Tetsu-to-Hagane
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Development of Recrystallization Texture in Severely Cold-rolled Pure Iron
Miho TomitaTooru InagumaHiroaki SakamotoKohsaku Ushioda
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2015 Volume 101 Issue 3 Pages 204-210

Details
Synopsis:

The mechanism of recrystallization texture development is changed by the chemical composition of materials, cold-rolling reduction, and annealing treatment conditions. In this paper, we have discussed the development of the recrystallization texture for cold-rolled iron with 99.8% reduction.

In cold-rolled iron with 99.8% reduction, the deformation texture was a strong α-fiber (RD//<110>) with high strain. During annealing in a temperature range from 200 to 800˚C, in this highly strained α-fiber, the microstructure started to recover from quite a low temperature. Then recrystallized grains began to appear at 350˚C, and many recrystallized grains were generated at rather random locations. Their textural components were {100}, {211}, {111}, and {411}, which were included in the α-fiber. At 550˚C, recrystallization was completed, and the texture after full recrystallization was similar to that of the cold-rolled iron. This texture developed by unique microstructural changes, which could be classified into continuous recrystallization. The recrystallization texture: α-fiber was changed into the {100}<012> component by selective growth of recrystallized grains following the completion of recrystallization.

1. 緒言

鉄鋼材料において集合組織を制御することは,鋼板の加工性や磁気特性を向上させるために重要である。特に再結晶集合組織は製造工程における圧延条件や熱処理条件によって制御することができるため,自動車用鋼板や電磁鋼板等において広く研究が行われている。

再結晶集合組織の形成には大きく分けて配向核生成説(oriented nucleation)と,配向粒成長説(selective growth)の2つの考え方がある。Abeらは,鋼板の加工性を向上させるために有用な{111}集合組織(ND//〈111〉)の形成に関して,圧下率50%の冷間圧延を施した純鉄からの再結晶を詳細に研究し,結晶粒界近傍の不均一な加工組織から優先的にサブグレインが成長し,これが{111}再結晶粒の配向の核となって{111}集合組織が形成されることを報告している1)。一方でUrabe and Jonasは85%冷間圧延したTi添加IF鋼からの再結晶においては,{111}再結晶粒が未再結晶のα-fiber(RD//〈011〉)を蚕食して成長することによって{111}集合組織が形成される配向粒成長を報告している2)。ここでND(normal direction)は板面法線方向,RD(rolling direction)は圧延方向である。

通常の圧延率の冷延材と比較して,強圧下された冷延材の再結晶挙動に関しても報告されている。

Gobernadoらは圧下率95%まで冷延されたFe-3.2%Si鋼の再結晶においては,{113}〈361〉の方位を有する再結晶粒が優先的に核生成する配向核生成によって再結晶集合組織が形成されると述べている3)。一方,Verbekenらは圧下率95%まで冷延された極低炭素鋼の再結晶過程を調べ,{554}〈225〉および{113}〈471〉の方位を有する再結晶粒が,{112}〈110〉の方位を有する未再結晶粒を蚕食して成長する配向粒成長を報告している4)。このように再結晶集合組織の形成メカニズムは鋼種あるいは冷間圧延の圧下率や焼鈍条件等によって異なっている。本研究では純鉄を圧下率99.8%まで強圧下冷延した場合に形成される加工組織,および,この強圧下純鉄からの再結晶過程を詳細に調べ,再結晶集合組織が形成されるメカニズムを明らかにすることを目的とした。

2. 実験方法

真空溶解炉を用いて純鉄インゴットを作製した。その化学成分をTable 1に示す。作製したインゴットを圧延できる形状に整えるために,Arガス雰囲気中で1200°Cに2時間保持した後,鍛造によって,高さ250 mm,幅250 mm,長さ300 mmの形状に成形した。この鍛造材を再びArガス雰囲気中で1200°Cに2時間保持した後,板厚250 mmから50 mmまで15パスで熱間圧延を行った。得られた熱延板の結晶粒径は200~500 μmであった。この熱延板から冷間圧延用の試験片を切り出した。板厚50 mmの切り出し材を0.1 mmまで冷間圧延を行うことによって,圧下率99.8%の冷延板を作製した。比較のために,板厚50 mmの熱延板からスライス加工により板厚1 mmの試験片を切り出し,それを板厚0.1 mmまで冷間圧延を行うことによって,圧下率90%の冷延板を作製した。このように同じ0.1 mmの板厚で圧下率が90%と99.8%の2種類の冷延板を作製した。

Table 1. Chemical composition of sample (mass ppm).
CPSMnNOFe
< 10< 20< 3< 306215Bal.

