鉄と鋼
Online ISSN : 1883-2954
Print ISSN : 0021-1575
ISSN-L : 0021-1575
論文
溶鋼中介在物の異種凝集に関する理論モデルの構築とその検証:第二報 コールド・モデル実験
新井 宏忠中村 悠季嶋﨑 真一谷口 尚司
著者情報
ジャーナル オープンアクセス HTML

2015 年 101 巻 2 号 p. 139-147

詳細
Synopsis:

A cold model experiment on the hetero-coagulation of inclusion particles in liquid steel has been performed to verify the hetero-coagulation model developed in the previous study. In this study, a cold model experiment of coagulation in electrolyte solution has been conducted in an agitated vessel under turbulent flow condition. Binary suspension of polymethyl methacrylate having different sizes was used in the experiment. Thus, this experiment means a pseudo hetero-coagulation phenomenon. The experimental results have been compared to the calculation ones. As a result, the model has almost agreed with experimental values on a change in particle number density with time. In addition, a generation behavior and a structure of aggregates have been discussed based on the calculation results.

1. 緒言

第1報1)において,異種凝集現象,特に異種乱流凝集に着目し,その理論モデルを構築した。理論構築では,従来のポピュレーションバランス式(以下,PBE)を拡張し,異種凝集に関するPBEを導出した。また,異種凝集PBEを計算するために,少ない計算量で粒子の質量を保存したまま凝集の進行を精度良く表現可能なPSGH(Particle-Size-Grouping for Hetero-coagulation)法を新たに開発した。

異種凝集の特徴として,衝突する1対の粒子の大きさが異なる,粒子間相互作用が衝突粒子対によって変化する,といった点が挙げられる。これらの影響は粒子間相互作用として凝集係数に考慮されるべきものである。第1報で構築した異種凝集モデルでは,異種凝集体間のLondon-van der Waals力(以下,LvdW力)と衝突粒子間の粒径比の影響を組み込んだ凝集係数によって考慮した。

本報では,第1報で構築した異種乱流凝集理論を検証するため,機械式攪拌槽を用いた水モデル実験を行った。第1報では,異種凝集体間の分子間力は衝突する粒子間それぞれに応じて実効Hamaker定数を置き換えればよいので,モデル上の本質的なパラメータではないとした。そこで本報の水モデル実験では,検証の第1ステップとして第1報で構築した異種凝集モデルを同材質であるが大きさの異なる粒子系に適用し,影響の大きい粒径比に着眼して本モデルの妥当性を検証した。

2. 実験

2・1 装置

Fig.1に水モデル実験に使用した装置構成の概略図を示す。機械式攪拌槽は,内径96 mm,高さ200 mmの邪魔板付アクリル製円筒容器を使用した。邪魔板は内壁に90°毎に4枚取り付けられており,幅20 mm,厚さ2 mmで完全邪魔板条件2)を満たしている。攪拌槽の外側は角型ジャケットで囲み,攪拌槽と角型ジャケットの間に水道水を満たして恒温槽とした。攪拌翼には2枚パドル翼を用いた。本実験では,攪拌槽の液面(150 mm)をシリコーンシートで覆い,粒子の液面付着を防止した。これは,実験に使用する粒子が比較的大きく,長時間の実験では液面付着の影響が無視できなくなるためである。

Fig. 1.

 Experimental setup for pseudo turbulent hetero-coagulation experiment.

攪拌槽内の平均乱流エネルギー消散速度は,トルクメータを用いて予め各種条件下における攪拌トルクを測定し,次式から計算した3)。   

ε = k s × 2 π n s T s M (1)

ここでnsは攪拌速度(s−1),Tsは流体の攪拌に要するトルク(N·m),Mは攪拌槽内の液体の質量(kg)である。式中の係数ksは,攪拌によって系に投入されたエネルギーの一部が流体中で乱流のエネルギーカスケードによって消散することを考慮した装置定数であり,本研究ではks=0.5とした4)

2・2 使用粒子

実験に使用した粒子は,粒子径の異なる2種類の真球状PMMA粒子(Poly Methyl Methacrylate)である(綜研化学株式会社:MX-300,MX-800)。PMMA粒子の粒子径分布をFig.2に示す。いずれも単分散性の良い粒子である。最頻径はそれぞれ2.7 μm,7.9 μmであるので,本実験では2つの粒子をPMMA-2.7,PMMA-7.9と呼ぶ。粒子は超音波分散装置を用いて事前に蒸留水中に懸濁させ,高濃度の分散液を作製した。

Fig. 2.

