Tetsu-to-Hagane
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Recrystallization Behavior and Texture Evolution in Severely Cold-rolled Fe-0.3Mass%Si and Fe-0.3Mass%Al Alloys
Miho TomitaTooru InagumaHiroaki SakamotoKohsaku Ushioda
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2015 Volume 101 Issue 11 Pages 611-618

Details
Synopsis:

The effect of Si and Al additions on the recrystallization behavior of severely cold-rolled Fe by 99.8% reduction was investigated in comparison with a previous study on pure Fe6). In Fe-0.3mass%Si alloy, recrystallized grain with {411} <011> and {411} <148> preferentially nucleated at an early stage of recrystallization, and the texture did not changed substantially with the progress of recrystallization, which supports the oriented nucleation theory. The {411} <148> texture significantly increased at the expense of recrystallized grains with {100} <023> and {322} <236> during normal grain growth. In Fe-0.3mass%Al alloy, dynamic recovery during heavy cold-rolling and substantial subgrain growth during low temperature annealing (350˚C) occurred, similar to the case of pure Fe and different from that of Fe-0.3mass%Si alloy. This is presumably because of the subtle influence of Al addition on cross-slip frequency and smaller solute-vacancy interaction as compared with Si addition. Furthermore, at the early stage of recrystallization, nuclei had similar orientations as cold-rolling texture. With the progress of recrystallization, {100} <012> and {111} <112> orientations intensified. In the following normal grain growth, {100} <012> texture intensified. However, the change in the texture during growth cannot be explained only by the size effect. A rigorous grain growth simulation model is required to explain the experimental facts by considering the dependency of grain boundary mobility and energy on grain boundary characteristics.

1. 緒言

鉄鋼材料の再結晶集合組織の形成メカニズムは鋼種や冷間圧延の圧下率,焼鈍条件によって異なることが知られている。例えばVerbekenらは圧下率95%まで冷間圧延(以下,冷延と便宜的に略称する)された極低炭素鋼の再結晶過程を調べ,{554}〈225〉および{113}〈471〉方位を有する再結晶粒が,{112}〈110〉方位を有する未再結晶粒を蚕食して成長する配向選択成長説を報告している1)。一方,Grbernadoらは冷延圧下率95%のFe-3.2mass%Si合金の再結晶において,{113}〈361〉方位を有する再結晶粒が通常再結晶しない{100}〈011〉粒から優先的に核生成し,その核が成長して再結晶が完了する配向核生成説によって再結晶集合組織が形成されると述べている2)。このように同じ冷延圧下率95%でも,鋼種によって再結晶集合組織の形成メカニズムおよび形成される集合組織が異なっており,統一的な理解ができていない。このような中,Quadir and Dugganも強圧下冷延したIF鋼の加工組織(α繊維集合組織)の不均一変形と再結晶に注目した研究を行った3)。圧延面から観察した結果,α繊維集合組織のうち,{100}〈011〉は強加工で粒内に不均一組織が形成され,{411}再結晶粒の核生成サイトになる。一方,{211}〈011〉は安定方位であり加工組織は一様で,他のサイトから核生成した再結晶粒によって蚕食されると考えた。また,Honmaらも強圧下冷延した鉄の{100}〈011〉~{211}〈011〉の粒界部における局所歪領域から{h11}〈1/h, 1, 2〉再結晶粒が生成すると報告している4)。さらにWalter and KochはFe-3%Si合金の{100}〈001〉単結晶を10~90%冷延し,冷延組織の不均一性と再結晶集合組織について論じ,冷延安定方位は{100}〈011〉であるが,不均一な遷移帯が形成され,{100}〈001〉再結晶粒核生成サイトとなることを指摘した5)。{100}〈011〉圧延組織に見られる不均一組織の観点から,考慮すべき事実と考える。

また,冷延圧下率を著しく高めると{100}〈012〉再結晶集合組織が形成されることは従来から周知であるが,その起源については報告例も少なく6),現状では明らかになっていない。

