Tetsu-to-Hagane
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Effects of Electromagnetic Vibration on the Macro Segregation of Sn-10 mass%Pb Alloy
Fuminobu MurakamiAsuka MaruyamaKazuhiko Iwai
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2016 Volume 102 Issue 3 Pages 164-169

Details
Synopsis:

Control of segregation during the solidification of an alloy is important to improve the quality of product because it affects mechanical, physical and chemical properties. Convection is a tool of solute distribution control in the alloy though it is difficult to excite flow in the latter stage of the solidification using traditional method because of drastic increase in apparent viscosity. Thus, a controlling method of the solute distribution in the latter stage of the solidification is desired. In this study, electromagnetic vibration excited by a horizontal static magnetic field of 0.3 T and a vertical alternating current of 60 A, 1 kHz was applied to the Sn-10 mass%Pb during its solidification for clarification of its effect on the solute distribution, especially in the latter stage of the solidification. Both distributions of Pb concentration in the primary phase and the ratio of the eutectic phase area were explained by the gravity segregation when the electromagnetic vibration was not imposed. On the other hand, the Pb concentration in the primary phase increased if the electromagnetic vibration was imposed in the latter stage of the solidification, while it decreased if the imposing duration was the initial stage. The eutectic area ratio distribution became relatively uniform if the electromagnetic vibration was imposed both in the initial and the latter stages of the solidification. These distribution differences with and without the electromagnetic vibration suggest that the electromagnetic vibration induced flow in the solidifying alloy even though high solid fraction.

1. 緒言

偏析は合金材料における機械的,物理的,化学的特性の偏りを招くため,その抑制が求められている。偏析抑制は熱処理工程の省略に繋がる一方,偏析助長によって材料表層と内部での異なる機能の付与,非平衡相析出による新規機能の付与,等が可能となる。すなわち,偏析制御は合金材料の品質を向上させるうえで重要な課題である。溶質分布は拡散と対流により決定される。このうち拡散は液相内ばかりではなく,固相内での溶質再分布に寄与する。しかしながら,例えば1000°Cに加熱した鋼中でのマンガンの拡散距離は1時間で1 μm程度であり,凝固中の対流速度に比べると極めて遅いため1),対流が溶質分布に与える影響は無視し得ない。これまでに凝固中合金の対流が溶質分布に与える影響に関する研究は多くあり,電磁攪拌が偏析へ与える影響1,2,3,4),凝固収縮に伴う対流がV偏析や中心偏析に与える影響5,6)等が挙げられる。固液混相では固相率の増加に伴い固相同士の干渉が増加するため,見かけ粘性は著しく増加する。例として,Fe-3 mass%Cの見かけ粘性は固相率が0.60のときに溶融Feの粘性係数の数千倍にも達する7)。すなわち,凝固後期の対流誘起には極めて大きな外力が必要とされるので,工業的な適用には大きな困難を伴う。一方で,溶融Feそのものの粘性係数の温度依存性をFig.18) に示すが,粘性係数は1 Kあたり0.1%程度しか変化せず攪拌の駆動力の大きさにはほとんど影響を与えない。以上のことから,固相同士の干渉を出来るだけ低減できる条件で外力を付与すれば,外力を大きくせずとも高固相率下において対流による溶質の分布制御が可能となる。例えば,固液混相全体を対象としたマクロスケールの対流ではなく,全体として繋がっている大小様々な液相領域のそれぞれに対してミクロスケールの対流を誘起するような外力を印加できれば,見かけ粘性の増加を伴わない攪拌が期待できる。対流の駆動力は力の絶対値ではなくその勾配であり,小さな液相領域を対象として対流を誘起するためには外力の勾配を大きくする必要がある。現在,凝固過程において溶鋼内に対流を与える方法として,電磁攪拌が広く用いられている。しかし,電磁攪拌によって生じる対流はマクロスケールであり高固相率下における溶質分布制御に寄与させることは困難である。そこで,高固相率下における対流制御方法として電磁振動に着目した。電磁振動とは振動するローレンツ力であり,例として交流電流と静磁場の重畳印加により誘起される。電磁振動力は溶質濃度差や温度差,固相と液相との電気伝導度の違いや,位置による力の位相差によりミクロスケールでその分布が不均一となる。この力の不均一分布により,高固相率下においてもミクロスケールの液相内での対流誘起が期待される。これまで凝固過程における電磁振動力の印加について,デンドライトの溶断促進に起因した凝固組織の微細化や等軸晶化が報告されている9,10)

Fig. 1.

