鉄と鋼
Online ISSN : 1883-2954
Print ISSN : 0021-1575
ISSN-L : 0021-1575
論文
数値シミュレーションによる固液界面局所流動の合金デンドライト成長に及ぼす影響の評価
棗 千修大笹 憲一
著者情報
ジャーナル オープンアクセス HTML

2016 年 102 巻 3 号 p. 151-156

詳細
Synopsis:

To evaluate the influence of local melt flow around solid-liquid interface on dendritic growth of alloy, we carried out phase-field simulations of dendritic growth coupled with the calculation of local melt flow. To simulate the local melt flow, we devised a model to generate the special melt flow around the solid-liquid interface. In the model, this special melt flow rotates clockwise and generates on the solid-liquid interface. Under the local melt flow, dendrite morphologies gradually varied from equiaxed to globular dendrites as the flow velocity increase. This is because the enriched solute in the diffusion layer was washed off due to advection of solute by the local melt flow. From these simulated results, it was found that the change of dendritic morphology will be occurred by the local movement of solute in the diffusion layer.

1. 緒言

金属材料では,その組織が機械的性質に大きく影響するため,材料品質の維持・向上には凝固段階からの組織制御が重要である。連続鋳造鋳片の凝固組織は,主に指向性凝固による柱状晶組織であるが,凝固時の各種流動によって分岐柱状晶組織や等軸晶組織も形成する。連続鋳造での鋳片凝固の過程では,凝固組織に起因する内部割れやマクロ偏析が生成するため,形成する凝固組織を考慮した操業条件の制御が行われ,鋳片内部の欠陥を低減させている1,2)。例えば,スラブ鋳片の中心偏析に対しては,ロール間バルジングの防止や軽圧下法などが用いられ,ブルーム・ビレット鋳片では,低温鋳造や電磁攪拌の利用により,鋳片中心部の等軸晶率を増加させる方法が用いられている2)。現行プロセスでは,これらの方法を適用した凝固組織制御が行われ,最近では超音波振動3,4,5),電磁振動6,7)などを利用した凝固組織の微細化に関する研究が盛んに行われており,新たな凝固組織制御法として注目されている。超音波振動による凝固組織の微細化は,アルミニウム合金で一部実用化が進んでおり,電磁振動に関しても凝固組織の微細化効果が報告されている。超音波振動による凝固組織微細化のメカニズムは,音響流およびキャビテーションによる核生成あるいはフラグメンテーションの促進であると言われているが,電磁振動については,そのメカニズムはまだ明らかにされていない。これらの技術による凝固組織の微細化メカニズムは現状解明されていないが,振動あるいは振動起因の流動が,凝固過程のデンドライト成長に影響を与えていると考えられ,デンドライト周りの溶質濃度分布に何らかの影響を与えている可能性が高い。しかし,凝固中の溶質濃度分布を実験で観察して,デンドライト成長への影響を明確化することは難しい。このような課題に対して数値シミュレーションは非常に有効である。ここ20年でミクロ組織形成のシミュレーション技術は急速に発展してきた8)。フェーズフィールド法9,10,11,12,13)やセルオートマトン法14,15,16)はその主要な手法であり,合金のデンドライト成長シミュレーションは,これらの手法によって比較的容易に取り扱うことが可能となってきた。特に,フェーズフィールド法はミクロ組織形成に関わる物理現象のメカニズム解明には有力な手法であり,超音波振動や電磁振動のような微小振動による局所的な溶質濃度分布変化とデンドライト成長との関係などの物理現象解明にも有効であると言える。

本研究では,合金のフェーズフィールドモデルと固液界面近傍での局所的な溶質移動(以下,固液界面局所流動)を考慮した流動モデルの連成モデルを考案し,固液界面局所流動下のデンドライト成長シミュレーションを行って,電磁振動や超音波振動などの微小振動で想定される固液界面近傍の局所的な溶質濃度変化がデンドライト成長に及ぼす影響について解析する。