これまでに筆者らは純鉄を圧下率99.8%まで強圧下冷延した場合に形成される加工組織,およびその加工組織からの再結晶挙動を調べ,99.8%の強圧下冷延材の集合組織には強いα繊維集合組織が形成され,このα繊維集合組織は非常に高いひずみ状態になっていることを示した6)。また,このようなα繊維集合組織は極めて低温から回復が進行し,再結晶が完了した後もα繊維集合組織成分の{100}〈011〉や{211}〈011〉が維持されること,核生成と成長型の再結晶ではあるが,連続再結晶に類似した組織変化が生じている事を明らかにした。さらに,再結晶完了後の粒成長過程において,再結晶粒の方位選択的な成長が起こり,{100}〈012〉が主方位となることを明らかにした。しかしながら,強圧下冷延された純鉄の再結晶集合組織に及ぼす添加元素の影響はまだ明らかにされていない。そこで本研究では,SiおよびAlの添加が再結晶集合組織の発達とその形成メカニズムにどのような影響を及ぼすのかについて明らかにすることを目的とした。

2. 実験方法

真空溶解炉を用いて純鉄に0.3mass%Siおよび0.3 mass%Alを添加した合金を作製した。それらの化学成分をTable 1に示した。作成したインゴットを圧延できる形状に整えるためにArガス雰囲気中で1200°Cに2時間保持した後,鍛造によって高さ250 mm,幅250 mm,長さ300 mmの形状に成形した。この鍛造材を再びArガス雰囲気中において1200°Cで2時間保持した後,板厚250 mmから50 mmまで15パスで熱間圧延を行った。ここで仕上げ温度はFe-0.3mass%Si合金は1004°C,Fe-0.3mass%Al合金は1021°Cといずれもオーステナイト域であり,常温まで空冷した。熱延板の平均結晶粒径はFe-0.3mass%Si合金およびFe-0.3mass%Al合金ともに約880 μmであった。この熱延板から冷延用の板厚50 mmの試験片を切り出し,この切り出し材を板厚0.1 mmまで冷延することによって,圧下率99.8%の冷延板を作製した。

Table 1. Chemical compositions of materials. [mass%]
CSiMnPSAlON
0.3%Si-Fe< 0.0010.3< 0.002< 0.002< 0.0003< 0.0020.00520.0005
0.3%Al-Fe< 0.0010.007< 0.002< 0.002< 0.00030.290.00250.0005

得られた冷延板を真空雰囲気中(~10−2 Pa)で昇温速度10°C/minで100°Cから800°Cの間の様々な温度に加熱後,保持せず直ちに炉内でArガスを試料に吹き付けて急冷した。冷延板試料および熱処理後の試料の組織観察は試料のTD(Transverse Direction)方向から光学顕微鏡,SEM-EBSD(Scanning Electron Microscope-Electron Back Scattering Diffraction Patterns)を用いて行った。光学顕微鏡観察では,ナイタール腐食した試料を用いた。SEM-EBSDはFe-SEM:Carl Zeiss製,OIM:TSL製の装置を使用し,加速電圧20 kV,ステップ間隔0.1 μmとし,1試料につき全板厚100 μm×圧延方向600 μmの領域で5視野の観察を行った。その際,SEM-EBSD用試料の観察面にはコロイダルシリカを用いて鏡面仕上げ研磨を施した。転位組織の観察には200 kV-電解放射型透過電子顕微鏡 (HF-2000:日立製作所製)を用いた。板厚断面の観察試料は以下のように作製した。まず,圧延方向に対して平行に厚さ約70 μmの薄片試料を切り出した。試料の切り出しには,加工中に試料温度が上がりにくいように試料台を液体窒素で冷却したイオンミリング装置を用いた。この薄片試料をツインジェット法によって電解研磨し,TEM観察用試料を作製した。熱処理にともなう硬さの変化を調べるため,マイクロビッカース硬さ試験機 (AKASHI製)を用いて,圧子荷重10 g,保持時間15 secの条件で各試料において10点測定を行い,その平均値を求めた。

3. 実験結果

3・1 強圧下冷延されたFe-0.3mass%Si合金およびFe-0.3mass%Al合金の加工組織の特徴

Fig.1(a)には強圧下冷延されたFe-0.3mass%Si合金の加工組織をTD方向からSEM-EBSDによって観察した結果を示す。Fe-0.3mass%si合金の加工組織は圧延方向に延びた繊維状であり,ほぼ同一方位を持つ繊維組織の板厚方向の幅は0.5~5 μm程度であった。Fig.1(b)には加工組織のODFを示す。このODFからわかるように,Fe-0.3mass%Si合金ではα繊維集合組織(RD//〈110〉)が強く発達しており,特に{100}〈011〉~{311}〈011〉と広い範囲に集積していた。

Fig. 1.

