すγ域圧延材の1/2 t部の集合組織においては,強度は弱いものの{113}~{112}〈110〉,{332}〈113〉が主方位となっている。集合組織の形成は冷間あるいは熱間加工により特定の結晶面が集積することによるもので,フェライトとオーステナイトの圧延集合組織に関しては多くの研究例がある。これらの方位はγ相の圧延集合組織をひきついだフェライトの変態集合組織である12,13)。1/4 t部の集合組織はあまり発達しておらず,弱く(110)面が集積している程度である。

仕上温度を710 °Cとした二相域圧延材の結晶方位分布関数をFig.7に示す。1/2 t部では強く{001}〈110〉が発達しており,Fig.5(a)での(200)面の高い集積度はこの方位を反映している。フェライトの圧延集合組織は{001}〈110〉方位や(111)//NDが知られており,本実験での極厚二相域圧延材の1/2 t部の集合組織は従来通り,この圧延集合組織により説明できる。また,仕上圧延時はγ相も存在し圧延加工されているため,γ域圧延材に見られた,{113}~{112}〈110〉,{332}〈113〉方位も発達している。

これに対し,1/4 t部の集合組織は同じ二相域圧延材でありながら1/2 t部とは全く異なっている。主方位は{110}〈001〉であり(110)面の高集積度はこの方位の集積に起因する。{110}〈001〉方位(Goss方位)はフェライトのせん断加工による集合組織として知られており14),1/4 t部はせん断歪により集合組織が形成されたものと考えられる。Fig.8に1/2 t部と1/4 t部の主方位となる結晶方位とそれぞれ圧延表面に平行に集積している結晶面を図示した。

Fig. 8.

 Schematic illustration of main orientation components in steels rolled in intercritical region.

Fig.9に710 °Cで仕上圧延を行った二相域圧延材の板厚方向集合組織分布を示す。1/2 t部から1/4 t部に近づくにしたがって,(200)面,(111)面の集積度は低下していき,(110)面の集積度が高くなっていく。

Fig. 9.

 X-ray diffraction intensity ratio through the thickness of the steel plate rolled inintercritical region (finishing rolling temperature 710 ºC).

薄鋼板の様な張力圧延や潤滑圧延を行わない厚板圧延プロセスでは,板表面とロール間の摩擦力により,板厚中心部以外ではせん断歪が加わる。そこで,FEM解析により板厚内部の歪分布を計算し,集合組織との関係を調査した。圧延ロールを直径480 mmの剛体,圧延材を剛塑性体と仮定し,平面歪条件として板厚中心部を対象軸とした2分の1の2次元モデル動的解析を行った。圧延材は板厚方向10要素,板長方向150要素の矩形メッシュに分割した。材料定数としては,圧延材の変形抵抗を歪速度によらず150 MPa,ロールと圧延材の摩擦係数を0.35とした。圧延速度は実験条件と同じ50 mpmである。

圧延の1パスごとに圧延材の各要素の圧縮歪とせん断歪を出力しておき,次のパスでは矩形メッシュを作成しなおして計算を繰り返した。歪は蓄積するものとして多パス圧延の累積歪を各板厚位置で算出した。以上の条件で,集合組織の形成に寄与すると考えられる仕上圧延のみ,すなわち板厚124 mmから65 mmまでの11パスの多パス圧延をシミュレートし,板厚内部の歪を求めた。

Fig.10に板厚方向位置とせん断歪の関係を示す。1/2 t部から表層へ向けて,せん断歪が大きくなっており,板厚1/8 t部付近で最大となっている。Fig.9での(110)面集積度は1/4 t部~1/8 t部で最大となっており,せん断歪の大きさと必ずしも定量的には一致はしないが,板厚中心から1/8 t部にかけては定性的にせん断歪の分布と(110)面集積度の分布は対応していると言える。

Fig. 10.

 Relationship between shear strain and distance from surface (thickness reduction from 124 mm to 65 mm by malti-pass rolling).

Fig.10において,表層部ではふたたび,せん断歪は小さくなる。圧延ロールと板表面の接触弧では中立点以降で逆方向の摩擦力が作用するため,板表面近傍では逆方向のせん断変形が加わる。計算ではロールから出た後の各要素の歪からせん断歪を算出しているので,圧延中の逆方向のせん断歪は,打ち消す方向で寄与するため結果的に表層近傍ではせん断歪は小さくなる。Fig.9での表層付近の集合組織は板厚中央部に近くなっており,FEM計算でのせん断歪の分布の傾向に対応している様に見えるが,表層におけるせん断歪の大きさは1.0と1/4 t部付近のそれとほぼ同じで,集合組織の形成がせん断歪で説明できているとは言い難い。同様に厚鋼板における表層部の特異な集合組織についてはいくつか報告例があるが8,9),逆方向のせん断歪がせん断集合組織の発達を抑制するかどうかを含めて,その形成メカニズムについては明確になっておらず今後の課題である。