2. 計算方法

2・1 フェーズフィールド法

本研究では,2元系合金のフェーズフィール法としてフェーズフィールド法における界面近傍での異常現象(化学ポテンシャルのずれが起因のsolute trappingなど)を抑制して,固液界面での溶質分配による溶質濃度分布をシャープにするためにReduced interface法17,18)を適用したKKSモデル11)に基づくフェーズフィールド法を用いる。その支配方程式を以下に示す。   

ϕt=M(ε22ϕfϕ)(1)
  
ct=[DSϕrcS+DL(1ϕr)cL](2)
  
f(ϕ,c,T)=h(ϕ)fS(cS)+{1h(ϕ)}fL(cL)+Wg(ϕ)(3)
  
c=p(ϕr)cS+{1p(ϕr)}cL(4)
  
fS(cS)cS=fL(cL)cL(5)
  
ε=ε0(1+ε4cos(4θ))(6)

ここで,φはフェーズフィールド(液相ではφ=0,固相ではφ=1,固液界面では0<φ<1),φrはReduced interface法における溶質濃度場の固液界面オーダーパラメータ(φr=(φ−0.4)/0.2;ただし,φr≧1の時φr=1,φr≦0の時φr=0とする),cは溶質濃度,Tは温度,tは時間,DSDLは固相および液相の拡散係数,fSfLは固相および液相の自由エネルギー密度,cScLは固相および液相の溶質濃度,Mはフェーズフィールド移動度,Wは二重井戸型ポテンシャルの高さ,ε0は異方性が無い時の勾配エネルギー係数,ε4は異方性パラメータ,θは界面法線ベクトルとx軸との角度,内挿関数はそれぞれh(φ)=φ3(10−15φ−6φ2),g(φ)=φ2(1−φ)2pr)=φr3(10−15φr−6φr2),である。また,MWε0はフェーズフィールドパラメータとも呼ばれ以下の式で表される。   

M1=ε02γ[RT(1k)VmmLμk+ε0DL2WfccSfccL(cLecSe)201h(ϕ0)[1h(ϕ0)][1h(ϕ0)]fccS+h(ϕ0)fccLdϕ0g(ϕ0)](7)
  
W=6γλln1+2α12α(8)
  
ε0=3λln(1+2α)ln(12α)γ(9)

ここで,Rは気体定数,kは平衡分配係数,mLは液相線勾配,Vmはモル体積,μkはカイネティック係数,cSecLeは固相および液相の平衡溶質濃度,γは固液界面エネルギー,λは界面幅,αは界面幅パラメータ(0<α<0.5),fccSfccLは固相および液相の自由エネルギー密度関数の溶質濃度における2階偏微分である。

2・2 固液界面局所流動モデル

合金のデンドライト成長では,固液界面前方に拡散境界層が形成する。この拡散境界層が強制対流,自然対流などの液相流動や固相移動によって変化するとデンドライト形態に影響する。強制対流下のデンドライト成長では,デンドライト周りの溶質洗浄効果により上流側の拡散境界層が薄くなり上流側の側枝が発達したデンドライトが成長するということが知られている19,20)。また,デンドライトに対する磁気流体の流れでは,固液界面に沿った特異な流れが発生することが報告されている21)。この特異な流れは,対流のような液相全体に渡るマクロスケールの流れではなく,デンドライト周りだけの局所的なミクロスケールの流れである。本研究では,このような固液界面の周りの局所的な流動を想定した2次元の簡易流動モデル(本稿では固液界面局所流動モデルと呼ぶ)を考案し,可能な限り固液界面近傍の溶質移動効果のみを検証できるようにした。

Fig.1は固液界面局所流動モデルの概念図である。モデルでは,固液界面の接線方向に時計回りの流れを一定の外力として発生させ,固液界面の法線方向の流れは発生しないようにした。この流れはナビエ・ストークス方程式の外力項Fとして以下の式のように与える。   

ut+uu=p+ν2u+F(10)
  
F=ϕϕcτ;τ={0(ϕ>ϕc)alocalτ(ϕϕc)(11)

Fig. 1.