 Particle size distributions of PMMA-2.7 and PMMA-7.9.

PMMA粒子は,水中では電気二重層による反発力が生じるため,電解質を用いてその影響を打ち消す必要がある。本実験では,KCl水溶液を用いて水中のイオン濃度を増加させて電気二重層を薄くし,反発力が無視できる条件(急凝集条件)を設定した。予備実験より,PMMA-2.7粒子ではKCl水溶液の濃度はCKCl=3 mol·L−1と決定したが,PMMA-7.9粒子の場合,この条件においても理論凝集曲線に従わず凝集遅れがみられた。そこで,水分子間の水素結合を弱めるために,さらにエタノールを3 mol·L−1のKCl水溶液に添加し,かつ分裂の影響を抑制するために初期粒子個数濃度を低下させた5)。これにより,PMMA-2.7粒子,PMMA-7.9粒子ともに理論凝集曲線に従う条件は,エタノール添加量4 wt%,初期粒子数濃度1.0×1011 m−3以下と決定した。

2・3 実験方法

KCl水溶液を約60分間脱気し,水溶液を攪拌槽に満たした後,エタノールを添加する。所定の温度と攪拌速度に設定し,PMMA粒子分散液を投入する。所定時間に攪拌槽内の液の一部(2.5 mL)をサンプリングし,Electric-Sensing-Zone法(Coulter Counter II)により粒子個数を測定した。実験中は恒温槽を用いて溶液温度を一定に保持した。

実験は,PMMA-2.7粒子とPMMA-7.9粒子の個数比RNおよび攪拌速度を変化させて行った。実験条件および物性値をTable 1にまとめて示す。

Table 1.  Experimental conditions.
Initial total number density of particle 1 and 2, Nt0/m–3 (2.6~11)×1011
Initial total number density of particle 1, nt1,0/m–3 (1.2~9.9)×1011
Initial total number density of particle 2, nt2,0/m–3 (1.3~1.5)×1011
Number ratio (Particle 1/Particle 2), RN (=nt1,0/nt2,0) 1, 4, 8
Agitation speed, ns/rpm 200, 400
PMMA particle Mode diameter/μm Particle 1 (PMMA-2.7) 2.67
Particle 2 (PMMA-7.9) 7.86
Density, ρP/kg・m–3 1200
Hamaker constant, A131/J 1.05×10–20†
Liquid KCl concentration, CKCl/mol・L–1 3
Ethanol concentration, CEth/wt.% 4
Density, ρL/kg・m–3 1130
Viscosity, μ/Pa・s 9.27×10–4
Temperature, T/K 298

† Literature data: 8)

3. 計算方法

第1報で導出した異種凝集ポピュレーションバランス式に対してPSGH法を適用し,粒子個数濃度の計算を行った。PSGH法の計算条件をTable 2に示す。数値計算法にはRunge-Kutta-Gill法を用いた。

Table 2.  Conditions of PSGH method.
Maximum number of each group for particle 1 and 2, M 21
Volume ratio, Rv (= vk,0/v(k-1),0 = v0,n/v0,(n-1)) 2.0
Time step, Δt+ 0.0001 or 0.001