得られた圧下率の異なる2種類の冷延板(25 mm×25 mm,t=0.1 mm)を真空雰囲気中(~10−2Pa)で昇温速度10°C/minで室温から800°Cまでの様々な温度まで加熱後,炉内でArガスを試料に吹き付けて急冷した。冷延板試料および熱処理後の試料の組織観察および集合組織の評価を行った。組織は試料のTD(transverse direction)方向から光学顕微鏡,SEM-EBSD(Scanning Electron Microscope-Electron Back Scatter Diffraction Patterns)およびTEM(Transmission Electron Microscope)を用いて観察した。光学顕微鏡観察では,ナイタール腐食した試料を用いた。SEM-EBSDはFE-SEM:Carl Zeiss製,OIM:TSL社製の装置を使用し,加速電圧20 kV,ステップ間隔0.1 μmとした。EBSD用試料はコロイダルシリカで鏡面研磨した面を観察面とした。転位組織の観察には200 kV−電解放射型透過電子顕微鏡(HF-2000:日立製作所製)を用いた。板厚断面の観察試料は以下のように作製した。まず,圧延方向に対して平行に厚さ約70 μmの薄片試料を切り出した。試料の切り出しには,加工中に試料温度が上がりにくいように試料台を液体窒素で冷却したイオンミリング装置を用いた。この薄片試料をツインジェット法によって電解研磨して,TEM観察用試料を作製した。集合組織の評価は回転対陰極型X線回折装置(RINT-2500:RIGAKU製)を用いて{100},{110},{211},{310}の正極点図を測定し,これらを用いてODF(Oriented distribution function)を得た。ターゲットにはMoを使用した。さらに熱処理に伴う硬さの変化を調べるため,マイクロビッカース硬さ試験機(AKASHI製)を用いて,圧子荷重10 g,保持時間15 secの条件で,各試料で8点測定を行い,その平均値を求めた。

3. 実験結果

3・1 強圧下冷延された純鉄の加工組織の特徴

圧下率90%および99.8%の冷延板の集合組織を表したODFをFig.1(a)および(b)にそれぞれ示す。(a)からわかるように圧下率90%材の冷間圧延集合組織はα-fiber(RD//〈110〉)とγ-fiber(ND//〈111〉)から成り,α-fiberの{211}〈011〉が主方位であった。γ-fiberの中では{111}〈123〉の強度が他の方位に比べて強かった。(b)に示した圧下率99.8%材の集合組織ではα-fiberが強く発達しており,{100}〈011〉~{311}〈011〉が主方位であった。また{554}〈225〉や{111}〈123〉にも弱い配向が見られた。

Fig. 1.

 φ2=45˚ ODF sections showing cold-rolling textures with (a) 90% and (b) 99.8% reductions. (Online version in color.)

EBSD法によりTD方向から観察した冷延板の加工組織をFig.2に示す。(a)に示した圧下率90%材では,圧延方向に延びたラメラ状組織であり,観察視野の上部にα-fiber,下部にγ-fiberが見られた。α-fiberとγ-fiberのラメラの幅は5~10 μm程度であった。観察されたα-fiberは粒内の方位分散が小さい組織であったのに対し,γ-fiberは粒内の方位分散が大きい組織となっていた。 (b)に示した圧下率99.8%材では,観察視野の大部分がα-fiberであり,圧延方向に延びた非常に微細なラメラ状組織が見られた。α-fiberのラメラの幅は0.5~3 μmであり,α-fiberの中には(b)中に矢印で示したように方位分散が大きい部分も見られた。

Fig. 2.

 EBSD ND-orientation maps of cold-rolled irons observed from TD (transverse direction) with (a) 90% and (b) 99.8% reductions.

