Tetsu-to-Hagane
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Review
Multiscale Modeling of Ductile Fracture in Continuum Mechanics
Ikumu Watanabe
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2015 Volume 101 Issue 9 Pages 465-470

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Synopsis:

A theoretical framework to describe ductile fracture is reviewed from a multiscale perspective based on continuum solid mechanics. Ductile fracture has a hierarchical multiscale structure from a strain localization of a macroscopic structure to debonding of an atomic debinding. In this article, computational methods founded on continuum approximation are addressed, where discretization methods represented by finite element method are featured. These approaches are recognized as promising tools to understand and visualize the deformation and strengthening mechanisms. Here the concepts of description of fracture mechanics are classified into strong discontinuity models and distributed damage models. Also two types of scale-coupling approaches are illustrated to consider the effect of a microscopic heterogeneity on its coarse scale.

1. はじめに

破壊は不連続面の形成による物体の分離であり,延性破壊は破壊前に塑性変形を伴う破壊形態であるため,ひずみ量が大きく,塑性変形履歴の影響を受けるという特徴がある。すなわち,幾何学的非線形性と材料非線形性の双方が強く寄与する現象であり,その本質的な理解のためには構造的な破壊から原子間結合の破断まで,広い空間スケール領域で同時に連成して発生する変形現象の考慮が必要となる。

本論文では,延性破壊と空間スケールの階層性およびそれを数値シミュレーションで扱うための理論体系について,連続体力学で扱える範囲を中心に概説する。ここでは,不連続面の形成としての破壊の数理的記述だけでなく,延性破壊の前駆段階としての構造体レベルの局所変形や潜在的に発生・進展する損傷を扱うための数値解析手法とともに,そのようなかけ離れた空間スケールで生じる現象を数値シミュレーションにおいて関連付けるためのアプローチの説明に注力する。

2. 延性破壊と構造破壊

構造体が破壊する場合,全体が同時に崩壊することは稀であり,一般に座屈やせん断帯の発生のような変形の局所化が進展し,その箇所において不連続面の形成に至る。このような変形の局所化の発生を構造体レベルの破壊,すなわち構造破壊と考えることができる。構造設計では,この構造破壊を回避するように設計指針が設定される。数値シミュレーションを用いた構造破壊の予測では必ずしも破壊を扱わずとも良いが,構造物全体を局所変形も表現できるような解像度でモデル化する必要がある。近年の計算機性能と有限要素法のような離散化数値解析手法の飛躍的な発展によって,数値シミュレーションによる予測もある程度は可能になってきている。

構造破壊は連続的な変形から局所変形に派生する一種の不安定現象であり,初期不整に敏感であることから,有限要素解析では有限要素モデルへ不完全性としての摂動を加えることで局所変形モードへ誘導できる。また,境界値問題の線形化接線係数行列(剛性行列)の固有値解析から解の唯一性を評価することで,不安定点として構造破壊発生点の発見と局所変形モードを制御した数値解析を実施できることが知られている1,2)。構造の不安定性は構造対称性と密接に関係しており,Ikeda and Murota2)は対称性と構造破壊の過程を関連付けて整理した群論的分岐理論を提唱している。

延性破壊においては,構造形態に関連した幾何学的非線形性に由来する不安定性だけでなく,材料非線形性に由来する塑性不安定性も構造破壊の起点となることが知られており,塑性論における古典的な研究課題である3,4,5)。せん断帯による局所化は塑性不安定性に起因するものと考えられてきたが,Okazawaら6)は一般的なMises 応力に基づく降伏基準と関連流動則で単軸引張試験におけるせん断帯発生の数値シミュレーションが可能であることを示し,幾何学的非線形性も強く関与する問題であることを実証した。

塑性加工における成形限界の予測では,一般に塑性仕事などで定義した不安定基準を用いて構造破壊を数値シミュレーションで予測する7,8,9)。塑性加工シミュレーションでは,工具と試験片間の接触・摩擦による境界非線形性も伴うこととなり,さらに複雑な非線形問題となるため,境界値問題の唯一解を得ることがそもそも難しい。そのため,理論的な数値解析の制御は困難であり,試行錯誤による評価が必要となる。

3. 連続体力学における破壊の記述

次に,変形と共に不連続面が形成する破壊現象を連続体力学に基づく有限要素解析のような離散化数値解析手法で扱うアプローチについて述べる。ここでは,この種のアプローチを強不連続モデルと分布損傷モデルの2つに大別する(Fig.1)。

Fig. 1.

