Tetsu-to-Hagane
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Dominant Factor Governing Toughness in a Cr-Mo Steel for Pressure Vessel with Intermediate Stage Transformation Microstructures
Yuta HonmaRinzo KayanoKotobu Nagai
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2016 Volume 102 Issue 6 Pages 311-319

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Synopsis:

The steels with intermediate stage transformation microstructures (Zw) show a good balance of strength and toughness. Especially, fracture appearance transition temperature (FATT) in Charpy impact test is one of the most important properties of steel to assure material reliability. As microstructural factors to govern FATT, the effective grain size (dEFF) on cleavage fracture surfaces is well known in ferrite-pearlitic and martensitic steels. However, the relationship between FATT and dEFF have not yet been clarified for the steels with Zw. Low-alloy heat-resistant steels for pressure vessels such as Cr-Mo steels are the type with Zw and demands for better low temperature toughness are becoming severer in recent years. The present study aims to determine the relationship between FATT and dEFF, and to clarify the microstructural factor to govern toughness in quenched and tempered Cr-Mo steel with a Zw microstructure by varying the prior austenite grain size. Not the prior austenite grain size but the bainite block section width corresponded to dEFF in the size distribution. Accordingly, FATT decreased with decreasing block section width.

1. 緒言

一般的にベイナイトに代表される中間段階変態組織(独:Zwichenstufen Umwandlungs-produkt, Zw)は良好な強度と靱性を持つと言われている1)。シャルピー衝撃試験の破面遷移温度(FATT)などにより評価される靱性に対応する支配因子を明確にすることは鋼の信頼性を確保するために最も重要な項目の一つである。一般論として,延性脆性遷移は材料の温度低下により,塑性変形の降伏応力(YS)が著しく上昇して,劈開破壊の破壊応力よりも大きくなることで起こる。つまりFATTはある応力状態における破壊応力とYSの釣り合いで決まることが言われている。そのため,結晶粒微細化2)や,Niのような低温で固溶軟化を起こす元素3)の添加による強化を除いて,YSの増加はFATTの上昇に結びつく。このように強度(ここではYS)と靱性には相関関係があることが知られている。一方で,ミクロ組織因子と機械的特性の相関として,古くから,フェライト鋼においてフェライト粒径dを用いて,(1)式の関係が成り立つことが知られてきた2)。   

FATT d 1 / 2 or FATT ln d 1 / 2 (1)

この関係は結晶粒径をGriffith理論4)における先在き裂長さに対応づけることで説明されている。さらに,Hall-Petchの関係5,6)はYSが結晶粒径の−1/2乗に比例することを示しており,結晶粒微細化はFATTを下げると同時にYSを高める手段となる。

また,マルテンサイト鋼においては,脆性破面のへき開破面単位を仮想的にフェライト粒とみなして,それを有効結晶粒(Effective Grain)と定義する考え方が用いられてきた7,8)。その結果,マルテンサイト鋼の有効結晶粒径(dEFF)は旧オーステナイト(γ)粒やパケットの大きさに対応することが言われている8,9)。しかし,ベイナイトに代表されるZwは,良好な強度と靱性を持つにも関わらず,その組織の複雑さにより,有効結晶粒に対応する組織因子が明確にされていない。

高温圧力容器用鋼として広く用いられるCr-Mo鋼などの低合金耐熱鋼においては,これまで高温強度が注目されており,低温靱性とミクロ組織の関係に対しての研究事例は少ない。一方で,近年では安全性の観点から低温靱性の要求が厳しくなってきているが,その仕様要求に関しては使用環境のみが考慮されているのが現状である。従って,これら低合金耐熱鋼の靱性確保の観点から低温靱性に対するミクロ組織因子の明確化は非常に重要な課題となっている。

そこで,本研究においてはZwのうち,Arakiらの分類10,11)によるところのベイニティックフェライト(αoB)の組織を有する圧力容器用Cr-Mo鋼を対象に,FATTと有効結晶粒径の相関およびそれに対応するミクロ組織因子の明確化,ならびにミクロ組織因子に及ぼすその他要因の影響について明らかにすることを目的とした。この系の鋼においては,検討すべきミクロ組織因子は,旧γ粒径,ベイニティックフェライトの粒径もしくはブロックの大きさと考え,それらの大きさを変動させるために旧γ粒径を変えることとした。