 Viscosity of liquid Fe as a function of temperature.

本研究では,高固相率下にある凝固後期での電磁振動印加が溶質分布へ与える影響について,Sn-Pb系合金をモデル合金として実験により検討したので,それについて報告する。

2. 実験方法

2・1 試料作製

融点が低いために実験が容易であること,凝固組織が観察しやすいこと,共晶領域と初晶領域の比率は共晶凝固開始直前の固相中平均Pb濃度により決定される,等の特性を考慮してSn-10 mass%Pb合金を今回の実験系に採用した。Sn-Pb二元系状態図をFig.2に示す。Sn-10 mass%Pb合金の液相線温度および共晶温度はそれぞれ492 K,456 Kであり,共晶温度に到達したときの固相率は約0.76である。ここで,Sn-Pb系合金において固相内拡散はほとんど進行しないと考えられる。そのため,本論文においては実際に測定した温度Tより,純Snの融点Tm,共晶温度Te,共晶Pb濃度Ce,初期Pb濃度C0,平衡分配係数kからScheil式を用いて以下のように固相率fの推定を行った。なお,この固相率fは固相の体積率である。   

f=1(TmTTmTeCeC0)(1k1)(1)

Fig. 2.

 Sn-Pb phase diagram.

実験装置の模式図をFig.3に示す。純度99.99%のSnおよびPbを用いて作製した母合金24 gをセラミックるつぼ(SSA-S 15×12×100 mm)に挿入し,自作の抵抗炉により加熱・融解した。実験中は酸化を防ぐためにAr雰囲気とし,また試料温度測定のためにT熱電対をるつぼ底部,および底部より30 mm上部の側面に設置した。また,先端5 mmを除いて耐熱絶縁被覆した直径3 mmの二本の銅棒を用意して,一本の先端がるつぼ底部,残りの一本の先端がるつぼ下部から約40 mmの位置となるように取り付け,通電用電極とした。母合金融解後,上部の熱電対が下部の熱電対より常に30 K程度高温でかつ冷却速度0.06 K/sとなるように,下部から流量を調整しつつ圧縮空気を吹き付けながら,冷却・凝固を開始した。なお,熱電対間の温度勾配は,対流がなければ1.0 K/mmに相当する。試料が所定の温度まで冷却された時点で,銅棒電極を通した上下方向へ60 A,1 kHzの交流電流通電,および水平方向へ0.3 Tの静磁場印加を開始し,それらの相互作用として試料に電磁振動が生じるようにした。なお,この実験条件における電磁浸透厚みは約11 mmであり,るつぼ内径が12 mmであることから試料内電流分布はほぼ均一であったといえる。試料上部の温度が448 Kに到達した後に自作の抵抗炉の電源を止めるとともに,圧縮空気の流量を最大とすることで室温まで急冷した。電磁振動の印加時期は,試料底部での温度が503 K(液相線温度より11 K高温)から478 K(固相率0.55)の間の凝固前期,試料上部の温度が478 K(固相率0.55)から448 K(共晶温度より8 K低温)の間の凝固後期とした。電磁振動印加時期の効果を解明するために,凝固前期と後期の両方で電磁振動を印加したSample A,凝固前期にのみ印加したSample B,電磁振動を印加せずに凝固させたSample Cの3種類の試料を作製した。そして,得られた試料を組織観察,化学分析に供した。

Fig. 3.

 Experimental apparatus.

2・2 試料分析方法

各試料とも上下方向に切断し縦断面を露出させ,その面を組織観察,分析対象とした。縦断面に対し0.05 μmアルミナ研磨剤によるバフ研磨まで行ったのち,FE-SEMによる組織観察およびFE-EPMA(日本電子,JXA-8530F)による組成分析を行った。また,FE-SEMにより撮影したCOMPO像を二値化処理し,Sn-richにより黒く写る領域のみで構成された初晶領域と,Sn-richにより黒く写る領域とPb-richにより白く写る領域とが混じった共晶領域とを区別した。そして共晶領域の面積割合を算出し,その凝固進行方向に対する変化を求めた。ただし,今回の実験においては一面の面積率から算出したために,等方性を有していない場合,体積率とは厳密には一致しない。しかし,本実験においては共晶領域割合を算出した画像に含まれている柱状晶のアーム間隔が完全には一定ではないため成長方向に平行な特定面を観察しておらず,また試料は下方からの一方向凝固によって作製したため,試料水平方向における濃度勾配は比較的小さく,その共晶領域割合の変化も小さいと考えられる。よって,面積率と体積率との誤差は小さいと判断し,面積率を領域中の共晶領域割合とした。なお,体積率は複数の観察面から得た平均面積率にほぼ近くなるため,今回の結果においてはさらに複数の面から算出し,その平均から共晶領域割合を算出することで,より正確な値が算出できると考えられる。