Table 3には各グループ番号と代表粒子径の対応を示すが,グループ間の衝突頻度はこれらの代表粒子径で計算される。単位粒子の場合,代表径は実験に使用した粒子の最頻径とした。PSGH法においては,第1種および第2種のみからなる粒子グループは,代表体積の比が2となるように分割されるので,代表粒子径は21/3倍ずつ増加する。異種凝集体の場合は,代表体積はそれを構成する第1種および第2種粒子の体積の和であるので,これを体積相当径に換算したものを代表粒子径としている。また,グループ番号(Group(k, n))とそのグループ内の凝集体を構成する最小粒子(以下,単位粒子)の個数との関係はTable 4の通りである。

Table 3.  Relation between PSGH group and characteristic diameter.
Group (k, n) Unit: μm
k n 0 1 2 3 4 5
0 7.86 9.90 12.48 15.72 19.81
1 2.67 7.96 9.97 12.52 15.75 19.82
2 3.36 8.06 10.03 12.56 15.77 19.84
3 4.24 8.25 10.16 12.64 15.82 19.87
4 5.34 8.61 10.40 12.79 15.92 19.93
5 6.73 9.24 10.85 13.10 16.12 20.06
Table 4.  Relation between PSGH group and number of unit particle in an aggregate.
PSGH group number, k or n Number of unit particle
1 1
2 2
3 3 ~ 5
4 6 ~ 11
5 12 ~ 23

4. 結果と考察

4・1 粒子個数濃度の経時変化

PMMA粒子の擬異種凝集実験より得られた総粒子個数濃度の無次元化凝集曲線をFig.3Fig.4に示す。Fig.3は攪拌速度条件200 rpm,Fig.4は400 rpmであり,それぞれ個数比RNを変化させた場合の結果を示した。図において,縦軸は第1種および第2種粒子を含めた初期総粒子個数濃度Nt0で規格化した総粒子個数濃度nt+(=nt/Nt0),横軸は無次元時間t+(=1.3a1,03(ε/ν)1/2Nt0t)である。

Fig. 3.

 Coagulation curves of total particle number density at various particle number ratios (ns = 200 rpm).

Fig. 4.

 Coagulation curves of total particle number density at various particle number ratios (ns = 400 rpm).

図より,粒子個数濃度の時間変化は,粒子個数比や攪拌速度を変化させた場合でも概ねモデル計算と同様の挙動を示していることがわかる。したがって,本研究で構築した異種凝集モデルは妥当であると考える。

凝集後期において,実測値は計算値よりも早く減少する傾向にあり,その傾向は個数比が小さいほど大きい。この傾向をより詳細に検討するために,Fig.5およびFig.6にPMMA-2.7粒子のみからなる凝集体のグループ個数濃度の実測値と計算値の比較を示す。

Fig. 5.

 Coagulation curves of Group (1, 0), (2, 0), (3, 0) and (4, 0) at various particle number ratios (ns = 200 rpm).

Fig. 6.

 Coagulation curves of Group (1, 0), (2, 0), (3, 0) and (4, 0) at various particle number ratios (ns = 400 rpm).

これらの図からも,凝集後期において,特に個数比が小さいほどモデル計算からのずれが大きくなることがわかる。これは,本モデルが凝集体を等体積の球とみなしているためと考えられる。実際の凝集体は,Fig.7に示すように比較的密なクラスター状であり,その形状の影響をモデルに考慮していないためと推測される。凝集体構造の影響については4・3節で再検討する。

Fig. 7.

 Optical micrographs of hetero-aggregates.