 Schematic illustrations to explain a model for local melt flow around a solid-liquid interface.

ここで,uは流速ベクトル,pは圧力,νは動粘性係数,alocalは固液界面局所流動加速度の大きさ,φcは固液界面局所流動を発生させるフェーズフィールドの値の最大値(0<φc<1),τは単位接線ベクトルである。固液界面局所流動に関する外力Fは,Fig.1(b)に示すようにφ=φcの時を最大とし,液相領域に向かって直線的に弱くなり,φ=0で|F|=0となる。また,固相側のφ>φcでも|F|=0となるようにし,固液界面の表面だけに流れが発生するようにした。なお,(10)式は,非圧縮性流体を仮定し,連続の式∇・u=0と連立させて計算する。

固液界面局所流動による溶質移動を考慮すると,(2)式の拡散方程式は以下のような移流拡散方程式となる。   

ct+(1ϕ)uc=[DSϕrcS+DL(1ϕr)cL](12)

2・3 計算方法と計算条件

フェーズフィールド法は,(1)式および(12)式を離散化し,正方形要素で分割した計算領域に対して有限差分法によって計算する。流動計算は(10)式および連続の式を離散化し,こちらも正方形要素で分割した計算領域に対してHSMAC法(SOLA法)によって計算する。フェーズフィールド,溶質濃度場および流動場の全ての場を陽解法で計算する。したがって,全ての場で同じ要素サイズを用いた場合,流動計算(uの計算)の時間刻みがフェーズフィールド計算(φとcの計算)の時間刻みに比べてかなり小さくなる。そこで適切な計算刻みに調整するため,流動計算とフェーズフィールド計算に対する2重グリッド法を用いた。すなわち,流動計算の要素サイズΔxflowをフェーズフィールド計算の要素サイズΔxpfn倍(n>1)にすることで,流動計算とフェーズフィールド計算の時間刻みが同程度になるように調整する。また,流動計算と移流拡散計算の要素サイズが異なるため,要素サイズの大きい流動場の要素間の流速を直線近似で内挿し,溶質の移流計算に用いる流速分布を算出した。

Table 1で示すFe-C合金の物性値22,23)と計算パラメータを用いてFe-0.1wt.%C合金のフェーズフィールド計算と固液界面局所流動モデルによる流動計算を行った。計算領域は200×200 μm2の正方形領域である。フェーズフィールド計算の要素数は2000×2000,要素サイズは0.1 μm,流動計算の要素数は250×250,要素サイズは0.8 μmである。初期条件は,計算領域の中心に1つの固相核を設置し,1520°C(過冷度ΔT=9°C),1525°C(過冷度ΔT=4°C)の等温過冷却凝固とした。境界条件は,フェーズフィールド計算および流動計算ともにノイマン境界条件とした。したがって,計算領域の外部へ溶質が流出することは無い。固液界面局所流動の影響を評価するために,固液界面局所流動加速度の大きさalocalは,0.1×105~3.0×105 m/s2の範囲で変化させた。

Table 1. Materials properties of Fe-C binary alloy and calculation parameters used in the present simulations.
Materials properties of Fe-C alloy
Equilibrium partition coefficient, k0.17
Liquidus slope, mL (K/wt.%)–84.9
Diffusion coefficient in solid, DS (m2/s)2 × 10–8
Diffusion coefficient in liquid, DL (m2/s)6 × 10–9
Molar volume, Vm (m3/mol)7.7 × 10–6
Interfacial energy, γ (J/m2)0.204
Kinetic coefficient, μk (m/Ks)0.01
Kinematic viscosity, ν (m2/s)7.9 × 10–7
Melting point of pure Fe, Tm (°C)1538
Calculation parameters
Anisotropy parameter, ε40.03
Interface thickness parameter, α0.4
Local flow parameter at interface, φc0.1