4・2 極厚二相域圧延材の靭性の支配因子

二相域圧延プロセスは結晶粒細粒化を基本原理としたγ域での制御圧延に対して,さらなる高強度かつ高靭性化を実現するプロセスとして実用化されている。しかし,本プロセスを極厚鋼板に適用した場合には,必ずしも靭性向上効果は得られず,板厚位置によって効果が異なることが明らかになった。

靭性の主要な支配因子は破壊単位の微細化であり,フェライト結晶粒の細粒化が靭性向上の主因子である。一方,靭性に及ぼす集合組織の影響については,セパレーション効果と応力軸に対するへき開面の集積度の影響が議論されている。なお,二相域圧延材では,圧延温度が過度に低いと加工ぜい化によって,靭性が低下することが報告されているが2),圧延温度が700 °C以下の場合であり,本実験ではこのぜい化の影響は小さいと考えられる。

以下,細粒化の観点と集合組織の観点から極厚制御圧延材の靭性の挙動について考察する。

(1)極厚材の靭性と制御圧延条件

Fig.2に示した1/2 t部の靭性は,γ域圧延材が最も良好で,二相域圧延での靭性向上は見られず,仕上温度を下げるほどややvTrsは高くなっている。これは,結晶粒径の影響と考えられる。本実験の圧延は,再結晶域で25%の圧下,未再結晶圧下率で34%,そして仕上圧延で48%である。γ域圧延材では仕上圧延は未再結晶域圧延であり,制御圧延の効果によりフェライト粒が細粒化し十分な靭性向上が達成されている。これに対し,二相域圧延では本来の結晶粒細粒化に寄与する未再結晶域圧延は34%であり,仕上圧延前での空冷でフェライト変態が開始する発生サイトはγ域圧延材よりも少なく,細粒化の観点では不利である。二相域圧延では圧延前または圧延中に生成したフェライトが圧延加工されて形成される集合組織による靭性向上効果を利用するが,本実験ではもともとのフェライト粒が粗大であるため,相殺して1/2 t部の靭性は向上しなかったものと考えられる。

板厚が薄い場合には,二相域圧延であっても,γ域での再結晶域圧延および未再結晶域圧下量が確保できる。しかし,極厚材では初期のスラブ厚が同じであれば,二相域圧延を適用した場合にはγ域での圧下量がとれず,本来の制御圧延効果によるフェライト細粒化が不十分となり,材質特性としての靭性向上効果を得られない場合があることを意味している。極厚材へ二相域圧延を用いる場合,圧延量の配分を十分考慮する必要がある。

(2)靭性に及ぼす集合組織の影響

極厚二相域圧延材では,制御圧延の観点からは1/2 t部よりも有利である1/4 t部の靭性が1/2 t部よりも低くなっている。これは,1/4 t部と1/2 t部の集合組織の差に起因するものと考えられる。

集合組織が靭性に与える影響のひとつに,(200)面の集積に起因するセパレーションがシャルピー試験において破壊の3軸応力度を緩和することによる靭性向上効果がある2,15)Fig.4に示す様に,集合組織の違いから1/4 t部ではセパレーションが発生していない事実は,1/2 t部に比較して1/4 t部の靭性が向上していないひとつの要因であると考えられる。

また,集合組織すなわち結晶異方性が靭性に与える影響を評価する方法として,破壊の駆動力となる応力軸と,へき開面である(100)面の法線との角度分布を解析することが提案されている16,17)。具体的には次式でもろさBを定義する。   

B = f ( φ 1 , ϕ , φ 2 ) cos 2 A sin ϕ d ϕ d φ 1 d φ 2 (1)

B:試験片のもろさ

f(φ1ϕφ2):結晶方位分布関数

φ1ϕφ2:オイラー角

A:試験応力方向とオイラー変換後の結晶粒の(100)方向のなす角

応力軸とある結晶粒の(100)面の法線との角度A,および実際のシャルピー試験片の位置関係をFig.11に示す。定性的に角度Aが小さい結晶粒が多い材料ほど,破壊に対する抵抗が小さく,(1)式のBは大きくなる。ぜい性破壊強度の結晶方位依存は因子cos2Aを介してあらわれる。Fig.11では例として{001}〈110〉方位の結晶粒を示しているが,この方位は圧延方向を応力軸とする靭性評価に対して,(100)面が45°の角度をなしており,破壊の抵抗が大きく,靭性が良好となる。しかし,圧延45°方向にシャルピー試験片を採取した場合には破壊の抵抗が小さくなる。二相域圧延材の靭性の面内異方性は定性的には応力軸に対する(100)面の集積度で説明できるとされている。

Fig. 11.