 Description of fracture in cotinuum solid mechanics.

強不連続モデルでは破壊によって形成される不連続面を表現するために,変位場に不連続性を新たに定義する。したがって,ひずみ場は局所的に非有界な値をとり,特異な分布となる。これに対して,分布損傷モデルでは,連続体内に分布して発生する破壊を材料の健全性が損失した状態として扱い,変位場の連続性は保持しながら,材料の剛性低下などで破壊を表現する。本節では,以上の2 つのモデルの代表的なアプローチを紹介する。

3・1 強不連続モデル

強不連続モデルでは,破壊基準を満たした変位場に新たに不連続面を再定義する,または,不連続ひずみ場を導入するアプローチである。古典的には破壊基準に達した際に,あらかじめ定義した剥離面における節点間の結合を解放する手法10,11)や有限要素を除去する手法12)があり,各要素を離散体として扱う個別要素法(Discrete Element Method; DEM)13,14,15),有限要素の補間関数に拡張ひずみ場として不連続場を内挿する手法16,17,18)なども知られている。破壊基準の表現も単純ではなく,亀裂発生および進展の駆動力を定義する結合力モデル(Cohesive zone model)に関しても議論がある19,20,21)

有限要素法を亀裂進展解析へ発展させた手法として知られる拡張有限要素法(extended FEM; X-FEM)は計算力学の分野で注目を集め,世界中で盛んに研究された22,23,24)。この手法では,亀裂先端において,応力拡大係数やJ積分といった破壊力学パラメータを基に解析解を利用して,亀裂進展解析を行う。また,物体上に定義するメッシュを用いないメッシュフリー法25,26,27)や粒子の集合として連続体を表現する粒子法28,29)では不連続面の再定義が容易であるため,亀裂進展問題への応用研究が盛んになされている。メッシュフリー法の一種である有限被覆法(Finite Cover Method; FCM)は物質を扱う物理領域と補間関数を定義する数学領域を分けて定義するアプローチである。Asai and Terada30)は最大主応力で亀裂発生を仮定することで,初期亀裂が存在しない問題に対しても亀裂の発生から進展までを数値解析で再現した。

破壊現象の数値シミュレーションは力学分野における古典的な研究課題であるが,現在でもなお注目されている分野である。近年では,Phase-Field法で不連続界面を表現する方法31,32)やPeridynamics という非局所理論に基づく境界値問題の解法33,34)など,新しい手法が提案されている。亀裂進展を扱うための数値解析手法のソフトウェア開発や汎用ソフトウェアへの実装も進んでいる35,36,37)

上述の強不連続モデルを延性破壊へ適用することは理論的には可能である。とはいえ,メッシュフリー法のような数値解析手法では有限ひずみ問題を解くことが容易ではない上,亀裂進展を再現するにはメッシュを再構成する必要があるため,変位場だけでなく塑性変形履歴も更新された場へ移し替えなければならない。その結果,弾塑性体の三次元的な亀裂進展を実用に耐えうる数値精度とロバスト性(ここでは,様々な計算条件に対して,数値シミュレーションを破綻せずに安定的に実行できる性能) で解析することは現在でも難度が高い。

3・2 分布損傷モデル

分布損傷モデルでは,連続体内に分布して発生する微細な破壊を損傷変数として定義し,その力学応答への影響を構成モデルとして表現する38,39,40)。対象とする材料挙動を表現するために,複雑な構成式を定義して高度化でき,数値解析上も変位場の連続性が保持されるため,ロバスト性が高い。

この種の構成モデルは分布した損傷を表現するモデルであるので,本質的に亀裂を再現することは不可能であるが,局所的に損傷の多い領域として亀裂に近い状況を表現することはできる。ただし,不連続体モデル以上に要素分割の影響が顕著に現れることに注意を要する。要素分割依存性の回避には非局所理論41,42)やひずみ勾配理論43,46),Cosserat理論44,45,46)などによって特性長さを導入することが有効であるが,計算コストの大幅な増加は避けられない。

代表的な分布損傷モデルは連続体損傷モデルとボイド損傷モデルである。

連続体損傷モデルでは,損傷の影響を現象論的に弾性剛性の低下として表現する47,48,49)。スカラー変数を用いて比較的単純な構成式で記述できる等方損傷モデルから,引張・圧縮の異方性を場合分けによって記述する構成モデル50,51)や変形履歴に応じて異方的に広がる損傷の影響を表現したテンソル変数を用いた異方損傷モデル52,53)などへ拡張されている。連続体損傷モデルは塑性変形履歴とは独立した概念に基づく構成モデルであり,塑性と損傷の構成式の連成を考えることで延性破壊を扱うことができる54,55)