Fig.7より,個数比が小さい条件ではPMMA-2.7粒子はほとんどPMMA-7.9粒子のみで構成される凝集体の表面に付着している。また,付着しているPMMA-2.7粒子はほとんど単位粒子である。この凝集体の形態について半定量的に考察する。いま,PMMA-2.7粒子およびPMMA-7.9粒子の総個数をそれぞれnt1nt2とする。このとき,PMMA-2.7粒子同士の衝突頻度はnt1×nt1に比例して大きくなる。その一方で,PMMA-2.7粒子とPMMA-7.9粒子の衝突頻度はnt1×nt2に比例する。本実験条件ではPMMA-7.9粒子の個数濃度は一定で,PMMA-2.7粒子の個数濃度を増やして個数比を調整している。したがって,PMMA-2.7粒子の個数濃度に対して,PMMA-2.7粒子同士の衝突頻度はその2乗,PMMA-7.9粒子との衝突頻度はその1乗に比例することになる。そのため,個数濃度が小さい条件では凝集初期でPMMA-7.9粒子のみの凝集が進行し,その後PMMA-2.7粒子が付着したと考えられる。PMMA-2.7粒子の個数濃度が増加してくると,PMMA-7.9粒子同士の凝集に加え,PMMA-2.7粒子との凝集も競合するようになる。その結果,PMMA-2.7粒子が付着したPMMA-7.9粒子が凝集し,PMMA-7.9粒子間にPMMA-2.7粒子が存在する凝集体が形成されたと考えられる。この凝集体形成過程の模式図をFig.8に示す。

Fig. 8.

 Schematic diagram of generation process of hetero-aggregates. Case (a): Number of smaller particle is almost same as that of larger particle. Case (b): Number of smaller particle is larger than that of larger particle.

4・2 体積頻度分布および組成変化

粒子個数濃度の実測値とモデル計算には差異がみられるが,概ね本モデルによってその挙動を表現することができた。そこで次に,体積頻度による整理を行い,凝集体の生成挙動を考察する。Fig.9に各実験条件における体積頻度を示す。攪拌速度200 rpmと400 rpmでは凝集挙動に差異はないので,200 rpmの結果のみを示す。図の縦軸は体積頻度,2つの横軸はグループ番号を示している。グループ番号が1増加するごとに異種凝集体中の第1種粒子もしくは第2種粒子の総体積が2倍になる。図より,異種凝集体の生成が支配的であることがわかる。このとき,第1種粒子は凝集の進行によって成長するものの,第1種単独の粗大な凝集体はみられず,比較的微小な凝集体が残留する。粗大な第1種凝集体は,そのほとんどが第2種粒子や異種凝集体との衝突・合体により消失すると考えられる。第2種粒子にいたっては最終的にほぼ全て消失し,ほとんどが異種凝集体になる。

Fig. 9.

 Volume frequency of each group (RN = 6.7, ns = 200 rpm).

本実験では同材質の2つの粒子を用いているが,これらが異なる材質のものであれば,異種凝集体内の粒子体積比は組成比と言い換えることができる。そこで,それぞれの粒子を別種の粒子と捉え,異種凝集体の組成(体積分率)に着目する。

Fig.10に生成した異種凝集体の組成変化を示す。攪拌速度は200 rpmであり,各個数比について求めた。図の横軸は異種凝集体中の第1種粒子の組成比であり,縦軸はその組成比に対応する凝集体全体が総体積に占める割合(体積分率)である。

Fig. 10.

 Change in composition of hetero-aggregates with time.

図より,生成する異種凝集体は第1種粒子の組成が10%以下のものがほとんどであることがわかる。これは,第2種単位粒子の直径が第1種粒子のそれよりもおよそ3倍大きく,異種凝集体の体積のほとんどが第2種粒子で占められているためである。個数比の増加とともに第1種粒子との衝突頻度が増加するため,最頻値は右側へシフトし,異種凝集体中の第1種粒子の割合が大きくなっていることがわかる。また,時間の経過とともに分布が拡大し,第1種粒子の割合が大きい異種凝集体の生成が確認できる。これは異種凝集体に第1種粒子が順次衝突・合体したものと考えられる。このように,本モデルは異種凝集体の個数変化だけでなく,その組成も予測することが可能といえる。

本実験の個数比・粒径比範囲においては,上述の挙動を示すことがわかった。今後,個数比や粒径比の影響を明確化し,生成する凝集体の組成がどのように変化するのか整理すべきと考える。