 (a) EBSD ND-orientation map observed from TD and (b) φ2=45˚ ODF section showing the cold-rolling texture of 99.8% cold-rolled Fe-0.3%Si alloy.

Fig.2(a)には強圧下冷延されたFe-0.3mass%Al合金の加工組織をTD方向からSEM-EBSDによって観察した結果を示す。Fe-0.3mass%Al合金の加工組織は,Fe-0.3mass%Si合金の加工組織と同様に圧延方向に延びた繊維状であり,同一方位を持つ繊維組織の板厚方向の幅は0.2~1 μm程度であった。また,熱延板の再結晶粒径はFe-0.3mass%Si合金とFe-0.3mass%Al合金でほぼ同じであったが,後者の方が{211}~{100}〈011〉と{111}〈011〉の繊維組織が細かく交互に配置している傾向があった。Fig.2(b)のODFに示したように,Fe-0.3mass%Al合金においてもα繊維集合組織が強く発達していた。最も集積していたのは{211}〈011〉であった。

Fig. 2.

 (a) EBSD ND-orientation map observed from TD and (b) φ2=45˚ ODF section showing the cold-rolling texture of 99.8% cold-rolled Fe-0.3%Al alloy.

3・2 Fe-0.3mass%Si合金およびFe-0.3mass%Al合金の再結晶挙動

熱処理に伴うビッカース硬度の変化を調べた結果をFig.3に示す。比較のため,99.8%の強圧下冷延した純鉄の硬度変化6)Fig.3にプロットした。Fe-0.3mass%Si合金の99.8%強圧下冷延材のビッカース硬度は310 HV程度であり,純鉄より高い硬度であった。100~400°Cまでの熱処理では,ビッカース硬度はほとんど低下せず,熱処理温度が再結晶開始直前である450°Cを超えると大きく低下した。一方,Fe-0.3mass%Al合金においては,熱処理前の99.8%強圧下冷延材のビッカース硬度はFe-0.3mass%Si合金よりも低く,270 HV程度であり,純鉄と同程度であった6)。熱処理を行うと,Fe-0.3mass%Al合金のビッカース硬度は250°Cから低下し始め,300~400°Cで硬度の低下が緩やかになり,再結晶が進行する450°Cを超えると硬度は大きく低下した。Fig.3から分かるように,冷延圧下率99.8%の純鉄と良く似ている傾向であった。

Fig. 3.

 Change in Vickers hardness as a function of annealing temperature for cold-rolled Fe-0.3%Si alloy, Fe-0.3%Al alloy and pure iron6) with reduction 99.8%.

Fe-0.3mass%Al合金で見られたように,熱処理温度の上昇に伴うビッカース硬度の低下が300~400°Cで一旦緩やかになる挙動に伴って,転位組織がどのように変化するのかを調べるために,冷延材および350°Cで熱処理した試料の板厚中心部における転位組織をTEMによって観察した。その結果をFig.4および5に示す。Fig.4(a)に示すようにFe-0.3mass%Si合金の冷延材の転位組織は圧延方向に平行に伸びた鮮鋭な薄いラス状の組織であった。ラスの内部には多数の転位が見られた。またラスの板厚方向の厚さは100~250 nm程度であり,ラス状組織中にはラス境界を横断するせん断帯と見られる大きなうねりがいくつも見られた。(b)に示すようにFe-0.3mass%Si合金を350°Cで熱処理を行った試料は,圧延方向に延びたラス状組織を示していた。ラス厚は150~350 nm程度と冷延材と比較すると1.5倍程度に厚くなっていた。また,サブグレインの形成が進行している事が確認された。特にせん断帯と見られるうねりの近傍で多数のサブグレインが見られ,その内部には多数の転位が見られた。

Fig. 4.

 TEM photographs of (a) cold-rolled and (b) annealed at 350˚C Fe-0.3%Si alloy observed from TD.

Fe-0.3mass%Al合金の場合をFig.5に示す。(a)に示した冷延材ではFe-0.3mass%Si合金と同様に圧延方向に平行に伸びた鮮鋭な極めて薄いラス状組織が見られ,ラスの内部には多数の転位が見られた。ラス厚は60~150 nm程度であった。また,ラス状組織にはラス境界を横断するせん断帯と見られる大きなうねりが見られ,その近傍には一部セル化したと見られる組織が見られた。Fe-0.3mass%Al合金を350°Cで熱処理を行うと,Fig.5(b)に示すように圧延方向に延びたラス状組織と多数の等軸的なサブグレインが見られた。ラス厚は150~400 nm程度であり,冷延材と比較するとラス厚は2.5倍程度太くなっていた。さらに,Fe-0.3mass%Si合金と比較するとラスが厚く,サブグレイン化が進行している様子が認められた。特に,せん断帯とみられるうねりの近傍では,等軸的なサブグレインが多数見られた。

Fig. 5.

