Tetsu-to-Hagane
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Ductile to Brittle Transition Behavior in Cast Duplex Stainless Steels
Osamu TakahashiMorio YabeYohei ShibuiYo Tomota
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2014 Volume 100 Issue 9 Pages 1150-1157

Details
Synopsis:

Influence of casting conditions and chemical compositions on ductile-to-brittle transition (DBT) behavior in duplex stainless steels was studied. Cleavage fracture of ferrite grain causes DBT in spite of ductile fracture of austenite grans at low temperature. Most influential factors on DBT temperature (DBTT) is chemical compositions, ferrite volume fraction and purity of cast steel. Compared with forged steels with similar fracture unit, the present cast steels show much lower DBTT, which is attributed to dispersed austenite grains that hinder the cleavage crack initiation and propagation. By using a serial sectioning 3D method, a group of austenite grains with an identical variant observed with a conventional 2D method was revealed to be connected each other.

1. はじめに

フェライト(α)−オーステナイト(γ)二相ステンレス鋼は,強度と延性の良好なバランスに加えて耐食性に優れ,様々な腐食性環境下で用いられている1,2)。複雑な形状あるいは大型機械部品は鋳造で製造されることが多い。一般に強度はαの体積率と粒径に依存する3)が,靭性に関してはα単相鋼と同様に延性−脆性遷移(DBT)を示すので注意が必要である4,5)。α相とγ相は熱膨張係数や弾性係数等の物性値の相違,塑性変形抵抗の差によって相応力が発生することが知られている。鋳造や熱処理後の相応力はα相で圧縮静水圧,γ相は引張の静水圧状態にある6,7)ので,α相のへき開破壊はγ相の存在によって抑制されると思われる。さらにγ相は低温でも延性破壊するので,脆性き裂進展の抵抗になると予想されるが,その詳細はあまり明らかでない。DBT温度(DBTT)は,鋳造条件およびその後の熱処理条件によって敏感に変化する。そのため,鋳造で製造された大型機器用部品の品質管理として,JIS A号30 kgキールブロックに鋳込んで検査用試験片を作製し衝撃試験を行うと,実機部品から採取した試験片によるDBTTより高く現れ,妥当な検査にならないことがある。これは,化学組成が同じでも鋳造条件の相違によってミクロ組織や清浄度が異なるためと推定される。また,近年はNi,Mo添加量を減らしてNを添加した廉価省資源鋼が使われる傾向がある。フェライト鋼やマルテンサイト鋼ではNi添加量の増加に伴って低温靭性が向上すると報告されている8,9)。したがって,省資源二相ステンレス鋼ではNiの減量によって靭性が低下しDBTT上昇が懸念される。衝撃吸収エネルギーに影響を及ぼすと予想される因子には,化学組成,αおよびγの体積率,形状,粒径,集合組織,および清浄度(Al脱酸処理に起因するAlNの析出,介在物,ガス等の鋳造欠陥)がある。この中で,通常の製品ではα体積率は鋳造後の熱処理によって50%前後に調整されている。一般に,圧延(鍛造)低合金鋼材ではDBTTがいわゆる破面単位(有効結晶粒径)によって整理される10,11)が,同様な破面単位の考え方が二相ステンレス鋳鋼にも適用できるか否かは疑問である。一方,低温用Ni鋼(圧延・熱処理鋼材)では,残留γの安定性,体積率および母相マルテンサイトとγ粒の結晶方位関係が低温脆性に影響を及ぼすことが知られている12)が,二相ステンレス鋳鋼に関してはあまり検討されていない。そこで,本研究では二相ステンレス鋳鋼におけるDBTTに及ぼす化学組成と鋳造条件の影響を検討した。