3. 結果と考察

固液界面局所流動モデルでは,Fig.1に模式的に示したように固液界面に沿って時計回りの流動を発生させる。Fig.2に1520°Cの等温過冷凝固条件(ΔT=9°C)で計算したデンドライト形態と流速分布を示す。Fig.2(a)は,流動が無い場合のデンドライト形態であり,Fig.2(b)~(f)alocalをそれぞれ0.5×105,0.8×105,1.0×105,1.5×105,2.5×105 m/s2に設定して計算した場合のデンドライト形態と流速分布である。なお,これら全ての経過時間(=時間刻み×計算ステップ)は同じである。モデルの想定通りにデンドライトの形状に沿って時計回りの流れが発生しており,固液界面から離れるにつれてその流速は弱くなっていることがわかる。さらに2次枝などの側枝間隙にも流速ベクトルを確認できることから,流動による側枝間の溶質移動も起こっているものと考えられる。また,alocalが大きくなるにつれて流速も大きくなっており,デンドライトの形態も等軸晶から粒状晶に変化していることがわかる。なお,本モデルは固相そのものの移動を考慮していないため時計回りに回転したように成長している。デンドライト形態が等軸晶から粒状晶へと変化した原因は,固液界面近傍の溶質拡散境界層の変化であると推測される。そこで,これらのデンドライト形態に対する溶質濃度分布を確認した。

Fig. 2.

 Snapshots of flow velocity distribution around dendrite simulated for different accelerations of local melt flow at isothermal field of 1520 °C. Flow conditions for each snapshot are (a) without flow, (b) alocal = 0.5×105 m/s2, (c) alocal = 0.8 × 105 m/s2, (d) alocal = 1.0 × 105 m/s2, (e) alocal = 1.5 × 105 m/s2, and (f) alocal = 2.5 × 105 m/s2.

Fig.3は,Fig.2と同様の条件における炭素濃度分布である。基準となる流動無しの場合のデンドライトについて見てみると,凝固に伴い排出された溶質が固液界面近傍に濃化し,外方への液相拡散によって液相内の溶質濃度分布を形成している。また,流動が無い場合には,デンドライト成長の異方性と曲率効果によって,デンドライト主軸の先端は,成長速度が大きくなり拡散境界層も薄くなっている。全体としてはデンドライトを覆うような溶質の等濃度分布線が描かれる。一方,固液界面局所流動が伴う場合には,alocalが大きくなるにつれて形態が等軸晶から粒状晶へと変化しており,デンドライト先端の拡散境界層が厚くなっていることがわかる。これは固液界面に沿って流れる局所流動による溶質の移流効果であり,その結果,デンドライト先端の成長速度が小さくなって粒状化したものと考えられる。粒状化の度合いは,流速が大きくなるほど顕著であり,alocal=1.0×105 m/s2(Fig.3(d))では,等軸晶と判断できる形態であるが,それ以降ではほぼ粒状晶となっている。また,固液界面は不安定であることから,通常のデンドライト成長で見られる側枝の発達も確認できるが,優先成長方向に従う側枝成長では無く,Seaweed状の側枝が発達している。このように流動に伴う溶質の移動によってデンドライト形態が大きく変化したが,デンドライト周囲の液相への溶質の広がり(初期組成以上の溶質濃度となっている液相領域の幅)は,流速が大きくなってもほとんど変わっていない。すなわち,どの条件においても固液界面から外側に20~30 μm程度の距離までしか溶質が広がっておらず,液相領域の大部分の溶質濃度は初期組成のままである。これは,固液界面近傍以外ではほぼ液相拡散のみで溶質が移動していることを意味しており,外方への溶質の移流はほとんど無いと考えられる。したがって,デンドライトの形態変化は固液界面近傍の局所的な溶質の移動のみで起こったと考えられる。

Fig. 3.

