Tetsu-to-Hagane
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Enhancement of Collision among Non-conductive Particles in Electrically Conductive Liquid by Imposing an Oscillating Electromagnetic Field
Asuka MaruyamaKazuhiko Iwai
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2016 Volume 102 Issue 3 Pages 113-118

Details
Synopsis:

Removal of non-metallic inclusions from a molten metal using buoyancy force acting on them has been carried out in steel industry. However, the productivity is restricted by rising velocity of the inclusions in the molten metal. Collision and coagulation of the inclusions promotes their rising velocity by increasing their apparent size because the rising velocity is proportional to the square value of inclusions diameter. Utilization of an oscillating electromagnetic field has a potential to enhance the collision among the inclusions and to promote their rising velocity. However, quantitative prediction of the collision enhancement effect of the oscillating electromagnetic field has not been investigated. In this study, the collision enhancement effect of the oscillating electromagnetic field on the collision among non-conductive particles in a conductive liquid has been theoretically investigated. Collision among the particles is enhanced over a critical electromagnetic volume force. In the case when the friction drag force becomes the dominant resistance force of the particle motion, the critical electromagnetic volume force is smaller than those in the case when the Basset force or inertial force becomes the dominant resistance force. And this case is desirable for the collision enhancement because the collision enhancement effect increases with decrease of the critical electromagnetic volume force. Imposition of the oscillating electromagnetic field enhances the collision among Al2O3 inclusions in the molten steel, especially among small inclusions, under the clam flow condition.

1. 緒言

溶鋼中介在物の除去は,高品質な鉄鋼材料の製造において重要な工程の一つである。タンディッシュでは,介在物と溶鋼との密度差を利用した介在物の浮上分離除去が行われている1)ものの,球形介在物の浮上速度は直径の2乗に比例するので,ミクロンオーダーの介在物の浮上速度は遅く,引き抜き速度増大および生産性向上の制限の原因となっている。介在物間の衝突・凝集により,介在物の見かけサイズは増大するとともに浮上速度は速くなるので,介在物間の衝突・凝集の促進は,ミクロンオーダーの介在物除去に有効であると考えられている2)。溶鋼の撹拌によって,介在物間の衝突頻度は増大する2)。しかしながら,スラグの溶鋼中への混入,溶鋼の酸化,耐火物の溶損を抑えるために,溶鋼の流れを乱すことなく介在物間の衝突頻度を増加させる必要がある。溶鋼が層流の場合,介在物間の浮上速度差による差動衝突が起こる。振動電磁場により,浮上する介在物に水平方向の振動を与え,介在物の通過領域を大きくすることで衝突頻度を増加させうる可能性がある3,4)。著者ら4)は,振動電磁場を印加された導電性液体中における単一の非導電性粒子の挙動を明らかにするために,これまで明らかになっていなかったバセット力の影響を,モデル実験と理論解析により調べた。そして,バセット力を無視することにより,粒子運動の振幅や,粒子間の振動運動の位相差は正しく評価されず,衝突頻度を過大評価することを明らかにした4)。しかしながら,衝突・凝集による浮上速度増大,除去効率増加には,振動電磁場印加が粒子間の衝突頻度に及ぼす影響を定量的に評価する必要がある。

溶鋼中における介在物間の衝突・凝集機構として,ブラウン凝集,差動衝突による凝集,層流剪断による凝集,乱流凝集が挙げられる5)。この中でも,介在物の乱流凝集に関する研究が重点的に行われており,直径の等しい粒子間の衝突・凝集理論2)のみならず,直径の異なる粒子間の衝突・凝集理論6,7)が構築されつつある。液体中に,複数の粒子が分散している系において,直径Diの粒子iと,直径Djの粒子jとの,単位体積,単位時間あたりの衝突頻度Nijは,クロネッカーのデルタδijを用いると以下のとおりとなる8)。   

Nij=11+δijβ(i,j)ninj(1)
  
δij={1(i=j)0(ij)(2)

ここで,ninjはそれぞれ粒子iと粒子jの数密度を表す。また,β(i, j)は,粒子挙動や周囲流体の流動が粒子間の衝突頻度に及ぼす影響を表し,衝突頻度関数と呼ばれる。衝突頻度関数β(i, j)は以下のとおり表される9)。   