2. 実験方法

実験に用いた鋼の化学組成をTable 1に示す。ここで,鋼A1とA2はJIS G 5121 SCS11相当の鋼である。一方,鋼B1とB2ではNiとMoの添加量を減らし,オーステナイト形成元素であるNを添加してαとγの体積率の調整を可能にした鋼である(省資源二相ステンレス鋼)。鋼A1は鋳込み温度と鋳型材の影響を調べる目的で,Fig.1(a)に示すJIS A号30 kgキールブロックに次の4種類の条件で鋳込みを行った:①砂型,鋳込み温度1818K(1545 °C)(試料A1HS),②砂型,1763K(1490 °C)(A1LS),③金型,1818K(1545 °C)(A1HM),④金型,1763K(1490 °C)(A1LH)。これらの鋳塊を1393 K(1120 °C)で14.4 ks保持した後,水冷した結果,4種類の試料のα体積率は57~62%になった。鋼A2は現場製造ラインで外径850 mm,肉厚110 mm,長さ2 mの遠心鋳造管の製造に用いられた鋼で,化学成分は鋼A1とほぼ同じである。鋼A1が静止鋳造であるのに対して遠心鋳造であり,溶湯を加圧成形し,遠心力の差を利用して不純物を浮上分離させることができる。α体積率は45~55%であった。一方,鋼B1を用いて前述のキールブロックに金型静止鋳込み(B1M)と砂型静止鋳込み(B1S)を行った。鋼B2は現場製造ラインで汚泥遠心分離機(大型実機)用部品の遠心鋳造に使われた。いずれも溶体化処理を行った後,α体積率を約50%に調整するために1373~1313 K(1100~1040 °C)に保持後水冷した。α相の体積率はFischer社製フェライトスコープで測定し,一部ではさらに組織写真から面積分率で同定した。なお,両測定方法による結果の差は5%以内であった。

Table 1. Chemical compositions of steels used in this study (mass%).
SteelCSiMnPSNiCrMoN
A10.0711.020.540.0190.0136.8823.031.88
A20.0361.171.010.0220.0107.6023.642.34
B10.0170.670.970.0230.0024.1923.910.230.170
B20.0250.721.010.0220.0054.0923.610.210.169
Fig. 1.

 Schematic illustrations of cast samples and test specimens: (a) cross section of a cast block, (b) Charpy impact specimens and tensile specimen and (c) commercial cast part and specimens.

熱処理後に10×10×55 mm,2 mmVノッチのシャルピー衝撃試験片(JIS4号試験片)を作製した。衝撃試験片のノッチ方向をFig.1(b)に示す2方向になるよう採取した(aおよびbとする)。また,引張試験片もFig.1に示すように切り出した。鋼A2の衝撃試験片はFig.1(c)に示すように採取方向とノッチ方向が各々異なる試料を作製した(La,Lb,Tc1,Tc2,Ta,Tb)。なお,Fig.1(c)は円筒容器の一部を模式的に描いた図である。低温は液体窒素で冷却したエチルアルコール中,高温は加熱した油中に試験片を浸漬して試験温度を制御し,シャルピー衝撃試験を行った。

引張試験は直径6.25 mm,標点間距離25 mmの試験片を常温で万能試験機を用いて行った。遠心鋳造管の鋼A2はFig.1(c)において引張方向が凝固時のマクロ組織に対して異なる3方向(R,TおよびL方向)となるように採取した。鋼B2はT方向のみとしてキールブロック試験片との比較を行った。なお,後述の組織観察は試験後の試験片を用いて行った。

ミクロ組織観察には光学顕微鏡(OM),走査型電子顕微鏡(SEM)および電子線背面散乱回折(EBSD)解析を用いた。試料を機械研磨の後,303~323 K(30~50 °C)の10%シュウ酸水溶液中で電圧3 V/cm2で電解エッチングを行い,さらに水酸化カリウムと水酸化ナトリウムの混合液で腐食して観察したが,α粒界は明瞭に同定できないので,EBSD/IPFマップも参照してα粒径を同定した。また,Genus 3D(中山電機製)を用いて3 μmステップのシリアルセクショニングを行って得た50枚の組織写真を用いて,画像解析ソフトAmiraにより3次元(3D)組織イメージを構築した13)。結晶解析には,EBSDシステム(カメラ;TSL Lab view,解析ソフト;TSL OIM analysis 5)が導入された電界放射型電子顕微鏡(FE-SEM:Field Emission-Scanning Electron Microscope HITACHI S-4300SE)を用いた。EBSD測定時の加速電圧は20 kVとし,走査ステップサイズを1 μmとした。さらに,破断した試験片を用いて,氷水で冷却した1%テトラメチルアンモナイトクロライド−10%アセチルアセトンアルコール溶液中で電圧3 V/cm2で電解腐食を行い,α{110}のマイクロファセット14,15)を現出させて破面結晶方位の同定を行った16)

3. 実験結果および考察

3・1 ミクロ組織の特徴

鋼A1を用いて4種類の鋳造条件により得られたブロック断面のマクロエッチ組織をFig.2に示す。

Fig. 2.