 Snapshots of concentration distribution of carbon simulated for different accelerations of local melt flow at isothermal field of 1520 °C. Flow conditions for each snapshot are (a) without flow, (b) alocal = 0.5 × 105 m/s2, (c) alocal = 0.8 × 105 m/s2, (d) alocal = 1.0 × 105 m/s2, (e) alocal = 1.5 × 105 m/s2, and (f) alocal = 2.5 × 105 m/s2.

ここまでの1520°Cでの等温過冷凝固では,ΔT=9°Cと比較的過冷度が大きく,薄い拡散境界層が形成する条件であったため,固液界面局所流動の影響が現れやすい可能性がある。そこで,過冷度の小さい1525°Cでの等温過冷凝固条件(ΔT=4°C)でも同様の計算を行い,形態への影響について確認した。

Fig.4に1525°Cの等温過冷凝固条件(ΔT=4°C)で計算したデンドライト形態と流速分布を示す。Fig.4(a)は流動が無い場合のデンドライト形態であり,Fig.4(b)~(f)alocalをそれぞれ0.2×105,0.4×105,0.8×105,1.0×105,1.5×105 m/s2に設定して計算した場合のデンドライト形態と流速分布である。この条件では,流動が無い場合でも優先成長方向に成長した4つの主軸のみで側枝の発達が見られない等軸晶となっている。液相内の溶質もほぼ等方的に広がっており,1520°Cの場合ほどデンドライトの輪郭に沿った溶質の等濃度分布線は描けない。しかし,デンドライト形態については,1520°Cの場合と同様に流速が大きくなるにつれて等軸晶から粒状晶へと変化している。元々側枝の発達が見られない等軸晶であったため,主軸の位置が判別できない粒状晶へと変化しており,粒状晶となってもSeaweed状の側枝は見られない。

Fig. 4.

 Snapshots of concentration distribution of carbon simulated for different accelerations of local melt flow at isothermal field of 1525 °C. Flow conditions for each snapshot are (a) without flow, (b) alocal = 0.2 × 105 m/s2, (c) alocal = 0.4 × 105 m/s2, (d) alocal = 0.8 × 105 m/s2, (e) alocal = 1.0 × 105 m/s2, and (f) alocal = 1.5 × 105 m/s2.

このように形態の粒状化など1525°Cの凝固条件においても1520°Cの場合とほぼ同様の現象が起こっていることから,凝固条件に関わらず,固液界面の局所的な溶質の移動によってデンドライトの成長形態は大きく変化することがわかった。この形態変化を引き起こす原因として拡散境界層厚さの変化が考えられる。固液界面局所流動とデンドライト形態変化の関係を定量的に調べるために,レイノルズ数Reと拡散境界層厚さδおよび固相率fSの関係を整理した。レイノルズ数Reは,計算領域内の最大流速umaxと計算領域L(=250×Δxflow),動粘性係数νからRe=umaxL/νとして算出し,拡散境界層厚さδは,平均成長速度Vと液相拡散係数DLからδ=DL/Vとして算出し,固相率fSは計算領域全体に占める固相領域の割合として算出した。また,拡散境界層厚さと固相率は,流動が無い場合の拡散境界層厚さδ0および固相率fS0で除してδ/δ0fS/fS0とすることで無次元化した。なお,最大流速umaxと平均成長速度Vは定常成長になった時点での値を用い,固相率は同じ経過時間に対して算出された値を用いた。

Fig.5はレイノルズ数と無次元拡散境界層厚さの関係である。まず,レイノルズ数は最大でも20程度であり,層流であることがわかる。すなわち,非常に弱い流れでもデンドライト形態に大きな変化を与えることがわかる。どちらの温度(過冷度)条件でもレイノルズ数が5程度までは,レイノルズ数の増加に伴い2次曲線的に拡散境界層厚さが増加している。このレイノルズ数の範囲ではデンドライト形態は等軸晶であり,主軸先端の拡散境界層厚さを示している。したがって,固液界面局所流動によって主軸先端前方の拡散境界層が厚くなり成長速度が減少して粒状晶へと変化していったことがわかる。粒状晶に変化した後の拡散境界層厚さは,レイノルズ数の増加に伴い1520°Cの場合は直線的に増加した後に減少し,1525°Cの場合は緩やかに減少している。粒状晶に変化した後の無次元拡散境界層厚さには一定の傾向は見られないが,1520°Cでは1.8~2.0,1525°Cでは1.3~1.4程度に収束するものと考えられる。

Fig. 5.