β(i,j)=αβ0(i,j)(3)

ここで,β0(i, j)は,粒子同士が互いに接近した際における粒子間相互作用を考慮しない場合の衝突頻度関数であり,流れの形態や,粒子挙動が衝突頻度に及ぼす影響を表す。

溶鋼中におけるブラウン凝集,層流剪断による凝集,乱流凝集,差動衝突による凝集における,粒子間相互作用のない場合の衝突頻度関数β0(i, j)はそれぞれ谷口,菊池の文献5)にて紹介されている。また,αは凝集係数と呼ばれ,粒子同士が互いに接近した際における,粒子間の流体の粘性9),London-van der Waals力9),粒子に対する流体の濡れ性10)などに起因する粒子間相互作用が衝突頻度に及ぼす影響を表す。ここで,粒子間の相互作用のない場合の衝突頻度関数β0(i, j)は,粒子間の衝突理論において,もっとも基本的なパラメータであるが,振動電磁場印加下における介在物間の衝突に対して,差動衝突の値をそのまま適用することは出来ない。

そこで本研究では,振動電磁場の印加による,導電性液体中における非導電性粒子間の衝突促進効果を明らかにするために,振動電磁場の印加下における相互作用のない場合の衝突頻度関数β0(i, j)を理論解析により求めた。そして,溶鋼−Al2O3介在物系を対象として,振動電磁場の印加条件や粒子直径が,粒子間の衝突促進効果に及ぼす影響を調べた。さらに,乱流条件における相互作用のない場合の衝突頻度関数β0(i, j)と比較した。

2. 解析方法

2・1 解析系

水平方向にx軸,鉛直方向上向きにy軸をとる。静止状態にある密度ρf,粘度ηの導電性液体には,周波数fの周期的に定常な,水平方向(x軸方向)の振動電磁気力が働く。その液体中のx-y平面上に,密度ρsで,直径Diあるいは直径Dj(<Di)の,2個の非導電性球形粒子が存在し,それぞれを粒子i,粒子jとする。粒子には,液体に働く電磁気力の反力が働く。粒子k(k=i, j)に働く振動電磁気力をF=F0(πDk3/6)cos(2πft)と表す。ここで,F0は粒子の単位体積あたりに働く電磁体積力,tは時間である。他の外力は働かないものとした。すなわち,粒子の運動は,鉛直方向と,水平方向の2次元である。また,衝突・凝集による粒子のサイズ,形状の変化は考慮しない。ここで,粒子k(k=i, j)の振動中心となるx軸座標をx0,k,時間t=0における粒子位置のy座標をy0,kとして,粒子の鉛直方向(y軸方向)の浮上運動および水平方向(x軸方向)の振動運動は,以下の式に従うものとした。   

yky0,k=g(ρfρs)18ηDk2t(4)
  
xkx0,k=F02πfck(ak/ck+1)2+(2πfbk/ck+1)2cos{2πft[πtan1(ak/ck+12πfbk/ck+1)]}(5)
  
ak=18η/Dk2(6)
  
2πfbk=2πf[ρs+(ρf/2)](7)
  
ck=(9/Dk)πfρfη(8)

ここで,akは粘性抵抗力,2πfbkは粒子の慣性と付加質量による力から成る慣性力,ckはバセット力をそれぞれ特徴づける値である4)。いずれの力も粒子挙動の抵抗力として働くが,前報4)では,支配的な力の違いにより,粘性抵抗力支配領域,慣性力支配領域,バセット力支配領域とそれぞれ名付けた。バセット力を基準とした相対的な粘性抵抗力の大きさak/ck,および,慣性力の大きさ2πfbk/ckは,液体および粒子の物性値と,粒子直径Dk,振動電磁気力の周波数fの関数である。溶鋼−Al2O3介在物系について,縦軸に直径Dk,横軸に周波数fをとり,粘性抵抗力支配領域,慣性力支配領域,バセット力支配領域に分類した結果をFig.1に示す。周波数fおよび粒子直径Dkの増大に伴い,粒子挙動は粘性抵抗力支配領域,バセット力支配領域,慣性力支配領域の順に遷移する。粒子iと粒子jとの衝突は,各粒子挙動の組み合わせにより,Table 1に示す6通りのタイプに分類できる。Fig.1に示す周波数f,直径Dkの範囲では,粒子挙動は主に粘性抵抗力支配領域にあるので,①粘性−粘性型が主要な衝突タイプであるものの,直径Dkや周波数fによっては全ての衝突タイプをとり得る。

Fig. 1.