 Macro-etched structures of cast steels: (a) A1HM, (b) A1LM, (c) A1HS, (d) A1LS and (e) A2.

冷却温度勾配の大きい金型鋳造材(A1HM,A1LM)では柱状晶の発達が顕著であるが,低温砂型鋳造のA1LSではほぼ全面が等軸晶である。鋼A2では柱状晶組織が発達している。(a),(b),(c)では大きな差が見られないが,マクロエッチングの写真がわかりづらいので各写真の右上に模式図を示した。このように鋳造条件によってマクロ組織が変化する。Fig.3に代表的な光学顕微鏡組織として柱状晶が主体のA1LMと等軸晶が主体のA1LSの例を示す(同じく柱状晶主体のA2の試料のミクロ組織はA1LMとほぼ同じであった)。マクロエッチで見られる粒の大きさはα粒に相当し,α粒界には膜状のγ粒が生成している。粒内にも多くのγ粒が分散しているように見えるが,後に述べるように同一バリアントの粒群は互いに連結している。本実験鋼の凝固はα相の発生によって開始すると思われ17),その成長に伴ってNiやNの濃縮した溶液からγ粒が生成したと推定される。冷却に伴って,あるいはα相体積率調整の熱処理時にα相からγ相が析出した可能性もある。圧延熱処理鋼を用いた飴山らの研究18,19)によると,αからのγ粒析出は次の順序で生じる:①α粒界への塊状γの析出,②α粒界上の塊状γの合体によるフィルムγの形成,③フィルムγからα粒内へ伸びるスパイクγの形成,④α粒内からのγの析出と続く。これらのγ析出の順序や形態にはMoやN量の影響は認められない。また,粒内に析出したγ粒の多くは双晶関係を有し同時にα母相とはKurdjumov-Sachs(K-S)関係({110}α//{111}γ,〈111〉α//〈110〉γ)20)を満足し,成長過程においてNi供給の不均衡が生じると内部にαを取り込んだパイプ状γになる18)。本実験鋼においてα相とγ相の結晶方位関係を調べるために行ったSEM/EBSD観察の例をFig.4に示す。(a)と(b)は鋼B2(全体のIPFマップとα相のみを抽出した図)の例で,(c)は鋼B1SのIPFマップである。両試料ともにα粒内には多くのバリアントのγ粒が生成しているが,広い領域にわたって同一バリアントのγ粒が集団的に存在するのが特徴である。α粒界を起点に発生したと思われるγ粒群に着目すると,γ粒は片方のα粒とKS関係を有している場合が多かった。このように,本鋼の場合にはα粒内へのγ相成長の様相は飴山らの場合とは異なり,凝固時に樹枝状に生成成長した可能性が高い。ここで,α粒の形状に注目すると,(a)はほぼ等軸粒であるが,(c)に見られるように鋼B1Sでは柱状晶組織が発達している。また,(b)で明らかなように,IPFマップによりα粒の大きさは確認することができるが,γ相の粒に関してはこのような2D観察のみでは形態がよくわからない。

Fig. 3.

 Optical microstructures of specimens: (a) A1LM and (b) A1LS.

Fig. 4.

 IPF maps obtained by EBSD: (a) B2. (b) ferrite grains extracted in (a), and (c) B1S.