Fig.3にはTEMにより観察した冷延板のα-fiberの転位組織を示す。(a)に示した圧下率90%材では,幅0.1~0.5 μmのラメラ状組織やセル組織が見られ,それらの内部には転位も多数見られた。観察した領域の回折パターンのほとんどは{211}〈011〉であった。(b)に示した圧下率99.8%材では鮮鋭なラメラ状組織が見られ,そのラメラの幅は0.02~0.2 μmであり,圧下率90%材と比較してラメラの幅は約1/5と狭くなっていた。圧下率99.8%材のラメラ組織の内部にほとんど転位が見られない領域が一部に確認された。観察した領域の回折パターンは{211}〈011〉が多く,稀に{111}〈112〉が見られた。

Fig. 3.

 TEM micrographs of α-fiber structures observed from TD in cold-rolled irons with (a) 90% and (b) 99.8% reductions.

冷延板のひずみを見積もるために,Takechiらと同様の方法5)でX線回折ピークの半値幅からStored energyを求めた結果をFig.4に示す。Stored energyを求めた面は冷延板の集合組織に現れていたα-fiberに属する{100}面,{411}面,{211}面と,γ-fiberに属する{111}面とした。圧下率90%材ではStored energyの大きさが{111}>{211}>{100}>{411}の順番であった。一方,圧下率99.8%材のStored energyの大きさは{100}>{211}>{411}>{111}の順番であり,ひずみが溜まりにくいと言われる{100}面6)のStored energyが{111}面よりも高くなっていた。圧下率99.8%材の{111}面のStored energyは,圧下率90%材と同程度であるが,圧下率が90%から99.8%へと高くなることによって,{100}面,{411}面,および{211}面のStored energyは著しく増加していた。

Fig. 4.

 Stored energy in severely cold-rolled irons evaluated by changing in the full width at half maximum of resolved X-ray diffraction peak.

3・2 強圧下冷延された純鉄の再結晶集合組織

圧下率90%と99.8%の冷延板をそれぞれ室温から800°Cまで加熱し,ビッカース硬度の変化を調べた。Fig.5には圧下率90%材のTD断面から観察した光学顕微鏡組織と,熱処理に伴うビッカース硬度の変化を示す。圧下率90%材の組織では,Fig.5の(a)に示したように,コントラストの薄い組織とコントラストの濃い組織が見られた。この観察試料はFig.2(a)の試料と同一ロットから採取したものであるため,Fig.5(a)Fig.2(a)の比較から,コントラストの薄い組織はα-fiber,コントラストの濃い組織はγ-fiberであると言える。それぞれの組織毎に,ビッカース硬度の熱処理温度に伴う変化を調べた結果をFig.5(b)に示した。コントラストの濃い組織の硬度は室温から400°Cまでは250 HV程度であり,400°Cを超えると低下した。コントラストの薄い組織の硬度は140 HV程度であり,室温から500°C近くまでほとんど変化せず,500°Cを超えると低下した。550°C以上になると,コントラストの濃い組織と薄い組織はどちらも全領域で再結晶しており,硬度は80 HV程度であった。

Fig. 5.

 (a) Optical micrograph of cross section of cold-rolled irons with 90% reduction after measuring Vickers hardness, and (b) change in Vickers hardness as a function of annealing temperature for the same materials shown in (a).

Fig.6(a)には圧下率99.8%材の光学顕微鏡で観察したTD断面の組織を示す。α-fiberである圧下率99.8%材では,圧延方向に延びた細かい組織となっていた。冷延板のビッカース硬度はFig.6(b)に示すように,圧下率90%材のコントラストの濃い組織(γ-fiber)と同程度の約260 HVであった。室温から300°Cまで硬度はほとんど変化しなかった。圧下率99.8%材では,硬度は熱処理温度が300°Cを超えると低下し始め,350°Cから550°Cにかけて大きく低下した。

Fig. 6.

 (a) Optical micrograph of cross section of cold-rolled irons with 99.8% reduction after measuring Vickers hardness, and (b) change in Vickers hardness as a function of annealing temperature for the same materials shown in (a).