 Relationship between Reynolds number and normalized diffusion layer thickness obtained from the present simulations.

Fig.6はレイノルズ数と無次元固相率の関係である。無次元固相率はレイノルズ数が増加するにつれて減少し,等軸晶と判別できる形態までは,どちらの温度(過冷度)条件でも2次曲線的に固相率が減少して,ほぼ粒状晶に変化すると固相率の減少は緩やかになり1520°Cでは0.5~0.6,1525°Cでは0.8前後に無次元固相率は収束している。どちらの温度(過冷度)条件の無次元固相率も流動と固液界面エネルギーの異方性が無い場合の無次元固相率0.56(1520°C)および0.72(1525°C)とほぼ一致していた。なお,固液界面エネルギーの異方性が無い場合のデンドライトは,1520°Cでは不規則に枝分かれし等方的に成長したSeaweed状の形態であり,1525°Cでは,枝分かれは無く固液界面が凸凹した石ころ状の形態であった。枝分かれや固液界面の凹凸はPF法における固液界面での溶質濃度へのノイズによって形成される。固液界面局所流動の効果によって形成する粒状晶と固液界面エネルギーの異方性が無い場合に形成する粒状晶の無次元固相率がほぼ一致するという結果は,固液界面エネルギーの異方性の影響を局所流動による溶質移動が抑制し,等方的な成長に遷移させたことを示している。

Fig. 6.

 Relationship between Reynolds number and normalized solid fraction obtained from the present simulations.

凝固組織形態の制御として固液界面エネルギーの異方性を直接制御することは困難だが,流動を制御することは比較的容易であるため,固液界面近傍の局所的な溶質移動効果を発現する方法を用いた凝固組織制御法は有効であると考えられる。このような観点から考察すると,超音波振動や電磁振動などは有力な凝固組織制御法であるかもしれない。これらの方法による数十kHzといった振動では,振幅は微小であるため固液界面近傍のみの局所的な溶質濃度分布の制御が可能であるかもしれない。実際,超音波振動や電磁振動によって凝固組織が微細化したという実験報告3,4,5,6,7)もあり,本研究の解析結果から考察した固液界面近傍での局所的な溶質移動が凝固組織微細化のメカニズムであれば,詳細な最適条件(振動数,振幅など)を見いだすことで,超音波振動や電磁振動を利用した新たな凝固組織制御法の提案も可能である。

4. 結言

合金の固液界面近傍での局所的な溶質移動を考慮した流動モデルを考案し,フェーズフィールド法によるデンドライト成長シミュレーションと組み合わせた解析を行って,数値シミュレーションの観点から固液界面局所流動がデンドライト成長に及ぼす影響について考察し,以下の結果を得た。

・固液界面近傍の局所的な流動による溶質移動のみでデンドライト形態は大きく変化し,流速が大きくなるにつれてデンドライト形態は等軸晶から粒状晶へと変化する。

・固液界面局所流動の流速が大きくなると側枝の発達が見られるデンドライトでは,その優先成長方向とは異なるSeaweed状の側枝が発達する。

これらの結果から強制対流のようなマクロスケールの流動が無くても固液界面近傍の局所的な溶質移動のみで凝固組織形態は変化することがわかった。

文献
 
© 2016 一般社団法人 日本鉄鋼協会

This article is licensed under a Creative Commons [Attribution-NonCommercial-NoDerivatives 4.0 International] license.
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
feedback
Top