そこで,Fig.5(a)に示す鋼B1Sのα粒界近傍のγ粒形状に関して3D観察を試みた。すなわち,シリアルセクショニング法により観察面を約3 μmずつ研磨を繰り返して,3D組織イメージを構築してみると,同一バリアントのγ粒が複雑に分岐・連結して成長していることが明らかになった。2つのα粒(α1とα2)の境に存在するFig.5(a)の楕円で囲んだAのγ粒の3Dイメージの構築結果を(b)と(c)に示す。(b)では(a)で対象となる同一バリアントのγ粒を,IPFマップと同じ色で塗って示した。α1粒内では分離して見えたγ粒が内部で連結している様子がわかる。α1とα2の両方で複雑な形態で成長している様子は,(b)の図を上下に180度回転した(c)の方がわかりやすい。α粒界をまたいで複雑なデンドライト的形態で成長するのは,凝固時に化学組成の不均衡17)が生じたことに起因すると推定される。α粒内のγ粒群に着目すると2D観察では同じバリアントのγ粒が切れ切れに集まっている領域がみられ,それらは3D観察によると互いに連結していた。鋳造材では圧延等の塑性加工による転位の導入がないためか,飴山らの前述④の粒内析出はほとんどみられなかった。ここで強調したいことは,粒内に点在して見えるγ粒のほとんどが3次元的には連結した集団であり,本論文の主題であるαの{100}へき開面と必然的に交差することである。しかも多くの場合にγ粒はα母相とKS関係を有しているので,{100}αとγのすべり面{111}は不連続であり,すべり分離する場合でもき裂の進展経路が屈折することになる。

Fig. 5.

 3D images constructed by serial sectioning with Genus 3D and a software Amira for steel B1S: (a) IPF map, (b) 3D image of austenite grain, and (c) 180 degrees rotated image of (b).

3・2 延性−脆性遷移(DBT)曲線

シャルピー衝撃試験を広範囲な温度で行い吸収エネルギーを試験温度に対してプロットした結果をFig.6に示した。上部棚および下部棚の衝撃吸収エネルギーの1/2の値を示す温度をDBTTとすると,Fig.6(a)の鋼B2では上部棚衝撃吸収エネルギーは約250J,下部棚衝撃吸収エネルギーは約10 Jなので130 Jを示すDBTTは約288 K(15 °C)である。以後,他の試料に対しても130 Jを示す温度をDBTTとして求めた。鋼B1MのDBTTは約318 K(45 °C)であり,鋼B1Sはそれよりも高い。

Fig. 6.

 DBT curves of duplex stainless cast steels: (a) B2 (curve ①), A1M (②) and A1S (③), (b) A1HMa, A1HMb, A1LM, A1HS (④). A1LSa and A1LSb (⑤), and (c) A2Rc1, A2Rc2, A2Lb and A2Ta (⑦), A2La, A2Tb (⑥), and A2HMaf, A2LSaf (⑧).

室温の衝撃エネルギー値が品質管理として要求される場合には,前者の鋼B2(実機)では合格しているのに,検査用の後者(B1M)では不合格と判断される。近年利用が増えてきた省資源二相ステンレス鋳鋼では,このような事例が同一溶湯から分注した実機と検査ブロックの間で生じることがあり対策が望まれている。

次に,JIS規格相当の鋼A1の結果をFig.6(b)に示す。鋳造条件および試験片ノッチの方向が異なる6種類の試料のDBTTは鋼B1,B2よりかなり低く,試験温度低下に伴う脆化遷移挙動も緩やかである。多様なミクロ組織の試料の実験結果が各々のバンド内にあり,両鋼の相違はミクロ組織よりも主として化学組成に起因すると考えるべきであろう。

図のバンド内の傾向を詳細に調べると,き裂進展方向の影響が強いようである。柱状晶主体の鋼A1HMと等軸晶主体の 鋼A1LSは組織形態が異なるにも係らず共にノッチb試験片のDBTTが高く衝撃エネルギーは同程度である。3方向のミクロ組織写真から1個の結晶粒体積を概算し14面体近似粒に置き換えて推定した4種類の試料のみかけのα粒径は,A1HM:1.49,A1LM:1.22,A1HS:2.62,A1LS:0.62 mmであった。したがって,結晶粒径とDBTTの間には有意な相関性は認めがたい。特に,粒径が最も小さく等軸晶の鋼A1LSのDBTTが高く,き裂の進行方向(ノッチaとb)による差異はbがやや高めである。一方で,室温の引張性質はFig.7に示すように強度も全伸びもα粒径が小さくなるに伴い明らかに大きくなる。そこで,α粒径以外の組織因子としてγ粒間隔を測定したところ,A1HM:14.1,A1LM:12.5,A1HS:34.5,A1LS:30.0 μmであった。後述のように,薄いγ粒は切断されやすいのに対して厚いγ粒ではき裂がα/γ界面に沿って屈折し,αへき開面が階段状になりやすい。γ体積率はほぼ一定なので,γ粒間隔が大きいほど,γ粒が大きく後者の状況になりやすいと考えられるが,DBTTと単純な相関関係はみられない。

Fig. 7.