圧下率90%材の再結晶過程をSEM-EBSDでTD方向から観察した結果をFig.7に示す。400°Cでは再結晶粒は確認されなかった。450°Cになるとラメラ状の加工組織に沿って{111}方位を有する再結晶粒が多く見られた。500°Cになると未再結晶のγ-fiberはほとんど見られなくなった。{111}方位の再結晶粒は,図中に矢印で示したように未再結晶のα-fiberの方へと成長していく様子が見られた。600°Cになると20~80 μmの再結晶粒で全面が覆われた。

Fig. 7.

 Change in EBSD ND-orientation maps observed from TD as a function of annealing temperature for 90% cold-rolled iron.

Fig.8には圧下率90%材と同様に観察した圧下率99.8%材の再結晶過程を示す。400°Cでは既に再結晶粒が確認され,{111}や{100}など様々な方位を有する再結晶粒が見られた。再結晶粒は圧下率90%材のように加工組織に沿って発生しているのではなく,比較的ランダムに発生していた。450°Cでは再結晶粒が更に増え,500°Cになると結晶粒径10~20 μmの再結晶粒で全面が覆われた。600°Cになると更に再結晶粒が成長し,結晶粒径20~50 μmとなった。Fig.9の矢印で示したように,圧下率99.8%材を400°Cで熱処理した試料では,バルジングによって成長したと見られる{100}方位を有する再結晶粒がいくつか観察された。

Fig. 8.

 Change in EBSD ND-orientation maps observed from TD as a function of annealing temperature for 99.8% cold-rolled iron.

Fig. 9.

 Magnified EBSD ND-orientation map observed from TD showing bulging grains in 99.8% cold-rolled iron followed by heating up to 400˚C.

圧下率90%材および圧下率99.8%材の再結晶過程における再結晶粒の優先方位を調べるため,450°Cで熱処理した試料を用いて,再結晶粒のサイズとその方位を調べた結果をFig.10およびFig.11に示す。450°Cで熱処理した後の試料では,冷延圧下率に依らず観察視野における再結晶粒の面積は20~30%程度であり,再結晶過程の初期に相当する。ここで観察した結晶粒は100 μm×300 μmの領域の3視野分に含まれる結晶粒とした。Fig.10に示すように,圧下率90%材の場合には,{111}方位を有する再結晶粒が非常に多く見られた。特に結晶粒径15 μm以上の結晶粒は,ほとんどが{111}方位を有する再結晶粒であった。Fig.11に示した圧下率99.8%材の場合には,{100},{211}や{111}の方位を有する再結晶粒が多く確認された。これらの方位を有する再結晶粒に比べると数は少ないが,{411}の方位を有する再結晶粒も確認された。圧下率90%材では,{111}再結晶粒の数が非常に多かったが,圧下率99.8%材では特定方位の再結晶粒が多くなっていることはなかった。圧下率99.8%材の再結晶粒の結晶粒径はほとんどが5~15 μm程度であり,特定方位の再結晶粒が優先的に成長している様子は見られなかった。

Fig. 10.

 Number of recrystallized grains with various orientations as a function of grain size for 90% cold-rolled iron heated up to 450˚C.

Fig. 11.

 Number of recrystallized grains with various orientations as a function of grain size for 99.8% cold-rolled iron heated up to 450˚C.

Fig.12には圧下率90%材の冷延板,再結晶初期の430°C,再結晶完了直後の600°C,再結晶粒成長後の800°Cのそれぞれの段階における集合組織のODFを示す。冷延板の集合組織はα-fiber(RD//〈110〉)とγ-fiber(ND//〈111〉)から成り,α-fiberの{112}〈110〉が主方位であった。γ-fiberの中では{111}〈112〉の強度が他の方位に比べて強かった。再結晶初期の430°Cでは主方位がα-fiberの{112}〈011〉から{113}〈011〉へ変化した。γ-fiber の中では{111}〈112〉の強度が冷延板よりも強くなった。再結晶完了直後の600°Cでは,α-fiberの強度が弱くなり,γ-fiber の強度が強くなった。特に{111}〈011〉成分の強度が強くなった。さらに,再結晶粒成長後の800°Cでは{111}〈011〉が主方位となり,{111}〈112〉成分の強度は著しく低下した。

Fig. 12.