 Dominant resistance force acting on inclusions in molten steel-Al2O3 system.

Table 1. Combination of dominant resistance forces acting on two particles.
j-particle
Friction drag forceBasset forceInertial force
i-particleFriction drag force governing region①Friction - Friction
(F-F)
Basset force②Basset - Friction
(B-F)
③Basset - Basset
(B-B)
Inertial force④ Inertial - Friction
(I-F)
⑤ Inertial - Basset
(I-B)
⑥ Inertial - Inertial
(I-I)

2・2 相互作用のない場合の衝突頻度関数

これ以降,相互作用のない場合の衝突頻度関数β0(i, j)を単に衝突頻度関数と呼ぶ。ある瞬間における粒子iと粒子jの挙動をFig.2に模式的に示す。粒子の運動は2次元なので,粒子速度はuk=(uk,x, uk,y, 0)と表される。振動電磁場印加下における衝突頻度関数β0,osci.(i, j)は,底面の直径が2つの粒子直径の和,高さが速度差となる円筒の体積と等しく,以下の式によって求めることができる。   

β0,osci.(i,j)=π(Di+Dj)24|uiuj|(9)

Fig. 2.

 Illustration of collision frequency function of two particles.

粒子の振動とともに(9)式の値は時々刻々と変化するため,振動の半周期における2乗平均をとることで衝突頻度関数の時間平均値 β 0,osci. ¯ ( i,j ) を求めると,以下のとおりとなる。   

β 0,osci. ¯ ( i,j )= ( 0 1 2f β 2 dt )/ ( 0 1 2f dt ) = π 2f ( D i + D j ) 2 4 0 1 2f [ ( u i,x u j,x ) 2 + ( u i,y u j,y ) 2 ] dt (10)

また,(9)式において粒子の水平方向の速度をui,x=uj,x=0とすることで,振動電磁場を印加しない場合,すなわち差動衝突の衝突頻度関数β0,diff.(i, j)11)が得られる。   

β0,diff.(i,j)=π(Di+Dj)24(ui,yuj,y)(11)

振動電磁場の印加による粒子間の衝突促進効果を評価する指標として,以下の式で表される,差動衝突に対する振動電磁場の印加による衝突頻度関数の増加率γを用いた。   

γ=β0,osci.¯(i,j)/β0,diff.(i,j)=12[F0ρf(1ρs/ρf)g]2[1Ai1Aj]2+21cosΔθAiAj(1ai1aj)2+1(12)
  
Ak=ck(ak/ck+1)2+(2πfbk/ck+1)2(k=i,j)(13)
  
Δθ=tan1(2πfbi/ci+1ai/ci+1)tan1(2πfbj/cj+1aj/cj+1)>0(14)

溶鋼−Al2O3介在物系を対象とすると,振動電磁場の印加による衝突頻度関数の増加率γを決めるパラメータは,電磁体積力F0,粒子iおよび粒子jの直径DiDj,周波数fとなる。

3. 振動電磁場の印加による衝突頻度関数の増加率に対する電磁体積力の影響

振動電磁場の印加による衝突頻度関数の増加率γを表す(12)式における右辺の平方根内第1項は,粒子の水平方向の速度差,すなわち振動による衝突の影響を表し,第2項は浮上速度差,すなわち差動衝突の影響を表す。平方根内第1項が第2項に対して大きくなる場合,衝突は単なる差動衝突よりも促進される。衝突が促進されうる,最小の電磁体積力である臨界電磁体積力F0,min.を,(12)式における右辺の平方根内第1項と第2項が等しくなるという条件により求めると,以下のとおりとなる。   

F0,min.=2ρf(1ρs/ρf)g(1ai1aj)1[1Ai1Aj]2+21cosΔθAiAj(15)