 Effect of ferrite grain size on tensile properties for steel A1.

鋼A2のDBT曲線をFig.6(c)に示す。遠心鋳造材のDBTTはき裂進行方向による差異が認められるが,いずれも静止鋳造材よりも低い温度である。この原因として清浄度の差が考えられるので,JIS G 0555にしたがって清浄度を測定したところ,遠心鋳造材の0.092%に対して静止鋳造材は0.18~0.24%と約2倍であった。引張試験による強度はほぼ同じであったので,衝撃破壊が特に清浄度に敏感ということになる。試験片の採取方向による相違に着目すると,A2Rc1とA2Rc2のDBTTが最も高い。これは柱状晶の成長方向が〈100〉であり,粒界を超えてもき裂面に対して{100}面がほぼ連続しているためである。衝撃破断後の破面はきわめて平坦であり,粒界が破壊の抵抗にならなかったためと考えられる。わずかな差ではあるがノッチaとノッチbではaの方がややDBTTが高い。これは前述の静止鋳造材の場合とは逆の傾向であり,その理由は不明である。3方向から採取した試験片の引張試験結果はほとんど同じであったので,これは衝撃特性で見られる異方性である。

オーステナイト鋼の溶接ではαを混在させて溶接割れを抑制することが多い。α体積率が増すと脆性破面率が増えDBTTが上昇すると報告されている21,22)。原子力発電プラントに使用されている鋳造二相ステンレス鋼は573~723 K(300~450 °C)の高温で長時間使われるため,αの熱時効による脆化が問題となっており,α体積率が増加するとDBTTが高くなる5)。そこで本実験試料でもα体積率の影響を調べるために,鋼A1HMとA1LSを1533 K(1260 °C)で86.4 ks焼鈍してα体積率を80~95%に増加させた試料(A1HMafおよびA1LSaf)を作製した。その衝撃試験結果をFig.6(c)に示す。図にみられるようにα体積率の増加はDBTTを上昇させている。

3・3 破面とミクロ組織の関係(2面観察および3D観察結果)

SEMによる破面観察の例をFig.8に示す。(a)は鋼B1Mの室温における破面でノッチ底から中心部にかけて脆性破壊,外周部が延性破壊を呈している。中央部の平坦な破面がα粒のへき開破面である。213 K(−60 °C)で試験した鋼B1Sの試験片ノッチ底近傍の破面における3次元SEMイメージをFig.8(b)に示す。破面は帯状の凹凸を伴って階段状になっている様子が見られ,他の試料も同様であった。鋼A1の77 K(−196 °C)破断試験片を樹脂に埋め込み,切断,研磨,電解エッチングを行った後に,樹脂を取り除き,破面に{110}面から構成されるエッチピットを現出させた結果がFig.9である。2面観察法23)による(b)の結果から矢印で示すように破面上の帯状突起がγ粒の延性破壊した跡であることがわかる。さらに(a)に示す破面上に現出させたエッチピットはピラミッド状を呈しており,平坦なα相の破壊領域はほぼ{100}であることがわかる。斜めから見た(b)と真上から見た(a)の場所の対応を矢印で示した。

Fig. 8.

 Fractography of an impact specimen fractured at 213K (–60 ºC) for B1S: (a) macroscopic view and (b) 3D SEM image.

Fig. 9.

 Results of two-plane observation of a fracture surface obtained at 77 K (–196 ºC) for steel A1: (a) top view where facet pits showing nearly {100} are visible and (b) declined view to show the relationship between fracture surface and microstructure. Corresponding points are indicated by arrows in (a) and (b).