 φ2=45˚ ODF sections showing (a) cold-rolled texture with 90% reduction, and textures followed by heating up to (b) 430˚C, (c) 600˚C, and (d) 800˚C, respectively. (Online version in color.)

同様に圧下率99.8%材の場合をFig.13に示す。冷延板の集合組織はα-fiberが強く発達しており,{100}〈011〉~{311}〈011〉が主方位であった。また{554}〈225〉や{111}〈123〉にも弱い配向が見られた。この冷延板の集合組織は,再結晶が完了する600°Cまでほとんど変化しなかった。再結晶粒成長後の800°Cになると,集合組織は大きく変化し,主方位が{100}〈012〉となった。副方位には{554}〈225〉が現れ,600°Cで存在していたα-fiberの強度は低下した。

Fig. 13.

 φ2=45˚ ODF sections showing (a) cold-rolled texture with 99.8% reduction, and textures followed by heating up to (b) 430˚C, (c) 600˚C, and (d) 800˚C, respectively. (Online version in color.)

4. 考察

圧下率90%まで冷延された純鉄の冷延集合組織はFig.1(a)に示したようにα-fiberと γ-fiberであった。これらの加工組織はFig.2(a)に示したように,α-fiberでは方位分散が小さく,γ-fiberでは方位分散が大きかったことから,冷延によって導入された蓄積ひずみはα-fiberに比べてγ-fiberにより集中したと考えられる。Fig.4に示すX線回折により求めた4つの結晶方位のStored energyにおいて,{111}面が最も高かったことからも,γ-fiberが高ひずみであったと言える。さらに圧下率90%材の冷延板のビッカース硬度は,Fig.5に示したようにα-fiberよりもγ-fiberの方が高かったことからも,γ-fiberがα-fiberより高ひずみであったと言える。

圧下率90%材に熱処理を行うと,熱処理に伴う硬度低下は,Fig.5(b)に示したようにα-fiberよりもγ-fiberの方がより低温で始まっていることから,γ-fiberにおいて優先的に回復が進行していると言える。Yuasa and Koudaは,圧下率80%で冷間圧延した電解鉄の再結晶過程を詳細に調べ,再結晶過程の初期に形成される小さな再結晶粒はセル組織が整理されて形成されたサブグレインの合体によって形成されると報告している7)

圧下率90%材の再結晶過程においては,Fig.7に示したように450°Cで熱処理を行うと圧延方向に沿って発生している再結晶粒が多く確認され,未再結晶のγ-fiberは,冷延板に比べて減少した。未再結晶α-fiberはほとんど変化しなかった。500°Cで熱処理を行うと,再結晶粒が増えるとともに,未再結晶のγ-fiberは冷延板に比べて減少し,未再結晶のα-fiberが残存した。このことから,圧下率90%材ではγ-fiberから優先的に再結晶が起こったと考えられる。

圧下率90%材の再結晶過程の初期において,優先的に発生した再結晶粒の方位は,Fig.10に示すように{111}方位を有する再結晶粒が極めて多く,特に結晶粒径15 μm以上の結晶粒は,ほとんどが{111}方位を有する再結晶粒であった。このことからも,{111}方位を有する再結晶粒が優先発生していると言える。

以上のことから,圧下率90%材の加工組織は低ひずみ状態のα-fiberと高ひずみが蓄積されたγ-fiberから成り,高ひずみであるγ-fiberから優先的に回復し,回復の進行に伴ってサブグレインが形成され,このサブグレインが合体することで再結晶核になったと考えられる。回復によって形成された再結晶核であるため,その方位は加工組織であるγ-fiberの{111}方位であり,未再結晶のα-fiberを蚕食して成長することで{111}再結晶集合組織を形成したと考えられる。

この{111}再結晶集合組織は,熱処理温度を600°Cから800°Cへと高くすると,{111}〈112〉成分が消え,{111}〈011〉成分が強くなる。600°Cで熱処理した試料はFig.7に示したように再結晶が完了しているため,600°Cから800°Cでの集合組織の変化は再結晶粒の選択成長によるものであると考えられる。