4・3 異種凝集モデルに関する諸検討

4・3・1 異種粒子間の分子間力に関する検討

本モデル計算では,第1報で述べたように異種凝集体間の実効Hamaker定数が求められれば,それを用いて凝集係数を算出できるので,凝集する粒子が互いに異なる物質の場合のLvdW力については特に考慮せず,衝突粒子間の粒径比にのみ着目した。そこで本節では,異なる物質間の実効Hamaker定数の考え方について論じることにする。

いま異なる物質の粒子1と2との間隙に媒質3がある場合について考える。このとき,粒子1と2の間の実効Hamaker定数は次式で与えられる6)。   

A 132 = ( A 11 A 33 ) ( A 22 A 33 ) (2)

A11A22A33は,それぞれ真空中における物質1間,2間,3間のHamaker定数(J)である。もし粒子1と2が同じ物質であれば次式となる(本実験はこれに対応する)。   

A 132 = A 131 = ( A 11 A 33 ) 2 (3)

式(2)を用いれば,異なる粒子間のLvdW力を考慮することができ,第1報で求めた凝集係数をそのまま使用できる。ただし,各々の粒子の物質固有のHamaker定数(A11A22A33)を知る必要がある。純物質に関するHamaker定数は比較的多くの測定値あるいは理論値が得られているが7),混合物の場合はほとんどデータが存在しない。そのため,複数の成分からなる粒子のHamaker定数を見積もる何らかの手法が必要になる。例えば,2種類の粒子が固溶体を形成するような場合と一方の粒子が他方の粒子表面に付着するような形態では,粒子間相互作用も異なると考えられる。

1つのケースとして,異種凝集体が均一に混じり合い,固溶体を形成する場合を考える。粒子間のLvdW力は,それを構成する分子間の相互作用力の総和(分子間力の加成性)で与えられる。したがって,異種凝集体の組成に応じてその成分に関するHamaker定数を比例配分して,異種凝集体のHamaker定数を求めることは妥当な推算方法と思われる。異種凝集体のHamaker定数の推算方法には検討の余地があるが,このケースのように異種凝集体のHamaker定数を推算することができれば,本モデルにて計算可能と考える。

4・3・2 凝集体構造に関する考察 (フラクタル次元の導入)

4・1節において,本モデルでは凝集体構造の影響を考慮していないために,実測値とのずれが生じると推測した。この影響を考慮する方法として,フラクタル次元が良く用いられる8,9,10,11,12)。フラクタル次元Dfを用いた場合,粒子の無次元半径ai,j+と体積vi,j+は以下の関係にある。   

a i , j + = ( v i , j + ) 1 / D f (4)

本モデルでは,フラクタル次元はDf=3.0となる。溶鋼中におけるAl2O3粒子では,Df=1.8となると報告されている8)

同様に,本モデルにおいてもフラクタル次元を考慮して計算すると,Fig.11のようになる。Fig.11は総粒子個数濃度の経時変化を示している。フラクタル次元Dfは1.8,2.5および3.0とした。Fig.11より,フラクタル次元を下げるほど凝集のかなり早い段階から実測値と大きく乖離することがわかる。したがって,本モデルにおいては,フラクタル次元を考慮した凝集理論では凝集速度を精度良く計算することは困難である。

Fig. 11.

 Coagulation curves of total particle number density at various fractal dimensions.

Nakaokaら3)は,溶鋼中のAl2O3粒子のフラクタル次元(Df=1.8)を用いて単一種凝集の計算を行った結果,凝集が異常に速く進行することを確認している。これは凝集体粒子の構造をひとつのパラメータで表したために,凝集体の見掛けの大きさを過剰に見積もっているためである。本ケースにおいても同様のことが起きていると考えられる。

そこで,衝突現象をミクロ的に捉え,凝集体に粒子が衝突する瞬間は凝集体を構成する単位粒子との衝突になるとした。すなわち,Fig.12に示すように単位粒子同士の衝突と近似することで,凝集体の見掛の大きさではなく,それを構成する単位粒子の大きさを代表径として計算を行った。

Fig. 12.

 Conceptual diagram of collision behavior from microscopic view.