2. 実験方法

供試材としてTable 1に示す化学組成の鍛鋼製Cr-Mo鋼を用いた。代表的な熱処理条件である焼入れ1293 K,焼戻し978 Kを施したものを基準材とした。焼入れ温度を1253~1523 Kまで変動させて旧γ粒径を変えた材料を作製した。なお,本試験での焼入れ後の冷却速度は全て7 K/minとしている。また,ミクロ組織因子のみに着目するためにYSの影響を除く必要がある。そこで,焼入れ温度変動材については,YSが基準材とほぼ同等となるように953~983 Kの間で焼戻し温度を調整した。

Table 1.  Chemical composition of the steel investigated (mass%).
C Si Mn P S Cr Mo V Nb
0.15 0.05 0.58 0.007 0.003 2.50 1.08 0.30 0.030

ミクロ組織観察は2%硝酸アルコール(2%ナイタール)またはFeCl3(FeCl3 10 g+HCl 30 cm3+H2O 120 cm3)水溶液にてエッチングを施し,光学顕微鏡もしくは走査型電子顕微鏡(SEM, JEOL JSM-6060A)により行った。

γ粒径の測定には焼入れまま材料を用いた。界面活性剤を加えた飽和ピクリン酸水溶液と5%ピクリン酸アルコールとピロ亜硫酸ナトリウム水溶液の混合液で,エッチングして得た旧γ粒界組織を画像解析して粒径を測定した。一次結果は大きさのヒストグラムとして得られている。

引張試験はゲージ直径14.0 mm,ゲージ長さ50.0 mmの平滑丸棒引張試験片を用いた。インストロン式引張試験機(Shimadzu Autograph AG-B)を用いて,室温で一定のクロスヘッド変位速度0.54 mm/min(公称ひずみ速度約3×10−4 s−1)で行った。

シャルピー衝撃試験は10×10×55 mm(2 mm Vノッチ)のフルサイズシャルピー衝撃試験片を採取し,試験温度163 K~373 Kとし,延性破面率と吸収エネルギーからFATTを求めた。

有効結晶粒径は,183 Kにて破断させたシャルピー衝撃試験片の破面をSEMにて観察し,それぞれの劈開破面の大きさを画像解析によって求めた。一次結果は大きさのヒストグラムとして得られている。

さらに,有効結晶粒径を支配する金属組織を特定するために,サーマル型電界放射型SEM(FE-SEM, JEOL JSM-7100F)に取り付けた電子線散乱分光(EBSD)装置(TSL MSC-2200)を用いて,Fig.1に示すようにシャルピー衝撃試験のき裂進展方向に存在するFe(BCC)の結晶方位差15°以上の大角境界で区切られた切片間隔(以下,ブロック切片間隔と定義する)を求めた。測定ラインは1視野に対し,等間隔に5ライン引き,5視野(計25ライン)の集計結果より,最大,最小,平均サイズならびにサイズ分布について評価を行った。なお,各種ブロック切片間隔の平均サイズは全て割合で重み付けした加重平均値を用いた。

Fig. 1.

 Measurement of block section width on broken line along crack propagation direction by referring to grain boundary misorientation using EBSD. Distance divided by boundaries with >15 degree misorientation was counted as block section width. (Online version in color.)

また,冷却中のγα変態点に及ぼす最高加熱温度の影響を評価するために,最高加熱温度を1293 Kおよび1523 Kとし,冷却速度を5,7,20 K/minとした条件でフォーマスター試験を実施し,ベイナイト変態開始点(Bs)および変態終了点(Bf)を採取した。

3. 実験結果および考察

3・1 基準材の有効破面単位を決定するミクロ組織因子

基準材のミクロ組織の光学顕微鏡像とSEM像および旧γ粒観察結果をFig.2に示す。旧γ粒界は鮮明に確認することができ,旧γ粒径は約20~100 μmの分布を持ち,その平均は32 μmだった。

Fig. 2.

 Optical image (a) and SEM image (b), and prior austenite grain boundary image (c) of microstructure for the reference material. The reference material was quenched from 1293 K and tempered at 978 K.