脆性破壊とミクロ組織の関係に関するEBSD測定例をFig.10(鋼B1S,213 K(−60 °C))に示す。写真内はひとつのα粒内にいくつかのバリアントのγ粒が存在する組織で,き裂はα粒内にC,B,Aで示すステップを作りながら平行に進んでおり,特定の結晶面で破壊したと想定される。ステップはBではα/γ界面あるいはγ粒のすべり破断面に沿って生成しているが,A,C点では2D観察だけではγ粒がステップ形成の原因であるとは判断しがたい。また,破面の結晶方位は切断研磨面のEBSD観察だけでは決められないので,破面の3D-SEM観察も用いた2面観察を組み合わせて検証を試みた。鋼B1Mの結果をFig.11に示す。(a)のミクロ組織に対応するEBSD/IPFマップを(c)に,そして3Dフラクトグラフィを(b)に示す。各図には同一場所をA,B,Cのラベルで示した。座標軸のND,RD,TDを(c)に挿入した図のようにとり,3D-SEMによる高さ測定結果から破面平坦領域の傾斜を求め,ND-TD平面(法線RDの面)からの傾き角を求めると,AB間およびBC間においてND回りにそれぞれ7.2°と10.9°であり,TD回りに14.2°,16.5°であった。破面AB間およびBC間のα粒のRD方向が各々[4 5 26]と[3 0 16](間に小角粒界が存在すると思われる)であり,ステレオ投影図上で破面の法線方向を求めると,いずれもほぼ[001]である。{100}はBCC金属のへき開面であり,二相ステンレス鋼中のα相も例外ではなかった。Fig.11(d)は(c)のAステップ近傍の拡大図である。破面近傍では結晶回転が見られるので,α粒もγ粒も塑性変形した後に延性破壊して大きなステップを形成したと推定される。

Fig. 10.

 IPF map of the cross section of the impact specimen fractured at 213 K (–60 ºC) for steel B1S, in which the steps of ferrite cleavage are indicated by A, B and C.

Fig. 11.

 Determination of crystal orientation of ferrite fracture surface for steel B1M: (a) Optical micrograph of the cross section of an impact specimen fractured at 213 K (–60 ºC), (b) 3D SEM image, (c) IPF map and (d) the details of the step at point A.

Fig.10,11で見られたようにγ粒が延性破壊してき裂が進むとき,αへき開面が連続する場合と階段状にへき開面を変える場合がある。α/γ界面に沿ってステップが変化する様相が明瞭に見える場合もあるが,ミクロ組織とのステップの関連が不明瞭な場合もあった。これは2D観察法の限界と思われるので,次に,シリアルセクショニング法により3D観察を試みた結果をFig.12に示す。鋼B1Sを用いてGenus 3Dにより毎回の研磨量を3 μmとし50回繰り返して得た一連の組織写真に対して3Dイメージを構築した。(a)と(b),(c)で対応するγ粒を記号AとBで示した。破面とγ粒の3次元関係が見やすいように(b)を回転した図が(c)である。この図で見ると上から進展してきたき裂((a)では左側から進展)がγ粒に突き当たり,γ粒をせん断分離(もしくは界面剥離)してステップを形成させた後,同じ方向にへき開破壊したと推定される。このようにγ粒は破壊の大きな抵抗になっている。

Fig. 12.

 3D images constructed by serial sectioning with Genus 3D and a software Amira for the B1S specimen fractured at 213 K (–60 ºC): (a) IPF map, (b) 3D image of austenite grains and fracture surface, and (c) a rotated view of (b).