4・3・3 凝集体構造に関する考察(凝集係数による検討)

凝集体間の衝突を単位粒子間の衝突とみなすために,単位粒子間におけるHigashitaniの凝集係数を用いる。ただし,衝突半径は元のモデルのまま,衝突する粒子ペアの体積相当径から求める。第1種,第2種単位粒子間のHigashitaniの凝集係数をそれぞれ示す。   

α 1 = 0.727 [ μ a 1 , 0 3 ( ε / ν ) 1 / 2 A 131 ] 0.242 (5)
  
α 2 = 0.727 [ μ a 0 , 1 3 ( ε / ν ) 1 / 2 A 131 ] 0.242 (6)

ここでは,以下に示すCase 1~3の3通りの計算を比較した。

Case 1:単位粒子同士の凝集係数を使用したモデル

全ての凝集体間で第1種単位粒子間のHigashitaniの凝集係数(α1)を用いる。

Case 2:衝突粒子間に応じた凝集係数を使用したモデル

第1報で計算した修正凝集係数(a[i,l],[j,m])を用いる(前節までの理論モデル)。

Case 3:異種凝集体間のみ,修正凝集係数を使用したモデル

第1種−第1種:第1種単位粒子間のHigashitaniの凝集係数(α1)

第2種−第2種:第2種単位粒子間のHigashitaniの凝集係数(α2)

第1種−第2種:第1種−第2種単位粒子間の修正凝集係数(α[1,0],[0,1])

第1種−異種凝集体:第1種−第2種単位粒子間の修正凝集係数(α[1,0],[0,1])

第2種−異種凝集体:第2種単位粒子間のHigashitaniの凝集係数(α2)

その他:修正凝集係数(α[i,l],[j,m])

Case 1は,第2種粒子を第1種粒子が凝集したものと同等とみなし,従来の理論モデルと同様に単一のHigashitaniの凝集係数を用いた場合である。Case 2は,第1報の通り,衝突粒子間の種類,大きさに応じて凝集係数を求める。Case 3では,異種凝集体との衝突は第2種の単位粒子との衝突と考えている。これは,Fig.7で示したように,第2種粒子は第1種粒子に対して大きく,第1種粒子の存在は無視できると仮定したためである。また,Fig.12の模式図のように,ミクロ的には単位粒子同士の衝突とみなすことで単位粒子間の凝集係数を導入している。

計算条件は,Table 1Table 2の通りであるが,Case 3についてはタイムステップΔt+を0.001とすると,粒子個数濃度が負値にアンダーシュートして計算が破たんするため,0.0001とした。それぞれの計算条件における総粒子個数濃度の経時変化をFig.13に示す。これらの図より,Case 1が実測値に対して比較的大きくずれていることから,第2種粒子は第1種粒子の凝集体とみなすことはできないといえる。

Fig. 13.

 Coagulation curves of total particle number density at various cases (ns = 200 rpm).

Case 3が異種凝集挙動を最も表現しており,よい一致がみられる。さらに,Fig.14にグループ個数濃度の経時変化を示すが,この図からもCase 3が実測値の異種凝集挙動をよく再現できていることがわかる。なお,400 rpmの条件においても,同様にCase 3で実測値を再現できた。これは,凝集初期では凝集体が十分に成長していないために球とはみなせず,それを構成する単位粒子で凝集速度が決定されると考えられる。一方,凝集後期では,大きな異種凝集体に成長しているため,Fig.7のように球とみなせるようになり,異種凝集体そのものの大きさで考慮しなければならないと考えられる。つまり,修正凝集係数を用いる必要があると考える。

Fig. 14.

 Coagulation curves of Group (1, 0), (2, 0), (3, 0) and (4, 0) at various particle number ratios (Case 4,ns = 200 rpm).