ミクロ組織はZwに属する組織であり,粒内にはブロックが観察され,ブロック内には微細な炭化物と考えられる析出物が確認された。Arakiらの分類10,11)によると,グラニュラーベイニティックフェライト(αB)およびベイニティックフェライト(αBo)が上部ベイナイトとして定義されているが,それらは低炭素鋼特有の形状の違いによって区別されている。αBは塊状のベイニティックフェライトであり,転位下部組織が存在するが,回復がかなり進行しており,ラスの形状が不明瞭であると言われている。一方で,αBoはラス状のベイニティックフェライトで低炭素鋼の場合は,内部に炭化物を含まず,旧γ粒界が保存されていると言われている。また,この2つは旧γ粒界が明瞭に保存されているか,不明瞭であるかによっても区別されることもある。これらの分類判別より,ブロックが観察されること,旧γ粒が保存されていることなどを考慮すると,本供試材のミクロ組織はベイニティックフェライト(αBo)と判断される。一方で,本供試材の組成の場合では低炭素鋼ではないため,炭化物がブロック内部に析出していたものの,αBoはZwの中で旧γ粒径が保存されていることを特徴とする組織であることから,本供試材のZwがαBoと本質的に同じ組織であると考えられる。

基準材の公称応力−公称ひずみ線図をFig.3に示す。また,Table 2に引張試験結果を示す。YSは587 MPa,TSは691 MPa,全伸び(El)は約19%,絞りは約75%である。

Fig. 3.

 Nominal stress-strain curve of the reference material.

Table 2.  Tensile properties of the reference material.
YS (MPa) TS (MPa) El. (%) RA(%)
587 691 19 75

この基準材のシャルピー衝撃試験結果をFig.4に示す。ここには,衝撃吸収エネルギーと延性破面率の遷移曲線を同時に示してある。

Fig. 4.

 Transition curves of absorbed energy (bottom) and areal fraction of ductile fracture (top) in Charpy impact test for the reference material.

公称応力−公称ひずみ線図には明確な降伏点,降伏点伸びなどは認められない。Izumiyama12)らによるとZwに属するグラニュラーベイニティックフェライト(αB)および擬ポリゴナルフェライト(αq)の混合組織を有する調質型低炭素高張力鋼の場合は明確な降伏点,降伏点伸びが認められていることから,同じZwであってもαBαqとの混合組織とαBoでは降伏点以降の塑性変形時の挙動が異なることが明らかである。

シャルピー衝撃試験では遷移域は約90 Kの幅をもち,上部棚エネルギーは250 J超であり,下部棚エネルギーはほぼ0 Jと判断される。50%破面率で評価したFATTは243 Kである。これらから高温圧力容器用鋼としては十分な低温靱性を有していることがわかる。

試験温度183 K(下部棚)で破断させたシャルピー衝撃試験片の起点部近傍の破面のSEM像をFig.5に示す。破面はいずれもリバーパターンを示すへき開破面となっており,粗大なセメンタイトや介在物などの異物は認められなかった。これより,基準材の脆性破壊形態は粒内へき開破壊であると判断される。

Fig. 5.

 SEM image of fracture surface broken at 183 K in Charpy test for the reference material.

これから求めたdEFFFig.6のように分布する。最大値は16.9 μm,平均値が5.5 μmとなる。まず,この分布を旧γ粒径の分布と比較するために,Fig.6(a)に旧γ粒径の分布を同時に示し,比較してみる。旧γ粒径の分布は最大値が99.4 μm,平均値が31.2 μmとなり,両者の大きさに対応関係がないことは明らかである。これより,本供試材のαBoにおいては旧γ粒径はFATTを直接に左右する組織因子ではないことが明らかとなった。そこで,EBSD解析より得られるブロック幅に着目した。

Fig. 6.

 Histogram of effective grain and prior-austenite grain size (a) and block section width (b) for the reference material. (Online version in color.)

シャルピー衝撃試験のき裂進展方向と平行に引いた直線から得られたブロック切片間隔の分布とdEFFの分布を比較した結果をFig.6 (b)に示す。ブロック切片間隔の最大値が18.4 μm,平均値が5.6 μmとなり,dEFFの最大値が16.9 μm,平均値が5.5 μmとさらにヒストグラムそのものがほぼ一致する。ここから,αBoを有する本供試材においてはへき開破壊を左右する組織因子がブロック切片間隔であることがほぼ決定された。

サイズ分布の比較からブロック切片間隔が重要な因子であることが示唆されたが,破面単位ならびにブロック切片間隔に対応するミクロ組織をより詳細に特定するために,シャルピー衝撃試験時に二次的に発生するサブクラックに着目した。すなわち,破面の起点部近傍の断面に存在するサブクラックにおいて,2%ナイタールによるエッチングとEBSD測定を実施し,それらを比較した(Fig.7)。サブクラックは直線であるが,ところどころで折れ曲がりや不連続を示す。その位置は大角境界,つまりはブロック境界で発生していることが明らかである。これは体心立方格子(BCC)金属において{100}がへき開面であること,大角境界が一定角度以上の結晶方位差を持つことを鑑みれば妥当な結果である。この図上で,サブクラックの線分の長さを求めると1本だけ長い約25 μmを最大に,他は2 μmから10 μmの間で分布しており,ブロック切片間隔の分布に同等である。

Fig. 7.