3. 実験結果および考察

3・1 冷却曲線および電磁振動印加時の液相線位置,共晶温度位置,固相率の推定

各試料の冷却曲線をFig.4に示す。冷却中,通電開始,通電終了による試料内発熱の有無によって冷却速度は多少変化したものの,圧縮空気の流量を適宜調整することで各試料とも所定の冷却速度(0.06 K/s)からの大きなずれはなかった。各試料とも試料上部では復熱は観測されなかったが,試料底部では復熱が観測された。従って,凝固は下部から上部に向かって進行していたといえる。復熱開始時の過冷度はSample Aで9.7 K,Sample Bで9.4 K,Sample Cで13.5 Kであったことから,電磁振動印加されたときの過冷度は小さく,電磁振動が核生成を誘起した可能性11)がある。

Fig. 4.

 Cooling curves of samples.

続いて,試料内の上下方向温度勾配は直線であると仮定して2つの熱電対から得られた冷却曲線より温度勾配を求め,各試料に対して電磁振動を印加開始,あるいは印加終了したときの液相線位置,共晶温度位置を計算した。計算結果をFig.5に示す。Fig.5において縦軸は試料底部を0 mmとした上下方向位置を示している。Sample A,Bにおいて前期電磁振動印加終了時の液相線位置はそれぞれるつぼ底部から12 mm,23 mmと推定されるので,その時点で固液混相領域が発生していたことがわかる。またSample Aの後期電磁振動印加開始時,液相線および共晶温度の推定位置はそれぞれるつぼ底部から45 mm,7 mmと推定される。また測温していた30 mm地点における固相率fは0.55程度と,比較的高固相率であった。

Fig. 5.

 Liquidus and eutectic temperatures positions estimated from temperature histories.

今回の実験系であるSn-10 mass%Pbの凝固中における自然対流が発生するか否かについて,簡単な検討を行った。モデルの概要を以下に示す。距離2d(m)だけ離れて,奥行き方向に均一な二つの固相が向き合っており,その間に粘性係数η(Pa・s)の液相が存在する。液相内の溶質分布は固相間中央を中心として対称かつ直線的であり,固液界面近傍における溶質濃度と固相間中央における溶質濃度にはΔC(mass%)だけ差がある。ここでこの系がSn-10 mass%Pbであるとき,固相間中央では上昇流が,固液界面近傍では下降流が密度差により生じる。その下降流の最大流速u (m/s)は,重力加速度g(m/s2),Sn-10 mass%Pbの液相密度ρ(kg/m3),1 mass%当たりの溶質濃度変化による相対密度変化βC(-/mass%)を用いると次式で表される。   

u=116ρgβCΔCd2128η(2)

本実験における液相内拡散係数DL(m2/s)および凝固速度R(m/s)より拡散層厚みを推定すると50 μmとなった。また,試料全高は50 mm前後であり,液相線温度からデンドライト組織における限界固相率12)0.67に近い値である固相率0.60まで冷却される時間は,おおよそ200 sであった。そこで,200 s間に10 mm移動する,すなわち,流速0.05 mm/sとなるΔCをd=50 μmとして求めたところ,ΔC=5 mass%程度であった。初期液相Pb濃度が10 mass%であり,Sn-richのSn-Pb二元系合金の平衡分配係数kは6.6×10−2であることから,重力偏析による流速が0.05 mm/sに到達するのは,固液界面における固相Pb濃度がおおよそ1.0 mass%に達したときと推定される。ただし,実験では3次元形状にもかかわらずここでは2次元平面を計算対象としているので,計算では壁面摩擦の影響を過小評価している可能性や,攪拌によって液相中の濃度勾配が小さくなった可能性から,実際の自然対流における流速は計算よりも遅い可能性がある。