ここで,(15)式においてバセット力と慣性力を省略(すなわち,ak/ck>>1かつ2πfbk/ak<<1)することで,溶鋼中介在物間の衝突において主要な,①粘性−粘性型の衝突タイプに対する臨界電磁体積力F0,min.の近似式を以下の式で表すことができる。   

F0,min.2ρfg(1ρs/ρf)(16)

すなわち,周波数fによらず一定であり,また,粒子の単位体積あたりに働く浮力と同じオーダーになる。この値は,溶鋼−Al2O3介在物系の場合およそ4.3×104 Nm−3となる。ここで,Al2O3介在物を含む溶鋼が,ある円管流路の内部に存在し,軸方向に交流電流を,交流電流に対して垂直な方向に直流磁場を同時印加することを考える。表皮効果は無視できるものと仮定すれば,介在物に働く電磁体積力F0はLeenov and Kolin12)の式によりF0=(3/4)JBと求められる。ここで,Jは電流密度の最大値,Bは磁束密度を表す。磁束密度Bを0.3 T,電流を1 kAと仮定したとき,流路断面積をおよそ5.2×10−3 m2(内径およそ8.2×10−2 m)以下にすれば,臨界電磁体積力の近似値4.3×104 Nm−3以上の電磁体積力を得ることができる。たとえば,F0=1.0×105 Nm−3の電磁体積力を印加するためには,流路断面積をおよそ2.3×10−3 m2(内径およそ5.4×10−2 m)にすればよい。(12)式は,電磁体積力F0および臨界電磁体積力F0,min.を用いて書きかえると,次式となる。   

γ=(F0/F0,min.)2+1(17)

振動電磁場の印加による衝突頻度関数の増加率γは電磁体積力F0の増大により増加し,臨界電磁体積力F0,min.の増加により減少する。すなわち,臨界電磁体積力F0,min.の小さくなる条件は,より小さな電磁体積力F0の印加で粒子間衝突頻度を促進させることができるだけでなく,振動電磁場の印加による衝突頻度関数の増加率γも大きくなるので,粒子間の衝突促進に有利である。その条件については,次章で詳しく述べる。(16)式と(17)式を用いて,①粘性−粘性型の衝突タイプに対する振動電磁場の印加による衝突頻度関数の増加率γの近似式を求めると,以下のとおりとなる。   

γ12[F0ρf(1ρs/ρf)g]2+1(18)

溶鋼−Al2O3介在物系において,仮に,電磁体積力をF0=1.0×105 Nm−3(>F0,min.=4.3×104 Nm−3)としたとき,(18)式の値は約2.5になる。

4. 臨界電磁体積力,振動電磁場の印加による衝突頻度関数の増加率に及ぼす粒子直径,周波数の影響

溶鋼−Al2O3介在物系において,大きい粒子の直径をDi=1000 μmとし,周波数をf=0.1,0.5,2,50 Hzとした場合における臨界電磁体積力F0,min.の理論値((15)式)と近似値((16)式)をFig.3に,同じ条件で電磁体積力をF0=1.0×105 Nm−3としたときの振動電磁場の印加による衝突頻度関数の増加率γの理論値((17)式)と近似値((18)式)をFig.4に,小さい粒子の直径Djの関数としてそれぞれ示す。横軸Djの範囲はDj<Di=1000 μmとした。なお,Fig.3における一点鎖線は電磁体積力F0=1.0×105 Nm−3を示す。周波数f=0.1,0.5 Hzの場合は粒子jの直径によらず①粘性−粘性型の衝突タイプとなる。一方,周波数f=2 HzではDj<695 μmで②バセット−粘性型,695 μm<Djで③バセット−バセット型となり,周波数f=50 HzではDj<139 μmで④慣性−粘性型,139 μm<Dj<245 μmで⑤慣性−バセット型,245 μm>Djで⑥慣性−慣性型となる。Fig.3に示す臨界電磁体積力F0,min.の理論値は,小さい粒子の直径Djの減少,または,周波数fの減少により小さくなり,近似値に近づく。また,前述のとおり,臨界電磁体積力F0,min.の減少は振動電磁場の印加による衝突頻度関数の増加率γの増大と対応するため,Fig.4では,直径Djが小さいほど,また,低周波ほど振動電磁場の印加による衝突頻度関数の増加率γの理論値は大きい。ただし,周波数f=50 Hzの場合,Fig.3から分かるとおりF0<<F0,min.となり差動衝突が支配的になるため,理論値はほぼ1となる。ここで,いずれの近似値もバセット力と慣性力を省略した値であるが,Fig.1から分かるとおり,この近似は直径を限りなく小さく,周波数を限りなく低くすることに相当する。以上述べてきたとおり,周波数fや直径Djの減少にともない,近似に近づくほど臨界電磁体積力F0,min.は減少し,振動電磁場の印加による衝突頻度関数の増加率γは増加する。すなわち,①粘性−粘性型が最も衝突促進に有利な衝突タイプであり,逆に,⑥慣性−慣性型が最も不利な衝突タイプである。