 Direct comparison of subcracks in the sample broken at 183K with optical microstructure (a) and EBSD grain boundary map (b) for the reference material. (Online version in color.)

以上から,破面単位を決定づけるミクロ組織因子はブロック切片間隔,つまりはき裂進展方向に対するブロック幅と結論づけることができる。

今後,より簡易にブロック幅を測定できる方法があるとよい。2%ナイタールエッチングによるミクロ組織を注意深く見ると,ブロックはミクロ組織の濃淡に対応しているように見える。この事実は,適切なエッチングによるミクロ組織でブロック切片間隔を測定もしくは見積もれる可能性があることを示唆する。Maki and Tamura13)によるとラスマルテンサイト組織を有する18 Niマルエージ鋼ではFeCl3水溶液を用いることで,光学顕微鏡像でブロック境界が明確に判別できることが報告されている。そこで基準材を対象に,同じ視野の2%ナイタール溶液またはFeCl3水溶液によるエッチング後の光学顕微鏡観察によるミクロ組織を比較してみた。結果をFig.8に示す。確かに本供試材でも2%ナイタールと比較して,FeCl3水溶液ではブロック境界が明瞭に観察できる。したがって,本供試材においては,エッチング液を適切に選択することで光学顕微鏡によるミクロ組織観察を利用して,容易にブロック切片間隔を見積もり,対象材料のFATTを推測できるようになる可能性がある。

Fig. 8.

 Optical images etched by 2% Nital (a) and FeCl3 solution (b) for microstructure of the reference material.

3・2 旧γ粒径を変動させた場合に有効破面単位を決定するミクロ組織因子

前節の結果,高温圧力容器用鋼であるCr-Mo鋼においてはFATTを決定づけるミクロ組織因子が旧γ粒径ではなく,組織内部に形成されるブロック切片間隔であることが強く示唆される。ところが一方では,旧γ粒径の微細化がFATT改善に有効なことも経験的に明らかである。そこで,焼入れ温度を変化させて旧γ粒径を変動させ,旧γ粒径の微細が有効な理由について詳細に検討した。

Fig.9に焼入れ温度1253 K~1523 Kとしたミクロ組織の光学顕微鏡像の例を示す。本供試材においては焼入れ温度を変化させてもミクロ組織はαBo単一組織の様相を呈した。また,これらの旧γ粒径の分布をFig.10に示す。焼入れ温度の低下に伴い旧γ粒径の減少が認められ,本試験での焼入れ温度範囲では平均旧γ粒径は12~312 μm,最大旧γ粒径は63~500 μmとなり,十分な変動幅の旧γ粒径が得られた。また,Table 3に試験結果の一覧を示す。本供試材では,焼入れ温度の上昇に伴い,強度が増加する傾向がある。上述したように,本研究では可能な限り組織因子のみの影響を検討することを目的としているため,焼戻し温度を変動させることによって,YSは約580 MPa,TSは約680 MPaの同等の水準を持つ供試材を作製した。

Fig. 9.

 Optical microstructures for materials quenched from various temperatures.

Fig. 10.

 Histograms of prior-austenite grain size for the samples quenched from various temperatures. (Online version in color.)

Table 3.  Summary of experimental results for the samples quenched from various temperatures.