以上の結果から,本モデルにおいては総粒子およびグループ個数濃度変化において,Case 3のように衝突ペアに応じて単位粒子間におけるHigashitaniの凝集係数を一部適用し,単位粒子間の衝突とみなすだけで実測値を再現できた。このような操作で固体粒子同士の異種凝集挙動をより正確に再現できることは実用上有用と考えられるが,この理由について現状では十分明らかではない。今後,凝集の進行とともに凝集体構造を考慮しながら凝集係数を補正するなど,より厳密な取扱いが必要と考える。

5. 結言

乱流下における異種凝集挙動を調査するため,水モデル実験にて第1報で構築した異種凝集モデルの妥当性を検証した。モデル検証にあたっては,凝集挙動に及ぼす影響の大きい粒径比に着眼して,粒径の異なる同一物質(Hamaker定数一定)にて擬似的な異種凝集実験を行った。本研究により得られた結果を以下に示す。

(1)異種凝集モデルによる計算値は異種凝集挙動を概ね表現でき,本モデルの妥当性を確認できた。また,本モデルにより,生成する異種凝集体の組成の予測も可能と考えられる。

(2)異なるサイズの粒子が混在した系において,凝集体の生成挙動を体積頻度から考察した。その結果,本実験条件の範囲(粒径比・個数比)において,異種凝集体の生成が主であり,第1種粒子もしくは第2種粒子のみから成る粗大な凝集体は生成しない。このとき,第1種粒子(小さい粒子)のみからなる比較的微小な凝集体は残留するが,第2種粒子はほぼ完全に消失し,異種凝集体となりやすいことがわかった。

(3)凝集挙動をミクロ的観点から考察し,凝集体を構成する単位粒子同士の衝突とみなし,凝集係数の一部を単位粒子間におけるHigashitaniの凝集係数に置き換えた。その結果,凝集初期から後期の全期間にわたり,計算値は実測値に良く一致し,異種凝集挙動を再現することができた。

今後の課題として,凝集の進行度合いに応じて粒子間相互作用に及ぼす凝集体構造の影響を明確化し,これらと凝集挙動の関係をより詳細に理解することが必要である。さらに,今回の実験のように同材質異径粒子ではなく,異材質間の凝集について理論あるいは実験面からのより直接的な検証によって,凝集体組成や粒径比,個数比などの因子の影響を整理することは異種凝集挙動の理解に有用と考える。

使用記号

A11A22A33(J) 真空中における物質1間,2間,3間のHamaker定数

A131(J) 媒質3中における物質1間の実効Hamaker定数

A132(J) 媒質3中における物質1と物質2間の実効Hamaker定数

ai(m) 粒子iの半径

ai,l(m) [i, l]凝集体の半径

Df(−) フラクタル次元

ks(−) 係数

M(−) PSGHグループの最大グループ数

(kg) 液の質量

Nt0(m−3) 第1種粒子と第2種粒子を合わせた初期総粒子個数濃度

ni,l(m−3) [i, l]凝集体の個数濃度

ns(s−1, rpm) 攪拌速度

nt0(m−3) 初期総粒子個数濃度

nt1(m−3) 第1種粒子の総粒子個数濃度

nt2(m−3) 第2種粒子の総粒子個数濃度

RN(−) 第1種粒子と第2種粒子の個数比(=nt1,0/nt2,0)

Rv(−) 隣接グループ間の体積比

Ts(N·m) 攪拌トルク

t(s) 時間

vi,l(m3) [i, l]凝集体の体積

α1,α2(−) 第1種単位粒子および第2種単位粒子間のHigashitaniの凝集係数

α[i,l],[j,m](−) [i, l]凝集体と[j, m]凝集体間の凝集係数

ε(m2·s−3) 乱流エネルギー消散速度

μ(Pa·s) 粘性係数

ν(m2·s−1) 動粘性係数

上付き記号

+ 無次元量

謝辞

本研究は(独)日本学術振興会製鋼第19委員会のテーマ応募式研究助成(平成20,21年度)によって行われたものであることを記して謝意を表する。

文献
 
© 2015 一般社団法人 日本鉄鋼協会

This article is licensed under a Creative Commons [Attribution-NonCommercial-NoDerivatives 4.0 International] license.
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
feedback
Top