3・2 凝固組織観察

FE-SEMにより撮影した試料内上下方向の各位置における凝固組織のCOMPO像をFig.6に示す。電磁振動を印加しなかったSample Cは全体的に柱状組織であったが,凝固前期に電磁振動を印加したSample A,Bは図中の破線で囲った試料下部で等軸組織が観察された。これは,電磁振動によりデンドライトが溶断されたためと考えられる10)。また,上述の通り,前期電磁振動印加終了時の液相線位置はSample Aで12 mm,Sample Bで23 mmである一方,等軸組織が柱状組織へ遷移した位置はどちらも25 mmほどであった。すなわち,等軸組織は前期電磁振動印加終了時の液相線温度位置よりやや上方まで拡がっていた。これは分断遊離した初晶が密度差により浮上,あるいは対流により上部へ移動したためと考えられるが,上部へ行くほど高温なので上昇しすぎた初晶は再融解してしまった可能性がある。

Fig. 6.

 Solidified structure of samples (a) Sample A, (b) Sample B, (c) Sample C.

3・3 初晶Pb濃度分析

各試料の底部から上部に向かって10 mm弱毎に初晶領域のPb濃度をFE-EPMAにより分析した。初晶デンドライト間隔は等軸,柱状に関わらず100 μm弱であり,分析スポット径を30 μmとすることで初晶内の平均的なPb濃度を分析した。また,一箇所につき初晶のPb濃度を3点分析することで初晶Pb平均濃度を求めた。結果をFig.7に示す。初晶Pb濃度は0.8 msss%から1.4 mass%までの範囲でばらついていた。この分析結果は初晶内30 μm径円内における平均Pb濃度であるため,固液界面における固相Pb濃度はより高いものであったと予想される。Scheil式より,Sn-10 mass%Pbにおいて初晶内平均濃度が0.8 mass%となるのは固相率0.3程度のときであり,そのときの固液界面における固相濃度は約0.95 mass%と予測される。そのため,前述の計算と合わせて考えると重力偏析は発生しうる環境であったと推測される。試料の下部領域に注目すると電磁振動無印加のSample Cにおいて初晶Pb濃度が約1.3 mass%であったのに対し,凝固前期において電磁振動を印加したSample A,Bでは約1.0 mass%と低減されていた。これは,Sample Cでは重力偏析により試料下部へ沈降したPb濃化液相から初晶が成長したために初晶Pb濃度が高くなったのに対して,Sample A,Bでは電磁振動により液相が攪拌されることで液相のPb濃度上昇が抑制されて,相対的にPbが低濃度の初晶が成長したものと考えられる。一方,凝固後期の領域では後期電磁振動印加を行ったSample Aにおいてのみ初晶Pbの濃化がみられ,Sample B,Cではみられなかった。この結果も,Sample B,Cでは重力偏析が起きていたのに対して,Sample Aでは重力偏析を上回る対流が誘起されたとすれば説明可能である。すなわち,これらの結果は凝固時期に関わらず電磁振動の印加によって対流が誘起されることを示唆している。

Fig. 7.

 Distribution of Pb concentration in primary phase.

3・4 共晶領域の占める割合

各試料の縦断面において撮影した2.2 mm×2.8 mmサイズのCOMPO像を2値化することで初晶領域か共晶領域かを判別し,そこから求めた共晶領域割合をFig.8に示す。共晶領域割合は固相中平均Pb濃度に依存し,また固相中平均Pb濃度は液相中Pb濃度に影響されることから,共晶温度における液相中Pbの濃化の程度が共晶領域割合から推定できる。試料底部から8 mm程度までの領域に注目すると,Sample A,Bの共晶領域割合はSample Cと比べて少なかった。Sample B,Cは,その後20 mm程度の領域まで共晶領域割合が増加傾向にあり,20 mm以上の領域では共晶領域割合は減少した。一方,この区間におけるSample Aの共晶領域割合はばらつきがあるものの,停滞傾向にあり,その値もSample B,Cと比べ小さかった。これらの結果より,Sample Cでは重力偏析を伴った以下のような現象が生じていたと考えられる。重力偏析が引き起こされると下部の固液混相内の液相中Pb濃度が増加し,ひいては共晶割合が増加する。まず初期凝固領域においては,固相からの溶質排出とともに重力偏析による試料下部の液相濃化がおきるため,凝固進行方向への共晶領域割合の増加が引き起こされる。そして,固相先端が試料最上部まで到達すると,それより上部からの濃化液相供給がなくなるものの,固相の成長とともに排出される溶質は引き続き固液混相領域の下部へと移動するため,共晶領域割合は減少すると考えられる。従って,Sample Cでは共晶領域割合が徐々に増加して,その後減少したと思われる。Sample Bでは,試料底部の固相率が0.55に達するまで電磁振動が印加されたので,この間は重力偏析が起きず,液相濃度は比較的均一であったと推定される。そして,電磁振動印加終了後に重力偏析が起き始め,その後はSample Cと同様な現象が起きたものと推察される。従って,Sample Bにおいては試料最下部での共晶領域割合はSample Cに比べて低い値で停滞したのち,類似のプロフィールになったと思われる。

