鉄と鋼
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復刻論文
「単相鋼と二相鋼における結晶粒成長(西沢泰二:鉄と鋼,70(1984),No.15,pp.1984-1992)」の論文紹介
木村 勇次
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2014 年 100 巻 9 号 p. R22-R23

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【選定理由】

すべての金属材料において,基地結晶粒の大きさや第2相粒子の分散状態は材料の力学特性などの諸特性に大きな影響を及ぼす。例えば,強度と靱性の向上には結晶粒径の微細化が有効であることは良く知られている。

鉄鋼材料では,オーステナイト相(γ)域からの冷却過程でフェライト(α)変態,パーライト変態,ベイナイト変態,マルテンサイト変態などの様々な固相変態が起こることが最大の特徴である。鋼の成分,塑性加工ならびに熱処理を組み合わせることで様々な組織を作り込むことができる。とくにγ粒径は鋼の固相変態に影響を与える。このため,γ粒径の制御に関しては古くからγの動的再結晶挙動,αからγへの逆変態挙動などの,膨大な量の研究が行われてきた。近年では,オキサイドメタラージをはじめとした,凝固に際してγ中に微細に分散する粒子を粒内α変態の核生成サイトに利用する組織制御技術が急速に発展した。また,低温域での大ひずみ加工による超微細結晶粒鋼の創製技術も発展した。

本解説論文では,例えばFig.1に示すように,鉄と鋼に掲載された著者らの論文の結果も含めて,α単相,γ単相,αとγよりなる二相(α+γ),および炭化物粒子の存在する(γ+NbC,γ+Fe3C(θ))の場合で結晶粒がどれだけ成長するのか,また,γ中に分散している炭化物粒子自体がどれだけ粗粒化するのかが,結晶粒の平均半径(R)と時間(t)の関係でまとめられている。粒成長の駆動力が“シャボン泡の成長モデル”から非常にわかりやすく説明されたうえで,単相組織,分散組織,二相混合組織における結晶粒成長則についての基本事項が解説され,結晶粒成長についての実験値と計算値が対応することが示されている。いずれの組織の場合も次式によって結晶粒成長が記述できることが示されている。   

( R ¯ ) n ( R ¯ 0 ) n = k n t

Fig. 1.

 1100 °Cにおける結晶粒と炭化物粒子の成長(高純鉄は計算値,Fe3Cと(Fe, Cr)3Cとは1000 °C以下のデータからの推定値)

ここで,指数nは単相組織では2,分散組織では3,二相混合組織では4または3である(Table 1)。また,成長速度定数knは拡散係数や粒界エネルギー,組織の構成相の組成などに基づいて推定できることも記述されている。Fig.2は,上式をもとに得られた,各種の組織における結晶粒の成長速度定数と事実上到達しえる限界の半径の推定値との関係を示す。この図より,各種の組織における結晶粒が各温度でどの程度の大きさに成長するのかを概略的に知ることができる。すなわち,本報では,データの集積だけでなく,結晶粒成長に関する総合的把握を意図した考察が行われている点に特徴がある。

Table 1.  粒成長の様式と指数nの関係
n 律速過程 組織
2 粒界移動 単相組織
3 体拡散 分散組織および一部の二相混合組織
4 粒界拡散 二相混合組織
Fig. 2.

 各種の組織における結晶粒の成長定数と到達半径の推定値

近年では,組織観察技術の著しい発展とコンピュター・シミュレーション法の導入により結晶粒成長に関するさらに正確な議論も行われるようになった。また,鉄鋼材料の実際の組織制御では,本報の前提条件である定常粒成長が適用できない場合も多い。しかしながら,本報は,鉄鋼材料の結晶粒成長を議論するうえで,基礎的な方向性を与えるものである。これから鉄鋼材料の組織制御を志そうとする研究者・技術者にはぜひ読んでいただきたい記事のひとつである。

 
© 2014 一般社団法人 日本鉄鋼協会

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