 TEM photographs of (a) cold-rolled and (b) annealed at 350˚C Fe-0.3%Al alloy observed from TD.

熱処理に伴って組織がどのように変化していくのかをEBSDによって観察した。Fig.6には,Fe-0.3mass%Si合金を480~800°Cで熱処理した場合の組織変化の様子と,観察された再結晶粒の結晶方位を(100)正極点図上に示した。(a)には480°Cで熱処理した場合の組織を示した。観察視野の全面積に対する再結晶粒の占める面積の割合は0.1程度であった。観察された約80個の再結晶粒の方位を{100}正極点図上に示すと,{411}〈148〉や{411}〈011〉に近い方位であった。(b)には490°Cで熱処理した場合の組織を示した。再結晶粒の占める面積の割合は0.8程度であり,熱処理温度480°Cから490°Cの間に急激に再結晶が進行していた。再結晶粒の方位は{111}〈112〉~{111}〈110〉と{100}〈012〉~{311}〈136〉に分布していた。(c)には550°Cで熱処理した場合の組織を示した。観察視野全体が等軸の再結晶粒であり,観察視野全体が再結晶粒に覆われており,再結晶が完了していた。550°Cで見られた再結晶粒の方位は(b)から大きくは変化しておらず,{111}〈112〉~{111}〈110〉と{100}〈012〉~{311}〈136〉に分布しており,特に{100}〈012〉~{311}〈136〉への分布が強まっていた。(d)に示した700°Cでは,再結晶粒の粒成長が進行し,100 μmを超える粗大な再結晶粒が散見された。再結晶粒の方位は(c)で見られた{111}〈112〉や{111}〈110〉が消え,{100}〈012〉~{311}〈136〉への分布が強くなった。(e)には800°Cで熱処理した場合の組織を示した。再結晶粒の粒成長がさらに進行し,多くの再結晶粒が50 μmを超えていた。再結晶粒の方位は{100}〈012〉~{411}〈148〉に分布し,より特定の方位へ集積していた。

Fig. 6.

 Change in EBSD ND-orientation maps observed from TD as a function of annealing temperature for 99.8% cold-rolled Fe-0.3%Si alloy.

Fig.7には,Fe-0.3mass%Al合金を460~800°Cで熱処理した場合の組織変化の様子と,観察された再結晶粒の結晶方位を(100)正極点図上に示した。(a)には460°Cで熱処理した場合の組織を示した。観察視野の面積に対する再結晶粒の占める面積の割合は0.1程度であった。Fe-0.3mass%Al合金で観察された再結晶粒はFe-0.3mass%Si合金に比べると圧延方向に長い粒が多かった。またその方位は{111}〈112〉~{111}〈110〉および{100}〈011〉~{211}〈011〉に分布しており,Fe-0.3mass%Si合金に比べると多様な方位を有する再結晶粒であった。その中でも,{100}〈012〉~{311}〈136〉方位が優先的であった。(b)には480°Cで熱処理した場合の組織を示した。再結晶粒の占める面積の割合は0.5程度であった。観察された再結晶粒の方位は{111}〈112〉~{111}〈011〉と{100}〈012〉~{311}〈136〉に分布していた。再結晶粒は(a)に示した460°Cの場合と同様に,圧延方向に長い粒が多く見られた。(c)には550°Cで熱処理した場合の組織を示した。再結晶は完了していたが,(a)や(b)に示した組織と同様に圧延方向に長い再結晶粒が多かった。再結晶粒の方位は{111}〈112〉~{111}〈011〉と{100}〈011〉~{100}〈012〉に分布しており,Fe-0.3mass%Si合金よりもND//〈100〉軸回りに広い分布が見られた。(d)には700°Cで熱処理した場合の組織を示した。(c)に示す550°Cの組織よりも少し粒成長が進んでいた。再結晶粒の方位は(c)に示した550°Cの場合と大きく変化していなかったが,{100}〈011〉の強度が弱くなり,{111}〈112〉~{111}〈011〉と{100}〈012〉~{311}〈136〉に分布していた。(e)に示した800°Cの場合には,板厚方向に貫通するくらい粗大な再結晶粒となった。再結晶粒の方位は,{111}〈112〉~{111}〈011〉が消え,{100}〈012〉に集積していた。

Fig. 7.