 Illustration of angle A in Eq.(1) defined by relationship between stress axis and crystalline orientation.

計算では実際に破壊に関与する結晶粒は角度Aの小さい結晶粒のみであるとして(1)式の積分範囲をAの小さい範囲に限定する。この計算手法によりBがシャルピー破面遷移温度とよい相関を示すことが報告されており16),本研究でも,積分範囲をA=0~20°とした。もろさの指標としては集合組織がランダムな材料のもろさをB0として,B/B0を算出した。

二相域圧延材(710 °C仕上)の1/2 t部,1/4 t部におけるもろさB/B0の応力方向依存性の計算結果をFig.12に示す。ここで,0°が圧延方向であり,圧延方向採取のシャルピー試験に対応する。さらに,圧延45°,90°方向のシャルピー試験を採取しvTrsを測定した結果をFig.13に示す。

Fig. 12.

 Relationship between calculated brittleness parameter and angle from rolling direction.

Fig. 13.

 Relationship between Charpy transition temperature and angle from rolling direction.

1/2 t部においては,B/B0は45°方向で最大となり90°で再び小さくなる。一方,1/4 t部では0°で最も大きくなっている。1/2 t部に関して,計算もろさと実測vTrsを比較すると,45°における靭性値の低下は,よく対応しているが,0°と90°でのB/B0と実測vTrsは対応していない。これは,結晶粒の展伸による有効結晶粒径の異方性が影響していると考えられる。

1/4 t部では0°方向のB/B0が最も大きく,1/2 t部に比較して靭性が低位であったことと対応している。{110}〈001〉方位ではへき開面である(100)面の法線と,応力軸が一致しており,予想された計算結果である。1/4 t部におけるvTrsの面内異方性はあまり顕著ではなかった。B/B0の値は90°方向で靭性向上を示唆しているが,これも前述した有効結晶粒径の異方性が関与しているものと考えられる。

以上の様に,二相域圧延を極厚材に適用した場合,板厚位置によって靭性に及ぼす効果が異なることがわかった。制御圧延時の板内の歪分布に起因した板厚方向の集合組織の分布により,特に1/4 t部の靭性は従来の薄肉材と比較して大きく異なってくる。

本研究での圧延実験は小型のラボ圧延機によって行っているが,実際の厚板圧延ではロール径が大きく,歪分布が異なってくると考えられる。また,圧延中のせん断歪の大きさはパス数や圧下率にも依存するが9),これらの影響についても極厚材の材質制御の観点から今後検討する必要がある。

また,本実験でのγ域圧延材は集合組織の発達していない例として強集合組織鋼である二相域圧延材との対比であった。しかし,γ域での制御圧延であっても,ベイナイトあるいはマルテンサイト鋼では強い集合組織が発達する13,18,19)。低温変態組織を活用した非調質高強度鋼でも制御圧延による靭性向上が図られおり,この様な鋼でも極厚材では板厚方向の集合組織分布に起因した材質分布が生じ,機械的特性の制御に配慮する必要があると考えられる。

5. 結言

極厚鋼板を対象としてγ域~二相域仕上とした制御圧延実験を行い,圧延材の機械的特性を評価した。特に,靭性指標としてのシャルピー破面遷移温度の板厚位置依存性を調査し,板厚方向に現れる集合組織分布との関連について考察した。

(1)極厚材に二相域圧延を適用した場合には,実質的に圧下量が制限されるため,オーステナイト域での圧延量の不足からフェライトの細粒化が不十分で,靭性向上効果が得られない場合がある。

(2)板厚方向に集合組織の分布が存在する。1/2 t部においては,従来の二相域圧延材と同様に(200),(111)面が集積し,フェライトの圧延集合組織である{001}〈110〉と変態集合組織である,{113}~{112}〈110〉,{332}〈113〉が主方位となる集合組織が形成される。しかし,1/4 t部では(110)面が集積し,(200),(111)面の集積度は小さく,フェライトのせん断加工による集合組織である{110}〈001〉方位(Goss方位)が発達する。制御圧延時の板内の累積せん断歪の分布と(110)面の板厚方向分布は定性的に一致した。

(3)圧延方向の靭性は1/2 t部に対して1/4 t部で低くなった。これは1/2 t部では見られたセパレーションによる靭性向上効果が得られなかったことと,1/4 t部では試験応力軸に垂直な面にへき開面が集積しているためと考えられる。靭性に及ぼす集合組織の影響を,3次元結晶方位分布関数と引張応力軸との関係から計算されるもろさBを用いて評価した。その結果,靭性の面内異方性を含めたvTrsの変化を集合組織によって半定量的に説明できた。

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