これらの場合のブロック切片間隔は,最大値で約15 μmから約60 μmの範囲で,平均値は約5 μmから約10 μmの範囲で変動させることができた。その結果,ブロック切片間隔は旧γ粒径と良い相関を持っている(Fig.11)。この図から明らかなように,平均および最大ブロック切片間隔ともに旧γ粒径の増加に伴う増加が認められる。これらの供試材を用い,シャルピー衝撃試験結果から得られた遷移曲線をFig.12に示す。ブロック切片間隔が粗大で最大値が57.6 μmとなる場合ではFATTが309 Kとなり,一方,微細で最大値が15.6 μmとなる場合ではFATTが196 Kまで低下した。ブロック切片間隔の平均値および最大幅とFATTの関係をFig.13に示す。なお,ブロック切片間隔はホールペッチ型(対数表示)とし,Fig.13(a)の横軸のWaveは平均ブロック切片間隔,Fig.13(b)の横軸のWmaxは最大ブロック切片間隔を示している。また,Fig.13(c)は横軸を平均および最大ブロック切片間隔とし,(a),(b)のプロットを同じ図上に表記している。Fig.13より,平均値,最大値ともにFATTとの間には良い相関があり,ブロック切片間隔の増加に伴いFATTは低温側にシフトすることが明らである。ブロック切片間隔の変化幅が平均値でみて5 μm(約5 μmから約10 μm)であるが,FATTが100 K以上(約190 Kから約310 K)も変化する。これは緒言で紹介した式(1)の形から見て妥当な関係となる。

Fig. 11.

 Relationship between prior-austenite grain size and average block section width (a) and maximum block section width (b) for the sample quenched from various temperatures.

Fig. 12.

 Transition curves of absorbed energy (bottom) and areal fraction of ductile fracture (top) in Charpy impact test for the samples quenched from various temperatures. (Online version in color.)

Fig. 13.

 Relationship between average block section width (a), maximum block section width (b) and FATT for the sample quenched from various temperatures. (c) shows (a) and (b) in the same figure.

Fig.14では,Fig.6と同様に,旧γ粒径が大きくてブロック切片間隔も粗大な場合についても,その分布とdEFFの分布を比較した結果を示す。Fig.6と全く同様な結果になり,確かに両者のヒストグラムがほぼ一致していることが明らかである。また,旧γ粒径の分布がdEFFの分布に合致しないことはFig.10およびFig.11から自明である。以上により,ミクロ組織がαBoである限りは,旧γ粒径が粗大になってもFATTを左右するミクロ組織因子がブロック切片間隔であることが分かる。

Fig. 14.

 Histogram of effective grain size and block section for the case with fairy large block size. (Online version in color.)

Fig.15では焼入れ温度を変化させた供試材のブロック切片間隔の分布図を示すが,焼入れ温度の増加に伴い,ブロック切片間隔の分布が広範囲となっていることがわかる。つまり,旧γ粒径の増加はブロック切片間隔の増加のみならず,その分布についても影響していることが言える。ここで,Fig.12に示した遷移曲線を見返すと,ブロック切片間隔が粗大なNo.1では約100 K,微細なNo.5では約70 Kの遷移域の幅を有していることが確認できる。遷移域の温度幅が破面単位の分布に対応し,遷移域の温度幅の増加は破面単位の分布の広がりを意味することを考えると,本供試材も同様の傾向を示し,遷移域の温度幅についてもブロック幅の分布で整理が可能であり,ブロック切片間隔がFATTを左右するミクロ組織因子であることを示唆している。

Fig. 15.

 Histogram of block section for the sample quenched from various temperatures. (Online version in color.)

Fig.16にHanamura14,15)らがまとめたマルテンサイトあるいはマルテンサイト・ベイナイト組織を持つ調質型高張力鋼9)およびフェライト・パーライト鋼14,15,16),超微細フェライト−セメンタイト鋼14,15)におけるdEFFとFATTの関係を示す。いずれの鋼においても,dEFFの細粒化に伴って,FATTが減少する対数比例関係が認められる。本供試材から得られた平均(Wave:図中▲)および最大ブロック切片間隔(Wmax:図中■)をFig.16にプロットするとその他鋼種と同様にブロック切片間隔を細かくするとFATTが低下することが分かる。ここで注目すべきことは最大ブロック切片間隔がフェライト鋼のグループに属することである。脆性破壊を考える上で基本的な考え方は,最弱環コンセプト,つまり最も大きなき裂が脆性破壊を決めることが言われている。従って,本供試材においても平均ブロック切片間隔は目安と成り得るが,上記コンセプトを考慮すると最大ブロック切片間隔に着目し,それを微細化することが,靱性に対する組織制御の目標になると考えられる。

Fig. 16.

 Relationship between effective grain size and FATT for the present and references9,14,15,16) data. (Online version in color.)