 Change in EBSD ND-orientation maps observed from TD as a function of annealing temperature for 99.8% cold-rolled Fe-0.3%Al alloy.

再結晶完了後の粒成長に伴う集合組織の変化を求めるため,550°Cおよび700°Cで熱処理した場合の集合組織をFig.8および9にODFで示す。Fig.8にはFe-0.3mass%Si合金の場合を示す。再結晶が完了した直後である550°Cでは,(a)に示したように{100}〈012〉~{311}〈136〉方位と{111}〈112〉および{111}〈231〉が見られた。最も集積度が高かったのは{811}〈1, 8, 16〉であった。再結晶粒が粒成長した後である700°Cでは,(b)に示したように{411}〈148〉に集積し,{111}〈112〉および{111}〈231〉は見られなくなった。550°C焼鈍から700°C焼鈍に昇温した時の粒成長に伴うODFの変化を差のODFとして(b)−(a)で示した。Fe-0.3mass%Si合金では,粒成長に伴い{411}〈148〉の強度が著しく増え,{100}〈012〉および{322}〈236〉の強度が減少した。

Fig. 8.

 φ2=45˚ ODF sections of Fe-0.3%Si alloy showing textures followed by annealing (a) at 550˚C, (b) at 700˚C, and (b)-(a).

Fe-0.3mass%Al合金の場合をFig.9に示す。再結晶が完了した直後である550°Cでは,(a)に示したように{100}〈012〉~{322}〈236〉と{111}〈112〉に集積が見られた。再結晶粒が粒成長した後である700°Cでは,{100}〈012〉に強く集積し,{111}〈112〉の強度は低下した。550°C焼鈍から700°C焼鈍に昇温した時の粒成長に伴う集合組織の変化を差のODFとして(b)−(a)で示した。Fe-0.3mass%Al合金では,粒成長に伴い{100}〈012〉の強度が著しく増加した。

Fig. 9.

 φ2=45˚ ODF sections of Fe-0.3%Al alloy showing textures followed by annealing (a) at 550˚C, (b) at 700˚C, and (b)-(a).

再結晶が完了する550°Cで熱処理した試料について,{100},{411},{211}および{111}方位を有する再結晶粒をそれぞれ粒径毎に個数を調べた。Fig.10にはFe-0.3mass%Si合金の場合を示す。観察した再結晶粒は1842個であり,平均結晶粒径は11 μmであった。結晶粒径が平均粒径より小さい再結晶粒は{211}や{111}方位を有する再結晶粒の割合が多かった。一方,平均結晶粒径より大きい再結晶粒は{100}や{411}方位を有する再結晶粒の割合が多かった。結晶粒径が25 μmを超える再結晶粒は,{100}方位を有する粒が多く見られた。一方では,再結晶粒の方位によって平均粒径に大きな違いは見られなかった。

Fig. 10.

 Number fraction of recrystallized grains with various orientations annealed at 550˚C for Fe-0.3%Si alloy as a function of grain size.

Fig.11にはFe-0.3mass%Al合金の場合を示す。観察した再結晶粒は1650個であり,平均結晶粒径は13.0 μmであった。結晶粒径が平均粒径より小さい再結晶粒においては,0.3mass%Si-Fe合金の場合よりも多様な方位が見られた。一方,平均結晶粒径より大きい再結晶粒は,{100}や{411}方位を有する粒が多く,特に30 μmを超えるような大きな再結晶粒は{411}方位を有する傾向が高かった。しかし,Fe-0.3mass%Al合金の場合にも,再結晶粒の方位によって平均粒径に大きな違いは見られなかった。

Fig. 11.

 Number fraction of recrystallized grains with various orientations annealed at 550˚C for Fe-0.3%Al alloy as a function of grain size.