Fig. 3.

 Critical electromagnetic volume force for enhancement of collision frequency function in molten steel-Al2O3 inclusion system and combination of dominant resistance forces.

Fig. 4.

 Increasing ratio of collision frequency function in molten steel-Al2O3 inclusion system and combination of dominant resistance forces.

周波数をf=0.5 Hzとし,大きい粒子の直径をDi=10,100,1000 μmとした場合における臨界電磁体積力F0,min.の理論値((15)式)と近似値((16)式)をFig.5に,同じ条件で電磁体積力をF0=1.0×105 Nm−3としたときの振動電磁場の印加による衝突頻度関数の増加率γの理論値((17)式)と近似値((18)式)をFig.6に,小さい粒子の直径Djの関数としてそれぞれ示す。前述の定義に従いDj<Diとなるよう,横軸Djの最大値は大きい粒子の直径Di以下とした。なお,Fig.5における一点鎖線は電磁体積力F0=1.0×105 Nm−3を示す。この周波数f=0.5 Hzでは,全ての条件において①粘性−粘性型の衝突タイプとなる。粒子直径の減少により近似の精度は上がるので,直径Diの減少により,Fig.5Fig.6における理論値は近似値に近づく。また,直径Diが小さくなるほど臨界電磁体積力F0,min.の理論値は減少し,振動電磁場の印加による衝突頻度関数の増加率γは増加する。すなわち実操業では,振動電磁場により,微小介在物同士の衝突が特に良く促進される。

Fig. 5.

 Effect of large particle diameter on critical electromagnetic volume force in molten steel-Al2O3 inclusion system.

Fig. 6.

 Effect of large particle diameter on increasing ratio of collision frequency function in molten steel-Al2O3 inclusion system.

5. 乱流条件における衝突頻度関数との比較

乱流条件における衝突頻度関数β0,turb.は,以下の式で表される5)。   

β0,turb.(i,j)=(1.3/8)(Di+Dj)3ρfε/η(19)

ここで,εは乱流エネルギー消散速度である。タンディッシュにおける介在物間の乱流凝集に関する研究としてWangら13)およびLeiら14)による研究があり,用いられた乱流エネルギー消散速度εの値は,それぞれおよそε=3×10−4-2×10−3 m2s−3ε=0.1-0.5 m2s−3である。溶鋼−Al2O3介在物系において,電磁体積力をF0=1.0×105 Nm−3,周波数をf=0.5 Hz,大きい粒子の直径をDi=100 μmとした場合の振動電磁場印加下における衝突頻度関数 β 0,osci. ¯ ( i,j ) ,差動衝突の衝突頻度関数β0,diff.,乱流エネルギー消散速度をε=10−1,10−2,10−3 m2s−3とした場合の乱流条件における衝突頻度関数β0,turb.を,小さい粒子の直径Djの関数としてFig.7に示す。前述の定義に従い,Dj<Di=100 μmとなるよう横軸Djの最大値を決定した。横軸Djの最大値近傍において,振動電磁場印加下における衝突頻度関数 β 0,osci. ¯ ( i,j ) および差動衝突の衝突頻度関数β0,diff.は急激に減少しているが,これは次のとおり説明できる。粒子間の衝突が起こるためには,粒子間で鉛直方向,水平方向の速度差が存在する必要がある。粒子間の速度差は直径の差により生じるため,二つの粒子間の直径の差が小さくなる横軸Djの最大値近傍では,粒子間の衝突は起こりにくくなる。乱流エネルギー消散速度がε=10−2,10−3 m2s−3の場合,差動衝突の衝突頻度関数β0,diff.が乱流条件における衝突頻度関数β0,turb.よりも,大きくなる領域がある。その領域では,振動電磁場が印加されていない場合,差動衝突が支配的な衝突機構となる。振動電磁場印加下における衝突頻度関数 β 0,osci. ¯ ( i,j ) は,差動衝突の衝突頻度関数β0,diff.よりも大きくなることから,差動衝突が支配的となる弱い乱流条件下における振動電磁場の印加には,介在物間の衝突を促進させる効果が期待できる。