Fig. 8.

 Distribution of eutectic area ratio.

一方,Sample Aについてみると,試料全体を通して共晶領域割合のバラつきは小さく,またその平均共晶割合は状態図より推測される0.19よりも小さかった。このことから,Sample Aにおいては,観察面外に共晶領域が極端に集中した箇所が存在していたと予測される。試料底部から10 mm程度まで共晶領域割合が増加傾向にあったことから,この領域においては前期電磁振動により液相濃度が一旦均一化され,電磁振動印加を終了した後に重力偏析が引き起こされたというSample Bと同様の現象が発生していたと考えられる。続いて,30 mm以降の領域においては40 mm付近が極小値となった。Sample Aにおいては40 mm付近に交流電流印加用の銅電極が存在していたことから,後期電磁振動印加によって銅電極が発熱し,その付近が最終凝固部となり,共晶領域が集中した可能性がある。そこで,交流電流が印加された際の銅電極および試料の発熱を知るために,以下の式から昇温速度dT/dt(K/s)を求めた。ただし,I(A)は電流値,Cp(J/(kg・K))は比熱,ρ(kg/m3)は密度,σ(S/m)は電気伝導度,S(m2)は断面積をそれぞれ表す。   

dTdt=I2CpρσS2(3)

上式より銅電極の昇温速度は0.59 K/s,Sn液相の昇温速度は0.28 K/sと計算された。この計算は通電による発熱のみを評価したものであり,実際の試料は冷却されているものの,銅電極の昇温は試料の昇温より大きいことから,銅電極近傍は緩冷却となり,最終凝固部となった可能性が高い。従って,試料上部で共晶割合の増加が観察されなかったと思われる。これは,Fig.7に示した,試料上部でSample Aにおける初晶Pb濃度が高かった事実とも矛盾しない。一方で,Sample Aにおいて凝固後期に電磁振動を印加開始した時点での,試料底部から20 mm,10 mmの位置における固相率は0.68,0.74であった。後期電磁振動印加によってこの領域における共晶領域割合が変化していたことから,この間に今回の実験条件における溶質移動誘起可能な限界固相率がありその値はおよそ0.7であると推定される。

4. 結論

一方向凝固中のSn-Pb合金において,高固相率下にある凝固後期での電磁振動印加が溶質分布へ与える影響について検討し,以下の知見を得た。

(1)凝固前期における電磁振動の印加により,凝固前期における初晶Pb濃度は低減した。一方,凝固後期における電磁振動の印加により凝固後期における初晶Pb濃度は増大した。これらの結果は,電磁振動が対流を誘起して重力偏析を低減したためと考えられる。

(2)試料内の共晶領域割合は,電磁振動の印加時期による影響を受けた。とりわけ底部より10 mmから20 mmまでの領域における共晶領域割合の増加傾向抑制,値の低下は,後期での電磁振動印加によるものと推測される。また,後期電磁振動印加開始時における固相率から推察すると,今回の実験条件における溶質移動誘起可能な限界固相率はおよそ0.7であると推定される。

以上より電磁振動は凝固後期においても溶質分布に影響を及ぼす可能性が示唆された。

謝辞

本研究の一部は日本鉄鋼協会「電磁振動印加時の物理現象解明」研究会に対する助成金および科学研究費補助金(基盤研究(C)課題番号25420784)の助成によるものである。ここに記して感謝の意を表す。

文献
 
© 2016 The Iron and Steel Institute of Japan

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