4. 考察

4・1 Fe-0.3mass%Si合金の再結晶挙動

Fe-0.3mass%Si合金の加工組織はFig.1(a)に示すようにラス厚が50~250 nm程度の圧延方向に延びた繊維状組織であった。冷延前の粒径が880 μmであったことから,99.8%冷延後には冷延前の結晶粒界の板厚方向の距離は約2 μmと予想される。従って,強圧下冷延により冷延前の結晶粒が微細にラス化していることが分かる。また,(b)に示すように冷延集合組織はα繊維集合組織が強く発達しており,特に{100}〈011〉~{311}〈011〉に強く集積していた。強圧下冷延された純鉄の場合には,冷延集合組織はα繊維集合組織が強く発達し,特に{411}〈011〉に強く集積しており,Fe-0.3mass%Si合金と純鉄の強圧下冷延集合組織には差異が見られた。この加工組織はFig.3に示すようにビッカース硬度が310 HV程度であり,純鉄やFe-0.3mass%Al合金よりも高く,Fe-0.3mass%Si合金では加工硬化が進んでいたことが示唆される。BarretらはFe-Si合金について4mass%のSiによってすべり系が{011}〈111〉に限定されることを報告している7)。またGriffiths and Rileyは,SiがFeに固溶するとFeの積層欠陥エネルギーを低下させ,転位の交差すべりが抑制されることを報告している8)。本研究におけるSi量は0.3mass%と低いが,活動するすべり系が限定される,あるいは交差すべりが抑制されたために加工硬化が進んだ可能性がある。Fe-0.3mass%Si合金の冷延集合組織の最も強く集積した方位が,同じ圧下率の純鉄と異なった理由としても,Siの固溶によってすべり系が限定あるいは交差すべりが抑制されたことが考えられる。

熱処理を行うと,Fe-0.3mass%Si合金のビッカース硬度は400°Cまでほとんど低下せず,450°Cになると低下し始めた。この挙動はFig.3に示したように,純鉄やFe-0.3mass%Al合金とは異なる。この点については次節4.2で詳しく述べる。また,Fig.4に示すように,冷延板で見られたラス厚と350°Cで熱処理された後の試料で見られたラス厚が1.5倍程度しか変化しなかったことから,ビッカース硬度が400°Cまでほとんど低下しなかったと考えられる。Fig.6に示したように480°C以上の温度での熱処理によって再結晶粒が確認されたことから,Fe-0.3mass%Si合金のビッカース硬度は再結晶の開始に伴って大きく低下したと考えられる。先述のようにすべり系が限定7)あるいは交差すべりが抑制される8)と,転位の再配列が難しくなり,Fe-0.3mass%Si合金は純鉄やFe-0.3mass%Al合金と比較して,圧延ままの状態で転位の再配列が遅れていると考えられる。また,Si添加により交差すべりが抑制される8)と,刃状転位の割合が相対的に増加すると考えられる。熱処理時の回復では,刃状転位の上昇運動が支配因子の一つと考えられている9)。しかし本研究においては,Fe-0.3mass%Si合金の回復は純鉄やFe-0.3mass%Al合金より遅かった。したがって,冷間圧延ままの状態で刃状転位成分が多くても,回復が早くなるわけではないことが示唆される。一方,熱処理温度が450°Cを超えると,それまで抑制されていた転位の移動,消滅が急激に起こるようになり,再結晶が進行したと考えられる。この際,Fig.4(a)に示したせん断帯は,強圧下冷延したα繊維集合組織に不均一性を与え,α繊維集合組織からの再結晶を促進する役割を果たしていると考えられる。また,Walter and Kochが述べる遷移帯が核生成サイトとしての役割をはたしている可能性もある5)

Fe-0.3mass%Si合金ではFig.6(a)に示すように,再結晶初期に発生する再結晶粒の方位は{411}〈011〉や{411}〈148〉が多く見られることから,特定の方位の再結晶核が生成する配向核生成であると考えられる。このことは,前報の純鉄において,再結晶核が圧延集合組織成分と類似の方位を有していた結果とは異なる6)。再結晶の進行に伴って,Fig.6(b)に示すように{111}〈011〉~{111}〈211〉と{100}〈012〉~{311}〈136〉を有する再結晶粒が見られるようになった。再結晶が完了した550°CでもFig.6(c)に示すように,{111}〈011〉~{111}〈211〉と{100}〈012〉~{311}〈136〉に分布しており,(b)から大きな変化は見られなかった。この結果は,Verbekenらが報告した配向選択成長説,すなわち{113}〈471〉方位を有する再結晶粒が{112}〈110〉方位を有する未再結晶粒を蚕食して成長する傾向1)が,強圧下冷延されたFe-0.3mass%Si合金では弱いことを示唆している。さらに,再結晶が完了し(550°C),粒成長が進行すると(700°C),Fig.6(d)に示すように{111}〈011〉~{111}〈211〉が消え,{411}〈148〉を中心に{100}〈012〉~{311}〈136〉への集積が高まった。これらの結果から,550°Cから700°Cの間の粒成長過程において,配向選択成長が起こったと考えられる。この配向選択成長では,Fig.8における差のODF(b)-(a)に示すように,{411}〈148〉の強度が強くなり,{100}〈023〉,{322}〈236〉の強度が弱くなった。このことから,Fe-0.3mass%Si合金は再結晶完了後の粒成長によって,{411}〈148〉方位を有する再結晶粒が{100}〈023〉や{322}〈236〉方位を有する再結晶粒を喰って,選択的に成長したと考えられる。