他方,ボイド損傷モデルは損傷形態がボイドであることを明示する延性破壊を対象とする構成モデルである。Gurson56)によって提案された多孔質材料の塑性構成モデルを基し,ボイドの生成・成長・合体を考慮することで,材料の強度低下を表現する57,58,59)。延性破壊の数値シミュレーションに関しては,この構成モデルを用いた研究報告が最も多い60,61)

4. スケール連成モデリング

破壊の起点は構造体の局所変形により誘起された応力またはひずみの集中点である。構造体の変形解析において,この局所領域は均質体中の滑らかな変位場の一部として表現されるが,破壊の起点はかけ離れたいくつかの空間スケールからなる階層性を持ち,材料組織の不均質性を通して,原子レベルまで拡大できる。

本節では,連続体力学で扱うことのできる構造体と材料組織のスケールを連携させるスケール連成モデリング手法について概説する。この種のスケール連成モデリング手法は,局所部位を拡大する手法と全領域に分布する不均質材料組織の代表体積要素を定義し,その平均応答から材料応答を評価する手法の2 種類がある。前者では構造体の全体領域(Global)と局所領域(Local)は同じ空間に定義される。一方,後者では構造体が定義される巨視(Macro)レベルと材料組織の代表体積要素が定義される微視(Micro)レベルはかけ離れた別の空間に定義される。この特徴からここでは,前者をGlobal-Localアプローチ,後者をMicro-Macroアプローチと呼ぶ(Fig.2)。

Fig. 2.

 Multiscale modeling.

4・1 Global-Localアプローチ

Global-Localアプローチの古典的な手法は亀裂周辺や応力集中が予想される領域のメッシュ分割数を意識的に細分化することである。アダプティブ法62,63)では有限要素解析の数値誤差を検知し,誤差の要因となっている領域を自動的に要素細分化(アダプティブh法),もしくは要素補間関数の高次化(アダプティブp法)を行う。サブストラクチャ法64,65)では,全体構造を複数の部位に分けて,相互の整合性を取りながら個別に計算する手法であり,特定領域の部位のメッシュ解像度を意図的に変えることができる。また,重合メッシュ法(s-version FEM)66,67)では,対象とする局所の有限要素メッシュを構造全体の有限要素メッシュに重ね合わせ,Lagrange未定乗数法などで連携させながら解く。

Global-Localアプローチでは,構造体と材料組織のような全体・局所領域間でスケール差が大きい解析対象を扱うためには,微小な構造体を想定するなど全体領域のモデル化に工夫が必要となる。Loehnert and Belytschko68)はGlobal-LocalアプローチとX-FEMを組み合わせて亀裂先端周辺の解像度を上げて不均質性を考慮した数値解析を行った。ボイド損傷モデルを用いて,ノッチ先端のマイクロボイドを考慮した亀裂進展シミュレーションも報告されている69,70)

4・2 Micro-Macroアプローチ

Micro-Macroアプローチは複合材料の平均化手法71,72)と有限要素解析を組み合せたアプローチである。複合材料の平均化手法では,巨視的な構造体スケールからかけ離れた不均質性を微視スケールと定義し,その不均質な微視構造の一部を代表体積要素と考え,その平均応答を評価する。古典的な平均化手法は平均場理論73)であり,Eshelbyの介在物理論74)を用いた半解析的手法へ発展した75,76,77)。Micro-Macroアプローチでは,これらの平均化手法を構成モデルとして用いる78,79)。Micro-Macroアプローチにおいて,微視スケールに亀裂やボイドのような破壊を想定する場合,これらは構造体スケールの評価点周辺に分布する微細な破壊を意味し,分布損傷モデルの概念と一致する。

数学的均質化法に基づくMicro-Macro有限要素解析手法80,81)では,材料組織の不均質性を周期材料組織の有限要素モデルとして幾何学的特徴も含めて直接的に表現する。この手法では微視スケールも有限要素解析となるので,有限要素法の分野で培われた数値解析手法を適用でき,拡張性が高い。ただし,Marcro構造体とMicro周期材料組織の変形問題を同時に扱う大規模数値解析となるため,非線形問題における報告は少ない82,83)。Micro-Macro有限要素解析手法を実用問題へ応用するために,Watanabe and Terada84)はスケール連成問題を単一スケールの有限要素解析からなる手続きによって近似するアプローチを提案し,実用的な塑性加工問題へ適用した85)。このアプローチでは,材料組織から得られるMacro平均応答をMacro構成モデルで近似する。よって,微視スケールの破壊によるMacro平均応答への影響を構成モデルを用いて適切に表現できれば,破壊を含む問題へも適用可能と考えられる。