圧下率99.8%まで冷延された純鉄の冷延集合組織はFig.1(b)に示したようにα-fiberが強く発達していた。このα-fiberの加工組織はFig.2(b)に示したように,圧延方向に延びた細かい組織をしており,α-fiber中には方位分散の大きい領域が見られた。Quadir and Dugganは圧下率95%まで冷延したIF鋼の再結晶過程を詳細に調べ,ひずみが溜まりにくい{100}〈011〉が高ひずみまで圧下されると,{100}〈011〉が方位分散して変形帯が形成され,そこから再結晶が起こることを報告している8)Fig.2(b)に示した圧下率99.8%材のα-fiber中に見られた方位分散の大きい領域は,再結晶の核生成サイトになる可能性がある。

圧下率99.8%材のStored energyは,Fig.4に示したように{100}面が最も高エネルギーであった。さらにFig.6に示したように,α-fiberのビッカース硬度は260 HVであり,このことからも圧下率99.8%材のα-fiberは高ひずみであると考えられる。α-fiberのビッカース硬度は熱処理温度が300°Cを超えると低下し始めており,極めて低温から回復が始まっていると考えられる。α-fiberの回復の進行により,サブグレインが形成され,そのサブグレインが合体し成長することによって,α-fiberから再結晶粒が発生する可能性がある。圧下率99.8%材を熱処理すると,再結晶粒はFig.8に示したように,加工組織中にランダムに発生した。圧下率99.8%材の加工組織のほとんどがα-fiberであることからも,α-fiberから再結晶粒が発生した可能性が高いと考えられる。さらに,再結晶過程の初期に発生した再結晶粒の方位は,Fig.11に示したように{100},{211}および{111}が多く,これらの方位よりは少ないながらも{411}方位を有する再結晶粒も確認された。いずれの方位もα-fiberに含まれる方位であり,このことからもα-fiberから再結晶粒が発生したと考えられる。

Fig.13(a)~(d)に示したように,圧下率99.8%材の集合組織は,冷延板ではα-fiberが強く発達し,再結晶が進行しても,その集合組織はほとんど変化することなく,再結晶が完了する600°Cまでα-fiberが維持されており,連続再結晶的な組織変化であった。ここで連続再結晶とは,冷延後の集合組織が再結晶後も維持されているという意味である。

以上の結果から,圧下率99.8%材はひずみが溜まりにくいα-fiberまで高ひずみとなり,加工組織中に多数の核生成サイトが存在する状態であり,極めて低温から回復,サブグレインの形成が進行し,再結晶核が多数生成されたと考えられる。再結晶核は,Stored energyの高い{100},{211}および{111}方位,つまりα-fiberに含まれる方位を有し,再結晶中に多数発生し成長する。しかし,Fig.8に示したように,これらの再結晶粒は600°Cまでの熱処理による粒成長が遅いために,再結晶が完了するまでα-fiberが維持されたと考えられる。

圧下率99.8%材では,再結晶が試料全域で完了した後,さらに熱処理温度を高めると,Fig.13の(c)と(d)にODFで示したように,集合組織が大きく変化した。再結晶が完了した後は,再結晶粒の粒成長が進行するため,この集合組織の変化は再結晶粒の選択成長によるものであると言える。

5. 結言

強圧下冷間圧延された純鉄の再結晶集合組織の形成過程を詳細に調べた結果,以下の結論が得られた。

圧下率99.8%材では,冷延集合組織は強いα-fiberであり,その加工組織は高ひずみ状態であった。この高ひずみ状態のα-fiberは極めて低温から回復が進行し,再結晶過程における初期の段階から,α-fiberに属する{100},{211},{111}および{411}方位を有する再結晶粒が,加工組織中に比較的ランダムに発生した。再結晶集合組織は冷延集合組織と同じα-fiberであり,再結晶の進行に伴って結晶方位が変化しない連続再結晶的な組織変化によって,形成されたと考えられる。この再結晶集合組織のα-fiberは,その後の再結晶粒の選択成長により{100}〈012〉方位が発達する。

文献
 
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