Fig. 7.

 Collision frequency functions among inclusions under the oscillating electromagnetic field, collision by differential motion and collision by turbulent flow in the molten steel - Al2O3 inclusion system.

6. 結論

導電性液体中における非導電性粒子間の衝突に対する,水平方向振動電磁場の印加による衝突促進効果を明らかにするために,直径の異なる二つの粒子間衝突に対し,振動電磁場の印加下における衝突頻度関数を理論解析により求めた。そして,溶鋼−Al2O3介在物系を対象として,振動電磁場の印加条件や粒子直径が,衝突促進効果に及ぼす影響を調べた。また,乱流条件における衝突頻度関数との比較を行った。結論は以下の通りまとめられる。

・粒子間の衝突を差動衝突よりも促進させるためには,ある臨界値以上の電磁体積力を印加する必要がある。また,粒子に働く支配的な抵抗力をもとに分類された衝突タイプのうち,二つの粒子に対して粘性抵抗力が支配的に働く,粘性−粘性型の衝突タイプのとき,最も臨界電磁体積力が小さくなる。

・臨界電磁体積力の小さくなる条件では,より小さな電磁気力の印加で衝突促進が可能なだけでなく,衝突促進効果も高い。

・二つの粒子のうち,大きな粒子の直径の減少により衝突促進効果は高くなる。すなわち実操業では,振動電磁場の印加により小さな介在物同士の衝突が特に良く促進される。

・差動衝突が乱流による衝突よりも優位になるような弱い乱流条件下(乱流エネルギー消散速度ε<10−2 m2s−3)において,振動電磁場の印加による介在物間の衝突促進が期待できる。

付録(記号表)

Ak[kg m−3s−1]:(13)式で表される変数

a[kg m−3s−1]:粘性抵抗力を特徴づける値((6)式)

b[kg m−3]:慣性力を特徴づける値((7)式)における変数

c[kg m−3s−1]:バセット力を特徴づける値((8)式)

D[m]:粒子直径

F0[N m−3]:粒子の単位体積あたりに働く電磁体積力

F0,min.[N m−3]:臨界電磁体積力(衝突が促進されうる最小の電磁体積力)

f[Hz]:振動電磁気力の周波数

g[m s−2]:重力加速度

t[s]:時間

u,u[m s−1]:粒子速度

β0(i, j)[m3 s−1]:粒子間相互作用のない場合の衝突頻度関数

γ[−]:差動衝突に対する振動電磁場の印加による衝突頻度関数の増加率((12)式)

Δθ[rad]:(14)式で表される変数

ε[m2 s−3]:乱流エネルギー消散速度

η[Pa s]:粘度

ρs, ρf[kg m−3]:粒子および流体の密度

下付き記号

diff.:差動衝突に対する値

i:粒子iに対する値

j:粒子jに対する値

k:粒子k(=i, j)に対する値

osci.:振動電磁場の印加下における衝突に対する値

turb.:乱流条件下における衝突に対する値

x:x軸成分

y:y軸成分

上付き記号

−:時間平均値

謝辞

本研究の一部は日本鉄鋼協会「電磁振動印加時の物理現象解明」研究会に対する助成によるものである。ここに記して感謝の意を表す。

文献
 
© 2016 The Iron and Steel Institute of Japan

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https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
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