また,Micro-Macroアプローチでは定式化上,MicroとMacroの2つのかけ離れたスケール間の関係は明確に定義されず,一般に代表体積要素として想定される材料組織に長さスケールは存在しない。代表体積要素中にスケールを定義するためには,非局所理論に基づく構成モデルを適用するなど特性長さを導入するための工夫が必要となる86,87)

5. 材料組織の数値シミュレーション

有限要素法のような離散化数値解析手法は変形メカニズムの調査にも有効な手段であり,連続体力学が成立する範疇において材料組織の局所領域のみを対象とした数値シミュレーションからも有益な情報を得ることができる。

ボイドの変形機構はマイクロメカニクスにおける古典的な研究課題であり,解析的アプローチに基づいて理論研究が進められてきたが88,89),有限要素解析を用いることでボイド形状や配置など幾何学的要素を含んだ議論が可能になった90)。近年では,人工的に発生させたボイドの変形過程を放射光CTで観察することも可能となり,数値シミュレーションと実験の双方から議論が進められており91,92),現象の理解と共にボイド損傷モデルの高度化への寄与も期待される。

材料組織の有限要素解析では,近年,高解像度な材料組織を扱える数値解析手法93,94)が開発され,特に結晶塑性論の分野で多くの研究報告85,95)があるが,延性破壊を扱った研究は少ない。Watanabeら55)は結晶塑性構成モデルと連続体損傷モデルを連携させた構成モデルを定式化し,周期多結晶組織の有限要素解析の結果として,微視的な損傷によってマクロ応答の剛性が低下する過程を再現した。

鉄鋼材料ではDual-Phase鋼のように材料組織の不均質性の積極的な利用が進んでおり,その応力−ひずみ関係の予測には材料組織の不均質性を無視できない。Watanabeら96)は第一原理計算と有限要素解析の結果を基にPearliteコロニーの異方塑性構成モデルを開発すると共に,Ferrite-Pearlite複合組織鋼のマクロ応力−ひずみ関係を予測した。Ohataら97)は三次元組織構造を含むDual-Phase鋼の微小試験片の有限要素モデルを作成し,ボイド損傷モデルを用いて,破壊過程の数値シミュレーションを実施した。

金属材料組織の数値シミュレーションは一般的な連続体力学が成立する限界領域であり,微細な組織因子を扱うためにはより高度なモデリングが必要となる。例えば,一般的な有限要素解析手法の下で材料組織をいかに高解像度に離散化したとしても,数値シミュレーションにおいて転位や原子の運動を評価することは決してできない。転位や分子レベルを対象とした数値シミュレーションとの連携やそれらの運動を考慮した境界値問題の定式化が不可欠である。転位や分子レベルの変形問題を扱う数値解析手法98,99)は開発されているが,連続体力学と同等の時間・変形を扱うことは現在でも困難であり,この種の数値解析手法との連携は大きな課題である。

6. おわりに

ここでは,連続体力学の範疇において破壊と複数の空間スケールを扱う数値解析手法について概説し,延性破壊への適用例を紹介した。

破壊の数値シミュレーション手法は実用的な問題へ適用される段階に来ている。数値シミュレーションの産業利用には,モデルの検証と結果の妥当性確認(Verification and Validation; V&V)が不可欠である100)。材料組織の数値シミュレーションの検証には対応する実験データが必要であり,その場観察試験101,102,103)や画像相関法によるひずみ可視化技術96,104)などの利用が重要である。また,モデルの高度化・妥当性改善において,分子動力学解析や第一原理計算,Phase-Field法による材料組織の予測手法,材料組織の三次元形態の計測技術といった周辺技術との連携も重要となるであろう。

謝辞

本論文は日本鉄鋼協会“鉄鋼材料の組織と延性破壊研究会”報告書に寄稿した論文を改訂したものである。本研究の一部はJST産学共創基礎基盤研究プログラム「革新的構造用金属材料創製を目指したヘテロ構造制御に基づく新指導原理の構築」および科学研究費補助金25102711,25820359,15K18205の支援を受けた。

文献
 
© 2015 The Iron and Steel Institute of Japan

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