このように,αBoを有する本供試材においてはFATTを左右するミクロ組織因子がブロック切片間隔であり,旧γ粒径の細粒化によるFATTの改善は旧γ粒径そのものが直接的に寄与しているのではなく,ブロック切片間隔の減少を通じてFATTの改善に寄与しているように見えることが明らかとなった。ところで,Fig.12を見ると,上部棚エネルギーもブロック切片間隔の減少に伴い増加しているように見えるが,結論付けるためにはさらに詳細な検討が必要と考える。

さて,旧γ粒径とブロック切片間隔には相関があり,旧γ粒径の微細化はブロック切片間隔を減少させることが明らかだ。組織制御の観点からは,旧γ粒径とブロック切片間隔の相関,特に何に起因してこの間隔が決定するのかが明確になるとよい。そこで,実験データを眺めてみると,大雑把には直線関係となっているが細かく見ると単純ではない。例えば,Fig.11でブロック切片間隔の最大値と旧γ粒径の関係は,ブロック切片間隔最大値約25 μmを境に傾向が変わっている。また,相関関係を近似した直線は原点を通らない。

これらの説明としては,マルテンサイト鋼のように旧γ粒の細粒化に伴いどこかの粒径でベイニティックフェライトの生成が単一のバリアントに変わっていくことが対応している可能性もある。

核生成・核成長で考えた場合,αBoの核生成頻度は,α/γ界面エネルギー,ひずみエネルギー,核生成駆動力で決定される。本研究では同一組成なので界面エネルギーやひずみエネルギーは変わらないとすると,核生成駆動力が旧γ粒径によって異なっている可能性がある。核生成駆動力は変態温度に大きく左右され,変態開始温度(Bs点)の低下は核生成頻度を高めると考えられる。そこで,最高加熱温度を1293 Kおよび1523 Kとしたフォーマスター試験結果よりCCT線図を採取した結果をFig.17に示す。変態温度(Bs, Bf点)に及ぼす最高加熱温度の影響は顕著には認められず,ほぼ同等の変態温度を有している。したがって,αBoの核生成頻度への旧γ粒径の影響は大きくないだろう。一方で,Table 3に示した旧γ粒径とブロック切片間隔を見ると,No.1では最大ブロック切片間隔が最大旧γ粒径の約10分の1,それ以外では約5分の1であることが分かる。Fig.17に示したように冷却速度を一定にした条件で変態温度が焼入れ温度に依存しないことから,変態生成物(ブロックなど)の成長距離は原理的に同じであり,この変態生成物はγ粒径によらず,生成場所の密度およびそれらの開始時間が同じであると考えられる。このような仮定を考えた場合,変態生成物の現実的な成長可能距離は隣接する生成物の抑制によって決定される。従って,隣接する生成物と接するとお互いに抑制しあい,変態に伴う体積膨張による内部応力の増加が変態の進行を抑制すると考えられる。つまり,変態生成物が成長の途中で別の生成物と全面的に遭遇し,成長は物理的に阻止されることを示唆している。その結果,旧γ粒径が100 μm以下の場合,最大ブロック切片間隔は最大旧γ粒径のほぼ5分の1になると考えられる。そして,最大ブロック切片間隔が最大破面単位に相当し,最大ブロック切片間隔の微細化に伴ってFATTが低下することが本研究結果より得られている。旧γ粒径とブロック切片間隔の関係を結論付けるためには,より詳細な検討が必要であるが,その端緒的な知見は得られたものと思われる。

Fig. 17.

 Comparison of CCT curve with maximum heating temperature of 1523 K and 1293 K at various cooling rate. (Online version in color.)

4. 結言

Zwのうちベイニティックフェライト(αoB)の組織を有する低合金耐熱鋼であるCr-Mo鋼を対象に,FATTと有効結晶粒径の相関およびそれに対応するミクロ組織因子の明確化,ならびにミクロ組織因子に及ぼすその他要因の影響について調べた。得られた結論を以下に示す。

(1)有効結晶粒径は旧γ粒径に一致せず,大角境界を有するブロック切片間隔と良い相関を示した。また,サブクラックに着目した観察結果からもブロック境界とサブクラックの折れ曲がりの位置が一致し,有効結晶粒径はブロック切片間隔に対応している。

(2)FATTはブロック切片間隔と良い相関を示し,その切片間隔の減少に伴い,FATTは低温側にシフトした。また,ミクロ組織がαoBである限りはブロック切片間隔が粗大になってもFATTを左右することに変化はない。

(3)αoBを有する鋼種の場合,ブロック切片間隔は旧γ粒径と良い相関を示し,旧γ粒径の微細化に伴いブロック切片間隔が減少する。したがって,旧γ粒径の微細化はブロック切片間隔の減少を通じて,FATTの改善に見かけ上寄与している。

文献
 
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