3・4 ミクロ組織と延性脆性遷移温度(DBTT)の関係

上述の結果より二相ステンレス鋳鋼におけるDBTTの支配因子として,まず化学組成,次に清浄度とα(γ)体積率が重要な因子であった。実機においてα体積率は熱処理により約50%に調整されるので,Ni量の増加と遠心鋳造法による清浄度の向上がDBTTを低下させる,すなわち常温の衝撃エネルギーを高くする因子であろう。次の影響因子として,α粒径,γ粒分散状態および集合組織の金属組織因子があげられる。鋼A1ではα粒径よりもその形状とき裂進展方向の影響が大きかった。鋼B2のα粒径773 μmに対し,鋼B1Mでは1034 μm,B1Sでは1022 μmであり,α粒径の小さいB2のDBTTが低かった。いわゆる破面単位としては本鋼では組織と破面の観察よりα粒径に相当すると思われるので,圧延熱処理鋼の一般的なDBTTの粒径(破面単位)依存性の傾向24,25)と比較してみた。その結果,Fig.13にみられるように二相ステンレス鋳鋼のDBTTは圧延鋼の傾向よりかなり低い。これはγ粒が低温でも延性破壊するので,それにより破壊抵抗が増加する結果と考えられる。また,熱処理後に,両構成相の熱膨張率の差から,α相には圧縮静水圧応力が相応力として残留していること6,7)もへき開破壊の発生やき裂成長を抑制すると思われる。α粒では低温で双晶変形が生じへき開き裂を誘発する可能性があるが,γ粒の存在は変形双晶の発生を抑制する傾向がある26,27)。本試料のDBTT以下の試験で変形双晶が破面近傍で観察されたのは77 K(−196 °C)の試験のみであった。また,低温ではγ相の応力誘起マルテンサイト変態27)の影響も考えられるが,本実験では観察されなかった。

Fig. 13.

 Relationship between DBTT and ferrite grain size

二相ステンレス鋳鋼の中では破面単位の影響は明瞭にはみられない。Fig.13で鋼Bグループのみを見るとα粒径が減少するとDBTTが低下する傾向があるが,鋼Aグループでは見られない。鋼A2では同一試料においてき裂の進展方向によってDBTTが変化した。したがって,全体的にはα粒径,すなわち破面単位が小さくなるとDBTTが低下すると考えられるが,鋳造法で粒径を微細化するのは容易でなく,清浄度や組織形態異方性の制御も合わせて検討する必要がある。そのため製品の健全性をDBTTで評価する場合には,検査用にキールブロックに分注して作製した試料とは清浄度および組織形態が異なり,それらの影響が大きいことに留意する必要がある。

4. 結論

鋳造条件の異なる2種類の二相ステンレス鋼を用いてDBT挙動を検討した結果,以下のような結論が得られた。

(1)二相ステンレス鋳鋼は低温でα相がへき開破壊しDBTを示す。γ相は延性破壊もしくは界面に沿った延性破壊でへき開破壊進行の抵抗となりDBTTを下げる役割をする。α体積率が増すとへき開破面率が増しDBTTは上昇するが,実機では熱処理により50%程度に調整されるので,実際にはあまり問題にならない。

(2)シリアルセクショニング法による3D組織観察により,二相ステンレス鋳鋼中ではα粒内にバリアントの同じγ粒群が分岐・連結して生成し,へき開破壊進行の障害になる。

(3)二相ステンレス鋼のDBTTは化学組成の影響を強く受ける。Ni量を減らしNを添加した省資源鋼はJIS規格鋼より全体的にDBTTが高い。

(4)遠心鋳造材のDBTTは静止鋳造材より低い。JIS清浄度検査結果より,その原因は遠心鋳造材の清浄度が高いためと思われる。

(5)二相ステンレス鋳鋼の破面単位はα粒径に相当する。同じ破面単位で比較すると圧延熱処理した低合金鋼よりDBTTがかなり低い。DBTTに及ぼす破面単位の影響にはγ粒やα粒形状とき裂進展方向等の影響因子が重複する。

謝辞

本研究の一部は茨城大学学生・榛葉勝也(現在,(株)小野薬品工業),大学院生・大工原森(現在,(株)ヨロズ),栗原勇夫(現在,(株)日立製作所)の諸君により行われ,茨城大学工学部技術部・佐藤英男氏および茨城大学工学部・鈴木徹也教授,ニダック(株)研究技術部・松島正博博士および田中勝氏の支援を受けた。また,Genus 3Dによる観察には,鹿児島大学・足立吉隆および定松直両先生のご指導と装置購入に科研費基盤研究B(課題番号24360286)の支援を受けた。記して謝意を表する。

文献
 
© 2014 The Iron and Steel Institute of Japan

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