4・2 Fe-0.3mass%Al合金の再結晶挙動

Fe-0.3mass%Al合金の加工組織はFig.2(a)に示すようにラス厚が60~150 nm程度の圧延方向に延びた繊維状組織であった。(b)に示すように冷延集合組織はα繊維集合組織が強く発達しており,特に{211}〈011〉に強く集積していた。α繊維集合組織が強く発達している冷延集合組織であることは,Fe-0.3mass%Si合金と同じであったが,もっとも強く集積していた方位はFe-0.3mass%Si合金の{100}〈011〉~{311}〈011〉とは異なっていた。これはSiとAlのすべり系に及ぼす影響による違いが原因と考えられる。前報で示した純鉄の99.8%冷延集合組織は{411}〈011〉を中心にしたα繊維集合組織であり,{100}〈011〉まで広がっていない。この結果から,Fe-0.3mass%Al合金の冷延集合組織は純鉄に近いと思われる。Fe-0.3mass%Al合金の冷延材のビッカース硬度はFig.3に示すように純鉄と同程度であった。熱処理を行うと,ビッカース硬度は熱処理温度200°Cから低下し始め,300~400°Cで低下が緩やかになり,熱処理温度が450°Cを超えると再び低下する傾向を示した。この傾向はFe-0.3mass%Si合金とは異なり,純鉄と良く似ていた。Fig.4(a)に示したFe-0.3mass%Si合金と比較すると,Fig.5(a)に示したFe-0.3mass%Al合金におけるラス内の転位は,強圧下冷延ままの状態で既に整理されているように見え,強圧下冷延中にFe-0.3mass%Al合金では動的回復が生じている可能性がある。また,Fig.5(b)に示すように,350°Cで熱処理を行った後の転位組織は,(a)に示す冷延材と比べてラス状組織の厚さが2.5倍程度太くなっていた。Siと比較するとAlはFeの交差すべりを抑制する効果は小さいと考えられ,純鉄と同様に転位の交差すべりが比較的容易であると考えられる。これは,Fig.3に示したようにFe-0.3mass%Al合金ではFe-0.3mass%Si合金より低温で回復が始まることと一致する。すなわちFe-0.3mass%Al合金は純鉄と同様に比較的低温で転位の再配列やラス境界の移動が生じ,転位密度の低下やラス状組織の粗大化や等軸化が起こったと考えられる。

冷間圧延された材料を加熱していくと,まず点欠陥の消滅が起こり,続いて転位の消滅や再配列が生じる。同一すべり面上にある転位はすべり運動により合体消滅できるが,異なるすべり面上にある場合にはらせん転位の交差すべりや,刃状転位の上昇運動による合体消滅が必要である10)。転位が上昇運動するためには空孔が必要であるが,空孔と溶質原子との相互作用エネルギーや,転位密度と転位の性格,交差すべりの起こりやすさを考える必要がある。鋼中のSiはAlと比較して固溶強化能が大きい11)ことから,空孔との相互作用も大きいことが推察される。また鋼中のSiは交差すべりを抑制するとの報告8)もあることから,Siが熱処理に伴う回復における転位運動に大きく影響していると考えられる。

Fig.7(a)に示すように,Fe-0.3mass%Al合金においては再結晶初期に発生する再結晶粒の方位は{111}〈112〉~{111}〈011〉や{100}〈011〉~{100}〈012〉や{411}〈148〉に比較的広く分布しており,Fig.6(a)に示すFe-0.3mass%Si合金とは異なっていた。再結晶初期に発生する再結晶粒が多様な方位を有していたことから,前報の純鉄の場合と同様に配向核生成の傾向は弱いと考えられる。しかし,再結晶分率が0.1から0.5に増加すると(b)に示したように{100}〈012〉~{311}〈136〉および{111}〈112〉~{111}〈011〉への集積が見られた。さらに,(c)に示すように再結晶が進行するのに伴い,再結晶粒の方位に大きな変化はなく,{100}〈012〉~{311}〈136〉と{111}〈112〉~{111}〈011〉に分布する再結晶粒が増加した。再結晶が進行しても,集合組織が大きく変化しない挙動は,強圧下冷延された純鉄の挙動と良く似ている。また,550°Cから700°Cの粒成長に伴い,Fig.9の差のODF(b)−(a)に示したように{100}〈012〉が著しく増加し,{111}〈112〉~{111}〈011〉が消えた。この結果から,Fe-0.3mass%Al合金においては粒成長の過程において,方位選択的な粒成長が起こり,{100}〈012〉集合組織が形成されたと考えられる。また,この粒成長に伴う集合組織の変化は,強圧下冷延された純鉄6)と良く似ていた。

4・3 再結晶粒の粒成長

Fe-0.3mass%Si合金では再結晶粒の正常粒成長によって{411}〈148〉が選択的に成長し,Fe-0.3mass%Al合金では{100}〈012〉が成長した。Hillertらは,半径Rの結晶粒について,粒成長の速度を(1)式で示している12)。   

dRdt=αMγ(1Rav1R)(1)

ここでMは粒界モビリティー,γは粒界エネルギー,Ravは平均結晶半径,αは幾何学的影響を考慮するための1程度の補正値である。(1)式から,粒成長の速度は結晶粒の半径が平均値よりも大きい場合には正で結晶粒はますます大きくなり,一方で平均値より小さい場合には縮小・消滅することがわかる。550°CのFe-0.3mass%Si合金およびFe-0.3mass%Al合金において,いずれの方位の再結晶粒の粒径も平均結晶粒径と大きな違いはなかった。さらにFig.10に示すようにFe-0.3mass%Si合金において結晶粒径20 μmを超える大きな再結晶粒は{100}粒が多く見られており,粒成長後に主方位となった{411}〈148〉ではなかった。Fe-0.3mass%Al合金の場合には,Fig.11に示すように結晶粒径20 μmを超える大きな再結晶粒は{411}粒が多く,粒成長後に主方位となった{100}〈012〉ではなかった。したがって,Fe-0.3mass%Si合金やFe-0.3mass%Al合金の粒成長に伴う集合組織変化は,必ずしもHillertらが示したサイズ効果だけでは説明できず,隣接粒間の粒界モビリティーや粒界エネルギーを考慮した粒成長モデルの検討が必要であると考えられる。

5. 結言

強圧下冷延されたFe-0.3mass%Si合金およびFe-0.3 mass%Al合金の再結晶挙動と集合組織の発達について調べた結果,以下の事が明らかになった。

1)Fe-0.3mass%Si合金では,回復が抑制され,再結晶の開始によってビッカース硬度が大きく低下した。再結晶初期に{411}〈148〉~{411}〈011〉方位を有する再結晶粒が多く見られ,配向核生成機構によって再結晶集合組織が形成されたと考えられる。その後の正常粒成長により,{411}〈148〉方位が選択的に増加することが明らかとなった。

2)Fe-0.3mass%Al合金では350°Cまでの熱処理によってラス状組織からサブグレインの粗大化とその等軸化が進行した。これらの挙動は強圧下冷延された純鉄と類似しており,Al添加鋼はSi添加鋼と比べて空孔や転位の運動とそれに伴う転位の消滅や再配列が容易なためと考えられる。再結晶核は多様な方位を有しており,配向核生成の傾向は弱いと考えられる。一方,再結晶の進行に伴い,{100}〈012〉と{111}〈011〉~{111}〈112〉への高集積化が見られた。その後の粒成長により,{100}〈012〉方位が選択的に増加した。

3)Fe-0.3mass%Si合金およびFe-0.3mass%Al合金に見られた上記1)および2)の方位選択的な粒成長はサイズ効果では説明できないため,隣接粒の粒界の易動度や粒界エネルギーの粒界性格依存性を考慮する必要があると考えられる。

文献
 
© 2015 The Iron and Steel Institute of Japan

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